Fate/√knight 【ムラサキノウエ】 作:わが立つ杣
Interlude in
新都の繁華街。
冬木市のような地方都市では夜の10時を過ぎるような時刻になれば、ほぼ人の気配はなくなるものだが、この辺りだけは飲食店、風俗店を
「そもそもいくら下期の成績が悪いからって、休日出勤とか支店長も酷すぎるよな~」
「全くだよな。そういや、そろそろ異動が内示される時期が近付いてきたな」
「そうだな。俺なんかこの支店に配属されて4年になるんだぜ。そろそろ東京に戻りたいよ」
「悪いけど、お前には残って欲しいな~。それより、支店長にとっとと出ていってもらいたいわ~」
「とにかく、もう一軒行こうぜ」
などど、当人たちには重要なのだろうが、取り留めのない会話を行っている5人のビジネスマンが路地にたむろしていた。
「あれ?」
そのうちの一人が髪にリボンを結わえた女が近付いてくるのに気付いた。女と言っても、高校生くらいだろうか?少女と言っても差し支えない年齢のように思えた。
少女は、黒と赤のストライプという奇妙な色合いのワンピースのような服装だった。
体の線がくっきり出るようなデザインになっているようで、かなり艶めかしい。
「お嬢さん。こんな時間に女の子がこんな場所を歩かないほうがいいよ」
その少女に気付いたビジネスマンは、集団の中では比較的酔いが浅く、あくまでも親切心からそう声を掛けた。
「ふふ・・・ご忠告ありがとうございます。おじさんたちこそ、こんな時間に出歩くのはお勧めしませんよ」
「なんだって?」
「小さい頃、夜遊びはいけませんって教えてもらわなかったですか?」
少女には周りの店から漏れる明かりや、街灯の光で影ができていた。
「だから、こんな酷いことになっちゃうんですよ」
―――ザザ―――
少女の影はゆっくりと延びて、忠告してきた男の傍らを通り過ぎていった。
そして後ろで酔いに任せて、呂律の回らない口調で会話を続ける仕事仲間達に近付いていく。
少女に話しかけた男が無意識のうちに、その影を追うように後ろを振り向くと、その影はゆっくりと仲間たちの足元から絡みつき・・・
「え?何だ?この黒いの・・・・・・?」
「あれ?オレの足がなんか変・・・・・・」
「「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・」」
―――フ―――
男の目の前で、4人いた仲間たちはほぼ同時に悲鳴を上げて、消えていった。
「・・・・・・・・・は?」
呆然としたまま男が向き直ると、先ほどの少女は薄く笑っていた。
「ね?」
少女は服装と相俟って、年不相応なほどに妖艶に見える仕草で小首を傾げた。
「いったい・・・何が・・・・・・?」
後ろで見た光景と、眼前の少女とのあまりのギャップに、思考がついていかない。
「もっとも、私もあの
少女の白い手が伸びてくる。
その手に絡みつくように、袖口から黒いモノが伸びて、男の頬に触れた少女の指を伝ってくる。
やがてその黒は男の顔を全て覆い尽くしていった。
―――――――――!?
恐怖なのか、驚愕なのか、あるいは興奮なのかもよくわからず、男は声にならない悲鳴を上げる。
その悲鳴に意味はなく、その顔が黒く塗り潰されたときには、男の頭部は消えていた。
ドッ
鮮血を吹き出しながら、首から上がなくなった体が地面に倒れた。
「あ・・・そもそも支店長さんが悪いんでしたっけ?」
少女は少し申し訳なさそうに呟いた。
「いや、仕事が終わった後に、ここに飲みに来たのはこいつらの選択だな」
傍らにやって来た長身の男が、少女の呟きに一言返した。
男は白髪で褐色の肌をしており、全身黒で統一された服を着ている。
「それもそうですよね。だから自業自得ってことで合ってますよね?アーチャー」
「そうだな。はしごするつもりのようだったしな」
「そもそも酒に呑まれるなど言語道断だな」
もう一人どこからともなく現れた小柄な少女が、切り捨てるような言い方で断じた。
こちらは透き通るというよりは、少し病的な白い肌をしており、白金色の髪を後ろで纏めている。
彼女も黒い服に身を包んでいた。
「私に忠告してくれた人は、概ね素面でしたよ。セイバー」
リボンの少女が窘める。
凄惨な出来事があったことなど気に留める素振りもなく、そんな会話をしていた3人に小さな影が近付いてきた。
カツン
その影はだいぶ老齢なのか、杖をついている。
「・・・こんなところで何を油を売っておるのじゃ。桜よ」
歩み寄って来たのは杖をついた小柄な老人、即ち間桐臓硯だった。
「あら?お爺様。どうしたんです?こんなところまでいらっしゃるなんて。お爺様もこの辺りでお酒を召し上がるんですか?」
臓硯の姿を認めて、少女、即ち間桐桜は無邪気な口調で問い返した。
「お主には、アインツベルンの聖杯を奪うように言い含めたはずじゃが、なぜこのような無意味な殺戮をしているのかと聞いたのじゃ?」
改めて問われた桜は、くすりと嗤った。
「勿論、お爺様のお言いつけは覚えています。でも、私ちょっとお腹が空きやすい体質になっていまして、食事を先に済ませようと思ったのです」
「それでは、この後、わしの言いつけを守るということじゃな?」
「ええ。勿論・・・」
ジャッ!
「なっ!?」
桜の返答の途中で、突然、小柄な少女、即ちセイバーが臓硯を一瞬のうちに袈裟切りにしていた。
普通の人間ならまず助からないような深手だった。
ザザ!
が、老人の体は分裂し、夥しい数の蟲に変じて霧散していく。
「やはり、剣ではどうにもならないか・・・」
手応えのなさに独白しながらも、再度、セイバーは分裂した蟲に対して剣を横薙ぎに振るう。
それにより、数十の蟲が切り裂かれて地に落ちるが、全体から見ればごく限られた数に過ぎなかった。
分裂した蟲達が集まり、再び老人の姿を形作る。
「何をするか、桜っ!?」
先程迄よりも少し体の一部が何か所か欠けた状態になった間桐臓硯が、突然攻撃を仕掛けてきたことに対して詰問する。
「ごめんなさい。お爺様。でも、この二人はなかなか私の言うことを聞かないんです。ですから、お爺様から直接お灸を据えてあげてください」
桜は自分の意思ではないという主張をする。
「そうだな。きついお灸を据えて欲しいものだ。そうすれば、我々も反省するだろう!」
ゴッッ!
そう言いながら、今度は長身の男、即ちアーチャーが手にした双剣で臓硯の顔を刺し貫いていた。
「ぬうっ!?」
だが、先ほどセイバーが斬りつけた時と同様に、臓硯の体は蟲に変じて霧散した。
「潰す部位の問題でもないか・・・面倒だな」
アーチャーは忌々し気に吐き捨てた。
「桜っ!!貴様、儂を裏切る気か!?これまで育ててきてやった恩を忘れおって!!」
上半身だけを形作った臓硯が怒りを露わにする。
「だから、先ほども言ったじゃありませんか。あくまでもその二人の暴走です。裏切るだなんて滅相もありません」
桜は少なくとも表面上はしおらしい態度を保っていた。
「そのとおりだ。現状、我々は少々抑えが効かない状態になっている。目にしたものに手あたり次第に攻撃してしまうかもしれんな。アサシンを呼んで、我々の抑えにしたほうが良いのではないか?」
アーチャーは嘲るような笑みを浮かべた。
「もっとも、あの三流が我々の目の前に現れば、瞬く間になます切りにされるだろうがな。そうなれば、貴様の手足はもがれたようなものだ」
そう言いながらも、アーチャーはまたも臓硯に襲い掛かる素振りを見せた。
「魔術師殿!」
主の窮地を察したか、あるいはアーチャーの煽りに触発されたのか定かではないが、白い髑髏の仮面を付けた黒衣のサーヴァント、即ちアサシンが臓硯の前に現れた。
「これ以上、好き放題させるか!」
ジャジャッ!
アサシンが立て続けに3本の短剣を投じる。
ギギギンッ!
それらを剣の一振りで全て弾き飛ばしたのは、アーチャーを追い越して駆け寄ってきたセイバーだった。
「はっ!」
セイバーは剣を左手に持つと、籠手をつけた右腕の拳でアサシンに殴りかかった。
「なに!?」
虚をつかれた形になったアサシンだが、咄嗟にその拳を防ごうとアサシンは短剣を立てた。
ゴッ!
しかし、短剣で防いだアサシンは、大きく弾き飛ばされ、
ザザザ・・・
地面を転がって行った。
「ぐ・・・」
セイバーの拳の一撃を受けたことにより、アサシンの持っていた黒塗りの短剣は砕けていた。
それでも、なんとか体勢を立て直す。
「アサシン!儂は逃げられる。お主も離脱するのだ!」
「・・・面目ありませぬ、魔術師殿」
―――スゥ―――
マスターの言葉に従い、アサシンはその姿と気配を完全にこの場から消失させた。
「いい心構えだ。間桐臓硯。貴様は何千回でも斬り刻んでやろう」
元々アサシンなど眼中になかったとばかりに、黒剣を構えたセイバーが臓硯へと一息で駆け寄っていく。
「く!?覚えておるがいい・・・・・・」
ザアァァァ
セイバーの攻撃の気配を察知して、臓硯は自ら無数の蟲に分裂して、この場から離れていった。
「・・・全く便利な芸当ですね」
セイバーが去ってゆく蟲達を見送りながら、忌々し気に吐き捨てた。
「想定はしていたが、あの妖物を片付けるのはだいぶ手間がかかりそうだな」
アーチャーも肩をすくめた。
「それはそうよ。人間じゃないんだもの」
桜が二人に近寄ってきた。
「如何でしたか?桜?」
セイバーが桜に問い掛ける。
それに対して桜は口では何も答えず、
「そうですか。我々の考えは正しそうですね」
セイバーは桜の様子を見て頷いた。
「では、予定どおりに動くとしよう」
アーチャーがそう言うと、三人は頷きあって夜の闇に消えていく。
「お爺様・・・そして、姉さん、ライダー、先輩・・・私、やりたいようにやらせていただきますから・・・」
一人の少女の呪いがその場にしばらくの間たゆたい、やがて、消えていった。
黒桜、黒セイバー、黒アーチャーが揃って、蟲爺さんをタコ殴り状態です。
この三人が揃っているのを見たら全身全霊で視線を合わさないようにしますね。