ARIA The PIACERE 3 その素敵な出会いの先に 作:neo venetiatti
「藍華ちゃん、ということなんだけど、どう思う?」
灯里から連絡があったことを営業から戻って聞いた藍華は、その足でARIAカンパニーにやって来ていた。
それぞれ、その日の仕事の予定を済ませていたこともあって、少しゆっくりと話せそうだった。
「どう思うって言うけど、いったいどうなったら、そんな話になるの?」
「やっぱり無理かなぁ」
「そうじゃなくて。灯里さぁ、あんたってつくづく、そういうことなんだよね」
「何が?」
「だからさぁ、なんで本人がそれに気づかないのかが、不思議なのよねぇ」
「ごめん。藍華ちゃんの言ってる意味がわかんないんだけど」
「だからね、私がたまたまサン・ジョルジョ・マッジョーレ教会で結婚式を挙げたいというカップルに出くわしたかと思ったら、すでに灯里が観光案内していたカップルだというし。仕事で知り合ったと思ってたアサカさんは、昔すでに会っていた添乗員の人で、迷子になっていた娘さんを送り届けていたなんて、そんなエピソードまで出てくるし。そしたら今度はその娘さんが、このネオ・ヴェネツィアで結婚式を挙げたいって言うし。いったいこの話、どこまでいくの?」
「ホントだねぇ~」
「あんたのその感心ぶりが、私には不思議なのよ」
「だって、藍華ちゃんに言われて、ホントそうだねぇ~って感じだよ」
「まあ、あんたがそう思うんなら、それでいいんだけどね」
「それで、どう思う?」
「つまり、合同結婚式ってこと?」
「そう。アンナさんがあまり結婚式に感心がないっていうのを、アサカさんが残念がっていて、その時カップルさんがサン・ジョルジョ・マッジョーレ教会で結婚式を挙げたいって話を思い出して。それをアサカさんに話したら、それもいいかもってなって」
「でもそれって、まだ神父様には話してないんでしょ?」
「そうなんだけどね。でも多分大丈夫だと思う」
「なんで?リンゴを一緒に食べた仲だから?」
「そういうわけじゃないけど。こないだ結婚式を挙げられるかを聞きに行った時に、私に営業を頼んじゃおうかって言ってたぐらいだったから」
「もちろん冗談だよね?」
「うん。たぶん」
「それであんたはどうしたの?」
「もちろん断ったよ」
「そりゃそうよね」
藍華は少しため息をつくと、灯里の入れた紅茶を口にした。
「そう言えば、こないだアリスちゃんも、結婚する予定の男性にムラーノ島を案内するって言ってた」
「何それ?」
「なんかね、彼女さんに送るためのヴェネツィアングラスを探してる人に出会ったらしくて。それならムラーノ島がいいんじゃないかってことになって」
「そうなんだ。後輩ちゃんも何かと忙しくしてるのね」
「そうみたいなんだよねぇ」
「それで後輩ちゃんはどうなの?最近は相談には来てないの?」
「ナイトパーティーのことでしょ?そういえば、最近は来てないなぁ」
二人はそう言いながら、何気なくカウンターの外の景色に視線を移した。
すると突然、そこにアリスが姿を現した。
ふたりと目が合ったアリスは、目を見開いてギクッと固まってしまった。
「な、な、な」
「アリスちゃん!」
「な、な、な」
「あんた、さっきから『な』しか言ってないわよ」
「なんなんですか!」
「それはこっちのセリフだと思うけど」
「だってふたりして、なんでこちらをじっと見ているのですか?」
「別にじっと見てたわけじゃないけど」
「そんなの、驚くに決まってるじゃないですか!」
「アリスちゃん、大丈夫?」
アリスは店内に入って来るなり、かなりの勢いで話始めた。
「ちょっと聞いてください!」
「どうしたの、アリスちゃん?」
「先日、ムラーノ島へヴェネツィアングラスの工房を案内するのにお連れした男性がですよ?」
「サン・マルコ広場で会ったっていう人のことでしょ?」
「はい。その人が、なんと、私が魔法の粉をかけるはずの人だったんですよ!」
「あ、あのさぁ、後輩ちゃん?何を言ってるわけ?」
「ですからぁ、私が、ティンカーベルになってですね、魔法の・・・」
「ああ、あのおじゃんになった企画の件でしょ?」
「それです!」
「その人とムラーノ島へお連れした人が同じ人だったの、アリスちゃん?」
「そうなんです!」
「そんなできすぎた話、ある?」
「本当だったんですよ!」
「アリスちゃんが驚くのもわかる気がする」
「それだけでも大変だったんですけど」
「まだ続きがあるの?」
「その男性の方、アンドレさんて言うんですけど、偶然サン・ジョルジョ・マッジョーレ島が見えるところを通ってた時に、そこが教会だと知って、それならあそこで結婚式を挙げれるのかとなったんですよ」
「何それ?」
「えっ、何がですか?」
「そんな偶然てあるの?」
「どういうことですか?」
「灯里?」
「えっ、わたし?」
「あそこって、なんかあるの?」
「ただ、そこにはいろいろとありまして・・・」
アリスは先ほどまでの勢いとは違い、少し複雑な表情になっていた。
「どうしたの、アリスちゃん?」
「実はわたし、すごいストーカーに狙われているんです」
「ええ~~!どういうこと?」
「あんた、なんでそんな大事な話、黙ってたの?」
「そうだよ。アリスちゃんは、すでにそういったことがあったわけなんだから」
「すみません、先輩方」
アリスは、ウンディーネ志望の女の子が、最近近づいてくるようになり、挙げ句の果てには、オレンジぷらねっとに勤めている知り合いを通じて、アリスのスケジュールまで把握していたことなどをふたりに説明して聞かせた。
「しかも、先ほど話したアンドレさんの件にも関係してたようで・・・」
「何それ?どういうことなの?」
「スケジュールが合わなくて、ナイトパーティーの件がなくなったのは事実だったんですが、それを勝手にフォローしようと画策していたんです!」
「あ、あんたねぇ、スパイか何かみたいなこと言ってるけど」
「アリスちゃん、どういうこと?」
「その人、アラトリアっていう人なんですけど、私の大ファンらしくて、役に立ちたいとかで、アンドレさんに結婚式が実現できるように働きかけていたんですよ!」
「はぁ?何それ?」
「ですから、私にわからないように、アンドレさんにですね、結婚式の話をですね・・・」
「後輩ちゃん、今ストーカーって言ったわよね?それが結婚式を手伝うっていうの?」
「手伝うというんじゃなくて、勝手に進めてたといったらいいでしょうか。それもオレンジぷらねっとの社員を使ってですよ!」
「でもなんでそこまでするの?」
「それはですね、私がどうしてもティンカーベルをやりたくないってことを知って、それなら一肌脱ぎましょうとなったみたいなことを、確か言ってたような・・・」
「結局それって、全部後輩ちゃんのためってことじゃないの?」
「例えそうだとしても、おかしくないですか?こんなこと!」
「まあ、そう言われれば、確かにちょっとやり過ぎかもね」
「それでアリスちゃんの方は大丈夫なの?」
「私の方は大丈夫ですけど」
「それはよかったね。ちょっと心配しちゃった」
「灯里先輩、ありがとうございます。でも灯里先輩も怒っていいくらいなんですよ!」
「どうして?私が?」
アリスはアラトリアと初めて会った時のことを灯里に話した。
「ほんとに失礼だったんですから!」
「アリスちゃん、そんな風に思っててくれたんだ」
灯里は嬉しそうにほほえんだ。
「だってそうじゃないですか?就職するのに意味がないなんて言って。私が怒ったもんだから、その後先輩のこと、一応見学に来たらしいですけど」
「見学に来たの、その人?」
「はい。ゴンドラにも乗ったって言ってましたよ」
「見学・・・」
「灯里?覚えてないの?」
「もしかして、あの就職希望の見学の人かなぁ」
「来たんだ」
「でもすごく若い人だったよ。というか、学生さんて言ってた」
「ええ。十五才らしいです。ネオ・ヴェネツィア国際学院に通ってるって言ってました」
「十五才でネオ・ヴェネツィア国際学院って、バリバリのお嬢様じゃないの?」
「そうらしいですけど」
「そんな女の子がストーカー?なんかの間違いじゃない?」