「十分ではないけど。いくつかの謎は、新しい人生のために取っておくよ。
もしそれがあるなら、そこで表現することが許されればだけど」
幽は朗読をいったん終えた。まだ微妙に続きがあるのだが。
窓の外は完全に闇に包まれていたのだ。
「・・・寝なくて大丈夫でやんすか?」
「大丈夫ですよ、幽くん。幽くんのほうこそ喉は大丈夫なんですか?」
「僕は大丈夫でやんす。僕はいつだって平気でやんす。
それじゃあ、エピローグといくでやんす。
ここではアビスタンの最新のニュースを・・・」
目が見えなくなってしまったかこのために、幽は朗読をしていた。
辛くはなかった。だって、かこの方がもっと辛いとわかっていたから。
両親が最初からいなかった幽と違い、かこは優しい両親が最初からいたのだ。
だから、両親を失ったショックは彼女の方が大きいに決まっているのだ。
幽を育てている親戚は滅多に帰ってこないが帰ってきたらすごく溺愛してくれる。
だからこそ、家族の大切さは幽でも理解はしているつもりだ。
そして、幽は何も言わなかった。何も言わずに、いつものように傍にいた。
彼女は両親が行方不明だと告げられても泣かなかった。
しかし、本当は泣き出しそうなほどに脆いことを幽は知っていた。
「・・・これでおしまいでやんす」
「・・・」
アルジェリア人によって書かれたこの本は、ヴォルカに薦められたものだ。
彼はその粗暴な口調と見た目からは予想できないのだが、意外と乱読家なのだ。
転生者と呼ばれる者たちに出会ったのはつい最近のことである。
変な怪物(後に魔女と呼ばれていることを知った)に襲われていたのを助けてもらったのだ。
助けてくれたのは文山ののか。十七歳で、表向きは水名女学園に通う生徒だ。
彼女は錨のような不思議な武器で怪物を見事に鎮圧してみせたのだ。
そのことで転生者たちと知り合い、彼らに影響されたからか幽も不思議な能力に目覚めた。
彼らはそれを
(・・・いい人たちだったでやんす)
ワルプルギスの夜が襲撃するまで、彼らとの日々は本当に楽しかった。
何であれ、彼らは本当に愉快だった。そして、誠実であった。
転生者の一人である秋山聡は常に幽に申し訳なさそうに言った。
「すまんな、本当は巻き込むべきじゃなかったんだ。
お前はただ、何も知らずにいた方が幸せだったのかもしれんな」
彼はどこか転生者であるということに対して罪悪感を持っているようにも見えた。
その罪悪感は恐らく、今頃は払拭されたのだろう。
彼はビルの破片に貫かれ、ようやく転生者をやめることができたのだから。
まあ、別の世界に転生させられたら意味はないのだが。
(・・・本当に映画のような戦いだったでやんす)
燃え上がる都市、破壊されて浮くビルの破片・・・。
幽たちは別の場所から攻撃していたが、魔法少女たちの一斉攻撃も見えた。
無情にも彼女たちの攻撃は一切通用せず、自分たちの攻撃もある程度しか通用しなかった。
それでも満身創痍でなかったので転生者は魔法少女たちよりかは上手く立ち回れた。
だが、彼らは忘れていた。ワルプルギスの夜だって、反撃するということを。
それで、八人も死んでしまった。
もし、魔法少女たちが再び立ち上がらなかったら、全滅していたかもしれない。
それでも、魔法少女もかなりの損害を負ってしまったようだ。
事実、かこは失明してしまっているのだ。
(・・・ヴォルカさん、色々と原作通りじゃないって言ってたでやんすね)
死者・行方不明者が五桁を超えるだなんて知らなかったらしい。
以前、魔法少女のリストを今は亡き風山忍にもらったことがある。
それを行方不明者のリストと照らし合わせると、行方不明になった魔法少女もいた。
かこの友人である春名このみもその一人である。彼女はまだ見つからないそうだ。
志伸あきらと純美雨は死亡者リストの方に入っている。
かこは友人たちを一瞬にして失ってしまったのだ。
(僕には耐えられないでやんす・・・)
幽は後悔していた。もっと早く動いていれば、こんなことにはならなかったのではと。
でも、こうなってしまったことは受け入れなければいけない。
どんなに悔いても、これからも人生は続くのだから。
「・・・こうなったら、ヤケでやんす!
かこちゃん、退院したらラーメン次郎に行くでやんす!」
「えっ」
「かこちゃんに必要なのは休養だけじゃなくて、栄養でやんす!娯楽でやんす!
人間、悲しんでばかりだといけないでやんす!
とりあえず人生楽しまないと、天国にいるかこちゃんの友人も悲しむでやんす!」
「・・・そうですね」
そんな彼女の目には涙が溢れていた。
「でも、私、目が見えませんよ?」
「僕が食べさせてあげるでやんす!
その気になれば、盲導犬にだってなるでやんすよ!」
「・・・ありがとうございます!」
病室のドアの前に立っていたヴォルカは心配無用だとわかり、去っていった。
穂野崎幽:容姿は中性的。クラスでのあだ名は『語尾だけ変えてくれ』
アルジェリア人の書いた本:『2084 世界の終わり』、現実にも存在するよ(ステマ)