ARIA The PIACERE 3 その素敵な出会いの先に 作:neo venetiatti
灯里は、ARIAカンパニーの一階のテーブルでPCに向かっていた。
「アリア社長?」
「ぷい?」
「新入社員募集って、どこに出せばいいんでしょうか?」
「ぷいにゅ~」
アリア社長は、灯里の問い掛けに、腕を組んで首をかしげた。
「やっぱりこういうときって、ゴンドラ協会とかなんでしょうか?」
灯里は、ポカーンと天井を見上げていた。
「ちゃんとアリシアさんに聞いとけばよかったですね」
「ぷいにゅい」
「ふぅ~」
ため息をつくと、頬杖をついて正面の壁をぼんやりと見つめた。
灯里は、ふと藍華が言った言葉を思い出していた。
「灯里のまわりで起きたいろんなことが、灯里を中心に回り始めてる」
藍華に言われた時はピンときていなかったその言葉が、様々な人との出会いを通じて、その意味をわかりかけていた。
灯里の周りでは、出会いの数だけ、いろんな出来事が生まれていた。
それは、このネオ・ヴェネツィアで過ごす日々そのものだった。
そしてそれは、みんなも同じはずだった。
アリシア、晃、アテナ、藍華、アリス。
そして灯里自身も。
その事をわかり始めたとき、進むことをためらっている自分に気づかされた。
みんなも同じように進んで来たはず。
6人で再会した、あのサン・マルコ広場でのみんなの笑顔を見たとき、灯里は自然と勇気が湧いてくるのを感じていた。
ひとりじゃない。いつも一緒にいるから。
その日、朝目覚めて外を見たとき、朝日に照らされた海がとてもきれいで、それはいつもと変わらないはずなのに、とてもすがすがしい気分だった。
それはまるで、アクアの海に背中を押されたかのように、心の中にわき上がっていた。
「よし。決めた」
灯里は、いつものように手早く掃除をすませると、アリア社長と食事をし、その日のスケジュールを確認した。
そして、朝起きたときの気持ちをそのままに、PCをテーブルに用意した。
「えっと・・・」
だが灯里は、ポカンとPCを見つめていた。
「そう言えば、私って、何を見て応募したんだっけ?」
その時、メールの到着を知らせる音が鳴った。
「誰だろう・・・」
灯里さん
お元気ですか。
「アイちゃんからだ」
灯里さんのことだから、私になんにも言わずに、ARIAカンパニーの新人募集を出そうとしてるんじゃないですか?
「はひっ!なんでわかったのぉ~?」
多分そうじゃないかと思ってメールしました。
私の方は、お父さんやお母さんにちゃんと話をしています。
まだ、承諾をもらってはいませんが・・・
でも私の決心は揺らぐことありません。
すでに決定事項です!
ですので、その募集は却下ということにしておいてください。
お願いします。
それから、ちょっとした贈り物を送りました。
とりあえず受け取っておいて下さい。
「贈り物って、なんだろう」
その時、ノックと一緒にドアの外で呼び掛ける声がした。
「はーい。少々お待ちくださーい!」
ドアを開けると、段ボールを抱えた配達員が立っていた。
「お届け物です。ARIAカンパニーの水無灯里さんでよろしいですか?」
「はい、そうです!」
灯里はとりあえず、部屋の中に置くように伝えた。
「えっと、サインですよね」
「まだあります」
「あっ、そうなんですか」
配達員は段ボールをもうひとつ、中へ運んだ。
「ご苦労様です。それじゃあサイン・・・」
「まだあります」
「はひっ!」
もうひとつ、段ボールが持ち込まれた。
「あの~、まだあるとか・・・」
「これで最後です」
「はあ」
灯里は積み上げられた段ボールを、ぼおーっと眺めていた。
「あの、サインを」
「は、はい!」
配達員が去ったあと、段ボールの差出人を確認した。
「愛野アイ・・・アイちゃんだ!」
その時、またメールの音が鳴った。
追伸
とりあえず、そちらへ行った時のことを考えて、当面必要そうなものを先に送りました。
よろしくお願いします。
アイより
「アイちゃん?これって、贈り物って言うの?」
しばらくの間、1階の片隅に、その段ボールは積み上げられていた。
ARIAカンパニーにやって来た者たちは、それぞれに疑問を口にした。
「あのさぁ、灯里?引っ越しでもするの?」
藍華は眉間にシワを寄せて聞いた。
「余った服をオークションにでも出すつもりなんですか?」
アリスは、なんか良からぬ物でも見るように、その段ボールを見てたずねてきた。
「灯里ちゃん?燃えないごみは、第一と第三の水曜日よ」
アリシアは、やさしい笑顔だったが、触れてはいけないことを、触れないようにしているような素振りだった。
「アリシアさーん、わたし恥ずかしいこと、なんにもありませんからぁ~~!」
そんなことが続いたことから、灯里は段ボールを2階へ置いておくことにした。
「はへぇー。疲れましたぁ、アリア社長~」
「ぷいぷいー」
「アリア社長も少し手伝ってくれましたもんねぇー」
「ばいにゅーい!」
段ボールを持ち上げたアリア社長は、階段の三段目で、汗をダラダラかいてへたりこんでいた。
しかし、そこはアリア社長。
灯里の言葉に、自慢げに汗をかく仕草で応えていたのだった。
灯里は、アイのメールを受けて、新入社員の募集を出すことを一旦保留ということにしていた。
「灯里ちゃんがそれでいいなら構わないわよ」
アリシアからも理解を得られたことで、そうすることで落ち着いていた。
灯里自信、これまであった迷いが吹っ切れて、気持ちを切り替えることができ、これまで以上に仕事に打ち込めるようになっていた。
あとはその日を迎えるまでの時間を過ごすだけだった。
「それって、なんかあるの?」
「うーん。特にはないような・・・」
「そうでしょうね。灯里?あんたもだけど、このARIAカンパニーに、なんかいるかって言われたら、いまさらだけど・・・」
「あっ、でも、あるよ!」
「なにがあるの?」
「アリア社長の食べ物の好みとか、オムレツの固さはどれくらいがいいとか」
「あんたが普段から気にしてることって、そういうことだったんだねぇ~」
灯里は、カウンターの外から頬杖をついて眺めている藍華を見て、照れくさそうに笑っていた。