ARIA The PIACERE 3 その素敵な出会いの先に   作:neo venetiatti

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第1話

ARIAカンパニーの朝は、その海に面したカウンターのシャッターを開けるところから始まる。

心地いい潮風が流れ込んできて、きらめく海の景色とともに、水無灯里の顔には、思わず笑顔がこぼれてくる。

そんなときはきまって、アリア社長が灯里のそばでうれしさいっぱいの表情になっている。

「ぷいにゅーい!」

「おはようございます、アリア社長!今日も一日よろしくお願いします!」

それはいつもの朝。そしていつもの時間。

店内の掃除を手早くすませると、キッチンで朝食の支度に取りかかる。

テーブルでは、待ちきれないアリア社長がイスを前後に揺らしながら鼻歌をく口ずさんでいる。

「アリア社長、出来ましたよー!」

「ばいばばいばばーい!」

アリア社長は灯里の作った特製オムレツを口いっぱいに頬張り、ケチャップを口のまわりに付けまくっていた。

すると、突然喉をつまらせ、悶絶の表情で苦しみ始めた。

「アリア社長ー!大丈夫ですかー?」

灯里がコップの水を、焦るアリア社長に飲ませた。

「ぷいにゅ~」

「心配しましたよ~、アリア社長~!もっとゆっくり食べないとダメですよ~」

アリア社長は安堵の表情と同時に、ばつが悪そうに照れて見せた。

その時だった。

「ただいまー!いま戻りましたー!」

カウンターの外から明るく弾んだ声が聞こえてきた。

「えっ?」

灯里は驚いてその声の方に顔を向けた。

そこには、ARIAカンパニーの制服を着た、まだ幼さが残る女の子が立っていた。

「アリア社長、ただいまー!」

「ばいにゅーい!」

アリア社長は当たり前のように返事していた。

「えっ、ちょっと、アリア社長?」

唖然としている灯里を見て、その女の子は申し訳なさそうな顔をしていた。

「すみません、灯里さん。今朝起きたらとっても気持ちがよかったので、早朝練習に行ってきました!」

「はあ・・・」

「あ、あの、灯里さん?何も言わずに出かけてしまって、よくなかったでしょうか?」

「いや、あの、そういうことじゃなくて・・・」

「どうしたんですか、灯里さん?具合でも悪いんですか?」

「ぷいにゅい?」

灯里の横でアリア社長も心配そうに灯里の顔を見上げていた。

そして、灯里とその女の子は、一瞬じっと見つめあった。

「あの~、つかぬことをお伺いしますが、どちら様でしょうか?」

女の子とアリア社長はずっこけた。

「わたし、なんか変なこと言った?」

灯里の表情は真剣そのものだった

「灯里さん、ほんとに大丈夫ですか?」

「ぷいにゅ?」

「えっ、ちょっと待って。どうなってるの?」

灯里は茫然とその場に立ち尽くすことしかできなかった。

 

 

「ちょっと灯里?灯里ってばぁ~」

灯里は、眠り込んでいたテーブルから、ゆっくりと頭をもたげた。

まだ眠気まなこの表情で、ぼんやりしている。

「しっかりしなさいよ!なに寝ぼけてんの?」

カウンターの外では、呆れたよう表情で、藍華がその様子を眺めていた。

「藍華ちゃん、おはよう」

「そう、おはよう・・・って、あんた、いったい何時だと思ってんの?」

「えっと、アリア社長と朝ごはんを食べてて、そしたら早朝練習から帰ってきたって・・・」

「はぁ?誰が早朝練習から帰ってきたって?」

「そうだ。あれ、誰だっけ・・・」

藍華は大きなため息をついて、目を閉じた。

「あのさぁ、灯里?午後に少し時間ができそうだから、久し振りにお茶にしない?って言ってきたの、あんたでしょ?」

「えっと、そうだっけ?」

そう呟きながら、灯里の目がパッチリと開いた。

「やっと目が覚めた?」

ハッとした表情で灯里は、藍華の方を見た。

「そうか。夢・・・だったんだ」

その視線は、藍華のすぐ横の、誰もいない空間に向けられていた。

 

「つまり、アリア社長と朝食をとっていたら、ARIAカンパニーの制服を着た女の子が外に立っていたと」

灯里とテーブルを挟んで座っていた藍華は、先程までいたカウンターの外に目を向けた。

「それでね、早朝練習に行ってきたって言ったの。アリア社長なんか、当たり前のように挨拶してるし」

「なるほどね」

「何が?なるほどって、どういうこと?」

「あのさぁ、灯里?前から言ってるじゃない?そろそろ本気で考える時が来たってことじゃないの?そんな夢を見るってことは」

「またその話・・・」

「だって、そうとしか考えられないでしょ?」

灯里は少しうつ向くと、ぼんやり表情が雲ってしまった。

「そんなに不安?」

藍華は灯里の顔を覗き込むようにして言った。

「わたしなんかが、このARIAカンパニーを受け継ぐだなんて、もしかしたら勘違いしてたのかもしれない」

「それを今になって言うの?」

「だって、グランマやアリシアさんのことを考えると、わたしなんかに何ができるんだろうって・・・」

「あのさぁ、誰があんたにグランマやアリシアさんの代わりを求めてるって言った?」

「藍華ちゃん・・・」

「前にも言わなかった?灯里は灯里のままでいいんだって」

「うん、わかってる。わかってるつもりだったんだけど・・・」

「まあ、あんたがつい考えてしまうのも、わからないわけじゃないけどね。あのふたりは、ちょっと偉大過ぎたから」

「うん」

「でもさあ、灯里?あんたはあんたが思ってるほどじゃないと、私は思うわよ?」

「えっ、どういうこと?」

「つまり」

藍華は、灯里に少しほほえんで返した。

「灯里がアリシアさんからこのARIAカンパニーを受け継いで一年が過ぎたわけだけど、それなりにいろんなことがあったと思うのね?」

「うん」

「私からすると、そんな灯里のまわりで起きたいろんなことが、灯里を中心に回り始めてるように見えるんだけど。どうなの、灯里としては?」

「私を中心に?」

「そう。多分だけど、灯里、あんたはそれを自分ではまだ、実感できてないんじゃないの?」

「そんなこと、考えたことない」

「そうでしょうね。それが自信のなさの原因じゃないかしら?わたしには、そんなふうに思えたんだけど」

灯里は、一歩踏み出さなくてはいけないと、頭ではわかってはいた。

でも、その立場に立っている自分の姿をイメージできないでいた。

 

名実ともにトップ・ウンディーネだったアリシア・フローレンスが、このARIAカンパニーを寿退社し、その後を灯里が引き継ぐことになって早一年。

シングル時代いつも行動をともにしていた藍華やアリスは、それぞれに進む方向が明確になりつつあった。

プリマ・ウンディーネに昇格すると同時に支店を任されることになった藍華は、進んで観光案内に出て、支店の存在感をアピールすることに力を注いでいた。

アリスは飛び級昇格というウンディーネの歴史に輝かしい歴史をつくり、人気ナンバーワンのウンディーネとなって、ネオ・ヴェネツィア国際映画祭のプレゼンターでその人気に拍車をかけていた。

それなら自分らしいウンディーネとは、なんなんだろう・・・

ウンディーネとしての経験を積み重ねれば重ねるほど、灯里の心の中では、その疑問が不安へと変わって行く。

藍華の指摘は、そんな灯里の心の中にある不安を表していたと言えた。

 

「とにかくさあ、いつまでもひとりって訳にはいかないでしょ?」

「そうだね」

「わかってるんなら、実行あるのみ!」

「えっ?」

「えって、仕事よ仕事!あんたはどうしたいわけ?今後のこと」

「私は、このままずっと続けばいいなあって思ってる」

「いや、あのね、今言ったばかりでしょ?そうじゃなくて、その先のことよ!」

「その先かぁ」

「うん。そういうこと。で?」

「う~ん」

「ん?」

「わかんない」

バタッ

「藍華ちゃん、大丈夫?」

「大丈夫もなにも、あんたといると退屈しないわ、ほんと」

「エヘヘヘ」

「そういえば、あのただ乗りの子、あの子は最近どうしてるの?」

「アイちゃんは、こないだ社会見学にきてからは、マンホームに帰ってからそのままだけど」

「何?あの子、社会見学に来てたの?わざわざマンホームから?」

「そうなんだよ。将来の希望を、実際に見て考える機会にするんだって」

「そんなことやってるんだ。今の学校って」

「時代が変わったよねぇ」

「それであの子は、実際に何を見に来たわけ?」

「ここ」

「ここ?」

「うん、そうって言ってた」

「えっ、ここって、つまりARIAカンパニーってこと?」

「うん」

「なんで?」

「将来ARIAカンパニーに就職するんだって」

「いや、するんだってって、ひとごとみたいに」

「なんかね、バリバリ働くから心配しなくていいよって、頼もしいこと言ってくれてた!」

「あんたねぇ、まだそう決まってもいない人から、そんなふうに言われるって、どうなの?」

「それはまだ先の話だし、まだご両親にも相談してないっていうから、まずはそれからだねって話してたの」

「そういうことなら、別にそれでいいと思うけど」

「ほんとにそうなるかどうかなんて、わからないし」

「まあ、とりあえずは、予約第1号ってことね」

「何それ、藍華ちゃん?」

「灯里の後輩候補ってことよ」

「ああなるほど。そうなるのか」

「もしかしたら、一番現実的な線なのかもね」

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