柏木家の夏   作:多手ててと

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第18話:陽の当たる場所

「耕一、あなたそろそろ期末テストじゃないの」

心休まる食事のひとときに母さんが面白くない話をしてくる。

どこか機嫌が悪そうだ。

 

初冬だが今日は暖かい小春日和だ。

楓ちゃんが湯飲みを傾ける。初音ちゃんが箸で卵焼きを切る。

 

「うん、多分大丈夫だよ。英語以外は」

「本当に?」

はたで聞いている梓も、ホントかよ、という目で俺を見る。

嘘じゃないよ。俺は首を縦に振る。

 

それにしても母さんの機嫌はどうもよくない。

夏頃から親父が度々帰ってくるようになったのだが、年末が近づくとまた帰ってこなくなった。そのせいなのか? 他に理由があるのかもしれないが。

 

いずれにせよ、成績程度で機嫌がよくなるなら安いものだ。

「今日は家で勉強します・・・・」

どのみち特に用事もないので、俺はしおらしく答える。

「わからないところがあったら遠慮なく聞いて下さいね」

 

「いいの? 千鶴ちゃんも期末が近いでしょ」

心の声はこんなところだろう。千鶴ちゃんにまかせれば安心ね。

「私も今日は勉強するつもりでしたから」

「それなら一緒に勉強しようよ、千鶴さん」

 

コンコン。

「千鶴さーん」

「どうぞ」

すぐにドアが開く。見ると千鶴さんが参考書などを持って立っている。

「あれっ、千鶴さんの部屋じゃないの?」

「ええ。居間を使った方がいいと思うの」

最近ガード固いよ・・

 

「そうだ、千鶴さん。千鶴さんが中2の時の英語のテスト見せて欲しいのだけど」

俺は千鶴さんにおねだりする。

「またですか?」千鶴さんは少し困った顔をする。

千鶴さんは押しに弱い。俺は重ねてお願いをした。俺の好成績の一因は千鶴さんの持つ過去問なのだ。千鶴さんと俺は学年が3つ違う。ということは、基本的に俺達の学年の担当者は、かつて千鶴さん達を教えていたことになる。

 

俺は炬燵に教科書と参考書を広げる。これは母さん用のダミー。

肝心なのはコレ。千鶴さんの中二の時のテストだ。

千鶴さんは結局苦笑しながらも探してくれた。 俺なら返されてきたテストは、何時の間にか何処かへ消えているのが常だが千鶴さんは物持ちが良い。

過去のテスト用紙がきちんとファイルされて出てくる。どうしてこの几帳面さが家事にはいかされないのか。柏木家の七不思議のひとつである。

 

パラパラとファイルをめくってみる。80点代のスコアが並んでる。一学期の問題を見るとやはり見たことのあるような問題が多いな。うしっ。

 

俺が過去問の熟語と格闘している向かい側で千鶴さんはもくもくと問題集を解いている。 千鶴さんは来年受験だ。俺もまあそうだが。

隆山から1時間ほどに県庁所在地があるが、そこの国立大学を千鶴さんは本命にしているそうだ。俺がめざすのは今千鶴さんが行っている近くの公立高校だ。中学も高校も入れ違いだけど大学はなんとか一緒に通えるね。

 

そのうちに梓がドリルをもって居間にやってきた。炬燵の空いているところに広げる。体中が「かまってくれ」と叫んでいる。正直な奴だ。

 

秘密兵器があるからもうある程度の成績は確保できた、と考えてよかろう。

早々と自分の勉強に見切りをつけた俺は梓のドリルに目をやった。

「梓、どこか難しいところあるか?」

コイツもそろそろ俺と同じ中学に通うことになる。

「えっ、いいよ。耕一だってすることあるんだろ」

ここまできて妙な気の回し方をする奴だ。

 

「俺も千鶴さんに教わっている。遠慮すんな」

千鶴さんも微笑んでうなずく。ただうなずくだけじゃないのが千鶴さんらしい。

「そう、それなら」

「うん、どこ?」

自分の勉強に飽きた俺は気分転換に小学生のドリルを見る。

「まずこの辺がわからない」

 

再び自分のテスト対策をしていると楓ちゃんと初音ちゃんもやってきた。

正直小学生は宿題さえすればいいと思うけどな。俺はダミーをしまう。

 

少し足がきつくなるが、二人が並んで入れるような大き目の炬燵だ。見ると二人は勉強をしているのではなくてただ本を読んでいる。二冊ともブックカバーがかけられたままなのでタイトルはわからない。

 

「今日は暖かいね」

「こういう日が続くといいのにな」

 

短い会話が時折交わされる。静かな沈黙の中で五人がそれぞれ自分のことをしている。梓も予想外にドリルに専念しているみたいだ。

母さんがお茶と和菓子(伯母さんのおみやげだと俺はふんでいる)を持ってきてそのまま梓の隣に腰を下ろす。俺は篭の蜜柑に手をのばす。楓ちゃんがお気に入りの湯飲みでお茶をすする。

 

ゆったりとした時間が流れる日曜の昼下がり。障子越しにもわかる外の明るい陽射し。 俺はそちらを眺めながらふとこの家の構造を考えた。

 

この家は成功したじいさんが武家屋敷を模して建て替えたものだ。 だから見かけよりは新しい。 一流の建築家が調和のとれた設計をしたのだろう。

 

そのなかで一ヶ所不自然に突き出した4つの部屋がある。 あの4つの部屋は明らかに後から増築されたものだ。 全員の部屋に陽の光がさしこむように。

 

今は亡き、じいさんや伯父さんの心くばりだ。この居間もまた彼等が遺した陽だまり。

 

「何処かへ散歩にでも出かけたいなあ」

「お兄ちゃん、勉強はどうするの」

 

 




(注1)『静かな沈黙の中で・・・』ってやっぱりおかしいですかね。自分では結構このフレーズが気に入ったのだけど。「安らかな沈黙・・・」とかのほうがよかったかなあ。こういうのを書くのはいかにも素人くさいけど、ホントに素人だから許して。言い訳人生・・。
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