Fate/√knight  【ムラサキノウエ】   作:わが立つ杣

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綺礼と葛木が死闘を終えた冬木教会にて。


第36話 ~14日目③~ 「Battle of Knights」

 

Interlude in

 

 

「綺礼っ!!!」

 

 倒れている綺礼を目掛けて凛が駆け寄ってくる。

 葛木は、持っていたハンカチとベルトで自身の止血をしながら、自分が心臓に剣を突き立てた神父の傍らに立っていた。

 

「何だって、こんなことに!?」

 

 凛は綺礼の頭を抱えて、双方に問い掛けた。

 

「・・・ふ・・・私は、衛宮士郎達を殺し、アンリマユを誕生させるために、柳洞寺に向かおうとしたのだ」

 

 驚異的な忍耐力で辛うじて意識を保っていた綺礼が答えた。

 

 ごぼ・・・

 

 喋れば喋っただけ吐血する。

 

「何ですって?何だってそんなことを・・・て言うか、あんた何でこの状態で喋れんのよ・・・救急車・・・救急車を・・・」

 

「・・・無理やり喋らせているのはお前のほうだぞ、凛。まあいい。どのみちもはや助かるわけもない。救急車は・・・そっちの男に使わせたほうがいいな」

 

 綺礼は葛木に目を向けた。

 

「なぜだ?・・・なぜ・・・遠坂の出現に、お前ほどの男が戦いの最中で注意を削がれたのだ?遠坂はお前にとって不利になる要素ではなかったはずだ」

 

 葛木とすれば、綺礼程の手練れがあんな隙を見せたことが信じられなかった。

 

「・・・ふ。敵が現れたと認識したのだ。私は凛の父親を殺した。だから、凛はいずれ必ず私の敵になるという意識があったのだろう」

 

「は?」

 

 凛の混乱は拍車がかかるばかりだった。

 

「・・・あ・・・あんたが父さんを・・・?そんなこと今さら言われたって・・・」

 

 綺礼は、砕かれて動かない手を持ち上げて、凛の頬に触れた。

 

「・・・事後処理は、お前がこの土地の管理者として上手くやれ。下手するとその男が殺人者として捕まるぞ」

 

 この男がよく見せる片頬だけを持ち上げる皮肉っぽい笑いを浮かべた。

 程なくして、凛の頬に触れていた手がゆっくりと地に落ちる。

 

「・・・全く・・・道化以外の何物でもなかったな・・・」

 

 そう自嘲して目を瞑ると、冬木教会の神父は事切れた。

 

 

 

「・・・もう何が何だか、わけがわかんないわよ・・・」

 

 遠坂凛の腕の中で、言峰綺礼は息絶えた。

 凛の父親を殺したこと、衛宮士郎達を殺そうとしたこと、アンリマユが出てくることを求めたこと。全て悪事と言ってよかった。

 だが、凛はまだ事態を受け止め切れていなかった。

 

「遠坂。この男は、お前の保護者代わりだったか・・・お前には負担をかけることになってしまったな」

 

 貫かれた腹を押さえながら、葛木は詫びる。

 

「そんなことは別にいいのよ。こいつには、殺されるだけの理由が間違いなくあったし、父さんの仇だったこともわかった。そして、あなたがキャスターや衛宮君のために戦ったこともわかっている」

 

 実感なんて全然ないけどね。

 と、空虚な笑いを浮かべて凛は呟いた。

 

「あなたのほうこそ大丈夫・・・なわけないわね。救急車を呼ぶから、さっさと病院に行きなさい。後のことは私がなんとかするわ」

 

 凛は綺礼の遺体を抱えあげて、礼拝堂へと歩を進める。

 

「遠坂。泣きたいときには泣いてもいいのだぞ。お前の(とし)で、人間はそこまで強くなくてもいい」

 

 どこまでも己の責任を果たそうとする少女に、余計なことだとわかっていながらも葛木は思わずそう声を掛けた。

 

「・・・・・・」

 

 少女は何も言うことなく、唇を嚙みしめて堂内に入ると、さらに奥に進んでいく。

 電話の元へと向かっているのだろう。

 

「・・・遠坂・・・すまない。救急車を呼ぶのは待ってくれ」

 

 ふと何事かを思い立ったか、葛木は凛の背中に声を掛けた。

 

 

 Interlude out

 

 

 R turn

 

 

「久しぶりにこの階段を登ることになるわね」

 

 キャスターが少し感慨深そうに言った。

 彼女は十日前までは、この上の柳洞寺に住んでいたので始終この階段を使っていたのだろう。

 柳洞寺に向かう途上の私達は、長い石段の下まで辿り着いていた。

 

「状況は把握できていますが、万が一ということもあります。私が先行しますので士郎は続いてください」

 

「ああ」

 

 私が少し先行し、士郎が続く。

 キャスターとイリヤスフィールは少し離れて後をついて来る。このあたりは事前に打ち合わせていたとおりだ。

 長い石段を登りきり、山門を潜ると視界が開ける。

 

「士郎。敵がいます」

 

 その敵はこの寺の本堂を背後にして、凛として立っていた。

 視線の先にいる彼女を見据えたまま、私は士郎に状況を伝える。

 

「そうか」

 

 私達としては、開けた境内では戦いたくはなかった。

 セイバーの強力な宝具を存分に振るわれると対処は難しい。さらにアーチャーに狙撃されれば、殆ど勝ち目がなくなる。

 しかし、私達はキャスターの遠見の魔術でこの山の状況は、予め把握できていた。

 

「やはり一人だけですね」

 

 そう。

 境内で待ち構えているのは、セイバーだけであり、アーチャーや桜は山の地下洞内にいる。

 普通に考えれば戦力を割く意義は薄いように思われるが、私はこの配置については直感的に納得していた。

 

「・・・きっと、彼女の意思なのでしょう」

 

 その少女は黒い剣を地面に突き立て、柄の上に両手を重ねている。

 直立して、真っすぐ正面を見据えた瞳に揺らぎはない。

 私よりもかなり小柄で、可憐と言ってもおかしくない容貌でありながら、威風堂々としている。

 そして、闇に呑まれてもなお、美しく清廉だ。

 

「よし、予定どおりキャスター達はここから別行動だ。頼むぞ」

 

 後方で士郎が、キャスターとイリヤスフィールに合図を送る。

 

「ええ。坊や達もしっかりね」

 

「行ってくるわ。頑張ってね。シロウ」

 

 キャスターもイリヤスフィールも、それだけを告げて、石造りの道を外れ、森の中へと分け入った。

 それを士郎が少し心配そうに見送った。

 

「・・・向こうも心配だけど、こっちも大変なんだよな・・・」

 

 士郎が山門を潜り、私の横に並びかけながら、セイバーを見据えた。

 きっと複雑な思いを抱えているだろう。

 

「士郎。それにライダー」

 

 セイバーの落ち着いた声が境内に響く。

 

「ここには、私しかいない。決着をつけましょう」

 

 その言葉に偽りはないだろう。

 変貌したセイバーを見るのは、三度目だ。

 過去二度は殆ど感情というものを感じさせなかったが、今の言葉からは明らかに彼女なりの意思が伝わってきた。

 言うなれば、『(こだわ)り』というものだろう。

 

「セイバー。そこを退()いてくれ。オレ達は桜を救いたい」

 

 士郎が一歩踏み出して、彼女に訴える。

 

「聡明なあなたらしくないですね」

 

 セイバーの反応には僅かながら苛立ちが見て取れた。

 

「それはもはや叶わない。あなたはそういう選択をしたはずだ!」

 

 そう叫んで、セイバーは剣を構える。

 

「士郎」

 

 私は臨戦体勢に入ったセイバーに応じて杭剣を構えながら、少年の表情を確認する。

 

「ああ。わかっているさ。オレはお前と生き残ると決めた」

 

 そこには私が信じる男がいた。

 

「セイバー。あなたは私達にとって邪魔な存在です。それ以外の何物でもない」

 

 私はバイザーに手を掛ける。

 

「今、ここで斃します!」

 

 カランッ・・・

 

 放り投げたバイザーが地に落ち、軽い音を奏でるとともに、私はセイバーに向けて駆け出した。

 解き放たれた魔眼の魔力がセイバーを包む。

 

「・・・む・・・」

 

 刹那、石化の兆しが見えたものの、

 

「・・・この程度の呪いが通用すると思うなっ!」

 

 セイバーが自身に纏わりつこうとする呪縛を振り払うように、剣を一振りするとその呪いは霧散する。

 だが、それは靄のように依然として、セイバーの周囲を覆う。

 

「思った以上に厄介な・・・」

 

 私の魔眼の呪いは、完全に石化できなかったとしても相手に重圧をかけ続け、あらゆる行動に負の影響をもたらすことができる。

 

「とは言え、この状態に持ち込んでも、白兵戦で勝てるとは思っていませんが・・・」

 

投影(トレース)開始(オン)!」

 

 後方では、士郎が武器を投影している。

 

「はぁっ!」

 

 呪いの影響で、一瞬反応が遅れたセイバーに対して、私が初撃として選択したのは強化した足での蹴りだった。

 先ず、彼女を弾き飛ばして次の攻撃に繋げたかった。

 

 ドンッ!

 

 だが、私の狙いとは裏腹に、セイバーはその場で踏ん張って私の蹴りを両籠手で食い止めた。

 それだけでなく、私を逆に弾き飛ばしていた。

 

「くぅっ!?」

 

 私は飛ばされながらも辛うじて体勢を立て直し、彼女の次の攻撃に備える。

 とは言え、改めて彼女の規格外の強さに瞠目させられる。

 魔眼の呪いの影響があってなお、あの反応と防御力、そして膂力ですか。

 

「ライダー・・・あなたさえいなければ・・・いいえ、今となっては詮無いこと・・・」

 

 呟きながらセイバーは、その場で剣を脇に構える。

 間合いを詰めることすらしない。

 しかし、その剣には強烈な魔力が宿っていた。

 宝具ではないにせよ、充分な破壊力を宿した剣を振るうことによる魔力の放出。

 私も士郎もあれをまともに受ければ一溜りもないだろう。

 彼女にはこれがある。

 だが、

 

「む!?」

 

 ゴウッ!

 

 想定外の攻撃を肩口に受けたセイバーは、溜めていた魔力を霧散させた。

 

「弓道の経験がこんなところで活きてくるなんてな・・・」

 

 セイバーの攻撃を妨害したのは、士郎の放った一撃だった。

 彼女の肩口に突き立ったのは、弓から放たれた矢であり、そしてその弓を構えているのは士郎だ。

 弓も矢もアーチャーの使っていたものを模倣したものだ。

 

「はっ!」

 

 士郎の攻撃で僅かに生じたセイバーの隙を狙って、私は弧を描くようにして跳び上がり、セイバーに向けて杭剣を振り下ろす。

 

「甘い!」

 

 だが、この攻撃に対してもセイバーの反応は早かった。

 受けに回るどころか、私の攻撃を迎え撃つようにして、剣を横薙ぎに払いにきた。

 

「!?」

 

 ギィィィィンッ!

 

 防御しないと危険だと判断した私は、咄嗟に両手の杭剣を盾にしてセイバーの攻撃を防いだ。

 これにより再び弾き飛ばされた私は、今度は間合いを詰めてくるセイバーから距離を取る為に大きく横へと跳んだ。

 幸い速さでは、私のほうに圧倒的な分がある。

 

 ゴッ!

 

 なおも私を追おうとするセイバーに再度士郎の矢が襲うが、予測されていたこともあり、あっさりと彼女に躱されていた。

 

「士郎の援護がなければ、何もできないのですか?」

 

 セイバーが私を揶揄してくる。

 私に対して嘲ったり、煽ったりしようという意図は感じない。むしろ、苛立ちを覚えているかのようだ。

 私は、『そのとおりです』という本音を押し殺して、違う言葉を投げ掛ける。

 

「羨ましいのですか?」

 

 一旦距離を取った後、再び私は彼女に接近しながら、騎士王たる少女に問い掛ける。

 少女の白い顔が僅かに朱く染まる。

 

「あなたは、結局一度も彼に助けてもらえませんでしたね」

 

 当たり前だ。

 彼女にはそんな必要がなかったのだから。

 それだけ彼女は強かったし、今も充分に強い。

 私のような二流のサーヴァントでは太刀打ちできないほどに。

 今、私が士郎に助けられているのは、私が弱いからに他ならない。

 それでも、私はこの言葉を敢えて彼女に投げ掛けた。

 

「当然だろう!英霊が(マスター)に助けられるなど、もってのほか。己が役割を果たせていないということではないか!」

 

 私は先ほどまでとは違い、彼女を攻撃するように見せ掛けて、横を擦り抜ける。

 

 ザッ!

 

 セイバーの黒い剣が私を追って振われるが、空を切った。

 

「そんなだから、あなたは士郎を私に盗られたのですよ」

 

 ガッ!

 

 士郎の放った矢がセイバーに命中するが、セイバーは左の籠手を振るっただけで、弾かれる。

 初撃は意表を突けたが、もはや有効打にはならないだろう。

 

「何の話をしているのだ!」

 

 再び腰だめに構えたセイバーが、剣に魔力を纏わせる。

 士郎の矢では、次の攻撃を妨げることはできない。

 

「男女関係の(もつ)れについてでしょうか」

 

 私は彼女の剣から繰り出される強烈な魔力放出に備える。

 

戯言(たわごと)を!」

 

 ──―コゥ──―

 

 横薙ぎに振るわれた黒い閃光は、かなりの熱量と破壊力を伴って、私の元へと迫る。

 だが、タイミングは私の思惑どおりだ。

 

「ふっ!」

 

 すんでのところで跳び上がって回避する。

 そして、そのまま本堂の軒先に魔力で強化した足をつくと、一蹴りでセイバーへと躍りかかる。

 

 ガッ!

 

 両手の杭剣を交差させて突っ込んだ私に対してセイバーは剣を盾にして押し止めようとした。しかし、魔力放出直後の状態で僅かに体勢が崩れていたこともあり、踵で地面を削りながら後退する。

 この戦い・・・いや、この聖杯戦争全体を通して、初めて私は彼女を押し込んでいた。

 

「む・・・!」

 

「はあぁぁっっ!」

 

 その勢いのまま、間合いを開けさせることなく、左右の杭剣を連続して叩きつけていく。

 

 ガッ!ギンッ!ギンッ!

 

 しかし、それも長くは続かなかった。

 私の攻撃を捌きながらも、セイバーは徐々に体勢を立て直していき、後退する距離が短くなっていく。

 そして、

 

 ガンッッ!

 

 私の杭剣が彼女の胴に直撃した。

 しかし、黒い鎧を貫き中の体を傷つけたものの、それは軽微なものでしかなかった。

 

「やはりその程度ですか」

 

 セイバーは、自身の傷を物ともせずに、私の体を袈裟切りに斬り下げた。それは、あのアインツベルンの城で私に振るわれた剣の軌道と同じだった。

 

 シュゥゥ──―

 

 血飛沫が空を舞う。

 

「くぅぅっ・・・」

 

 すんでのところで、跳び退った私だったが、躱し切れなかった。体には振るわれた剣の軌道どおりの傷跡が残った。

 かなりの深手だ。

 セイバーは、こちらの攻撃が直撃しても鎧で軽減すればさほど大きなダメージにはならないことを察して、相打ち狙いに切り替えてきたのだ。

 さらに踏み込んでくるセイバーに対して、私は防戦一方になった。だが、受けに回ると力の差はより歴然とする。

 私は体の至る所に無数の傷を負っていく。

 

「・・・まずいですね」

 

 私としては、唯一勝っている速さを活かして翻弄し、徹底的にヒット&アウェイで攻勢に回りたかったが、既にその状態を覆されてしまっていた。

 

「ライダー!」

 

 ドンッ!

 

 私の窮地を察した士郎が、咄嗟の判断でセイバーの足元の地面に向けて矢を放った。

 これにより地面が抉れ、ほんの僅かにセイバーの攻勢が緩んだ。

 私は、大きく後退してセイバーと距離をとる。

 だが、それは彼女があの魔力放出を存分に揮えるということでもある。

 

投影(トレース)開始(オン)!」

 

 士郎が詠唱を始めた。

 私も次の展開への準備に入る。

 一方、セイバーは剣に魔力を収斂させていく。

 

「いけ!干将!莫邪!」

 

 士郎の行動は早かった。

 投影し慣れた武器である二振りの夫婦剣。

 それを矢として変成し、手にしていた弓で放ったのだ。

 二条の白と黒の矢は寄り添うようにして、一直線にセイバーに迫る。

 

「なにっ!?」

 

 セイバーは咄嗟に魔力を纏った黒剣を振るった。

 

 ズンッ・・・!!!

 

「くっ・・・」

 

 残ったのは、両の籠手を盾のようにして立ち尽くすセイバーだった。

 黒と白の矢は、セイバーの黒い閃光を消滅させ、彼女にまで届いたようだが、最終的には彼女の鎧によって防がれていたようだ。

 だが、それで構わない。

 この攻防は、次の行動への布石なのだから。

 

「──―宝具!」

 

 士郎が作り出した僅かな時間で、既に彼の傍まで駆け寄っていた私は、地面に手を付いて眼前に召喚陣を出現させる。

 

「ここでくるかっ!?」

 

 宝具の準備に入った私の様子を見て、セイバーが一気に魔力を収斂させていく。今度のそれは、これまでとは桁違いの魔力だった。

 私の宝具に対しては、彼女も宝具をもってしてしか対抗し得ないことをわかっている筈だ。

 そして、勿論、単純にぶつかり合えば私が負け、消滅するしかない。

 

投影(トレース)開始(オン)!」

 

 士郎が私と並ぶようにして傍らに立つ気配を感じた。

 

「信じています」

 

 私は必ず少年が守ってくれると信じるだけだ。

 

熾天覆う(ロー)──―──―」

 

 少年は突き出した自分の右手を左手で支える。

 

「──―──― 約束された(エクス) ──―──―」

 

 少女は膨大な魔力を纏った黒い聖剣を上段に振りかぶる。

 

「──―──―七つの円環(アイアス)ッッ!!!」

 

 少年と、そして私の前方に美しい4枚の花弁が咲いた。

 それは私と士郎を守る大事な盾であり、命綱だ。

 

「──―──―勝利の剣(カリバー)ッッ!!!」

 

 少女が振り下ろした剣から、黒い閃光が放たれた。

 それは荒れ狂う奔流となって、凄まじい勢いで行く手を遮る花弁に襲い掛かった。

 

 ズシャアアアァァァ──────

 

 その閃光は圧倒的な破壊力で花弁に喰らいつく。

 美しかった花弁は1枚また1枚と無残に散っていく。

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」

 

 士郎が必死に私たちの盾を維持しようとするが、堪えきれなくなる。

 猶予はない。

 

騎英の(ベルレ)──────!」

 

 私は召喚陣に飛び込むようにして天馬(ペガサス)を喚び出しながら、その背に跨った。

 黄金の手綱を私は固く握りこむ。

 

手綱(フォーン)ッッ ──────!!!」

 

 渾身の魔力と、そして思いを込めて真名を解放すると、呼応するようにして天馬が大きく一啼きした。

 

 ────────────

 

 

「頼むっ!ライダーッ!」

 

 私の背中に少年の声が届く。

 

「はい。士郎」

 

 口の中で噛み締めるように返事をして、私達は一条の光となって黒い閃光に真正面から突っ込んでいき・・・

 

 ゴゥッッ!!

 

 そして、眼前の黒い奔流とぶつかり合う。

 

 ザァァァァァァァァァ・・・

 

 自分の周りだけが白く、周囲は完全に闇に閉ざさていた。

 滝の中に飛び込んで轟音の世界に永遠に飲み込まれたような感覚を覚える。

 だが、それは刹那のことだったのだろう。

 世界が開けた時、眼前には驚きに目を見開いた騎士王の顔があった。

 

 ドンッッッ!!!!!!

 

 凄まじい速度と破壊力を持って、白い彗星(私とペガサス)はセイバーに直撃した。

 

 

 Interlude in

 

 

「ここを確認してみろ、桜。空気が通っているのがわかるだろう?」

 

 アーチャーが一見何の変哲もないように見える洞窟の岩肌に手を翳した。

 

「え?ああ本当ですね。魔術的にカムフラージュされているだけなんだ」

 

 アーチャーに倣って手を翳すと、桜にも風が抜けているのを感じられる。アーチャーと桜は、そのままその岩に近づくとスルリと通り抜けることができた。

 

「ここを抜けてくると、大聖杯にもかなり近い。正面から来ると思い込んで待ち構えているとどうなる?」

 

「気付いたら大聖杯を壊されてるなんてこともあるかも知れませんね」

 

「そうだな。凛ならばこのルートを知っているかもしれない」

 

 だとすれば、士郎達に伝えられている可能性があるだろうと続けた。

 

「一応、注意しておいたほうがいいですね」

 

「そうだな。まあ、奴らのほうから戦力を分散するとは考え辛いが、アンリマユの誕生阻止を最優先と考えてるなら有り得なくはない」

 

「だけど、よくこんなの気付きましたね。洞窟の構造から推測したんですか」

 

 少し呆れたように桜が尋ねる。

 

「そんなわけがないだろう。人工的な建造物ならわかるかもしれんが。単に空気の流れがおかしいことに気付いて、地道に調べただけだ」

 

「そういうところも先輩らしいですね」

 

 クスリと桜が笑う。

 それは、普通の女の子の仕草のようだった。

 

「ん?」

 

 ガチャガチャ・・・

 

 細い洞窟の先から微かに何かが近付いてくる音がした。

 

「あ、当たりですかね?」

 

 ここを通って士郎達が来るという先程の仮説が的中したのかと、桜は考えた。

 

「どうだろうな・・・」

 

 弓兵の目は遥か遠くまで見渡せるが、曲がりくねった洞窟内ではそうもいかなかった。

 

「あれ、骸骨ですか?」

 

 二人の視界の先に現れたのは、鎧を纏い、剣を手にした骸骨だった。それが、一体、また、一体と増えていく。

 

「そうだな。キャスターの竜牙兵だろう」

 

 アーチャーはそう推測した。

 コルキスの魔女たるメディアは、竜の牙から数多の骸骨兵を生み出したという伝承がある。

 

「気味悪いですね」

 

 桜が不快そうに顔を歪めた。

 

「本当にキャスターが率いてきているかは怪しいが、どちらにせよ片付ける必要があるな」

 

「じゃあお願いしますね。先輩。カッコいいとこ見せてください」

 

「ああ、そうか。私がまともに戦っているところは見たことがないんだったな」

 

「ええ」

 

「了解した。マスター。とは言え、ここではあまり派手なことはできんな」

 

 空洞内の他の箇所ならともかく、ここは狭い通路だ。

 強力な宝具を使えば、忽ち崩壊するだろう。

 

「準備運動がてら地道に潰すとしようか」

 

 アーチャーは、白と黒の双剣を生み出し、眼前に迫り来る異形の兵に対峙した。

 

 

 Interlude out

 

 

 R turn

 

 

 ガラ・・・

 

 私は体に積み重なって乗っていた木々を払いのけて這い出すと、何とか自由を取り戻した。

 

「・・・セ・・・セイバーは・・・?」

 

 ボロボロの体に鞭打って立ち上がり、周囲を見回した。

 私の宝具【騎英の手綱(ベルレフォーン)】は、士郎の助けにより、【約束された勝利の剣(エクスカリバー)】を突破することに成功してセイバーに直撃した。

 勢いはだいぶ減衰させられていたが、私と彼女は一塊りになって、柳洞寺の本堂から居住棟を貫き、山林に立つ数多の木々を薙ぎ倒したところで止まった。

 私自身も元々傷を受けていたことで、数々の衝撃に耐えられず天馬から投げ出されて、森の中に転がることになった。

 

「・・・この先にいるはず・・・」

 

 倒れた木々が森の中にあたかも通路を作り出したかのようになっていた。

 ずるずると殆ど動かない左足を引き摺るようにして、私は歩く。

 かなりの手応えがあった。

 しかし、おそらくセイバーは霊核を破壊されるまでには至っていない。

 

「何としても、私自身の手で・・・」

 

 セイバーに止めを刺す必要がある。

 回復する可能性もあるし、何よりこれ以上、士郎に会わせたくなかった。

 程なくして、彼女を見つけることができた。

 少女は一本の大木に寄りかかり、座り込むようにして倒れていた。

 

「・・・シロウ?・・・」

 

 意識が混濁しているのだろうか。

 虚ろな目をしたセイバーは、事もあろうに私に向けてそう問い掛けてきた。

 

「残念ながら違います」

 

 黒い鎧のかなりの部位が破損しており、傷だらけだ。

 だが、致命傷ではない。

 私は杭剣を手に、彼女に近付いていく。

 

「・・・・・・ああ・・・あなたですか・・・」

 

 セイバーは私を認識して残念そうに呟いた。

 

「止めを刺させてもらいます」

 

「まさか、あなたに負けるとは・・・いいえ・・・私は負けるべくして負けたのでしょう・・・」

 

 黒い騎士王たる少女は自嘲するような笑みを浮かべた。

 

「・・・思えば、あの日、あの時の判断ミスが全てでしたね・・・」

 

 セイバーが言っているのは、柳洞寺でアサシンに士郎が襲われた時、彼女が私を残してアサシンを追った事だろう。

 

「・・・ええ。あれが無ければ、士郎の隣にいるのはあなただったでしょう」

 

 一方で、私は慎二にいいように使われ、惨めな弱小サーヴァントとしてとうの昔に消えていた筈だ。今日、この時まで生き残っていられたとはとても思えない。

 

「そして、士郎はもっと簡単に勝者になっていたかもしれません」

 

 そう。

 士郎にとっては、セイバーが傍にいたほうがずっと良かっただろう。私と関わってしまったから、彼はあんなにも苦悩し、傷つくことになった。

 

「・・・そうですね・・・私ならばきっと彼と正道を歩んで勝ち残っていたことでしょう」

 

 彼女なりの矜持から出た言葉だったのだろうが、充分に説得力があった。

 それだけ彼女は強く、そして真っ直ぐで誠実だった。

 

「ですが、現実は違います。今は、私が士郎と共に歩み、あなたは士郎に敵対し、そして敗れた」

 

 それがただ一つの事実だ。

 私は彼女を見据えて、それを突き付ける。

 もしかしたら、キャスターの魔術と聖杯があれば、彼女を元に戻す方策があるかもしれない。

 だが、

 

「私はあなたを殺します。士郎を誰にも取られたくない」

 

 そう。

 これは私の、女としての欲望だ。

 

「もし、違う世界で出会ったら、私を百回殺せばいい」

 

 私は両手で一本の杭剣をきつく握りしめて、大きく振り上げた。

 

「ですが、この一回だけは譲れません」

 

「・・・それなら、遠慮なくあなたを千回殺しましょう」

 

 少女はうっすらと微笑んだ。

 

「・・・シロウを頼みます」

 

 それは、あまりにもこの少女らしい言葉だった。

 セイバー、あなたはどこまでもあの少年の騎士を務めようとした。もっと素直に女として振る舞ってもよかった筈なのに。

 私は最期の一撃を振り下ろした。

 

 ───────

 

 心臓を破壊した確かな手応えが両手に伝わってきた。

 

「・・・だから・・・あなたは駄目なのです」

 

 少女の魂が私の手の中で、儚く消えていった。

 








というわけでセイバーファンの皆様申し訳ありませんでした・・・
おそらく原作以上にセイバーに救いのないラストとなってしまっています。
本作の展開上、覚悟はされていたかと思いますが、ひらにご容赦を・・・


ライダー&士郎vsセイバーの激突となりましたが、この闘いのベースは完全に原作および映画です。
あれ以上のものは考えられませんので・・・
ただ宝具に至るまでの過程は大きく変えて、士郎が積極的に加勢し、ライダーの煽りの方向性も逆にしています。
屋外の戦いのため、原作よりセイバーが力を発揮しやすくなっていますし、本作序盤でセイバーの強さを際立たせる書き方をしていましたので(このシーンのためにそう表現していました。)。

そして何より、止めシーンのライダーとセイバーの会話です。
騎士である自分を貫くセイバーと我欲を優先したライダー。本作で最も書きたかった対話でした。
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