ARIA The PIACERE 3 その素敵な出会いの先に 作:neo venetiatti
サン・ジョルジョ・マッジョーレ教会では、三組のカップルの親族が集まったこともあって、盛大な結婚式が執り行われた。
三組の新郎新婦を教会へ運んだウンディーネということで、灯里たちも式に参列していた。
そして三組同時に、指輪の交換と、誓いの口づけを交わしたところで、結婚式はその日一番の盛り上がりを迎えていた。
神父様はというと、終始満足げな表情で喜びをあらわにしていた。
式を終えると、三組のカップルは大きな正面玄関の前に出てきた。
その場にいる大勢の関係者の前で、三人の花嫁のブーケが同時に大きく宙を舞った。
その瞬間、若い女性たちがそれにむらがって、教会前は大きな歓声がこだました。
そしてライスシャワーを浴びる中、三組のカップルは、もう一度ゴンドラに乗り込んだ。
三艘のゴンドラは、大きな祝福の声の中、再びネオ・ヴェネツィア本島へと舵を切った。
花嫁と花婿たちを乗せたゴンドラたちは、そこからしばらくの間、ネオ・ヴェネツィアをめぐる短い旅へと向かったのだった。
その頃には、今日の合同結婚式の情報が知れわたっていたようで、ゴンドラの姿が見えると、あちらこちらで歓声が沸き起こり、祝福の言葉が投げ掛けられた。
今日一日だけは、間違いなくこの三組の花嫁花婿たちが、ネオ・ヴェネツィアの主役だといえた。
藍華とアリスは、報告もかねて、それぞれの会社へと戻った。
灯里は、夕日が沈みかけた海を、ARIAカンパニーのデッキの手すりにもたれ、ぼんやり眺めていた。
「ぷいにゅい」
足元では、アリア社長が一緒に夕日を眺めていた。
「アリア社長?お留守番、お疲れ様でした」
「ぷいにゅい?」
「わたしですか?そうですねぇ~。ちょっと疲れたかもです」
灯里はアリア社長に、そう返事をすると、また海に視線を移した。
「でも、よかった。あんな経験、これからもあるかどうか、わからないですから」
確かに少し疲れてはいたが、灯里の表情は満足げだった。
ひとりのプリマ・ウンディーネとして、ひとつやり遂げた達成感を味わっていた。
今日という日が終わろうとしてる、そんな薄暗くなり始めた海を、灯里はいつまでも眺め続け、その場を動こうとしなかった。
「灯里ちゃん?」
その声に驚いて振り返った灯里は、デッキの角のところに立っているアリシアに、大きく目を見開いた。
「アリシアさん!どうしたんですか?」
「ごめんなさいね、灯里ちゃん。お疲れのところ、お邪魔しちゃって」
優しく微笑むアリシアは、そう言って灯里の横に並んだ。
「今日は本当にお疲れ様。大変だったでしょ?」
「はい。あんな経験はじめてだったので」
「それはそうね。私だってこんなこと、経験したことないわ」
「そうですよね」
「ある意味、ARIAカンパニーにとっても、これまでに経験したことのない一日だった。そういえるんじゃないかしら」
「ARIAカンパニーにとってですか?」
「そう。それを灯里ちゃんがもたらした。このARIAカンパニーにね」
「わたしが・・・」
「そういうこと」
アリシアは灯里の横で、嬉しそうに遠くの海を見つめた。
灯里はそのアリシアの横顔を、不思議そうに眺めていた。
「灯里ちゃん?」
「はい」
「もうひとつ、灯里ちゃんに伝えたい話があるの」
「なんでしょうか?」
「アサカさんのこと」
「アリシアさん?やっぱりアサカさんをご存知だったんですか?」
「昔、灯里ちゃんがシングルの時に、ゴンドラに乗ったことがあるって言ってらしたわね」
「はい、そうなんです!」
「でも本当は、それよりもっと前に会っていた。アンナさんが小さい頃にね」
「なんでそんなことまで知ってるんですか?」
灯里は大きく目を見開いた。
「実は先日お会いしたの。そのときにいろいろ聞かせていただいたというわけ」
「そうだったんですか」
灯里は納得したように、息を吐き出した。
「はへぇ~」
「あの、灯里ちゃん?」
「なんですか、アリシアさん?」
「わたし、実はメガネを忘れてきて・・・」
「そうだったんですか」
「うん、だからね?」
「はい?」
「そろそろ、灯り、点けない?」
「はひっ!す、すみません!」
「ありがとう」
灯里はアリシアの前に置いたカップに紅茶を注いだ。
そして、アリシアのテーブルの向かい側に座った。
「そんなに時間はとらせないから。明日もお仕事あるんでしょ?」
「はい。予約のお客様が来られる予定です」
「そうなの」
アリシアはカップの紅茶に口をつけると、そのカップをそっと戻した。
「アサカさんがね、灯里ちゃんに、何か特別なものを感じていたとおっしゃって」
「私にですか?」
「ええ。アンナさんの結婚が決まったとき、もしかしたら、灯里ちゃんとの出会いは、この日のためにあったんじゃないかって」
「そんなこと、おっしゃってたんですか?」
「そうなの」
「でもそれって、どういうことなんでしょうか?」
「それについては、アサカさん、はっきりとは話さなかったのだけど」
「はぁ」
「おそらく、なんだけど」
アリシアは頬杖をついて、灯里の顔を見つめた。
「若き日の自分と灯里ちゃんを、重ねていたんじゃないかって」
「わたしと?」
「そんな感じがしたの。アサカさん、以前、仕事に行き詰まったことがあったって。そんな時に限って、離れていたこのネオ・ヴェネツィアに、訪れる機会が巡って来るんだって」
灯里は神妙な表情で聞いていた。
「振り返ってみたら、どこかで私や灯里ちゃんに出会っていた。だから、このARIAカンパニーに、そして灯里ちゃんに、何か特別な縁を感じていたのかもしれない」
「アリシアさん」
「なに?」
「そんなふうに思っていただけるなんて、ほんとにうれしいです!」
「そうね」
「この仕事を選んで、本当によかったって思います!」
「あらあら」
アリシアは灯里の表情を見て、うれしそうにほほえんだ。
「そうだ。灯里ちゃん?あのジャム、今年も送られてきたかしら?」
「はい。アリシアさんが一番のお気に入りのやつですよね?」
「なんか、あつかましいわよね」
「そんなことありませんよ。いつでも来てください!」
席を立とうとした灯里に、アリシアは自分で取りに行くと言って、キッチンへと向かった。
「今日は灯里ちゃん、疲れたでしょうから・・・」
ジャムの瓶をひとつ、手に持って戻ってきたときには、灯里はすでに眠り込んでいた。
「灯里ちゃん、風邪を引くから・・・」
灯里は、アリシアの声にはまったく反応せずに、スヤスヤと眠っていた。
アリシアは、二階からブランケットを持って降りてくると、灯里の背中にそっとかけた。
そして、元の椅子に腰かけると、また頬杖をつき、灯里の寝顔をそっと眺め続けた。