ARIA The PIACERE 3 その素敵な出会いの先に 作:neo venetiatti
「後輩ちゃん、決まった?」
「いえ、なんにも決まってません」
「じゃあ、どうすんの?」
「そんなの、私に聞かれても困ります」
「はぁ~」
藍華とアリスは、ふたりそれぞれのゴンドラの上に立っていた。
ゴンドラを止め、距離を縮めると、改めて話し始めた。
「だって藍華先輩?私、言いましたよね?」
「なんか言った?」
「ちゃんと言いました!」
「わかってるわよ!そんなに言わなくても!」
「じゃあ、なんでこんなことになったんですか?」
「それはなんというか・・・」
藍華は腰に手を当て、アリスはだらりと手を下げて、ふたりして途方に暮れていた。
ふたりはARIAカンパニーまでゴンドラで行き、そこで合流するつもりだった。
だが、前日までに、息抜きのための小旅行の行き先を考えるつもりでいたが、忙しさもあって、結局当日の朝を迎えてしまったというわけだった。
「それに、これは灯里先輩を元気付けるためでもあるから、サプライズにしようって、藍華先輩が急にハードルを上げたんですからね。私はあくまでも、行けるところで考えましょうって言ったんですから」
「わかってるわよ!そう何度も言わなくてもいいでしょ!」
「ちょっと、藍華先輩!朝から声が大きいですよ!」
藍華は思わず手で口をふさいでいた。
岸では屋台の準備を始めているおじさんが、不思議そうな顔で藍華たちの様子を見ていた。
「それで、どうするの?」
灯里は、カウンターの中からデッキに立っている藍華とアリスを、キョトンと眺めていた。
ふたりは気まずそうに、灯里には目を合わせないようにしていた。
「うん、そうねぇ」
「そうですねぇ」
「なに?ふたりしてヘンな感じなんだけど」
「あのね、とりえず、その辺をブラッとしながらさぁ・・・」
「考えようかなんてですね・・・」
「はぁ」
「あははは」
「はははは。今日はいい天気だよね」
「つまり、なに?」
観念したように、藍華が大きなため息をついた。
「ごめん、灯里。実は話してた小旅行の件なんだけど、まだなんにも決まってないの」
「なんだ。そんなこと気にしてたの?そんなの別にどこでもいいのに」
「どこでもは良くないよ。だって、灯里を誘ったのは私の方だし」
「そんなに気をつかわないで。ほんとにどこでもいいんだから」
「でも灯里先輩は、三人の思い出の場所がいいって言ってたとか」
「そうだねぇ。でも三人でこれから行くんでしょ?そしたら、それが思い出の場所になるんじゃない?」
「先輩、なんかいい感じです」
「恥ずかしいセリフ・・・」
「藍華先輩?途中で止まってますけど」
「もういいの!」
三人は、ARIAカンパニーにある予備の黒いゴンドラに乗り込んだ。
「このゴンドラに乗るのも久し振りですね」
「そうだねぇー」
「ぷいにゅい!」
アリア社長が灯里の膝の上で笑顔いっぱいになっていた。
「いつものプリマ用のゴンドラだと目立つからね」
「藍華先輩、いいアイデアです」
「そう?」
藍華はオールを手にすると、グイっと一掻きした。
隣あって座っていた灯里とアリスは、その勢いで背もたれに軽く押し付けられていた。
床に降りていたアリア社長は、そのままスライドしていた。
「ぷ~い~にゅ~い~」
そして、順調に進み出したゴンドラは、岸を横目にゆっくりと進んでゆく。
「こんなにもゆったりした気分でいられるのって、どれくらいぶりかしらね」
「そうだねぇ~」
「やはり、みんながプリマになる前くらいでしょうか?」
「確かにそれくらいかもね」
「そうだねぇ~」
「鼻の長い動物は?」
「そうだねぇ~」
「象でしょ!」
「そうだねぇ~」
「牛の鳴き声は?」
「もうだねぇ~」
「ちゃんと答えてます」
「じゃあ、オールをさばくことは?」
「そうだ、ねぇ~」
「もうやめよう」
「そうですね」
「そうだねぇ~」
ゴンドラは、少し狭くなった運河へと入っていった。
「あんまり賑やかなところじゃなくて、のんびりできるところの方がいいと思うんだけど」
「私もそれでいいと思う」
「私も灯里先輩に同感です」
「じゃあ少しこのまま行ってみるわね」
するとゴンドラは、より一層狭いところへと入っていった。
「あれ?珍しい取り合わせだねぇ」
三人がよく通っていたパン屋のマスターが岸を歩いていた。
「お久し振りです!」
「今日はなんなの?休み?」
「はい!気ままな小旅行なんです」
「それはいいねぇ。うらやましいよ。そういえば灯里ちゃん?こないだの試作品の味、どうだった?」
「はい!とってもおいしかったです!」
「それは良かった!」
「えっ、ちょっと待って!なんで灯里だけ?そんなのズルい~!」
「先輩だけ抜け駆けなんて、許せません!」
「だってぇ~たまたまだったんだも~ん」
「ハハハハ。それなら、みんなでまた来ればいいんじゃないの?」
「それができれば苦労しないんですけどねぇ」
「ほんとです」
「そんなに忙しいの?」
「そうですねぇ。お陰様で」
「さすが、ネオ三大妖精の異名は伊達じゃないんだ」
「な、なんですか、それは?」
「本人さんたちが知らないの?あの水の三大妖精の教え子たちだって噂になってるよ」
「灯里、知ってた?」
「知らないよ」
「後輩ちゃんは?」
「私も知りませんでした」
三人はお互いの顔を見ながら、唖然としていた。
「ところで、その小旅行の目的地はどこなの?」
「特に決めてはいないですけど」
「そうなんだ。なんか三人の姿を見てると、宝探しでもやってるのかと思った」
「宝探し・・・」
三人同時にその言葉に反応していた。そしてお互い顔を見合わせた。
「それだ!」
「それです!」
「それだね!」
「ぷいぷい!」
パン屋のマスターは、キョトンと目を丸くしていた。