Fate/√knight  【ムラサキノウエ】   作:わが立つ杣

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聖杯戦争開戦当日。衛宮邸土蔵より


第3話 ~1日目②~ 「開戦、そして激戦」

 E turn

 

 

「問おう。あなたが私のマスターか?」

 

 敷地内の庭に建てられた土蔵。

 そこは、オレが魔術の訓練をする場所。魔術師が構える工房に該当する(それにしてはガラクタが多すぎるが)。

 この夜、そこで金髪の少女は呆然とするオレにそう問いかけてきた。

 学校でのとんでもない戦いを見て、あの【ライダー】に助けられてから徒歩で家に帰り着いた。

 そして、オレはあの槍使い【ランサー】に再び襲われたのだ。

 家に張り巡らされた検知の結界により、襲撃には気付いた。

 魔術で強化した木刀を使って、奇跡的に攻撃を凌ぎ、この土蔵まで逃げて、そして本当に『詰み』だった。これ以上足掻いても自分ではどうにもならないという絶体絶命の状況に追い詰められた・・・

 その時、彼女が突如として出現したのだ。

 

 

 

 凛とした佇まいの金髪碧眼の少女。

 西洋の騎士がよく着ている(実物を見たことはないが。)白銀の甲冑に身を固めたその少女は、とにかく美しかった。

 

「サーヴァント、セイバー。召喚に従い参上した」

 

 彼女が突然現れたことではなく、彼女のその姿に見惚れて呆然としていると、ほんの僅かに昨日から左手甲に浮かび上がった痣が熱を帯びた。

 

「我がマスターよ。これより我が剣は貴方と共にあり、あなたの運命は私と共にある。ここに契約は完了した」

 

 そう告げるとともに、彼女は開け放たれた扉の向こう。ランサーの元へと駆け出した。

 いや、駆け出すと言うよりも、一足で飛び込んでいった。

 その手には何も持っていない。しかし、確実に何かを握っていた。

 その腕を一気に振り下ろす。

 

「サーヴァントだとっ!?」

 

 ギンッ!

 

 ランサーも何も見えなくても反射的に動き、槍でその不可視の何かによる攻撃を受けていた。

 しかし、セイバーと名乗った少女の攻撃は苛烈だった。間髪入れずに続け様に斬撃(おそらく)、を浴びせる。

 

 ガィンッ! ギンッ! ギャリッ!

 

 重い金属音が連続して響き、その度にランサーは後退する。

 オレが把握しているだけでも、この夜だけで三戦目となるランサーは、万全ではないのだろう。しかし、それを差し引いても、少女の力は非常に優れているように見えた。

 少なくともランサーはアーチャーとライダーに対しては優勢だった。

 そのランサーを少女は圧倒しているのだ。

 

「つええな!」

 

 そう賞賛を送った直後、後退する一方だったランサーは、間合いが測れないのも気にせず、自身の前に槍を斜めにすると、盾として押し出すように踏み込んだ。

 一瞬流れを断ち切られた少女は不可視の武器(おそらく剣だろう)でその前進を食い止めた。両者の武器が嚙み合った状態で、一瞬の間、力が拮抗する。

 それも束の間、二人は各々の武器を押し出すようにして、お互いを弾き飛ばした。その動きにより、両者の間に大きな距離ができた。

 これがランサーの狙いだったのだろう。

 

「あばよ!」

 

 というセリフとともに、ランサーはそのまま背を向けて大きく跳躍して門を飛び越えていった。

 

「・・・くっ!」

 

 少女は悔しそうな表情を浮かべたが、すぐに冷静になった。

 

「まあ、止むをえませんね。マスターの危機を救えたことで良しとしましょう」

 

 速さに関しては、ランサーが一枚上手と判断したようだ。

 少女は、すぐに追うことを諦めた。

 取り敢えず、状況としては当面の危機は去ったと見ていいだろう。

 こちらとしては、色々と聞きたいことだらけだ。

 彼女は自分をサーヴァントだと告げてきた。

 ということは、慎二が関与している出来事と、彼女も関係があるということだろう。

 いや、オレも関与することになったと考えたほうがいいのかもしれない。

 

「とにかく、先ずはお礼を言わせてくれ。助けてくれて本当にありがとう。えっと・・・なんて呼べばいいのかな?」

 

「私はセイバーのクラスで現界したサーヴァントです。ですからセイバーと呼んでください。マスター」

 

「わかった。セイバー。オレは衛宮士郎。士郎と呼んでくれればいい」

 

「わかりました。それでは『シロウ』と。ええ。この発音は私には好ましい」

 

 と言ったところで、突然セイバーの顔が険しくなった。

 

「もう一組、敵がこちらに向かってきています。気を付けてください、マスター。いえ、シロウ。私は全く問題ない状態です。うまくすれば、今度は逃がさずに仕留めることができるでしょう」

 

 と言うが早いか、彼女は屋敷の正門を飛び出していった。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 

 慌てて、オレも正門から外へ出る。

 既に戦闘は始まっていた。

 というべきなのか終わっていたというべきなのか。

 相手は先ほど校庭でランサーと戦っていた赤い外套を着た双剣使いの男だった。

 が、数合打ち合ったところで、セイバーの剣が彼をとらえ、ダメージを負ったのだ。

 その瞬間、後ろにいた少女が叫んだ。

 

「アーチャー!」

 

 その少女は、先ほどの校庭での戦いの際にも双剣使いと共にいた人物であり、また、オレ自身もよく知る穂群原学園の女子生徒だった。

 

 

 

 数刻後、オレの家、即ち衛宮邸の居間に、オレと二人の女子が座っていた。

 普段よくいる二人、藤ねえと桜とは全く違う闖入者だ。

 一人は自称オレのサーヴァント。セイバー。

 もう一人は、学年・・・いや学校一の優等生【遠坂凛】である。

 二人の前にはオレが淹れたお茶が置かれていた。

 

「──―というわけ。だいたい分かった?」

 

「納得できるかはともかくとして、内容はわかったよ。遠坂。オレは、その聖杯戦争ってやつに巻き込まれ、他のマスターやサーヴァントを斃していかなくちゃいけないと言うんだな?」

 

 オレは、話の概要を確認した。

 

「そうよ。この戦いからは逃げられない。覚悟を決めたほうがいいわ」

 

 先程、うちの前の路上に出た時、遠坂のサーヴァントであるアーチャーにオレのサーヴァントであるセイバーが手傷を負わせ、咄嗟に遠坂はアーチャーを消した。正確には【霊体化】というらしいが。

 そして、遠坂自身がセイバーに魔術で攻撃を仕掛けたが、それをセイバーがあっさりと突破して、切りつけようとしたのだ。

 それをオレがすんでのところで、制止した。

 何せ事情もよくわからないまま、学校の同級生をいきなり切り殺されては堪らない。

 セイバーは不満そうではあったが、何とかこちらの言い分を聞いてくれ、遠坂もこちらに感謝しつつ、お互いの事情を聞くためにオレの家に入ってもらったというわけだ。

 遠坂からは、【聖杯戦争】、【サーヴァントとマスター】、【令呪】の説明を受けた。

 オレは槍使いであるランサーと双剣使いのアーチャーの校庭での戦闘を目の当たりにし、さらにライダーとの接触もあったため、実感をもって遠坂の説明を聞くことができた。

 

「──―そして、セイバーがランサーを退けてくれたんだ」

 

 逆にこちらからは、オレが魔術師の端くれであること、弓道場の掃除からの流れで校庭での戦闘を見たこと、そしてセイバーが突然現れたことなどを説明した。

 

「ランサーに慎二が襲われそうになって、それを衛宮君が助けた。その後、慎二のサーヴァントが現れて戦闘になったのも見ていたわ。アーチャーがダメージを受けていたから、ランサーが慎二を追った時、すぐに私達は退避して物陰に隠れたのよ」

 

 ちょっと情けない話だけどね、と自嘲気味に遠坂は続けた。

 

「そのせいで衛宮君が危険に陥ることになったから、後ろめたい気持ちもあるわ。ごめんなさい」

 

「いや、ランサーとライダーの戦闘が中断されたのは、アーチャーの狙撃を警戒したからだ。見たところ、ランサーのほうが上手のように見えたから、あのまま戦いが続いていたら、ライダーが負けて、俺たちがまた襲われる可能性が高かったんじゃないかな」

 

 学校での戦いを思い出しながら、正直な感想を伝える。

 

「結果的に、あの場に遠坂達の姿が見えなかったことで助けられた部分もあるから、おあいこだろう」

 

「驚いた。衛宮君、状況判断が的確なのね」

 

 遠坂が少し感心したように、口に手を当てた。

 

「それに、ライダーとランサーの戦闘も素人目には拮抗していたように見えたんじゃないかしら。衛宮君は確か弓道部には所属していたと思うけど、他にも何かやっていたの?」

 

「藤ねえ・・・いや、藤村先生とは昔からの知り合いだから、剣道は多少できる。この敷地内に道場もあるしな」

 

「成程ね。能ある鷹は何とやらというか・・・いいえ、私自身が認識している事なんて当てにならないってことよね。慎二がマスターだったことも完全に想定外だったわけだし・・・」

 

 遠坂は、そう言いながらお茶を啜った。

 

「慎二もマスターなんだから、魔術師なわけだろ。あいつ自身、サーヴァントを従えていることを誇らしげにしていたし。魔術師って基本的には魔術協会に所属していて、少なくとも近場の魔術師くらいは把握しているもんじゃないのか?」

 

「ええ。あなたの言う通り、慎二の家系が魔術師であることは知っているわ。でも、あいつは魔術師じゃない。これは断言できるの。衛宮君は、レベルはともかく魔術が実際に使える。でもあいつは『全く』使えないの。それは確か。魔術回路がないんだもの」

 

「ということは、魔術師であることは、マスターであることの必須条件ではないってことだな?」

 

「そうね。私の認識とは違うけど、現実として受け入れざるをえないわね。確かにマスターの役割は、召喚と魔力供給だけなんだから」

 

「令呪はどうなんだ?」

 

「基本的には令呪でサーヴァントを制御するんだけど、もし、サーヴァントの間に絶対の信頼関係があれば、令呪がなくてもサーヴァントが『マスター』と認めればマスター足りうる。魔力は自前の貯蔵と、別の手段による供給も可能だから」

 

 別の手段による魔力供給が何なのか気にはなるが、それ以上に聞きたいことがある。

 

「そもそも、何で遠坂はオレの家に来たんだ?校庭の場面を最後まで見ていたんなら、ライダーのマスターがオレじゃないってこともわかったんだろう。『一般人』のオレを殺しにきたわけじゃないよな?」

 

「そんなわけないじゃない!」

 

 と叫んで、顔を赤くした。

 まずい。本気で怒らせたか?

 

「ランサーがあなたを殺しに来るかもって思ったからよ。あの場では一旦離脱しても、基本的には聖杯戦争は秘匿されるべきもの。マスターである慎二は、逆に聖杯戦争の参加者なわけだから後は単純に競い合う相手になるけど、あなたは知るべきでない事情を知った一般人だから」

 

 ということは、オレは、オレを助けようとした相手を危うく殺すところだったことになる。

 申し訳ない気持ちでいっぱいになり、顔と心臓が一気に熱くなった。

 

「すまないっ!遠坂。このとおりだ!オレは自分を心配してくれたやつを間違って殺しかけちまった!」

 

 両手を正座した膝に置き、テーブルにぶつかる直前まで頭を下げて謝罪した。

 

「え?・・・や・・・やめてよ。衛宮君。私はそんな助けるつもり・・・だったのは確かだけど・・・」

 

 遠坂は大いに慌てて、両手を振った。

 

「そもそもこれは戦争。あなたはマスターでサーヴァントを召喚した。私はそれと知らずに、ノコノコとあなた達の目の前に現れた。そして、私たちは戦闘になって、私が負けそうになった。簡潔に言えばさっきの状況はそれだけなの」

 

 その場限りでオレへの配慮から言っているだけではなく、遠坂が本気で言っているのがわかった。

 つまり、彼女はそれだけの覚悟を固めて、この聖杯戦争に臨んでいるということなのだろう。

 

「遠坂の覚悟はよくわかった。それでもオレの謝罪の気持ちは変わらない。そして、お前がすごくしっかりしていて、それでいて、思いやりのある人間だってことはよくわかったよ。オレ、お前みたいなやつは好きだ」

 

「へ?」

 

 遠坂の顔が一層真っ赤になる。

 あれ?オレ、今おかしなこと言ったか??

 

「だから、お前と戦うことにはならないよう努力する」

 

「・・・そう・・・私もあなたがどんな人間だか、わかったような気がするわ。でも、この戦いはそんなに甘くはない。今は、まだ受け入れきれていないと思うけど、すぐにわかるわ」

 

 遠坂はオレの意思を受け止めたうえで、しっかりと忠告をしてくる。

 真っ赤になっていた顔は、既に落ち着きを取り戻している。

 

「ちょうどいいわ。衛宮君には今日のうちに顔を出してほしいところがあるの。私も一緒に行くわ」

 

 そう言って、遠坂は立ち上がった。

 

 

 

 遠坂がオレを連れて行くのは、新都側にある【冬木教会】とのことだった。

 歩くと1時間ほどかかる。

 その道すがら、オレはセイバーと少し話すことにした。家の中では殆ど彼女と会話できなかったからだ。

 

「セイバー、お前は何か聖杯に託す望みがあるのか?オレはまだこの聖杯戦争というものについて否定的だ。遠坂は避けられないと言っていたが、今のところ積極的に関わる理由がないんだ」

 

「シロウ。出会ってまだ僅かな時間でしかないが、あなたの気質は概ねわかってきている。私を召喚したのも偶然ということもわかったし、魔術師であるが、殆ど一般人と変わらない。魔力供給も決して潤沢とは言えない」

 

「すまないな」

 

「いいえ。私は、マスターがあなたであったことについては、否定的ではない。むしろ好ましいと思っている」

 

「え?」

 

「先ほどの遠坂凛との会話を聞いていたが、私に出会う前の行動や、戦闘に対する見識は十分に誇っていい。あなたの勇気や聡明さ、そしてその気質は私にとっては好ましいものだ」

 

 オレ、今、物凄く褒められているのか?

 

「ですから、運悪くこの戦いに巻き込まれてしまったあなたが、戦わないという結論に至ったとしても止むを得ないと思っているし、尊重する。そのようなあなたがマスターとなったのは運命だったということだ」

 

 セイバーの言葉は、全て本心から発せられるものなのだろう。一言一言に重みがある。

 

「勿論、私としては残念ですが、その場合には、私自身の望みが叶うような次善の方策を考え、実行するだけです。戦場では常に最善の道が開けるわけではない」

 

 オレは召喚したのがセイバーで本当に良かったと思った。

 彼女を召喚できたのは、このうえもない幸運だったのだ。勿論、彼女の強さも含めてだが、この高潔で清廉な心構えがどれほど尊いものか、オレにも十分に分かった。

 

「ありがとう。召喚したのがセイバーでオレも本当に良かったと思う。実際、セイバーがいなければ、間違いなくオレは殺されていた」

 

 と口にしてふと、あれ?全く同じ言葉を口にしているなと、気付いた。

 それは、あの紫色の髪のサーヴァントだったと、頭を過った。

 

「セイバーは紛れもなくオレの命の恩人だ。そして、セイバーにも望みがある。そのことも考慮したうえで、オレはこれからの行動を決めることにする」

 

「ありがとうシロウ。ですが、あなたは自分が正しいと思う決断をすればいい。その結果によって私があなたに対して負の感情を抱くことは決してないと、この場で誓います」

 

「わかった。本当にありがとう」

 

 オレは、セイバーの言葉の全てを受け止めて決断することを心に誓った。

 

 

 

 やがて教会に到着し、主である神父【言峰綺礼】から、聖杯戦争に関する情報を一通り聞かされた。

 オレにとって殊更に重要だったのは、この儀式が既に5回繰り返されていて、しかも10年前に起きた前回の戦争の爪痕があの大火災であるという点だった。

 オレはその事件の被害者だった。

 その大火災で両親と妹をなくすとともに、オレ自身も生死の境を彷徨い、養父である【衛宮切嗣】と出会うことになったのだ。

 それは、決して忘れることのできないものであり、間違いなく今もオレを規定する出来事であり続けている。

 即ち、この儀式に参加するための理由となりうる真実であった。

 

「戦うしかない」

 

 結果的に、先刻セイバーと話し合った時の懸念が実現するような決断には至らなかったわけだ。

 

「喜べ少年。君の願いはようやく叶う。たとえ君にとって容認しえぬものであろうと、正義の味方には倒すべき悪が必要だ」

 

「なんだと・・・?」

 

 オレが心に抱く『正義の味方』への憧れと執着。

 その何をこの神父が知り得ると言うのだろうか。

 

「君の葛藤は人間としてとても正しい。忠告だが、帰り道には気をつけたまえ。これより君の世界は一変する。君は殺し、殺される側の人間になった」

 

 神父の言葉が礼拝堂内に重く響く。

 その言葉は殆どが真実だろう。

 しかし一つだけ違う、とも思った。

 オレの世界は、あの校庭での出来事に遭遇した時点でとうに変わっていたのだ。セイバーには参加を決めかねていると伝えたが、神父の話を抜きにしてもオレはこの戦いに関わる決断をしていただろう。

 この聖杯戦争には、既に慎二と遠坂というオレが知っている人物が関与している。

 それだけではなく、サーヴァントであるセイバーやそしてライダーも・・・

 サーヴァントも人間だ。

 

「もう、目を瞑ってやり過ごすなんてできない」

 

 例え参加することで、目を背けたくなるような事態を目の当たりにするのだとしても、無関心を装うことなど不可能になっていたのだ。

 そう思いながら、教会を後にした。

 

 

 

「それじゃあね。衛宮君。あなたが戦うと決めたからには、ここからは馴れ合えない。私とあなたは敵同士。次に出会ったときには容赦しないからそのつもりでいてね」

 

「遠坂の意思はよくわかった。けれど、オレはオレなりのやり方でこの争いを止めるつもりだ。遠坂はいいやつだし、頭もいい。オレの存在が、遠坂にとってプラスになり得るなら助け合える可能性がある筈だ」

 

「・・・そうね。あなたの言い分は正しい。お世辞も冗談も抜きで、あなたの活躍に期待しているわ。それじゃお先に」

 

 遠坂はそう言って、協会の敷地を後にした。

 実際には、ここからだと遠坂の家も、オレの家も方向は同じなので、途中まで同行するのが自然だったのだが、彼女なりのけじめというやつだろう。

 オレもそれを尊重して、少し間を空けることにした。

 セイバーに改めて話すこともある。

 

「セイバー。神父の話を聞いて、オレはこの戦いに参加することに決めた。正直なところ、個人的な理由ができたんだ。ただ、セイバーの望みを叶えるために、積極的に他の参加者を斃すという動き方にはならないと思う。それでも、オレをマスターとして認めてくれるか?」

 

「シロウ。最初に言ったはずだ。剣としての私をあなたに捧げると。そして、先ほどもあなたの性質を理解したうえで、マスターとして認めると伝えた。あなたの迂遠さは既に受け入れている」

 

「ありがとう」

 

 そうとしか言えない。セイバーの言葉には感動すら覚える。

 こんなオレを認めてくれるのだから。

 

「改めてよろしく頼む。セイバー」

 

 そう言って右手を差し出す。

 

「こちらこそ。シロウ。決して楽な道程ではないでしょうが、あなたとなら苦難を乗り越えていけると信じている」

 

 セイバーもしっかりとオレの手を握り返してくれた。

 紛れもなく少女の手。しかし、それはこの上もなく頼もしい騎士の手でもあった。

 

 

 

 取り敢えず、今日は家に戻ることにした。

 オレもセイバーも既に複数の戦闘に遭遇している。

 少し落ち着いて、これからの方針について考えたいし、お互いの理解を深めたいということで意見は一致した。

 そして、深山町方面に向けて歩き出したのだが、新都と深山町を繋ぐ橋付近の公園でそれを目撃することになった。

 

「なんなんだ・・・あれは?」

 

 戦っているのは、遠坂のサーヴァントであるアーチャーと、身の丈2mを遥かに超える灰色の巨人だった。

 遠坂達がオレに背を向ける形となっている。おそらく、オレ達と別れた後、深山町に戻ろうとしていたところで、相手のサーヴァントに遭遇したのだろう。

 間が良すぎることも考慮すると、待ち伏せされたのかもしれない。

 巨人のサーヴァントの後方には、可愛らしい銀髪の少女がいた。その顔には笑みが浮かんでおり、余裕が感じられる。察するに彼女が巨大なサーヴァントのマスターなのだろう。

 

「──―■■■■■■■■■■──―!」

 

 ひょっとして狂っているのだろうか?

 人の声とは思えない、奇音を発しながら巨人は石でできた巨大な剣を、凄まじい速度で振り回していた。

 だが、振り回すという表現は正しくはないかもしれない。音にならないその雄叫びをあげながらも、巨人の奮う剣筋には理があった。 

 速過ぎて殆ど視認できないが、それはわかった。

 

「これは、キツイな!」

 

 その重く、かつ合理的な斬撃をアーチャーは2本の剣で流したり、かわしたりしながら対応していた。まともに受け止めれば、それだけで腕が砕けそうな攻撃だ。

 アーチャーは安易に受け止めたりしないよう腐心しているようだった。

 しかし、じり貧だ。

 アーチャーは既に今日三戦目だ。しかも、それぞれの戦闘でダメージを負っている。

 そして、全ての戦いで白兵戦を強いられている。

 アーチャーというからには、本来、遠距離での戦いが得意なはずだが、いずれもマスターである遠坂が敵のサーヴァントの近くにいる状態であるため、離れるわけにはいかない。

 今もまさしくその状況にある。

 今のところ、巨人は遠坂を狙う素振りは見せないが、アーチャーが大きく距離をとれば、遠坂を標的にするだろう。

 

「それにしても・・・」

 

 学校で見た時もそうだったが、アーチャーの戦いは理屈抜きで、オレの心を揺さぶる。

 どうしても目が離せない。心に直接響いてくるのだ。

 憧憬、親近感、既視感などの言葉が連想されるが・・・

 これは、『目指すべき姿』なのかもしれない。

 そんなオレの心中に構うことなく、戦いは展開する。

 

 ドンッッ!

 

 凝縮された重い爆発音が響く。

 戦闘の最中、アーチャーと巨人の間合いが少し空いたところで、遠坂が魔術を放ったのだ。

 ここからでははっきり見えないが、何かを投げ、それが巨人に着弾したところで、爆発したようだ。

 かなり強力な魔術であることは、オレでもわかるが、巨人は全くダメージを受けていない様子だ。

 しかし、一瞬意識はその攻撃に割かれたようだった。

 

「出し惜しみなどできる状況ではないな!」

 

 その間、聞き取れない内容の詠唱をしていたアーチャーが叫ぶ。

 

鶴翼三連(かくよくさんれん)!!」

 

 と叫ぶと同時に巨人に向けて、持っていた双剣を両方とも投じた。

 双剣は(あやま)たず巨人の首に挟み込むように飛んでいく。

 巨人は反射的にそれらを剣と、拳(!?)で撃ち落とすが、一方のアーチャーは、投擲と同時に一気に間合いを詰めている。

 その手には既に新たな双剣があった。

 ランサーとの戦いでもそうだったが、アーチャーはあの剣を何本も簡単に『作り出せる』ようだ。

 そして、

 

同調(トレース)開始(オン)

 

 何だって?

 微かに、しかし、確かに聞こえた。

 何万回と耳にしたフレーズ。

 それは何万回とオレの口から発せられことのあるフレーズだった。

 頭が混乱した。

 それがアーチャーの口から発せられたのだ。

 そのフレーズとともにアーチャーの構えていた双剣が一回り大きくなり、剣の背にも羽のような装飾が現れた。

 剣の性能を強化したのがわかった。

 さらに、最初に投擲して弾かれた双剣が、いずれも弧を描き、巨人に背後から襲いかかっていく。

 そのタイミングに合わせて、アーチャーは手にした左右の双剣をほぼ同時に斬りつけた。

 巨人は、背後から襲ってきた双剣に気が付き、反射的にそれを剣で再度弾いたことで、正面からの剣戟に対する防御が疎かになった。

 その隙をついたアーチャーの正面からの攻撃が、巨人の首に直撃した。

 

 ザシュッ!

 

 双剣が太い首に食い込み、血飛沫が上がる。

 

「──―■■■■■■■■■■──―!!」

 

 アーチャーは間髪入れずに再度双剣を作り出し、

 

同調(トレース)開始(オン)

 

 もう一度強化。

 手にした双剣をさらに先ほど攻撃した箇所に重ねるようにして巨人の首を切り裂いた。

 明らかに致命傷となる攻撃だった。

 巨人の首からは、夥しい量の鮮血が吹き出しており、頭も半ば傾いでいる。

 下半身が崩れ、膝が地面に着く。

 いくらサーヴァントが常人離れした存在であったとしても、間違いなく戦闘不能になったはずだ。

 

「よくやったわ!アーチャーッ!」

 

 遠坂が喝采を上げる。

 しかし・・・

 マスターであるはずの銀髪の少女の顔には焦りの色が浮かぶどころか、先ほどまでと全く変わらない笑みが浮かんでいた。

 

「意外とやるわねアーチャー。まさかあたしのバーサーカーを1回殺すなんて」

 

 1回?1回ってなんだ?

 

「宝具を見てもどこの英霊かはよくわからないけど。立派なものよ。でもね・・・」

 

「──―■■■■■■■■■■──―!!!」

 

 巨人の雄叫びが大気を切り裂いてここまで届く。

 そして、その体に揺らぐ黒炎が纏わりついたかと思うと、首の傷が見る間に修復され、何事もなかったかのように立ち上がったのだ。

 

「なにっ!?」

 

「そんなっ!?」

 

 アーチャーと遠坂が同時に驚愕の声を上げる。

 それはそうだ。明らかに相手を斃したと安堵したはずだ。

 

「あたしのバーサーカーは12回斃さないと、殺せないのよ」

 

「は?そんなのアリ!?」

 

 遠坂が思わず、突っ込んだ。

 無茶苦茶だ。いや、ハッタリなのかもしれないが、事実だとしたら反則としか言いようのない能力だ。

 宝具なしの白兵戦では、明らかにアーチャーは分が悪かった。ランサーと互角に近かったアーチャーがだ。

 それだけの戦闘能力を有するサーヴァントを12回殺さないと斃せない?

 

「シロウ!」

 

 隣のセイバーがオレに声を掛けてくる。

 今までは少し離れた位置で巨人、バーサーカーとアーチャーの戦いを遠巻きに見ているだけだった。

 実際、先ほどの攻撃で、アーチャーが勝っていれば、オレ達は関与することなく、この場から離脱することができたのだが。

 ここは判断のしどころだ。

 だからこそ、セイバーはオレに指示を仰いできた。

 彼女がどういった出自の英霊なのかは、まだわからない。

 しかし、その戦闘力や聡明さから、間違いなく高名な英雄だったに違いない。

 そんな彼女が自尊心を押さえて、オレみたいな素人をあくまでもマスターとして立てて、意見を求めてくることに感謝した。

 

「オレをマスターとして信じてくれているんだな」

 

「勿論です」

 

 どんな決断にせよ、迅速かつ覚悟を持って実行すべきだ。

 アーチャーは先ほどの攻撃や学校で見せた盾など、多様な宝具を使いこなし、白兵戦もしっかりとこなせる優秀なサーヴァントだが・・・

 12回斃さなければならないという先程の少女の言葉をそのまま信じるのは危険だが、このまま戦えば遠坂とアーチャーが勝つのはほぼ不可能だろう。

 だが、そこにオレ達が加勢すれば状況は変えられる。

 セイバーは今日3戦目だが、ランサー、アーチャーとの戦いは短時間で終わっており、消耗は僅かだ。

 ほぼ万全の状態と言える。

 そして何より、

 バーサーカーのマスターである少女の目がオレの視線と交わり、

 

 ・・・くすり。

 

 と笑った。

 オレ達に気付いたのだ。

 セイバーと視線を合わせると、オレと同じ結論に至っているのがわかった。

 

「セイバー。アーチャーに加勢してくれ!バーサーカーは強敵だ。今後、聖杯戦争がどんな展開になっても、いずれは相対しなくてはいけない大きな相手になる。」

 

 ここでアーチャーと共闘してバーサーカーに対処しないと、各個撃破されることになり兼ねない。

 

「了解しました!シロウ!」

 

 同意の言葉と同時に、セイバーがバーサーカーに向けて駆け出した。

 

「セイバー!?衛宮君も!?」

 

 オレ達に気付いた遠坂が振り向く。

 

「あいつは、協力しないととても対処できる相手じゃない」

 

 オレは遠坂に駆け寄って行く。

 

「そうね。アーチャーもよくやってくれたんだけど・・・あれだけ強い上に復活するなんて反則よね」

 

「ああ。接近戦はセイバーが対応して、アーチャーが遠距離から狙撃する形をとれば、勝機はあると思う」

 

「そうね」

 

 遠坂が頷く。

 

「はあぁぁっ!!」

 

「──―■■■■■■■■■■──―!」

 

 セイバーがバーサーカーと剣を交え始めた。

 アーチャーは状況を察して、距離を取る。

 

「アーチャー!あなたは離れて本来の戦い方をして!でも、セイバーを巻き込まないよう決定打を放つ時には合図するのよ!」

 

「了解した、凛。正直、もう打つ手がなかった」

 

 そう言って、アーチャーは橋の方角へと向かった。

 

 ガイイインッッ!!

 

 バーサーカーの打ち下ろした岩剣をセイバーが受け止め、弾き返す。

 二人は身長で1m近くの差があるが、その攻撃を弾き返すなど客観的に見れば冗談にすら思える。

 が、それをセイバーは実現している。

 そのうえで、

 

「つぁぁぁっ!」

 

 そのまま、バーサーカーの足に斬撃を浴びせた。

 

「くぅっ・・・!」

 

 しかし、その攻撃は全くバーサーカーには通じなかったようだ。

 アーチャーが双剣で攻撃していた時もバーサーカーはダメージを受けていなかったようだし、遠坂の魔術もそうだった。

 一定水準を超える攻撃でないと、通じないということだろうか。

 

「それならば!」

 

 今まで剣の周囲を覆っていた風が払われ、剣本体が露わになった。

 美しい両刃の刀身が月光を反射し、白銀に輝く。

 打ち込んでくるバーサーカーの一撃を、綺麗に避けながら踏み込み、袈裟切りに剣を振るう。

 バーサーカーはその斬撃を避けようとするが、切っ先が体に届き、血が舞った。

 攻撃が通じるようになったのだ。

 その時、

 

「離れて!セイバー!」

 

 遠坂の声が響いた。

 

螺旋剣(カラドボルグ)!」

 

 アーチャーの声が聞こえ、同時にセイバーは反射的に後方へと退いた。

 

 ドンッッッッッッッッッッ!

 

 アーチャーの放った強烈な一撃が灰色の巨人に直撃し、その全身は炎に包まれていった。




ここは最も変更しようのなかったパートになりますので、退屈させてしまったかもしれません。
お読みいただいた方は本当にありがとうございます。

※タイトルつきました。
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