ARIA The PIACERE 3 その素敵な出会いの先に   作:neo venetiatti

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第21話

サン・ジョルジョ・マッジョーレ教会の神父様からは、灯里が思っていた以上にスムーズに了解を得ることができた。

「最近、暇だったからね。結婚式ならウェルカムだよ。なんだったら、灯里ちゃんに営業を頼んじゃおうかなぁ」

灯里は丁重にお断りをした。

店に戻り、姫屋カンナレージョ支店に電話を入れたが、藍華はゴンドラで営業に出ているところだった。

ARIAカンパニーはと言えば、午後から一組のお客様を残すのみとなっていた。

灯里は、それまでにできる用事を済ませてしまおうと、早速店内の掃除に取りかかろうとした。

「灯里さん、いらっしゃる?」

カウンターの外から声が聞こえた。

「はい!どちら様・・・」

「お久し振りね」

「アサカさん!」

アサカは、先日街で会った時のカジュアルな装いと違い、紺色のジャケットに、折り目がしっかりとついた黒のパンツ姿だった。

灯里は、思わずまじまじとその出で立ちを、上から下まで眺めた。

「仕事の時は、こんな感じなの」

「はぁ・・・あっ、すみません」

「どう?忙しい?」

「おかげさまで、それなりに」

「何?その言い回し」

アサカは灯里の返答に思わず笑ってしまった。

「それなりに、忙しいのね?」

「そんなところです」

「フフフフ」

「すみません」

「なんで謝るの?」

「なんとなく」

アサカは軽く息を吐いて、店内を見回した。

「実はね、今日はお仕事の件で来たんだけど」

「確かアサカさんは、アクアトラベルの方なんですよね?」

「知っていてくれたんだ」

「藍華ちゃんから聞いてました」

「あの姫屋の藍華さんね」

「はい。以前団体さんのお仕事でお店に来られたと聞きました」

「そうね。あの時は藍華さんに大活躍してもらったわ。一番張り切ってた!」

「それ、わかります。藍華ちゃんなら、きっとそうだろうなって」

「そこでなんだけど」

「はい。なんでしょうか?」

「灯里さん?」

「はい?」

「あなたを一日お借りしたいのだけど」

「私を?借りる?・・・ええー!」

灯里はポカンとした表情で、アサカの笑顔をじっと見つめた。

「どうかしら?大丈夫そう?」

「えっと、あの、それはどういったご用件なんでしょうか?」

「もちろんウンディーネとしてよ。他に何かある?」

「そうですよね。エヘヘヘ」

「灯里さん?」

「はい!」

「どんな想像をしてたの?」

「だって、借りるっていうから、炊き出しとか、サンタの格好とか」

「何それ?ハハハハ」

「違いますよね。失礼しました」

アサカはお腹を押さえながら、目尻から流れる涙をぬぐっていた。

「灯里さんて、ホントに楽しい方ね」

「そうでしょうか~~」

アサカは灯里の困惑した反応に思わず笑顔になっていた。

「それで、あの~」

「なに?」

「その借りるというのは・・・」

「そうだったわね」

灯里は何を頼まれるのかと、少し不安な気分になっていた。

「もちろん、いつも灯里さんがやっている観光案内なんだけど」

「はあ」

「一日貸しきりで、ある人のために仕事をお願いしたいの」

「貸し切り、ですか?」

「ええ、そう。頼めるかしら?」

「えっとですね」

そう言って、灯里は店内の壁にあるスケジュールボードの方に振り返った。

考えようとしたが、あまりその必要はないようだった。

「あの・・・大丈夫そうです」

「そう?それじゃあ、灯里さんが都合のいい日を教えてくれる?」

「はい。わかりました。少し先になると思いますが、一日スケジュールを空けておきます」

「ありがとう。助かるわ」

「それで、あのー」

「ん?何?」

「アサカさんが先程おっしゃってた、ある人というのは、どなた様かお聞きしてもいいでしょうか?」

「そうだったわね。肝心なことを言うの忘れてた」

アサカはそう言って、改めて灯里の方に向いた。

「実は、私の娘、結婚するの!」

「はい、そうなんですか・・・えっ?ええ~~!」

「ハハハハ!驚くのも無理ないわよね」

「だって、アサカさんの娘さんて、この間お会いした方ですよね?」

「名前はアンナ。まだ16なんだけど、なんだかそんなことになったわけなの」

「おめでとうございます!」

「おめでとう、でいいのよね?」

「はい!それはやっぱりそうだと思いますが・・・違うんですか?」

「やはりそこは複雑なんだけどね、母親としては」

 

 

灯里は、アサカを店内に招き入れた。

テーブルに用意したカップに紅茶を注ぐと、アサカの向かい側に座り、あらためて話を聞くことにした。

「アンナが言うの。結婚するなら、このネオ・ヴェネツィアで結婚式をあげたいって」

「そうなんですか」

「アンナにとっても思い出深いところだから、是非そうしたいって。そして、そうなったら、灯里さんのゴンドラで記念すべき日を送りたいって言うの」

「私のゴンドラで?」

「そうなの」

「どうしてですか?」

「灯里さんは、覚えてないかもしれないけど。アンナが小さい頃、あなたに助けてもらったことがあるの。私が忙しくて、あの娘にかまってやれなくて。それでひとりで出掛けてしまって。迷子になったアンナを灯里さんが見つけてくれた」

「実は、先日そのことを思い出したんです。アンナさんとお会いして。あ、思い出したのは、そのあとなんですけど。もしかしたら、あのときの女の子だったんじゃないかなって」

「そうだったんだ。やっぱり灯里さんとは、何かご縁があったのかもしれないわね」

アサカは目を伏せると、ティーカップの取っ手にそっと触れた。

「先日、灯里さんと街で再会したとき、あのときは急にキャンセルが出たことで一日時間が出来て、それならアンナを呼んで、このネオ・ヴェネツィアを満喫しようと思ったの。そしたら、偶然にも灯里さんと遭遇した」

「そうだったんですね」

「そうしたら、また迷子の子供と一緒!しかも、その子供以上にあたふたしてた!」

「ああ~それは~お恥ずかしいところを~お見せしてしまいました~~」

「ハハハハ」

灯里は肩をすくめて苦笑した。

「でもあの時、わかったわ。灯里さんて、ほんとにやさしい人なんだって。それにあの時のことも」

「あの時の?」

「わたし、勘違いしてたってことに気づかされたの」

「はあ」

「だからね、お詫びのしるし」

「はい?」

「ちょっと遅くなったけど、灯里さんのプリマ就任、そして新生ARIAカンパニーの一周年におめでとう!」

「アサカさん」

「私も一応観光の世界に身を置いている者としては、ここはお仕事で返したいなって思って。つまり、ご祝儀って言えばいいかな」

「そんなぁ・・・」

灯里は目を潤ませた。

「でも私、嬉しいです!」

「よかった。灯里さんに喜んでもらえて」

 

「ところで、その日一日、観光案内をすればいいんですか?」

「実はまだ、詳しいことまでは聞いてないのよ」

「はあ、そうなんですか」

「結婚式そのものには、あまり興味がないみたいで。でもせっかくだから、思い出に残るような結婚式に、本当はしてほしいんだけど。せっかくこのネオ・ヴェネツィアでやるんだから」

「そうですよね」

そう言うと灯里は、ふっとカウンター越しに海の方へ目を向けた。

「あの、もしよかったらなんですけど・・・」

アサカは、自分に真剣な眼差しを向ける灯里を、不思議そうに見つめ返した。

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