Fate/√knight  【ムラサキノウエ】   作:わが立つ杣

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聖杯戦争開始当日。穂群原学園にて。


第2話 ~1日目①~ 「騎士の邂逅」

 R turn

 

 

「衛宮、道場の掃除やっといてくれよ。僕はこの後、忙しいんだ」

 

「わかった。今日は暇だしな」

 

 衛宮士郎はいつもどおりの二つ返事で引き受けた。

 今日は1月30日。

 その放課後である。

 聖杯戦争の始まりが近付いていた。

 昨日アーチャーが召喚されたという情報が入り、残るはセイバーのみ。

 いつ開戦となるかもわからない状況だが、慎二は女友達と遊びに行く算段で、弓道部の顧問である【藤村大河】に指示された道場の掃除を衛宮士郎に押し付けたのだった。

 そして、今、時刻は19時を過ぎたあたり、女友達とカラオケなる娯楽を堪能した後、慎二は家路についていた。

 

「そう言えば、衛宮の奴、ちゃんと掃除したのかな・・・一応確認しておくか」

 

 清々(すがすが)しいまでの勝手な言い草だが、少し後ろめたい気持ちが混ざっているような口調ではあった。

 明日から、学校内に私の宝具の一つである【鮮血神殿(ブラッドフォート)】の結界用の呪刻を敷設する予定になっていた。

 現状、私の魔力量は潤沢には程遠い。

 現在のマスターである慎二は魔術師ではないため、私は魔力供給を殆ど受けられていないからだ。

 魔力を得るための手段は幾つかあるが、慎二はこともあろうに校内で【鮮血神殿(ブラッドフォート)】を展開するつもりだった。

 彼の口にした理由は、

 

『学校の奴らに僕の凄さを、身を持って味わわせてやるんだ』

 

 とのことだった。

 はあ・・・

 当然、気は進まない。愚の骨頂だ。

 一般人に被害が出ることを気にしているわけではない。

 単純に悪目立ちしすぎるのだ。

 学園内にいる魔術師、すなわち遠坂凛に気付かれる可能性が高いし、桜にも影響が出るかもしれない。

 それに、成功してしまった場合、慎二自身も終わった後に後悔するのではないだろうか。彼に、多くの知り合いを犠牲にする肝が本格的に据わっているとも思えない。

 

「何とか慎二の方針を変えさせたいところですが・・・」

 

 私は独り言ちた。

 結界を張らずに済む代替案を提示するか、未遂に終わるような方策を思案しているところだった。

 このあたり、その場で慎二の意見を否定できない自分自身の性格も嫌だった。

 私は、基本的に上位者の命令等に従順である。この性格が最終的に怪物になった遠因だったというのにどうにも変えられなかった。

 結界を別の場所に張るか、あるいは、個別に人を襲うか。

 後者であれば、血を吸う量を加減すれば、左程目立たずに実行できるかもしれない。

 夜の暗がりで、一旦意識を奪っておき、あまり目立たない部位から吸血すれば当人にも殆ど気付かれずに目的を果たせる。

 正直、効率の悪さは否めないが・・・

 慎二が弓道場に向かうということだったので、私は一時的に彼から離れて、魔力補給ができそうなポイントを探すことにした。

 

「学校の周辺で、人を襲えそうな場所を探すことにしましょうか」

 

 校内は今更調べる必要はないし、夜になれば殆ど人はいないので魔力補給のポイントとしては相応しくない。

 既に勝手知ったる場所ということで、慎二から離れることの危うさに私は少し鈍くなっていた。

 

 

 E turn

 

 

「ふう。こんなところか」

 

 やるとなれば、徹底的にやらないと気が済まない性格だ。

 かつて世話になった空間だし、どこに何があるかも熟知しているだけに作業が捗るため気持ちも乗ってしまった。

 

「今夜は、月が綺麗だな・・・」

 

 冬の澄んだ空気を通して、弓道場の板張りの床から見上げる月が白く美しい。

 充実した気持ちを噛みしめながら、鍵を閉めて弓道場の外に歩みだすと同時に・・・・

 その音が耳に飛び込んできた。

 

 ギィィンッッッ!!

 

 金属音。

 テレビの時代劇で聞く剣戟の効果音に近い。

 しかしそれよりはるかに重厚だ。

 

 ギィンッ!!ギンッッ!!ガィンッ!!

 

 音が連続する。

 音源は、校庭で撃ち合う赤い影と青い影だった。

 オレからの距離はかなりある。

 赤い影は、両手にやや短い片刃の剣を持っているようだ。

 一方の青い影は、長柄の赤い槍を両手に構えていた。

 

「何なんだ・・・あいつら?」

 

 遠目にも二人が凄まじい速さと力で打ち合っていることが分かる。

 連撃の合間に、お互いに蹴りを交える場合もある。

 リーチの差もあって僅かに槍使いのほうが押しているようにも思われた。

 しかし、双剣使いのほうも、一方的に下がるのではなく、繰り出される相手の突きを、片方の剣で受け流しながら間合いに入り込みもう一方の剣で斬撃を与えにいく場面もある。

 はっきりとはわからないが、表情や態度にも一定の余裕があるように感じられる。

 槍使いの動きは、野生の獣を連想させるものだ。無論、確かな技術がベースにあるのだろうが、本能を優先しているように見えるその攻撃は自由奔放だ。

 一方で、双剣使いの動きは、理詰めで無駄をそぎ落としたものだ。熟練の職人が、自身との対話の中で研磨し続けることで身に着けた技術。そんな印象を受けた。

 

「綺麗だな・・・」

 

 オレは、槍使いではなく、双剣使いの剣と剣捌きに自然と目が吸い寄せられていく。

 その非現実的な光景を、いつまでも見ていたいと思ってしまう。

 既視感というのとも少し違う。

 強いて言えば親近感だろうか。

 二人の戦いは拮抗しており、簡単には勝負がつかなそうに見える中・・・

 

「面白れぇっ!とは言え、このままじゃ埒があかねえなっ!」

 

 動きの速さで勝る槍使いが一旦間合いをとると同時に、槍の穂先をやや下に向ける形の奇妙な構えをとる。

 そして、一気に禍々しいまでの力がその槍に収束していくのが感じられた。

 オレの周囲にある空気、いや大気に含まれる魔力までがその槍に吸い寄せされるように感じられる。

 

「くっ!宝具を使う気か!?」

 

 それを見た双剣使いは、これまでとは違い、焦りの色を浮かべて、大きく後退して距離をとる。

 それとともに、弓矢をどこからともなく取り出して槍使いに狙いをつけた。

 

「はっ!ようやく本来の武器を使う気になったようだな!」

 

 槍使いからすれば明らかに自身の武器が届かない間合いになったにも関わらず、表情には余裕の色があり、その場に留まる。

 槍使いの言葉に構わず、双剣使いが矢を放った。

 

 ゴッ!

 

 ここまで風切り音が聞こえてきそうな凄まじい勢いの矢だったが、槍使いは事も無げにその矢を躱していた。

 

「どうも、こっちの正体がバレている気がするんでな。ここで決めさせてもらうぜ!」

 

 その攻撃を合図にしたかのように、片手で槍を肩に乗せるようにして構えた。

 

「どの程度の範囲に影響があるかわからんな。止むを得ん」

 

 対峙する双剣使いは、有効ではないと判断したか、弓をその場に放り投げた。気にするようにちらりと後方に視線を送る。

 オレは、その時初めて、その場にもう一人の人物がいることに気が付いた。もっとも、このとんでもない戦いをしていた槍使いと双剣使いの二人が、本当に人間なのか疑わしいが・・・

 その人物は、はっきりとはわからないが、髪が長いことやほっそりとしたシルエットから若い女性のように見える。

 双剣使いはオレには聞こえない小さな声で何事かを呟き始めた。

 それは魔術の詠唱のように感じた。そして、心なしか知っているフレーズのようにも聞こえた。

 

「その心臓、打ち抜かせて貰う!!」

 

 槍使いが、僅かに助走して空高く跳躍すると、

 

「―――突き穿つ(ゲイ)ッ―――」

 

 大きく、体をしならせて後ろに槍を引く。

 空中から投擲する体勢だ。

 

「―――死翔の槍(ボルク)!!」

 

 凄まじいまでの魔力を帯びた死の槍がその手から放たれた。

 

 ゴゥッッ!!!

 

 対峙する双剣使いは、突き出した右腕の手首を左手で支えるように掴んだままに叫ぶ。

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!」

 

 同時に、七枚の桜色に輝く花弁が右手の平の前面に大きく展開された。

 

 ズシャァッッッ!

 

 その花弁は、襲い掛かってきた凄まじい圧力を持つ死の槍を食い止め、拮抗した。

 やがて、花弁は槍の圧力の前に、一枚また一枚と散っていき・・・

 

「支えきれないか!?」

 

「くそがっ!!これじゃとても斃しきれねえっ!」

 

 最後の一枚も貫いて、

 

 ズサッ!

 

 鈍い音とともに血飛沫が舞う。

 

「アーチャーッ!」

 

 初めて双剣使いの男の後方にいた女性の声が聞こえた。

 

「あの声は・・・」

 

 驚くことに聞き覚えのある声だった。

 

「ちっ!とんでもないな!」

 

「こっちのセリフだぜ!」

 

 赫い槍は勢いの大半を殺されながらも、その余波で双剣使いにダメージを与えていた。

 とは言え、戦闘不能となるような傷ではないようだ。

 すぐに双剣使いは、左腕にどこからともなく取り出した先ほどの剣を手にしていた。そして、着地したばかりの槍使いに接近すると、肩口に剣を振り下ろす。

 おそらく先程の攻撃は、必殺の一撃だったのだろう。槍使いは全力で繰り出した反動で体勢を崩していたこともあり、慌てて大きく後方に跳躍しながら避けた。

 

「・・・さてどうするか。宝具まで凌がれるとはな。そこまでの盾を持ち、双剣を振るう弓兵なんてさっぱり心当たりがないぜ」

 

「こちらは想定通りの答えを得たな。アイルランドの光の御子。アルスターの英雄、クー・フーリンか」

 

「ちっ。有名過ぎるのも時として仇になるもんだ。まあ真名まではわからんがそっちの特徴はだいぶ掴んだ。マスターも戻れと言っているしな・・・」

 

 と、独白した次の瞬間、

 

「誰だっ!?」

 

 槍使いが叫んだ。

 ヤバい!

 見つかった?

 と一瞬焦ったが、違ったようだ。

 槍使いの顔は、オレのほうを向いてはいない。

 そもそもオレは弓道場の陰に隠れるような位置にいるため、あいつらからは見つかり辛い。

 

「慎二?」

 

 槍使いの視線の先には、青くウェーブのかかった髪のオレの良く知る生徒がいた。

 

「ひぃっ!!」

 

 恐怖に満ちた声を上げて、青い髪の学生、即ち間桐慎二が慌てて逃げだした。当然、槍使いから少しでも離れるように、方向としては校舎の方へと走る。

 オレから見ると、左に向かっている。

 

「取り敢えず、今日のところは休戦だ。次は全力で削り合いたいもんだな」

 

「そういう趣味は特にないが、休戦には賛成だな」

 

 それだけの言葉を先ほどまで死闘を繰り広げていた赤い双剣使いと交わして、槍使いが慎二に向かって駆けだした。先ほどまでの戦闘の時ほどの速度はない。

 本気ではないのか、あるいは戦いの疲労が多少なりと残っているのかはわからない。

 しかしそれでも圧倒的に早い。人間に可能な速さを凌駕していた。

 そんな様子をオレは、慎二と槍使いが重なるはずの交点を目指して()()()()()()()()()()()()()

 直感的にあいつが慎二を殺すつもりなのが、あまりにも明確にわかった。

 だから、オレは駆けだした。

 慎二を殺させるわけにはいかない。()()()()()()()()()()

 それだけがオレの頭を埋め尽くしていた。

 一方の慎二は振り返りながら槍使いの速さを見て、表情は絶望的なものになる。

 が、何かを思い出したように叫んだ。

 

「・・・ラッ・・・ライダァーッッ!!どこにいる!?早くっ!早く僕を助けろぉぉーっ!!」

 

 らいだー?

 なんのことだろう?

 一般的にはバイク乗りのことだとは知っているが・・・

 そんな疑問に思考を奪われたが、それも一瞬のことだった。

 槍使いの間合いに慎二が捕らえられた。

 槍が一瞬引かれ、その穂先が獲物である慎二に狙いを定める。

 

「悪いが成仏しやが・・・」

 

 そんなセリフを口にした槍使いがオレの存在に気付いた。

 

「なんだと!?」

 

 同時に、オレは自分の体を投げ出し、慎二の体を右腕で押し出すことができた。

 

 ドンッ!

 

「うわぁっ!?」

 

 慎二の声が校庭に響く。

 オレという不可解な闖入者の存在を認識して驚きはしたものの、槍使いはあくまでも当初の目的を果たすべく、慎二に向けて槍を突き出したが、その穂先には既に目標物はなかった。その代わりに新たに出現したオレの右腕を掠めていった。

 

「ぐっ!」

 

 結果的に、オレの制服の袖が切り裂かれ、槍は僅かにオレの右腕の皮膚に赤い傷跡を残したのみだった。

 オレに押し出された慎二はそのまま横滑りして地面に転がった。

 オレ自身はダイブした体をそのまま前転させて、きっちり三回転してその勢いですぐに立ち上がる。

 慎二を助けることには成功した。

 が、正直これ以降のことは何も考えていなかった。

 今やらなくてはいけないと思ったことを全力で実行しただけなのだ。

 

「ほう・・・」

 

 槍使いは少し驚いたような、それでいて感心したような表情を浮かべたが、それだけだ。

 決して焦ったり、怒ったりという感情は見せていなかった。

 当たり前だ、獲物が二匹になっただけ。

 仕事にかかる時間がほんの僅かに伸びただけなのだから。

 

「・・・え・・・衛宮?僕を助けてくれたのか・・・」

 

 と、地面に転がったままの慎二が驚く。

 

「もう一人ギャラリーがいやがったのか・・・いや、そっちの小僧はギャラリーじゃねえかもしれねえな」

 

 槍使いは慎二をチラリと見る。

 

「それにしても、無謀というか、考え無しというか・・・難しいところではあるが、とんでもねえ度胸だな坊主。お前もさっきの戦いを見ていたんだろ?それなら、ここで飛び出してくるということが、どれだけ『死』に直結しているかってことが想像できるだろうに」

 

「・・・・・・」

 

 オレには返す言葉がない。

 そのとおりだ。そんなことはわかっていた。

 それでも、こうすべきだと思った。だから走り出したのだ。

 

「なんにせよ。おしまいだ。悪く思うなよ。こっちはこれも仕事なんでな」

 

 あっさりと言って、微塵の躊躇いもなく、男は死の槍を軽く構える。

 まだだ・・・

 次の一手を考える。とにかく初撃を躱すんだ。

 やつの槍は速い。絶対に目では追えない。であれば、タイミングだけを合わせる。

 足掻けるだけ足掻くんだ。

 そう決めた。

 その時、

 

 ギャリンッッ!!

 

 という音とともに、銀色に輝く鎖がオレに狙いをつけた赫い槍に絡みついた。

 その僅か後に。

 

 ふわり・・・

 

 と(ほの)かに甘い香りを纏って、薄紫色の髪が柔らかに広がっていき・・・

 オレの視界を埋め尽くした。

 

「感謝します」

 

 冷たく低く、しかし言葉どおりの感情を含んだ美しい声がオレの耳朶を心地よく震わせた。

 

 

 R turn

 

 

「サーヴァントがいる?」

 

 学校周囲の状況を確認して、慎二の元に戻ろうとした時に気付いた。

 それも二人。

 戦っているのだ。

 だから、大気中の魔力が震えている。

 さらに、その震えが大きくなる。直感的に宝具が発動される予兆であると理解した。

 

「まずいですね・・・」

 

 完全な失策だった。

 怠慢と言われても仕方ない痛恨のミス。

 ほんの僅かにしろ、仮のマスターである慎二から離れてしまった。

 極小の可能性だとしても、外で行動する以上、常に聖杯戦争参加者との遭遇戦は想定しておくべきだった。

 特に本来の主従関係ではない私と慎二の繋がり(パス)は弱い。

 令呪もないから、瞬時に私を呼ぶこともできない。

 慎二を疎む気持ちが、行動に顕れてしまったのかもしれない。

 彼を嫌ってはいるが、それとこれとは話が別だ。

 義務は果たすべきだし、彼が脱落すれば桜は望まぬ戦いに巻き込まれる。臓硯という得体のしれない老人の挙動も気にかかる。

 少なくとも今の段階で、無闇に慎二を危険に晒すわけにはいかないのだ。

 とにかく全速力で駆ける。

 万一、二騎のサーヴァントのうち一騎でも、慎二の存在に気付けば狙われる可能性がある。

 即座に口封じとして殺されるかは、相手次第ではある。

 だが、【偽臣の書】の存在に気付けば、マスターであることが露見し、確実に命を奪われるだろう。

 学校のグラウンドに辿り着くと、慎二の気配がする方向に一直線で走る。

 青い服を着た赫い槍を持つサーヴァントを視界に捉える。

 

「ランサー?」

 

 その男も慎二に向かって走り出した。殺意は明らかだ。

 私と同等の速さを持っている。到底間に合わない。

 私が辿り着く前に、槍は慎二を串刺しにするだろう。

 だが、私は気付いた。

 慎二に向かっているもう一つの人影があることを。

 

「あれは・・・?」

 

 それはあの衛宮士郎に他ならなかった。

 ランサーも慎二もまだ彼には気付いていない。

 慎二は私に助けを求めて大声で叫んでいる。

 タイミングとしては衛宮士郎が慎二に到達するほうが、ランサーの槍よりも一瞬早いことがわかった。

 

「一体、何を・・・」

 

 彼が何をしようとしているか。

 それは、あまりにも明確だった。これまで聞いてきた彼の言葉。見てきた行動。そして今、彼の眼に宿る鋼の意思。

 助けるつもりなのだ。

 あのどうしようもない私の仮初(かりそめ)のマスターを。

 何の見返りも考えず。

 ただそうあるべきと決めている。

 

「彼は尋常ではありませんね」

 

 いずれにせよ慎二が助かる道筋が見えた。

 こちらとしては、衛宮士郎の行動を前提として、自分の成すべきことを瞬時に考える。

 慎二は彼の行動により、初撃を避けられるだろう。

 

「うわぁっ!?」

 

 慎二の無様な悲鳴が校庭に響く。

 果たして衛宮士郎は、見事に慎二が槍の餌食になることを回避させてくれた。

 であれば、私は二撃目を止める。

 ランサーの槍が闖入者である衛宮士郎に向いた瞬間に、私は杭剣に繋がれた鎖を放つ。

 

 ギャリンッッ!!

 

 鎖は狙いどおり槍に絡みつき、攻撃を中断させる。

 その僅かな時間で、私はランサーと衛宮士郎(と慎二)の間に体を割り込ませることに成功した。無論、両手には杭剣を握っており、ランサーの次の攻撃に備える。

 

「感謝します」

 

 自然と自分の口からその言葉が紡がれた。

 衛宮士郎に対する正直な心情だった。

 私という存在に彼が面食らっているのが、後方の気配だけでわかった。

 とは言え、状況は楽観できない。

 ランサーは先程、別のサーヴァントと戦って消耗していると推測できるが、私自身も本調子には程遠い。今の状態では、ランサーの消耗を計算に入れても、劣勢を強いられるのは間違いない。

 

「そっちの坊主の呼び掛けからすると、あんたはライダーなんだな。全く一晩に二組の参加者を見つけちまうとは運がいいんだか悪いんだか・・・」

 

 私の乱入にも、さほど驚く様子も見せずにランサーが口を開いた。

 

退(しりぞ)いては如何ですか?だいぶ消耗しているように見えますよ」

 

 できれば、退却してほしい。

 こちらの意図を悟られない程度に、水を向けてみる。

 

「それも有りなんだが。折角の機会だ。少なくとも力量を図るくらいはしておきたい・・・」

 

 私の言葉はあっさりと却下され、警戒していたとおり、ランサーは踏み込んできた。

 

「っんだよな!!」

 

 ギンッ!!

 

 交差した杭剣で頭上に槍を反らしながら、ランサーの懐に飛び込み、そのまま下段への回し蹴りで、足を払いにいく。

 この程度の動きは読んでいたのだろう。軽く跳躍して私の蹴りを躱しながら、

 ランサーは、槍をそのまま縦に打ち下ろしてくる。

 

 ガインッッ!!

 

 これも杭剣で受け止めるが、すぐさま今度は手元に引いた槍が私の胸元に突き出されてくる。

 安易に後ろに下がるわけにはいかないため、何とか右手の杭剣で横に槍を反らしながら懐に飛び込み、左手の杭剣をランサーの胸元に突き立てようとしたが、向こうは大きく後退して間合いをとる。

 

「・・・こんなもんか・・・」

 

 呟くランサーには余裕が感じられる。

 本来なら私としては、大きく動いてヒット&アウェイに徹して攻撃主体で立ち回りたいのだが、守るべき対象がいるので、戦い方が限定されてしまう。

 真っ当に戦ってすら不利であろう相手にこのハンデは大きい。

 

「何やってんだライダーッ!そんな奴とっとと片付けろよ!」

 

 気持ちいいくらいに、心が折れそうになる叱咤が飛んでくる。

 勘弁してほしいところだが、

 

「慎二!こっちに来い。俺たちはなるべく離れたほうがいい」

 

 どうやら衛宮士郎は状況が見えているようだ。

 私が戦い辛そうにしていることがわかったのかもしれない。

 

「うまく立ち回っているが、ギリギリで戦っているのがバレバレだな。本当なら機動力を活かしたいんだろうが、後ろの小僧共が足枷になっているってとこか。そういう意味ではあの赤頭の坊主はしっかりしてやがるな」

 

 ランサーが槍を肩に乗せて、ニヤリと笑う。

 

「それにしても、あんたライダーのくせに騎乗していないんだな。宝具を使わせないと何に乗るかは拝めないってことか」

 

「答える義務はないでしょう」

 

 だが、ある程度この会話に付き合って、衛宮士郎と慎二が離れる時間を作りたかった。

 

「そりゃそうか・・・あんたも素っ気ないんだな。さっきのアーチャーも面白味がなかったが・・・双剣使いのアーチャーに、徒歩のライダーか。この分だと、セイバーも剣を持ってないかもな」

 

「あなたは本当に軽口が多いですね」

 

 少し本気で呆れながら突っ込んだところで、聞き捨てならない単語があったことに気付く。

 それとともに、この状況の危険性にも気付く。

 

「アーチャー?先ほどあなたが戦っていたのはアーチャーだったんですね?」

 

「そうだが。それがどうし・・・」

 

 ランサーも気付いたようだ。

 

「まずいか」

 

「でしょうね」

 

 アーチャーの姿は見えない。

 遠距離攻撃を最も得意とする敵が、こちらの位置がわかっている状況で、こちらは相手の位置がわからないのだ。

 

「休戦だな」

 

「当然ですね」

 

 決まってしまえば、ランサーの動きは速かった。

 

「だいたいあんたの力もわかったしな。次は全力で()りにいくぜ。じゃあな」

 

 そう言い残すと、学校を囲む柵を飛び越えて闇の帳の彼方へと消えていった。

 こちらも早々にこの場を離れるべきだ。

 マスターである慎二を探すと、彼は半ば衛宮士郎に引き攣られる形で校舎付近の物陰まで退避していた。

 

「あの青いサーヴァントは逃げたのか?」

 

 慎二は、戦況をしっかりと見ていたわけではないのだろう。

 

「あれはランサーですね。退いたのはアーチャーの狙撃を警戒してのものです。我々もこの場を早く立ち去るべきです」

 

「そ、それもそうか」

 

 流石に慎二も現状の危険性を認識したようだ。

 

「衛宮。どうだ?これが僕のサーヴァント、ライダーだ。さっきの戦いは凄まじかったろう。こんなとんでもない力を持った使い魔を僕は自由に操れるんだぜ」

 

 ・・・私は慎二を未だに見誤っているようですね・・・

 どうやら本当の理解には程遠かったようで、いきなり、自慢話(?)を始めてしまった・・・

 そもそも一般人に対してこんな話をしても理解されるはずもないし、本来聞かせるべきではない。

 まあ戦いを見られてしまった以上、大差ないが。

 

「使い魔?そんな風には見えないな。確かに凄い力があるのはわかるけど、どこからどう見ても人間じゃないか」

 

「・・・?」

 

 この反応は想定外だ。彼は『使い魔』を知っているような口ぶりで返してきた。

 一般人であれば、意味が分からず呆然とする単語だろう。

 疑念は残るが、これ以上危険な状況を継続するわけにはいかない。

 

「慎二、これ以上過剰な会話を続けるわけにはいきません。行きましょう」

 

「ち、仕方ないな」

 

「そうだな。済まなかった。そして助けてくれてありがとう。あんたが来てくれなければ間違いなくオレは殺されていた」

 

 衛宮士郎は自然に私への謝意を口にした。

 

「いいえ。こちらこそ、慎二を助けていただきありがとうございました」

 

 全くおかしな話である。

 彼は慎二のことなど見捨てて帰れば良かっただけなのである。

 それなのに、間違いなく自分の命が危険に陥るというとわかっていながら、慎二を助けたのだ。

 私が彼を助ける形になったのは、完全に結果論である。

 全く釣り合いが取れていない。

 

「あと、正直何がなんだかよくわからないけど、慎二が危険な目にあっていることはわかった。オレが言うのも変かもしれないけど、これからも慎二を守ってやってくれ」

 

「え?」

 

 さらに思いもかけない言葉にまた、唖然とさせられる。

 

「あ・・・いや・・・すまない。女性にこんなことを言うのはおかしいな・・・あんた自身も危険な目にあわないよう気をつけてくれ」

 

 体が石になったような錯覚を覚えた。

 この少年は私を呆然とさせる天才なのだろうか?

 今の私はさぞ間抜けな顔になっているはずだ。

 それでも何とか気持ちを立て直して、言葉を捻りだす。

 

「本当にあなたはお人良しなのですね」

 

 そうとだけ返して、私は慎二を小脇に抱え間桐邸に向けて走り出した。

 おそらく私の顔には奇妙な笑みが浮かんでいるだろう。

 

「そう言えば、慎二。彼に掃除のお礼を言うのを忘れてしまいましたね」

 

「はあっ!?何でそんな必要があるんだよ!?」

 

 

 

 




慎二が活躍していますね。この頃はまだ可愛かったんですが・・・

専用フォームをまだ使い慣れておりませんが、第7話まではどんどん投稿していきます。

※タイトルが付きました。
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