Fate/√knight  【ムラサキノウエ】   作:わが立つ杣

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開戦2日目。バーサーカーとの激戦を終えて。


第4話 ~2日目①~ 「貸し借り」

 R turn

 

 

「どうやら最後のサーヴァントであるセイバーが現界したようじゃな」

 

 登校前に、間桐臓硯が慎二に伝えてきた。

 昨日、校庭で開戦前にランサー、アーチャー、そして私自身が絡んで前哨戦が行われたわけだが、殆ど間を置かずに、正式に開戦の運びとなったようだ。

 それでも、慎二は今までどおり学校に行くと言っている。

 昨日の一件で、元々校内で唯一の魔術師とわかっていた遠坂凛がアーチャーのマスターであることは判明した。

 一方で、慎二が私のマスターであることが向こうには気付かれているだろうか?

 結果的にアーチャーの狙撃はなかったことを踏まえると、ランサーとの戦いの後にすぐに離脱していた可能性もある。しかし、少なくとも慎二が私の名を呼んだ声が聞こえていたのではないだろうか。

 

「同盟してやってもいいって、遠坂に提案してやろう」

 

 現時点での私たちの戦力は心許ないため、誰かと手を組むという方針は悪くない。

 遠坂凛とは一定の面識があり、優秀なサーヴァントを従えてもいる。慎二にしては、妥当な案と言えた。

 もっとも、彼が彼女に嫌われてさえいなければ・・・の話ではあるが。

 

 

 

「お断りよ」

 

 痛快なまでに一刀両断であった。

 ここは休み時間中の屋上。

 慎二は、『例の儀式のことで』とだけ伝えて遠坂凛と話す機会を設けた。

 彼女は普段他者と接するときには、基本的にオブラートで包んだソフトな言い回しで対応している。

 その基本スタンスは、慎二と接する時にも最初は変わらないのだが、慎二のしつこさに辟易し、すぐに剥がれ落ちて辛辣になる。

 おそらくこちらが彼女の地なのだろうが、このパターンを既に何度も見ていた。

 だが、今回は最初の時点から地が発揮されていた。

 多少嫌っている相手だとしても、客観的には彼女にとっても一考の余地のある話として、少しは検討するかと思ったのだが・・・

 

「あなたみたいな人に背中は預けられない。この戦いは生きるか死ぬか。私にとっての『全て』なんて言わないけど、避けては通れない運命の舞台なの。それを芯のない人とは分かち合えないわ」

 

 そう断言する少女は眩しいくらいに輝いていた。

 これは、慎二が関与できるような相手ではない。

 と、私ははっきり認識させられた。

 

「何だと・・・昨日の戦いを見ていたけど、アーチャーはランサーにやられてたじゃないか。だから、遠坂が困っているだろうと思って、こっちは助けてやろうといい提案を持ってきたっていうのに!」

 

「そんな話は関係ないわ。私があなたを信頼できないって言っているだけよ」

 

「!?・・・なんだって・・・じゃあ遠坂は誰だったら信頼できるんだよ?」

 

「衛宮君よ」

 

「え?」

 

 え?

 私も驚いた。

『衛宮君みたいな人』ですらなく、彼女は『衛宮君』と断言した。

 

「・・・え・・・衛宮だと・・・?」

 

「そうよ。昨日あなたを助けたのは彼だったでしょ?あの時の彼は、あなたという友達を救うこと。それだけの思いで、命懸けでランサーの前に飛び込んでいったのよ」

 

 確かにそうでしょうね。

 私の知る【衛宮士郎】像と、遠坂凛の語る【衛宮士郎】は完全に合致していた。

 

「まあ、正直、危なすぎて怖いけど。自分の成すべきことを彼は心で規定している。芯があるってそういうことでしょ。あなたとの比較に持ち出すことすら、申し訳ないくらいよ」

 

 言っていることは、よくわかる。

 が、ここまで言うのはもっと決定的な何かがあるからではないだろうか。

 

「それじゃあね。間桐慎二君」

 

 そう言い残して、彼女は鮮やかに屋上を去っていった。

 

「衛宮だと・・・」

 

 慎二は彼女の後姿を見送ることもできず、拳を握りしめて立ち尽くした。

 

 

 E turn

 

 

「セイバーもアーチャーもなかなかやるじゃない。ちょっとは楽しくなりそう」

 

 昨夜の出来事。

 バーサーカーは、アーチャーの弓を使った宝具による攻撃で斃したものの、1回目と同様、瞬く間に蘇った。

 

「それじゃあね。凛、そしてお兄ちゃん。次に会った時は殺すからね」

 

 歌うように軽やかに告げて、バーサーカーのマスターである【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン】と名乗った少女とバーサーカーは、オレ達の前から去っていった。

 その脅威をまざまざと見せつけられたオレと遠坂は、対抗するためにその場だけでなく当面の間共闘することにしたのだ。

 今日は学校がある。

 セイバーは反対したが、オレは今までどおり学校に通うことにした。セイバーは霊体化できないため、家で留守番だ。

 

「それでは危険を感じたら、令呪を使って呼んでください」

 

「勿論だ」

 

 この問答でセイバーは、なんとか納得してくれた。

 この学校にいるマスターはオレと遠坂と慎二。

 遠坂の話では、校内には他に魔術師がいないことは確実ということだ。

 であれば、左程危険はないし、遠坂とは校内で落ち合って、今後の方針について話したい。

 一方で、慎二の動向も気になる。

 

「場合によっては、慎二とも協力できるかもしれないよな」

 

 そのためにも、慎二の聖杯戦争に参加する目的を確認したいところだ。

 現状、慎二はオレがマスターになったことを知らないどころか、魔術師であることも知らない。先ずは、そこから話さないといけないなと思っていたのだが・・・

 

「さっき、慎二が私と手を組んでやるなんて言ってきたもんだから、衛宮君と組むならともかく、あんたとなんか真っ平ごめんよって断っちゃった」

 

 と、遠坂凛様は(のたま)いました。

 ・・・えっと・・・

 

「・・・とおさか・・・さん・・・できればもう少し詳しく経緯を話していただけると助かるんですが・・・」

 

「だから、あいつが偉そうに手を貸してやるなんて言ってくるもんだから、きっぱり断ったって話。あんな信用できない奴と、一緒に戦うなんて無理に決まってるじゃない」

 

 オレの憧れていた優等生【遠坂凛】は、昨日既に死んでいる。

 学校では完全に猫を被っていたということも理解した。

 とは言え、昨日の時点では、ここまで容赦のないタイプだとはわかっていなかったのだが・・・

 

「まあ、慎二とウマが合うわけないよな・・・」

 

「あ。でも、衛宮君がマスターだってことは言っていないわよ。あくまでも、信頼できる相手としてあなたの名前を挙げただけ。衛宮君自身が慎二にマスターだって伝える前に、私から伝えるのはフェアじゃないでしょ」

 

「あいや・・・そこを気にしているわけじゃないんですよ・・・」

 

 オレがマスターであることは、そう遠からず、慎二には直接伝えるつもりだったから、その点に関しては心配していない。遠坂が仮定の話としてオレの名前を持ち出したとしても、オレがマスターであるとは、今の時点では微塵も思わないだろう。

 とは言え、これで慎二と共闘する可能性はなくなったわけだ。

 

「ていうかこの話を持ち出した場合、遠坂がそもそも『うん』と言わなかったってことだしな」

 

 オレは、遠坂に聞こえないように小声で呟いた。

 昨日、オレは遠坂と同盟を組むという選択をした。

 その結果なのだから仕方ないときっぱり諦めるべきだ。

 とは言え、

 

「あいつプライド高いからなあ。遠坂にそこまでやられたとなると、この後が心配だな」

 

 共闘しないにしても、慎二の今後の行動は気になるところだ。もしかしたら、早急な対応が必要になるかもしれない。

 

「そんなんだからダメなのよ」

 

 赤い悪魔は辛辣だ。

 オレは付き合いが長いだけに、慎二がこの後、別のところに怒りをぶつけることを懸念した。

 

「癇癪を起こすと、何をしでかすかわからないやつだからな」

 

 

 

 放課後になった。

 遠坂はアーチャーの回復に専念したいので、今日の夜は行動しない方針とのことだった。

 

「ごめんなさい。こちらの都合で行動を制限させてしまって」

 

「いや、セイバーが負わせた傷もあるし、他の二戦ともオレが生き残ることに繋がっている。気にするようなことじゃない」

 

 遠坂達と手を組んだオレも、今日はセイバーと共に、せいぜい近場の巡回程度に止めるということになったのだ。

 

「それでも、気を付けてね。念のためにこれを渡しておくわ」

 

 と言って、遠坂は小さな黄色い宝石をオレに持たせた。

 遠坂も同じ宝石を持っている。

 

「これは対になっているの。魔力を通すことでもう一方の宝石に伝わるようになっている。おおまかな場所もわかるわ。お互いに敵と遭遇したときや、早く合流したい時に使いましょう」

 

「わかった」

 

 だが、アーチャーの回復のためにも、今日はこの宝石をなるべく使わないようにしなければならない。

 実のところオレは今日、一つだけやろうと思っていることがあった。

 

「慎二を見張っておいた方がいいと思うんだよな・・・」

 

 

 

 オレ、桜、藤ねえにセイバーを加えた4人で夕食を終え、少し落ち着いた頃合い。

 時計は夜の9時を示している。

 ちなみに、セイバーがしばらくここに滞在することは朝食の際、桜と藤ねえには伝えていた。

 

『まあ、切嗣さんを頼ってきたって言うんじゃ仕方ないわよねえ』

 

 すんなりと納得してくれたわけではなかったが、切嗣の知り合いだと紹介したことで、藤ねえは受け入れてくれた。藤ねえが折れたことで、桜も反対する(すべ)を失ったような格好になったのだ。

 これで取り敢えず、セイバーの滞在が我が家で認められたわけだ。

 既に、桜も藤ねえも自宅に帰っている。

 オレは予定していたとおりに行動するべく、昨日の夜も世話になった木刀を持ち出した。

 

「セイバー。外に出かけよう」

 

「シロウ。今日は周囲の巡回程度ということではなかったのですか?」

 

 セイバーが不思議そうに問い掛けてきたので、学校での遠坂との会話とオレの抱いている懸念を伝えた。

 

「なるほど。シロウの友人は、癇癪持ちのマスターということですか。厄介そうですね」

 

 セイバーはすぐに納得してくれた。

 

「ああ。何事もなければいいんだけどな」

 

 正門を出て、間桐邸に向かう。

 最近はあまり行かなくなったが、以前は何度か訪れたことのある家、というより屋敷だ。この界隈では、一番大きいのではないだろうか。

 その間桐邸へと分岐する交差点に差し掛かった時、オレが向かおうとしていた方から誰かが歩いてくるのに気が付いた。

 

「・・・慎二・・・?」

 

 間違いなく慎二だった。

 向こうはまだ気付いていないようだったので、咄嗟に戻って身を潜める。ついてきていたセイバーも同じようにしている。

 慎二はそのまま交差点を直進していく。

 

「あいつ、どこに行くつもりだ?」

 

 方向としては、新都に向かっているようだった。

 勿論、ただの散歩。気紛れ。買い物?という可能性もゼロではないが、聖杯戦争が開戦したこのタイミングで、そんなことをすると考えるほど、オレも能天気ではない。

 であれば、この戦いに関連した行動のはずだ。

 慎二はともかく、霊体化して同行しているであろうライダーに見つかるかもしれないので、かなりの距離を空けて、尾行することにした。

 慎二を追っていくと、案の定、橋を渡り新都側に着いた。

 昨日、バーサーカーとの戦闘があった中央公園に近い。

 ここまでは、橋を渡る必要があるため、向かう方向を推測できたが、ここからはそうはいかない。

 

「しまった。ちょっと距離を開けすぎたかな・・・」

 

 案の定と言うべきか、慎二を見失ってしまっていた。

 オレもセイバーも慎二を探すため、少し早足になって歩いていた時だった。

 

 ──―ゃぁぁ!───

 

 聞こえるか聞こえないか。

 空耳かもしれないと思うほど微かに女性の悲鳴が聞こえた。

 

「シロウ。聞こえましたか?間違いなく悲鳴です」

 

 セイバーのほうが知覚が鋭いのだろう。

 

「急ぎましょう」

 

 彼女は確信をもって、悲鳴の聞こえた方向に走り始めた。

 

「ああ」

 

 オレもついていくと、程なくして悲鳴の発信源に辿り着いた。

 そこは公園の手前にある木々の暗がりだった。

 

「・・・何だ?あれは?」

 

 そこには、人ならざるモノがいた。

 

 

 

 印象というのは、見る場面によって変わるものだというのをまざまざと思い知る。

 彼女は間違いなく、昨日オレを救ってくれたサーヴァントだった。少ないながらも言葉も交わした相手だ。

 

「・・・血を・・・吸っているのか?」

 

 しかし、今、オレの視線の先で人の生き血を啜る彼女は、間違いなく怪物だった。少し世慣れた男なら『女は化けるもの』とか言うのかもしれない。

 

「間違いなくライダーだ・・・」

 

「あれが、昨日私を召喚する前に会ったという英霊ですね」

 

 セイバーが警戒を強める。

 長い髪は地面に広がっており、四つん這いのような体勢になったライダーは、倒れている女性の二の腕に牙のような歯を突き立てていた。

 悲鳴を上げていた被害者の女性は、年の頃は二十代後半くらいだろうか。スーツ姿であることから、仕事帰りのOL なのだろう。気を失っているようだが、まだ命に関わるような状態ではなさそうだ。

 そして、その傍らには口元に笑みを浮かべた慎二が立っていた。

 

「慎二!何やってんだ!?」

 

「衛宮?何だってお前が?」

 

 慎二がオレを視認する。

 同時にライダーもオレに気付いて、こちらに顔を向けてきた。

 その口元からは、血が(したた)っている。

 

「慎二。彼の隣にいるのは、サーヴァントです」

 

 ライダーは、オレの隣にいるセイバーを見ながら、そう慎二に伝えた。

 

「なんだって?」

 

「ああ。昨日、あの校庭での戦闘の後に、偶然な。伝えられなくてすまなかったが、一応オレもマスターになったんだ」

 

「衛宮が・・・マスターだと?」

 

 慎二はまだ状況を受け入れきれていないのか、小刻みに体を震わせていた。

 だが、オレとしては襲われていた女性の状態が心配だった。

 慎二との問答に悠長に時間を割いているわけにはいかなかった。

 

「慎二。ライダーに人を襲わせていたのか?何でそんなことをする?」

 

「お前もマスターだって言うんならわかるだろ?こいつらは常に魔力を必要とする。手段は色々あるけれど、ライダーがこうしたいって言うからね。僕は止めたんだぜ」

 

「魔力の補充?そのために人の血を啜るだって?」

 

 オレは、ちらりとセイバーを見る。

 セイバーがそんなことをするとはとても思えなかった。

 

「魔力の補充が必要なのは確かですが、私は血を啜ることなどありません。ライダーの特性によるものでしょう」

 

 オレの視線の意味を察したセイバーが即座に答えてきた。

 

「それにしても、衛宮がマスターとはねえ・・・ってことは、学校で遠坂が言っていた話は、例え話じゃなかったってことか?」

 

「ああ。オレと遠坂は既に手を組んでいる。その事を伝えられていなかったことについては、すまないと思っている」

 

「なるほどね。それで、遠坂はあんな態度を取っていたってことか」

 

 慎二の思考はどうもおかしな方向に進んでいるような気がする。何か誤解をしているようだった。

 

「衛宮。遠坂との共闘を解消するんだ。遠坂は、お前みたいな半端者では生き残れないと心配して、手を差し伸べたんだろう。だからこそ、僕の提案を拒絶せざるを得なかった。でも、本当にあいつと一緒に戦うべきなのは、由緒正しい御三家の家柄である僕のほうだ」

 

 慎二には悪いが、ついていけない話になっているのを感じる。だが、受け入れられない内容であることだけは明らかだった。

 

「すまない慎二。それはできない。遠坂の信頼を裏切るわけにはいかないし、一度約束したことを翻すことは許されない」

 

「そうかい衛宮。僕は望まないままに、殺し合いに巻き込まれた友達を助けてやろうと思ったのにな」

 

 そう言うと、右手を体の前に差し出す。

 その手には、一冊の古びた本が握られており、その本はかなりの魔力を帯びているのがわかった。

 

「もういいよ。お前」

 

 慎二の口調が一気に険悪な雰囲気を帯びる。

 

「さあ、戦おうぜ。衛宮。せっかく聖杯戦争が始まったんだ。サーヴァント同士の殺し合いをしよう」

 

 慎二は、やる気だった。

 後方にいるライダーの構えが低くなり、戦闘体勢に入っている。

 くそ・・・どうにもならないのか。

 

「シロウ!下がって!」

 

 セイバーが不可視の剣を構えて、オレの前に出る。

 

「行け!ライダー!衛宮のサーヴァントを殺せぇ!」

 

 ダンッ!

 

 慎二の号令と同時に、ライダーが大きく跳躍して後ろの大木に両足を着くと、一気にセイバーに飛びかかってきた。

 構えていた両手の杭剣をセイバーに叩きつける。

 

「ふっ!」

 

 ッガインッ!!

 

 セイバーはそれを剣で受け止め、弾き飛ばす。

 避けることもできたんだろうが、後ろにいるオレのことを意識したのだろう。

 オレはセイバーから少し離れるようにした。

 とは言え、ライダーの動きは速く、トリッキーだ。そのうえ、周囲の木々も利用しており三次元的でもある。

 

「この戦い方がライダー本来のものなんだろうな」

 

 昨日のランサー戦のような正面切った戦い方とは、違っていた。

 多少セイバーから離れたとしても、オレを標的にされると彼女が庇うのは難しいだろう。

 

同調(トレース)開始(オン)

 

 オレは竹刀袋に入れていた木刀を取り出し、魔力を通して強化する。オレが狙われた時には、とにかく最初の一撃を止めるつもりだった。

 だが、さしあたり、ライダーはセイバーへの攻撃に集中しているようだ。

 縦横無尽に動き、間断なく攻撃を浴びせ続けている。

 

「ははっ!何だ衛宮、お前のサーヴァントは?一方的にやられているだけじゃないか?」

 

 勝ち誇ったように慎二が笑う。

 

「僕のライダーは、昨日、アーチャーより強かったランサーを退けたんだぜ。そんなちっこいサーヴァントが太刀打ちできるわけないのさ」

 

 なるほど。そういう分析もあるのか。

 だが、セイバーはライダーが劣勢だったランサーを圧倒し、あのバーサーカーにも拮抗して見せたのだ。

 だから、オレは、この戦いにおいてセイバーの心配は全くしていなかった。

 オレが気に掛けるべきは・・・

 

 ドゴォッ!!

 

 タイミングを見計らったセイバーの一撃が大気を震わせた。

 

「きゃぁぁぁっっっ!!」

 

 悲鳴を上げながらライダーの体が宙を舞う。

 夥しい鮮血をまき散らして、長い髪を大きく広げながら、

 

 ドゴッ!

 

 その体は、慎二の横を通過し、後ろの大木に激突して、無残に正面から地面に崩れ落ちる。

 ライダーの攻撃に対して、セイバーは突き出される杭剣を身を捻って躱し、袈裟切りにライダーの体を斬り裂きながら弾き飛ばしたのだ。

 

「とどめだ!」

 

 セイバーが最後の一撃を加えるために、瀕死のライダーに突進する。

 サーヴァントとして当然の行動だ。

 だからこそ。

 

「令呪をもって命ずる」

 

 オレは、躊躇なく唱える。

 

「セイバー。ライダーへの攻撃をやめてくれ!」

 

 左手の令呪の一角が消えると同時に、効果は発揮されてセイバーの動きが止まる。

 

「・・・なっ!?シロウ!なぜ止めるのです!?」

 

 オレの思わぬ行動に驚いたセイバーが、こちらを振り返る。

 

「すまないセイバー。ライダーには、昨日殺されかけたところを助けられている」

 

 オレはそう言いながら、セイバーとライダーの間に体を位置させる。

 

「要するに借りがあるんだ」

 

 最初からこの事をセイバーに言い含めることで、万が一にも彼女が負けることに繋がってはいけなかった。

 そして、いくらセイバーでもサーヴァント相手に一撃で致命傷まで負わせる可能性は極めて低いと考えていた。その時の位置関係次第では、体を張って止めに入ることで、令呪を使わずに済ませることも考えたが、そこまでの僥倖には恵まれなかった。

 そのため、予定どおり令呪を使って止めたのだ。

 

「・・・借りですか・・・それでは止むを得ませんね。不満はありますが・・・・・・正直、彼女からは(よこしま)な気配を感じます。ここで、消滅させたほうが禍根を残さないとは思うのですが」

 

 いかにも不承不承という(てい)ではあるものの、セイバーは剣気を収めてくれた。

 

「わかってくれてありがとう。セイバー」

 

「いいえ。令呪まで使うことは無かったとは思いますが、あなたらしいと言えばそれまでですね」

 

 少し微笑みながら彼女は言った。

 その一方で、

 

「・・・な・・・なにやってんだよ・・・ライダー」

 

 慎二が呆然としながら、呟いていた。

 

「立てよ!ライダー!これじゃあ、僕が衛宮より弱いみたいじゃないかぁ!」

 

 激昂した慎二が手にしていた本を開き、何事か詠唱する。

 すると、その本が閃光を発するとともに、ライダーの体を電撃が襲った。

 

「立て!ライダー!立って衛宮を殺すんだ!」

 

「ゃぁぁあぁーっ!!」

 

 ライダーはその痛みに悶絶した。

 彼女はとてもこれ以上は戦えない。致命傷をぎりぎりで免れているという状態なのだ。この強制により、死線を超えてしまうかもしれない。

 

「セイバー!あの本を!」

 

 オレは、即座に判断して、セイバーに指示を出す。

 

「了解しました。シロウ!」

 

「ひぃっ!?」

 

 慎二の顔が恐怖に埋め尽くされると同時に、セイバーが一瞬で慎二の元に辿り着き、手にしていた本を斬り裂いた。

 

 ボッ!

 

 本は青い炎に包まれて、すぐに燃え尽きていった。

 

 フッ・・・

 

 すると、少し間を置いてライダーの体が消えていった。

 

「セイバー。ライダーは?」

 

 思わずセイバーに確認した。

 

「おそらく、霊体化したのでしょう。私の攻撃は霊核を破壊するまでには至っていませんし、先程の本による電撃でも死に至るほどのものではなかったと思います」

 

「そうか」

 

 一瞬、ライダーが完全に消滅したのかと焦ったが、セイバーの言葉で安堵した。

 一方で、慎二の怒りは収まる様子がなかった。

 

「この外れサーヴァントが!あいつ、女としてしか役に立たないじゃないかっ!!」

 

 ぷちん。

 その言葉にオレの中の何かがキレた。

 何だと?外れ?女としてしか?

 昨夜、ライダーは、オレと慎二を救ってくれた。

 今日だって慎二のために体を張って戦っていた筈だ。そのサーヴァントに対しての言葉がそれなのか。

 そして、一体、お前は彼女に何をしていたんだ?

 

 ゴッ!

 

 気が付いたら、慎二を殴っていた。

 慎二の体が地面に崩れる。

 

「ぐあぁぁぁ・・・」

 

 オレは、悶絶する慎二を意識から外して、もう一人、気にすべき今回の被害者のほうに目を向けた。

 

「セイバー。彼女を教会に連れて行こう」

 

 ライダーに血を吸われて倒れていた女性に近付いて、状態を確認してみる。

 思ったほどには、血を失ってはいないようだった。気を失っているがおそらくそれだけだろう。

 とは言え、サーヴァントに吸血された人間が本当に大丈夫なのか明確なことは言えないので、教会に運んで神父に診てもらうのが一番安全だろう。

 

「セイバー。頼まれてくれるか?」

 

「わかりました」

 

 セイバーはこちらの意図をすぐに察して、女性を担いだ。

 倒れたままの慎二を一顧だにせず、オレ達は教会へと急いだ。

 

 

 

 オレ達は被害者の女性を教会に連れて行き、神父に診てもらった。

 

「ふむ。まあ、問題ないだろう。吸われた血は献血程度だ。気を失っているのは、魔術的暗示によるもので、限定的に記憶を奪う魔術もかけられているな。目が覚めても何が起こったかはわかるまい」

 

 血を吸われた箇所も二の腕の裏側であり、全く気付かずに日常生活に戻れるということだ。

 

「聖杯戦争の監督役として、この手の事件の隠ぺいが私の仕事でもあるが、その観点からはほぼ理想的な犯行と言えるな」

 

 珍妙な表現ではあったが、問題ないということだ。

 オレ達は後のことを神父に任せて早々に立ち去ることにした。

 今日は慎二の動向を探ることが目的だった。

 あの後、慎二自身がどうなったかわからないが、サーヴァントを失った以上、一旦は自邸に戻っているだろう。

 オレ達としても、これ以上、夜の街をうろついて、意図しない遭遇戦に巻き込まれることは避けたいところだ。

 慎二やライダーのことは気になるが、今日はもう家に戻るべきだろう。

 

「セイバー。今日はここまでにして家に戻ろう。お疲れ様。そしてありがとう」

 

「いいえ。こちらこそ。今日もシロウの戦闘時の判断は的確でした」

 

 セイバーは爽やかに笑みを浮かべて、そう応えてくれた。

 

 

 




凛が暴走しています。
彼女の会話シーンは書きやすくてしかも楽しいです。こちらが何も考えなくても喋ってくれるので本当に助かりますね。

※タイトルつきました。
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