ARIA The PIACERE 3 その素敵な出会いの先に 作:neo venetiatti
「晃さーん!」
「おお、灯里じゃないか!」
サン・マルコ広場近くの船着き場で、お客様を見送っていた灯里は、後輩たちに指導している晃に遭遇した。
「元気か?最近、特に忙しそうだってな!」
「はい、お陰さまで」
「そうか。それはいいことだ」
「後輩の皆さんのご指導ですか?」
「まあ、そんなところだ。でも今日はこれで終了だ」
「そうですか」
「なに?どうした?なんかあったか?」
「う~ん。あるような、ないような・・・」
「なんだ、それ」
「あっ、いえ、エヘヘヘ」
灯里は少し困惑したような顔をしていた。
晃はその灯里の表情を見て、こう声をかけた。
「このあと、まだ仕事か?」
「いえ、今日の予定はこれで終わりなんですけど」
「そうか。じゃあちょっと、付き合ってくれないか?」
「私とですか?」
「そうだ」
陽が傾き始めた船着き場で、晃はニッコリと笑顔で応えた。
晃と灯里は、どこという目的があるわけでもなく、サン・マルコ広場周辺の小路を歩いていた。
夕暮れのせいか、なんとなく、すれ違う人たちが足早に通りすぎてゆくように感じる。
「あのー、晃さん?」
「なんだ?」
「いったいどちらへ行かれるのですか?」
「特に、目的地はない」
「ええー?どういうことなんですか?」
「たまには、こんなふうにブラっとしてみるのも、いいんじゃないか?」
「そうですねぇ・・・」
「嫌か?」
「あっ、いえ、そんな、嫌なことなんて、ありません」
「それなら、いいな?」
「はい・・・」
「ハハハハ」
「晃さん」
「すまんすまん。そんなに時間を取らせるつもりはないから。安心してくれ」
「最近、藍華たちと会ってるか?」
「いえ、それが最近はみんな忙しくて」
「そうだろうな」
晃は少し笑みをたたえながら、前を向いたまま歩き続けた。
「私たちもそうだった。アリシアとアテナ、そして私。いつも三人揃ってバカ言い合って、よくつるんでたけど、ある時期から会わなくなった。いや、会えなくなった。の方が正解だな」
「はぁ」
「忙しいということは、それだけより期待されるようになったということだ。それは、プリマとして誇らしいことだ。そう思わないか?」
「そう、思います」
「それにだ」
晃は立ち止まった。
「それに、以前と同じようにしてるつもりでも、どこか違うってことも感じていた」
「お三人が、ということですか?」
「そうだ。それぞれに、そう感じていたと思う。でも、それは悲しいことじゃないんだ。そうやって、それぞれの道を歩きだしたってことだ」
そう言って、晃は再び歩き出した。
「灯里?」
「はい」
「まだ、決心がつかないんだって?」
「ああ、はい、そうなんですが・・・」
「藍華が時々そう言ってるんだ」
「藍華ちゃん」
「無理することはないと思う。だが、いつかはやってくることではあると思う」
「はい。それは理解しているつもりです」
「そうか。それならそれでいい」
二人はいつしかサン・マルコ広場に戻っていた。
夕陽に染まる広場には、燃えるように大鐘楼がその姿を見せていた。
晃はその大鐘楼を、眩しそうに見上げた。
そして、両手を腰に置いて、懐かしそうに笑みを浮かべた。
「今の時間は今しかない。今思っていることは、今の自分だからな」
「それって・・・」
灯里は、呟くように言った晃の言葉の真意を、必死に汲み取ろうとしていた。
「先日、藍華が休暇をくれないかって頼んできた」
「藍華ちゃんが?」
「そうだ。支店はどうするんだって聞いたら、なんとかするって言っていた。それなら自分で決めればいいって話したんだ」
「そんなことを」
灯里は、晃の言葉を聞いて、ハッと何かに気付いた。
「藍華ちゃん、気晴らしにどこかに行こうって誘ってきたんです」
「そうか。藍華、そんなこと言ってたんだ。あいつらしいな」
「でも本当はわざわざ時間を作って・・・」
灯里は目を潤ませていた。
そして、その目元が夕陽に輝いていた。
「はぁー」
だが、その横で晃が大きなため息をついた。
「晃さん?」
「あのなぁ。どうしてお前たちは、そうやって手間がかかるんだ?」
「お前たち?」
「そうだ!アリシアも!そして、灯里!お前もだ!」
「はひっ!」
晃は、もう一度夕陽に染まる大鐘楼を見上げ、ゆっくりと息を吐いた。
そして、灯里の方に向くと、こう言った。
「どこへ行くのか知らないが、思う存分楽しんで来い!」
「はい!」
灯里は、その笑顔の先輩に、嬉しさと頼もしさと、ちょっぴりの恥ずかしさを感じていた。