ARIA The PIACERE 3 その素敵な出会いの先に 作:neo venetiatti
「ちょっとしっかりしてよね。あんたも一応ウンディーネの端くれなんだから」
「スミマセン」
灯里は、青く長い髪を三つ編みのツインテールにしたウンディーネ姿の女の子の横で、すまなさそうに歩いていた。
「あの~、確か姫屋の・・・」
「そうよ。まだ自己紹介してなかったっけ?」
「聞いたような気もしますけど・・・」
そのウンディーネ姿の女の子はその場に立ち止まって灯里の方に向いた。
「私は姫屋所属の藍華・S・グランチェスタ。ところで、その女の子は?」
灯里のそばを離れずにいる女の子を見て、藍華は尋ねた。
「この子は、さっきの路地で出会ったんだけど・・・・」
「何?どういうこと?」
「もう暗いし、帰ろうって言ったんだけど、おうちがどこかわからないって言って」
「つまり、迷子ってこと?」
藍華はため息をついた。
「あのさぁ、自分がどう帰っていいかわからない人が、迷子を連れてどうするつもりなわけ?」
藍華はそう言って、その女の子の顔を覗きこんだ。
「ねえ、名前は?」
「アンナ」
「なんだ。ちゃんと答えられるじゃない」
女の子は灯里の横に少し隠れるように後退りした。
「それで、どこから来たの?」
「わかんない」
「わかんないって、なんで?」
「この子、ネオ・ヴェネツィアに住んでるんじゃないんです」
「そういうことなのね。じゃあ、お父さんやお母さんは?まさかひとりでネオ・ヴェネツィアに来たってわけじゃないでしょ?」
「ホテル」
「まあ、そうでしょうね。で、どこのホテルかわかる?わかるわけないか。だからここにこうしているわけだもんね」
「古い」
「ここはそういう街だからね。ホテルにしても、マンホーム時代から引き継いでやっているところも少なくないしね」
藍華は腕を組んで、ふむふむと目を閉じてうなずいた。
「ボン」
「ボンて、あんたねぇ、さっきから連想ゲームをやってるんじゃないのよ」
藍華は両手を腰に当てて言った。だが、何かを思い出したような表情で前方に目線を向けた。
「ん?ちょっと待って!」
「何かわかったの?」
灯里は、ハッとした表情の藍華と考え込んでいるアンナを交互に見比べた。
「今、ボンて言いかけたわよね?」
「うん、そんな感じだったような・・・」
「他に特徴は?」
「う~ん」
「なんかないの?」
「そんな焦らせちゃ可哀想だよ」
焦って何か聞き出そうとする藍華に、灯里が思わず割って入った。
「そんな悠長なこと言ってどうするの?このままずっと歩き続けるってわけ?」
「そういうわけじゃないけど・・・」
「ねえ、もしかして、あの有名な大きい広場に近いんじゃない?」
「サン・マルコ広場のこと?」
「うん、近かった気がする」
「よっしぁー!」
藍華はガッツポーズを決めた。
「え、何?わかったの?」
「多分だけどね」
「やったー!よかった。これで帰れるね」
「うん」
三人は急ぎ足で、すっかり夜となったネオ・ヴェネツィアの街中を進んだ。
「う~ん」
アンナは、そのこじんまりとしたホテルの前で、じっと入り口を見つめていた。
「なんか反応が変なんだけど・・・」
「反応が変て、そんなの見れば私だってわかるわよ!」
三人はそのホテルの前で立ち尽くしていた。
「だって、名前にボンがついて、サン・マルコ広場に近いとなると、ここしか思い浮かばなかったのよ」
通りから階段を数段上がったところに自動ドアがあり、その入り口の横の壁には〈ホテル・パレス・ボンヴェネチアッティ〉と看板が掲げられていた。
「〈パレス・ボンヴェネチアッティ〉て有名なんですか?」
「あ、あんたねぇ、こんな立地条件のいいところで、利用しない観光客がいるとでも言うの?」
「なんか、地味というか・・・エヘヘヘ」
藍華はぐったりとなってため息をついた。
「あんた、本当にARIAカンパニーの人なの?ウソついてるわけじゃないわよねぇ?」
「それは間違いないです」
「とりあえずホテルの人に聞いてくるわ」
藍華は中へ入っていき、カウンターの前で話始めた。
灯里には、音は聞こえなくとも、うまくいってない雰囲気は十分に伝わってきた。
外へ出てきた藍華は、浮かない表情のままだった。
「やっぱり違うみたい。アサカっていう添乗員のいる団体客は来てないって」
アンナから聞いた母親の名前を出してみたが、違うようだった。
「どうしたって情報が少なすぎるのよね。でもここだと思ったんだけどなぁ」
藍華は腰に両手を置いて、ホテルをまじまじと見上げた。
「あれ?藍華ちゃんじゃないの?」
丁度そのホテルから出てきた中年の男性が藍華を見て声をかけてきた。
「あっ、どうもお久しぶりです」
藍華は姿勢を正すと、その男性に挨拶した。藍華の顔見知りの男性のようだった。
「姫屋のご令嬢がこんなところで何してんの?」
「やめてくださいよ。恥ずかしいですから、その言い方」
その男性は藍華の照れた顔をみて、嬉しそうに笑った。
「でもすっかりウンディーネ姿が板についてきたね」
「そうですか?ありがとうございます」
しかし、もうひとつすっきりしない藍華の表情に男性は気になった。
「でも本当にどうしたの?なんかあったの?」
「実はホテルを探してまして。この女の子の泊まってるはずのホテルなんです」
「もしかして迷子?」
「はい。ホテルの名前がわからないので、とにかく少ない情報を頼りに探してるんですけども」
藍華はこれまでの経緯をその男性に簡単に説明した。
「なるほどね。この子のお母さんは添乗員をしていて、どこかのホテルには宿泊していると。そこでボンという言葉を頼りにか」
「そうなんです。なんか手掛かりないですか?」
「そう言われてもねぇ」
その男性も頭をかいて困り果てていた。
「緑のお屋根」
アンナがポツリと呟いた。
「思い出したの?何?緑のお屋根って?」
その場にいた全員が、上の方を見上げた。
「違うね」
灯里がポツリと言った。
「みんなご飯食べてた」
アンナがまた思い出したように呟いた。
「どういうこと?そこでご飯を食べてたってことなの?」
「もしかしたら、テラスってこと?」
「それよ!」
藍華が思わず放った言葉に、灯里はポカンとしていた。
「わかるの?それで」
「いや、そういうわけじゃないけど」
藍華はちょっとばつが悪そうに苦笑した。
「そうだ、藍華ちゃん?」
男性が何か思い出したように口を開いた。
「大事なことを見落としてた」
「なんですか?」
「藍華ちゃん?ここはパレスだよ!」
「はい、そうですねぇ」
「ボンヴェネチアッティでもパレスの方だってこと!」
「パレスの方って・・・はっ!」
藍華は両目を大きく見開いた。
「えっ、何?どういうこと?」
灯里は意味がわからず、困惑していた。
「私としたことが、なんという失態!こんなこと、晃さんに知れたら間違いなくどやされる!」
藍華はその場で頭を抱えていた。
「どこのホテルかわかったってこと?」
「そういうこと。ここはパレス・ボンヴェネチアッティでしょ?それとは別に、ホテル・ボンヴェネチアッティっていうホテルがあるのよ」
「ええ~~!そうなのぉ~!」
「ドアがクルクル回るの」
「そういうこと、早く言ってくれないかなぁ~。もう~!」