Fate/√knight 【ムラサキノウエ】 作:わが立つ杣
E turn
まさか・・・
オレは信じられないものを見た。
元の姿からは大きく変わってしまっている。
直接的な表現としては、白が黒になっていた。
しかしそれでも紛れもなく、小さな身体に鎧を纏い一部の隙も無い凛とした佇まいは、オレの剣となると誓ってくれたサーヴァントのものだった。
「・・・・・・セイバー・・・・・・」
オレは、懐かしさに目頭が熱くなるのを感じた。
「そんなわけ・・・」
「どういうことだ・・・?」
遠坂とアーチャーが戸惑いを口にする。
「おお、セイバーよ。
金色の王もセイバーのことを知っているのか、歓喜の表情を浮かべていた。
「・・・・・・」
しかし、当人であるセイバーは無言だった。
以前とは、明らかに変質しており、異様な雰囲気を纏っている。
そして、何より・・・
その足元から周囲にかけて、あの黒い影が広がっていた。
影は彼女とは別個のもののようだが、セイバーは影響を受けていない。
一度、あの影に触れる体験をしたオレとしては、信じられなかった。
つまり、彼女はあの影に近しい存在になっているということを示唆しているのではないか。
セイバーは無言のまま歩を進めた。
彼女の最も近くに位置していたのは、ライダーだった。
とてつもなく、嫌な予感がした。
黒く禍々しい剣が、セイバーの手にはある。
以前見た黄金の剣と同じでありながら、明らかに違うもの。
「・・・久しぶりですね。セイバー。あなたは私をさぞ恨んでいることでしょう」
ライダーは、何を思ったのか。
膝をついたまま、目の前にまで近付いてきたセイバーにそんな言葉を投げかけた。
セイバーは、それに答えるかのように自然な動作で剣を振り上げ、そのまま無造作に斜めに振り下ろした。
──────────────────
無音の世界で、血飛沫が舞っていた。
ゆっくりと崩れ落ちるライダーの姿が目に焼き付く。
美しい髪が虚空に広がり、やがて無残に地に落ちた。
ァァァァァァァァァッ!?
オレの口からは悲鳴なのか絶叫なのかわからない空気が、声としての体裁を成さずに吐き出された。
同時に駆け出す。
「衛宮君!」
遠坂がオレを必死になって引き止めようと手を掛けて止めようとするが、それを力任せに振り払った。
まだ、ライダーは生きている。
セイバーにどう対処すればいいかなんて考えもしなかった。
ただ、彼女を助け出す。
それしか頭にはなかった。
ファッッ・・・
突然、走っているオレの横合いに何かが現れるのを感じた。
ギンッ!!
反射的に右手に持っていた白剣で初撃を弾くことができたが、続け様に振るわれた攻撃は止められなかった。
ザグッ!
「ぐあぁぁっ!」
右足に短剣を深く突き立てられたオレは、もんどりうって地面に倒れこんだ。
だが、ここで止まるわけにはいかない。
右足の猛烈な痛みを無視して立ち上がる。
「ふっ。しぶといな」
ゴッ!
立ち上がりざまに強烈な蹴りをまともに受けたオレは、10メートル近く吹っ飛ばされた。
「ぐっっ!!」
そのまま地面に叩きつけられて、一瞬呼吸ができなくなる。
それでも何とか立ち上がり顔を上げると、オレを攻撃してきたのが何だったのかがわかった。
「アサシンだとっ!?」
アーチャーが叫ぶ。
確かにそこにはアサシンがいた。
オレを攻撃するまで霊体化していたのだろう。
アサシンはライダーに近付くと、血に塗れた彼女の体を抱え上げた。
「私は私の任務を果たさせてもらう」
「好きにするがいい」
感情の籠らない声でセイバーが返答すると、アサシンはそのままセイバーが現れた方角へと走り去っていった。
あっという間の出来事だった。
オレにはどうすることもできなかった。
ライダーは、オレの目の前でどこかへと連れ去られてしまったのだ。
ザッ
セイバーは、自身が切り捨てたライダーにも、その体を運び去ったアサシンにも、そしてすぐ近くにいるこのオレにも全く興味を抱いていないかのようだった。
彼女は黒剣を手に下げたまま、その歩を今度は金色の王に向けた。
オレは、すぐ傍を通り過ぎていくセイバーを呆然と見送ることしかできなかった。
「わかる。わかるぞ。セイバーよ。お前のことを理解できるのはこの
金色の王は、ライダーの宝具を受けて回復しきっていない体を支えながらもなお、陶然とした笑みを浮かべて近付いてくるセイバーに語り続けた。
「お前は何も変わってなどいない。例え、その面貌にかつてのような
虚空から、赤い螺旋状の剣のようなものを金色の王は取り出した。
それは、剣というにはあまりにも特殊な形状であり、薄紙も切れそうになかったが、とてつもない代物であることが感じられた。
しかし、そう感じられるだけだ。
理解も解析も不可能な、ただただ凄い物としか表現できない。
「お前はこの
なおも悠然と言い放つ男の眼前に、既にセイバーはいる。
手にした剣は既に魔力が込められているのか、黒い炎のようなものが纏わりついていた。
「最高の女には最高の手向けをくれてやろう!我が手にかかり、至高の死を迎えるが良い!セイバーよ!」
今こうしてセイバーと対峙している時が、あの男にとっては幸福な時間なのかもしれない。
楽しくて仕方がないという表情を浮かべて、手にした赤い剣を男は振り上げる。
「
しかし、勿論遅過ぎる。
セイバーは手にした黒い剣を、あっさりと下から斜め上に切り上げるだけだった。
「貴公の話は長過ぎる」
上半身と下半身に分断された男の体から噴出する血飛沫を避ける素振りも見せずに、セイバーは一言だけ告げた。
「ふははははははははは!──―そう無理に邪見な態度をとるな、セイバーよ。
死の間際に瀕してなお、金色の王の態度は何も変わらない。
だが、その言葉は微塵も彼女には届いていないようだった。
「貴公に引導を渡すモノは別にある」
そう言い捨てて、セイバーはその歩みを今度はバーサーカーに向けた。
「なに?」
セイバーの言葉に、一瞬、金色の王は虚を突かれたようだった。
崩れ落ちたその体には、あの黒い影が迫っていた。
それは、まるで死肉に群がるハイエナのように、ただただ食事を求めてやってきたかのようだった。
「忌々しい。興覚めな結末になったものだな」
金色の王は、己に向かってくる影を見ながら心底つまらなそうに呟いた。
やがて、その体は黒い影にたかられるようにして、
圧倒的な強さと存在感を誇った規格外のサーヴァントも、その影にとっては捕食の対象でしかないようだった。
「な・・・何なのよ・・・あなた・・・」
イリヤスフィールは事態の変化に戸惑っているようだった。
そもそも金色の王との戦い自体が、完全に想定外だったはずだ。
そいつを切り捨て、しかも黒い影を従えるようにして、近付きつつある脅威。
即ち、黒いセイバーがゆっくりと迫りつつあった。
「──―■■■■■■■■■──―!」
バーサーカーは威嚇するように咆哮した。
先程まで戒められていた鎖は、それを操っていた金色の王が消えたためか、既にない。
セイバーの剣気は抑制されていて、先ほどまでバーサーカーと対峙していた金色の王のように害意が剥き出しになっているわけではない。
だが、主人の身を守ろうとする忠実な従者の警戒は、最高潮に達していた。
その咆哮に呼応するようにして、セイバーが手にした剣が黒炎を放つ。
「お願い、バーサーカー!」
イリヤスフィールの叫びが黒い剣士と灰色の巨人の開戦の合図となった。
「──―■■■■■■■■■■■■──―!!」
バーサーカーが躍りかかった。
新都でオレ達と戦った時のように、あの巨体からすると信じられないような速さだった。
ガンッ!!
だが、バーサーカーの重く強烈な斬撃を、セイバーは体格差をものともせずに受け止める。
オレがマスターだった時の戦いでも見せていたが、常識では考えられないことだった。
そして、今回は受け止めるだけに飽き足らず弾き返す。
斧剣を撥ね上げられたバーサーカーの懐がガラ空きになり、すかさずそこを刺し貫こうとするセイバー。
一方でバーサーカーもそれを悟ったか、仰け反りながらもセイバーの腕を狙って蹴り上げようとした。
が、それをセイバーは剣を握った籠手をぶつけるようにして受け止める。
お互いの力が刹那拮抗し、動きが一瞬止まる。
「──―◼️◼️◼️!!」
再び地に足をつけた巨人は一度撥ね上げられた斧剣を再度振り下ろそうとするが、それよりも早くセイバーが一歩前に出ながら胴を薙いでいた。両断とまではいかないが、傷口から大量の血飛沫を噴出させ、巨人の動きが鈍る。
「ハァッ!」
小さく裂帛の声をあげるとセイバーの手にした剣の黒炎が大きくなり、上から下へと真っ直ぐ斬り下げた。
すると、黒い閃光が走り巨人の体を縦に両断しながらも焼き尽くしていった。
「つ・・・強いわ」
いつの間にかオレの傍に来ていた遠坂が呆然と呟いた。
「以前を明らかに上回っているな」
アーチャーが戸惑いながらも同意する。
「──―■■■■■■■■■■■■──―!!」
だが、バーサーカーは終わらない。
既に何度か目にしたように、体を再生させて復活する。
巨人はその場に打ち捨てられていた自分の斧剣に目もくれず、素手のまま強烈な拳をセイバーに向けて放った。
ゴッ!
渾身の右ストレート。
拳圧が唸りを上げてここまで届く。
咄嗟にそれを両手の籠手でセイバーは防いだが、
ザザザザザザザザザザザザァ・・・・・・
両足が大地を削りながら、遥か向こうまで後退させられた。
これまで感情の揺らぎを全く見せなかったセイバーが僅かにたじろいた。
「──―■■■■■■■■■■■■■■■──―!!!」
斧剣を握り締めた巨人は、これまでで一番の雄叫びを上げて、セイバーへと突進していく。
全身全霊を込めた闘い。
灰色の巨人は、少女を守るために全てを賭けて黒い騎士王と猛然と打ち合う。
その姿は荒々しく・・・猛々しく・・・それでいて神々しかった。
「イリヤスフィールを確保して、撤退するわよ」
遠坂が眼前の戦いに気圧されながらも口にする。
「そうしよう。幸いセイバーはイリヤを攻撃する意図が感じられない」
アーチャーが同意する。
「確かにそうね。さっきの金ピカは結構狙ってたけど・・・って、衛宮君?大丈夫?」
何を言ってるんだ遠坂?
オレはいつもどおりさ。
「全然ダメね。いつもの衛宮君じゃないわ」
つかつかと歩み寄ってきた遠坂が、右手を上げた。
何をするつもり・・・
パンッ!
遠坂は躊躇いなく振り上げた手でオレの頬を打っていた。
「しっかりなさい!あなた、ここであっさり諦める程度の覚悟でこの戦いに臨んだわけじゃないでしょう!まだ、終わったわけじゃないのよ!」
ライダーがセイバーに斬られた瞬間からぼんやりしていた意識が、遠坂の平手打ちと言葉によって少し鮮明になった。
ああ。
すまない。遠坂。
いや、ありがとう。
そう、まだ終わったわけじゃない。
「遠坂。助かる」
希望を垣間見たオレは、思考にかかったままの
「先ずは、この場を切り抜けなくちゃな」
そうしない限り次もないのだから。
「なんとか持ち直したみたいね。急ぎましょう。セイバーも脅威だけど、一番の問題はあのドロドロよ」
確かにセイバーとバーサーカーの戦場付近が今は泥のようにも見える黒い影にかなりの部分が覆われつつあった。
バーサーカーはほとんど本能的にそれを避けながら戦っているようだ。
今は2人の戦場とイリヤスフィールはだいぶ離れつつあった。
バーサーカーの動きが激しいため、戦場が刻一刻と移動している。
この場からイリヤスフィールを引き離すなら今が好機だった。
「イリヤ。ここを離れるぞ」
真っ先に動いたのは、アーチャーだった。
「な、何するのよ!?私はバーサーカーのマスターよ。ここから離れるわけにはいかないわ!」
「バーサーカーの狙いがわからないのか?あいつはキミをなるべく敵から離そうとして戦っている」
「え?」
「セイバーも危険だが、あの黒い影も厄介だ。この場から離れるべきだ」
「そ、そんな・・・」
イリヤスフィールの抵抗が僅かに緩む。
そうやって心の隙間に入り込んだ瞬間に、アーチャーは少女の体を持ち上げて小脇に抱えた。
「な!何するのよ!」
彼女はバタバタとアーチャーの腕の中で暴れるが、流石にサーヴァント相手ではどうにもならなかった。
イリヤスフィールができることは、自身の守護者に対して精一杯声援を送ることだけだった。
「負けないで!!バーサーカー!!」
戦いは一方的になりつつあった。
そもそも白兵戦においてすら優位に立てないうえ、セイバーは時に黒剣に魔力を付与して振るうことで、その力をまるでレーザーのように放出する。これにより、遠距離でも破壊力のある攻撃を繰り出していた。
対するバーサーカーは、離れた際には城の壁や木などを凄まじい速度で投げつけるが、これは牽制程度にしかなっておらず、セイバーには避けられるか弾かれるかで対処されていた。
このセイバーとの戦いでバーサーカーは既に4度斃された。
「──―◼️◼️◼️◼️◼️!!」
それでも狂戦士は猛々しく咆哮する。
理性はなくとも、英雄はただひたすらに守るべきもののために立ち向かう。
「行くわよ!」
オレ達は、巨人の雄叫びを背中で聞きながら、森の方へと駆け出した。
その時、背中にとてつもない圧力を感じた。
「──―
だから振り向かずにはいられなかった。
アーチャーも遠坂も同様だった。
「──―
黒く禍々しくも美しい光の奔流が曇天の空を裂いた。
その余波である風圧と、実際に飛んでくる木々や石がその圧倒的な破壊力を如実に物語っていた。
既に遠く離れていて確かなことは言えないが、その光の中にイリヤスフィールの不屈の守護者が消えていくのが見えた気がした。
「・・・・・・バーサーカー・・・・・・」
己が勇者の最期を見届けることすらできず、白銀の少女は涙を流していた。
というわけでギル様退場です。
本家HFよりは暴れる機会を与えましたので、ギル様贔屓の方々お許しください。
他のキャラも意識はしているんですが、とにかく彼は徹底的に生き生きと表現することだけを心掛けました。
バーサーカーもここで退場してもらいましたが、この二人を残しておくと、強すぎて物語が崩壊しちゃうんですよね・・・合掌
次回は会話メインとなります。