柏木家の夏   作:多手ててと

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第2章
第8話 :転校生


9月1日、しとしとと雨が降っていてこの時期にしては涼しい。

俺、母さん、四姉妹。大勢で学校にむかった。

 

「耕一が変なことをしたら私達だって恥ずかしいんだからな」

「安心しろ。俺の従姉妹だということを光栄に思う日もそう遠くないだろう」

へっ、梓が鼻で笑う。

 

「それにしても、耕一お兄ちゃんは落ち着いてるね」

落ち着いてると言われても困る。

「そう見える? これでも結構緊張してるんだけどな。クラスに上手く溶け込めるか。うまくかわいい女の子の隣の席になるか。転校初日にぶつかるとかいうドラマチックな出会いが俺を・・」

「はいはい、それで」

「私にも耕一さんはすごく落ち着いているように見えます」

楓ちゃんはまだ3年だというのにすごく大人びた言い方をする。

「耕一には神経なんてないよな」

 

母さんと千鶴さんは微笑みながら少し後ろを歩いている。

 

ここの小学校と中学校は隣り合わせになっている。中学の校門前で千鶴さんと別れ、小学校の校門をくぐったところで梓達と別れた。俺と母さんは校長室に向かう。

 

 

事件があって3日後ぐらいの頃、伯母さんが俺達親子にできれば一緒に住んで欲しいと頼んだ。この広い家に女性しかいないのは不用心だし、なんといっても鶴来屋の事がある。たった一人で右も左もわからないところに飛び込む勇気がない、そう伯母さんは言った。

 

考えておきます。

 

親父は何を躊躇してるんだ。親父が今の会社に不満を持っている事を俺は知っていた。そのうち近くにアパートを借りる、という案も出たが、結局俺達もここのお屋敷に住む事になった。

 

葬式が終わると俺達は一度東京へ戻り引越しの用意をした。親父の会社の都合などで2週間ほど東京にいた。登校日に学校へ行き先生や友達に別れの挨拶をした。こういうのは苦手だ。好みをいえば何も言わずに消えるほうがいい。

 

 

「耕ちゃんの部屋だけど」  麦茶を飲んでいると伯母さんが話し掛けてきた。荷物は明日にならないと来ない。「とりあえず前の客間を使ってちょうだい」

昔は親父の部屋だったという、あの八畳間か。東京では四畳半だったからほぼ倍に出世だ。畳の大きさを考えると倍以上かも。

「いずれは千鶴の部屋の向こうにもう一部屋増やそうと思うのだけど」

 

「いやこいつにそこまでしてもらわなくていいですよ」

俺より早く親父が答える。俺自身もそう思う。別に居候だから、と卑下するつもりはないがそんなに気を遣ってもらわなくても。

「でもあの客間の横をよく人が通るし、若い男の子には暮らしにくいと思うの」

それはそうだ。

「とりあえずだけど喪が明けるまではあの部屋でお願いするわ」

 

 

伯母さんと親父はすぐに忙しくなり、なかなか帰れなくなった。だから食卓は6人で囲む事が多い。ふとした時に落ちてくる沈黙が痛い。この場を盛り上げるのは俺の仕事だ。こういう時に便利なのは梓だ。

 

「耕一、やっぱりこっちは田舎だろ?」

俺は今日みんなの案内で商店街などを回った。美人四姉妹と一緒だと目立つ事目立つ事、なんか恥ずかしいような、誇らしいような、すごくいい気分だ。でもこれは俺がどこの何者かを宣伝して歩いたようなものでもある。はやくも都会にはないプレッシャーを感じる。もう「ただの観光客です」みたいな顔で好き勝手な事はできない。

 

「うん」 母さん特製のハンバーグをほおばりながら正直な感想を述べるとさすがにみんなひいたようだ。

「別に悪い事だとはおもわないぞ、田舎には田舎のよさがある。ただ・・」

「ただ?」 これは初音ちゃん。

「駅前に本屋が一軒しかないというのは困るな。狭いから立ち読みもしにくいし」

ゲーセンも小学生には入りにくい雰囲気だった。

「マンガしか読まないくせに」

「マンガ以外に立ち読みなんかするものか」

このあとしばらくお気に入りのマンガの話になった。

 

早くも食べ終わった楓ちゃんが聞いてくる。

「明日はどこに行くんですか?」

そうね、鶴来屋はもうちょっと落ち着いてからいこう。

「明日は海岸の方へ行こうと思うんだ」

「ちょっと、もう海水浴は無理だよ」

「そうなの?」 やはり東京よりは涼しい。

「そう、もうお店とかもたたんでるよ」

 

俺は休みの間に梓達の案内で、隆山のいろんな所を見て回った。千鶴さんも部活が無い時はつきあってくれた。ただ夏の間に鶴来屋に行く事はなかった。

 

 

「はじめまして柏木耕一といいます。よろしく」

担任に連れてこられた教室で、俺は迷った末にかなり無難な挨拶をすることにした。激つまんねー、という声が聞こえてくるようだ。

 

教室はまだざわついている。俺はすかさず教室中をチェックした。”匂い”がする者はこの教室だけで4人もいる。この一月でこの匂いの意味することがほぼわかった。これは鬼の血を薄く持っている者の匂いだ。鬼に変化する程の血量はない。

 

ということはこの教室にいる4人もまた俺の子孫なのか。一応顔を見てみるがさすがに俺に似てるということはない。それでもなにか複雑な気分だ。

 

「東京から転校してきたってことだけどたいして変わらないじゃない」

「そんなもんよ」

そう、そんなもんだ。常人にはざわめきとしかわからないことでも俺には言葉として知覚できる。

 

一番後ろの列の席のうち一つが空いてる。案の定俺はそこの席だった。

隣は純朴そうな少年。なにかとお世話になることもあるだろう。

「よろしく」 「こっちこそよろしくなー」

1時間目は国語だ。俺の持っているのとは違う教科書だ。早速お世話になってしまった。

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