ARIA The PIACERE 3 その素敵な出会いの先に 作:neo venetiatti
「私も時々お乗せすることがあります、カップルさん」
アリスはカップを持って、カフェラテを一口飲んだ。
「カップルさんねぇ。確かにゴンドラに揺られてネオ・ヴェネツィアを巡るなんて、最高のデートコースと言えるわよね」
藍華もカフェラテを口にした。
「私ならアル君と・・・ムフフフ」
二人の会話の前で、灯里はなんだかうかない表情をしていた。
「どうしたんですか、灯里先輩?そんなうかない顔をして」
「そうよ、灯里。なんかあったの?」
サン・マルコ広場のオープンテラスで、久しぶりにお茶しようとこの場で落ち合った3人は、これまた久し振りにカフェ・フローリアンのカフェ・ラテを味わっていた。
3人揃って午後のひとときに時間がとれるのは、それぞれプリマになってから、なかなか出来ないことだった。
それがうまく時間を合わせられたことで、それなら会おうとなった訳だったが、灯里の表情が今一つ冴えなかった。
「少し気になることがあって・・・」
「なんですか?気になることって」
灯里はその時の様子を思い返すように遠くを見つめた。
「そのカップルさん、ちょっとケンカになっちゃって」
「ケンカ?なんで?」
「彼女さんの方がため息橋に行きたいって言ったんだけど」
「うん。それで?」
「どんなため息が出るのか楽しみだって」
「ああ、なるほど。そのパターンね」
藍華は目を閉じて、やれやれといった表情で腕を組んだ。
「それで彼氏の方はなんて?」
「ため息橋は、そういう意味じゃないはずだって」
「やっぱりですね、藍華先輩」
アリスも呆れたような口調だった。
「やっぱりってどういうこと?」
灯里はポカーンと口を開けていた。
「そういう話は、これまでいくらでも耳にしてきたっていうことよ」
「そうですね。今さらって感は否めないですね」
「うん。それは私もそう思うけど・・・」
「思うけど、何?」
「もしアリシアさんなら、どんなふうに言葉をかけていたんだろうって、ちょっと思って」
「アリシアさんなら?」
「なんと言ったか、ですか?」
「うん」
「なんでそんなふうに思うの?」
「最近、特に思うようになってきて。アリシアさんならどうしたんだろうって」
「だからその件は前に言ったじゃない?灯里がそう思っても無理もないと思うけど、結局のところ、あんたはあんたでしかないわけだし、今さらそんなふうに考えても仕方がないんじゃないの?」
「藍華ちゃ~ん」
「私も藍華先輩の言う通りだと思います」
「アリスちゃんまで~」
「灯里先輩がアリシアさんを偉大に思うあまり、その雄姿に恥ずかしくないウンディーネにならないとと考えてるんだとしたら、私が思うに、そこはあまり考えなくてもいいんではないでしょうか?」
「ええー、どうして?」
「灯里先輩がアリシアさんを目指されるのは、別に自由だと思いますが、正直申しますと少々ハードルが高いといいますか・・・」
「アリスちゃん、ありがとう。正直に言ってくれて」
灯里はガックリとうなだれてしまった。
「後輩ちゃん、ちょっと正直に言いすぎよ。いくら私たちの仲だからと言っても」
「藍華ちゃんもそんなふうに思ってたんだね」
灯里は「ああ~」と声を漏らしながら、テーブルに突っ伏した。
「すみません、灯里先輩。言い過ぎました」
「別にいいよ。正直な意見が聞けてよかった」
「灯里さあ」
藍華はそう言って座り直すと、灯里の顔を覗き込むようにして言った。
「やっぱり、それが理由なの?」
「何が?」
「まだ、ひとりでがんばってる理由よ」
「新しい社員を採らない理由ということですか?」
「そういうこと」
灯里はテーブルに突っ伏したまんま、顔を横に向けてふたりの言葉を聞いていた。
サン・マルコ広場を行き交う人たちの姿が、横になって通り過ぎて行く。
「そうかもしれない」
灯里はポツリと呟いた。
「それって自身がないということですか?」
「どうなの、灯里?」
「うーん。わかんない」
「わかんないって。あんた今そうかもって言ったばかりじゃない」
「う~ん」
と言って、灯里は顔をテーブルにふせてしまった。
「私って、これからどうしたらいいんだろう~」
「灯里、あんたねえ、そんなテーブルの上で顔をごろごろさせてどうなるの?」
灯里は、自分の顔をテーブルの上で、左右にごろごろさせていた。
「この人はね、今頃になって、ようやくARIAカンパニーの看板の重さに気付き始めたんだって」
灯里が顔をごろごろするのを止めた。
「灯里先輩、そうなんですか?」
灯里は顔を伏せたまま動かなくなった。
「そうゆうこと」
「まさか、今頃ですか?」
「今頃だからよ。一年が過ぎて、回りもしっかり見えるようになってきて、ようやく今の状況に慣れてきたけど、それと同時にまだ自分では十分把握できてないことなんかもわかってきたってことよ。ね?」
「でもそれは私も理解できます。プリマになって初めて見えてくるようになったこともたくさんありましたし」
「そりゃそうよ。だって私たち、まだプリマ一年生だからね」
「もう二年生だよ」
灯里は下を向いたまま、はっきりしない口調で言った。
「あ、あんたねえ、そんな突っ伏したまんまの人に言われたくないわよ!」
「だって二年生は二年生だもん」
「確かに」
「後輩ちゃんまで何よ!もう!」
灯里は顔を横に向けると、深いため息をついた。
「二年生なら二年生らしく、後輩がいてもおかしくないってことじゃないの?」
灯里は藍華の言葉に、また下を向いてしまった。
「また静かになりました」
アリスがポツリと呟いた。
「アリシアさんからARIAカンパニーを引き継いでもう一年が経ったわけだし、それなりに仕事も増えてきたわけでしょ?もうそろそろ真剣に考えてみてもいいんじゃないの?」
「う~ん」
下を向いたまま、灯里は返事をした。
「その〈う~ん〉は、承諾したということなんでしょうか?それとも、まだ考え中という意味なんでしょうか?」
「う~ん」
「どっちでもないみたい」
藍華とアリスは、カップの底に残ったカフェラテを飲みほすと、ふたり同時にため息をついた。