Fate/√knight  【ムラサキノウエ】   作:わが立つ杣

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新都でのショッピングを終えて。


第19話 ~7日目③~ 「蛇神」

 E turn

 

 

「お邪魔してるわよ。衛宮君」

 

 日が落ち切る少し前にライダーと二人で家に帰ると、遠坂が玄関で出迎えてくれた。

 

「あら、いいじゃない。その服。ライダーのスタイルの良さが際立つわね」

 

 と言いつつも、やや不満げなご様子だ。

 今のライダーの服装はハイネックセーターに、ロングパンツである。

 

「でも、ちょっとシンプル過ぎるかしら。もっと攻めて欲しかったわね」

 

 辛口の評価をいただきながら、居間に向かう。

 最初の店で買った服を遠坂にはあまり見せたくないな。何を言われるかわからない。

 とは言え、遠坂の口撃は思ったより穏便だった。もっとからかってくるかと構えていたのだが、おそらく桜もいることに配慮したのだろう。

 

「お帰りなさい。坊や」

 

「お帰りなさい。先輩」

 

 居間に入ると、台所で夕食の準備をしていたキャスターと桜が挨拶をしてくる。

 この二人がそこにいるのは、既に違和感がなくなっていた。

 

「ただいま・・・」

 

 と返しながら、オレは固まってしまった。

 

「なんでお前がそこにいるんだ?」

 

「見てのとおり料理をしている。わからんのか?」

 

 なぜかうちの台所にすんなりとアーチャーが収まって、桜とキャスターと一緒になって夕食の準備をしていた。

 

「あ、私が是非ご一緒したいって言ったんです」

 

「私も面白そうだから、お手並み拝見しようと思って」

 

「でも、アーチャーさん、本当にお料理上手なんですよ」

 

「本当。すごく丁寧だし、全てにおいて滑らかで手際がいいわ」

 

「ふ。お褒めに預かり光栄だ。食事はあらゆることの潤滑油になる。サーヴァントとしても、できるに越したことはないからな。精進しているのだ」

 

「そんなわけないでしょう。こっちに現界してから身に着くようなものじゃないわよね。あなた料理人(コック)の英霊なのかしら?」

 

「ふん。そうかもしれないし、そうでないかもしれないな。こういう時に、無粋な勘繰りは止めにしないかね」

 

「それはそうね。失礼したわ。ごめんなさいね」

 

「キャスターさんの言葉遣いってすごく上品で優雅ですよね。それが板についていてとっても羨ましい。素敵な奥様って感じです」

 

「あら、ありがとう。そういうお世辞は素直に嬉しいわ。桜ちゃん」

 

 入り込む余地は欠片もない。

 めでたくオレの居場所が、居間になってしまったようだ。

 

「む、塩麹のストックがある。やるな小僧。これでムネ肉もいける。ナンプラーか・・・アジアンテイストも取り入れてみるか」

 

「ほんと、どんな英霊よ・・・」

 

「今度レシピ教えてくださいね」

 

「勿論だとも。小僧のレパートリーでは所詮限界があるだろう。弟子は師を越えるもの。遠慮なく藍より青くなるがいい」

 

「ふふ。私、実は早く先輩を追い越したいから、アーチャーさんに色々教えて貰います」

 

「了解だ。我が料理は無限に精製可能。いくらでも教えてあげよう」

 

「料理は精製するものじゃないでしょう」

 

「そうだったな。料理に対して失礼な表現だったかもしれん」

 

 気になりすぎる会話が、向こうでは延々と続いている。

 オレの聖域であるはずの厨房が、ヤツの固有結界で完全に侵蝕されてしまったようだ。

 

 

 

「アーチャーさんの料理、きっとすごく美味しいですよ」

 

 準備が終わり、桜もこちらに料理を運んできた。

 葛木も既に学校から帰ってきている。

 

「私のではないぞ。桜。私達三人で作った料理だ」

 

 何か腹立たしいことを言っているヤツがいるな。

 

「でも本当に、私たちはレシピを教えてもらいがてら、少し手伝っただけよ」

 

 座卓には、レタスと卵のサラダ、ゴーヤとツナの和え物、ジャーマンポテトに、鶏むね肉の塩麹焼き、砂肝のナンプラー炒め等々が所狭しと並べられていった。

 7人分の料理となれば、大層なボリュームだ。

 ゴーヤやパクチーなんてどこから出てきたのだろうか?

 あいつ、食材も投影したんじゃないのか??

 

「今日は、時間の制約で簡単なものしか作れなかったが、次回はもっと下ごしらえからしっかりと準備して、じっくりと作りたいものだな」

 

「わあ。楽しみです」

 

「その時もご一緒させてもらうわ」

 

 次回ってなんだよ・・・

 

「この料理には、酒が欲しいところだな」

 

 葛木が大人の発言をした。

 

「ええ。早速ご用意いたしますわ、宗一郎様。私も是非ご一緒に」

 

 キャスターが目を輝かせながら、頷いた。

 

「坊や。お酒はあるかしら?」

 

「あるわけ・・・いや、藤ねえのストックがあるか・・・」

 

「私もご相伴(しょうばん)(あずか)ろう」

 

 アーチャーが乗っかって来た。

 

「小僧も飲むか?」

 

「む。衛宮。お前は成人していたか?」

 

 葛木が教師らしく釘を刺してきた。

 

「えっとですね・・・黙秘権を行使します」

 

「・・・あの、私もいただいてよろしいでしょうか?」

 

 ライダーがおずおずと手を挙げた。

 中華料理店でも所望していたから、彼女はお酒がかなり好きなのだろう。

 

 

 

「本当に美味しかったです。アーチャーさん。また、一緒に作りましょうね」

 

「最高だったわ。アーチャー。いつもは洋食メインで作ってくれてるけど、こういうのもいいわね」

 

「凛はいつもアーチャーに料理を作ってもらっているのですね」

 

「本当に美味しいわ。簡単そうに作っていたけど、こんなにも味わい深いなんて」

 

「素晴らしい。酒の味も引き立つ」

 

 ああ、はいはい。美味いですよほんと。

 料理に罪はありませんから。

 とは言え、気になっていることがあった。

 普段、それなりに料理する者の勘なのだろうか・・・

 

「この味付けとか、手のかけ方とか、何か似ている気がするだよな・・・」

 

 宴もたけなわという雰囲気が場を満たす中、オレは一人で考え込んでいた。

 

「少し、失礼します」

 

 隣にいた桜が小さく断って席を立って、居間を出ようとした。

 そこで敷居に少し躓き、

 

 ドサッ

 

 と、倒れた。

 

「「桜!?」」

 

 その場にいた何人かの声が重なったが、一番近くにいたアーチャーが素早く桜の体を抱え起こそうとした。

 

「む・・・少し熱いな」

 

「・・・あ、すいません。アーチャーさん。私、ドジで。すぐに自分で立ちますから大丈夫です」

 

 少し上気した顔でそう言った桜だが、体に力が入らないのか、すぐには立ち上がれなさそうだった。

 

「桜、キミはどうやら体調が優れないようだな。無理をしないほうがいい」

 

 桜の額に手を当てた。

 

「熱も少しあるな。寝室で休んだほうがいい」

 

 そう言って、そのままごく自然な流れで桜の体を、自分の胸の高さまで両手で抱え上げた。

 

「え?・・・え?・・・今、私、お姫様抱っこされてますか・・・?」

 

 桜が戸惑いの声を漏らすが、アーチャーは構わず桜を抱えたまま廊下に出て、離れにある桜の部屋へと向かった。

 あっという間の出来事だった。

 

「「・・・・・・」」

 

 その場にいた殆どの者が、一連の流れに置いてきぼりになってしまったようだった。

 

「あいつ、ああいうところが何か気障ったらしいというか、堂にいっているというのか、カッコいいというのか、わからないわよね」

 

 遠坂が文句を言っているのか、賛辞を送っているのかわからない混乱したコメントを発した。

 

「ふむ。男子たる者ああいう振舞いができるのは重要だな」

 

 葛木は少し酔っているようだ。

 

「・・・は、宗一郎様にお姫様抱っこ・・・」

 

「桜の容態が心配ですね・・・」

 

 キャスター、ライダーが思い思いの発言をする。

 何にせよ、桜の様子を後で確認しに行かなくてはならない。

 それにしても・・・

 

「あいつ、桜の部屋の場所がわかるのか・・・」

 

 

 

 その後、桜の様子を確認しにいったが、38度近い熱があったので、一旦、常備薬を飲んでもらい、ゆっくり休むよう促した。回復の状況が芳しくなければ、病院に行くことになる可能性もあるだろうか。

 一方で、明日はアインツベルンの城に行き、イリヤスフィールと話をする予定だ。展開次第では、最悪バーサーカーと戦闘になる可能性もある。

 こちらはライダーとアーチャーがいるが、セイバーとアーチャーの二人がかりで互角だったことを考慮すると、不利と言えるだろう。

 オレは少しでも投影をスムーズにできるようにしたかったので、土蔵に籠ることにした。

 

「強くならなきゃな」

 

 微力だとしても戦力になる必要がある。

 昨日のランサーとの戦いでアーチャーは数十に及ぶ武器を投影してみせた。固有結界と呼ばれる特殊な空間だったからこそできたのだろうが、オレとしてはそのうちの数本でも投影できるか試してみたい。

 きっと戦術の幅が広がるだろう。

 

投影(トレース)開始(オン)

 

 投影するのは、アーチャーが【赤原猟犬(フルンディング)】と呼んでいた敵を追尾する剣だ。

 

「ふう・・・」

 

 オレの手の中には、それと思しき剣があった。うまくいったようだが、実際に使ってみないと確認できない。その一方で、そんなテストがここでできるはずもなかった。

 

「見事なものですね」

 

 オレは突然の声に面食らった。

 

「ラ・・・ライダー!?」

 

 投影に集中していたオレは、土蔵の中に入ってきたライダーに気付かなかったのだ。

 彼女は、夕食時まで着ていたシンプルな装いではなく、今日、一軒目の専門店で買った女性らしさが際立つ服装に着替えていた。

 とてつもなく似合っており、暗がりの中、月明かりに照らされた彼女の姿は神々しささえ感じられた。

 

 ごくり・・・

 

 自分の喉が鳴る音がやけに大きく聞こえた。

 この世のものとは思えないほどの光景を前にして、いきなり夢の中に取り込まれたように、現実味が薄れていくのを感じた。

 

「この服は似合っていますか?士郎」

 

 目の前の彼女が美しい声で問い掛けてきた。

 

「・・・あ・・・いや・・・えっと・・・」

 

 初めて彼女の素顔を見た時に戻ってしまったかのようだった。

 頭の中が真っ白過ぎて、何を聞かれたのかも理解できない。

 今のオレは、とてつもなく間抜けに見えるだろう。

 

「?どうしましたか?」

 

 かっこ悪い自分をこれ以上見せたくない。

 なんとか、言葉を紡がないといけない。

 

「えっと・・・ライダーさんは女神様のようです・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 今度は、ライダーが固まってしまった。

 あれ?

 オレ、今何て言った?

 

「・・・えっと、士郎。大変嬉しい言葉なのですが、私はこの服が似合っているか聞いたのですが・・・大丈夫ですか?」

 

 大丈夫なわけない。

 こんなの反則だ。

 

「・・・いや、ごめん。ダメだ。綺麗すぎて直視できない」

 

 やっと、何とか少しはまともなことが言えた。

 

「好きな男性にそう言われると、本当に恥ずかしいですね。でも、素晴らしく嬉しいです」

 

 ライダーが少しはにかむような微笑みを浮かべた。

 

「可愛い・・・」

 

 その様は本当に可愛らしかった。

 ライダーがたまに見せる戸惑いや、恥ずかしがる素振りは、普段の大人びた表情や振舞いとはギャップがあって、少し子供っぽい。

 彼女には綺麗なだけではなく、こういう一面がある。

 

「そういう表現は私のような大女には似つかわしくない。凛や桜にこそ相応しい」

 

 彼女は、背が高いことについてコンプレックスがあり、女性は小さくて可愛らしいほうが良いという思いが強いようだ。

 それが、自己評価の低さに繋がっているのだろう。

 オレからすればとんでもない勘違いだったが、彼女なりの背景があってのことだろう。

 

「ライダーも意外と男心がわかっていない気がするな」

 

 ライダーの戸惑った素振りを見たことで、少し落ち着いてきた。

 

「そうでしょうか?まあ、私が付き合ってきた男は、碌でもない男が多かった気はしますが」

 

「オレが碌でもない奴らの一人にならない保証はないけど・・・」

 

 正直、自信などない。

 女性経験などないのだ。

 自分がどんな振舞いをしでかすのか見当もつかない。

 

「士郎。もう私は公園でしたような浅ましい抵抗をするつもりはありません」

 

 ライダーは真剣な表情になって言った。

 

「浅ましい?」

 

 どういうことだろうか。

 その真意はわからなかったが、彼女なりの葛藤があったということだろうか。

 

「あなたは、私を受け入れてくれる。それでも、伝えておく必要があると思うからお伝えします」

 

「ああ。ちゃんと聞くよ」

 

「ありがとうございます・・・先ほどお伝えしたとおり、私は生前、何人もの男との経験がありますし、こちらに現界してからもあります。おそらくこの時代の貞操観念からすると、ふしだらと言えるでしょう」

 

「過去の事は構わない。でも、オレと好きあっている間は、そこは堪えて欲しい」

 

「その点については、お約束します」

 

「それなら、何の問題もない」

 

「そして、既にお察しかと思いますが、私の真名はメドゥーサです。サーヴァントとしては反英霊に該当する怪物です。士郎が綺麗だと言ってくれるこの姿は、怪物に変えられる前のものに過ぎません」

 

「この後、怪物に変貌してしまう可能性もあるのか?」

 

 だとすれば、それを止める手段を模索するだけだ。

 

「いいえ。私に対して人為的な手が加えられない限り、大丈夫でしょう。でも、私の心はやはり本来の人のものからは逸脱しています。先ほどは、あなたの言葉で封じられた形になりましたが、この点については敢えて、もう一度、伝えさせていただきます」

 

「ライダーは、現界してから自分の心の在り方に何も変化がなかっただろうか?」

 

「え?・・・いいえ。決してそんなことはありません。大切なものがいくつもできました」

 

 ライダーは即答してくれた。

 

「昨日、学校でも言ったが、オレはライダーがあの結界を張ったことに何の躊躇いもなかったとは思っていない。でも、現界した直後のお前だったら、本当に何の躊躇いもなかったんじゃないか?」

 

「それは・・・そうですね」

 

「であれば、これから変わることもできるってことだ。少なくとも、オレがお前に人を殺さないでくれと言えば、考えてくれるだろう」

 

「ええ。勿論です」

 

「少しずつ、変わればいいんだ。何が人として正しいか。それはライダー自身が知っているんだろう?」

 

「はい」

 

 ライダーは、ほっとしたような笑顔を浮かべて頷いた。

 

「それにしても、癪ですね」

 

「は?」

 

 突然、ライダーが形容し難い、なんというか極悪な笑顔を浮かべた。

 女神は突然、邪神に変貌した。

 

「そもそもあなたは、私より遥かに人生経験のない少年に過ぎない。それなのに、毎度毎度、私はやられてばかりです」

 

「え?毎度やられている?」

 

 何のことかさっぱりわからない。

 

「どうやら、言葉ではあなたに必ず負かされてしまうようですから、そろそろ、実力行使に訴えてもいいかもしれませんね」

 

「あ・・・いや・・・暴力反対・・・」

 

 ライダーが距離をゆっくりと詰めてきた。

 オレは、気圧されてじりじりと下がるが、ここは土蔵の中だ。すぐに壁際に追い詰められてしまった。

 相変わらずの笑みを浮かべたまま、最高に綺麗な彼女の、途方もなく美しい瞳がオレの目を見つめていた。

 

「私は怪物ですから、我慢がきかないのです」

 

 ゆっくりとその両腕が伸ばされ、オレの首に巻きついてきた。

 そのまま、ぐいっと、抵抗できるわけもない力で顔を引き寄せられると、おれの口は呼吸ができなくなった。

 蛇のような舌がおれの舌に絡みつき、吸い尽くされていくと同時に首に回されていた腕の片方が、少しずつオレの下腹部に向かっていくのを感じる。

 こうなってしまえば、所詮一匹の(オス)に過ぎないオレは、これから起こるであろうことに、緊張しつつも胸躍らせていた。

 

「いただきます」

 

 オレは成す術もなく、蛇となった女神に絡め捕られた。

 




7人が揃った食卓。
料理も筆者の好みを反映して完璧に飲み会仕様です。素晴らしい。
そして士郎とライダーの関係も一つのゴールに達しました。

ちなみにここまでは各話にタイトルをつけていませんが、考えなくてはいけませんね。
順を追って読むのではなく、興味のある話だけを読む方もいらっしゃるかと思いますので。
近いうちに一気に命名しようと思います。
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