ARIA The PIACERE 3 その素敵な出会いの先に 作:neo venetiatti
ネオ・ヴェネツィアには、少しの間だが、結婚ブームが到来していた。
サン・ジョルジョ・マッジョーレ教会でおこなわれた合同結婚式のニュースは、かなりの話題となり、結婚式をネオ・ヴェネツィアで、そしてサン・ジョルジョ・マッジョーレ教会で行いたいという問い合わせが、ツアー会社や水先案内店に相次いだ。
そのためか、各水先案内店は、例年以上の忙しさに追われていた。
そして、アサカの意向もあって、ARIAカンパニーにはこれまでにないほどの仕事が舞い込んでいた。
「アサカさ~ん!もう、ご祝儀は結構ですぅ~~」
急激に仕事が増えたことで、灯里は連日、朝から日が沈むまで忙しさに追われていた。
そんなある日、お客様を送り出した灯里は、店内に戻ると、テーブルの椅子に腰掛け、大きなため息をついた。
「今更だけど、アリシアさんて、こんなことをよく続けてたよねぇ」
思わずひとり呟いたところに、アリア社長がそばまでやって来た。
「ぷいにゅい」
「ホントにそうだよねぇ。どうしたら、あんなふうに毎日をすごせるのか。わたし、ちょっと自信なくしそうです」
アリア社長の優しさに癒されて、灯里は思わず笑顔になっていた。
「あの~、いらっしゃいますか?」
「はひっ!」
アリア社長と顔を見合わせていた灯里は、驚いて顔を上げた。
カウンターの外には、中を覗き込むようにして、藍華が言うところの、あのストーカー男が立っていた。
「ウンディーネさん、先日はどうも!」
「どうしたんですか?」
「一度、ちゃんとお礼方々、挨拶しておかなくちゃって思ってたんですよ!」
「そんなご丁寧に、挨拶だなんて」
「それに、ウンディーネさんの顔も見たかったしネ!」
そう言って灯里にウィンクしてみせた。
「はぁ~それは~どうもですぅ~~」
「ハハハハ」
灯里がどうリアクションしていいか戸惑っている姿をみて、男はうれしそうに笑った。
「それと、一応これをを渡しておこうと思って」
男は一枚の名刺を灯里に手渡した。
「アマント、さん?」
「はい。よかったら、覚えておいてください。また来ますから」
「はい、わかりました。でも、ということは・・・」
「今日、ネオ・ヴェネツィアを離れます」
「そうだったんですか」
「ひとつの街にここまで長くいたのは、このネオ・ヴェネツィアが初めてです。だから少し離れがたい気持ちではありますが」
「これからどこへ行かれるのですか?」
「まだ、何も決めてません。ただ、アクアのどこかだけは確かです」
そのアマントと名乗る男は、海の方を振り返って、眩しさに目を細めながらそう言った。
「ありがとう、ウンディーネさん。あなたに会えて本当に良かった」
アマントは、灯里に優しい眼差しを向けた。
その瞳には、離れがたい気持ちと旅立ちの決意のようなものが溢れていた。
「それじゃあ、また」
「はい。アマントさん、いつでもお待ちしています!」
アマントは、その灯里の言葉に何か答えようとしたが、ニッコリと笑顔だけを残して立ち去った。
その後、水先案内業界にひとつのトピックスが流れた。
新進気鋭の写真家が、ネオ・ヴェネツィアで働くウンディーネたちに焦点をあてた作品を発表した。
この作品が発表されるやいなや、アクアのみならず、マンホームでも大きな話題となっていた。
「つまり、あのストーカー男がそうだっていうの?」
「藍華ちゃん、アマントさんだよ」
藍華は、記事となった新聞を見ながら、少々納得がいかないといった表情になっていた。
「人ってわからないものねぇ」
「そうだねぇ」
「それでナニ?灯里には、そういうのを送ってきたってわけ?」
灯里の手元には、一通の封筒が届いていた。
中には、笑顔いっぱいの灯里の写真が一枚入っていた。
そして、その裏にはこう綴られていた。
「ネオ・ヴェネツィアで見つけた宝物 それはあなたの笑顔」
灯里はそのことばを声に出して読んでみた。
「あんたさぁ、よくもまあ、声に出して読めるわよね」
藍華は呆れた顔で灯里を見た。
「だって、そう書いてあるもん」
「そう書いてるからって」
灯里は、その写真を見ながら、うれしそうにほほえんだ。
「でもさぁ、そんな人だったのなら、誰か知らなかったの?」
「なんかねぇ、アリスちゃんが言ってたんだけど、アラトリアさんは知ってたんじゃないかって」
「あの小生意気なお嬢様が?」
「うん。もしかしたら、作品として発表するのも、アラトリアさんが勧めたかもって言ってた」
「だから、あの合同結婚式のとき、専属カメラマンとかに任命されたって言ってたわけなの?」
藍華は腕を組んで、眉間にシワを寄せていた
「あのお嬢様は、いったいなんなの?」
「それで、結局のところ、どうするおつもりなんですか?」
アリスは、とにかく困り果てた顔のアムネジアにたずねた。
「それが、あの~、私もあまり詳しいことまでは知らされておりませんので」
「そうなんですか。そういうことなんですね」
「ア、アリス様~」
「ヘンな声、出さないでください!」
「申し訳ございません」
アムネジアは消え入りそうな声になっていた。
「とにかく、もうウンディーネは諦めた、ということでいいんですね?」
「諦めたと言っていいのかわかりませんが、先ほどもお答えしました通りですね、ブライダルの方にご興味を抱かれたというわけで」
「ブライダル」
アリスは、周りの人が思わず振り返るほどのため息をついた。
「はぁ~~」
オレンジぷらねっとの廊下の隅で、二人は話していた。
その様子は、誰が見ても、明らかに怪しく思える組合せと言えた。
特にアムネジアは、辺りをキョロキョロ見回していて、どう見ても不審者にしか見えない状況だった。
「あの~、それで、アリス様?」
「なんですか?」
「私は今後どのようにすればよろしいのでしょうか?」
「どうもこうも、アラトリアさんが面倒を見るんじゃないんですか?」
「アリス様~~~」
「ちょっと、その声!変に思われるので、やめてください!」
「私は、これまでも、そして、これからも、オレンジぷらねっとの社員として」
「好きにすればいいじゃないですか?私にどうこうできる権限なんて、そもそもありませんから」
「アリス様~~!一生ついて行きますぅ~~!」
「その声!」