Fate/√knight  【ムラサキノウエ】   作:わが立つ杣

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アインツベルン城付近から離脱して。


第22話 ~8日目③~ 「消えゆくモノ」

 E turn

 

 バーサーカーとの戦闘の後、セイバーは逃げるオレ達を追ってはこなかった。

 

「セイバーは淡々と仕事をこなしているっていう雰囲気だったわね」

 

 という遠坂の言葉どおり、彼女の行動は充分に抑制されている印象だった。

 オレ達を殺すことは、セイバーの仕事ではなかったのかもしれない。

 長く陰鬱な森を抜けると、葛木とキャスターが車で迎えに来てくれていた。

 

「坊や、お疲れ様。話は後にして、とにかく先ずは傷の治療をしましょう」

 

 使い魔を通じて二人は状況を把握しており、アサシンにやられたオレの足の傷は、そう言ってキャスターが治療してくれた。

 イリヤスフィールは道中、終始無言だった。

 まだ、状況を受け入れきれていないのか、あるいはオレ達を警戒しているのかはわからない。

 

 

 

 今日も当然のように、アーチャーは台所に立っていた。

 桜とキャスターも自然な流れであるかのように、アーチャーの傍らで会話をしながら、夕食の準備を共にしている。

 

「桜、体はもう大丈夫なのか?」

 

 アーチャーはいつの間にか桜を呼び捨てにしている。

 オレとしては面白くない状況だが、変に突っかかっても心の狭い人間のように見えてしまうので黙認するしかなかった。

 

「ええ。お昼過ぎまでずっと眠っていたら元気になりました」

 

「それは良かった」

 

「でも、眠っている間はかなりうなされていたのよ。だいぶ心配したわ」

 

「キャスターさんに看病してもらったおかげです」

 

「本当に見ていただけよ。シーツの交換や着替えの手伝いくらいはいたけれど」

 

「いいえ。充分です。ありがとうございました」

 

 桜の体調は無事回復したようでホッとした。でも、どことなく無理をしているようにも見えるので少し注意しておかなければならない。

 

「さて、そろそろ今日の出来事について、整理しましょう。思い出したくもないこともあるとは思うけど・・・」

 

 台所の会話を気にしながらも、遠坂が発言した。

 

「そうだな」

 

 オレは一も二もなく遠坂に同意した。

 とは言え、状況からするとオレと遠坂だけの話し合いになりそうだった。

 葛木とイリヤスフィールもいるが、積極的な発言は殆どないだろう。できればイリヤスフィールの意見も聞きたいところではあるが。

 

「先ずは、あの金ピカね。あいつ一体何だったのかしら?」

 

「とんでもなく強かったな」

 

 イリヤスフィールが少し反応したように見えた。

 

「そもそもアサシンが二人いた。ということも踏まえると、サーヴァントが7人しかいなくて、1クラス1騎という固定観念を捨てたほうがいいな」

 

「そのとおりね。だいぶ調子が戻ってきたみたいね衛宮君。良かったわ。あいつのクラスとしてはセイバーかアーチャーかライダーかしらね」

 

「戦い方はあいつに似てたな」

 

 オレは厨房の簒奪者に目をやった。

 

「そうね。アーチャーという線が強いかしら。まあこの際クラスにはそこまで拘らなくていいから、仮に『偽アーチャー』にしときましょう」

 

「あいつはなぜあそこにいて、なぜバーサーカーと戦っていたのかが問題だな」

 

 オレは、再びイリヤスフィールに目をやる。

 

「あいつは暇潰しにバーサーカーと戦いたかっただけよ」

 

 少し落ち着いたのだろうか。ようやくイリヤスフィールが口を開いた。

 

「あれが暇潰しなのか・・・」

 

「勿論、その先には何か目的があったのかもしれないけど、少なくとも今日はそれが本心だったみたい」

 

 あの金色の王、いや偽アーチャーは、あらゆる言葉に唯我独尊という態度が溢れ出ていた。自身のしたいことを、気儘に実行せずにはいられないということであれば、暇潰しという理由もわからないでもない。

 

「本当はセイバーに会いたかったみたいだったけれど」

 

「ああ、セイバーとは顔見知りの様子だったものね。まあ、当のセイバーのほうは素っ気なかったけど」

 

「ということは、前回からの生き残りという可能性が高いな。セイバーも前回の戦いに参加したと言ってたし」

 

「前回の聖杯戦争は決着がつかずに、終わってしまった。だからこそ、僅か10年で今回が始まったわ。つまり、前回の生き残りがいてもおかしくないかもしれないわ。」

 

 イリヤスフィールは自身の見解を補足した。

 

「なるほど。じゃあ、あいつは前回のアーチャーという推測が成り立つな」

 

「そうね。ずっと現界できてたのか、その場合、魔力はどうしてたのかとかは気になるし、綺礼に確認すればわかるかもしれないけど、大筋で間違いなさそうね」

 

 遠坂は大きく頷いた。

 

「次はセイバーのことね」

 

 遠坂が少し心配そうにオレの様子を窺った。

 

「セイバーは明確な目的があったみたいだな。やるべき事を淡々とこなしているようにも見えた」

 

「ええ。ライダーを無力化すること、偽アーチャーとバーサーカーを斃すこと。これが彼女の仕事だったのでしょうね」

 

「あの黒い影に囚われた結果として、あんな姿に変貌したんだろうな」

 

「そうね。明らかに前より強かったけれど、以前のマスターだった衛宮君が未熟だったから、今日の強さがある意味本当の彼女の力なのかもね」

 

「そうだろうな」

 

 否定する材料はなかった。

 

「今回は、私達は眼中になかったみたいだけど。間違いなく、あのセイバーは黒い影と関係がある。つまり、彼女は明確に私達の敵だってことね」

 

「ああ、そういうことになるな」

 

 言いながらも、胸がズキリと痛んだ。

 彼女を元に戻す方法はないのだろうか。

 

「最後に、ライダーのことね」

 

 一番、わからない出来事だった。

 なぜ、セイバーはライダーに止めを刺さなかったのか。

 普通、サーヴァントは斃せる時に斃すはずだ。

 さらに、なぜアサシンが現れ、そして彼女を連れ去ったのか。

 

「利用価値があるということなんだろうな」

 

「状況からしてセイバー、アサシン、黒い影。この三者には繋がりがあるってことよね。彼らが自分たちの陣営にライダーを取り込もうとしているのか、あるいは、彼女のマスターに対する交渉材料として利用しようってとこかしら」

 

「アサシンは柳洞寺でも黒い影とほぼ同じタイミングで現れたわ」

 

 料理を運んできたキャスターが、配膳しながら会話に参加してきた。

 どうやら夕食の準備ができたようだ。

 

「話は一度中断して食事にしましょう。坊やたちは昼食を摂っていないから、お腹が空いたでしょう」

 

 キャスターはちらりと桜のほうを見ながら、提案してきた。

 桜はライダーのマスターである可能性がある。

 深入りした話は控えたほうがいいということを、キャスターは示唆してきたのだ。

 

「ああ。そうしよう。ありがとうキャスター」

 

「今日もアーチャーさんの料理、きっと美味しいですよ」

 

 桜もこちらに料理を運んできた。

 

「昨日も言ったが、桜、私だけが作ったわけではないぞ」

 

 アーチャーが困ったような顔で桜を注意した。

 

 

 

 会話は賑やかとは言えなかったが、それでもキャスターや遠坂が率先して喋ってくれたお陰で、悪くない雰囲気で夕食の時間は終わろうとしていた。

 ライダーのことが気掛かりで、とても明るい気分にはなれなかったが、落ち込んでも事態は好転しない。

 バーサーカーを失い、さらに世話をしてくれていたメイドを二人とも失ったらしいイリヤスフィールの心中のほうがオレよりももっと辛いかもしれない。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 ふと、桜に目をやると、顔が蒼白になっていることに気が付いた。

 そう言えば、食事中、桜だけは無言だった。あまり箸も進んでいない様子だった。

 調理中はあんなに楽しそうだったのに。

 

「桜?どうした?」

 

「・・・あ、いいえ。なんでもありません。アーチャーさん、今日の料理も本当に美味しかったです。また、教えてくださいね」

 

「ああ、勿論だ。だが、桜、キミはどうやらまだ体調が優れないようだな。無理をしないほうがいい」

 

 アーチャーも桜の様子がおかしいことに気が付いていたようだ。

 桜の傍まで来て、額に手を当てた。

 

「やはり、少し熱もあるようだな。休んだほうがいい」

 

「あ・・・はい。わかりました。ちょっと気分が悪いのは確かなので、部屋で休みますね。今日は、昨日みたいに運んでもらわなくても大丈夫ですから」

 

 そう言って桜は少し頼りない足取りで、居間を出ていった。

 昨日今日と続けての桜の体調不良は気になるところだったが、他人の家という慣れない環境。そして聖杯戦争に巻き込まれたという状況はかなりのストレスになっている筈だ。

 止むを得ないのかもしれない。

 

 

 

「桜のことは気になるけれど、当初の目的を果たしましょう」

 

 桜が居間から出て、暫く経ったところで、遠坂がおもむろに宣言した。

 そう。今日、リスクを冒してアインツベルンの城まで赴いたのは、イリヤスフィールから聖杯戦争の核心に迫る話を聞くためだ。

 

「イリヤ。混乱もあるだろうし、我々に対して心中穏やかならぬものがあることを察してはいるが、少しは落ち着いてきただろうか?」

 

 アーチャーが気遣うようにイリヤスフィールに声を掛ける。

 

「・・・ありがとう。アーチャー。それに、あなた達の作ってくれた料理、とても美味しかったわ」

 

 イリヤスフィールはぎこちないながらも、笑顔を作って、感謝の言葉を返した。

 

「アインツベルンのマスターがこれ以上無様な姿は晒せないわ。聞きたいことがあるのでしょう?あの場から助けてれくれたのもあなた達だし、可能な限りお答えするわ」

 

 精一杯の気丈な態度で少女は言った。

 

「ありがとう。イリヤ」

 

 アーチャーがイリヤのその態度に礼を返す。

 

「それじゃあ、早速聞くけれど、今日、あなたも見たあの黒い影や泥には心当たりはあるかしら?」

 

 先ずは、遠坂が口火を切る。

 

「私も正確にはわからないけれど、おそらくあれの正体は、聖杯の中にある呪いだと思うわ」

 

「聖杯の呪い?」

 

 昨日、神父も同じようなことを言っていた。

 

「どういうこと?聖杯は呪われたものなの?」

 

「最初からじゃないわ。前々回の聖杯戦争の時、私達アインツベルンが呼び出したサーヴァントが原因で、聖杯は呪われてしまったのよ」

 

「さっぱりわからないわ・・・」

 

「落ち着いて聞いて頂戴ね」

 

 そこから、イリヤスフィールが淡々と語った内容は、こうだった。

 アインツベルンは70年前の戦いで、必勝のために特殊なクラスアヴェンジャーのサーヴァントとして【アンリマユ】という、【この世全ての悪】を体現する危険な英霊を召喚した。

 ところが、【アンリマユ】の戦闘能力は非常に低く、早々に敗れ去ってしまう。しかし、戦いには役に立たなかったその英霊は、全ての人々が悪であれと願った存在であった。そのため、願望機である聖杯は【アンリマユ】を吸収したことで、内部でその呪いのような願いを実現してしまった。

 

「つまり、聖杯の中に他者に害をなす呪いのようなものが蓄積されているということか?」

 

「そういうことになるわ」

 

「色々とわからないことがあるが、聖杯は敗れた英霊を吸収するのか?」

 

 オレも話についていくのがやっとだ。

 

「ええ。聖杯は、敗れた英霊の魂を受け止める器でもあるわ」

 

「英霊の魂を集めて、願いを実現するためのエネルギーにすると考えればいいのか?」

 

「そうよ。サーヴァントを斃すのはそのためよ」

 

「なるほどな」

 

 他のサーヴァントを斃す必要があるのは、聖杯を手に入れられるのが一組のマスターとサーヴァントだけだからという理由だけではないのか。

 

「呪われてしまっていても、聖杯で願いを叶えることはできるのかしら?」

 

 遠坂が確認する。

 そもそも願いを叶えるために参加者の多くは戦っている筈なのだから。

 

「できるわ。でも、その手段は聖杯の性質に沿ったものになるでしょうね」

 

「どういうこと?」

 

「例えば世界平和を願ったら、全人類を殺し尽くすかもしれないわ。誰もいなければ争いは起きないでしょう?」

 

「はあ!?」

 

「何ですって!?」

 

 余りにも衝撃的な話に、オレも遠坂も、驚愕の声を上げた。

 そんな碌でもないもののために、オレ達は命懸けで戦っていたというのか?

 

「待ってくれイリヤ。だとするなら、真実を知っているキミはなぜ事も無げに戦っていたのだ?それがアインツベルン当主の使命だからなのか?」

 

 冷静に話を受け止めているアーチャーが問う。

 

「アインツベルンは願望機としての聖杯に興味はないわ。もっと別の目的のためにこの戦いに参加しているのよ。聖杯の使い方が違うから、目的を果たしたとしても世界に災厄をもたらしたりしないわ」

 

 イリヤスフィールはあっさりと答えた。

 

「本来であれば、マキリも遠坂も私達アインツベルンとは違うけれど、崇高な目的のために参加していた筈なんだけど」

 

 ちらりとイリヤスフィールは遠坂を見た。

 

「何にせよ聖杯は取扱注意物件なわけね」

 

「だとするならば、参加者にはそのことを告知すべきなんじゃないか?勝ち残ったヤツが善意で使おうとしても、そんな(よこしま)な解釈をされて実現されたんじゃ、本意じゃなくなくってしまう」

 

「私達は元々勝つつもりだったし、負けた場合にどんな使われ方をして災厄がもたらされたとしても、あまり興味がないわ。そもそも極悪人が勝ち残ったら、他者に害のある望みを直接願う可能性もあるわけだし」

 

 イリヤスフィールの言は正しいのかもしれないが、オレにはとても頷ける話ではない。とはいえ、これが普通の魔術師の考え方なのかもしれない。

 

「まあ、ここにいる私達はこの話を聞いたのだから、問題ないか。私も別に聖杯に何も求めていなかったしね」

 

 遠坂は一人で納得していた。

 が、

 

「・・・とは言え、お金か宝石は欲しかったのよね・・・でも今の話じゃ、東京ドームいっぱいの臓器を渡されて、これを売っ払えとか言われそうね・・・」

 

「・・・凛・・・聞こえているぞ」

 

 アーチャーが眉間に手を当てながら、遠坂を注意する。

 

「監督役のコトミネは気付いていたと思うんだけれど」

 

 イリヤは呟くように補足する。

 前回の戦争に参加したことで、気付く機会もあるということだろう。

 

「問題はアサシン陣営だな・・・」

 

 目的もマスターもわかっていない。だが、ここでイリヤから聞いた内容について、アサシン陣営は認識済なのではないだろうか。

 当初から黒い影を利用しているように見える動き。

 黒い影。黒いセイバー。呪われた聖杯。

 これらの要素と、アサシンは連動している。

 まだ、これらを繋ぐ最後のピースがないが、マスターを突き止めて問い質せばはっきりするだろう。

 

「・・・そんなくだらない聖杯なんかのために、犠牲にしてたまるか・・・」

 

 オレは、座卓の下で拳をきつく握りしめた。

 そして、一言も発さず、静かにこの会話を聞いていた人物に目線を送る。

 彼女はこちらの視線に気付いて、少し気遣わし気な表情を返してきた。

 




聖杯戦争の真相に近付いていく会話なんですが、読者の皆様はほぼご存じの内容かと思います。本作で士郎達がどういう過程で情報を入手しているか、という目で読んでいただければと思います。

最初は前話も含めて1話にする予定でしたが、1万字を超えていたので分割しました。
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