Fate/√knight  【ムラサキノウエ】   作:わが立つ杣

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冬木教会に向かう道中にて。


第27話 ~11日目①~ 「兄妹あるいは姉弟」

 R turn

 

 

 士郎は依然として、眠り続けていた。

 キャスターの話では今日中には目覚めるだろうということだ。

 

「できれば衛宮君の回復を待ってからにしたかったけど、イリヤスフィールをこっちに一旦連れてくるわ。衛宮君が目覚めた後の行動が早くなるしね」

 

 昨日、凛が提案してきた内容、即ち『桜への対抗案』を実現するにはイリヤスフィールが必要である。

 

「この状況で、一人で行動させるわけにはいかないわね」

 

 とは、キャスターの言であり、私も同意見だった。

 かといって全員で教会に向かっている間、万一屋敷を襲撃されれば士郎を守ることができなくなる。

 最終的に、私と凛が教会に向かい、葛木とキャスターは家で待つことにした。

 本当は私が士郎の傍にいたかったが、屋敷に防衛用の結界を張っているのはキャスターだ。

 彼女が衛宮邸を守るほうが、理に適っており、私自身も広いフィールドのほうが立ち回り易いというお互いの特徴もあり、この分担となった。

 そのため、今、私は凛と共に教会に向かっている。

 一般人とも擦れ違うので、私は眼鏡とセーター、ジーンズという服装である。

 

「お互いに何かあったら、相手に報せるようにしましょう」

 

 キャスターが作った連絡用の符をお互いに持つことにした。

 士郎が以前、学校で慎二に呼び出された時に使ったもので、破ればお互いへの合図になると同時に位置もわかるものだ。

 状況は切迫しつつある。

 凛は、今日、登校していない。

 これまで極力普段どおりの生活を是としていた葛木ですら、学校を休むことにしていた。

 

「着いたわね」

 

 教会に到着した私達は、重厚な扉を開いて中に入った。

 

「自らこの教会を訪れるようになってくれたのは嬉しいぞ、凛。そしてライダーも歓迎しよう。残念ながら、ここでは酒を飲むわけにもいかないがな」

 

 神父はそう言って、いつもどおりの服装と態度で私達を迎え入れた。

 

「本日は、そういった用向きではありません」

 

「ふむ。まあ、そうだろうな」

 

 悠然と応じながらも、神父は僅かに残念そうな顔をする。

 

「綺礼、悪いんだけど預けたイリヤスフィールを連れて帰りたいの」

 

 こちらの要望を凛は伝える。

 おそらく、ここではイリヤスフィールの意思が重要になるだろう。

 あくまでもイリヤスフィールは、聖杯戦争に参加していたマスターだ。元々、こちらが教会に預けた身ではあるが、本人が衛宮邸に戻りたくないと言えば、神父の立場からするとこちらの要望を断らざるを得ないだろう。

 最悪の場合、実力行使に出ることになるかもしれない。

 

「残念ながら、イリヤスフィールはここにはいない」

 

「え?」

 

 想定を大きく外れる答えが返ってきた。

 

「どういうことなの?綺礼」

 

 凛が尋ねる。

 

「うむ、実は単純な話だ。イリヤスフィールは先ほどこの教会を立ち去ったのだ。自分の意思でな。15分程前だろうか」

 

 どうやら入れ違いになってしまったようだった。

 

「えっと・・・何か理由とか行き先とかは告げていったかしら?」

 

 少し戸惑った凛だったが、すぐに質問を投げる。

 

「理由はわからないが、衛宮邸に行くということだった。そういうわけだから、完全に行き違いだな」

 

「うちに?」

 

 もはや、凛にとっても士郎の家が自宅という認識になりつつあるようだった。

 それにしても、どういうことだろうか?

 我々としては都合の良い話だが、イリヤスフィールの意図が掴めなかった。

 

「気になりますね。急いで戻りましょう。凛」

 

「そうね。ちょっと嫌な予感がするわ」

 

 すぐさま、私と凛は(きびす)を返して出口へと向かう。

 

「それにしても、この段階に至ってイリヤスフィールの身柄が重要になりつつあるようだな」

 

 と、私達の背中に神父の声が投げ掛けられた。

 段々わかってきたが、この神父はこういう終わり際のタイミングで相手が気になることを言うのが好きなようだった。

 

「どういうこと?他にも誰かが来て、イリヤスフィールの引き渡しを要求したってことよね?」

 

「そのとおりだ。察しがいいな」

 

「誰?」

 

 凛が間髪入れずに問う。

 

「間桐臓硯だ。あの老人は聖杯戦争の参加者ではないから、名前を明かしても問題あるまい」

 

 つまり聖杯戦争参加者に関する情報は、他の参加者には漏らせないというのが、仮にも監督者としてのこの男なりのルールということなのだろう。

 逆に言えば、臓硯は正式なマスターではないので、私達に伝えるのは問題ないという理屈だ。

 

「情報提供に感謝するわ」

 

 極めて重要な話だった。

 あの老人が狙っているということは、最悪の場合、道中でイリヤスフィールが襲われる可能性がある。

 

「ふふ。関係のない情報だ。感謝されるいわれはないな」

 

「それならそれでいいけどね」

 

 今度こそ、私達は教会を後にしようとした。

 が、

 

「もう一つだけ大事な情報がある」

 

 神父が再度、声を掛けてきた。

 

「何よ?」

 

 凛が苛立たし気に振り向いた。

 流石にしつこいと感じたのだろう。

 

「これは、完全に善意で伝えるのだが・・・若干言い辛くてな・・・」

 

「だから何よ?あんたが言い淀むなんて珍しいわね」

 

「・・・うむ・・・イリヤスフィールは()()()()()使()()()()

 

「「・・・え?」」

 

 私と凛の声が重なり、私は頬を一滴の汗が伝わっていくのを感じた。

 それってもう絶対に追いつけませんよね・・・

 

 

 Interlude in

 

 

 キャスターはライダーの符が破られたことを探知した。

 ライダーと凛の二人が教会に行くときに、渡しておいたもので、破られることでお互いの合図になるし、居場所がわかる。

 ただし、ライダー達に渡したのは、あくまでも彼女らが何がしかの危険を感じたことを伝えるためだけのものだ。何故なら、この家には衛宮士郎が眠っており、彼女達に危機が迫ってもキャスターと葛木はここを大きく離れるわけにはいかないからだ。

 逆に言えば符を破ったということは、こちらに警戒するよう伝えてきたということである。

 

「宗一郎様。向こうで何かあったようです。警戒しましょう」

 

 キャスターとしては、葛木を巻き込むのは本意ではないが、彼のほうではキャスターを守る意思を持っている。

 戦いになるようであれば、積極的に前線に出るだろう。

 

「わかった」

 

 葛木が立ち上がる。

 

「周辺を確認いたしますわ」

 

 キャスターは水晶球を取り出し、この屋敷近辺の状況を確認する。

 周囲には使い魔である鳩を放っている。それらの視覚から送られてくる映像を、その表面に映し出して切り替えていく。

 しかし、少なくとも付近には何も異常はないため、さらに範囲を拡大してみる。

 

「あら?」

 

 水晶球に、この家に向かう交差点手前でタクシーを降りるイリヤスフィールの姿が映し出された。

 彼女は交差点で少し迷ったように周囲を見回していた。

 

「どうやら、遠坂達とは行き違いになってしまったようだな」

 

 一緒に映像を見ていた葛木が言った。

 

「そのようですわね。ライダーもこのことを伝えたかったのでしょう」

 

「だが、それだけであれば、符を破る必要まではないな」

 

 ジリリリリ!

 

 その時、廊下の電話が鳴った。

 

「おそらく、遠坂達だな。私が出よう。キャスターはイリヤスフィールを捕捉しておくように」

 

「かしこまりましたわ」

 

 キャスターに指示をしながら、電話に向かった葛木が受話器を取り上げ、耳に当てると何度か頷いた。

 

「・・・・・・わかった」

 

 最後にそう応えて受話器を置いた葛木は、すぐさま玄関へと向かいながらキャスターに告げる。

 

「出るぞ、キャスター。イリヤスフィールが狙われる可能性がある」

 

「あ、はい!宗一郎様!ご一緒します!」

 

 キャスターは慌てて、葛木の後を追った。

 

「イリヤスフィールを保護次第、すぐに戻る。この家を空ける時間を少しでも短くするぞ」

 

「かしこまりましたわ」

 

 二人は正門から屋敷を出ると、全速力で交差点に向かった。

 

 

 

 交差点までは左程の距離ではない。

 だが、葛木が付近に到着して見回したところ、イリヤスフィールの姿は見当たらなかった。

 

「宗一郎様!あちらです」

 

 キャスターが示した方向には、2区画ほどの空き地があった。日当たりが悪いため、かなり薄暗い。

 そこにイリヤスフィールと白い仮面をつけた黒衣の男がいた。

 キャスターにとって一昨日対峙したばかりのその姿は、紛れもなくアサシンのものであった。

 

「あれが、アサシンだな」

 

「はい」

 

 葛木自身はアサシンの姿を見たことがないため、キャスターに確認しながら一気に距離を詰めていく。その拳と足はキャスターの魔術によって既に強化されている。

 

「アサシン以外いないのなら!」

 

 キャスターが葛木の後を追い掛けながら3発の光弾を一気に放つ。

 

「!?」

 

 アサシンに対して、イリヤスフィールも魔術で編み上げた短剣を飛ばして抵抗していた。

 その最中にキャスターからの攻撃を受けたアサシンは、慌てて光弾を躱す。

 標的に着弾することのなかった光弾は音もなく消える。

 

「はっ!」

 

 だが、慌てて躱したことにより体勢を崩したアサシンに対して、既に間合いを詰め切っていた葛木が裂ぱくの気合いと共に拳を突き出す。

 

「舐めるなっ!」

 

 言いながら、アサシンは葛木の拳を持っていた短剣で受けようとする。

 だが。

 

 ドッッ!!

 

 鈍い音が響き、葛木の蹴りがアサシンの腹部にめり込んでいた。

 葛木は拳による攻撃をフェイントとして用いて、トリッキーな動きで蹴りを繰り出していた。

 

「がはぁっ!?」

 

 アサシンは、衝撃で後方に大きく飛ばされた。

 

「逃がさん」

 

 葛木は間髪入れずにそれを追う。

 

「くっ!やはり厳しいか・・・」

 

 アサシンは何とか体勢を立て直すと、黒い短剣を2本投じてきた。

 葛木はそれを2本とも拳で叩き落すが、僅かに追い足が鈍った。

 短剣を投じたのは、あくまでも牽制のためだったのだろう。

 アサシンはその隙に、住宅の塀を縫うようにして姿を(くら)ましながら逃げていった。

 こうなってしまうと葛木も追う術がないため、諦めざるを得なかった。

 

「できれば、戦力を削ぎたかったが・・・」

 

 とは言え、早く衛宮邸に戻る必要がある。イリヤスフィールを保護することが当初の目的であるため、戦果としては充分と考えられた。

 

「宗一郎様!凛々しいお姿でしたわ!」

 

 キャスターが駆け寄ってくる。

 

「お前の助力によるものだ。感謝するぞ。キャスター」

 

「勿体ないお言葉ですわ」

 

 キャスターは恍惚とした表情になった。

 葛木はその言葉を聞きながらも、傍らにいる銀髪の少女に目を向ける。

 

「衛宮の家に向かおうとしていたのだろう。案内しよう」

 

「お願いするわ。この辺りまではわかったのだけれど」

 

 先日、衛宮邸で食事を共にはしたが、イリヤスフィールは葛木とは会話をしていないため、話しかけられて一瞬戸惑ったがすぐに返事をした。

 

「それから、ありがとう。助けてくれたことには感謝するわ」

 

 

 

「・・・お兄ちゃん・・・衛宮士郎はどうしているの?」

 

 衛宮邸に戻り、居間に案内されると同時に、イリヤスフィールは周囲を不思議そうに見回して、キャスターに問い掛けた。

 

「一昨日、だいぶ無茶をしたのよ。だから、今は自分の部屋で寝ているわ」

 

 キャスターは居間を出たところにある士郎の部屋を指差した。

 

「そう・・・ちょっと様子を見てもいいかしら?」

 

「お好きなようにどうぞ。でも、無理に起こさないようにして頂戴ね。こういう時は、自然に目覚めてもらうほうがいいから」

 

「わかったわ」

 

 少女は応えて、教えられた部屋に向かった。

 

「それでは、宗一郎様。そろそろ昼食を準備いたしますわ」

 

 キャスターはイリヤスフィールの後姿を見送りながら、明るく葛木に言った。

 

()()()()()()()()()()()よろしく頼む。じきに遠坂達も戻るだろうから、結構な量が必要になるだろうが」

 

「問題ございませんわ」

 

 葛木にそう答えながら、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 目の前には布団に横たわる少年、衛宮士郎がいた。

 父親でありながら、自分たちを裏切り、そして捨てた衛宮切嗣の養子。

 彼女の手には、銀色に輝く短剣が握られている。

 

「アインツベルンの聖杯戦争は終わった・・・私達は負けた。でも、せめて私の目的だけでも果たさせてもらうわ・・・」

 

 銀髪の少女は小さく呟いた。

 彼を殺した後に、どうするかなどと今は気にする必要がなかった。

 ただ、殺せば良い。

 そうすれば、少しだけ気持ちが晴れる。

 そう思い込もうとしていた。

 短剣を振り上げる。

 

「・・・さよう・・・なら、お・・・に・・・」

 

 だが、少女は唐突に意識が希薄になっていくのを自覚した。

 自分の周囲だけが、薄い(もや)に包まれていくようだ。

 体から力が抜けていく。

 

「・・・い・・・ちゃ・・・」

 

 トンッ

 

 手にしていた短剣が畳の上に落ちて、その場に浅く刺さる。

 

 ドサッ・・・

 

 そのまま猛烈な睡魔に襲われて、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは、布団に覆いかぶさるようにして、眠りに落ちた。

 

 ザッ

 

「・・・全く手間のかかる子ばかりね」

 

 部屋の障子が開き、キャスターが姿を現した。

 彼女は足元で眠りについた銀髪の少女と、その向こうで眠り続ける少年に交互に視線をやりながら呟いた。

 

「私の目の前で、きょうだい殺しなんてさせるわけがないじゃないの・・・兄殺しなのか・・・それとも弟殺しなのか知らないけれど」

 

 その目は、憂いの色を帯びていた。

 

「ましてや本来必要のないものなら・・・・・・尚更ね」

 

 

 Interlude out

 

 




ついに登場しましたね。タクシー。
通信手段もそうですが、移動手段についてもいつも徒歩ってどうなのよって感じでしたのでイリヤにはタクシーを使ってもらいました。
なるべく葛木の対応は男前に表現しました。
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