ARIA The PIACERE 3 その素敵な出会いの先に   作:neo venetiatti

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第15話

「アサカさん、申し訳ない。こんなことになるとは、思ってなかったんだよ」

ツアー客のひとりの男性が、アサカに謝っていた。

数分前まで、ホテルの前でキョロキョロしながら、落ち着きなくしていた男性は、路地の方から姿を現したアサカに急いで駆け寄っていた。

「いえ、これは私の責任です。お客様のせいではありません」

「でもこんな時間になってまだ帰って来ないのは、やっぱりおかしいよ。警察に捜索を頼んだらどう?」

「はい。でももう少し・・・」

アサカは薄暗い街灯の灯りが頼りとなった路地の先を見つめた。

心配と不安な気持ちで胸が張り裂けそうだった。

あの時、ちゃんと顔を見て話していれば・・・

その時だった。

はっきりと見えない路地の先から話し声が聞こえてきた。

「でもよくわかったねぇ。さすが姫屋のウンディーネだ!」

「まあ、あんたもウンディーネをやってれば、これくらいはわかって来るようになるわ」

アサカは話し声がする方に歩き出していた。

すると、薄明かりの中、二人のウンディーネの姿と、その間に挟まれるようして歩く小さな女の子の姿が見えてきた。

女の子は、両手をそれぞれのウンディーネと手をつないで歩いていた。

「アンナ・・・」

アサカの口から声が漏れた。

その声が聞こえたのか、女の子がアサカの姿に気付いた。

「お母さん」

そう呟くと、アンナは走り出した。

アサカは涙の溢れる顔で、勢いよくその胸に飛び込んできたアンナをギュッと抱き締めた。

「どこに行ってたの?」

「子猫がね、おかあさんを探してたの」

「見つかったの?」

「うん」

少し離れたところでその様子を見ていた灯里は、もらい泣きしていた。

「よかったねぇ~」

「そうね。無事にたどり着くことができてよかった」

ふたりの様子に気がついたアサカが立ち上がった。

「あななたちが、アンナを助けてくれたんですか?」

「まあ、助けたなんてちょっと大袈裟ですけど」

藍華が照れたように答えた。

「もうすっかり夜ですしね。道もわからないっていうし。ね?」

横にいる灯里に藍華がめくばせした。

「はい、そうなんです。こちらの藍華さんがホテルの場所を探し出してくれて、ここまでこれました」

「そうだったんですか。本当にありがとうございます。なんて言ってお礼をすれば・・・」

「いいえ、お礼なんていりません。無事お母さんの元に帰ることができて何よりです」

「あなたは姫屋のウンディーネさん?」

アサカは藍華の姿を見てたずねた。

「はい。そうです」

「それと、あなたは・・・もしかして、ARIAカンパニーの方?」

「はい、そうですが、何か・・・」

「あっ、いえ、なんでもないけど」

アサカは何か気になったのか、不思議そうに灯里の姿を見ていた。

「じゃあ、私たちはこれで失礼します」

藍華と灯里は一礼すると、その場をあとにした。

アサカとアンナは、しばらくの間その場で、仲良く話しながら歩いて行くふたりの後ろ姿を見送っていた。

 

お母さんと手を握って歩き出した女の子は、振り替えってアンナに手を振った。

アンナも嬉しそうに手を振り返した。

「よかった。お母さん見つかって」

観光客の行き交う通りに立って、アンナはそう呟いて親子の歩く後ろ姿を見送った。

「お母さんとふたりで、こうして見送っていると、あの時のことを思い出すね」

「あの時って、あなたが迷子になった時のこと?」

「そうそう。あの時、あのウンディーネのお姉さんが私のことを見つけてくれなかったら、多分だけど本当に迷子になってたと思う」

「アンナ、やめてその話。今考えても恐ろしくなっちゃう」

「お母さん、まだ気にしてんの?」

「そりゃそうよ。昔も今も自分の娘にそんなことが起こったらなんて、考えたくもないわよ」

「そうなんだ」

ふたりは、再び通りを歩き始めた。

明るい日差しの下、今日もネオ・ヴェネツィアは観光地らしく、世界のあちこちからやって来た人たちで賑わっていた。

「でも、さっき間違えたって言ってたけど、あれどういう意味?」

「それはね、私が勝手にそうだと思い込んでたということ」

「どういうこと?」

アサカは、少し複雑な表情になって、地面に視線を落とした。

「私ね、アンナを助けてくれたのは、あの長い三つ編みのウンディーネの女の子だと思ってたの」

「そうね。別に間違ってはいないけど」

「でもあなたの話を聞いてわかった。最初にアンナを見つけてくれたのは、灯里さんの方だった」

「確かにそうだけど。でも、もうひとりのウンディーネさんも、つたない私の記憶を元にホテルを探して回ってくれたのよ」

「それもわかってる。そうじゃなくて、いろいろと勘違いをしていたのかもしれないってこと」

「そうなんだ。よくわかんないけど」

アサカは前を向くと、爽やかな風に思わずほほえんでいた。

そして、横を歩く娘にチラッと目を向けた。

あの頃の幼い娘と、こうして一緒にネオ・ヴェネツィアを歩ける日が来ようとは、思ってもみなかった。

それに、もうひとつ。

出会いは、あの日からすでに始まっていたのだと、アサカはネオ・ヴェネツィアの空を見上げていた。


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