Fate/√knight  【ムラサキノウエ】   作:わが立つ杣

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ライダーを退け、そして助けた翌朝。


第6話 ~3日目①~ 「騎士王」

 E turn

 

 

 朝の5時。

 自分の部屋で、概ね習慣どおりの時刻に目が覚めた。

 昨夜、ライダーには強がりを言ったが、血をかなり吸われていた。あの時は痩せ我慢していたに過ぎず、『献血』レベルでなかったのは間違いがない。

 

「でも、意外と問題なさそうだな」

 

 多少の気怠(けだる)さなどで、寝起きにも影響が出るかとも危ぶんだが何ともないようだった。

 自分の回復の早さにちょっと感心するくらいだ。

 今日は2月1日。

 休日だ。

 昨夜は教会から一旦この家に戻った後、すぐに土蔵で鍛錬しようかと思っていた。しかし、ふと慎二のことが気になって間桐邸に向かうあの交差点に向かったのだ。

 

「あの状態を見たら、誰だって助けようとするよな・・・?」

 

 そこで動けなくなったライダーを見つけ、彼女の回復のためにと腕を差し出した。

 ライダーに吸血された被害者の容態は大したことがなかったので、彼女に血を吸われることに抵抗感はなかった。

 

「それにしても、セイバーとライダーは険悪な雰囲気だったな・・・」

 

 原因はよくわからなかったが、二人が口論していた様を思い出した。サーヴァント同士は基本的に相争う競争相手なのだから、仕方ないのかもしれない。

 間桐邸近くまでセイバーと共に彼女を送った後、この家に着いた頃には日付が変わる手前の時刻になっていた。

 

「さて、今日は一人で朝食の準備をしなくちゃな」

 

 今朝は桜はうちに来ないと言っていたので、セイバーと藤ねえのために一人で朝食の準備に取り掛かる。

 考えるべき事はたくさんある。

 だが、できればセイバーも交えて話したいところだ。

 

「おはようございます。シロウ。体の調子はどうですか?」

 

 当人がいいタイミングで登場してくれた。実際には、セイバーはオレの隣の部屋で殆ど寝ることなく待機している。だから、オレが起きたこともわかっていた筈だ。

 

「おはよう、セイバー。不思議なくらい快調だ。朝食はすぐにでも準備できるから少し待っててくれ」

 

「わかりました。シロウ。楽しみにさせていただきます」

 

 そう言って、座布団に背筋を伸ばして綺麗に正座する。

 彼女が着ている服は、昨日、遠坂から借りたものだ。白いブラウス姿が似合っている。戦闘時の鎧姿のままで日常を過ごすのは魔力の無駄だし、日中に外出することもできない。

 用意したお茶を彼女の前の座卓に置く。

 本来、サーヴァントは食事が必要ないとのことだったが、昨日、オレの作った料理を食べてからは、その設定は消え失せたようだった。

 

「・・・て言うか、滅茶滅茶食うんだよなあ」

 

 すごく美味しそうに食べてくれるから作り甲斐があるのだが、若干我が家のエンゲル係数の爆増に恐怖しているところだ。

 それはともかく、藤ねえが来る前に、セイバーとは状況を整理し、今後の方針を話し合いたいと思っていた。

 

「セイバー。先ずは慎二とライダーのことについて話したい」

 

 オレは、食事の準備をしながらセイバーに話しかけることにした。

 

「はい」

 

「慎二はあの本でライダーを使役していた。それを失ったことで、一旦マスターではなくなったことは間違いない。だけど、ライダーは間桐邸に戻った」

 

「ええ。彼女は間桐家に使役されているということでしょう。あの本が1冊しかないとは限りませんし、再度、作ることが可能かもしれません。その時、シロウはどうするつもりですか?」

 

 セイバーが確認したいのはその一点だろう。昨日はある意味、マスターである慎二にも、ライダーにも手心を加えた対応になった。 次は全力で斃しにいくのか、その方針を共有したいのだ。

 

「ライダーの吸血は問題だけど、被害者の実質的な被害は殆どなかった。とは言え、気紛れ一つで命に関わる可能性もある。あるいは命令一つで」

 

 そんなことはないと信じたいが。

 

「そうですね。それでは・・・」

 

「それでもすまないが・・・ギリギリまで我慢する。慎二もライダーも悪人ではないことはわかっている。だから、先ずは慎二と話す。そして、向こうの事情を確認する。ライダーの本当のマスターや慎二の目的をだ。そこから、解決策を考える」

 

「どうやって聞き出すのです?」

 

「基本的には話し合いだが、最悪、力づくで聞き出す。その時にはセイバーに力を貸してもらう可能性もある。なりふり構っていられない場面もあるだろう」

 

 当然、ライダーを使って妨害してくる可能性もある。

 

「その時は、ライダーを討っても構いませんね」

 

「ああ。でも、極力無力化するまでに止めてくれないか。昨日の戦いを見る限り、セイバーとライダーの戦力には大きな差があるからな。そしてまた、あの本を消滅させる。これは可能だと思っている」

 

 昨日は実際にそうなったわけだ。

 

「おそらくあの本は、令呪を物質化させたような性質があるんだろう。だから、無限に作ることができるわけじゃないはずだ」

 

「ですが、シロウ。あなたは根本的なところで矛盾している。聖杯で望みを叶えるためには、他のサーヴァントを斃さなければいけない。つまり、最終的にはライダーも消滅させなければならない」

 

 そうだ。オレにはないが、セイバーには聖杯に託す望みがある。それは、ライダーにもあるかもしれない。

 そうなれば、どこかで必ず決着を付けなければいけないということになる。

 それは、勿論わかっていた。

 

「セイバーの言うとおりだ。最初は、ライダーには魔力切れで消滅してもらう事も考えたんだけどな」

 

 つまり、あの本を全て失って魔力供給が途切れ、自然と消滅してもらうという方法だ。この場合の、サーヴァントの感じる苦痛や心情は事前に確認したいと思っていた。人が老衰で亡くなるようなものか、飢え死にするようなものなのか。後者であるなら、むしろ戦いで死んだほうがマシなのかもしれない。

 

「ええ。ライダーは切羽詰まれば、見境なく人を襲って魔力補給をするでしょう。昨日とは比べ物にならない量の血を吸うようになる可能性もある」

 

 そうだ。

 ライダーは魔力を吸血により補給することが可能なのだ。

 そうなる前に斃してしまわなければならないという結論に帰着せざるをえないのだが、

 

「だけど、すまないセイバー。この点については、結論が出ていない。ライダーとも話し合いたい」

 

「シロウ」

 

 疑わし気な目でセイバーがオレを睨んでいた。

 

「あなたはライダーに甘過ぎます。本当に篭絡されてしまったのではないでしょうね?」

 

「だから、何だってそうなるんだよ。彼女は命の恩人だって・・・」

 

「それは、昨日の件で相殺されているはずです。本来は相殺ですらないのですが」

 

「う・・・でも、悪人ではないサーヴァントへの対応という点では、彼女だろうと、他のサーヴァントだろうと同じように悩むぞ。オレは」

 

 これはオレの本心の筈だ。

 だが、例えばアーチャー、ランサー、バーサーカーについてここまで悩むかというと、自分でも疑問だ。

 この辺りの心情は、理屈だけではないように感じた。

 

「はあ・・・まあ私としてはマスターの意向に従い、善処します。ですが、実力差があるということは、昨日の戦いで相手もわかっているのです。当然、次に戦う時にはそれなりの備えをするか、別の戦い方をしてくるでしょう」

 

「わかっている。慎二もライダーもなりふり構わない可能性が高い。その時には、全力で斃してくれ」

 

 そう。

 優先順位を間違ってはいけない。

 相手に情けをかけてるうちに、セイバーが斃されてしまっては本末転倒としか言いようがない。

 

「わかりました」

 

 一旦、この件については、着地させられた。

 そして、この件に関連してもう一つオレが考えていることを伝えた。

 それは桜に関することで、セイバーは少し思案したが、基本的には受け入れてくれた。

 そこまで話したところで、朝食の準備が終わった。

 白いご飯、焼き鮭、だし巻き卵、切干大根、ほうれん草のお浸し、豆腐の味噌汁と、純和風である。

 

「ご飯はお替り自由だぞ」

 

 と言って、セイバーの目の前に並べていく。

 少し険しかった彼女の表情がきらきらと輝いていくのが、一目瞭然だった。

 先ずは、お腹を満たすことにしよう。

 

 

 

「さて、さしあたり今日はどうしますか?」

 

 食事が終わり、仕切り直すようにセイバーが問い掛けてきた。

 

「今日は学校が休みだから、一旦、どこかで遠坂と会って、昨日起きたことも含めて話し合う。ただし、オレ達は、今日は大きく動かないつもりだ」

 

「そうなのですか?」

 

「ああ。一昨日の夜からずっと、連続で戦闘に関わっている。オレ自身も少し、心身ともに疲労が溜まっているみたいだ」

 

 実は嘘である。

 確かに緊張の連続で、ややストレスが溜まっているかもしれないが、自覚するほどの疲労感はない。

 休ませたいと思ったのは、セイバーのほうだ。切羽詰まった戦闘は、バーサーカー戦くらいだが、それでも体を張った戦いが連続している。

 しかし、セイバーの疲労が気になるから休もうと言ったところで、彼女が素直に受け入れると思えなかったのだ。

 だから、オレが疲れているという事にした。

 

「わかりました」

 

「それに、アーチャーも回復すれば、遠坂達と協力して本格的に聖杯戦争の渦中に飛び込んでいくことになる。その前に少し休息して、本番に備えるというのは悪くないと思うんだ」

 

「激戦となる明日以降に備えるわけですね。納得です。それでは、今日の稽古はどうしますか?」

 

 昨日からセイバーはオレに剣の稽古を付けてくれている。いざという時に、気後れせずに動けるようにするというのが第一目的だが。

 

「稽古はこの後、お願いするよ。終わった後に、遠坂と会う」

 

 そこまで話したところで、

 

「シロ~!ご~は~ん~~~!」

 

 腹ペコの飼い虎がやってきたようだ。

 

 

 

 朝食が終わってから遠坂に電話したところ、

 

「今日は新都で用事があるの。15時に中央公園でどうかしら?」

 

 と言われたので、了解した。

 朝の稽古が終わり、中途半端に時間が空くことになったので、セイバーと一緒に街中を散策することにした。

 昼食を新都で食べて、そのまま遠坂に会うというプランだ。

 セイバーは一昨日の夜に現界して、昨日の日中は外に出ていない。たまには外に連れ出してこの街を見せてやりたいと本音を言うと、反対されることは目に見えている。

 

「セイバー、今後の戦闘に備えて街の概観を掴んでおいたほうがいいと思わないか?」

 

 と言って、外に連れ出すことにした。

 こういう説得の仕方だとセイバーを納得させやすい。

 

「わかりました。シロウ」

 

 深山町側については、オレの通う穂群原学園、近くの商店街、柳洞寺、海浜公園をざっと案内した。

 特に商店街では、

 

「シロウの作る美味しいご飯の材料は、ここで調達しているのですか。間接的に私もお世話になっているということですね」

 

 とのコメントだった。

 また、柳洞寺の付近まで来た時(実際には石段の登り口までで、お堂までは行かなかったが)は、

 

「ここは、霊脈としてかなり抜きんでた場所のようですね。この戦いでも戦略的に重要になりそうです」

 

 という見解だった。

 その後、この街を二分する未遠川に架かる大橋を渡って新都側に降り立った。

 橋を渡ってすぐのところにある公園は、一昨日のバーサーカー戦、昨日のライダー戦の舞台となった場所だ。

 今日は、これまでに縁のなかった場所を案内するのが目的なので、この街一番のショッピングビルにセイバーを連れて行ったが、さほど彼女の気を惹くものはなかった。

 止むを得ずビルを出て、その近くにあるファンシーショップを訪れたところで、セイバーが初めて露骨に興味を示すアイテムに出会った。

 

「これは・・・なんと愛らしい・・・」

 

 それは、ライオンのぬいぐるみだった。

 

「かわいいな。オレもなんかこいつには惹かれる。セイバーが反対しなければ、オレが家に置きたいから、買ってもいいかな?」

 

「も、勿論です!マスターが買いたいというなら、私に止める権利などあろうはずがありませんっ!」

 

 セイバーがここまで物欲しそうな顔をしたのは、今日初めてだったので、買うことにした。当然、セイバーに買ってあげるなどというと、意固地になっておかしな反論がくることは・・・以下略である。

 

「セイバーの部屋にこういうぬいぐるみを置くのに丁度良さそうなスペースがあったな。あそこに飾るかな」

 

 オレのセリフにセイバーが目を輝かせる。

 ほんと、わかりやすい反応するよな。

 なんと言うか、微笑ましい。戦いの時には、あんなにも頼もしく、凛々しい彼女とはまるで別人のようだった。

 やっぱりサーヴァントだって人間だ。

 それぞれに性格もあり、感情もある。使い魔なんてとんでもない。彼ら、彼女らは、単に凄い能力を持った人間なのだと、再認識させられた。

 

「・・・いや、あのバーサーカーだけはちょっと違うかもしれないけど・・・」

 

 ぬいぐるみの会計を済ませ、『悪いけど荷物持ってもらってもいいかな』と告げてセイバーに渡した。彼女がにんまりとしたことは言うまでもない。

 

「ところで、シロウ・・・私はそろそろ・・・その・・・」

 

「ああ。オレもお腹が空いてきたところだ」

 

 案の定、セイバーが空腹を訴えてきた。

 時刻はきっかし13時。そろそろいいだろう。

 元々予定していた店に向かう。

 

 

 

「こ・・・これは・・・!?」

 

 その光景にセイバーが、再び目を輝かせた。

 

「好きなものを好きなだけ食べていいぞ」

 

「素晴らしいシステムですね」

 

 言うまでもなく、ランチビュッフェである。

 外食でセイバーに満足させるためには、オーダー式の店よりもコスパが良い。まあ、ご飯お替り自由のお店が一番安上がりになると思うが、そこはそれ。

 折角外に連れ出したのだ。満足度を高めることが大事だ。

 60分の時間制限の中で、セイバーはデザートまでたっぷり堪能した。

 オレだって、食べ盛り、育ち盛りだし、折角なので元をとろうと全力で食べまくった。

 

「・・・をををぅ・・・これはもう動けないな・・・」

 

「・・・そ・・・それは、戦いの最中としては問題ですが、しかし、これだけの料理を目の前にして、全力で食べないというのは失礼というものですし・・・んふう・・・」

 

 オレも、セイバーも魔力ゼロになったかのようにテーブルに突っ伏した。

 ちなみに、セイバーの食いっぷりには店員さんも、目を丸くしていた。

 そもそも可愛いらしい金髪の外国人で、流暢に日本語を話すセイバーは、道中でも明らかに周りからの注目を集めていた。勿論、みんなあくまでもさりげなく視線を送ってくるくらいなのだが、それでもわかる。

 ついでに、オレに対してのやっかみの視線も強烈だった。

 

「さて、そろそろ遠坂との約束の時間も近い。公園まで歩いて腹を落ち着かせよう」

 

「了解です」

 

 お腹をさすりながら、セイバーは頷いた。

 

 

 

「シロウ。今日はありがとうございました。色々とお気遣いいただきました」

 

 公園までの道中で、セイバーが話しかけてきた。

 ああ、やっぱりこっちが彼女に気を遣っているのがわかっちゃっているんだな。

 

「そうか。オレ自身が楽しんでいたんだから、特に礼を言う必要はないんだぞ。とは言え、セイバーも楽しめたかな?」

 

「ええ。私の時代と違い、この時代が平和で、多くのみんなが楽しく生きられる世界だということは知っていました。しかし、シロウとともに歩き、再び見て回ることができたのは格別でした」

 

 ん?

 単純に聖杯に予備知識を与えられているからこの時代を知っているという話とは違うニュアンスが含まれていた。まるで以前にもこの時代を体験しているというような。

 

「そして何より、私自身に対してマスターがここまで配慮してくれるということに、私はとても感謝しています。そして、幸せだと感じました」

 

 セイバーの目が少し潤んでいた。

 それに、引きずられるようにオレも目頭と顔全体が熱くなるのを感じた。

 

「シロウ。本当にありがとう。私のマスターがあなたで本当に良かった」

 

「そこまで言われると照れるな」

 

 最上級の感謝の言葉をもらってしまった。正直、そこまでのことはしていない。逆にこの程度のことで、ここまでのことを言う目の前の少女がむしろ可哀そうに思えてしまう。

 これまで、この少女はどんなに過酷な人生を歩んできたのかと。

 そう思うと、オレは(かえ)って罪悪感を抱いてしまった。

 

「セイバー。それはむしろオレの言うべきことだ。一昨日、オレの危機を救ってくれてからずっと、お前がいなければ何度死んでいたかわからない。だから、お前がオレに感謝する以上に、オレはお前に感謝している。お前は最高のサーヴァントであり、そして最高の相棒(パートナー)だ」

 

 言いながら、右腕を差し出す。

 

「ありがとうございます。『相棒(パートナー)』いい言葉ですね」

 

 にっこりと笑いながら、セイバーはしっかりとオレの手を握り返してきた。

 一昨日の夜以上にしっかりとだ。

 

「とは言え、前線に立つのは私です。シロウは、無茶なことはせず、的確な判断と指示に専念してください」

 

 少し釘を刺されてしまった。

 

「わかっているよ。今のところ、それほどの無茶はしていないだろう?」

 

 実際、セイバーが絡む場面ではそんなに無茶はしていない。

 それだけセイバーが危機に陥る場面が殆どないということでもある。

 

「そうですね。ですが、私が現界する前に慎二を助けた時の話や、昨日のライダーとの件、そして普段の言動から、シロウは自分自身に対する優先度が低いようです。下手をすると、私が危機に陥った時に、意味もなく身を挺して助けようとするような危うさを感じます」

 

「そんなわけないじゃないか。マスターが消えれば、サーヴァントも結局消えてしまう。であれば、そもそもサーヴァントより遥かに劣るマスターが身を挺して助けるなんて無意味もいいところだ。そんな奴がいたら、ただの莫迦じゃないか」

 

 と反論するが、何故かセイバーは明らかに信じていない目でオレを睨んでいた。

 いったい、人を何だと思っているのだろうか。

 

「まあ、自覚がないのなら止むを得ません。サーヴァントである私がそれも考慮したうえで、適切に対処するまでのこと・・・ええ。そもそもそのような場面に陥る私自身の問題なのですから。そうならなければいいだけのこと」

 

 絶対オレの言うことを信じていない発言ですよね。セイバーさん。

 

 

 

「ところでシロウ。凛との約束の時間までまだ少し時間がありますね。それまでに話しておきたいことがあります。私自身の話です」

 

 ちょうど公園に着き、ベンチに二人で腰をおろしたところで、セイバーが改まった口調になった。

 勿論、召喚した後、セイバーの特性や力、聖杯に託す望みなどについては一通り話している。敢えて伏せられたものもあったので、そのあたりを話そうというのだろうか。

 

「ああ。オレも正直、色々と聞きたいとは思っていたんだ」

 

 そもそも、セイバーの真名がオレにはわからない。あまりにも魔術師としてのオレが(つたな)いので、敵に思考を読まれて真名を看破されることを危惧して、教えないほうがいいと二人で判断したのだ。

 とは言え、これまでのセイバーの戦いぶりは抜群だ。判断も的確。高名な英雄であることは間違いない。バーサーカー戦で輝く剣も見ているので、何となく目星もついている。まあ、オレの想像通りだとしても、彼女が女性というのが腑に落ちないが。

 また、聖杯に託す願いは、勿論、邪なものであろうはずもなく、『とある選択をやり直すこと』ということだ。『歴史の改変』ということになるのかもしれないが、その影響については、それとなく遠坂に聞こうと思っている。

 

「シロウ。私は10年前にもこの地の聖杯戦争に召喚されました。そして、その時のマスターは【衛宮切嗣】という名でした」

 

「え?」

 

 実際にセイバーが語り始めたのは、全くこれまで話題にならなかった事柄についてだった。

 そして、それは先程オレが感じた違和感に対する答えでもあった。

 

「衛宮・・・切嗣?」

 

「ええ。あなたの父親。正確には養父ですね」

 

 心情としては簡単に消化できる話ではないが、であれば色々と合点がいく。

 切嗣がオレを必死になって救い出してくれたこと。

 オレがセイバーを召喚できたこと。

 セイバーがこの時代を体験したことがあるかのように話したこと。

 

「親父が前回の聖杯戦争の参加者で、セイバーがそのサーヴァントだったのか・・・」

 

 だとすると、先程のセイバーの発言から一つの推測も可能だ。

 

「さらに付け加えると、バーサーカーのマスターであるイリヤスフィール・フォン・アインツベルン、そして、教会の神父である言峰綺礼も知っています。とは言え、後者は直接会ったことがあるわけではありませんが」

 

 その話も聞きたいが、その前に一番大事なことを確認したかった。

 

「セイバー。切嗣はお前に対してどんな対応をしていたんだ?」

 

 そう。

 知りたかったのは、この点。

 先程のセイバーのオレに対する感謝の度合いは尋常じゃなかった。それは、前のマスターとの関係が良好ではなかったことを示唆しているのではないか。

 

「シロウ・・・本当にあなたという人は察しがいいのですね・・・」

 

 予想外の問いを投げられて、セイバーは少し戸惑ったようだった。

 

「そうですね・・・召喚されてから、彼と私の間で会話と呼べるものは全くなかった。そして、彼からの私への言葉は3回だけでした」

 

 3回。それは令呪の画数と同じだ。

 親父とセイバーとの間には殆ど会話がなかった。

 おそらく信頼関係もなかったのだろう。

 

「・・・そうか。済まなったな」

 

 親の罪を子供が背負うことが合理的ではないことなんて、オレだって百も承知だ。

 それでも謝らなければいけない。

 そういう場合もある。

 

「いいえ・・・本当にシロウは思いやりがある。そして聡い。素晴らしいです」

 

 彼女はふわりと微笑んだ。

 

「切嗣との縁が、あなたとの出会いに繋がったと考えれば、むしろ有意義だったと思える。不思議なものですね」

 

 彼女が心からそう言ってくれたのがわかった。

 

 

 

 それから、特に前回の聖杯戦争の内容で、今回に関係する部分を中心に教えてくれた。

 切嗣は、聖杯戦争の勝者となったものの、最後には聖杯を破壊したこと。

 言峰綺礼こそが切嗣達が最も警戒し、そして最後まで争ったマスターだったこと。

 イリヤスフィールが切嗣の実子であること。

 遠坂家、間桐家は聖杯戦争の創始者であり、前回もマスターだったこと。

 などだ。

 

「あまり触れられなかったり、省略したところも、何かの役に立つかもしれません。今後、折に触れてお話しします」

 

 そうセイバーが話を締め括ったところで、公園内に設置された時計が遠坂との待ち合わせの時刻を示していた。




いわゆるセイバーとのデート編です。
真面目で誠実で本当にいい子ですよねセイバー。
しかし、如何せんこの作品はHFをベースにしているので・・・
前回同様、ここも今後の含みとして重要なパートなのでなるべく丁寧に書くことを心掛けました。

※タイトルつきました。
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