Fate/√knight  【ムラサキノウエ】   作:わが立つ杣

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キャスターと契約し、最後の決戦へと向かう直前。


第35話 ~14日目②~ 「綺礼vs葛木」

 Interlude in

 

 

「さて、ようやくあの妖物を退治することができたな。流石に手間を掛けさせてくれたものだ」

 

 柳洞寺本堂の階段に腰掛けたアーチャーは、うっすらと笑った。

 

「桜は大丈夫なのか?」

 

 本堂内に佇む桜に、階段下で直立不動の姿勢を保っているセイバーが問い掛けた。

 

「ええ。あと1日くらいなら問題なさそう。先輩もセイバーも、害虫駆除のお仕事、お疲れ様」

 

「私は殆ど何もしていない。アーチャーばかりが働いていた。私には向いていない仕事ばかりだったからな」

 

 セイバーが生真面目に反論した。

 

「そんなことないわよ。それに、その間ずっと我慢してくれてたじゃない」

 

「ああ、本当はライダーを真っ先に殺したかっただろうに。マスターにこれ以上サーヴァントを取り込ませてしまうと、危険だったからな」

 

 アーチャーも桜の言葉に同意した。

 

「でも、それもここまでよ」

 

「では、予定通りここから先は自由行動ということで良いかな」

 

 アーチャーが桜に確認する。

 

「ええ」

 

 桜はセイバーに向けて微笑みかけた。

 

「セイバー。あなたはどうしたいのかしら?遠慮なく言って頂戴」

 

「私も桜も、今までだって自分の思うがままに行動してきたし、これからは一層そうなる。お前にも、やりたいことがあるだろう。自分の好きなようにしていいのだ」

 

 アーチャーが桜の言葉を補足するようにして、セイバーの意思を確認する。

 

「・・・・・・・・・」

 

 セイバーは目を閉じてしばらくの間沈黙した。

 

「では、お言葉に甘えるとしよう。ライダーと・・・そして士郎と戦いたい。ケリをつける」

 

「わかったわ」

 

「では、我々は手出しをしない。場所も時間も自由にすればいい。今から奇襲しても構わないぞ」

 

「ふん。主の約定を(たが)えたりはしない。ここで迎え撃つだけだ」

 

 セイバーは薄目を開けて、アーチャーの言葉に反駁する。

 

「決まりだな」

 

「少し(いとま)をいただこう」

 

「であれば、我々がここを去ろう。ゆっくりと月でも眺めるがいい」

 

「そんなことはしない。一人になりたいだけだ。神経を研ぎ澄ませるためにな」

 

「行きましょう。アーチャー」

 

「ああ」

 

 セイバーをその場に残した桜とアーチャーは、境内の裏手に向かった。

 

「いいの?本当は先輩が・・・ふふ・・・先輩と戦いたいんでしょう?」

 

「どうだろうな。何にせよセイバーの自由にさせてやるさ。ここまで我慢してもらっていたのだからな」

 

「・・・・・・そうね」

 

「キミの方こそあの二人を自分の手で殺したいのだろう?」

 

「そうですね」

 

 桜は足を止めた。

 

「八つ裂きにしてあげたいわ」

 

 振り返って、桜はアーチャーに微笑みかけた。

 

 

 R turn

 

 

 家に戻る頃には、空が僅かに白み始めていた。

 

「坊やはしっかりと寝ておきなさい」

 

 キャスターが戻るなり、士郎に忠告する。

 

「そうですね。完全に徹夜状態ですから。先ずは体を休めてください」

 

 私もそれには同意見だ。

 直接的な戦闘に士郎は関わっていないが、緊張を強いられる場面が続いたのは間違いない。

 

「イリヤもよ」

 

 キャスターはイリヤスフィールも気遣った。

 

「はいはい、わかったわよ。まったく、キャスターったらまるでこの家のお母さんみたいね」

 

「!?・・・お・・・おかあさん・・・ですって・・・」

 

 キャスターが固まった。

 口をあんぐりと開けたままで、怒ることすらできないようだった。

 

「どうせ寝ないんでしょうけど、あなた達もお風呂くらい入っておきなさい。ホテルでだいぶ暴れたんでしょう?埃っぽいし汗臭いわよ」

 

「あ・・・あせくさい・・・!?」

 

 私も思わず絶句する。

 ちらりと士郎を見て、フォローの意見を求めようとするが、

 

「じゃ、じゃあお言葉に甘えて先に寝させてもらうな」

 

 と言って、自分の部屋に引っ込んでしまった。

 

「・・・意外と薄情なのですね」

 

 と嘆息する。

 だが、この状況は都合がいいように思えた。

 私が話をしたいと思っていた三人だけの状態になったのだ。

 

「今のイリヤスフィールの発言を聞き流すのは、極めて遺憾ですが、私達は話し合う必要があると思いませんか?」

 

 私はキャスターとイリヤスフィールに目配せをして、話を切り出すことにした。

 

「そうね。士郎がいなくなったしね」

 

 イリヤスフィールが何かを悟ったのかあっさりと同意する。

 その様子を見て、キャスターは少し顔を背けた。

 

「・・・・・・ええ。そうね」

 

 そう。

 私達は共犯者になるのだ。

 

 

 E turn

 

 

「士郎のご飯、昨日でお仕舞いだと思ってたけど、今日も食べられて幸せだったわ」

 

 夕食を終え、イリヤは食器を片付けながら満面の笑みを浮かべていた。

 

「いつも以上に気合いが入っていて、美味しかったです。それに、キャスターもだいぶ腕を上げたのではないでしょうか?」

 

 ライダーも食器を下げる係だ。

 

「いつもどおり、坊やの手伝いをしただけよ」

 

 下げられた食器を洗っているキャスターは素気なく返したが、満更でもなさそうな顔をしている。

 

「実際、だいぶ上達したと思うぞ。手慣れてきたし、調味料の分量とかも感覚を掴んできたんじゃないか」

 

 オレは食器や調理器具を片付けている。

 

「ありがとう。坊やのおかげよ」

 

 この後は、いよいよ桜達の待つ柳洞寺、正確にはその地下へと向かう。

 おそらくそこで全ての決着がつくだろう。

 みんな無事でいられるかはわからない。

 今、この瞬間は、かけがえのない時間だ。

 

「キャスター自身がすごく真剣だったからだろう」

 

 そんな思いをオレは抱いているし、みんなもそうだろう。

 既に準備は済ませてある。

 どのようにその場に臨むのか、どのように戦うのか。

 勿論、相手の出方によっては臨機応変に対応しなければならないが、基本方針は共有している。

 

「ここにいると家族になったみたいで、すごく楽しかったわ。お兄ちゃん」

 

 イリヤが微笑みかけてくる。

 家族か。

 その言葉を聞いて、この居間に集い、この座卓を囲んだ面々を思い浮かべた。

 以前は、藤ねえと桜だけだったが、聖杯戦争が始まってからは全く様相が変わったものだ。

 

「桜と藤ねえ以外に、ライダー、セイバー、キャスター、葛木、遠坂、アーチャー・・・そしてイリヤか」

 

 この居間の卓を囲んだ顔ぶれの中で、遠坂と葛木は戦いの渦中から去ることになり、桜とセイバー、アーチャーは敵対することになった。

 ここで彼らと賑やかに会話をしていた時には、そんなこと想像できるわけもなかった。

 

「母親はキャスターだな」

 

 オレはうっかり口を滑らせた。

 

「ぼ~う~や〜・・・」

 

 キャスターの全身から禍々しい妖気が溢れ出し、居間にはささやかな笑いが満ちる。

 やがて食事の後片付けが終わると、それぞれの部屋に戻って支度をする。

 オレ達は桜を取り戻し、アンリマユの誕生を阻止し、黒い聖杯による願いの実現を食い止める。

 そして、みんなで生きてこの家に帰ってくる。

 

「大丈夫だ」

 

 自分の部屋に戻り、支度を終えたオレは自分に言い聞かせるように呟いて、後ろ手に障子を閉めた。

 廊下に出て、玄関へと向かう。

 戦うために家を出る。そんなことは、これが最後になるのだ。

 

 

 Interlude in

 

 

「さて、私もそろそろ自由に行動するとしようか。これだけ職務に忠実だったのだ。多少の我儘は許されるというものだろう」

 

 この教会の主の声が、暗い礼拝堂内に響き渡る。

 堂内には神父以外には誰もいない。

 従って誰かに向けられたものではない。

 ただの独り言だったはずだ。

 

 ギイィィィ・・・

 

 重い扉を押し開けて、夜の帳が降りきった世界へと歩み出す。

 門へと続く長い石畳みの歩道に、冬の済んだ空気を通して満月が煌々とした光を注いでいた。

 その光の先には、一人の男が立っている。

 

「それで、何の用かね?昨日の夜も堂内の会話に聞き耳を立てていたようだが。あまりいい趣味とは言えないな」

 

 神父は唇の片方だけを持ち上げて、軽く笑った。

 

「どこへ行く?言峰綺礼」

 

 そこに立つスーツ姿の男、葛木宗一郎は、いつものように感情の籠らない声で、淡々と問い掛ける。

 

「答える義務があるとも思えんが、つい先日ドライブを楽しんだ仲だ。サービスしよう」

 

 そう言いながら綺礼は葛木に近付いていく。

 

「私は柳洞寺に向かう」

 

「何のために?」

 

「私の求めてきた、『答えを生み出せるモノ』の誕生を祝うためだ」

 

「その過程で何をする?」

 

「無論、邪魔する者を排除する」

 

 綺礼は、神父服(カソック)の内側に両手を差し入れ、黒鍵と呼ばれる代行者特有の細身の剣を、両手の指に3本ずつ挟み込む。

 

「お前が誕生を祝福するモノとは一体何だ?そして、お前が排除する対象は誰だ?」

 

 葛木は足元を踏み締め、両の拳を構えた。

 

「・・・知れたこと」

 

 二人の距離があと五歩ずつでゼロになる。

 

「アンリマユと・・・」

 

 ジャッ!

 

「衛宮士郎だ!!」

 

 一息で間合いを詰めた綺礼が右手の黒鍵を逆袈裟で切り上げるのと、そう叫ぶのが同時だった。

 

「そうか。お前は最後には必ず敵になる男だと思っていた」

 

 葛木はそれを大きく飛び退って避けながら、そのまま後退した勢いの反動を利用して、大きく横に動いた。

 

「お陰で、果たすべき仕事が見つけられた。無職では、許嫁(いいなずけ)に顔向けできないから、お前には感謝しなければならないのかもしれん」

 

 その動きを読んでいたかのように、綺礼は殆ど先回りをするようにして、左手に持つ黒鍵を突き出した。

 

「ぬ!?」

 

 虚を突かれた葛木はそれを体を捻って躱すが、僅かに右腕を掠めており、流血する。

 

「・・・どうやら見切られているようだな」

 

 葛木はちらりと血が滴る腕を見て、呟いた。

 

「ランサーとの戦いを見ているからな」

 

 綺礼は嘲るような笑いを浮かべて続ける。

 

「大人しく隣町でキャスターの帰りを待っていれば良かったのではないかね。そもそも、私ごときの邪魔をしたところで、戦果にはなるまい。私自身、今、あの人外どもの戦いに赴いたところで、大したことができるとは思っていないのだ」

 

「いや、お前は危険だ。きっと、状況を歪めてしまうだろう。それに・・・」

 

 葛木は、スーツの内ポケットから小瓶を取り出し、中の液体を飲み干した。

 

 キンッ

 

 投げ捨てた瓶が石畳にあたり、甲高い音を奏でる。

 そして、葛木は再び両拳を持ち上げる。

 

「これは私の男としての矜持でもある。明日、キャスターに会う時に、私も戦ったと胸の中に秘めて・・・」

 

 ダンッ!

 

 防戦のみだった葛木が石畳を蹴って、一気に前に出る。

 先程までとは比較にならない速さだった。

 

「誇りたいのだ!」

 

 一気に間合いを詰め、綺礼の眼前で上体を屈めると、掌底で顎を打ち抜くように右腕を突き出す。

 

 ゴッ!

 

 綺礼は辛うじて両手の黒鍵を盾にして掌底を食い止めるが・・・

 

 バギィィィ!!

 

 持っていた6本のうち、4本の黒鍵の刀身が砕け散り、残った勢いで体が弾き飛ばされてしまう。

 

「ぐぅぅっっ!」

 

 倒れずに何とか着地した綺礼に、葛木は間合いをとらせることを許さずに、一気に攻勢に出る。

 

「ハッ!」

 

 葛木の武術は、元々相手の虚を突くことを得意としており、変則的だった。だが、初見の相手にこそ有効なその戦法は、ランサーを通じて戦いを見ていた神父には通用しない。

 

 ガッ!ドッ!ドンッ!

 

「ぐ!・・・・・・さっき飲んだのは強化の薬か・・・」

 

 それを悟った葛木は、鍛錬と薬で強化された肉体、そして身に着けた格闘術に裏打ちされたシンプルな打突を中心とした攻撃に切り替えて攻撃を続けた。

 逆に虚を突かれた綺礼は防戦に追い込まれる。

 

「そうだ。お前はここで朽ちるがいい」

 

 葛木は攻撃の手を緩めない。

 あの細剣は、投擲にも使えるものと予測していた。大きく間合いを取られれば、立場は簡単に入れ替わるだろう。

 

「・・・たかが暗殺者風情が、舐めるな!」

 

 ガツッ!

 

 そう叫んだ綺礼が、葛木の放った胴体への蹴りに、自分の蹴りをぶつけると、さらに力を加えてねじ込むようにして力を乗せた。踏ん張る足と、蹴り足の両方がうっすらと輝いている。

 

「なにっ!?」

 

 力負けする形になった葛木は、たたらを踏んで大きく後退した。

 強化魔術が込められた薬を飲んだ葛木の身体能力は通常の人間を遥かに凌駕するものになっている。それを上回るということは、神父も魔術を使ったということだろう。

 

「ふふ。あまり得意ではないが、多少の魔術の心得はある。それに」

 

 綺礼は左袖を捲り上げた。

 そこには無数の魔術刻印が刻まれていた。

 

「魔力の貯蔵も潤沢なのでな」

 

 にやりと綺礼が笑った。

 

貯蔵(ストック)だけあっても、使う場面がなければ意味はない」

 

 葛木は三度目の戦闘体勢をとる。

 

「それにしても、こんなに面白いとはな。この戦いがではない。葛木宗一郎という存在そのものがだ。そもそも車中であのような話をしたこと自体、私自身も意外だったのだがな」

 

「あの時、お前が気紛れで車に乗せて帰らなければ、私はお前を危険視することもなかったし、こうして立ち塞がることもなかった。その事を悔いることはないのか?」

 

「愚問だな。私はその時、したいと思ったとおりの行動をしたまでだ。自身のその時の選択に後から難癖をつけるような脆弱な精神では、この戦いに身を投じる資格もないし、どのみち生き残れん」

 

「そうか、どうやら我々は気が合うようだな」

 

 葛木もまた、自ら選択した行動に一片の悔いもなかった。

 

「そういうことだな。私は生まれた時から何も持たず、お前は生まれた直後から何も持たせられなかった。お互い朽ち果てた殺人者同士だ」

 

 どうやって調べたのかはわからないが、神父は葛木の生い立ちも把握しているようだった。

 そして、この男の言う事は正しかったのだろう。

 ・・・だが、今は違う。

 

「折角の友人を今日失ってしまうかと思うと、堪らない幸福を感じるな」

 

「生憎と私はそういう歪みは持ち合わせていない。そして・・・私はまだ朽ちていない」

 

 ザッ

 

 石畳に地を蹴る音が残り、葛木が少し弧を描くように間合いを詰める。

 

「それをキャスターとの出会いで気付かされた!」

 

「確かにそうだな。お前は充分にお盛んだ!」

 

 一時(いっとき)、後退させられた葛木だったが動じなかった。

 接近して戦うしかないという選択肢の狭さは、迷う余地がないということでもある。

 たとえ神父も自身を強化することができても、自分はキャスターによる強化を信じて戦うしかないし、神父の魔術がキャスターの魔術を上回るとは思えない。

 

「はっ!!」

 

 裂帛の気合を込めた正拳突き。

 

 ガッ!

 

 綺礼は黒鍵を取り出そうとしていたが、それが間に合わないことを悟り、結果的に両腕を交差させて防がざるを得なかった。

 

「ぐっ・・・」

 

 たたらを踏む神父に対して、葛木は続け様に拳や蹴りを繰り出していく。意識して、一撃一撃に重みを持たせることで、力と力のぶつかり合いになるようにする。

 

 ゴッ!ガヅッ!

 

 正面からの衝突であれば、強化魔術の質の分、自分に分があると踏んでいた。

 だが、

 

 スゥ・・・

 

 突然、視界の中にいた筈の神父を見失ったような感覚に襲われた。

 

 ドッッ!!

 

 気が付いた時には葛木は大きく弾き飛ばされていた。

 

 ザザァァ・・・

 

 葛木の体が石畳の上を滑るように転がったが、何とかすぐに立ち上がり体勢を立て直す。

 殆ど本能で片腕を防御に回したため、大きなダメージを負うことは避けることができた。

 

「肩か・・・」

 

 見ると神父は葛木に反撃した体勢のままだった。

 両足を大きく開き、腰を落として体を捻っており、肩から背中がこちらを向いていた。

 体を捻ることで葛木の拳を躱しながら懐に入り、肩で弾き飛ばしたものと推測できた。

 

「そちらの攻撃が少し単調になったのでな」

 

 顔の半分だけをこちらに見せて、神父は笑った。

 いずれにせよ、決定的な間合いができた。

 

「ここからは、私が攻める番だな」

 

 ジャッ!

 

 神父が黒鍵を左右1本ずつの計2本投じてくる。

 案の定というべきか。

 やはり投擲用としても使える武器だったのだ。

 アサシンが投げる短剣に近い速度があるだろう。

 

「ぬうぅぅ!」

 

 ギン!ギンッ!

 

 葛木は強化されている拳で、1本弾き、1本を辛うじて躱す。

 だが、間合いを詰められない。

 

「使い尽くすまで、耐えられるか?」

 

 先程の攻撃の質から推測すると、神父もまた特殊な武術の使い手と知れた。徒手での戦闘も五分だろう。

 投擲による攻撃で消耗した状態で、肉弾戦になるのはかなり分が悪いと思われた。

 

「遠慮なく外から削らせてもらうぞ。衛宮切嗣との戦いとは違って、こちらに距離の分があるからな」

 

 神父が両手に4本ずつの細剣を構えた。

 衛宮切嗣?

 そうか、衛宮の父親とこの男は戦ったという話だったか。

 葛木はそんなことを思い出しながらも、狙いを定めさせないために、神父を中心に円を描くように駆け出す。

 

「お前の衛宮士郎への拘りは、衛宮切嗣への執着から来ているのか?」

 

 戦いの最中ではあったが、問い掛けずにはいられなかった。

 

「そうでもあるし、それだけでもない」

 

 神父は葛木の動きを冷静に目で追っている。

 

「衛宮切嗣と私の共通項は、自己というものが決定的に欠けていた点だった。それは、確かに衛宮士郎も同様だろう」

 

「衛宮は確かに、自分に対する意識が希薄だ。だが、今は違う。それはお前も分かっているのだろう?」

 

 葛木もまた、衛宮士郎という自分の生徒が学校生活を過ごしていた時に感じた性質と、この戦いが始まってからの変化を感じ取っていた。

 

「そうだ。奴は、衛宮切嗣に埋め込まれた『正義の味方』という空想を核としていただけのロボットだった。だが、変わった」

 

 綺礼の周囲を大きく回った葛木は、丁度90度立ち位置を変えていた。元々は、綺礼が教会を背にし、葛木が正面に教会を見ていたが、今は二人の横に教会がある。

 

「では、もはや、お前が執着する衛宮士郎ではないのではないか?」

 

 葛木は当然の疑問を口にする。

 

「そうかもしれない。だが、ここにはもう一人の衛宮士郎がいた。私はあれこそが衛宮切嗣のなれの果てだと感じている」

 

 綺礼の言う男は、アーチャーのことだと葛木は察した。

 

「その男も、今となっては変わり果ててしまったのではないか?」

 

「それはまだわからん。だから、確かめたいのだ。だが、私の優先事項はアンリマユの生誕。それは、私が抱いてきた疑問を解消する答えを示してくれるだろう。それを阻害する者は排除するだけだ」

 

「よくわかった」

 

 神父は、葛木の回り込む動きに対して警戒はしていたものの、攻撃を仕掛けては来なかった。あの剣の残数はそれほどあるわけではないと推測する。

 

「お前が本当に何も持ち合わせていない男だということをな!」

 

 葛木は神父に向けて、駆け出した。

 

「そのとおりだ!私は何も持っていない。だから、お前たちが羨ましい!」

 

 綺礼はその動きを待っていたように、黒鍵を先ず2本投じた。

 

 ギギンッ!

 

 この投擲を予測していた葛木はいずれも拳で撃ち落として、なおも接近する。

 

「ちっ!?」

 

 神父は後退しながら、葛木の接近を食い止めるべく、さらに4本の細剣を投じてくる。

 接近するかのように見せた葛木だったが、一旦その場に止まり、落ち着いてそれらを捌いた。

 神父が手にしている剣は2本のみ。残数は精々数本と見込んでいた。

 

「ふふ」

 

 ジャッ

 

 だが、神父はあっさりと残りの2本を投じると、さらに両手に4本ずつ。計8本の剣を間髪置かずに放ってきた。

 

「なにっ!?」

 

 都合10本を捌かなくてはいけなくなった葛木だったが、流石に対処しきれなかった。

 

 ズンッ!

 

 1本の剣が葛木の腹を貫いていた。

 

「ぬう・・・」

 

 痛みだけでなく、体全体が固まる感覚になり、思わず膝が折れそうになるのを、葛木は辛うじて耐えた。

 しかし、決定的な傷を負ったことは間違いない。

 

「決めさせて貰うぞ」

 

 今度は、神父が一気に間合いを詰めてくる。

 その手には再び4本の剣が握られていた。

 

「くっ・・・」

 

 万時窮すに近かったが、それでも葛木は諦めるつもりはない。

 何とか神父の攻撃の中に反撃の余地を見出そうと、敵の動きだけに集中する。

 その時だった。

 

「何やってるのよ、あんた達!?」

 

「!?」

 

 葛木も綺礼もその闖入者に気が付いた。

 しかし、葛木宗一郎は、意に介さなかった。

 眼前の敵である神父への集中を途切らせることなく、注視し続けた。

 しかし、綺礼はそうではなかった。

 

「凛!?」

 

 葛木は好機を得た。

 深手を負い、圧倒的に不利な状況になってはいたが、垣間見えた勝機を見逃すような真似はしない。

 

「はあぁっ!!」

 

 約10歩の間合いを一気に詰める。

 

「しまったっ!?」

 

 神父は、咄嗟に両手の黒鍵で迎え撃とうとするが、葛木のほうが先んじていた。

 反撃のために動いた神父の両手首を拳の打突で潰す。

 

 カランッ

 

 細剣が落ちる音が響き、

 

 ガッ!

 

 左の掌底で神父の顎を、

 

 ゴッ!

 

 右の拳でその顔面を打ち抜いた。

 

「がぁぁぁぁぁっ!」

 

 衝撃で神父の体は大きく飛ばされて石畳に打ち付けられた。

 殆ど致命傷に近いダメージを与えた手応えが葛木の手には残る。

 だが、この程度で終わる相手ではない。

 

「ぐっ・・・」

 

 葛木は、腹に刺さったままの細剣を抜いた。刺さっていたことによって止まっていた血が溢れてくる。

 それに構わず、葛木は細剣を構えて倒れた神父の元に走り、馬乗りになった。

 

「私は(おの)が為の最初で最後の殺人を犯そう!!」

 

「ふ。空っぽの人間では勝てんということか・・・」

 

 ──────────────

 

 葛木宗一郎はその剣を、全身全霊の力を込めて振り下ろした。

 神父の武器であった黒鍵が、その主の心臓に音も無く突き立てられた。

 

 

 










この二人が車中で話す構想、戦う構想は当初からありました。
私自身がどちらも好きだというのが一番の理由ではありますが、人間として虚ろなままの綺礼。そして、虚ろだと思っていたらキャスターと出会ったことにより、とことん人間らしい欲望に命を懸けた(普通の人間はそこまでしないのですが・・・)葛木。
この対比はどうしても書きたかったわけです。

戦闘シーンは悪くはないのですが、どうしても葛木目線になってしまって、綺礼が引き立て役になってしまったのが心残りです。
落ち着いたら修正したいですね。
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