ARIA The PIACERE 3 その素敵な出会いの先に 作:neo venetiatti
「ナイト・パーティーの企画?」
藍華は腕を組んで眉間にシワを寄せていた。
「いえ、別に藍華先輩に頼んでるわけではないです」
アリスは素っ気ない態度で藍華に向いて言った。
「あ、あんたねぇ、その態度はなんなの?相談にのってあげようっていうのに!」
「まあまあ」
灯里は二人の会話に割って入った。
ARIAカンパニーの一階のテーブルには、仕事から立ち寄ったアリスを待ち受けるかのように、灯里と藍華がいた。
少し前から何かとオレンジぷらねっとのナイト・パーティーに関して、灯里に相談を持ちかけていたアリスは、今日もまた時間の合間を縫ってARIAカンパニーへやって来たわけだった。
「でもなんでここに相談に来るわけ?灯里はオレンジぷらねっとと何か関係があるっていうの?」
「別にそんなのはありません」
「じゃあなんで?」
「特に理由があるわけではありませんが。強いて言うなら、まあ、そうですねぇ。口実でしょうか?」
「ARIAカンパニーへ来るための?」
「まあ、そんなところです」
灯里は嬉しそうにほほえんだ。
「アリスちゃん、うれしいこといってくれるねぇ」
「まあ確かに。以前は会うための口実が見つからない~って、半べそかいてた時もあったしね」
「藍華先輩!もう!そこはいいじゃないですか!」
「はいはい」
「でもティンカーベルの件はなくなったんでしょ?」
「ああ、あの幸せの粉を振りかけるってゆうやつね」
「なんか、その言い方」
ほっぺを膨らませたアリスは、二人を前にして、灯里の入れた紅茶を飲んで、少し息をついた。
「結局のところ、その企画はおじゃんになった訳でしょ?」
「はい。ですから、その穴埋めというか、代わりの企画が急遽必要になったわけです」
「アリスちゃん、それを私のところに相談に来たの?」
灯里は、伸ばした人差し指をあごのあたりに当てて、目を大きく見開いた。
「まあ相談というか、顔の広い灯里先輩なので、何かいい感じの情報はないかなあと思いまして」
「いい感じの情報?」
「はい」
「あのねぇ、後輩ちゃん?そんな気の効いた情報を灯里が持ってると思う?この灯里がよ?誰とでも親しくなってしまうくせに、肝心のことは何一つ聞いちゃいないのよ?」
「藍華先輩、いくらなんでもそこまで言わなくても・・・」
「エヘヘヘ」
「笑ってるし」
「確かに」
苦笑いの灯里を見つつ、藍華は腕を組んでアリスの方に向いた。
「ところで後輩ちゃん、そのナイトパーティーって、そもそも何が目的なの?」
「藍華先輩に話してませんでした?」
「詳しくは聞いてないわね」
「いわゆる新しい顧客の創出っていうやつです。ネオ・ヴェネツィアの魅力をもっと知ってもらおうと、ゴンドラに乗る機会の減る夜の時間にもお客様に楽しんでもらうことが目的なんです」
「なるほどね。オレンジぷらねっとらしいといえば、らしいって感じね。どちらかと言えば伝統を重んじる姫屋とはやはり違うかもね」
「でもそうすると、夜もお仕事するってことなの?」
灯里は心配そうに尋ねた。
「そこは、シフトを組むだとか、いろいろ対策は取っているようですけど」
「へえ~、大変だね、アリスちゃん」
「でもあれじゃないの?プリマである後輩ちゃんは、そこまで深くは関わらないんでしょ?」
「の、はずだったんですけど」
「そうか。アリスちゃんは、これから先もまた会社から、何かと求められるかもしれないと思ったわけだ」
「別に会社のお仕事ですから、やらないわけじゃないんです。私だって貢献できるならそうしたいと思ってるんですよ。でも、あのティンカーベルはさすがに・・・」
「つまり、こういうこと?」
藍華は改めてアリスに向き直った。
「後輩ちゃんとしては、そのナイトパーティーに協力しない訳ではないけど、でもティンカーベルみたいな見せ物みたいになるのは勘弁してほしいと」
「当然です」
「なのにここまでナイトパーティーにこだわるのは、おそらくだけど、先手を打とうと考えたってわけね。でしょ?」
「藍華先輩、さすがに鋭いですね」
「ええ~どういうこと~?」
「どうせやるのだったら、変な格好をせずに済むことを先に考えちゃえばいいってことよ」
「そういうことなの?」
「まあそういうことです。実現性のあることを先に決めちゃえば、それでいいわけです」
「へえ~そうなんだぁ・・・で?」
「そのリアクションだと、ネタになりそうなことはなさそうですね」
「だから言ってるじゃない?この灯里に期待する方が・・・」
「そうだ!」
灯里は藍華の言葉をさえぎるように大きな声を出した。
「ちょ、ちょっと!急にビックリするじゃない!」
「思い出したことがあった!」
「なんなんですか、灯里先輩?」
「あの女の子、あの時の迷子の女の子だよ!」
「はぁ?」
藍華は眉間にシワを寄せつつも、呆気にとられていた。
「灯里、あんたいきなり何を言い出してんの?」
「藍華ちゃん、あのときの女の子だよ!きっとそうだよ!」
「だから、さっきから何をひとりでそんなに興奮してんのって言ってんの!」
「藍華ちゃん、覚えてない?」
「灯里先輩、ちょっと落ち着いて下さい。ちゃんと説明してもらわないと、藍華先輩だってわからないと思いますよ」
「そうだった。ゴメン」
「それで何が言いたいのよ、灯里?」
「あの時、私がARIAカンパニーに入って、まだ日が浅い時、藍華ちゃんと一緒に迷子の女の子の、宿泊してるホテルを探して回ったときがあったでしょ?」
「灯里と私とで探し回ったの?」
「そうだよ!そしたら藍華ちゃんがホテルの名前を勘違いしてたことに気がついて、晃さんにどやされる~って頭を抱えて」
「ああ~、はいはいはい。その女の子のお母さんが観光ツアーの添乗員をやってて」
「心配したお母さんがホテルの外で待ってて、感動のご対面!」
「そんなこと、確かにあったわね。それでその女の子と会ったって言うの?」
「そうなんだよ!」
「いつ?どこでよ?」
「実はこの前、迷子の女の子がいて、一緒にお母さんを探してあげようとしてたら、時間がなくなってきちゃって」
「灯里先輩らしいですね」
「そしたら、偶然にアサカさんに出会ったんだけど。その時アサカさんと一緒にいた女の子が、代わりに迷子の女の子の面倒を見てくれるってなって」
「ちょ、ちょっと待って、灯里?あの時の迷子の女の子っていうのは、つまり誰?」
「多分だけど、私の代わりに迷子の女の子のお母さん捜しを引き受けてくれた女の子、アサカさんの娘さんだと思う」
「つまり、あの時のお母さんは、アサカさんだったっていうの?」
「多分そうだと思う」
二人の会話の横で、アリスは頭を抱えていた。
「あの~スミマセン。誰が誰なのか、全く頭に入って来ないんですけど」
アラトリアはしっかりと計画を進めるべく、ミッションを開始しようとしていた。
「わたくしとしては結局のところ、やはりアレしかないと思うのですわ」
普段利用しているブティックから取り寄せたドレスを手に取り、アラトリアは満足げに眺めた。
その時、アラトリアの携帯電話が鳴った。
「あら、ご苦労様。何かありましたの?」
〈お嬢様、先日の件はいかがされましたでしょうか?〉
電話の相手は、オレンジぷらねっとの運営企画室の社員であり、グレース財閥とつながりのある、アラトリアに逆らえない立場の例の女性、アムネジアだった。
「先日?ああ、あの件ね。大丈夫よ。安心して」
〈それはよかったです。あの件は、企画室の他の者には一切話してませんので、早く進めてしまわないと、大変なことになってしまいます〉
「そこは大丈夫ですわ。ここにこうしてドレスも到着しましたし」
〈ドレス?〉
「そうですわ。きっとアリス様にふさわしいお姿に間違いないと・・・」
〈お嬢様~~〉
「なんですの?変な声を出したりして」
〈お嬢様、もうお忘れですか?あのカップルのこと〉
「あのカップル?」
〈はぁ~〉
ため息の具合から、アムネジアの落胆ぶりが伺えた。
「具合でも悪いのかしら?」
〈お嬢様、私の具合など、この際どうでもいいんです。あのお二人に協力してもらったおかげで、お嬢様の計画が実行できることになったわけじゃないですか?〉
「まあ、そうですわね」
〈ですので、ここは早めに実行に移していただかないと〉
「そう急いでもしょうがなくて?」
〈お嬢様~~〉
「だからなんなの?さっきからその声」
〈お嬢様、本当なんです。このままだと、わたしの会社での立場がなくなってしまいます!〉
「わかってますの。あなたにも、その立場とやらがあることくらい」
〈それでは何かアイデアがあるのでしょうか?もしかして、もうお決まりだとか?〉
「その辺は、ボチボチと・・・」
〈お嬢様~~~〉
「わ、わかりましたわ!」
アラトリアは、携帯電話を睨み付けながら、一方的に電話を切った。