ARIA The PIACERE 3 その素敵な出会いの先に 作:neo venetiatti
サン・マルコ広場の目の前にある船着き場には、3艘のゴンドラが係留されていた。
他のゴンドラの姿はなく、その様子はまるで、その3艘のゴンドラのために用意されたような光景だった。
しかも、普段一般客用に係留されているものでなく、特別な装飾を施したプリマ・ウンディーネ専用のゴンドラだったため、誰もが目を引く光景になっていた。
そして、その船着き場の側には、三人のウンディーネが並んで立っている。
それぞれ、違う会社の制服を着ていた。
そのことが、一層周りの興味を惹き付ける理由となっていた。
「あのさぁ、さっきからジロジロ見られてるような感じがするんだけど」
「藍華先輩?見られてるようなではなく、はっきりと注目を浴びています」
「でも、なんかドキドキするねぇ~」
「それにさっきから気になってんだけど。あそこの人だかりは、なに?」
「ほんとだねぇ。なんだろう~」
「あ、あれは、おそらく・・・」
「後輩ちゃん?なんか知ってるの?」
「多分なんですが、プロポーズの儀式かと」
「何それ?そんなの、やることになってたの?」
「確か、そんなような・・・」
「灯里、聞いてた?」
「わたし、聞いてないよ」
その時、その人だかりを掻き分けて、ひとりの少女が飛び出してきた。
「アリス様~~!おはようございます~~~!」
「明らかに後輩ちゃんを呼んでるわよね。誰?」
「えっと、あの人はですね・・・」
「アラトリアさんでしょ?あの人」
「灯里、知ってる人?」
「ほら、アリスちゃんの大ファンだっていう人」
「じゃあ、あの子がお嬢様でストーカーだってわけ?」
アラトリアは三人の前までやって来ると、息を弾ませ、そしてアリスの方に顔を向けた。
「アリス様、本日はお日柄もよく、好天に恵まれ、このような良き日を迎えることができ、本当に良かったですわ!」
「そうですね。それは何よりで」
「はい!」
「後輩ちゃん、なんかやる気なさそうなんだけど」
藍華が不思議そうにしている横で、アリスは、なぜかばつの悪そうな顔をしていた。
「それにしても、せっかくの結婚式なのに、あんなところで騒がれちゃ台無しよねぇ」
「藍華様?」
「わ、わたし?」
「ええ、もちろんですわ。それに灯里様」
「ええ~!私も何かあるの?」
「この度の合同結婚式に、わたくしも協力させていただける機会をいただいたこと、本当に感謝いたしておりますの」
「協力?」
「ええ、そうでございますわ」
「協力って、何?」
「プロポーズですわ!」
「ちょっと、後輩ちゃん?どういうこと?」
「ああ~~!だから賛成しなかったのにぃ~!」
「アリス様?今さら何をおっしゃっておいでで?」
「どういうことよ?」
「つまりですね、この船着き場付近をお借りして、プロポーズの儀式を行うということで」
「どうせなら、盛大に行いましょうとなった次第ですわ。藍華様?」
「誰がそんなことを?」
「もちろん、アリス様とわたくしの案でございます!」
「アリスちゃん、素敵なアイデアだねぇ~」
「灯里様!そう言っていただけると思っておりました!」
「でも、もうひとりの発案者は、あまり乗り気ではないように見えるけども」
アリスは、その場で思いっきりため息をついた。
「アンドレさんの件は、これまでの経緯もありますし、絶対結婚式を実現しないと、と言ったんです。だからそれについては、私の方も協力するつもりだとは言いました」
「言ったのね?」
「確かに言いました!でもこんな派手な演出を頼んだわけではありません!第一、結婚式は、あのサン・ジョルジョ・マッジョーレ教会で行うわけですから」
「でもこれからここでプロポーズをするんでしょ?アリスちゃん!素敵なアイデアだと思うよ!」
「灯里さぁ、あんたは本当に、そうやってマイペースで生きてくのね。わかってたことだけども」
「なんか、へん?」
「三組の合同結婚式をサン・ジョルジョ・マッジョーレ教会で行うっていうだけでも、派手なことだと思うけど。こんな形で注目を集めてさぁ、悪目立ちしちゃってる ってことないの?」
「その辺は大丈夫でございますの、藍華様?」
「なんで大丈夫なの?」
「そこはちゃんと、ネオ・ヴェネツィア行政区より許可をいただいておりますので」
「許可?そんなのが下りんの?」
「はい!」
「一般の人よねぇ?今日結婚する人たちって」
「あのぉ、藍華先輩?時間がかかりそうなので、その辺はおいおいと、ということで」
「もういいわ。詳しいことは後で聞くから。それよりも、また人の数が増えてんじゃないの?」
「ほんとですわ!こんなことをしている場合ではありませんわ!」
アラトリアは勢いよく、走り去っていった。
「じゃあ、私たちはしばらくここで待ってるってこと?」
「まあ、そんな、感じで」
「はぁ~そうですか・・・ん?」
カメラを持ったひとりの男性が、海の方にカメラを向けていたかと思うと、そのカメラを藍華たち三人の方に向けてシャッターを切り出した。
バシャッバシャッバシャッ
「ちょっと、そこの人?さっきからバシャッバシャッって、何勝手に撮ってんの?」
「あっ、ウンディーネさん!お久し振りです!」
「あ、あんた!あのストーカー男!」
「あの時はお世話になりました!」
「お世話って、いったいどういう・・・」
そのタキシード姿の男は、藍華の前を通りすぎると、灯里の前で立ち止まり、感激した表情で灯里の両手を握った。
「はひっ!」
「ぬな?」
「おおー」
「何が〈おおー〉なのよ、後輩ちゃん?」
「もしかして、灯里先輩もプロポーズだったんですか?」
「お世話になりましたっていうプロポーズが、いったいどこにあんの?」
「私がプロポーズの一番目なの?」
「ああ~~!わけがわからん!」
「専属カメラマン?」
「はい!今回の合同結婚式のカメラマンに任命していただきました!」
「ちょっと待って。そんなのさぁ、任命するとかしないとか、そもそも誰がそんな許可を出せるわけ?」
「そうですよ。そもそも結婚式を行うことが決まってるだけで、主催者がいるとか、そんな話はないはずですよ」
「アラトリアさんという方ですけど」
その場の三人が、一瞬凍ったかのように動きが止まった。
「後輩ちゃん」
「アリスちゃん」
「し、知りませんよ!そんな、ふたりして見ないでください!」
アリスは必死の表情で否定した。
「大丈夫です!任せておいて下さい!バッチリいいのを撮りますよ!」
藍華は横目でジロリと、その男を見た。
その前で、固く手を握る男の満面の笑顔を見ながら、灯里は苦笑していた。
「あんた!いつまで手を握ってるの!」