Fate/√knight  【ムラサキノウエ】   作:わが立つ杣

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桜との会話後、衛宮邸にて。


第16話 ~6日目④~ 「殺しと薬」

 R turn

 

 

「ライダー。桜が聖杯戦争やサーヴァントの存在を知っていると打ち明けてくれたよ」

 

「そうなのですか?」

 

 夕食後に士郎が屋敷の外に出てきて、桜との会話の内容を教えてくれた。

 教会から戻った私は、桜が意識を取り戻したことは確認したものの、その後は敷地外で待機していたのだ。

 

「ああ。桜にはライダーの事はオレを守ってくれるサーヴァントだと伝えておいた。藤ねえは帰ったから、うちに上がってくれ」

 

「お気遣い感謝します」

 

「近いうちに藤ねえにも上手く話しておくよ」

 

「どのように説明するのでしょうか?」

 

「そうだな・・・キャスターの親戚ということにするか。髪の色も似ているし」

 

「・・・まあ、私は構わないのですが・・・」

 

 当人が承諾するとはとても思えませんが・・・

 

 

 

「この部屋を使ってくれ。和室だから慣れないかもしれないけど」

 

「充分です。ありがとうございます」

 

 母屋の一室に案内され、一旦私は落ち着いた。

 そして頃合いを見計らって桜の部屋に向かう。

 桜は今日は早めに寝ると言って、自分の部屋に戻ったようだ。

 彼女が私のマスターであることはまだ明らかになってはいないので、士郎達には気付かれないように注意した。

 

「桜。起きていますか?今日は疲れたでしょう?」

 

 扉越しに小声で確認すると、桜が起きている気配がしたので部屋に入った。

 

「ライダー?ええ。少し疲れたけど大丈夫よ」

 

 ベッドに入っていた桜は上体だけを起こした。強がって見せているが、顔色はあまり良くなかった。

 

「失礼しました。今日は色々あり過ぎました。しっかりと寝て疲れを取ってください」

 

 桜の様子を見て、私は早々に立ち去ろうとした。

 

「いいえ・・・それより、今日はご免なさい。兄さんがまたおかしな真似をして。私が人質みたいになっていたから、ライダーも兄さんの言いなりになるしかなかったわよね」

 

「それは、慎二の行動を読み切れなった私の責任でもあります」

 

 士郎に対する人質として、桜を使う。そこまで突き抜けた発想が慎二にできるとは思っていなかった。

 

「でも、先輩の行動にはちょっとびっくりしちゃった。良かったわね、ライダー。先輩が守ってくれて」

 

 桜が微笑んだ。

 

「あ、はい。正直、アーチャーの攻撃の時は危うかったです。士郎は誰にでも優しいですから」

 

 私は後ろめたい気持ちを隠して、努めて冷静に応じた。

 

「そうよね。それはそれで困りものなんだけど・・・でも、そこが先輩のいいところだものね」

 

 少し俯きながらも、柔らかな口調で桜は言った。

 

「そう言えばあの人がアーチャーさんなのね。前に先輩を殺そうとしたっていう」

 

「はい。凛に止められているせいもあるでしょうが、今日はそんな素振りは全くなかったですね」

 

「そうね・・・それにしてもあの人って・・・どことなく見覚えがある気がするのよね」

 

 流石に桜は鋭かった。

 

「桜。近日中に士郎は、言峰神父、バーサーカーのマスター、そして臓硯と話をしようとしているようです。ですが、私は桜の身が心配ですので残ろうかと思います」

 

「いいえ。ライダー、先輩についていってあげて。今日は私や兄さんをあなたが送り届けている間に、先輩は危険な目にあってしまった。やっぱり先輩が心配だわ」

 

「・・・・・・承知しました」

 

 少し考えた後、眼鏡に手を添えて私は頷いた。今の関係から考えて、葛木やキャスターが桜に危害を加えたりはしないだろう。士郎のほうが危険なのは確かだ。

 アサシンの動向は気掛かりだが、桜がマスターである事を知るはずもない。

 

「それにしてもライダー。あなた眼鏡を掛けるようになったのね。前の眼帯よりも全然素敵。やっぱり目が見えると表情も豊かに感じられるわ」

 

「ありがとうございます」

 

 士郎に貰ったとは言い辛かった。

 

「・・・ごめんなさい。少し疲れたわ。そろそろ眠るわね」

 

「はい。桜。それではお休みなさい」

 

「ライダー・・・なんとなくわかっていたけれど、あなたって本当に綺麗ね」

 

 最後のほうは消え入りそうな声で呟きながら、桜は静かに寝息をたて始めた。

 桜の月影がちりちりと震えているような気がした。

 ほんの少しだけ、私は自分の肌がさわつくのを感じた。

 

 

 

 この屋敷は現代の一般人の住まいとしては、規格外の広さがある。晴れてこの屋敷内に滞在することができるようになったので、私は一通り様子を見て回ることにした。

 

「それにしてもこの屋敷は本当に手入れが行き届いていますね。庭木に至るまで完璧です。まさか士郎が一人でやっているのでしょうか・・・」

 

 だとしたら殆ど彼は化け物だ、などと考えながら敷地内を徘徊していると、道場と呼称される剣術の修練場に明かりが点いていることに気がついた。

 

「士郎でしょうか?」

 

 他に思い当たる人物もおらず、そう推測して道場に近付いた。

 内格子が嵌っている窓から中の様子を覗いてみる。

 

「・・・アーチャー?」

 

 何故か中にいたのはアーチャーだった。

 丁度私が桜の部屋を出た頃に、家のチャイムが鳴っていたことを思い出す。何か用件があって凛が士郎を訪ねて来ていたのかもしれない。

 彼はいつもの外套は脱いでおり、上半身は袖なしのシャツのみだった。そのため逞しい腕が剥き出しになっている。

 その手には、すっかり見慣れたあの双剣が握られていた。

 私を襲い、そして私を守ってくれた白と黒の片刃剣だ。

 彼はゆったりした動きで剣を振るっていた。自分の動きを一つ一つ確かめるような、目には見えない線をなぞるような丁寧な剣舞。

 

 ──―──―──―──―──―──―

 

 それは、美しかった。

 聞こえる筈がないが、剣の流れそのものの音が聞こえてくるかのような錯覚を覚えた。

 一昨日、そして今日と二度もこちらの命を狙ってきた相手だというのに、不思議な程、今の彼に警戒心を抱く気にならない。

 私はただ吸い寄せられるように、その流れる水のような動きを目で追っていた。

 残念ながら、その剣舞は長くは続かなかった。

 彼は剣を消失させると、今度は道場内の壁に掛けられていた木刀を二つ外して、手に取った。

 

「覚えてなどいない筈だがな・・・」

 

 微かだが彼がそう呟くのを私は聞いてしまった。

 何かいけないものを見てしまったような気がして、私は中を覗くのをやめて視線を地面に落とした。

 私は速やかにこの場を立ち去ろうとした。

 だが、

 

「覗きとはいい趣味だな。ライダー」

 

 気がつくと、道場の扉を開けたアーチャーが外に出て、私のほうへと歩み寄ってきていた。

 

「アーチャー・・・やはりあなたは・・・」

 

 不意を突かれた私は殆ど確信にまで至っている推測を、思わず口にしようとした。

 

「まだ、誰にも話すなよ」

 

 アーチャーは抑えた声で、私の言葉を制止した。

 

「とは言え、勘の鋭い連中は気づき始めているがな」

 

 少し困ったような表情を浮かべた。

 深刻ではないがあまり触れられたくない、そんなニュアンスが感じられた。

 

「特にお前の(あるじ)にはな」

 

 桜に?

 いや、そもそも私の主が誰だかもうわかっているという事だろうか?

 

「それにしても・・・」

 

 アーチャーは一歩踏み込んできて顔を近づけ、無遠慮に私の瞳を覗き込んできた。

 

「美しいものだ。小僧が骨抜きになるのも止むをえんか」

 

 にやりと意地の悪い笑みが浮かぶ。

 

「固めますよ」

 

 私は、目の前の精悍な顔を睨みつけた。

 

「男冥利に尽きるというものだ」

 

 アーチャーはそう嘯くと、片手を軽く上げて立ち去っていく。

 その広い背中が夜闇に消え、見えなくなったところで私は嘆息した。

 

「まったく、どこをどう間違えたらああなってしまうのでしょうか・・・」

 

 私はここにはいない少年のことを思った。

 

「でも、本当に綺麗でした・・・」

 

 アーチャーの剣舞は流麗だった。

 思わず見惚れてしまうほどに。

 この僅かな時間の出来事が全て幻だったかのようで、私は暫くその場に立ち尽くしていた。

 

 

 E turn

 

 

 夕食が終わり、藤ねえが帰るのと入れ違いのような形で遠坂がやってきた。明日の事で少し話があるということだったが、用件は30分程で終わり、すぐに帰っていった。

 その後、風呂に入ってから、オレは土蔵に向かうことにした。

 

「今日は疲れたでしょう。鍛錬はお止めなさ・・・いいえ、言っても無駄ね。1時間だけにしておきなさい」

 

 という具合にキャスター先生からは、許可を得ていた。

 

「どうせ止めても無駄って思われているわけだな・・・心外だ」

 

 確かに今日は肉体的な疲労も、魔力の消費もかなりのものだった。

 鍛錬は程々にするつもりだ。

 

「だけど、折角、馴染んできたんだからな」

 

 そう。

 今日は、アーチャーの剣を二度投影したが、二度目のほうがスムーズになっていた。

 鍛錬の時は行使する魔術だけに集中できるが、実戦ではそうはいかない。

 今日のように切羽詰まった状況で、他の動作や思考も交えながら投影せざるをえないことが殆どになるだろう。その経験が積めたのは大きい。

 

「それに、あの固有結界とかいう中であいつが生み出した武器はみんな凄かった」

 

 そのうちのかなりの武器を覚えている。

 それらも投影できるようになれば、戦い方も増やせるのではないかと考えていたが、

 

 ギィィ・・・

 

 と、土蔵の扉が開く音がした。

 

「・・・衛宮。鍛錬中にすまない」

 

 思わぬ来訪者が土蔵の扉を開けて、入って来た。

 

「葛木?」

 

 それは確かに、葛木宗一郎だった。

 

「実は、お前に頼みがある」

 

 ただでさえ驚いていたところに、思わぬ言葉が発せられた。

 

「こんな夜更けに申し訳ないと思っているが、二人だけで話したいのだ」

 

「・・・ああ。オレに可能な事なら引き受けるぞ」

 

 戸惑いながらもオレは返答した。

 葛木がオレに頼み事なんて、余程のことなのだろう。

 

「その代わりと言っちゃなんだが、一つ教えてくれないか?」

 

 オレの方も、聞きたいことがある。

 ある意味、いい機会だと思うことにした。

 

「無論だ。先にお前の問いを聞こう。私の頼みを受けるかは、その後で判断するがいい」

 

「わかった」

 

 オレは頷いた。

 

「学校での戦い。あんたは本当に凄かった」

 

 そう。

 キャスターの魔術による援護があったとは言え、凄まじいと言っていい戦いぶりだった。

 何せ人間が、英霊と渡り合っていたのだ。

 しかも白兵戦を得手とする槍兵を相手に、素手で対抗していたのだ。

 

「どうしてなんだ?」

 

「そうか。キャスターからは何も聞いていなかったのだな」

 

 葛木は寧ろ意外そうだった。

 

「ああ」

 

「単純な話だ。私は殺人者だ」

 

「え?」

 

 事も無げにぽんと放り投げられた答えは、衝撃的な単語が混じっていた。

 

「私は生まれた時から人を殺すための凶器として育てられたのだ」

 

 それから葛木の語った内容は想像を絶するものだった。

 人を殺す道具としての人を作る組織。そこで人生の大半を過ごした男の話だった。

 全てを聞き終えたオレの感想はただ一言。

 

「とんだ与太話だな・・・」

 

「そういうことにしておくがいい」

 

 少し前のオレなら、この男を悪と断じていたのかもしれない。

 だが、少なくとも葛木は今は真当な教師として生きている。

 自身の意思を剥奪され、命じられるままに人を一人殺したという罪を今のオレに量ることはできなかった。

 

「余計な話をさせて悪かったな。それで、そっちの頼みというは何だ?」

 

「薬を作って欲しい」

 

「は?」

 

 思わず素っ頓狂な声が出てしまった。

 それほど突拍子のない頼みに思えた。

 

「ちょっと待て。オレは薬剤師じゃないぞ」

 

「無論、お前に直接作ってもらうわけではない」

 

 そう前置きをして、葛木は具体的な【薬】の内容と、自身の目的をオレに語った。

 

「・・・なるほどな・・・」

 

「お前にとっても、あって困る物ではあるまい」

 

「そうだな。なるべく早く手に入れよう」

 

 オレは、葛木の頼みを引き受けた。

 この男の意思は、充分にオレの心に響いてくるものだった。

 

 

 Interlude in

 

 

「例のモノを回収してきましたぞ。魔術師殿」

 

 白い髑髏の仮面が一冊の古びた本を携えて、杖をついた老人に伝えた。

 

「ふむ。つまらぬ手間をとらせたのう、アサシン」

 

 その老人、間桐臓硯は、階段下に蠢く蟲達から目線を外して、振り返りながら己がサーヴァントを(ねぎら)った。

 間桐家は冬木市内外に多くの物件を所有している。ここはそのうちの一つで、市内にある別邸のようなものである。同時に臓硯にとって間桐邸以外の大事な蟲蔵の一つであった。

 

「これしきのご用命は全く苦にはなりませぬ」

 

 アサシンは律儀に応じながら、持っていた本を臓硯に差し出した。

 

「それにしてもお主の話、実に興味深いものであったのう」

 

「どうやら、(いささ)か魔術師殿の筋立てとは違う方向に進んでいる様子ですな」

 

「うむ。だが、寧ろ都合の良い方向に進んでいるとも考えられる。まさに、瓢箪から駒というやつじゃ」

 

 本を受け取りながら、臓硯は醜悪な笑みを浮かべた。

 

「と、言いますと・・・?」

 

 アサシンは首を傾げた。

 

「この流れを加速させることとしよう。お主にも少し働いてもらいたい」

 

 老魔術師は、手にした本【偽臣の書】に視線を落とした。少し傷ついており、一時的に効力を失っているようだが、完全に使えなくなったわけではない。

 

「それは無論。如何様(いかよう)にでも」

 

 アサシンの返事に老魔術師は満足気に頷いた。

 

 

 Interlude out

 

 




今回は、様々なショートストーリーが散りばめられていました。
中でもポイント(?)は、衛宮邸の庭木の手入れは誰がやっているのか、という点でしょう。映画を観た時、なんて整っているのかと本当に感心したものです。
業者さんに頼んでいるのか、藤村組が何とか対応しているのか・・・
興味は尽きません。

※修正前のものを昨日投稿してしまっていましたので、更新しております。
 失礼しました・・・

※タイトルつきました。
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