Fate/√knight 【ムラサキノウエ】 作:わが立つ杣
R turn
朝、士郎が無事に目を覚まし体調も問題ないということが確認できた後、私は桜の様子を見守るために霊体化して学校へと向かった。
日中の学校。
しかも誰も桜がマスターだと分かっていないため、彼女に危害が及ぶ可能性は極めて低い。
とは言え、これまでもまさかということが頻繁に起きているだけに、私は気を抜かないよう注意している。
「兄さんは、今日も登校していないみたいね」
桜の言うとおりだった。
念のため、授業中に2年生のクラスの様子を確認したが、慎二は休みだった。
教会に逃げ込んでいるのだろうか。
「葛木先生はいつもどおりね」
葛木もまた、昨日の柳洞寺の事件に巻き込まれていたが、そんなことはおくびにも出さず、いつもどおり授業を行っているようだ。
「そして姉さんも登校していないのね」
凛は、早朝、桜と会わないように士郎の家を出て行った。学校に行くのかと思っていたが、そうではなかったようだ。
彼女なりに心の整理が必要だったのかもしれない。
「ねえ、ライダー。あなたは直接血を吸う以外にも、魔力を高める方法があるのよね?」
「え?はい。
無論、中の人間はただでは済まない。
「そう」
桜はそう呟いただけだった。
桜は、その後、普段どおり弓道部の活動をして帰路についた。
柳洞寺の昏睡事件でこの学校の生徒からも被害者が出たようだが、柳洞寺には近付かないようにという注意が呼びかけられるに止まったようだ。
衛宮邸の正門近くまで来たところで、私は桜から離れることにした。
「それでは桜。私はこの周辺で警戒することにします。いざという時には令呪を使ってください」
「ええ。ライダー。よろしくね」
と言って、彼女は正門をくぐっていった。
しかし暫くするとまた、正門を出てきた。
少し速足だった。
「どうしたのですか?」
「え?・・・あ・・・えっと、そうよ。夕食の材料を買わなくちゃいけないのを忘れていたの」
落ち着かない様子だった。
口調も歯切れが悪い。
「何でもないのよ。ライダー。申し訳ないけれど、買い物を見られるのって何となく恥ずかしいから、少し離れて護衛をお願いしてもいいかしら?」
「それは、勿論構いませんが・・・」
大丈夫だろうか?
中で何かあったのではないか。
そのまま桜は、商店街の方向に早足のまま向かっていった。
私は桜が商店街で一通り買い物をしている様子を遠目に見守っていたが、ふと元来た交差点のほうを見やると凛が通り過ぎていくのが見えた。
衛宮邸の方向から来て、遠坂邸の方向に向かっていくようだった。
桜は買い物を一通り済ませて、再度、衛宮邸に戻った。
さらに私が屋敷近くで警戒をしている間に、藤村大河、葛木も順次帰宅して来た。
月明かりが煌々と住宅街を照らし、だいぶ夜が進んできたのを感じる。
そろそろ夕食が終わっただろうか。などと考えていたところで、桜が正門を出てきた。
「外出ですか?」
「ええ。少しだけ家に取りに行きたい物があるの」
「では、ご一緒します」
「大丈夫よライダー。うちには危険が迫ることもないでしょう。先輩のほうが心配だからここにいてあげて。キャスターさんの本心もよくわからないし」
桜と士郎のどちらが危険か判断が難しいところだった。
とは言え、私としてはセイバーを失った士郎が気掛かりだった。
「教会に逃げ込まなかったということは、やはり・・・」
「ええ。先輩は戦い続けるつもりみたい。勿論、そんな話は直接していないけれど」
「承知しました」
私が懸念したとおりになってしまった。彼の場合、サーヴァントがいなくても、夜毎、危険を求めて徘徊しそうだ。
桜とはパスが繋がっているのである程度のことは察知できるし、何かあれば令呪を使ってもらえばいい。
士郎のほうが危ういと言える。
「よろしくね。ライダー」
そう言って、桜は間桐邸へと向かった。
桜を見送ってから、しばらくすると藤村大河が出てきて自宅に戻っていった。
それから間を置かずに士郎が外に出てきた。
早速行動するつもりかなのかと思って実体化した。
だとしたら、止めなくてはならないだろう。
「やっぱりいたのかライダー」
士郎の足元を見ると、履いているのは草履だった。
流石にこの格好で戦うことはないだろう。
それでも、念のため確認する
「まさか、これから戦いに行こうというのですか?」
「あのなあライダー。オレを何だと思っているんだ?この恰好で戦いに行くわけないだろう。それに、今のオレ一人で何ができるっていうんだ?」
その言葉覚えておきましょう。きっとあなた自身に返ってきますよ。
「それでも必要とあれば、行くのがあなたでしょう」
「少なくとも今は違う。とにかく中に入ってくれ。ライダーを呼びにきたんだから」
「そうなのですか?」
思いがけない話だった。
「まあ、近くにいなかった場合はどうしようもなかったんだけどな。今なら関係者しかいないから大丈夫だ。食事もしていってくれ」
「え?」
「あらかた片付いてしまっているけど、ライダーの分を残しておいたんだ」
頑なに断るのも失礼になりそうだった。
士郎の料理は上手だと聞いているし、桜が手伝ったものかもしれない。
純粋に食べてみたかった。
「承知しました。お気遣い感謝します」
「ああ。それから、渡したいものがあるんだ」
士郎は手に持っていた小さな手提げ式の紙袋から、何かを取り出した。
それは、眼鏡ケースのように見える。
それが2つ。だいぶ大きさは違う。
「使ってみて欲しいんだ」
そう言って、紙袋ごと渡してきた。
「これは?」
試しに片方を開けてみると、やはり眼鏡だった。
「昨日言っていたよな?その目は魔眼だって。それを封じるために眼帯をしているんだろう?でも、それじゃあ外を普通に歩けないじゃないか」
またしても、この少年は私を戸惑わせる。
そもそも霊体化していれば、人目に付くこともない。
日中の街中を歩く必要などないのだ。
「そうだ。一つ謝らなくちゃいけないことがある。実は眼鏡自体はオレが用意して、それに魔眼封じの術式をキャスターに付与してもらったものなんだ」
「なるほど。それなら効果については、大丈夫そうですね。何を謝る必要があるのでしょうか?」
「いや、だから、結果的にキャスターにライダーの能力を教えることになってしまった。これは、キャスターに依頼してから気付いたんだが、その点は本当に申し訳ないと思っている」
なんともまあ。
またまた呆気にとられる。
「士郎。私の能力をあなたに教えたのは私自身です。その情報を、本来、敵同士であるあなたがどのように使おうとあなたの自由です」
「そ、そうかな・・・でも、そう言ってもらえると気が楽になるな。もう片方も開けてみてくれ。そっちは、ライダーの戦闘面でもプラスになると思ったんだ」
促されるままにもう一つの箱を開けた。こちらは、通常の眼鏡ではなくスポーツ用のシャープなグラスバイザーだった。しっかりと頭部に固定できる作りになっていて、動き回っても支障がなさそうだ。
「気配を感じたりして周囲の状況を把握しているんだろうけど、直接見えるに越したことはないんだろう?」
「それは確かにそうです」
ほぼ心眼の領域なので今でも戦闘に支障はないのだが、視覚的情報もあるほうがいいに決まっている。
「ほんの僅かでも戦いに役立つかと思ってな」
この少年は本当に色々と考えているものだ。
ましてや、敵のサーヴァントである筈の私のことを。
「あなたとの戦いに使うかもしれませんよ」
そんな彼に対してなのに、どうしても意地の悪い質問をしたくなってしまった。
「う。それは困るな・・・」
この困った顔を見たかっただけかもしれない。
「・・・ふふ。このバイザーを使っているときには、あなたを傷つけないように出来る限りのことをすると誓いましょう」
「掛けてみてもらえるかな?」
ほっとしたように、少年の顔が綻んだ。
「そうですね。折角ですので」
士郎を視界に入れないように後ろを向いて、
取り敢えず普通の眼鏡のほうを掛けて、士郎に向き直る。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
反応がない。
「士郎?」
士郎が石化した。
どうやら不良品だったらしい。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ひたすら沈黙が続く。
少年の目は見開かれたまま、口は真一文字に結ばれて、固まっていた。
「・・・士郎?大丈夫ですか?物理的に石化したようではないみたいですが・・・」
「・・・あ・・・や・・・いや・・・ヤバい・・・」
「ヤバいを多用すると言語表現力が著しく落ちると聞いたことがあります」
「いや・・・すまない」
士郎は完全に平静さを失っているようだった。
本当にどうしたのだろうか?
特に変な暗示なども掛けていないのだが。
士郎は深呼吸を何度かして、やっとまともに喋ることができるようになったようだった。
「ライダーってとんでもない美人だったんだな・・・」
その言葉を聞いた私は心が浮き立ち、全身が熱くなるのを感じた。
思わず一歩踏み出すと。
そのまま、私は彼の頬に唇をほんの僅かに掠めるように触れた。
その後、また石化してしまった士郎が動けるようになるまで、その様子を楽しみながら待つことにしたのだが。
「・・・坊や。ライダーが見つからないからってあまり遠くへは・・・」
いつの世も、空気を読まない人間というのはいるものだ。
人間ではないけれど。
「・・・あらあらまあまあ。流石、他人の神殿で不埒な行為を働いて、島流しになった蛇女よねえ。こんな青いツバメも溶かしちゃったの?それともつまみ食い?」
紫色の魔女は、厭味しかない挑発をしてきた。
「なんのことでしょう?こんな場面で現れるなんて、
「まさか、本気ってこと?こんな
「あなたのほうこそ、なんのつもりで士郎に取り入ろうとしているのですか?隠しているつもりかもしれませんが、体中から腹黒さが滲みだしていますよ」
私は一体何の話をしているのでしょうか?
売り言葉に買い言葉で、キャスターの言葉に勢いで言い返しているけれど、おかしなことも口走ってるような気がしますね。
「ほんといやねえ。いつも人を騙そうとしている怪物は、他人もそういう目でしか見られないみたいね。私の厚意は純粋そのものよ。だいたいその眼鏡もバイザーも私が魔術を付与したのよ。お礼の一つも言えないなんて常識知らずもいいところよね」
「・・・あう・・・」
この眼鏡もバイザーも士郎の気遣いの賜物だ。
嬉しいし、ありがたい。
その贈り物に助力しているという事実を盾に取られると勝ち目がなかった。
「坊やもこんな女に付き纏われて迷惑ですってはっきり言わないと、干乾びるまで吸い尽くされるわよ」
と、キャスターは士郎の様子を窺った。
士郎は目を白黒させながら、私とキャスターのやり取りを聞いていた。
「・・・えっと・・・黙秘権を行使します」
彼は
不思議な反応だ。
E turn
人間の脳には許容限度というものが明確にある。
それを今日、オレは思い知らされた。
ライダーの素顔を見た瞬間がそれだった。
勿論、眼帯をしていた時点でも、美人なのは想像していた。しかし、所詮オレ程度の浅い人生経験では限界というものがある。
素顔が露わになった彼女は、控えめに言っても絶世の美女であった。
想定していた(今となってはおこがましいにも程がある)「美人」という概念は所詮、真の「美人」という現物の破壊力の前には無力であった。
オレは無になった。
その後、さらに第2波、第3波に襲われたオレの精神は崩壊した。
もはや何が起きたのかをオレ自身には説明することはできない。
詳しく知りたい方は、前段をご参照いただきたい。
「衛宮、キャスター、あまり外に長居するのは感心しないぞ」
葛木先生という絶妙なアンカーの登場により、オレは何とか停泊地を見つけることができた。彼は恩人だ。
ぶれない男、動じないアダルトの強さを実感できた。
ついていくぜ。葛木先生。
「む・・・」
あれ?
今、一瞬ライダーを見た葛木が石になったぞ。
「宗一郎様。あれは目の毒です」
なんて言って、キャスターがその視線を遮った。
ライダーも連れ立って居間に戻り、彼女にはそのままご飯を食べてもらっていた。
今日のメインは桜が作ったシーフードグラタンだ。
「こんな美味しい食べ物は私の生きた時代にはありませんでした。素晴らしいです」
と、ライダーは絶賛していた。
問題はこのライダーという【控えめに言って絶世の美女】をどう桜に紹介するかだった。
桜は遠からず帰ってくるだろう。
今日は一旦ライダーには霊体化してもらって、明日、落ち着いてから紹介しようか。などと思案していると、
「さてと、それじゃあ坊や。工房で昼間の続きをやりましょう」
キャスターが魔術指導の提案してきた。
「ああ。そうだな。頼む」
オレは、難題から逃げられる口実を見つけて飛びついた。
「私も少し様子を見させて貰ってもよろしいでしょうか?」
ライダーが同席を要望してきた。
「そのほうがいいか。昨日みたいな状況の時、オレが何ができるのかを把握してもらっていたほうがいいしな」
「坊やの言うとおりね」
と、キャスターも同意してくれた。
3人で連れだって、工房である土蔵に向かう。
葛木には、桜の帰りを居間で待ってもらうことにした。いきなり工房に入ってこられて、オレ達3人が怪しい魔術の特訓をしているのを見られるわけにはいかない。桜が帰ってきたら、こちらに合図を送ってもらう手筈だ。
「鍛錬を始める前に、できれば当面の方針を話し合いたいと思っている」
土蔵に入ったところで、オレは言った。
そう。昨日までとは大きく状況が変わっている。
「そうね。お互いの考え方も少し共有したほうがいいわね」
「先ず、オレから話そう。オレはセイバーを失った。だけど、聖杯戦争は見過ごせないし、なによりあの黒い影が一番の問題だと考えている」
昨日、柳洞寺に現れた影はオレや葛木だけでなく、寺にいた数十人の門弟を昏睡させた。幸い皆、命に別条はないと聞いているが、人に対して害をもたらすものであることは間違いない。
「聖杯戦争との関連性はまだわからない。だが、セイバーが取り込まれてしまったことを考えると、人間よりもサーヴァントにとって、より脅威になる存在なのかもしれない」
「そうね。宗一郎様や坊やの治療をしたけれど、放っておいても時間が経てば回復する程度のものだったわ。それでも数日はかかるでしょうけど」
「あの影は、私とセイバーを狙って攻撃を仕掛けてきたようでした。優先順位としては、先にサーヴァントを狙ってくるのかもしれませんね」
「そう考えると、聖杯戦争との関連性はあると想定したほうがいいと思う」
「その前提を置いたうえで、坊やはどうするつもりなのかしら?」
「影の発生原因を突き止めて対処する。そのためには、情報収集が必要だ。発生場所や時間、行動パターン以外にも、聖杯戦争に関する情報を集めようと思う」
「誰から情報を集めるつもりなのかしら?」
「遠坂を筆頭に、言峰神父、間桐臓硯、イリヤスフィールだ。前回の聖杯戦争や、聖杯戦争の歴史などについて確認する。もちろんキャスターも分かっていることを教えて欲しい。そして、一緒に考えて欲しいと思っている」
「凛はともかく、他の人物が素直に教えてくれるとは思えませんが・・・」
ライダーがもっともな懸念を口にした。
「それは、百も承知だ。ただ、この戦いが歪められる可能性を示唆すれば、ある程度の情報は引き出せると思う。対価を要求されれば、可能な範囲では応じていくつもりだ。いずれにせよ、彼らなりの利が何かを探りながら、交渉する」
「聖杯戦争はどうするのかしら?」
「まだ判明していないランサーとアサシンのマスターを突き止めたい。対処方法にも繋がるし、情報収集の対象になり得るからな。あとは、基本的には専守防衛だな」
「動き回れば、狙われる危険が増すことになりますが」
「活動はなるべく日中に行う。セイバーのいないオレでは、夜動けばサーヴァントの餌食になる」
「日中だからと言って、必ずしも安全なわけではないことを忘れないでください。可能であれば、私はあなたを守りますが」
「わかっている。基本的にライダーがオレを守ってくれることは、計算には入れない。これは、ライダー自身を信頼していないという意味じゃない」
わかっていると思うけど。と付け加えた。
ライダーは頷いてくれた。
彼女は本来のマスターを守ることを当然優先せざるを得ない筈だ。常にオレの傍にいられるわけじゃない。
「その前提のほうがいいわ。あと、アーチャーのマスター・・・遠坂凛という名前だったわね。彼女との共闘関係は、どう捉えるのかしら?」
キャスターは殆どオレの答えを察したうえで、敢えて確認してきているようだった。
「停戦協定のような意味合いで考えるほうがいい。オレは遠坂を信用しているけれど、遠坂自身はオレに対するアーチャーの制御について充分な保証ができない様子だ。となれば、積極的な共闘は難しいと考えるんじゃないかな」
「凛の性格からすると、この状況で共闘関係そのものを破ることもないでしょうから、結果的に共闘もできないが攻撃も仕掛けないという形に落ち着くということでしょうか」
ライダーは遠坂の性格も把握しているようだった。
直接話したのは昨日が初めての筈だが、慎二のサーヴァントだったから、あいつから話を聞いているのか、霊体化して学校内の状況を観察していたのかもしれない。
「そうだ。だからこそ大事なのは、オレ自身が強くなる事だと思っている。自分の身を自分で守れなければ話にならない。それに、黒い影に対してサーヴァントではむしろ不利ということであれば、人間の力が鍵を握るとも考えられる」
「坊やの考えは合理的ね。いいと思うわ。私としては、坊やに可能な限り助力するつもりよ。私は他の参加者から狙われる立場だし、坊やに対しては攻撃ができない。であれば、坊やに勝ち残って貰うのが一番いいもの」
「助かる」
オレは、頷いた。
キャスターの目的は知っているし、基本的な立ち位置はわかっていた。
彼女にとっては、もう一つの選択肢があるのもわかっていたが、それはこの場では黙っていた。おそらく彼女も敢えて伏せているのだろう。
「でも、正直あまり期待しないで欲しいわ。柳洞寺を追い出されたから、魔力が乏しくなっているし、元々優位なクラスではないもの」
「ああ。今日みたいに魔術の指導を期待している」
「私については先程の士郎の話のとおりです。私の助力は、あれば幸い程度に考えていただかないと危険だと思います。最悪の場合・・・」
「ライダー。それ以上は言わなくていい」
続けようとしたライダーの言葉は遮った。
彼女自身が辛そうだったからだ。
キャスターは軽くこちらを睨んできたが。
「話としては、こんなところか。先ず、明日学校で遠坂から話を聞き、それから教会に向かうつもりだ」
「それがいいわね」
「可能であれば、私もご一緒します」
「それじゃあキャスター。昼の続きを頼む。実は一つ試してみたいことがあるんだ」
話を終えたオレ達は、キャスターの魔術教室の時間に移行したのだった。
結果として、魔術の鍛錬に集中することになったオレは、桜が帰ってこないことに気付いていなかった。
Interlude in
「兄さん・・・戻ってきてたんですか・・・?」
二日ぶりに自宅に戻った間桐桜は、玄関で靴を脱ぎ、自分の部屋に向かう途中で兄と遭遇した。
「悪いかよ。ここは僕の家なんだ。なんの不思議もないだろ?」
「でも、教会にいたほうが安全なんじゃ?」
「ふん。教会には偵察に行ってただけさ。安全のためなんかじゃあない。あの神父は怪しいからな」
プライドを傷付けられたように、顔を歪めて兄は言う。
「にしても、聞いたぜ。衛宮がサーヴァントを失ったってな」
「!?」
「あのサーヴァントはなかなかのもんだった。衛宮には勿体ないくらいにね。それなのにあっさりやられてしまうなんて、ほんと衛宮はどん臭いよな」
「誰から聞いたんですか?」
「は?そんなの爺さんに決まってるだろ。とにかくこれで衛宮は完全に無力になったわけだ」
「・・・先輩に何をするつもりなんですか?」
「ふん。決まってるだろ。この前の決着をつけてやるのさ」
「やめて下さい!先輩がそんなことに応じる筈がないです」
「そんなのわからないだろ?」
「先輩は自分自身が犠牲になることを気にもかけない人です。他の人のためならともかく・・・」
「ふん。確かにそうかもな。とは言え、誰なら釣れるかっていうと・・・」
と言って、兄は少し思案するような表情になった。
「私なんか先輩が気に留める筈がありません!」
「ん?ああ、そう言えば手近にちょうどいいのがいるじゃんか」
兄は初めて私の利用価値に気付いたようだった。
「兄さんのために協力してくれるよな?」
「そんなっ!?兄さん!考え直して下さい。兄さんは優しい人です。そんなことができる筈がないのに!」
「そんなことができる筈がない?」
兄は肩を震わせた。私の言葉に屈辱を感じたのだろう。
「僕だってこれくらいのことはできるさ!僕は魔道の家門の後継者だ!必要とあれば、家族すら犠牲にできる!それが魔術師ってもんだろう!」
この人は、勉強もスポーツも人並み以上にこなせる。顔も悪くない。普通の学生として過ごすだけなら、不自由なく生きていくことができるのに。
『魔術師』という圧倒的に特別な存在に強く惹かれてしまっていた。
残酷なまでにその才がないにもかかわらずだ。
「ふふふ。明日、お前には衛宮を釣り出す餌になってもらうからな・・・」
「そんな・・・」
私は身を震わせる。
「さて、それじゃあまた偽臣の書を準備するんだ。そして、また僕はマスターに。そして、魔術師になるんだ」
兄は虚な目でそう呟いた。
「本当にかわいそうな兄さん・・・」
間桐家は洋館だが玄関では靴を脱ぐ。このあたりは、徐々に現地文化に定着しようとした間桐臓硯の意思の表れなのだろう。
その玄関には、間桐慎二が普段履いている靴が、桜が帰って来る前から確かにあったのだ。
Interlude out
勿体ないのでライダーさんに眼鏡を掛けてもらうことにしました。キャスターがいるからこそ可能(本当に可能かは置いといて)な荒業です。
ライダーとキャスターのギスギスした会話も楽しいですね。
こういったサイトを利用するのは初めてですが、お読みいただいている方々、お気に入り登録していただいている皆様本当にありがとうございます。
駄文、拙文で恐縮ですが、なるべく早く投稿していきたいと思います。
それにしても、何度自分の書いた物を読み返しても、必ず手直ししたくなるんですよね・・・平仄合わせや表記ゆれは一旦目を瞑って進めます・・・
※タイトルつきました。