Fate/√knight  【ムラサキノウエ】   作:わが立つ杣

32 / 45
臓硯とアサシンの襲撃を凌いだ後。


第32話 ~13日目②~ 「FD」

  

 E turn

 

 

「衛宮君の作るご飯もこれで当面お預けね」

 

「そういうことになるわね。残念だわ、お兄ちゃん」

 

 この後、遠坂とイリヤを送るために教会に向かうが、今はオレとライダーを含めて4人で朝食兼昼食を食べている。

 セイバーが伝えてきた内容を全面的に信じているわけではないが、一定の信憑性はあるように感じられた。

 アサシンとの戦いでライダーも疲弊していた。

 万全の状態で教会には向かいたかったため、食事の後に行動することにしたのだ。

 料理を作ったのはオレだけだ。

 昨日まではキャスターがいたし、その前は桜もいた。アーチャーは頭数に入れないとしても、うちの料理人が随分と減ってしまったものだ。

 

「本当に色々とお世話になったわ。あなたと一緒に戦った私の判断は間違っていなかったって自信を持って言える」

 

 食べ終えた遠坂が真剣な表情でオレを見詰めてくる。

 

「寂しくなりますね。士郎」

 

「そうだな。だけど、必ずまたみんなで一緒に食事をしたいな。その時は、4人で作るのもいいかもしれないな」

 

「そうね。私の料理の腕を見せてあげるわ」

 

「私もシロウが教えてくれるなら頑張るわよ」

 

「私にもできるでしょうか・・・」

 

 三者三様の反応が返ってくる。

 本当にこの戦いの後、無事に再会できるのか、正直なところオレは不安に思っている。

 だが、それを口に出してしまえば、現実が侵蝕されてしまいそうだ。

 

「ねえ、シロウ。これ観て」

 

 ちらちらとテレビを気にしていたイリヤが声を掛けてきた。

 画面を見ると、ビルの入り口から出てきた担架に乗せられた人々が、救急車に乗せられていく映像が流れていた。

 

『本日の朝、新都のオフィスビルで30名程の従業員が意識を失っているのが発見されました。全員、命に別状はないようですが、病院に搬送されたという事です』

 

「昏睡事件か?」

 

 嫌な予感がした。

 

「これ、前にキャスターが魔力を集めるためにやっていた時と同じかもしれないわね・・・」

 

 経緯は、この家に来た最初の頃にキャスター本人から聞いていた。

 オレはその時、この屋敷に滞在する以上、一般人に危害を及ぼすような魔力集めは止めるように要求しており、彼女は大人しく頷いてくれた。

 実際のところ、完全に止めていたのかは疑念を抱いていたが、少なくとも、昏睡事件としてニュースになるほどの『おいた』はしていなかった筈だ。

 

「再びこれをやり始めたってことは・・・」

 

「ええ。キャスターは自分で何かをしようとしているのでしょう」

 

 ライダーの言葉はおそらく正しいだろう。

 だが、考えようによっては、これは朗報なのかもしれない。

 いや、勿論、一般人を昏睡させているのは大問題だが。

 

「キャスターが自分で魔力集めをしているってことは、桜に取り込まれていないってことでもあるな」

 

「ああ・・・・・・それは確かにそうですね」

 

 ライダーは虚を突かれたようだった。

 

「何とかキャスターと接触したいな」

 

 昨日、キャスターが遠坂の治療をした点については、向こうがそもそも彼女を敢えて殺さないことを目的としていたと考えれば合点がいく。遠坂に魔術を使えなくさせ、精神的な苦痛を与えることが重要だったのだ。簡単に死んでもらっては困るということだろう。

 しかし、オレやライダーに対して何も手出しをしてこなかったというのは、敵陣営に取り込まれていないことの証左とも考えられる。

 このニュースもそれを裏付けていた。

 

「楽観的な見方なのかもしれないけど、それで状況を変えることができると思っている」

 

「承知しました。士郎は、キャスターを信じているのですね」

 

「ああ」

 

 そのためには、キャスターの居所を掴む必要がある。

 

「遠坂とイリヤを教会に送ってからでも、桜が指定してきた時刻までは時間がある。新都側でキャスターの行方を追ってみよう」

 

「承知しました。士郎」

 

 ライダーが頷く。

 

「それから遠坂、悪いんだけど後で教えて欲しいことがある」

 

「何かしら?」

 

 オレはその内容を遠坂に告げた。

 真っ当に英霊を召喚したマスターなら、必ず知っていることを遠坂に教えてもらいたかったのだ。

 必要になるかはわからないが・・・

 

「わかったわ。道すがら仕込んであげる」

 

 遠坂は快諾してくれた。

 

「ところで、桜の誘いに応じるわけね?罠の可能性が高いと思うけど?」

 

「接触の機会があるなら、それは逃せない。桜と直接話すチャンスでもあるし、見せたいと言っているものを確認することで、意図や目的を探る材料にもなる」

 

「そうね。あなたらしいわ。明確で合理的だわ。それについては、私からは何も言うつもりはないけど・・・」

 

 遠坂がオレとライダーを交互にジロジロと見た。

 

「何だよ?」

 

「何でしょう?」

 

 オレとライダーは戸惑いながら、問う。

 その反応に対して、遠坂は、はあ、と大きくため息をついた。

 

「あんた達、少しは恋人らしいことをしたらどう?」

 

 

 

「あいつ、近所のお節介おばさんみたいになってきたな・・・」

 

 本人が聞いたら殺されそうな、というか間違いなく最低10回は殺される内容だったので、慌てて口を噤んでオレは周りをキョロキョロ見てしまった。

 今、オレとライダーは教会の門を出たところだ。

 当然、隣にライダーがいる以外、人影はない。

 

「やはり昏睡事件の犯人はキャスターということで、間違いないようですね」

 

「そうだな。そのこと自体はともかくとして、確証を得られたことは悪くない」

 

 遠坂とイリヤを教会まで送ってきたが、道中は襲撃を受けることもなく、すんなりと到着した。

 そのまま立ち去って、新都の中心街に向かおうと考えていたが、昨日起きた昏睡事件の情報を言峰なら知っているのではないかと思って確認してみたところ、

 

『お前の推測どおり、あれはキャスターの仕業だろう。以前と遣り口が同じだからな。ただし、程度という点では少し変化がある』

 

『変化?』

 

『被害者の容態は以前よりも軽くなっている。まあ、元々キャスターの魔力集めは、採血のように丁寧な仕事だった。そちらの御仁と比べればな』

 

 などと言いながら、ライダーを見てニヤリとしていたわけだ。

 

「無駄になるかもしれないけど、現場に行こう」

 

「そうですね」

 

 

 

 テレビで放送されていた昏睡事件現場のビルに行き、周囲も含めて魔力の残滓を追ってみたが、残念ながら追跡の手掛かりになりそうなものは発見できなかった。

 

「申し訳ありませんが、わかりません。やはりキャスターが本気で隠そうと思えば私程度が探ったところでどうにもならないということでしょう」

 

 と、ライダーもお手上げ状態であった。

 

「ですが、一般人30名程度の魔力では、彼女にとっては、まだまだ物足りないでしょう」

 

「何か本気で行動を起こすための準備をしているのなら、今晩も動く可能性が高いってことだな」

 

「そうですね」

 

 夜間でも人が密集しているような場所を警戒していれば、運良く鉢合わせになる可能性があるかもしれない。

 現在は、夕方。

 薄暗くなりつつある時間帯だ。

 ライダーと話し合った結果、もう少し時間が経ったところで、本格的に巡回してみることになった。

 

「それでは、士郎。少しだけ、離れますので、そこのベンチでお待ちください。すぐに戻ってきますので」

 

 と言い残して、ライダーはオレをベンチに残して、路地を曲がっていった。

 唐突な行動だった。

 

「?」

 

 オレは、ライダーが何をしようとしているか全くわからなかった。言われるがままにベンチに向かったが、ふと思いなおして、近くに設置されていた自動販売機でコーヒーを2本買った。

 

「コーヒーはどっち派なんだろうか?」

 

 ライダーは紅茶を飲む時には砂糖を入れていたので、砂糖入りのほうが好きな気がしたが、念のためブラックも購入した。オレはどっちかと言うと砂糖入りのほうが好きだが、ライダーの好みに合わせるつもりだ。

 彼女がブラックを飲むのは、それはそれで似合っている気がした。

 

「士郎、お待たせしました」

 

 ベンチに座って、ぼんやりとコーヒー缶を弄びながら待っていると、ライダーの声が聞こえた。

 だが、顔を上げても彼女の姿は見当たらなかった。

 

「あ、士郎、申し訳ありません。こちらです」

 

 改めてその声のほうを見ると、車の運転席に乗ったライダーが助手席側の窓を開けて、呼びかけてきていた。

 

「は?」

 

 想定の遥か斜め上をいく状況に、オレは間抜けな声を出してしまっていた。

 どういうことでしょうか?ライダーさん。

 

「失礼しました」

 

 そう言うと、ライダーはハザードを点けたまま、運転席を降りてこちらに歩いて来ると、そのままオレの肘を取って、助手席へと誘った。

 

「え?え?」

 

 

 全く状況についていけないオレは、戸惑うままに、抵抗することを考えることすらできず、助手席に収容された。

 説明ぷりーず・・・

 車種など全くわからないが、外観は、フロントの長い黒いスポーツカータイプ。

 振り返ってみると、リアシートは申し訳程度のスペースしかなく、明らかに走りを楽しむための車ということがオレでもわかる。

 

「・・・あの・・・ライダーさん。この車は?」

 

「先ほど偶然見かけまして、格好いいなあと」

 

「レンタカーということかな?」

 

「そうですね。借り物という意味では同じかと」

 

 オレは、この車の出所をこれ以上追求しないと決めた。

 真実に辿り着くことが、常に正しいとは限らない。

 

「これだけは確認するけど、人を殺めてはいないですよね?」

 

「士郎。私をそこまで信用していないのは心外です。ご安心ください。ちょっといい夢を見てもらっているだけです。この車だってちゃんと返しますよ」

 

「そうですか。それならいいです」

 

 もうどうでも『いい』という意味かもしれなかった。

 

「で、これってひょっとして?」

 

 聞くまでもないが、確認する。

 

「ええ。ドライブデートと呼称されているものです」

 

「ですよね」

 

 できればハンドルを握るのは、オレでありたいところだったが、現実的に運転できるわけもない。

 ライダー本人も運転したかったのだろう。

 餅は餅屋とはこのことだ。

 

「凛に言われたことに触発されたというわけではないのですが。一度、士郎と一緒にドライブしてみたいと思っていたのです」

 

「うん。わかった。そう思ってくれるのは嬉しいよ」

 

 オレは、開き直りという名の魔術で自我を保つことに成功した。

 オレも一人前の魔術師になりつつあるということだろう。

 ライダーがアクセルを踏む。

 正直、スピードメーターが振り切れることを覚悟していたが、意外にも安全運転だった。

 

「ライダー・・・ちゃんと交通ルール守るんだな。良かった」

 

「当然です。免許がありませんので、捕まったら一巻の終わりです」

 

 矛盾の塊のような問答だ。

 

「そうだな。免許を持っている筈がないもんな」

 

 まあ、パトカーとカーチェイスになって、ライダーが捕まるわけはないのだが。

 ライダーが、現代の乗り物であろうと、普通の人間を遥かに超える技量で乗りこなせることは知っている。

 当然ですが、これは英霊だから許される(?)のであって、良い子の皆さんはちゃんと免許を取ってから、運転しましょうね。と、なんとなく心の中で呟いてみる。

 

「どこに行くんだ?」

 

「特に決めていません。ただ、信号が多いところだと、全く爽快感がありませんね」

 

「じゃあ、郊外に向かおう。アインツベルンの城の方向だ」

 

「はい」

 

 ライダーが嬉しそうに返事をして、少しだけアクセルを強く踏みこみ、ギアを上げた。

 オレにはよくわからないが、クラッチ操作というやつも極めてスムーズなように思われた。

 

「そうだ・・・」

 

 オレは、自分の手元を改めて思い出した。

 自動販売機で買った缶コーヒーが2本ある。

 

「ライダー。コーヒーはブラックと砂糖入りどっちがいい?」

 

「ありがとうございます。先ずは士郎が好きなほうをお取りください。私は残りで大丈夫ですよ」

 

 ライダーが微笑んだ。

 

「むむ・・・」

 

 オレは少し考え込んだ。

 先程も悩んだが、ライダーがコーヒーを飲んでいるのを見たことがなかった。紅茶の時は砂糖を入れるが、コーヒーでは違うということもあるかもしれない。

 考えている間、彼女がチラチラとこちらを気にしているのがわかった。

 こんなことでいちいち悩む男は、優柔不断な気がしたので、オレは砂糖入りのほうをライダーに渡そうとした。

 

「ふふ」

 

 するとライダーは、手を伸ばしてきて、ひょいとブラックのほうをオレの手から抜き取っていった。

 そのまま彼女はハンドルを右手で握りながら、左手だけでプルトップを開けるとコーヒーを飲む。

 実に様になっている。

 と、見惚れたいところだが、オレはかなり慌てた。

 

「え?あれ?」

 

 なんか気に障ることをしてしまっただろうか?

 渡そうとした缶とは、逆を持っていかれてしまった。

 

「士郎。あなたは、砂糖入りのほうが好きでしょう?」

 

 ちらりとライダーが流し目をくれる。

 

「・・・あ・・・いや・・・」

 

 確かにそうだ。

 

「あなたの好みを優先するように言ったのに・・・」

 

 ちょっと非難するような目だ。

 

「ごめん」

 

 確かに、これでは彼女の話を聞いていなかったように思われたかもしれない。

 

「ふふ」

 

 ライダーがふわりと穏やかに笑う。

 一瞬、目を閉じながらハンドルを握る彼女もまた綺麗だ。

 

「仕方ありませんね。それがあなたなのですから」

 

 でも、と続けた。

 

「私に対しては、自分を優先するようになってください。()()()で構いませんから」

 

「・・・え?」

 

 いつか?

 つまりこの戦いが終わった後でも構わない、ということだろうか?

 それは、オレ達には許されない言葉の筈だった。

 

 

 

「ここからだと、冬木の街が一望できますね」

 

 郊外に出て車を暫く走らせると、ダラダラと登りが続く道になっており、左手に冬木の街並みの全貌が見えるようになってきた。

 陽が殆ど沈み、僅かにその光の残滓が街を浮かび上がらせており、建物や車は人工の明かりを灯し始めている。

 

「停めますね」

 

 ちょうどいい具合に、展望用に車を停められるパーキングがあったので、ライダーはそこに車を入れた。

 

「こんなところがあるんだな」

 

 車を運転しないオレには縁のない場所だ。

 外に出ると少し風があり、冷えた。

 

「気持ちいいですね」

 

 ライダーが運転席を降りて、オレの隣に立つ。

 薄紫色の髪が風に揺れる。

 彼女はいつものハイネックセーターだけで、上着を着ていないが寒さを感じないのだろうか?

 戦闘時の服はとても寒そうだが、平気みたいだし。

 それでも、オレは自分のコートを脱いで、彼女に着せた。

 

「ありがとうございます」

 

 また、自分を優先してくれと断られるかと思ったが。

 

「男性の心遣いは、素直に受け取るものですよね」

 

 オレの心のうちを見透かしたように、彼女が微笑んだ。

 

「ああ。くだらない男の見栄ってやつだな」

 

「くだらなくなどありませんよ。いいえ、表面だけの男の場合は、そうかもしれませんが。士郎が私を本心から気遣っているのはよくわかりますから」

 

 男ならみんな本心で女性を気遣うのではないのだろうか?

 オレにはよくわからなかった。

 きっと彼女は、オレには想像もつかないような経験を既にしているのだろう。

 それを掘り下げるのは失礼というものだ。

 

「ライダー・・・」

 

 オレは、車中での彼女の言葉の意図を確認したかった。

 あれは『今後』がある、少なくともあり得るような口ぶりだった。

 それは、オレだって死ぬほど欲しい。

 彼女との未来が。

 だが、聖杯は汚染されている。

 ライダーが現世に残れるよう聖杯に願えばどんな災厄がもたらされるかわからないし、歪んだ解釈をされてオレ達がオレ達でなくなってしまうかもしれない。

 それでは意味がない。

 この戦いがどんな結末を迎えようとも、彼女は消えてしまう・・・その筈だ。

 堪えきれず、オレは口を開く。

 

「さっきの話なんだが・・・」

 

 しかし、オレはそれ以上の言葉を紡ぐことができなくなった。

 気が付けば、彼女の閉じられた目がオレの目にくっつきそうなくらいの距離にあった。

 眼鏡のレンズに、オレの睫毛が当たる。

 唇には柔らかい感触が一瞬だけ残った。

 穏やかな、ただ、触れるだけのようなキスだった。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 彼女はゆっくりと目を開いた。

 露わになった双眸は何かを訴えているかのようだ。

 

「・・・・・・士郎、この話は止めましょう」

 

 ライダーは唇を離し、僅かに下がる。

 

「・・・ですが・・・信じてください。私は、あなたと私の未来のために行動します。もちろん、それは決して歪んだ未来などではない」

 

 彼女の目はどこまでも澄んで。

 透き通って・・・

 そして、真っ直ぐだった。

 

「ああ。信じるよ」

 

 彼女が未来に目を向けていることがわかった。

 オレは、この戦いを何としても生き残る決意を固めた。

 

 

 

 Interlude in

 

 

「遠坂?・・・お前もここに保護されたのか?」

 

「・・・慎二・・・?・・・あんた・・・生きていたの?」

 

 凛は驚いた。

 士郎やライダーからは、慎二は死んだという話を聞いていたからだ。

 とは言え、彼の今の姿を見れば、死にかけたことは確かなのだろう。

 

「ああ。衛宮達からはそう聞いていたのか。まあ、無理もないよな。あの時、僕はずっと気を失っていたし、これだけの怪我をしたわけだしね」

 

 そう言って、()()()()()()()()()()、礼拝者用の座席を縫って慎二を載せた車椅子が滑らかに凛に近付いてきた。

 

「サーヴァントを失って、マスター失格になったってわけかい?」

 

 一瞬、凛は無視しようかとも思ったが、思い直した。

 これからの自分の人生の中で、何度も自分が魔術師ではなくなったということを認識させられる瞬間がある筈だ。

 その度に目を反らしていては、これからの自分の先行きも多寡が知れているというものだ。

 正面から向き合っていかなくてはいけない。

 

「そうね。それもあるけれど、私が負けを認めたのは、私が魔術師でなくなったからよ」

 

「は?何だって?」

 

「私は魔術回路を消されたのよ。だから、今の私は魔術師じゃないわ。つまり一般人なのよ」

 

 凛は、堂々と言い放った。

 それ自体は卑下するようなものではない。

 本来、魔術師だから上とか、魔術師じゃないから下とかそういうものではない。

 この点については、魔術を使えた時から、何ら変わってはいない。

 だが、目の前の人物はそうではない。

 

「は・・・ははは・・・これは傑作だな。あんなに魔術師であることを笠に着て、他人を見下してきたお前が・・・自分自身が、魔術師ではない下らない一般人なんかに身を落とすなんてね」

 

 考え違いも甚だしかった。

 だが、止むを得ないのかもしれない。

 慎二は、明確に魔術師が特別で即ち『上』、そうでない人間は普通で『下』という価値観で固まっている人間だ。

 

「あなたを私が見下していたとすれば、単にあなたの人間性を見下していただけだと思うけれど・・・」

 

 凛は、でも、と続けた。

 

「こうなってみると、逆にあなたって凄かったのかもしれないって思えるわ。どんな動機であったにせよ、魔術師でもない身でこの戦いに身を投じることができたなんてね。魔術師相手に戦うのに魔術が使えないなんて、無防備もいいところだわ」

 

 凛は本心からそう思っていた。

 これは、嘲りでも皮肉でもない。

 

「はは・・・」

 

 慎二が渇いた嗤いを漏らした。

 

「その結果が、このザマさ。僕はこれで魔術師としてどころか、一般人としても落伍者として、生きていかけりゃいけない。こんな理不尽な戦いに巻き込まれたばかりにね」

 

「あんた、何を今さら・・・」

 

 それは、あまりにも滑稽な嘆きに聞こえた。

 間違いなく間桐慎二は、巻き込まれたのではなく、自分の意思で自分の目的のためにこの戦いに参加していた。利用されていた場面もあるのだろうが、それは参加した後のことだ。

 だが、凛はそれ以上言葉を発することができなくなった。

 

「・・・ハハ・・・ハハハ・・・」

 

 礼拝堂の高い天井を見上げながら、慎二が嗤い始めたのだ。

 

「・・・そうさ・・・優秀だった僕がとんでもないハンデを背負わされてちまった・・・これからの僕は、下らない連中から見下されながら生きていくことになるんだ・・・」

 

「・・・慎二・・・」

 

「・・・何でこうなったんだ?誰が悪い?・・・僕じゃない・・・僕は優秀で、特別だったのに・・・誰が僕をこんな目に・・・」

 

 既にこの男は壊れかけているのだと理解した凛は、足早にその場を後にした。

 礼拝堂内は、空虚な呪いの言葉が漂い続けることになった。

 

 

 Interlude out

 







ライダーとのデート回ですね。
彼女のマイウェイっぷりがいい感じに表現できた気がします。

タイトルの「FD」は車です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。