ARIA The PIACERE 3 その素敵な出会いの先に   作:neo venetiatti

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第13話

「アンナ、ひとりで行っちゃダメよ!」

「わかってる!」

そう返事したアンナは、どこで拾ってきたのか、黒い色のアクア猫を抱き締めていた。

「ひとりじゃないもんね?」

猫に話しかけたアンナは、ドアを開けて表通りに出てきた。

まだ身体の小さな女の子だけに、抱えた子猫が余計に可愛く見えた。

「あれ?アサカさんの娘さんじゃないの?」

すれ違ったおじさんが、そう話しかけてきた。

「違いますよ」

アンナは横を向いてそう言った。

「いやあ、誰がみてもそうだよ。確かにアンナちゃんだ」

「もう。なんで名前まで知ってるの?」

「そりゃあ知ってるさ。こんなに可愛いんだからね」

「これだから可愛い娘って損よね」

「ハハハハ」

「私これから大事な用があるの。だから内緒にしていてほしいの」

「内緒?どんな用なの?」

「うーん。これはほんとは言っちゃダメなんだからね」

「ダメなの?」

「そうなの。とっても大事なんだから」

そう言ってアンナは回りをキョロキョロ見回した。

すると、そのおじさんの上着の袖を掴んで、自分の方に引き寄せた。

そして、ナイショ話をするみたいにおじさんの耳元で何やらささやいた。

「へえ、そうなんだ」

「ほんとに言っちゃダメなんだからね。そうじゃないと、効き目がなくなってしまうんだから」

「わかったわかった。アンナちゃんの言う通りにするよ」

そう言うと、おじさんは笑顔を残してその場を立ち去った。

その後ろ姿を見送ると、アンナは急いで通りを駆け出していった。

 

その数分後、その通りには不安な表情をしたアサカの姿があった。

夫が出張のため、仕方なくネオ・ヴェネツィアまで娘のアンナを連れてきたアサカは、心配していたことが現実になってしまったのではと、後悔の念に苛まれていた。

団体客を連れてくる時にいつも利用していたホテルだったが、チェックや客への対応に、いつも以上に時間がかかってしまったのは、頭の中にアンナのことがあったからかもしれなかった。

だが仕事の手を抜きたくなかったアサカは、アンナにかまってあげられなかったことを、今更ながら申し訳なく感じていた。

しかし、そんなことを言ってられる状況ではないのかもしれない。

アサカは不安で高鳴る気持ちを押さえられずに通りの先の方へと進んでいった。

 

「アリア社長、ちょっと待ってください!」

灯里は心細い声を出して、そのまあるいお尻を追いかけていた。

「私まだ、そんなにネオ・ヴェネツィアのこと、わかってる訳じゃないんですよ~」

すると突然立ち止まったアリア社長は、くるっと振り返って灯里の方を見た。

「ばいにゅーい?」

「アリア社長、やっとわかってくれたんですね?」

灯里は、はぁはぁと呼吸を繰り返して、その場に立ち止まった。

「ARIAカンパニーの社員になって、まだ間もないんですから。そんなに急がれると、迷子になっちゃいそうです」

だが、そんな灯里の言葉などなんの説得力もなく、アリア社長は、またもやマイペースで走り出した。

「アリア社長~、ほんとに困るんですぅ~。わたし、帰れなくなっちゃいますぅ~」

重い足取りでなんとか追いかけ始めた灯里だったが、その先にいたアリア社長は、なぜかじっと立っていた。

「どうしたんですか、アリア社長?」

アリア社長は細い十字路の真ん中で、一方の路地の方をじっと見つめていた。

そこに追い付いた灯里は、その目線の先の様子を理解した。

その細い路地の真ん中で、小さな女の子がひとり、ぽつんと立っていた。

そして、じっと上に顔をむけたまま、アパートの隙間から上空を眺めていた。

胸には黒い子猫を抱いていた。

「あの女の子、何してるんでしょうか?」

灯里は不思議そうにアリア社長に話しかけた。

「ばいにゅい?」

ちらっと灯里の方に振り返ったアリア社長は、少しの笑みをたたえながら、そう言った。

「えっ、なんですか、アリア社長?何かあるんですか?」

その声に気づいた女の子は、灯里の方を見た。

その女の子と目が合った灯里は、ばつが悪そうにごまかそうとして、キョロキョロと辺りを見回していた。

だが、女の子がとぼとぼ歩き出した様子を見て、思わず灯里は声をかけた。

「ねえ、どうしたのー?だいじょうぶぅー?」

その声に立ち止まって振り返り、チラッと灯里の方に視線を向けたが、すぐにそのまま歩き出した。

「もしかしたら迷子かなぁ」

灯里とアリア社長は、その細い路地を進み始めた。

少し近づいたところで、灯里はまた声をかけてみた。

「ねえねえ、どうしたの?おうち、わからなくなったの?」

女の子は、また立ち止まったが、背中をむけたまま、その場にじっとしていた。

もう少し距離を縮めた灯里は、もう一度声をかけようとした。

「この子がね」

すると、背中をむけたまま、その女の子の方から話始めた。

「その子猫のこと?」

灯里がそう聞き返すと、女の子がくるりと振り返った。

胸には大事そうに抱えた黒色の子猫が、スヤスヤと眠っていた。

「うん。この子がね、おかあさんを探して鳴いていたの」

灯里は、少し膝を折るようにして姿勢を低くすると、その子猫を覗き込んだ。

「かわいいー!」

女の子は子猫の額の辺りを軽くなでて見せた。

すると、子猫の耳がピクンと動いた。そして、ふぁ~と大きなあくびをした。

「それで、おかあさんは見つかったの?」

「ううん、まだ。でも、この子がこっちだって案内してくれるの。だからここまで来たんだけど・・・」

「案内してくれるって、言葉がわかるの?」

「言葉なんてわかるわけないじゃない」

「そ、そうだよね。エヘヘヘ」

「この子の目を見てたら、なんとなくわかるの。おかあさんのところへ帰りたいって」

「そうなんだ」

灯里は、子猫を大事そうに抱えた女の子の姿に、優しく微笑みかけていた。

すると、アリア社長が路地の先の方へとゆっくりと歩き出した。

灯里と女の子は、その様子を不思議そうに眺めていると、建物の角でたち止まった。

アリア社長が角の向こうに何か話しかけているような仕草をしていると、その角から黒い猫が姿を現した。

すると、今までおとなしかった子猫が鳴き声を上げた。

「あの猫、この子のおかあさんじゃない?」

灯里の声に反応するかのように、角から姿を現した猫が、その子猫に呼び掛けるように鳴き声を上げた。

「きっとそうだよ!」

女の子はじっとその黒猫を見つめていた。

黒猫も女の子をじっと見つめ返した。

女の子は、ゆっくりとその猫の方へと歩き出した。

そして、その猫の前まで来ると、しゃがみこんで子猫をそっと地面に置いた。

黒猫は、子猫の首をくわえるとその場から、すっと角の向こうに消えた。

女の子は立ち上がると角の先へ走り出した。

しかし、もう猫の姿はどこにもなかった。

「よかったね」

灯里は、女の子の側で誰もいない街角を見送っていた。

辺りはすっかりと暗くなっていた。

街灯があちこちに灯り、どこからか夕げの匂いが漂ってきていた。

「さあ、帰ろう」

灯里は女の子の肩に手をおいて、優しく語りかけた。

女の子もコクリとうなずいた。

「それで、おうちはどこなの?」

「わかんない」

「えっ、わからないってどういうこと?」

「私、ネオ・ヴェネツィアのひとじゃないし」

「どういうこと?」

「お姉さんはどこからきたの?」

「私は・・・」

灯里の表情は明らかに困惑していた。

「そういえば、ここどこですか~?アリア社長~」

「ばいにゅ~」

すると、どこからか灯里に向けて声が投げ掛けられた。

「ちょっとあんた!そこで何やってんの?」

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