Fate/√knight  【ムラサキノウエ】   作:わが立つ杣

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凛が桜に強襲された後、冬木教会にて。


第25話 ~10日目①~ 「黒幕の焦り」

 Interlude in

 

 

「間桐臓硯か?」

 

 言峰綺礼は、思わぬ来訪者に向けて問い掛けた。

 礼拝堂の中の光は僅かな明かりのみだったが、見間違えるわけはない。

 実際には『誰か』ということよりも、『何故か』を問おうとした言葉であった。

 

「そうじゃ。久方ぶりじゃのう。綺礼よ」

 

 礼拝堂内に配された固定座席の間を通って、その老人、間桐臓硯はゆっくりと歩みを進めた。

 

「こんな夜更けに何の用かね?」

 

 丁度日付が変わった刻限だった。

 

「ここに、小さいほうの聖杯が逃げ込んでいるであろう?それを受け取りにきたのだ」

 

「何の事かわかり兼ねるな」

 

「ふぉふぉふぉ。このような問答は時間の無駄というものではないかな?アインツベルンの娘がここに匿われていることは、調べがついておる」

 

「そもそもご老体は、何の権利もない。マスター登録もされていない以上、聖杯戦争の関係者とはみなせない。であるならば、如何なる要求も通用しないのが道理というものだが」

 

「外に車を待たせておる。そこに慎二がおるのだ」

 

「何だと?」

 

 意外な言葉に、綺礼は訝った。

 

「誠に遺憾ながら、マスターであった孫の慎二は半身不随となってしまってのう。そのため、肉親である私が代弁して、慎二の要求を伝えておるのだ」

 

「ほう」

 

「残るサーヴァントは、あと僅か。聖杯の在処を知っているということも勝者にとって大事な要素とは思わぬか?」

 

「成程。ご老体の仰ることにも一理ある。だが、私の知る限り、まだ英霊は3騎残っている。勝利宣言をするには尚早と思料するが如何か?」

 

 残っているのは、ライダー、キャスター、アサシンだ。

 

「ふむ」

 

「この状況では、アインツベルンのマスター、即ちイリヤスフィール・フォン・アインツベルンがここに逃げ込んできたとすると、現状では脱落したマスターとして保護しないわけにはいかないということは、ご理解いただけるのでは?あくまでも仮の話ではあるがね」

 

 実際に昨日、凛に伴われてイリヤスフィールはこの教会に保護されていた。

 消滅したバーサーカーのマスターであるという名目でだ。

 凛はまだ、イリヤスフィール自身が聖杯であるという認識はないようだった。

 

「ということは、サーヴァントが残り1騎となれば、引き渡すということじゃな?」

 

「それは道理というものだ」

 

 最後まで勝ち残り正当な権利を有する者には、イリヤスフィールを『聖杯』として贈る必要がある。

 

「その言葉しかと聞いたぞ。監督者よ」

 

 そう言って、間桐臓硯は、踵を返した。

 

「綺礼よ。先ほど言ったとおり、慎二は最早まともに動けぬ体となった。相応の治療と、今後の身の安全を保障してもらいたいものだのう」

 

「是非もない。承ろう」

 

「うむ。それでは、さらばじゃ。綺礼よ」

 

 そう言って、間桐臓硯は扉を抜けて、夜の闇に消えていった。

 それを見届けた後に、言峰綺礼は独り()ちる。

 

「なぜ、姿を晒したのだ?」

 

 これまで、間桐臓硯はずっと黒子に徹してきた。

 おそらくアサシンのマスターは、あの老人であろう。

 そう疑ってはいたが、あの老人がマスターであるという確証を得ることができなかった。

 あくまでも推測に過ぎず、証拠はない。

 それだけ、あの老人は慎重に姿を隠してきたのだ。

 

「罠とも考えられるが・・・」

 

 だが、何があるというのか?

 

「間桐慎二に爆弾でも仕込んだか?ふふ」

 

 自らの冗談に少し笑いを漏らす。

 思い返すと、先ほどの交渉は性急に過ぎた。

 

「あわよくば・・・を狙ったものに過ぎなかった・・・?」

 

 今ここでイリヤスフィールを奪うために実力行使に出なかったということは、そもそもサーヴァントを連れずに来ていたとうことだろう。

 

「それだけ、焦っているということか?」

 

 先日、言峰自身のサーヴァントであったギルガメッシュと、そして、今回召喚された中では最強と思われたバーサーカーも斃れている。

 アサシンを使役している筈の間桐臓硯からすれば願ってもない展開である。残り3騎の英霊のうち、ライダーも含めれば2騎を従えており、相手がキャスターであればさほどの脅威ではないだろう。

 しかし一方で、間桐慎二のサーヴァントである筈のライダーは衛宮士郎と親密な関係にあるという複雑な状況でもある。

 そして、その間桐慎二は重症を負ったらしい。

 

「間桐家内で何かが起きているのか?」

 

 綺礼は考える。

 ランサーとギルガメッシュという手駒を失ったが、折角の聖杯戦争だ。

 これまでは衛宮士郎をはじめとした参加者達の織り成す、歪で複雑な人間模様や業を観察するに止まっていた。

 だが、その渦中に自ら飛び込み、戦いに直接関与するのも面白いかもしれない。

 そして、何よりあの黒い影・・・

 

「あれこそ、私の探すものなのかもしれない」

 

 枯れていた欲求が体の底から湧き上がってくるのを感じる。

 自身の口元が歪んだような気がした。

 

「・・・・・・さて、それでは間桐慎二の様子を確認するとしようか。ここに匿うのは三度目だな。彼の衛宮士郎に対する妄執もなかなか興味深いものではあったがな」

 

 過去二度はいずれも程なくして教会を抜け出していたが、半身不随になったとあればもはや再起は叶わないだろう。

 

 

 Interlude out

 

 

 R turn

 

 

「落ち着きましたか?凛?」

 

 凛は昨夜、桜に自宅を襲撃されてこの家に逃げ込んできたのだ。

 その時にはだいぶ混乱し、取り乱していた。

 あの大人しかった少女が悪鬼のようになって襲ってきたのだから、混乱するのも止むを得ないだろう。

 

「お陰様で一晩眠ってなんとか・・・って感じかしら。ありがとう。ライダー」

 

 凛は、目の前に置かれた湯飲み茶碗を両手のひらで抱えている。自分自身を改めて落ち着かせようとしているかのようだ。

 

「衣服や日用品などは、桜が残していったものを使えば良いでしょう」

 

「当面はそうね。桜が私の家に留まるのでなければ、一度、戻りたいところだけど」

 

「教会に匿われるつもりはないということですね?」

 

 彼女は、アーチャーを失った。

 マスターではなくなったのだから、教会を頼ることも選択肢としてはある。

 だが、そんなつもりは毛頭ないだろう。

 

「勿論よ。衛宮君だって、サーヴァントなしで戦い続けているわ・・・あ・・・正式に契約しているサーヴァントはいないって意味よ」

 

 ちらりと私を見て、慌てて彼女は言い直した。

 

「お気遣いいただかなくても、大丈夫ですよ」

 

 そんな言い回し一つに私は頓着しないが、こういう点に気遣いができるくらいには、落ち着いたということだろう。

 

「とにかく、私の戦いは何も終わっていないわ。だいたい、綺礼に保護されるなんて真っ平ご免だしね」

 

「とは言え、これからどうするつもりですか?」

 

「衛宮君が起きたら、改めて一緒に考えたいところだけど・・・」

 

 凛は、ちらりと居間の先にある士郎の部屋のほうへと目線をやった。当の士郎は、昨日治療をしていた土蔵からその身を移して、部屋に布団を敷いて寝かせている。

 あれだけの無茶をしたのだ。暫くはまともに動けないだろうと、キャスターは言っていた。

 彼女は台所で朝食の準備をしながら、こちらの会話を聞いている様子だ。

 

「間桐桜があの黒い影の正体だったということだな」

 

 葛木が居間に入って来て、会話に加わった。

 普段、あまり聖杯戦争に関与する素振りを見せない彼がこの話題に言及してきたということは、それだけこの事実が意外だったということかもしれない。

 

「私は桜が変貌する様も見ましたし、桜の憤りも全て聞きました。一番大きかったのは士郎と私への怒りでした・・・」

 

 改めて、昨日の桜の様子を思い出した。

 あらゆる負の感情を曝け出した少女はその在り方から大きく変わってしまったのだ。

 

「私に対する怒りも強烈だったわ。でも、今でも昨日起きたことは、現実感がないくらいなの。ほんとに、夢だったんじゃないかってくらい」

 

 無理もないだろう。凛には何の予兆も感じられなかったはずだ。

 だが、私は違う。

 

「申し訳ありません。私は不穏なものを感じていました。マスターである桜の言動は時として、私を戸惑わせるものがありました。それに、直感的なものに過ぎませんでしたが、あの影が桜に少し似ているとも感じていました」

 

 私が桜のサーヴァントであったことは、昨夜のうちにここにいる全員に伝えていた。

 この点については、左程、意外なこととして受け取られなかった。

 キャスターなどは、『十中八九そうだろうと思っていたわ』 と言っていた。

 

「それくらいの確度じゃあ、どうしようもないわよ。でも、不穏な言動って例えばどんなものだったの?」

 

「そうですね。アーチャーが士郎を襲った時などは、次は積極的に斃してしまうように示唆されました。その時には既に凛の令呪によって、アーチャーが士郎を襲うことはできなくなっていたにも関わらずです」

 

 あの時は純粋に士郎の身を按じてのものだと思ったが、違ったのかもしれない。

 

「ああ。なんかそれわかっちゃうかも」

 

 凛が唇を湿らすように少しだけお茶を口にした。

 

「多分、自分のサーヴァントで、私のサーヴァントを斃したかったのよ」

 

「ええ。おそらくあなたに勝ちたかったのでしょう。姉であるあなたに対して複雑な感情を抱いていたようです」

 

「だから、結果的に私が衛宮君と親密になったのも、鬱屈した感情を貯める要因になったわけね」

 

「結果的にですか?」

 

 思わず、少しだけ棘を含んだ言葉を凛に投げ掛けてしまった。

 私は、士郎が彼女を異性として意識していたことを知っている。

 さらに、彼女が士郎に対して、ただの共闘者として以上の感情を抱いているとも感じていた。

 

「何だって言うのよ?」

 

 その棘に気付いたのか、凛が険しい声で訊き返してくる。

 

「はいはい。宗一郎様の前で、女同士の醜い争いなんておよしなさいな」

 

 キャスターが朝食を運んできて、険悪になりそうな私達の会話を制した。

 

「見事な仲裁だ。キャスター」

 

 葛木がほんの少しだけ安堵したようにキャスターを称えた。

 

「いいえ、宗一郎様。私達のように深い信頼で結ばれていれば、不安定で哀れな彼女たちの心中を察して、優しく窘めるのは造作もないことですわ」

 

 このキャスターの言には不愉快な成分も多かったが、よくよく考えれば重要な点は頷けたので、私は気持ちを切り替えることにした。

 

「そうですね。持たざる者の心中を(おもんばか)るべきでした。余計な波風を立てるような言をして申し訳ありませんでした。凛」

 

 そう。

 今の士郎と私はお互いに想い合い、信頼し合っている。

 凛に突っかかる必要などないのだ。

 

「・・・ぐ・・・こいつらなんかムカつく・・・」

 

 遠坂凛は自棄(やけ)になったように、並べられた食事を性急に食べ始めた。

 この様子を現代風に言うと、がっつくと言うのだろう。

 

「あらあら、本当にはしたないわねえ。あなたにもきっといい人がみつかるわよ」

 

「うっさい!」

 

「だいたい、あなたなら不自由しないと思うのですが?」

 

 思わず聞いてしまった。

 遠坂凛という女性が魅力的なことは間違いない。

 美人で社交的でもあり、寄ってくる男性などごまんといるだろう。

 

「そうだな。学校には学業優秀で、スポーツに秀でた者もいる」

 

 意外なことに葛木がこの話題に加わってきた。

 

「中身があればいいんだけどねえ。衛宮君やあんたみたいなのが、そんじょそこらにいるわけないでしょうが・・・」

 

 別に、その二人と比較しなくてもいいと思いますが。

 士郎のことは当然としても、どうやら凛は葛木のこともかなり評価しているようだ。

 彼女の評価基準の(いびつ)さが露わになった気がした。

 

「結局、あなたも異常者ということですね」

 

「不毛ねえ。まあ宗一郎様が素敵だというのは当然なのだけれど」

 

「だから、うっさい!既得権益者なんて滅んでしまえ!」

 

 心地いい遠吠えを聞きながら、キャスターの用意した朝食をいただく。味は至って普通だ。

 ・・・やはり、士郎や桜の作った食事のほうが美味しいですね。

 

「話を本題に戻しましょう」

 

 朝食が済んだところで、私は話を進めようとした。

 

「あんたが喧嘩売ってきたんでしょうが・・・この似非(えせ)世界三大美女め・・・」

 

「全然、けなせていないわよ」

 

 呆れたように、キャスターが凛の発言に対して指摘する。

 

「引き金となったのが、蓄積した感情だったとしても、それで人間が皆魔物に変貌するわけもない。間桐には、あの影と同質化する根本的な要因があったということだ」

 

 前置きもなく、葛木が要点を突いてきた。

 

「あの子は、間桐家が地獄だったって言ってたわ。魔術的に体をいじられていたのかも。その辺、どうなのライダー?」

 

「・・・・・・はい。あの家の魔術は虫を媒介にするものです。桜は日常的に虫に体を嬲られていました」

 

「なんですって!?」

 

 凛が口に手を当てて、驚愕する。

 

「身中にも虫を埋め込まれていたようです」

 

 桜の異常な境遇は、それでいながらあまりにも日常的に過ぎた。桜はそれを淡々と受け入れているように見えたし、私としてもそこだけを切り出して、大きな異常とは感じなかった。

 

「その虫による副作用のようなものでしょうか?」

 

 私は努めて感情を込めずに伝え、問いを投げる。

 

「そんなことって・・・」

 

 凛は問い掛けのほうは耳に入っていないらしく、怒りに震えているようだ。彼女がそれだけ、真っ当な倫理観や価値観を持っているということだろう。

 

「・・・桜ちゃん・・・そんな日常を過ごしていたにも拘らず、よくあんなにも普通に振る舞えていたものね・・・」

 

 キャスターも俯いて震えていた。

 彼女も最近は、桜と一緒に料理をすることが多かったため、だいぶ感情移入しているようだ。

 

「でも、虫は所詮、媒介物に過ぎないわ。前にも話し合ったことだけど、あの黒い影の動きは聖杯と関連している。つまり、『虫を使って植え付けられた何か』によって、彼女は聖杯と紐付けられたと考えるのが自然ではないかしら」

 

 感情の揺らぎを抑え込み、キャスターは見解を示す。

 生前、数多くの残酷な場面を体験してきただけに耐性はあるのだろう。

 

「そしてそれは桜ちゃんの意思によって抑制されていた。だけれども、ついにそのダムが決壊してしまったということかしらね。彼女の魔術がどんな属性かわかるかしら?」

 

 キャスターは、私と凛を交互に見た。

 

「桜の魔術属性は極めて特殊なものだと父さんから聞いたことがあるわ」

 

 何とか落ち着いたのか、凛が答える。

 

「成程ね。すると、あれは虚数魔術かもしれないわね。影や(マイナス)なんかを使役する性質があるもの」

 

「虚数属性か・・・そうかもしれない。特殊過ぎて、父さんも教えるのが難しかったから、私に後を継がせたのかもしれないわね・・・」

 

「間桐家の魔術については、何かわかるかしら?ライダー」

 

「主に、蟲を使役することで他者から力を吸収するものだと聞いたことがあります」

 

 以前、桜が極めて否定的な感情を込めて語っていたことを思い出しながら伝えた。

 

「あの黒い影の性質に合致するわね」

 

「イリヤスフィールの話と合わせて考えると、聖杯の中にある呪い『人々への怨嗟』と、桜の『虚数魔術』、間桐の『吸収魔術』という性質が一緒になったのがあの黒い影なのね」

 

「さらに昨日、あの屋敷で坊や、ライダー、間桐慎二という三者による遣り取りの一部始終を見たことで、桜ちゃんの負の感情が増幅し、聖杯と繋がりのあった彼女はその呪いを吸収して浸食されてしまった。その結果としてあの姿に変貌したというところかしら」

 

「でも、『聖杯と繋がりのある何か』って何なのかしら?」

 

 凛が疑問を呈する。

 確かに、まだ聖杯と桜を直接結び付けるものが見えていない。

 

「前回、聖杯は坊やのお父さんに破壊されたんでしょう?」

 

 たしか神父の話では、衛宮切嗣がセイバーに壊させたということだった。

 

「間桐臓硯は、前回の聖杯戦争の一部始終を見ていたんじゃないかしら?」

 

「そうね。前回も代理を参加させたということだったけれど、状況は観察していたはず」

 

 キャスターの言葉に、凛が同意する。

 

「その破壊された聖杯の一部か、もしくはその中のものを回収し、蟲を媒介にして桜に植え付けたということでしょうか?」

 

 口に出してみると、かなり正解に近付いていることを私も感じた。

 

「桜ちゃんをどうこうできるのは、間桐家の者でしょう。そして、間桐臓硯には、その手段も、機会もあった」

 

「当然、慎二を操るのはあの老人からすれば、簡単です。昨日の状況を作り出したのも、間桐臓硯でしょう」

 

「桜をあの姿にすることが目的ということになるけれど、それって何の意味があるのかしら?」

 

「自身の手駒として引き入れるという意味があるのでしょう。桜はこの戦いには極めて消極的でしたから。変貌したことで、桜は人が変わったように我々に対して攻撃的になりました」

 

「そうね。ライダーを失ったとしても、桜をその気にさせるほうを優先したのかしらね」

 

 桜を戦力化し、アーチャーを手に入れれば私を捨て駒にしたとしても、充分にお釣りがくるという計算をしたのかもしれない。

 

「この状況だと、アサシンのマスターは間違いなく間桐臓硯ということになるかしら。そして、セイバーとアーチャーも桜ちゃんが使役している状態と考えたほうがいいでしょうね」

 

「ランサーや、金ぴか・・・偽アーチャーやバーサーカーも向こうにいたらゲームセットよね」

 

 凛の言う事はもっともだ。アサシンも含めた6騎を相手にしたら、私達に勝ち目など万に一つもないだろう。

 

「どうかしら・・・特にあなたから聞いた昨日のやり取りから考えると、霊核を潰される前に取り込んだ場合にのみ使役が可能になるのではないかしら」

 

 アーチャーが自害しようとした際には桜が焦っていたと聞いている。

 キャスターの推測は妥当と思われた。

 

「推測に過ぎないから、何とも言えないけれど。実際にランサー、バーサーカー、偽アーチャーも取り込まれていたら、本当にお手上げでしょうね」

 

「・・・キャスターの推測どおりだとしても、セイバー、アーチャーの二人だけでも滅茶苦茶強力よね・・・昨日、アーチャーは自分を犠牲にして私を庇ってくれたけど、結果的に全然釣り合いが取れていないわ・・・」

 

 凛は、昨日の出来事を悔やんでいた。

 それに、これからアーチャーと対峙するかもしれないと思うと、気が気ではいられないだろう。

 

「彼も強力でしたから。サーヴァントの戦力だけ見ても、セイバー、アーチャー、アサシンに対して、私とキャスターでは明らかに劣勢でしょう」

 

 さらに桜の特性がサーヴァントに対して極めて優位であることを考えると、こちらはさらに不利になる。

 

「あれ?」

 

 ふと、凛が何かに対して疑問を抱いたようだった。

 

「ところで、ライダー。あなたそもそも桜のサーヴァントでしょう?当然のようにこちら側に味方できるのは何故なの?」

 

「微妙に不満げな口調なのが気になりますが・・・」

 

 とは言え、当然の疑問だろう。

 

「あ・・・いや、勿論、あなたが衛宮君を守るのはわかるんだけど、桜との契約はどうなるのよ?まさか愛の力ってやつ?」

 

 凛は、ちょっと本気混じりの口調で訊いてきた。

 

「そうです。と言いたいところですが、残念ながら違います。私は今も、桜から魔力供給を受けています。ですが、桜にはもう令呪が残っていません。ですから、私は自身の意思で動くことができます」

 

「ああ。そうか。私に令呪がなくても従ってくれていたのはアーチャーの意思だし、キャスターと葛木なんて最初から契約も令呪もないんだものね」

 

「桜が私とのパスを絶ってしまえば、私は消滅するしかありませんが、今のところその気配はありません。おそらく、桜にはその方法がわからないのでしょう」

 

「多分、あの子は魔術の使い方とかちゃんと習っていないんだと思うわ」

 

「あとは、桜が私をセイバー達のように取り込んでしまわない限り、士郎に対して敵対することはありません。もし、そんな事態に直面したら、私は躊躇いなく自決しますのでご心配なく」

 

 本心をありのままに伝える。

 今の私は、士郎を害する可能性が万に一つでもあるなら、それを排除する。

 

「はいはい。あなたの気持ちはよくわかったわ。でもその時はギリギリまで諦めないでね。間違いなく、今の私達の最大戦力はあなただし、衛宮君もそんなこと望まないわ」

 

 こういうところが、彼女の優れたところだ。

 私に対してわだかまりはあるはずだが、気遣うべきところは本心から気遣うことができる。

 こうなると、凛に何かと強く当たってしまう私自身の矮小さが強調される。どうしても、以前の士郎の想い人が彼女だったということが、頭の片隅から消えないのだ。

 同時にこういうところが、私や・・・そして、桜の劣等感を刺激するのかもしれない。

 端的に言えば、女として・・・と言うより、人間としての器が違うと直感的にわかるのだ。何とか彼女に負けないようにしなければ、いつ士郎を奪われるかわからないと思ってしまう。

 

「わかりました。ありがとう。凛」

 

 私は彼女に対して素直に敬意と謝意を表した。

 何とか取り繕えただろうか。

 

「問題は、間桐にどうやって対応するかだな」

 

 ずっと黙っていた葛木が再度、問題提起をする。

 彼は、的確に要点を押さえてくるようだ。

 セイバーも、アーチャーも勿論、強力だ。だが、こちらが戦力を集中して各個撃破すれば勝機はある。

 一方、桜への対応は難しい。

 サーヴァントでは、取り込まれて相手方になってしまう懸念がある。そして士郎達ではそもそも力に差があり過ぎるうえ、矛先が鈍る可能性もある。

 

「私に一つ考えがあるわ」

 

 凛が決意を秘めた顔で私達を見回した。

 




会話の中では、本作において、何気に凛が男としての葛木をかっているところとか、ライダーとキャスターの倫理感の違いとかを表すようにしてみました。
ちなみに8日目もそうでしたが、凛はギル様のことを「偽アーチャー」呼ばわりしています。本人がこれを聞いたら、冬木市全域を壊滅させるくらいブチ切れるでしょうね。
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