ARIA The PIACERE 3 その素敵な出会いの先に   作:neo venetiatti

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第32話

「晃さーん!」

「おお、灯里じゃないか!」

サン・マルコ広場近くの船着き場で、お客様を見送っていた灯里は、後輩たちに指導している晃に遭遇した。

「元気か?最近、特に忙しそうだってな!」

「はい、お陰さまで」

「そうか。それはいいことだ」

「後輩の皆さんのご指導ですか?」

「まあ、そんなところだ。でも今日はこれで終了だ」

「そうですか」

「なに?どうした?なんかあったか?」

「う~ん。あるような、ないような・・・」

「なんだ、それ」

「あっ、いえ、エヘヘヘ」

灯里は少し困惑したような顔をしていた。

晃はその灯里の表情を見て、こう声をかけた。

「このあと、まだ仕事か?」

「いえ、今日の予定はこれで終わりなんですけど」

「そうか。じゃあちょっと、付き合ってくれないか?」

「私とですか?」

「そうだ」

陽が傾き始めた船着き場で、晃はニッコリと笑顔で応えた。

 

晃と灯里は、どこという目的があるわけでもなく、サン・マルコ広場周辺の小路を歩いていた。

夕暮れのせいか、なんとなく、すれ違う人たちが足早に通りすぎてゆくように感じる。

「あのー、晃さん?」

「なんだ?」

「いったいどちらへ行かれるのですか?」

「特に、目的地はない」

「ええー?どういうことなんですか?」

「たまには、こんなふうにブラっとしてみるのも、いいんじゃないか?」

「そうですねぇ・・・」

「嫌か?」

「あっ、いえ、そんな、嫌なことなんて、ありません」

「それなら、いいな?」

「はい・・・」

「ハハハハ」

「晃さん」

「すまんすまん。そんなに時間を取らせるつもりはないから。安心してくれ」

 

「最近、藍華たちと会ってるか?」

「いえ、それが最近はみんな忙しくて」

「そうだろうな」

晃は少し笑みをたたえながら、前を向いたまま歩き続けた。

「私たちもそうだった。アリシアとアテナ、そして私。いつも三人揃ってバカ言い合って、よくつるんでたけど、ある時期から会わなくなった。いや、会えなくなった。の方が正解だな」

「はぁ」

「忙しいということは、それだけより期待されるようになったということだ。それは、プリマとして誇らしいことだ。そう思わないか?」

「そう、思います」

「それにだ」

晃は立ち止まった。

「それに、以前と同じようにしてるつもりでも、どこか違うってことも感じていた」

「お三人が、ということですか?」

「そうだ。それぞれに、そう感じていたと思う。でも、それは悲しいことじゃないんだ。そうやって、それぞれの道を歩きだしたってことだ」

そう言って、晃は再び歩き出した。

「灯里?」

「はい」

「まだ、決心がつかないんだって?」

「ああ、はい、そうなんですが・・・」

「藍華が時々そう言ってるんだ」

「藍華ちゃん」

「無理することはないと思う。だが、いつかはやってくることではあると思う」

「はい。それは理解しているつもりです」

「そうか。それならそれでいい」

二人はいつしかサン・マルコ広場に戻っていた。

夕陽に染まる広場には、燃えるように大鐘楼がその姿を見せていた。

晃はその大鐘楼を、眩しそうに見上げた。

そして、両手を腰に置いて、懐かしそうに笑みを浮かべた。

「今の時間は今しかない。今思っていることは、今の自分だからな」

「それって・・・」

灯里は、呟くように言った晃の言葉の真意を、必死に汲み取ろうとしていた。

「先日、藍華が休暇をくれないかって頼んできた」

「藍華ちゃんが?」

「そうだ。支店はどうするんだって聞いたら、なんとかするって言っていた。それなら自分で決めればいいって話したんだ」

「そんなことを」

灯里は、晃の言葉を聞いて、ハッと何かに気付いた。

「藍華ちゃん、気晴らしにどこかに行こうって誘ってきたんです」

「そうか。藍華、そんなこと言ってたんだ。あいつらしいな」

「でも本当はわざわざ時間を作って・・・」

灯里は目を潤ませていた。

そして、その目元が夕陽に輝いていた。

「はぁー」

だが、その横で晃が大きなため息をついた。

「晃さん?」

「あのなぁ。どうしてお前たちは、そうやって手間がかかるんだ?」

「お前たち?」

「そうだ!アリシアも!そして、灯里!お前もだ!」

「はひっ!」

晃は、もう一度夕陽に染まる大鐘楼を見上げ、ゆっくりと息を吐いた。

そして、灯里の方に向くと、こう言った。

「どこへ行くのか知らないが、思う存分楽しんで来い!」

「はい!」

灯里は、その笑顔の先輩に、嬉しさと頼もしさと、ちょっぴりの恥ずかしさを感じていた。

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