柏木家の夏   作:多手ててと

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第12話:俺の声じゃない

慣れた手つきで鞘を払う。

うん、何度見てもほれぼれする。思わず手近なものを切りたくなるほどだ。

 

俺が今持っているのはシンプルだが本格的な刀だ。外見はね。

しかし持ってみたらその軽さに人は驚くだろう。

鞘から抜けば鈍く光る。見る人が見ればそれが鉄でないことがわかるはずだ。俺自身もこの物質の本当の名前を知らない。これは「地球外の物質」で出来ているのだ。金属かどうかも怪しいものだ。

 

うん、うん。これを作るのはとても苦労した。

 

これはもともと”鬼”が使った武器だった。今風に言えば火炎放射器のようなものだ。それ本来の機能が失われた後、俺はそれを整形し、磨き上げ刀の形に仕上げたのだ。こいつは当然だがそんじょそこらの熱では溶けないし、これより硬い物質を俺は知らない。

 

まず同じ物質どうしをこすりあわせ小さな刃物を作る。エルクゥパワーをふんだんに使ってもかなり手間暇がかかる。

その小刀でより大きな物質を切り出す。同じ硬さだから小刀の方もすぐ駄目になる。また小刀を作る。

おおよその形が出来るとまた同じ物質で磨き上げる。延々と続く作業。

 

そんな苦労話がふんだんにつまったコイツが500年ぶりに俺の手元にある。あの時と鞘や柄は変わっているがその刀身は時の流れを感じさせない。切れ味は最高だし、長さの割に驚異的な軽さ。錆びたり欠けたりしないからメンテの必要もない。まさに究極の日本刀といえるでしょう。寺とかの方に流れてなくてよかった。

 

名前は確か「あしか丸」だかそんな情けない名前をつけたはずだ。よし、この機会にもっとかっこいい名前をrenameしてやろう。

 

黄金剣

はかいのつるぎ

アタナイフ

 

むむ、個人的には斬鉄剣とかが好みなのだが。

 

俺が悩んでいると、下でドアを叩いている音がする。

「お兄ちゃーん」

外から初音ちゃんの声がする。これは珍しい。俺は今行く、と窓から声をかけて下に降りた。

 

初音ちゃんはなにか悩み事があるみたいだ。俺の部屋にあがってからも落ち着かない様子だ。俺は特に促さない。台所から略奪したきゅうすに緑茶パックを入れ、ポットからお湯を注ぐ。そして、黙って初音ちゃんが話し出すのを待つ。

 

「あのね、おとといね、わたしクラスの子に『好きだ』って言われたの」

 

『そうなんだ』

「それで、昨日お姉ちゃん達に相談したんだ」

『うん』

「まあ、結局よくわからないままだったんだけど」

『うん』

「それで今日学校でね。休み時間のときにねクラスの男の子がね」

『その子が?』

「いや、違う子がその子に『おまえ柏木に告白したんだろう』って大声で言ったの」

『・・・・』

「そしたら教室中大騒ぎになって・・・わたしも友達に『そうなの?』『どうするの?』って口々に聞かれて・・・」

『うん』

「すごく悲しかったんだけど、わたしよりその子の方が耐えられなくなっちゃったみたいで・・・いきなり教室の外に走り出したんだ」

『・・・』

「それでいったん静かになったんだけど、授業が始まる時に帰ってきたんだ」

『どうなったの?』

「オムコさんが来た、って男の子達がまたはやしたてて・・・」

『・・・』

「今度は帰ってこなかったの」

『・・・』

「どう思う?」

『よくわからない』

「どうして?」

『その男の子はどういう子? その初音ちゃんを好きだって言った子は?』

「おとなしい子だよ」

『初音ちゃんはどう思ってるの?  その子のことを』

「可哀相だなって思う」

『それだけ?』

「えっ、でも、よく知らないし・・・。それになんであんな非道いことするんだろ」

『からかった子達もね、きっと初音ちゃんのことが好きなんだよ』

「えっ」

『だからそんな風にしちゃったんだ』

「そうなのかな」

『たぶんね』

 

「でもどうしたらいいのかわからないの」

『別に何もしなくていいんじゃないかな』

「そんなのズルイよ。その子は一生懸命なんだよ」

『初音ちゃんはその子のことを知らないんだろう、もうちょっとよく知ってから決めた方がいいと思うよ』

「お兄ちゃんも千鶴お姉ちゃん達と同じ事を言うんだね」

『普通はそうすると思うよ。その子も初音ちゃんのことを実はよく知らないんじゃないか、って思う』

「でも楓お姉ちゃんは目が合っただけでも通じるものがある、って言ってた。お兄ちゃんにはそういう事がなかったの?」

 

身体を起こすなり、俺は、目の前にいたリネットを強く抱き寄せた。

両腕で抱きしめ、頬と頬とを重ねて肌のぬくもりを感じながら、俺は声を押し殺してないた。

心に深く残った痕は、今も俺に、夢の形で彼女の姿をよみがえらせる。

語りかけても応えぬ彼女、じっとこちらを見つめ、俺の名を呼び続けるだけの彼女。

辛すぎる。

あまりにも辛すぎる。

こんなことなら、いっそ、彼女の記憶全てを・・・。

 

「どうしたの?」

『なかったよ、そういう事はなかった』

 

後日俺は件の”その子”がこんな時期に家庭の事情で転校していったことを知らされた。梓の口から。

 




(注1)フォントの小さい部分はそのまんま「痕」から持ってきてます。
(注2)手抜きな演出だ・・・・自分で書いてても・・・辛い。でもこのほうが・・・・。
気が変わったら全面的に書き直します。
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