ARIA The PIACERE 3 その素敵な出会いの先に 作:neo venetiatti
「確かこの辺でしたよね」
オールを手にしていたアリスは、その先を確かめるように狭い運河を進んでいた。
「後輩ちゃんがわかるっていうから、当てにしてんだからね」
藍華は怪訝な表情で運河の先を見ていた。
「あっ、あれじゃない?」
灯里が指差した先には、運河に面した建物の壁の中にマリア像が立っていた。
「確か、あの足元に・・・」
藍華は、ゴンドラがそのマリア像に近づくと、足元の台座のところを覗き込んだ。
「どうですか?」
「これを開けたのよね」
藍華は、その台座の横にある小さな扉を開けた。
「あった」
「あったの?」
「やりましたね」
そこから小さな宝箱のような木箱を取り出した藍華は、ふぅーとほこりを軽く吹き飛ばした。
「ゲホゲホ」
「藍華ちゃん、大丈夫?」
「ダイジョウブ」
「鼻つまんでる」
「それはいいから」
アリスは心配そうに後ろから覗き込んだ。
「中はどうですか?」
藍華が箱を開けると、中には紙切れが一枚入っていた。
「まだあった!」
「ほんとだぁー」
「でっかい驚きです」
その紙を広げると、こう書かれていた。
〈この地図を手に入れし者よ。我の言葉に従いて、汝が宝を手に入れよ〉
藍華がそれを読み上げた。
「そんな文章だった?」
灯里はその言葉を聞いて、不思議そうな顔をしていた。
「次の場所を知らせるキーワードみたいなのがありませんか?」
アリスが問いかけた。
〈長靴カッレで高らかに 元気に足踏みひと休み〉
「そんな感じだっけ?」
「それですね」
藍華の読み上げた言葉に、アリスは、フンと自慢げに鼻から息を吐いた。
三人はゴンドラを下りると、建物が並ぶ小路を進んだ。
「ねえ、ほんとに大丈夫なの?」
藍華は心配そうにアリスにたずねた。
「一度行ったことがあるわけですから、だいたいはわかると思います」
マリア像の前で地図の内容を確認した三人は、地図を宝箱の中に入れ、元の扉の中に戻していた。
「アリスちゃんて、散歩の達人さんだもんね」
「そうでございますか!」
「そんなことを言っていた時期もあったような・・・・ありました」
長靴を模した看板が店先にあった。
「ということは」
「灯里ぃ?あんたの出番よ」
「えっ?」
「先輩!そこです!」
「ああ~そういうことね」
クルッポ クルッポ クルッポ
灯里は、建物の壁の穴の中にいる鳩に話しかけながら、ゆっくりと近づいて行った。
「そこだけは真似できないわ。まあ、真似したいと思ってる訳じゃないけど」
藍華は呆れ顔でその様子を眺めていた。
「あった!」
「でっかいすごいです」
「箱は小さいけどね」
灯里は、鳩のそばにある箱をそっと取り出した。
〈小さなカンポで待っている 小さな窓辺の魔法のランプ〉
「魔法のランプ?」
「ああ、わかりました」
「後輩ちゃん、そんなんでわかるの?」
三人は、またもや宝箱を元に戻し、その次の場所へと向かった。
狭い小路を抜けると、小さい広場に出た。
中央には噴水があり、その周辺では、大道芸人がパフォーマンスを披露していた。
「ほらぁー!藍華ちゃーん!見て見て!」
「ぷいにゅーい!」
「ちょっと、あんたたち!宝探しはどうすんの?」
そんなふたりと一匹を横目に、アリスは淡々と周辺を見渡していた。
「まるでデジャビュ、ですね」
やかんを型どった看板の金物屋。
アリスは、その場にすっとしゃがみこむと、床下をのぞき込んだ。
「ありました」
戻ってきた灯里と藍華は、アリスの持っている箱に気がついた。
「なんだ。もう見つけたの?」
「アリスちゃん、すごいねぇー」
「ばいちゃ!」
〈カフェの香りに影追えば 光り眩しい石一つ〉
「ああ、これね。さすがにこれは、わたしでもわかるわ」
「そうだねぇー。三人であそこに行くのも久し振りだよねぇー」
「先輩方、このへんで少し休憩にしませんか?」
サン・マルコ広場は、今日も観光客で賑わっていた。
テーブルに陣取った三人と一匹は、当然のようにカフェ・ラテを注文した。
アリア社長にはホットミルクを。
「ぷいぷいぷいー!」
「やっぱりここで飲むカフェ・ラテは最高ねー」
「ホントだねぇー」
「ほっとします」
灯里がひとりクスクス笑っていた。
「何がおかしいのですか、灯里先輩?」
「だって・・・」
「ああ、はいはい」
「なんなんですか、藍華先輩?」
「灯里本人に聞いて」
「だってアリスちゃん、ホット頼んでほっとするって」
それを聞いたアリスは顔を真っ赤にしていた。
「なっ、何を言ってるんですか?私はそんなダジャレなんか言った覚えありません!」
「別にいいんじゃないの?たまには、そんなオジサン臭いのも」
藍華はそう言って、ニヤリとアリスの方を見た。
「違います!偶然ですから!」
「いいからいいから」
「もう!」
アリスは、納得いかないといった表情で、ほっぺを膨らませていた。
「賑やかでよろしいですな」
大柄の紳士が、テーブルのそばに来て、声をかけた。
「店長さん!」
カフェ・フローリアンの店長が、ハットの縁を持って、軽く会釈した。
「みなさんが一同に揃うとは、最近では珍しいことですな」
「そうなんです。みんな忙しくて、最近は全然来れてなかったです」
「お忙しいとはよろしいですな。お噂はかねがね聞かせていただいておりますよ」
「お噂?」
「水のネオ三大妖精とは、お三人さんのことですね。ご来店頂いて誠に光栄です」
「またそれ?」
「ぷいにゅーい!」
「アリア社長はそこには入ってないんだけど」
「ぷいにゅ?」
「本日はお休みですか?」
「はい、そうなんです。ちょっと、気晴らしの小旅行に行こうってなって」
「なるほど。それはよろしいですな。忙しいのはいいことですが、そればかりでは息がつまります」
「そうですね」
灯里は店長ににっこりとほほえんで返した。
「で、どこへ行かれるのですか?」
「ああ、それはですね、なんて言ったらいいか・・・」
「まあ、この辺をブラっとしようかなんてことになりまして」
いいずらそうにしている灯里の横で、藍華はあっさりと答えた。
「ぶらっと、ですか」
「その実、宝探しなんですけど」
アリスが付け足した。
「宝探しと」
店長は何かを思い出したような表情になった。
「確か以前にもそのようなことをおっしゃってましたね?」
「はい、店長さん!覚えていてくれたんですか?」
灯里は嬉しそうに笑顔満面だった。
「覚えています。最後には、幸せそうな笑顔で帰ってこられた。だからわたくしが、幸せの達人と申し上げました」
「はい!サン・マルコ広場の達人さんからです!」
「そうでしたな」
灯里と店長は、嬉しそうに笑いあっていた。
すると、周りの様子があわただしくなり始めた。
「うわっと」
「あれ~」
「ばばぁーい!」
「影追い、ですね」
灯里たちはそれぞれの椅子を持ち、店長はテーブルを抱えて、従業員や他の客たちと一緒に、大鐘楼の影を追った。
再びテーブルについたところで、アリスが何かに気づいたようだった。
「先輩方、あれを見てください!」
「何、後輩ちゃん?」
石畳の中のひとつの石だけが、キラキラ輝いていた。
「またもや、デジャビュ」
「でじゃびゅ?」
「ぷいにゅ?」
三人は、その輝く石の蓋を持ち上げた。
「ちゃんと」
「あります」
「はへぇ~」
〈殺人カッレに潜むのは ピカピカ目玉の真っくろ黒猫〉
三人は文面を確認すると、またまた箱を戻そうとした。
「あっ、ちょっと待って!」
そのとき、藍華がそれを止めた。
「どうしたの、藍華ちゃん!」
「ほら、底のところ、よく見て」
箱をもう一度持ち上げ、よーく目を凝らして、三人は中を覗き込んだ。
「箱を置いた跡が、明らかに増えています」
「そうよ。あれからまだ、この宝探しは続いていたということよ!」
「はひぃー」
箱の底の跡形が、いくつもいくつも残っていた。
消えかけのものや新しいもの。
アリスのいう通り、その数は、以前見たときよりも明らかに増えているように見えた。
「宝探しがまだ続いてたなんて、なんて素敵なことなんだろう。それはまるで、この
ネオ・ヴェネツィアがこっそりと素敵な贈り物を、ちゃんと用意して待っていてくれたみたいだねぇ~」
「恥ずかしいセリフ禁止ー!」
「はひぃ!」
「こっそりなの?ちゃんとなの?どっちなの?」
「エヘヘヘ」
カフェ・フローリアンの店長に別れを告げると、その殺人カッレを目指した。
灯里たちは、なんとなく身を寄せあいながら、そのカッレを進んだ。
「やっぱりいつ来ても、なんか不気味よね」
周りをキョロキョロしながら進むと、あっけなく到着した。
黒猫の置物の足元に、当たり前のように宝箱が置いてある。
「あるねぇ」
「そうだねぇー」
「ありますね」
そこからは次の箱また次の箱と、箱の中の地図の指し示す通りに進んで行った。
だが、途中からその先がどこに繋がっているかを、三人は思い出していた。
それでも、そのまま順番に進んで行った。
いつの間にか三人は、宝箱がまだ存在しているだろうかと、確かめたい気持ちになっていた。
〈喜劇カッレを下ってみれば そこはお空の別世界〉
地図の中身を確かめると、箱に戻し、ゆっくりと蓋を閉じた。
三人は、その小さな宝箱を、少しの間、感慨深く眺めていた。
「これで最後ね」
「そのはずです」
「そうだね」
灯里は、その箱をそっと元の場所に戻した。