ARIA The PIACERE 3 その素敵な出会いの先に   作:neo venetiatti

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第38話

GOAL!

 

その壁に大きく描かれた文字は、以前あったときとは違い、色とりどりのカラフルなものへと変わっていた。

大胆に大きく、だが、どこかしら女の子らしい、かわいらしい仕上がりになっていた。

「灯里ぃー!もっと右ぃー!後輩ちゃん!そこもうちょっと大胆に!」

梯子を交互に登り、ああだこうだと言い合いながら、三人はなんとか描き上げた。

その下は、アリスが覚えていると言うことで、彼女が一気に描き上げることになった。

 

Now you get a treasure in your heart.

 

「結構いいんじゃない?」

「上手くいきましたね」

「今、あなたの心に宝物が刻まれました」

灯里は、その言葉をポツリとつぶやいた。

三人は、ほっぺや額にペンキの後がついた顔で、誇らしげにその壁を見上げた。

「でもアリスちゃん、よく覚えてたねぇー」

「まあ、それなりに」

「あんた、まさか、一人でこっそり来てたんじゃないでしょうねぇ?」

「そんなこと、してません!」

充実感に浸っていた三人は、しばらくそこから離れられそうになかった。

「でもよかったね。これで、またちゃんとゴールにたどり着けるね」

「そうねぇ。でもこの風景をみれば、わかるんじゃない?ここがゴールだって」

「藍華先輩、結構メルヘンですね」

「なっ、メルヘンって何よ!」

 

椅子の上ですっかり眠り込んでいた管理人の老人を起こさないように、三人はこっそりと茂みの向こうのドアの中に、ペンキの缶とはけ、そして梯子を戻した。

途中、梯子が茂みに引っ掛かったときは、さすがに起こしてしまったかと思ったが、なんとかうまく切り抜けた。

「なんか、普通の部屋だったねぇー」

「あんたはいったい、何を期待してたの?」

「異世界への入り口ですよね」

「アリスちゃん?その辺のところをもうちょっと詳しく教えてくれない?」

「ぷいにゅーい?」

「そんなの、ないの!」

「ちょっと藍華先輩!おじいさんが起きますよ!」

「ぬな!」

三人は足音を立てないように、ゆっくりと元来た階段を戻ろうとした。

「もう満足か?」

「はひっ!」

老人はその文字を、壁を見上げながらじっくりと眺めていた。

「これはいつまで残しておけばいいのじゃ?」

灯里は、すまなさそうに上目遣いで答えた。

「できれば、ずっと・・・」

その老人は、三人が描いた文字を見上げながら言った。

「わかった。ずっとじゃな!」

三人は驚いて老人の顔を見た。

「はぁー」

「いいんですか?」

「でっかい男気です」

老人はその場で、大きく足を広げ、腰に両手を当て、高らかに笑い声を上げた。

 

 

灯里、藍華、アリスは、帰り道を急いだ。

夕日に染まるネオ・ヴェネツィアの街は、オレンジ色一色に染まっていた。

駆けて行く子供たち、どこからか漂う夕げの匂い、洗濯物を急いで取り込むベランダの女性。そして、そして・・・

三人は、サン・マルコ広場を抜けて行こうと声を掛け合った。

大鐘楼の大きな影が広場に横たわっている。

オープンカフェの片付けに追われている店員たちのそばで、それとは別に、いくつかの影が見えた。

大柄の男性と三人の女性。

ひとりは間違いなくウンディーネの姿をしている。

影となっている姿たちが、灯里たちに気がついて、合図を送っていた。

先頭を歩いていた藍華が、そこへ近づくにつれ、その姿に驚いていた。

「なんでこんなところに・・・しかも、三人で」

後ろにいた灯里、アリスも気がついた。

「アリシアさん!それに晃さん!」

「どうしてアテナ先輩まで・・・」

三人は、驚きのあまり、その場で立ち尽くしていた。

「あらあら、三人お揃いでどこへ行ってたの?」

「ああそうか。今日がその日だったのか」

「ええー!晃ちゃん、何か知ってるのぉー?」

小脇に書類を抱えたアリシア、いつものユニフォーム姿の晃、改まったようにフォーマルな出で立ちのアテナ。

そしてそのそばには、カフェ・フローリアンの店長が立っていた。

「でもどうしたの?みんなの顔、それペンキ?」

「なんだなんだ?いったい何があったんだ?」

「なんか、みんな子供みたい。かわいい!」

アリシアたちは灯里たちの姿をみて、それぞれに感想を口にした。

「ああ~これはですね、宝探しをしていたらこんなことになりまして・・・」

「なに?宝探しって」

「見つかりましたかな?」

アリシアの横でカフェ・フローリアンの店長が灯里にたずねた。

「はい!ネオ・ヴェネツィアには、まだまだこんなにも幸せの宝物があるんだってわかりました!」

「そうですか。それはよかったです」

「あらあらうふふ。是非聞かせてほしいわね」

「恥ずかしいセリフ・・・」

そのそばで藍華が、突っ込みかけていた。

「ん?藍華、どうした?何かあるのか?」

「いえ。特にはないような、あるような・・・」

「なんだ。煮え切らないやつだなぁ」

逆に晃に突っ込まれて、藍華はタジタジになっていた。

「アテナ先輩?今日はおめかしさんですけど」

アリスは、さっきから気になっていたアテナのその姿のことをたずねた。

「ああ、これ?今日はねぇ、アリシアちゃんと晃ちゃんとデートだったの!」

「ええー!」

灯里たち三人は、一斉に声をあげた。

「もう、アテナちゃんたら。みんな驚いてるわよ」

「違うんですか?」

「違うわよ」

「アテナ先輩?なんなんですか、それ」

「今日はね、みんなで久し振りにお茶しに来たの!」

「はぁ?」

「アテナさん、うそバレバレのようです」

藍華がすかさず鋭いツッコミを入れた。

「ええ~バレちゃってるの~?」

「いったいなんの時間だ、これは?」

今度は、耐えかねた晃がツッコんだ。

「楽しい時間よねぇー、アリスちゃん!」

「本当のところ、なんのご用だったんですか?」

「ええー、もう終わりなの?つまんない!」

「実はね、今日はゴンドラ協会の会合があったの。それを、ここ、カフェ・フローリアンをお借りして行った、ということなんです」

「そうだったんですか。でも、晃さんはわかりますが、なんでアテナさんまでいるんですか?」

「今日の議題は〈今後の水先案内業界について〉だったのね。各方面から意見を聞いてみようとなって、現在ウンディーネの中で、牽引者として頑張ってもらっている晃ちゃんと、この業界の経験者で、エンターテイメントの立場からも意見をということでアテナちゃんにも来てもらったというわけなの」

「それでお三人さんが集結したということだったんですね」

「だからアテナ先輩、そんな装いだったわけだ」

「ちょっと見直した?」

「服装だけは」

「ええ~なんか別の言い方ないの~?」

「なんて言えばいいんですか?」

「だからぁ、今日のアテナ先輩って素敵ですね、とか」

「まあ、普段とは違って、いい感じだとは思いますが」

「ええー!アリスちゃ~ん!」

「そろそろ帰るけど、いいか?」

「ちょっと晃ちゃん!いいところなんだから、水をささないでよ~」

「藍華、来月の会合は各店から代表者が出席することになるそうだ。お前も支店長として出席だからな」

「はい。あっ、そうなんですか?」

「忙しいのにごめんなさいね。そういうことだから、お願いします」

「それはもう喜んで!アリシアさんにそんなふうに言われちゃあ、断る理由なんてあるわけないじゃないですか!」

藍華は笑顔満面で応えた。

「だから、灯里ちゃんもね」

「はい、アリシアさん!」

「あらあら。元気のいいお返事ね」

「お返事ねって、子供じゃあるまいし・・・」

「ん?藍華ちゃん?どうかした?」

「い、いえ、なんでもありません、アリシアさん!」

藍華は直立不動になっていた。

「でも、灯里ちゃん?なんかスッキリしたような顔に見えるけど、何かいいことあった?」

「私ですか?」

灯里はアリシアにそう言われて驚いていた。

「うん。なんかとってもすがすがしい顔してる」

「ええー!私はいつも通りだと思いますが・・・」

「もしかしたら、あれですかね」

藍華が間に入ってきた。

「あれって何?」

「そうかもですね」

アリスも藍華に続いた

二人からそう言われて、灯里はキョトンとしていた。

「実は今日一日、息抜きの小旅行に行ってきたんです」

「そうだったの」

夕日に照らされた藍華の顔を、アリシアはやさしい笑みをたたえて見つめた。

「もうこの先、以前みたいに一緒にどこかに出かけるなんて出来ないだろうなぁって思って。だから、私から誘ったんです」

「それでだったのね」

「はい。でも最初はなんにも計画なんてなくて、どうしようって言ってたんですけど。ちょっとしたきっかけがあって、昔のことを思い出したんです。それでなんですけど・・・」

「それでその格好?」

灯里、藍華、アリスは、先輩たちから改めてマジマジと見られていた。

「小旅行をするとそんなふうになるのか、お前たちは?」

晃があきれたように言った。

「実はこれにはちょっとした訳がありまして」

藍華は頭をかきながら、照れ臭そうに笑った。

「その宝探しが理由と申しましょうか・・・」

灯里も照れ臭そうにポツリとつぶやいた。

「もしかして、マリア像の?」

「えっ、アリシアさん!知ってるんですか?」

灯里たち三人は、驚いて思わずアリシアの顔を見つめた。

「何?アリシアちゃん!知ってるの?教えて教えて~」

その反応にアテナが悔しそうに割って入ってきた。

「それはね、うーん・・・ナイショということにしておくわ♡」

「ええ~なんで~!アリスちゃんたちも知ってるんでしょ~?ズルい~~」

「アテナ先輩!駄々っ子が過ぎます!」

「もう~ケチなんだからぁ~」

「い、いや、あの、いい大人がケチって」

アテナとアリスの会話の横で、藍華があきれて呟いていた。

「明日もあるからもう帰るけど。いいな、アリシア?」

「今日はありがとう、晃ちゃん」

「じゃあ、また来月」

晃は片手をあげながら、背中を向け、歩きだした。

「ええ~もう帰るの~?」

「アテナちゃんもありがとう」

「いいえ、どういたしまして。アリシアちゃん、それからみんなも、またね」

アテナはさっさと行ってしまう晃の後を、急いで追いかけていった。

「じゃあ、私もこれで失礼します」

アテナに続いて、藍華もアリシアに挨拶して帰ろうとした。

「藍華ちゃん」

アリシアは、藍華の少し後ろで何か話している灯里とアリスを横目に、藍華を呼び止めた。

「なんですか、アリシアさん?」

「今日はありがとう。灯里ちゃんを誘ってくれて」

「いえ、そんな、アリシアさんに言っていただくようなことではないんです。ホントに息抜きがしたかっただけなんです」

「でも聞いたわ、晃ちゃんから。わざわざ休暇を取って行こうとしたって。支店が大変なのに」

「まあ、あれです。そうでもしないと、休めるきっかけがないですから。いいタイミングだったんです」

藍華のさっぱりとした明るい表情に、アリシアは救われた思いでいた。

「藍華ちゃん、本当にありがとう」

藍華は、照れてしまって、デレデレの顔になっていた。

「アリシアさーん、なんの話してるんですかぁー?」

二人の様子を見て、灯里とアリスがやって来た。

「灯里?あんたがいつもの調子で、当たり前のように鳩としゃべってたって、アリシアさんに報告してたの!」

「ええ~!」

「それは確かにそうでした。クルッポクルッポって」

「アリスちゃんまで~」

「これって、もしかしてアリシアさん直伝の得意技かなんかですか?それともARIAカンパニーの伝統芸ですか?」

「アリスちゃん?そんなの、ARIAカンパニーにあったなんて話、聞いたことないわ」

「アリシアさ~ん、その言い方、なんかショックですぅ~」

「あらあらうふふ」

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