Fate/√knight  【ムラサキノウエ】   作:わが立つ杣

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キャスターとの邂逅後、柳洞寺本堂内の廊下にて。


第9話 ~4日目②~ 「柳洞寺の乱戦」

 R turn

 

 

 彼らの後を少し離れて尾行していた私は、右側が外と面した暗い廊下の先で、士郎とセイバーが正面にある角部屋に入ろうとするのを見ていた。

 そして、その時、

 悪寒が私の全身を駆け巡った。

 すぐさま霊体を解除する。

 この間の時間差がもどかしい。

 実体化が完了すると同時に足元の廊下を構成する木板を蹴っていた。

 二人からは僅かに距離を取って様子を見守っていたが、果たして間に合うか?

 

 フ──────

 

 私と同様に音もなく、士郎と私の間に黒い影が実体化していく。

 見えはしないが、得物を構えて、士郎を狙っているのがわかる。

 私は、手にした杭剣に付いている鎖を投じた。

 これが一番早い。

 黒い影が気配を感じてこちらを振り返った。

 それは、異様な出で立ちをしていた。

 全身が黒い幌のような外套で覆われていて、白い仮面だけが闇に浮かび上がっている。

 私の鎖はすんでのところで、身を捻って躱された。

 それでいい。注意を引き付けられた。

 そのまま接近して、杭剣を突き出す。

 

 ギンッッ!!

 

 白い仮面は手にした黒い短剣で私の杭剣を反らしながら、体を入れ替えるようにして、私の攻撃から逃れる。

 これで、目論見どおり少年を背に守る形を作ることができた。

 

「ラ・・・ライダー!?」

 

 彼が私の名を戸惑ったように呼ぶのが聞こえた。

 

「怪我はありませんね?」

 

「あ・・・ああ。お陰で助かった」

 

 感謝の声が心地良い。

 

「ライダー!?なぜ敵であるあなたが?」

 

 先行していたセイバーも戸惑いながら、士郎の方へと戻ってきた。

 まあ、驚くのは無理もないだろう。

 

「結果的に士郎を守ったのは私ですよ」

 

 軽く煽ってみる。

 

「ぐ・・・それは確かにそうですが・・・」

 

 もっと煽り続けたいところだが、そういうわけにもいかない。

 

「ライダーが、なぜセイバーに加勢する?」

 

 白い髑髏の仮面から意外なほど理知的な声が漏れた。が、こちらにはその問いに答える義務はない。

 私は相手に向かって一気に間合いを詰めようと動いた。

 が、こちらが追う気配を見せたところで、白い仮面は後方へ大きく退きながら、殆ど予備動作無しで黒塗りの短剣を投擲してきた。

 飛んでくるのは3本。

 うち1本は私。残り2本は後方の士郎への攻撃を意図したものだ。

 

 ギン!ギン!──―ギャリッ!

 

 2本を手にした杭剣で、残りの1本を鎖で叩き落とした。

 

 続け様にさらに3本。短剣が投じられる。

 間を取るための牽制なのはわかるが、士郎が狙われているので迂闊には飛び込めない。

 止むを得ず、先ほど同様に弾き落とそうとした。

 

 ゴゥッ!

 

 その矢先、私の横を青い風が吹き抜けていく。

 セイバーが敵に向けて、駆け出していた。

 彼女は一振りで全ての短剣をなぎ払い、接近していく。

 

「一体、お前は何なのだ!?」

 

 セイバーが白い仮面に問い掛ける。

 

「?」

 

 私としては、あれは見るからにアサシンのサーヴァントのように見えるが、彼女は、そう判断していないようだ。

 だが、確かに疑問はある。

 先程の部屋でやり取りをしていた女がキャスターであることは微かに聞こえた会話の内容で私もわかっていた。アーチャーは直接見てはいないが、慎二から風体は聞いている。そのため、私が全く知らないサーヴァントはあとバーサーカー一体だけである。

 そして、山門で消えていった侍のような男も間違いなくサーヴァントだった。

 確かなことは言えないが、消えた侍はバーサーカーには見えなかった。

 セイバー、ランサー、アーチャー、ライダーである私、アサシンと思われる白い仮面、キャスター、まだ見ぬバーサーカー、さきほどの侍。

 サーヴァントが8体いることになってしまうのだ。

 これはどういうことだろうか?

 

「セイバーか。私とでは格が違いすぎるな」

 

 白い仮面(おそらくアサシンだろう)は、さらに続け様に短剣を投げながら後退し、本堂のほうに駆けていく。

 

「逃すか!」

 

 セイバーはそれを追う。スピードは向こうのほうがやや速いか。

 彼女としては、直感的にあの敵がマスターを狙ってくる存在だと感じているのだろう。

 見失ってしまうと、いつ士郎が奇襲されるかわからないからこそ追っているのだ。ただし、本来なら彼女が士郎を守り、私が白い仮面を追う方が適任だろう。

 

「士郎が狙われたことと、私の言葉で少し熱くなってしまいましたか・・・」

 

 とは言え、敵である筈の私を士郎の傍らに残して、追ったということは、

 

「多少は信用されているということでしょうか」

 

 私が士郎の敵ではないということを彼女なりに理解してくれているのかもしれない。

 

「それでライダー・・・」

 

 士郎が私に話しかけてくる。

 私に対する警戒心のようなものは感じられなかった。

 嬉しい半面、それもどうなのかと心配になるが・・・

 

「!?」

 

 士郎のほうに振り返った私の右手方向。

 廊下の外から何かが凄まじい速度で迫ってきた。

 あれは!?

 

「士郎っ!!」

 

 咄嗟に士郎を押し倒す。

 

 ゴッッ!

 

 一瞬、士郎の上に覆い被さるような体勢になった私の背中を何か冷たく、それでいて熱いものが過ぎ去り、左の壁を易々と破壊して止まった。

 背中に熱を感じた。

 今の何かが少し掠めていって、流血したのかもしれない。

 

「矢?」

 

 士郎が襲いかかってきたものを確認して小さく呟く。

 確かに壁を破壊したのは矢だった。

 その矢は僅かな時間だけ、そこにあったがすぐに消えていった。

 だが、悠長に眺めている時間はない。

 士郎を殺すという目的を果たせなかった以上、二の矢、三の矢がくる筈だ。

 

「失礼します」

 

「うわ、ライダーッ!?」

 

 私は立ち上がりながら、士郎を抱えて走り出す。

 士郎が顔を赤らめながら、驚きの声をあげるが、躊躇している余裕はない。

 

 ゴゥッ!

 

 案の定、一瞬前まで私たちが立っていた廊下を先程と同様の矢が(えぐ)る。

 

 ドンッ!!

 

 さらに次の瞬間、私たちの行く手を塞ぐように、目の前を矢が通り過ぎて壁を破壊する。

 狙いとしては、こちらの足を止めたいということだろう。

 安易に後ろには下がるのは、攻撃を仕掛けてきている相手の思う壺のような気がした。そのため、右後方に飛ぶようにして、廊下から中庭へと出た。

 私は、境内全体を囲む塀の上に攻撃してきた相手を視認する。

 赤い外套を着たその男は、塀を飛び降りながら持っていた弓を捨てて、刃幅の広い2本の片刃剣を手にしてこちらに向かってくる。

 

「アーチャー!?」

 

 得物が矢であった以上、攻撃してきたのがアーチャーなのは半ば予想できた筈だが、それでも士郎は驚きを隠せず、声を上げた。

 それはそうだろう。

 遠坂凛は彼と共闘関係にある。

 そのサーヴァントであるアーチャーが明らかに自分を狙ってきたのだから驚くのも無理はない。

 

「士郎、ここを動かないでください」

 

 私は私で士郎を抱えていては攻撃に対応できない。

 彼をその場に下ろして、アーチャーを迎え撃つため、杭剣を構えて走る。

 

 ギャリンッッ!

 

 アーチャーが振り下ろしてきた二つの剣を交差した杭剣で食い止めた。

 私とアーチャーそれぞれの両手にある剣がギチギチと絡み合い、その向こうに白髪の精悍な男の顔がある。

 

「どういうつもりですか?あなたは士郎の味方の筈です」

 

 とてもマスターである凛の指示とは思えなかった。

 彼女はこういう裏切りを是とする人物ではない。

 

「ちっ!セイバーが離れ、凛もいない千載一隅の好機だというのに・・・・・・お前の方こそどういう料簡だ?なぜお前がその男を庇う?」

 

 刃を押し込んできながら、男は心底憎々し気にそう聞いてくる。

 今日三度目だろうか。誰も彼もが同じようなことを言う。

 ・・・まあ不思議ですよね。

 

「私が彼を好いているからです。とでも言えば納得しますか?」

 

 たまにはこういう冗談もいいでしょう。

 

「ふん。そこまで献身的に守っているとなればあながち冗談でもなさそうだぞ」

 

 え?

 一瞬、思考が停止しそうになるが、冷静にならなければいけない。

 

「私はそういうことで一向に構いませんよ」

 

 そう思ってくれたほうが、本来のマスターである桜という存在に行き着く可能性は低減するだろう。

 

「ちぃ!時間は限られている。お前とくだらないお喋りをするつもりなど毛頭ない!」

 

 アーチャーが力任せに私を押し切ろうとしてきた。

 が、()()()私のほうが強い。

 

「ハッッ!」

 

 全身を使って押し返し、交差していた剣を広げるようにして、反対にアーチャーの体ごと双剣を弾き飛ばした。

 

「くっ!?」

 

 後方に大きく飛ばされる形になったアーチャーは驚いている。

 間髪入れずに次撃を加えるべく駆け出し、そして間合いに入る直前にアーチャーの頭上に跳び上がって、真上から左右の杭剣を少し時間差を設けて振り下ろす。

 

 ギギィィィン!!!

 

 しかし、彼も相当な手練れだ。この攻撃を双剣で食い止めた。

 一瞬、彼の両手に私の落下速度と全体重がかかり、拮抗したのを利用して、私は空中で前方へと体を半転させた。

 そしてそのまま前へ、即ちアーチャーの後方に着地する。

 アーチャーも私を目線で追って体をこちらに向けようとするが、私のほうが速い。

 

 ザグッ!

 

 鈍い音とともに、私が走りながら突き出した剣が、それを躱し損ねたアーチャーの脇腹を抉っていった。

 

「ちっ・・・!」

 

 しかし、アーチャーもギリギリで身を捻っていたため傷はそう深くはない。

 この一連の攻防で、結果的に元の立ち位置に戻っていた。

 私のやや後方に士郎がいる状態だ。

 士郎は、木刀を構えて私達の戦いの趨勢を見守っていた。

 校庭でのランサー戦と同様に私から離れることも考えたのだろうが、相手がアーチャーなのが判断を難しくしている。

 

「士郎、私からあまり離れないように気を付けてください」

 

「ああ。わかっている」

 

 私から離れれば、アーチャーの遠距離攻撃に対して対処ができなくなってしまうのだ。

 

「莫迦な・・・先日ランサーとの戦いを見たが、その時とは力もスピードも全く違う」

 

 アーチャーが疑問を呈する。

 それは実際そうだ。

 偽臣の書による支配ではなく、桜がマスターに戻ったことで、私は本来の力を発揮できるようになった。

 供給される魔力量が、慎二がマスターだった時とはまるで違う。

 

「単にあの時は本気を出していなかっただけです」

 

「ふざけるな!力を自制しているかどうかなど、一目でわかる。あの時のお前は間違いなく全力だった。一方で、ランサーは明らかに全力ではなかった。それでもあのまま戦っていれば、そう長くはもたず、お前はランサーに敗れていた筈だ。しかし、今のお前は本気のランサーとも伍せるほどだ・・・何かウラがあるな」

 

 英霊なのだから当たり前なのかもしれないが、彼の洞察力は鋭い。あまり長引かせると、隠しておきたいことも見通されてしまうかもしれない。

 できれば、早めに終わらせたい。

 私は、視界を封じる眼帯に手を伸ばそうとする。

 

「とは言え、オレの目的は一つだけだ」

 

 そう呟くと、アーチャーの両手から双剣が放たれた。

 2本の剣は私から大きく外れた方向に、有り体に言えば外側を回り込むようにして飛ばされていた。

 

「・・・!!」

 

 彼の狙いは士郎だ。

 双剣は弧を描くようにして、左右から士郎を挟撃する形で迫る。

 私はすぐさま士郎の元へと駆け出す。

 

「これくらいなら!」

 

 士郎もしっかりと状況を把握しており、後方に飛び退って、すんでのところで双剣を躱すことができた。

 流石に慎二とは違うところを見せてくれる。

 安堵して、再びアーチャーに視線を戻すと、彼は遥か後方へと走っていた。

 

「撤退する気ですか?」

 

 そんなわけはない。

 彼の士郎に対する殺意。

 理由は皆目見当もつかないが、それは抜き身の剣のようにギラギラと凶悪だった。

 これで諦めるわけがない。

 とすれば、狙いは明らかだ。

 弓矢を用いて、これまで以上に強力な一撃を狙ってくる。

 私が直接士郎を抱えて躱すことができない状況になることも、考慮しなければならない。

 となれば。

 

「出し惜しみなどできませんね」

 

 私は地面に手をつく体勢となり、アーチャーによる最初の攻撃で負った背中の傷の血を利用して眼前に召喚陣を描く。

 

「ライダー?何を?」

 

「士郎。これから天馬(ペガサス)を喚びます。驚かないでください」

 

「わかった。ライダーに任せる」

 

 あ。

 これはダメだ。

 

「必ずあなたを守ります」

 

「ああ。信じてるよ」

 

 全身に鳥肌が立つような快感を覚えて、私は震えた。

 

「士郎。魔力を使ってあなたが落ちないよう固定はしますが、念のためしっかりと私の腰に掴まっていてください。絶対に振り落とされないように」

 

 陣から天馬(ペガサス)を召喚すると、士郎を抱えてその背に跨る。

 

「う。わかった・・・すまない。これ、普通逆だよな・・・」

 

 なぜか赤面して謝りながら、士郎が私の腰に腕を回す。

 

「行きます」

 

 そう言って、前方を見やればアーチャーが当初と同様に塀の上に立ち、矢をつがえて、弓を構えているのが見えた。

 いや、あれは矢ではない?

 

「宝具?」

 

 私は愛馬に上空へと舞い上がるよう伝えた。

 

 ──────!

 

 天馬(ペガサス)が一啼きして、一気に空へと駆け上がる。

 その時、アーチャーの声が微かに聞こえた。

 

赤原猟犬(フルンディング)!」

 

 来た!

 凄まじい速度で、その【紅い矢剣】は襲いかかってきた。

 が、想定の範囲内だ。

 愛馬を操り、その一撃を躱した。

 

「ライダー、まだだ!あれは、追ってくるぞ!」

 

 刹那、安堵した私に対して、士郎が警戒を促してくる。

 追ってくる?

 後ろを振り向くと、確かに旋回するようにして剣がその先端をこちらに向けようとしていた。

 

「厄介ですね」

 

 それにしても士郎はよく一目見ただけで、この宝具の性質を見抜いたものだ。

 何にせよ対処のしようはある。

 

 ゴゥッ!

 

 再び襲って来た矢剣を回避して、反撃の準備に入る。

 

「士郎。いきます」

 

「頼む」

 

 

 E turn

 

 

 オレは柳洞寺上空の馬上(?)でライダーにしがみついていた。

 自転車で言うところの二ケツ状態で、男としては情けないばかりだ。

 ライダーの細くしなやかな腰に腕を回して、強く抱きついている状態なので、彼女の長い髪もオレの体に絡みついており、いい匂いがするような気がする。

 正直、とんでもなく刺激的だったが、それどころではない。

 白い仮面の襲撃からずっと、ライダーが懸命にオレを守ってくれているのが伝わってくる。

 一方で、守ってもらうばかりで何もできない自分の不甲斐なさに愕然とするが、それはそれだ。今はほぼ何もできない。であれば、精一杯彼女の足手纏いにならないようにするだけだ。

 アーチャーがあれほどまで執拗にオレを殺そうとする理由は全くわからないが、殺らなければ、間違いなく殺られる状況だ。

 追尾してくる剣を矢として放ってきたあいつの宝具は厄介だが、本来ならもう少し準備が必要なところを、性急に放った一撃のように感じた。

 スピード、威力共に脅威的ではあるが、致命的ではないように思えた。

 ライダーも捌けるという自信があるようだ。

 もっともずっと捌き続けるわけにはいかない。

 ライダーもそれをわかっている。

 

「士郎。いきます」

 

 と、彼女が反撃の合図を送ってきた。

 

「頼む」

 

 オレは、ここまでオレを守ってくれた彼女を信じて同意するだけだ。

 ライダーが巧みに天馬(ペガサス)を反転させる。

 これにより、急旋回してこちらに向かおうとする矢剣と正面から対峙する形になった。

 

「士郎。これからの攻撃で決着がつかない場合、魔眼を使います。私がこの眼帯を外すとき、決して私の眼を見ないでください。それだけ早く石になってしまいますので」

 

 魔眼?

 石?

 

「わかった」

 

 疑問は尽きないが、とにかく同意する。

 余計な思考は命取りになる。

 現状、オレ達と矢剣とアーチャーが一直線上に並ぶ構図になった。

 塀の上のアーチャーまでの距離は100m強というところか。

 

「ぬぅっ!」

 

 アーチャーが何かを察し、魔術の詠唱を始めた。

 一方で、ライダーの魔力も一気に膨れ上がる。

 黄金に輝く手綱が現れ、彼女の手がそれを固く握りしめた。

 その手綱は天馬(ペガサス)の口元に繋がっている。

 眩い光がオレ達を包み込み、オレの周囲には結界のようなものが張られて保護されたような状態になった。

 宝具の余波でオレに被害が及ばないような処置をしてくれたのだろう。

 

騎英の(ベルレ)──―」

 

 ライダーが宝具を解き放つ。

 

「──―手綱(フォーン)ッ!!」

 

 視界が真っ白になる。

 一瞬で凄まじい速度に達して・・・

 オレ達は白い弾丸となって、眼前の突破すべき敵に向かって発射された。

 

 ゴッ!!

 

 コンマ数秒で、アーチャーが【赤原猟犬(フルンディング)】と称した矢剣と正面衝突する。

 

 ッッ──────-

 

 刹那、拮抗した後、剣は音もなく飲み込まれるように消失した。

 この先にはアーチャー本人がいる。

 片腕を突き出したその体勢には見覚えがあった。

 あれは、校庭で見た・・・

 

「──―七つの円環(アイアス)!!」

 

 叫ぶと同時に、アーチャーの手に、そしてオレ達の眼前に5枚の花弁が展開されると同時に、

 

 ズシャァッッッ!

 

 ぶつかり合った。

 ライダーの天馬(ペガサス)の突撃に対してアーチャーの花弁の盾は、柔らかく吸収するようにして食い止めている。

 守りに特化した宝具。

 錐のようにねじ込み突破しようとする圧力に対して、反発するのではなく、受け流し、減衰させてその場に押し止めているようだ。

 

「くっっ!」

 

 オレの前で手綱を握るライダーは姿勢を前傾させ、なんとかこの守りを突破しようともがく。

 

 一方で、

 

「【赤原猟犬(フルンディング)】を突破して、なおこれかっ!?」

 

 アーチャーもライダーの宝具に驚愕しているようだ。展開した5枚の花弁はあと2枚にまで減っていた。

 凄まじいスピードで展開したアーチャーの弓矢とライダーの天馬との攻防から一転して、数秒を数える静止の時間。

 残り1枚。

 

 ズシャァァ──────-

 

 遂にその最後の防壁を打ち破った。

 

「ぬぅぅぅっ!?」

 

「あぅっ!!」

 

「ぐぁっ!」

 

 が、そこまでだった。

 アーチャー、ライダー、そしてオレ。

 3人がそれぞれ地面に放り出される形となる。

 ライダーの宝具は、アーチャーの二つの宝具を突破した。

 そして、その余波でアーチャーが立っていた塀を崩し、アーチャー自身にも僅かに威力が伝わった。

 だが、効果的なダメージまで与えることはなく勢いは途絶えていた。

 アーチャーは崩れた塀の向こう。

 オレとライダーは、塀の内側に落ちる形となった。

 オレは、咄嗟にアーチャーの姿を探した。

 あいつはオレを殺すことを絶対諦めない。

 その確信があった。

 だからオレは地面に転がっていた冷たく硬いそれを右手に掴み、詠唱する。

 

同調(トレース)開始(オン)

 

 そしてオレの予想どおり。

 あいつは、地面に膝をついた状態のまま、弓矢を構えたところだった。

 

「シロウッ!!」

 

 どこからかセイバーの声が響く。

 彼女はかなり遠くにいるようだ。

 

「アーチャーッ!?あんた何やってんのよ!?」

 

 これもどこからだろうか?

 久しぶりに聞く遠坂のよく通る声が、愕然としたようにアーチャーに投げかけられる。

 しかし、むしろその声を合図にするかのように、あいつの矢がオレに向けて放たれた。

 

「士郎っ!」

 

 そう叫んだのはオレよりも僅かにアーチャーに近い位置に落ちたライダーだった。

 彼女は懸命に右腕をオレを庇うように差し出す。

 

 ザグッッ!

 

「ぁぅっ!」

 

 しかし、ライダーの腕を貫いて矢は(あやま)たずオレに迫る。

 だが、

 

 ガンッッッッ!

 

 硬い音が響き、アーチャーの放った矢はオレの前の地面に落ちた。

 腕には強烈な痺れが残ったが、それだけだった。

 

「ふう」

 

 オレの手には崩れた塀から落ちた瓦がある。

 地面に投げ出されたオレは、咄嗟に手近にあったそれを強化して盾にしていた。

 

「アーチャー!?あんた、なんだって衛宮君を!?」

 

 遠坂がアーチャーに詰問を投げかけながら、こちらに走ってくる。

 

「くそ・・・仕損じたか。凛も来てしまったし、どうやらここまでだな」

 

 アーチャーが大きく溜息をつきながら、弓を降ろした。

 駆け寄ってきた遠坂を見て、顔をしかめている。

 その様子に少し安堵を覚えながら、オレを庇って手を貫かれたライダーの状況を確認した。

 

「ライダー、大丈夫か?」

 

 彼女は右手の平からかなりの出血をしており、顔を歪めている。

 

「だ・・・大丈夫です。士郎もよく今の攻撃を防ぎましたね」

 

「いや、ライダーが庇ってくれなければ防ぎきれなかった。本当にありがとう」

 

 言いながら、先程セイバーの声が聞こえたほうを確認する。

 オレから見て左手方向のかなり離れたところ。

 最初にオレがアーチャーからの攻撃を受けた渡り廊下で、セイバーはあの白い仮面と対峙していた。

 

「シロウ。無事ですか!?」

 

 セイバーは敵から視線を反らさないようにしながらも、オレの身を案じてくれた。

 

「ふむ。このあたりが潮時か」

 

 白い仮面が呟いた。

 と。

 その時。

 それは現れた。

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 え?

 なんだあれ?

 ただどこまでも黒いモノが月の光の下に浮かび上がっていた。

 オレの視線の先。ライダーの向こう側。

 黒い風船のようにも見える。

 次の瞬間、その黒いモノから地を這うようにして黒い帯が2本伸びたのがわかった。

 

「っ!?」

 

 咄嗟に目の前のライダーを抱きかかえるようにして、その黒い帯から逃れさせようとした。

 

「士郎!?」

 

 ライダーはそれに気付いておらず、突然抱きついてきたオレの行動に驚く声を発した。

 

 ドッ

 

 オレとライダーの体が地面に転がる。

 辛うじてライダーをその難から救うことはできたが、黒い帯はオレの足の一部を掠めていった。

 

 ズンッッッッ──────-

 

 視界が暗転していく。

 薄れゆく意識の片隅で。

 最後に見たのは、遠くでセイバーがその黒い帯に絡めとられる姿だった。

 

「・・・セ・・・セイバー・・・・・」

 

 オレの意識はそこでお終いだった。

 あとは、ただただ真っ黒な泥に塗り潰されていった。

 

 




アーチャー生き生きしていますね。士郎を殺る気満々です。
あと、本作で最も露骨に変えた部分となるのが、真アサシンが最初から賢いというところです。
お許しください。
原作ではランサーの心臓を取り込むことで頭が良くなっていましたが、ランサーにはもう少し出番を与えたかったので・・・

※タイトルつきました。
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