ARIA The PIACERE 3 その素敵な出会いの先に   作:neo venetiatti

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第12話

アサカは、久しぶりの休日を、自宅へは帰らず、そのままネオ・ヴェネツィアで過ごしていた。

休日といっても、忙しさの中で偶然取れた休みだったこともあって、時間をかけて自宅に戻るより、ここで束の間のバカンスを楽しもうと考えていた。

そのため、ほとんど無理矢理と言っていいくらいに、娘をネオ・ヴェネツィアに呼び寄せていた。

「お母さん、いきなりなんだから!」

「ごめんごめん。どうしても顔が見たかったの!」

「しょうがないなぁ」

アサカは娘の腕に自分の腕を絡めると、グッとその身体を引き寄せた。

久し振りに会った友達のように笑顔が絶えないふたりは、ネオ・ヴェネツィアを満喫した。

「仕事じゃないとこんなにも違うものかしら。いつものネオ・ヴェネツィアとまるで違う感じがする」

「そんなに?なんかオーバーな感じがするけど」

「ううん、そんなことないわよ」

アサカは、流れる風に髪をなびかせ、その心地よさに浸っていた。

「でもそうかもしれない」

娘が突然そう言った。

「どういうこと?」

「だって、時々しか来ない私だから感じるのかも知れないけど、ここはいつ来ても本当に変わらない。誰がいつ来ても迎え入れてくれる。そんな感じがするわね」

「誰がいつ来ても迎え入れてくれる」

娘の何気ない言葉がなぜか気になって、アサカは繰り返していた。

「あれ、あの人」

そう呟いた娘が向けた視線の先に、ウンディーネがひとり立っていた。

だが、そのウンディーネはキョロキョロとあちこちに顔を向けて、かなり焦っている様子だった。

「どうしたんだろう」

よく見てみると、そのウンディーネの後ろに隠れるようにして小さな女の子が立っていた。

「あの人、確かにあのウンディーネさんだわ」

アサカがそう呟くと同時に、そのウンディーネと目があった。

すると、ウンディーネは驚きと再会とが入り交じった、なんとも言えない表情になった。

「灯里さん?」

「はいっ、そうです!」

「どうしたの?」

「アサカさ~ん。どうしましょ~!?」

 

「迷子?」

「はい、そうなんです」

その小さな女の子は、灯里のスカートの端をぎゅっと握りしめたまま、灯里の後ろに隠れるように立っていた。

「おかあさんとはぐれてしまったみたいで。それで、見つかるまで一緒にいてあげるといったのですが・・・」

「なかなか現れないと」

「そうなんですぅ~」

灯里の困りようは、どちらが迷子なのかわからなくなってしまうくらいだった。

「私このあと、仕事なんです。予約のお客様を、もうお待たせしてしまっていると思うんです」

「それじゃこんなところで時間取ってられないじゃないの?」

「そうなんですぅー!」

だが、ふたりのやり取りを聞いていたのか、その女の子が灯里のスカートを、いっそう力を込めてぎゅっと握りしめた。

「あっ」

それに気がついた灯里が小さく声をもらした。

「大丈夫だよ。おかあさん見つかるまでって約束だもんね」

灯里は観念したように身体の力を抜くと、優しく声をかけた。

すると、アサカの娘がその女の子に近づいて、その場にすっとしゃがみこんだ。

そして、女の子に目線を合わせると話始めた。

「おかあさんいなくて寂しい?」

その言葉に、女の子は恥ずかしそうにコクリと小さくうなずいた。

「でもね、このお姉ちゃんはね、これから大事なご用があるの」

すると今度は灯里の背後に身を隠そうとした。

だが、そのまま顔をあげて、灯里の表情を確かめようとした。

「だからね、私がこのお姉ちゃんの代わりに一緒にいてあげる。もちろん、おかあさんが見つかるまでね」

女の子はどうしようか迷っているようだった。

「いいよ、無理しなくても。お姉ちゃんなら大丈夫だから」

灯里は女の子の様子を見て、そう声をかけた。

しかし、これまで話そうとしなかった女の子が口を開いた。

「ほんと?」

その言葉は、アサカの娘に向けられていた。

「ほんとだよ」

アサカの娘は優しい笑顔で言葉を返した。

すると、女の子はぎゅっと握りしめていた灯里のスカートから手を緩めると、アサカの娘のシャツの袖口を握りしめた。

アサカの娘はゆっくり立ち上がると灯里とアサカの顔を交互に見て言った。

「ということです」

「すみません。ご迷惑をおかけして」

「いえいえ、これくらいお安い御用です」

そう言ってアサカの娘はにっこりと微笑んだ。

「じゃあお姉ちゃん行くね」

灯里は女の子に声をかけると、アサカに頭を下げ、そしてアサカの娘にも軽く合図を送って小走りに駈けていった。

アサカの娘は笑顔の横で手を振って見送った。

「さあ、何して遊ぼうか?」

アサカは、すぐ側でしゃがみこんで女の子に話しかけている自分の娘を、諦めの入り交じった笑顔で眺めていた。

「あんたって、そんなに子供好きだった?」

「別に好きとかそんなんじゃないよ。単純にかわいいでしょ?それに困ってる子を見てたら、放っておけないの」

アサカは娘の横顔を眺めながら、昔のことを思い出していた。

「まだあの時のこと、根にもってるの?」

「そんなことないよ」

「本当に?」

「おかあさんこそ、気にしすぎだって」

「それならいいのだけど」

「そんなことより、おかあさんさあ、もうすでに会ってたのなら、そう言ってよ。私、なんにも知らなかったよ」

「えっ、何のこと?」

「さっきのウンディーネさんのこと!」

「さっきのって、灯里さんのこと?」

「名前まで知ってるんじゃない。それならそうと言ってくれればいいのに」

「何のこと言ってるの?」

「何のことって、さっきの人でしょ?あの時のウンディーネさん」

「あの時のって・・・」

アサカは、娘が何を言おうとしているのか、やっと理解することができた。

だがそれと同時に、自分がとんでもない勘違いをしていたのではと、頭の中が真っ白になっていった。

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