Fate/√knight  【ムラサキノウエ】   作:わが立つ杣

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深山町商店街の中華料理店を出て。



第18話 ~7日目②~ 「遺産」

 R turn

 

 

「それにしても美味でした。【紅州宴歳館・泰山】覚えておきましょう」

 

 店を出てから、振り返って改めて名前を確認した。

 

「ライダー。あなたのキャラがよくわからなくなってきたわ」

 

 凛が側頭部に拳を当てながら、顔をしかめていた。

 

「遠坂はこれからどうするんだ?」

 

「私は明日の準備もしたいし、お二人の邪魔をするつもりはないからから、一旦家に戻るわ。夕食時に衛宮君の家にお邪魔させてもらうから、そこで明日のことを少し話しましょう」

 

 桜が聖杯戦争のことについて知っているということは、既に凛に伝えてある。

 さらに、藤村大河はしばらく家(組?)の行事のため、士郎の家には来られないということなので、聖杯戦争のことを気兼ねなく話せる状況になっていた。

 

「あ、そうなのか・・・わかった。じゃあ、また後でな、遠坂」

 

 去っていく凛を、少し残念そうに士郎は見送った。

 

「ちょっと心細いな」

 

 士郎が小さく呟くのが聞こえた。

 まあ、私の服選びの時に凛に頼りたかったのでしょうね。

 

「それでは、士郎行きましょうか」

 

「はい。行きましょう」

 

 士郎はおかしな口調で返事をした。

 

「新都に着いたら、先に食事をしましょう。今の店では士郎は何も食べていませんから」

 

「でも、ライダーは食べたじゃないか?」

 

「一皿だけですから。軽い物でしたら問題なくお付き合いできます」

 

「よし。それじゃあ喫茶店で軽食だな」

 

「はい」

 

 

 バスで、新都まで行き、士郎と一緒に開放的な雰囲気の喫茶店に入る。

 看板には【アーネンエルベ】と書かれていた。

 士郎も私もサンドイッチと紅茶を頼み、さほど待たされることもなく、料理は運ばれてきた。

 

「サンドイッチも初めてだよな?」

 

「勿論です。この料理は、手軽に食べられていいですね。すごく機能的で、それでいて美味しい」

 

「喜んでくれて良かった」

 

 なんと幸せな時間なのか。

 この世界に召喚されてから約1か月。

 私は、特に霊体化して慎二と同行することが多かった。

 彼は女友達とこういった店に何度か入っており、内容はともかくお互い楽しそうに話をしていた。

 勿論、それで羨ましいとは微塵も感じなかったわけだが、士郎とこうして二人で食事をしながら話をしていると本当に楽しい。

 

「服はどちらで探すのでしょうか?」

 

「近くに大きな百貨店があるから、そこで買うつもりだ」

 

「でも、本当に服などお気遣いいただかなくても大丈夫なのですが・・・」

 

 服自体に興味がないのは本心だ。

 さらに、お金を出してもらうことになるのも申し訳ない。

 

「ごめん。実際のところは、オレが嫌なんだ。オレがライダーにちゃんとした服を着てもらいたいんだ。ていうか見たい。ここまで連れてきていながら今更だけど、本当に嫌ならそう言ってくれ」

 

「・・・嫌なわけないじゃないですか・・・」

 

 その質問は卑怯ですよ。士郎。

 

「正直、服には興味ありません。ですが、士郎がそう言ってくれるのは嬉しいです」

 

「え?それってどういう・・・」

 

「ふふ。そろそろ行きましょうか」

 

 油断すると、こちらが逆に士郎の思いも寄らない答えに振り回されることになってしまう。これまで何度もそういう経験をしているので、先手を取って振り回す立場をキープしたいところだ。

 私は促すように先に席を立った。

 士郎が慌てて、レシートを持って立ち上がる。

 

 

 

 この百貨店には、慎二と同行して一度来たことがあった。

 女性物のみの衣服店も入っているし、男性物も含む総合的な衣料品店もある。

 士郎の立場からすると、後者を選ぶことになるだろう。

 

「買うお店も決めていたりするのでしょうか?」

 

「そこまでは決めていないな」

 

「確か凛にアドバイスをもらっていたと思いますが」

 

「あいつのは全く参考にならなかった。赤い服を買えばいいのよ、なんてニヤニヤ笑いながら言いやがって」

 

「それは、たぶんアドバイスをする気がなかったのでしょうね」

 

「そうだな。自分で考えろってことなんだろう」

 

「桜や大河には聞かなかったのですか?」

 

 答えは予想がついたが、念のため聞いてみる。

 

「桜に聞くのは何となく気まずかった。藤ねえに聞いても意味がない」

 

 正解でしょうね。

 

「それではどうしましょうか?士郎がいつも購入している店に、女性物があればそれで充分だと思いますが」

 

「オレがいつも買っている【し●むら】はここには入っていない。とは言え、男物、女物問わず売っている【●ニクロ】や【コ●サ】はあるから、そこで買えばいいのはわかっている」

 

「では、そちらで」

 

「でも、嫌だ」

 

「どういうことでしょう?」

 

「ライダー。行こう」

 

 そう言って、士郎が私の手をとった。

 

「え?」

 

 士郎の少し硬い掌の感触が直に伝わってきた。

 一瞬、彼がその感触に戸惑ったように逡巡したが、それを振り払うようにしっかりと私の手を握ってエスカレーターのほうに向かった。

 毎度のことながら私の予想を覆したこの少年は、2階の女性物をメインとしたフロアに足を踏み入れた。

 

「士郎。ここは・・・」

 

 ちょっとハードルが高いのではないでしょうか?

 と私も躊躇したが、士郎はそのままテナントの一つに私を連れて入った。

 このフロアにあるテナントの中では広いほうで、女性店員が複数名いる。そのうちの二人はすぐに私達に気付き、少し驚いたような顔をしたが、すぐには近付いてこなかった。

 士郎は一通り店内を見回すと、先ほど私達に気付いた店員の一人に近づいていった。

 

「こちらの女性に合う服を一式選んでもらいたいんです」

 

 話しかけられた若い店員は僅かに驚いたようだったが、すぐに自身の役割に忠実な表情を取り戻した。

 

「うわあ。近くで見ると、本当にモデルさんよりスタイルもいいし、綺麗・・・かしこまりました。うちは元々、海外ブランドですので、こちらの方に合うコーディネートをさせていただきます」

 

「お願いします」

 

 士郎が顔を赤くしながら頷いた。

 女性店員は嬉しそうに、店内を動いて上下、アウターを物色し始めた。

 

「士郎、無理をしなくても・・・」

 

 私は思わず士郎に声を掛けた。

 

「いいんだ。オレが今日はちゃんとしたエスコートをするって決めたんだから。大丈夫。気軽に着られる服も総合店で買うから」

 

 士郎は真剣な表情でそう言ってきた。

 

「・・・ありがとうございます」

 

 それに応じる私は今、どんな顔をしているのだろうか。

 

 

 

 店員は士郎の予算を確認したうえで、言葉どおり私に馴染みそうな服装を選んでくれた。上は白いシャツに、黒のジャケット、下はゆったりとした黒いロングパンツだった。かなり機能性や着心地を重視してくれており、私自身もこれなら変に気を張らずに済む。

 

「うん。自然な感じでカッコいいし、それでいて可愛らしいんじゃないか」

 

 と士郎も言ってくれた。

 

「・・・あ・・・ありがとうございます」

 

「まあ、ライダーほどの美人ならなんでも似合ってしまうもんなのかもしれないけどな」

 

 士郎が頬をかきながら、照れたように視線を外した。

 

 

 帰路に着く頃には、日はだいぶ傾いていた。

 私達は、すぐにバスに乗ることはせず、しばらく歩くことにした。

 新都のオフィス街のビル群を中央公園方面へと抜けていく。

 私達の向かう先には工事中のビルもあり、防音シートに覆われているのが目に入った。

 

「士郎。今日は本当にありがとうございました」

 

「いいんだって。最初に言ったとおり、オレの我が儘だったんだから」

 

 今の私の服装は、元々着てきた男物ではなく、一軒目の専門店の後に、別の総合衣料店で購入した黒のハイネックセーターにデニムのロングパンツという装いになっていた。

 

「ふふ。こんな我が儘なら大歓迎ですよ」

 

 とにかく私は士郎の気遣いが嬉しかった。

 

「その服もライダーに似合っているな」

 

「ありがとうございます」

 

 そんな和やかな会話を続けていた時だった。

 

 ガゴッ・・・

 

 左程大きくはないが重い音が響いた。

 

「なんだ?」

 

 その不穏な音に士郎が反応する。

 

「危ない!」

 

 言うが早いか士郎が駆け出した。

 その先には、母親と思しき女性が幼児を乗せたベビーカーを押しており、その真上には直前までクレーン車に吊り下げられていた鉄骨があった。

 その鉄骨は、重力の影響そのままに凶悪な鉄塊として、母親(仮)と赤子の命を奪うために落下した。

 士郎が間に合うタイミングではなかった。

 

 ザッ・・・

 

 士郎に釣られるようにして駆け出した私はすぐに彼を追い越し、

 

「はっ!」

 

 ゴッ!!

 

 母親(仮)と赤子の上空1メートルまで迫っていた鉄骨を、蹴り飛ばしていた。

 

 ゴォォンンン・・・

 

 私の蹴りを喰らった鉄骨は、その先にあった電柱に激突した。

 

「「あ・・・」」

 

 電柱は鉄骨がぶつかった衝撃でひしゃげてしまった。

 

「逃げるぞ。ライダー」

 

「はい」

 

 跳び蹴りをして着地した私の手を引いて、士郎は駆け出した。

 

「あの!ありがとうございました!!」

 

 背中から、先程の母親のお礼の言葉が投げ掛けられた。

 

 

 

「ふう・・・まあ、ここまで来れば大丈夫だろう」

 

「そうですね」

 

 事故(事件?)現場を逃走した私達は、今は中央公園付近まで来ている。

 また、神父の心労の種と私達への口撃の材料を与えることになってしまったかもしれない。

 

「少し喉が渇いたな」

 

 そう言って、士郎は近くの自動販売機で温かいお茶を2本買い、片方を渡してきた。

 

「ありがとうございます」

 

 どちらからともなく、手近にあったベンチに腰掛けて、落ち着いた。

 

 士郎と私の間には、僅かに隙間が空いている。

 士郎は真剣な面持ちで、こちらに顔を向ける。

 僅かに赤面してはいるが、ここ数日で何度も目にしてきた凛々しい少年の顔。

 真っ直ぐで、純粋で、一度決めたことに忠実な男性の顔だ。

 きっと彼には、ここで何かを言わなければならないという義務感でいっぱいなのだろう。

 

「士郎。敢えて忠告しますが、先程のような場面で自分の身も顧みずに飛び込んでいこうとするのはやめてください」

 

 私は士郎の緊張と思考を逸らす目的もあり、先程の件を話題にした。

 

「う・・・すまない。結果的にライダーに迷惑を掛けることになってしまった」

 

「そのようなことを非難しているわけではありません。もっと、自分の身を大事にしてくださいと言っているのです」

 

 私は微笑みながら優しく返答した。

 口調と表情によっては、冷たく取られかねないセリフだ。

 努めて柔らかく応じているつもりだが、私はうまくできているだろうか?

 

「・・・・・・」

 

 士郎は困ったような表情になって、沈黙した。

 

「私は士郎を困らせたいわけではありません。あなたの身を按じているだけですよ」

 

「ありがとう、ライダー。そう言ってくれるだけで、オレは嬉しいよ。さっきも、そしてこれまでもお前に何度も助けられた。本当にありがとう」

 

「先程の件はともかく以前のはお互い様ですから」

 

「あいや。ごめん。本当に伝えたかったのはこういうのじゃなくて」

 

 私は、決して鈍い女ではない。

 生前、それなりの人数の男と関係も持っている。

 士郎が何を切り出そうとしているかは、容易に察しがつく。

 

「突然、こんなことを言うと変なヤツだと思われるかもしれないけど、オレはライダーのことが・・・」

 

 彼の唇に私の人差し指が押し当てられた。

 私が士郎に最後まで言わせないようにしたのだ。

 

「士郎。そこまでにしましょう。あなたの気持ちはこの上なく嬉しい。私もあなたに同じ感情を抱いている」

 

 士郎が目を瞬かせながら固まっている。

 

「それでいいのではないでしょうか?無理に確定させる必要はない。この数日間、あまりにもお互いに切迫した状況にありました。その中で、私とあなたは何度も助け合った」

 

 そう異常事態だったのだ。

 聖杯戦争自体が、そもそも異常な状況そのものなのだ。

 

「いわゆる吊り橋効果というものでしょう。それに私はサーヴァントです。この戦いが終われば、消える身。ですが、あなたにはその先がきっとある」

 

 この言葉はむしろ彼としては反論の材料になるかも知れない。

 だが、言わずにはいられない。私のマスターである桜は、士郎に想いを寄せている。この戦いの後、士郎が彼女を選ばなかったとしても、私がおかしな影響を与えてはいけないのだ。

 

「それに私はあなたも知っているとおりの怪物です。昨日、結界を張って多くの人間を取り込もうとしたのは、慎二の命令でもありましたが、私自身抵抗はありませんでした」

 

 彼の唇に押し当てていた指をゆっくりと離す。

 私に対して向けられる少年の真剣な目に、ともすれば吸い込まれそうになりながら言葉を連ねる。

 

「私は、人を殺すことに罪を感じないのです」

 

「わかっている」

 

 士郎は解放されたその口で言葉を紡ぐ。

 

「わかっているさ。ライダー。でも、その心も、髪も眼も全て望まぬままにお前は変えられてしまったんだろう」

 

 それは、確かに彼の言うとおりだ。

 

「それならまた変わればいい。きっとそれはできるはずなんだ」

 

「そうなのでしょうか?」

 

 私は自分にそんな自信は持てない。

 

「さっきだって、オレだけを止めて母子を見捨てることもできた筈だ。だけど、ライダーはちゃんと助けた」

 

 確かにそうかもしれない。

 士郎を守るだけなら、士郎だけを止めればよかった。

 

()()()()()()()、オレはそう思ったことがなかったんだ」

 

「え?」

 

 そんなわけがない。

 この少年ほど、常にだれかを救おうとして行動してきた者などどこにもいないのではないか?

 

「そんな・・・あなた以上に誰かを救おうとしてきた人を私は知りません。先ほどだって・・・」

 

「違うんだ。ライダー。()()()()()()()()()()()()()といつも思っていたんだ。」

 

 士郎は自嘲気味の笑みを浮かべた。

 

「さっきだって、()()()()()()()()()()()()()()()()()なんだ」

 

 そこには、少年の懊悩が垣間見えていた。彼の普段目にする捨て身ともいえる献身、それは()()()()()()()だと言っているようだ。

 そして、それは自身の生を蔑ろにする歪みに他ならない。

 

「でも、ライダーにだけは違った。ぼろぼろになった姿を見た時は()()()()と、アーチャーに襲われた時は()()()()と。ただ、そう思えたんだ」

 

 私は何も口を挟めなくなった。

 

「オレの中にはこの上もなく綺麗な記憶があった。間違いなくそれが一番大切なものだった」

 

 それが、少年を縛る鎖に他ならなかったのだろう。

 

「だけど、砕かれた」

 

 少年が微笑む。

 

「ライダーを綺麗だと思ったんだ」

 

 苦笑いしながら続けた。

 

「もしかしたら、単に男として・・・その・・・魅力的な女性に欲情してるだけかもしれない」

 

「・・・それでいいのですよ」

 

 私は浅ましい。

 この少年なら、私の空虚な抵抗など苦も無く突き抜けてくるだろうと期待していた。

 最初からわかっていたのだ。

 私ではこの少年に敵わないと。

 

「士郎・・・」

 

 私は形だけの自制を解き、無駄な抵抗を止めて欲望のままに少年に抱きついた。

 

「私はどうしようもないくらいあなたが好きです」

 

 そのまま貪るように彼の唇を求めた。

 

「!?」

 

 彼の目が私の顔の数センチ先で、何度も瞬きしている。

 道行く人々の何人かはこちらを見ていたようだが、今の私には全く気にならなかった。

 

 

 




ライダーさんとのデート回です。

本当は7日目は2回で終えるつもりだったのですが、キリがいいのとチェックが追い付かないのでここで区切らせていただきます。
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