ARIA The PIACERE 3 その素敵な出会いの先に   作:neo venetiatti

29 / 41
第29話

サン・ジョルジョ・マッジョーレ教会では、三組のカップルの親族が集まったこともあって、盛大な結婚式が執り行われた。

三組の新郎新婦を教会へ運んだウンディーネということで、灯里たちも式に参列していた。

そして三組同時に、指輪の交換と、誓いの口づけを交わしたところで、結婚式はその日一番の盛り上がりを迎えていた。

神父様はというと、終始満足げな表情で喜びをあらわにしていた。

式を終えると、三組のカップルは大きな正面玄関の前に出てきた。

その場にいる大勢の関係者の前で、三人の花嫁のブーケが同時に大きく宙を舞った。

その瞬間、若い女性たちがそれにむらがって、教会前は大きな歓声がこだました。

そしてライスシャワーを浴びる中、三組のカップルは、もう一度ゴンドラに乗り込んだ。

三艘のゴンドラは、大きな祝福の声の中、再びネオ・ヴェネツィア本島へと舵を切った。

花嫁と花婿たちを乗せたゴンドラたちは、そこからしばらくの間、ネオ・ヴェネツィアをめぐる短い旅へと向かったのだった。

その頃には、今日の合同結婚式の情報が知れわたっていたようで、ゴンドラの姿が見えると、あちらこちらで歓声が沸き起こり、祝福の言葉が投げ掛けられた。

今日一日だけは、間違いなくこの三組の花嫁花婿たちが、ネオ・ヴェネツィアの主役だといえた。

 

 

藍華とアリスは、報告もかねて、それぞれの会社へと戻った。

灯里は、夕日が沈みかけた海を、ARIAカンパニーのデッキの手すりにもたれ、ぼんやり眺めていた。

「ぷいにゅい」

足元では、アリア社長が一緒に夕日を眺めていた。

「アリア社長?お留守番、お疲れ様でした」

「ぷいにゅい?」

「わたしですか?そうですねぇ~。ちょっと疲れたかもです」

灯里はアリア社長に、そう返事をすると、また海に視線を移した。

「でも、よかった。あんな経験、これからもあるかどうか、わからないですから」

確かに少し疲れてはいたが、灯里の表情は満足げだった。

ひとりのプリマ・ウンディーネとして、ひとつやり遂げた達成感を味わっていた。

今日という日が終わろうとしてる、そんな薄暗くなり始めた海を、灯里はいつまでも眺め続け、その場を動こうとしなかった。

「灯里ちゃん?」

その声に驚いて振り返った灯里は、デッキの角のところに立っているアリシアに、大きく目を見開いた。

「アリシアさん!どうしたんですか?」

「ごめんなさいね、灯里ちゃん。お疲れのところ、お邪魔しちゃって」

優しく微笑むアリシアは、そう言って灯里の横に並んだ。

「今日は本当にお疲れ様。大変だったでしょ?」

「はい。あんな経験はじめてだったので」

「それはそうね。私だってこんなこと、経験したことないわ」

「そうですよね」

「ある意味、ARIAカンパニーにとっても、これまでに経験したことのない一日だった。そういえるんじゃないかしら」

「ARIAカンパニーにとってですか?」

「そう。それを灯里ちゃんがもたらした。このARIAカンパニーにね」

「わたしが・・・」

「そういうこと」

アリシアは灯里の横で、嬉しそうに遠くの海を見つめた。

灯里はそのアリシアの横顔を、不思議そうに眺めていた。

「灯里ちゃん?」

「はい」

「もうひとつ、灯里ちゃんに伝えたい話があるの」

「なんでしょうか?」

「アサカさんのこと」

「アリシアさん?やっぱりアサカさんをご存知だったんですか?」

「昔、灯里ちゃんがシングルの時に、ゴンドラに乗ったことがあるって言ってらしたわね」

「はい、そうなんです!」

「でも本当は、それよりもっと前に会っていた。アンナさんが小さい頃にね」

「なんでそんなことまで知ってるんですか?」

灯里は大きく目を見開いた。

「実は先日お会いしたの。そのときにいろいろ聞かせていただいたというわけ」

「そうだったんですか」

灯里は納得したように、息を吐き出した。

「はへぇ~」

「あの、灯里ちゃん?」

「なんですか、アリシアさん?」

「わたし、実はメガネを忘れてきて・・・」

「そうだったんですか」

「うん、だからね?」

「はい?」

「そろそろ、灯り、点けない?」

「はひっ!す、すみません!」

 

 

「ありがとう」

灯里はアリシアの前に置いたカップに紅茶を注いだ。

そして、アリシアのテーブルの向かい側に座った。

「そんなに時間はとらせないから。明日もお仕事あるんでしょ?」

「はい。予約のお客様が来られる予定です」

「そうなの」

アリシアはカップの紅茶に口をつけると、そのカップをそっと戻した。

「アサカさんがね、灯里ちゃんに、何か特別なものを感じていたとおっしゃって」

「私にですか?」

「ええ。アンナさんの結婚が決まったとき、もしかしたら、灯里ちゃんとの出会いは、この日のためにあったんじゃないかって」

「そんなこと、おっしゃってたんですか?」

「そうなの」

「でもそれって、どういうことなんでしょうか?」

「それについては、アサカさん、はっきりとは話さなかったのだけど」

「はぁ」

「おそらく、なんだけど」

アリシアは頬杖をついて、灯里の顔を見つめた。

「若き日の自分と灯里ちゃんを、重ねていたんじゃないかって」

「わたしと?」

「そんな感じがしたの。アサカさん、以前、仕事に行き詰まったことがあったって。そんな時に限って、離れていたこのネオ・ヴェネツィアに、訪れる機会が巡って来るんだって」

灯里は神妙な表情で聞いていた。

「振り返ってみたら、どこかで私や灯里ちゃんに出会っていた。だから、このARIAカンパニーに、そして灯里ちゃんに、何か特別な縁を感じていたのかもしれない」

「アリシアさん」

「なに?」

「そんなふうに思っていただけるなんて、ほんとにうれしいです!」

「そうね」

「この仕事を選んで、本当によかったって思います!」

「あらあら」

アリシアは灯里の表情を見て、うれしそうにほほえんだ。

「そうだ。灯里ちゃん?あのジャム、今年も送られてきたかしら?」

「はい。アリシアさんが一番のお気に入りのやつですよね?」

「なんか、あつかましいわよね」

「そんなことありませんよ。いつでも来てください!」

席を立とうとした灯里に、アリシアは自分で取りに行くと言って、キッチンへと向かった。

「今日は灯里ちゃん、疲れたでしょうから・・・」

ジャムの瓶をひとつ、手に持って戻ってきたときには、灯里はすでに眠り込んでいた。

「灯里ちゃん、風邪を引くから・・・」

灯里は、アリシアの声にはまったく反応せずに、スヤスヤと眠っていた。

アリシアは、二階からブランケットを持って降りてくると、灯里の背中にそっとかけた。

そして、元の椅子に腰かけると、また頬杖をつき、灯里の寝顔をそっと眺め続けた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。