Fate/√knight  【ムラサキノウエ】   作:わが立つ杣

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ランサーとの死闘と時を同じくして、冬木教会にて。


第15話 ~6日目③~ 「監督役の務め」

 R turn

 

 

 ギィ・・・

 

 冬木教会の扉を開ける。

 この教会の中にまで入るのは初めてだった。

 開戦前に街の様子を確認していた時には、一周りして外観を把握する程度に留まったからだ。基本的にこの教会の敷地内での戦闘は禁じられているので、それで充分と判断していた。

 既に桜は衛宮邸に連れて行っており、慎二をここに託した後は、学校に戻って士郎の様子を確認するつもりだった。先刻のやり取りを思い出すと面映いが、だいぶ時間も経過した。なんとか平静を保って士郎と接することができるだろう。

 

「なかなか興味深い訪問者だな。サーヴァントが(おの)がマスターをこの教会に避難させに来るとは」

 

 礼拝堂の高い天井に木霊する神父の声は、この場とその役割に相応しい荘厳さに満ちていた。

 

「話は二つだけですが、先ず要求を一つ。この間桐慎二を匿っていただきたいのです」

 

 監督役である神父に余計な事を喋るつもりはなかった。

 簡潔にこちらの要件だけを伝える。

 

「一応確認するが、キミはその少年のサーヴァントではないのかね?その場合、キミが残っているのに彼が離脱するのは不可解なのだが」

 

 どこまで話していいか悩むところではあるが、神父の言い分はもっともだ。目的を果たすためには、ある程度の情報を与えなくてはならないだろう。

 

「彼は私の代理マスターでした。しかし、その資格を失ったためここに連れて来たのです」

 

「なるほど。では、今は一般人ということだな。それでいて、命を狙われる理由があるとなれば断る理由はない」

 

「お願いします」

 

「ただし、彼自身が再度この戦いに身を投じる意思があれば、それは尊重せざるを得ない。その点は含んでおきたまえ」

 

「それは止むを得ないことです」

 

 拒否することはできない話だった。

 

「実際に彼は一度同様の状況で、ここに保護を求めてきた。しかし、昨日(さくじつ)、意を決して出て行ったのだ」

 

「そうでしたか」

 

 やはり、慎二は私がセイバーに負かされた後もここに避難していたのだ。

 そして、何らかの理由で士郎がセイバーを失ったことを知り、桜に強要して再度偽臣の書を手に入れ、私を従えた。

 慎二に士郎がセイバーを失ったことを伝えたのも、この神父ではないか。そんな疑念も浮かんでくるが、推測の域を出ない。

 第一、そんなことをする目的が思い浮かばない。

 

「さて、もう一つの話とは何かね?」

 

「はい。その・・・サーヴァントの張った結界により、穂群原学園でかなりの数の教師、生徒に被害が出ています。重症に至るようなものではない筈ですが・・・」

 

 さすがに気まずいので、歯切れが悪くなってしまった。

 

「な・・・なんだと・・・」

 

 鉄面皮だと思っていた神父の顔が若干青ざめたようだ。

 

「つい先日、柳洞寺でかなりの被害が出たばかりだというのに、今度は白昼の学校だと?」

 

 少し震えている。

 

「・・・かなりの数の教師、生徒と言ったが、実際、何クラスくらいに被害が出たのかね?」

 

「・・・す・・・すいません。全校です」

 

 気のせいかもしれないが、神父のこめかみからプチンという音が聞こえたような気がした。

 

「・・・下手人はわかっているのかね?」

 

 士郎、桜・・・私はここで消えることになるかもしれません。

 先立つ不孝をお許しください。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・私です

 

 消え入りそうになりそうな声で私は自白した。

 

「・・・そうか・・・」

 

 沈黙。

 

「知ってのとおり、聖杯戦争の監督役を務めるということは、戦いに一定のルールを設け、運営することで無秩序な争いにならないよう進行するということ以外に、この戦争の秘匿に責務を負うということでもある。すなわち、聖杯戦争に関わる出来事で生じた一般社会への影響について、なるべく自然な形で処理し、隠さなければいけないということだ」

 

「・・・はい・・・知っています

 

「言うは易し、行うは難しの典型だ。いや、影響する一般人が単体または数える程度であれば、難しいことではない。記憶を消したり、傷の治療をしたりすれば良いのだからな。しかし、これほど大規模で、社会的に影響のある施設に被害が及ぶと途端に話は難しくなるのだ」

 

「・・・ごめんなさい・・・もうしません・・・」 

 

「いっそのこと、放置してしまおうか・・・重傷者がいないというのであれば・・・いや、意識を取り戻した教師が必ず警察に連絡するな・・・集団食中毒・・・落ち着け、そもそもまだ午前中だ。冬木市全域の地盤に毒性のガスが充満しており、いつそれが吹き出すかわからないということにしてはどうか・・・ダメだ、地価が大暴落する・・・・・・」

 

「謎のカルト教団による連続毒ガス事件という事では如何でしょうか?」

 

 このいたたまれない状況から脱したい一心で、私はそれっぽい筋立てを提案した。

 

「それだ!素晴らしい!これなら柳洞寺の昏睡事件や新都のガス漏れ事件にも結びつけられる!」

 

 どうやら採用してもらえたようだ。

 本当にこれで隠せるのかは謎だが・・・

 しかし、神父はなんとか平静さを取り戻したようだった。

 

「すまなかったな。そもそもこれは私の職務なのだというのに。問題のあまりの煩わしさに少々取り乱してしまったようだ」

 

「・・・いいえ。そもそも私のしてしまったことですから」

 

「いや、サーヴァントの所業は基本的にマスターの責任だ。キミに落ち度はない」

 

「お気遣い感謝します。それではこれで私は失礼します」

 

 正直なところ、早くここから脱出したかった。

 凛・・・恨みますよ・・・

 

「待ちたまえ」

 

 出口に向かおうとしたところで、呼び止められてしまった。

 さらなる説教を浴びせようというのだろうか。

 それはそれで甘んじて受け入れなければいけない立場ではあるが。

 

「キミは今、極めて複雑な立場に置かれているようだな」

 

 突然、神父はこちらの深奥に斬りこんできたような気がした。

 いや、気のせいだ。

 そもそも代理マスターの元で戦ってきたというだけでも、充分に複雑なのだ。その点から、類推しているに過ぎない筈だ。

 私自身が今の立場に困惑しているからこそ、神父の一言が重く感じられたに過ぎない。

 

「何を言っているのですか?」

 

 余計な情報を与えないように気を付ける必要がある。

 それでいて、この神父の持っている情報を探りたかった。

 

「そもそもキミの出自からして数奇にして複雑だな。女神アテナの不興を買い、追放され、やがては怪物として討たれた女よ」

 

「!?」

 

「そんなキミが、英霊として召喚され、聖杯戦争などという血塗れの闘争に駆り出された挙句、ここでもまた数奇な運命を辿っている」

 

「あなたは一体・・・?」

 

 思わず、そう問い掛けずにはいられなかった。

 どこからどこまでこの神父は知っているのか。

 

「私は、興味を持っているのだ。怪物であるキミが、間桐家という魑魅魍魎の巣に放り込まれたにも拘わらず、本来なら敵であるはずの衛宮士郎というマスターにも密接に関与している。彼自身の目的からすれば、キミという存在は相容れないはずなのにだ」

 

 神父の独白は続く。

 なにを探ろうとしているのか。

 いや、これはこの男の純粋な好奇心なのかもしれない。

 

「普通に考えれば破滅にしか至らない道程のように思われるが、そんなに単純でないのもまた人間だ。私はキミの矛盾に、そして衛宮士郎の行く末に惹かれる者だ。是非、またここを訪れて欲しい」

 

「失礼します」

 

 私は、それ以上の会話は不要と判断し、今度こそ教会の重い扉を押し開けた。

 この男は危険だ。しかし、ただの敵ではない。

 彼が語った矛盾。

 それは、あの神父自身が抱えているもののように感じた。

 こんな一方的な話で、彼自身に利するものなど何もないのだから。

 それにしても、

 

「私の敵とは一体何を指すのでしょうか・・・」

 

 神父の言うとおり、私は矛盾だらけだ。

 

 

 E turn

 

 

「それで話ってなんだ?遠坂」

 

 ここは、遠坂邸のリビングだ。

 屋敷の前を何度か通りかかったことはあったが、中に入るのは当然初めてだった。

 かなりというか、滅茶苦茶緊張する。

 アーチャーが壁際にもたれて腕を組んで立っているが、それも緊張する要因だった。先程はヤツのお陰で助かったが、一昨日は散々殺されそうになった相手だ。殆ど本能的に警戒してしまう。

 遠坂邸は立派な洋館だが、その外観どおり中も完全に西洋風だった。

 オレの目の前には遠坂が淹れてくれた紅茶が入った、高そうなティーカップが置かれていた。割ったら大変なので、慎重に飲むことにしよう。

 

「間桐家とライダーのことよ。それに、今後のことについてもね」

 

 当然のことではあるが、授業は中止、学校は休校となった。

 ランサーとの戦闘後、オレ達は校内の教師や生徒を一通り確認し、少し懸念のある者には念のため目を覚ました後に問題が起きない程度に、遠坂が処置をした。

 ちなみに、ランサーにやられたオレの傷はキャスターが治療してくれている。

 葛木は教師として事後対応のため学校に留まり、キャスターは葛木が心配なので、しばらく霊体化して学校に残るということだった。

 キャスターと葛木を残して、オレが家に帰ろうとすると、遠坂から話があるので自分の家に来て欲しいと提案された。こちらとしても遠坂に話があったため、承諾して遠坂邸に初訪問となったわけである。

 

「私は、この前、ライダーの本当のマスターは間桐臓硯だろうって言ったわよね?」

 

「ああ。それが一番自然だ」

 

「衛宮君はそうだと思うんだろうけど、私はもう一人の間桐家の人物が同じくらいの確率でライダーのマスターだと思ってる」

 

「つまり桜ということだな?」

 

「え?意外と驚かないのね?あなたは、この考えに至っていないか、あるいは無意識で避けているのかと思っていたけど」

 

「いや、そうあって欲しくはないというのは確かだし、あまり考えたくはなかったけどな。その可能性はあるとは思っていたんだ」

 

「そう。相変わらず大したものね」

 

「遠坂の考えを聞きたいな。どうして、桜がマスターの可能性も高いと思ったんだ?」

 

 オレは慎重に紅茶を口に含んだ。

 

「間桐臓硯がライダーにあなたを守れなんて命令するのは、不自然だからよ。アーチャーとの戦いでは、そのせいで一歩間違えば、ライダー自身を失っていた。たとえ衛宮君に何らかの利用価値を見出していたとしても、そこまでするのは割に合わないわ」

 

「確かにそうだな」

 

「まあ、彼女自身の個人的な感情もあるのでしょうけれど」

 

 遠坂がにやりと笑う。

 

「だとすれば、純粋にマスターがあなたを守りたいと思っているということでしょう。桜なら充分あり得るわ。あの子があなたに好意を持っていることも気付いているでしょう?」

 

「好意?まあ、仲のいい先輩というか家族に近しい存在というか・・・それくらいには思ってくれていると嬉しいな」

 

 遠坂の漠然とした質問に対して、オレは本心を伝えた。

 

「げ・・・そこはダメなのね。あなた」

 

 遠坂がゲンナリとした顔をした。

 オレ、変なこと言ったか?

 

「まあ、でも仕方ないか・・・意識のベクトルが他に向いちゃってるわけだしね」

 

「とにかく、遠坂の説はもっともだと思う。桜はいい子だ。親しい人間が聖杯戦争に巻き込まれたとなれば、できる限り守ろうとする可能性はある」

 

「う~ん・・・・・・」

 

 遠坂は何故か眉間に皺を寄せて、目を瞑った。

 簡単に言えば、困ったような顔になった。

 

「・・・あ~・・・ちょっとあの子が不憫だけれど、好いた惚れたは他人が口挟めるようなことじゃないしね。マスターとサーヴァントが争うドロドロの三角関係とか、ほんと勘弁して欲しいわ・・・」

 

 さっきから遠坂の独り言は理解不能だ。

 いったいどうしてしまったのだろうか?

 

「一つ、疑問なんだが、それってつまり桜が魔術師だってことだよな?オレは桜がマスターである可能性があるとは思っていても、限りなく低いと思っていたのは、桜が魔術師とは思えないからだ。1年半接してきたけど、そんな素振りが全く感じられなかった」

 

「まあ、必死で隠しているんでしょうね。私も確証があるわけじゃないの。ただし、あなたが知らなくて、私が知っている事実が一つあるわ」

 

「何だ?」

 

「桜は間桐家に養子として入ったの。彼女の以前の姓は遠坂だった」

 

「え?」

 

 完全に不意打ちだった。

 

「桜は魔道の血が廃れつつあった間桐家に魔道の血を残すために養子として入った。つまり、間違いなく魔術師としての素質が備わっているのよ」

 

 いや、大事なのはそこじゃないだろう。

 

「つまり、桜は遠坂の・・・」

 

「そう。妹よ」 

 

「桜もそのことは知っているのか?」

 

「知っているわ」

 

「だから、遠坂は桜のことに詳しかったのか」

 

 聞いてしまえば、合点がいく。

 容姿も性格も全く違うが、そういう兄弟姉妹も少なくないだろう。

 

「ま、私たちが姉妹ってことは、他言無用よ。衛宮君だから教えたんだし」

 

「わかってるさ。決して他人に漏らしたりしない。とは言え、二人が接しているときに、オレとしてはどんな態度をとればいいのかは悩ましいな」

 

「私達の問題なのだから、余計な気を回さなくて大丈夫よ」

 

 まあ、遠坂はそう言うだろうけどな。

 

「どこまでできるかはわからないが、了解した。普段どおりに接する。とにかく、桜がマスターである可能性も考慮して、桜やライダーと接すればいいってことだな?」

 

「そういうこと。要は心構えね。なんの備えもなく、不意打ちで桜がマスターでしたなんてことになったら、動揺するかと思ってね」

 

「だけど、間桐臓硯がマスターという線も消えてはいないよな?」

 

「勿論よ」

 

「どんな人物か知っているのか?」

 

「私も詳しくは知らないけど、結構人望があるみたい。この辺では名士で通っているわ」

 

「オレも少しだけ話したけど、ちゃんとしたお爺さんって感じだったな。場合によっては、孫の友達を守るということもあるかもな」

 

 電話で会話した時のことを思い出す。

 

「でも、慎二はあなたを殺そうとしていたわけだしね」

 

「あれは、慎二個人の暴走だろう」

 

「そうね。でも、間桐臓硯は生粋の魔術師として想定しておいたほうがいいわ。前々回の聖杯戦争には参戦している筈だし、前回も今回も代理とは言え、マスターを仕立ててきている。聖杯を欲しているのは間違いないわ」

 

「表の顔と裏の顔があるってことだな。そうすると、桜がマスターだとしても桜個人の意思が必ずしも尊重されるとは限らないな」

 

「そうね。いずれにせよ、桜とライダーの立場は常に不安定ということよ」

 

「そうだな・・・」

 

 正直なところ、オレはライダーと敵対することなど想像もできないが、オレやライダー自身の思惑とは関係なく、今日のような事態が起こり得るということだ。

 

「それじゃ、衛宮君の話のほうを聞きましょうか?」

 

 遠坂は、自分の話はお終いとばかりに、オレに話すことを促してきた。

 

「ああ。オレは、あの影を調べようと思っている」

 

 オレは昨日キャスターに話した見解と、今後、オレがこの戦いに関与する目的を遠坂に伝えた。

 

 

 

「なるほどね。ただの偶然じゃなくて、あの影は聖杯戦争に関連していると考えたわけね」

 

 遠坂はひとしきり考えていたが、やがて口を開いた。

 

「そうね。私もその考えには賛成よ。でも、私から話せることはそう多くはないかも。前回の聖杯戦争の時は別の町に移されていたし、参加していた綺礼とは折合いが悪くて殆どこの話題について話していないのよ」 

 

「そうなのか・・・」

 

「ご免なさいね。私、聖杯にも聖杯戦争の背景にもあまり興味ないのよ」

 

 なかなかの豪胆発言だった。

 

「すごく遠坂らしいセリフだな。人生最大の、命懸けのイベントだってのに」

 

「私、物にも名誉にも他人のことにもあまり興味ないもの。大事なのは自分が納得できるかだけよ」

 

 ほんと、清々しいな。

 

「あ、でもお金は大事よ」

 

「・・・いきなり世知辛いな」

 

「魔術はお金がかかるのよ・・・それはさておき、聖杯戦争についてよね。もちろん、綺礼も間桐臓硯も私よりは詳しいでしょうけど、核心部分を一番知っているのは、イリヤスフィールでしょうね」

 

「バーサーカーのマスターか」

 

 そして、オレの義理の妹でもある。

 ここではその事は一旦伏せておくことにした。

 

「なぜイリヤスフィールなんだ?」

 

「アインツベルンのマスターだからよ。聖杯そのものを作ったのも、アインツベルンなの。彼らは千年も前から聖杯の完成を求め続けてきたのよ。遠坂も間桐も御三家と称しているけど、アインツベルンには及ばない」

 

「せ・・・千年・・・」

 

 途方もない数字に圧倒される。

 そんな長い時間、聖杯だけを求めてきたのか。

 オレみたいなぽっと出が関与してもいいのだろうか、と改めて不安になってしまう。

 

「いきなり怖気づかないでよね。それでどうするの?」

 

「あ、ああ・・・そういうことなら、なるべく早くイリヤスフィールと話してみようと思う」

 

「あなた、彼女がどこにいるかわかってるの?それに、この前は思いっきり戦った相手じゃない。あの子、こっちを殺す気満々だったわよ」

 

「御三家というくらいだから、古くから縁があるんだろう?遠坂なら居場所を知ってるんじゃないか?」

 

「まあね。冬木ではアインツベルンは郊外の城に居を構えるの」

 

 城、ですか・・・

 また規格外な単語が出てくるな。

 

「遠いわよ」

 

「行くさ。日中であれば、あの子は仕掛けてこない気がするしな」

 

「曖昧ね」

 

「一応、考えもある」

 

「凛。キミはどうするつもりだ?」

 

 これまでずっと黙っていたアーチャーが口を開いた。

 

「私?今回は衛宮君とは別に、アサシンのマスターを探ろうかと思っていたわ。今日、ランサーを倒したでしょ。マスターはわからず終いだったけど、他にわからないのはアサシンだけじゃない」

 

「なるほど。キミらしい合理的な判断だ。だが、私は衛宮士郎とイリヤスフィールに会いに行こうと思っている」

 

「「はあ!?」」

 

 思いもかけない発言に、オレと遠坂の声がハモってしまった。

 

「あんたまたどういうつもり!?」

 

「お前なんかと一緒に行くのはまっぴらご免だ!」

 

 遠坂とオレの怒声が室内に響き渡る。

 

「凛。キミはあの影のことをどう思う?」

 

 だが、こいつは動じない。

 

「そりゃあ厄介だなとは思うし、勿論どうにかしたいと思うわ。聖杯戦争どころじゃない気もする」

 

 遠坂が顎に手を持っていて、深刻な表情になる。

 

「奇遇だな凛。私も同感だ」

 

「いやいや、そもそもあんたのせいなんだからね!衛宮君と同行しないのは、あんたを彼に近付けるのは避けたいと私が思っているからでもあるのよ!」

 

 アーチャーは、にやりと口の端だけを上げる嫌みな笑みを浮かべやがった。

 

「その点は心配ない。私は、完全に衛宮士郎に興味を失った」

 

「「ふざけんな!!」」

 

 再び、オレと遠坂の声がハモる。

 

「あれだけ人を親の仇のようにねちっこく殺そうとしておいて何様だ!」

 

「そうよ!あんたのせいで私の最後の令呪がなくなったのよ!」

 

「すまない。人違いだった」

 

 しれっと赤い男は言ってのけやがった。

 

「「殺す!!!」」

 

 

 

「キャスターさん。包丁の使い方お上手ですね」

 

「ありがとう。お料理を本格的に始めたのは、こちらに来てからだけど何とかね」

 

「最近は、キャスターさんが葛木先生のお食事を作っていたんですか?」

 

「ええ、そうよ。宗一郎様はいつも『美味しい』と言って食べてくださるわ。でも、宗一郎様はお優しいからそう言ってくれるけど、私は料理が得意ではないし、自分で食べるとそれほど美味しくない時は多いわ。だから、坊やに料理を習うことにしたの」

 

「そうなんですか。先輩は、私のお料理の先生でもあるんですよ。私も一年半前までは全然でしたから」

 

「そうなの?桜ちゃんすごく上手じゃない。やっぱり坊やは凄いのね」

 

「ええ。先輩は家事全般何でもお手のものなんですよ。お掃除も洗濯も全部先輩に教えてもらいましたから」

 

「坊やは何事にも丁寧だし、教え方も上手よね」

 

「そうなんです。でも、キャスターさんは本当に葛木先生のことがお好きなんですね。婚約しちゃうなんて羨ましいです」

 

「当然よ。あんなに素晴らしい方はこの世のどこにもいないもの」 

 

 我が家の台所では、止めどなく華やいだ会話が続けられていた。

 遠坂邸を後にして、家に戻ると既に桜は意識を取り戻していた。

 オレと桜は二人で夕食の材料を買いに行き、帰ってきた頃にはキャスターも家に戻っていた。

 もしかしたらライダーも戻っているのかもしれないが、姿は見えない。

 今晩は、オレ、桜、キャスターの3人で食事の準備をすることになり、その最中にはこのようなガールズ(?)トークが展開されているわけだ。

 内容は極めて気になるが、男子たる者このような会話に積極的に加わるわけにはいかない。というかできない。

 ひたすら調理に勤しみながら、耳をそばだてるしかなかった。

 

「美味しいわ。流石ねえ、坊や」

 

 キャスターが、オレが作った料理を味見して褒めてくれた。

 晩御飯は上々の出来だった。

 食卓には、鮭のちゃんちゃん焼き、スクランブルエッグ、シーザーサラダに豚汁という和洋折衷の料理が並んだ。

 とは言え、振る舞う相手が帰ってこないので、作った当人達で食べるしかないわけだが、3人いるので結構盛り上がる。

 

「うん。うまくできましたね」

 

「キャスターの作った豚汁もいいじゃないか」

 

「坊やに教えてもらったとおりに作ったんですもの」

 

 だが、この和やかな会話をいつまでも続けてはいられない。

 桜に聖杯戦争についてどこまで知っているのか問いただしておかなくてはいけない。これは決して悪いことばかりではないのだ。

 もし、桜が色々と隠して今のように振る舞っているのだとすれば、それはそれでストレスを感じている筈だからだ。

 全てを曝け出せば、気持ちが楽になることもあるだろう。

 

「桜。少しだけ聞きたいことがある」

 

 オレは箸を置き、意を決して切り出した。

 

「え?なんですか先輩?」

 

「桜はオレが関わっている事件についてどのくらいまで知っているんだ?魔術についてもだ。今日、ライダーやアーチャーを見てもあまり驚いていなかっただろう?」

 

「え?・・・えっと・・・」

 

 桜は箸とお茶碗を持ったまま、戸惑っていた。

 

「黙っていたことを責めるつもりは全くない。むしろ、桜にとっては、黙っているほうが辛いんじゃないかと思っている。だから、できれば正直に答えて欲しい」

 

 頭を下げながら、こちらの本心を伝える。

 

「・・・先輩・・・」

 

「本当は桜も彼らのこと、つまりサーヴァントを知っているんじゃないか?そして、慎二やオレが何をしているかも」

 

「・・・・・・はい。知っています。ごめんなさい。先輩。騙すような真似をして」

 

 しばらく悩んだ末、掠れた声で桜は答えた。

 

「あ、いや、いいんだ。桜。この事を知っている事自体、基本的には隠すもんだからな。だからオレだって黙ってた。というか結構嘘も言っていた」

 

 セイバーについては、切嗣を頼ってきたとか言っちゃってたしな。

 

「桜は魔術師についても、知っているんだな?」

 

「・・・はい。うちがそういう家系だって知っています」

 

 やはりそうだったか。

 と、

 

「たっだいま~~!しろ~、お腹空いた~~~!」

 

「お邪魔します」

 

 玄関から、藤ねえと葛木が帰ってきた声がした。

 

「宗一郎様!」

 

 キャスターが席を立った。  

 この話は一旦ここまでだろう。

 

 




本作の綺礼の立ち位置は難しく正直成り行き任せだったのですが、ここで本領を発揮しています。聖杯戦争の監督役なんて不幸以外の何物でもないですよね。
あと、度々披露される士郎の料理スキルですが恐ろしいですよね。
料理ってレシピどおりにやればそれなりのものができますが、材料や各工程の意義は、他人から教わらないと普通わかりません。
周囲に料理ができる人がおらず、しかも現在のようにクックパッ●もないFate世界で彼が人に教えられるほどの造詣があるのは、TVの料理番組を見まくったとしか考えられないと私は思っています・・・

※タイトルつきました。
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