ARIA The PIACERE 3 その素敵な出会いの先に   作:neo venetiatti

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第20話

「あのー、もしよろしかったら、お話をお伺いいたしましょうか?」

そう声をかけてきた少女は、ウンディーネの制服には似つかわしくないくらい、可愛いらしい姿で、にこやかに立っていた。

「それはどうも。助かります」

その場でキョロキョロしていた男性は、声をかけてきた目の前の少女の姿をまじまじと見つめた。

「何かありますでしょうか?」

「あ、いや、なんと言うか、すごくお若いウンディーネさんだなぁと思いまして」

「まあ、そうですね。そう思われるかもしれませんが、大丈夫です。私は、オレンジぷらねっと所属のアリス・キャロルと申します」

それを聞いた男性が、アリスの手に視線を移した。

「プリマ?」

「ええ。ちゃんとしたプリマ・ウンディーネなんです」

そう言ったアリスを見て、男性はにっこりほほえんだ。

「ウンディーネさんならご存知だと思いますが、ヴェネチアングラスを探してまして」

「ヴェネチアングラスですか?」

アリスは回りに視線を移した。

そこはサン・マルコ広場のど真ん中に位置するところだった。

回りには人がたくさんいて、観光客が一番のピークを迎える時間でもあった。

「どこか、お目当てのお店でもあるのでしょうか?」

「いえ、特にそういうわけではないんです。有名な観光スポットだから、そういうものも手に入るのかなぁと思いまして」

「そういうことですか」

アリスはちょっと考える様子でいたが、その男性に向き直って言った。

「もしお時間があるのでしたら、ムラーノ島へ行かれてはいかがでしょうか?」

「ムラーノ島?」

「はい。あそこはガラス工房がたくさん集まっていて、腕のいい職人さんもたくさんいるところなんです」

「そうなんですか。それなら、ウンディーネさんに連れていってもらえませんか?そんなに地理に詳しくないので」

「わたしですか?」

「はい。是非!」

アリスは思案していたが、こう答えた。

「申し訳ありません。実はこのあと、仕事の予定がありまして。ご予約のお客様がすでに決まってるんです」

「そうなんですか」

その男性は、とても残念そうだった。

アリスは、どうしたもんかと、その場から離れられそうになかった。

「あのー、何か事情がおありなんでしょうか?」

「実は、彼女にプロポーズする予定なんです」

「そうなんですか。それはおめでとうございます」

「それをこのネオ・ヴェネツィアでやる予定だったのですが、彼女があまりにも忙しい人で、それも延び延びになってしまって」

「それはそれはお気の毒に」

「それじゃあ、いっそのこと、想い出として何か買って、彼女にそれを贈ろうかと考えた次第なんです」

「それでヴェネツィアングラスという訳ですか?」

アリスは思案するように、伸ばした人差し指をあごの辺りに当てた。

「もしお急ぎでなければ、改めてご案内させて頂きましょうか?」

「いいんですか?」

「はい」

男性は嬉しそうに、パッと表情が明るくなった。

そして、連絡先を確認すると、アリスはその男性に案内する約束をしてその場をあとにした。

「乗り掛かった舟とも言いますしね」

アリスは大鐘楼を右へ回るとアドリア海を見渡せるところまで歩いてきた。

目の前には、サン・ジョルジョ・マッジョーレ島が見える。

「でも、まだ乗ってませんけどね」

そうつぶやくと、ひとりクスッと笑った。

 

「アリスちゃ~ん!」

灯里はその見慣れた後ろ姿を見つけると、駆け寄っていった。

振り返ったアリスは意外そうな表情だった。

「灯里先輩、珍しいですね?」

「何が?」

「だって、昼の日中からこんなところで出会うなんて」

「それはこっちのセリフだよ。忙しくしているアリスちゃんこそ、珍しいんじゃない?」

「まあ確かに」

そう言ってアリスはにっこりとほほえんだ。

「先輩は何のご用だったんですか?」

「私はねえ、暇だったの」

「ええ~!なんなんですか、それ?」

「エヘヘヘ。冗談だよ、アリスちゃん」

「もうー、先輩!」

「ごめんごめん。実はね、ちょっと藍華ちゃんから頼まれたことがあって。これからサン・ジョルジョ・マッジョーレ教会へ行くところなの」

「あそこへ?」

アリスは振り替えって教会のある島の方へと目を向けた。

「何かあるんですか?」

「なんかね、あそこで結婚式を挙げたい人がいるらしいんだけど、できるかどうか聞いてきてほしいんだって」

「それを灯里先輩に頼んだんですか?」

「まあ、そうなんだけど」

「いくら灯里先輩が暇だからといって、それはないですよね」

「アリスちゃん、結構こたえるんだけど」

「すみません」

「まあ、別にいいよ」

灯里は苦笑いで応えた。

「私が神父様とリンゴを食べた仲だということで、それならって藍華ちゃんが言うもんだから」

「なんなんですか、そのリンゴを食べた仲というのは?」

「エヘヘヘ。それはね、あることがきっかけで手に入ったリンゴがあって、神父様をゴンドラで島までお送りした時に、よろしければどうぞってお渡ししたら、それじゃあお茶にしましょうとなったというわけ」

「あのー、すみません。いったいどうしたら、そんなエピソードが誕生するんですか?教えて欲しいです」

「教えると言っても、私もどうしてなんだかわからないんだけど」

「あ~あ。先輩って、相変わらず友達作りの達人ですね」

「そうかなぁ」

「そうですよ。普通リンゴがきっかけで、サン・ジョルジョ・マッジョーレ教会の神父様とお茶するなんて。そんなことあり得ませんよ」

「エヘヘヘ。ところで、アリスちゃんはどうしたの?」

「ちょっとそこまでお使いです」

「お使い?なんか小さな子供みたいだね」

「それは見た目のことをおっしゃってるんですか、灯里先輩?それとも中身ですか?」

「違う違う!そんな怒らないで、アリスちゃん」

「さっきも疑われたんです。ほんとにプリマなんだろうかって」

「疑われた?」

「サン・マルコ広場のまん中でキョロキョロしてるひとがいたので、何かお困りなのかなぁって思って声をかけたんです。そしたら私をじっと見て、その上両手まで確認してるのに、なんか頭の上には、はてなマークが出てるんですよ」

「おもしろい表現するねぇ、アリスちゃん」

「そしたらヴェネチアングラスをさがしてるっておっしゃって。彼女さんにプロポーズするのに、何かないかって思ったらしくて」

「それでサン・マルコ広場に?」

「だからわたし、ムラーノ島をオススメしたんです」

「そうだね。あそこなら、工房もたくさんあるもんね」

「そうなんです。それで今度ご案内する約束をしたんです」

「何それ?」

灯里は笑顔になって、小さく笑ってみせた。

「何がですか?」

「何がって、アリスちゃん?怒ってるんじゃないの?違うの?」

「怒ってるというか、失礼だというか・・・」

アリスは、顔を赤くしてうつむいた。

「アリスちゃんらしいね」

「私らしい?どこがですか?」

「そうやって、人のことを思いやる気持ち。思いやって、気遣って。いろんなことがあっても、ちゃんと人のことを考えてる」

「そんな恥ずかしいセリフ、禁止・・・」

「ああー!藍華ちゃんに言っちゃおー!」

「ダメですぅ~!」

 

「それにしても、あれだねぇ。ネオ・ヴェネツィアって、そんなにも結婚式をあげたくなる場所なんだねぇ」

「そうですね。確かにそう言われてみると、そんな話が多いですね」

「私なんてね、こないだストーカー男さんをゴンドラにお乗せしたみたいなんだよ」

「はあ?なんなんですか、その話?」

「藍華ちゃんが遭遇したらしいんだ、そんな人に。そしたら聞いてるうちに、どうやらこの間お乗せしたお客様だと気がついたんだよね」

「気がついたって。大丈夫だったんですか?」

「うん、大丈夫だったよ。その人の身の上話を聞いたりして、すごく感激していただいたみたいだった」

「灯里先輩?ちょっとお人好しが過ぎるんじゃないですか?」

「そんなことないと思うんだけど。確かに藍華ちゃんからも言われた」

「そりゃそうだと思います」

「でもね、その人言ってたの。どうしてもサン・マルコ広場を見ておきたかったって。なぜだと思う?その人のお父さんがお母さんにプロポーズした場所だからなんだって」

「よくありそうな話だと思いますけど」

「そうかもしれない。でも、そのお父さんもお母さんも、もうこの世にはいないの。小さい頃に亡くなったんだって。だから、せめて見ておきたかったって」

「でも灯里先輩?その話とストーカー男が、私にはどうしても結びつかないんですけど」

「そこなんだよねぇ」

「はあ~」

「どうしたの、アリスちゃん?」

「灯里先輩がみんなから声をかけられる理由が、なんとなくわかります」

「そうなの?」

「だって、ストーカー男さんを感激させたり、カップルさんのためにサン・ジョルジョ・マッジョーレ教会まで行くとか。そこまでするウンディーネなんていないと思います」

「たまたまだよ。でもアリスちゃんも、そのプロポーズする人のために、ムラーノ島を案内するつもりなんでしょ?」

「それは乗り掛かった舟といいますか」

「おんなじじゃない?」

「まあ、そうですね。そうとも言えるでしょうか」

灯里はアリスの顔をみて、やさしく微笑んだ。

アリスはその灯里をみて、少し顔を赤くしていた。

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