更新遅くなってしまってごめんなさい。
日々過酷な訓練に臨む訓練兵達にも、二週に一度の割合で休日が存在する。その日に限っては一日中兵舎で寝て過ごすのも良し、街に出かけて買い物をするのも良しと、とにかく、問題さえ起こさなければ休日の行動は各々の自由にさせているのである。
これは、そんなある日の休日の話である。
◇
「あ、いたいた。ユリウスー!」
朝、というにはいささか遅い時間帯。いつもより少し遅めの朝食を済ませたユリウスが、今日は何をして過ごそうかと食堂で悩んでいると、そんな彼の元に同郷の友人であるアルミンが声をかけてきた。
「どうした、アルミン?」
「これからエレンとミカサと三人で街に出掛けようと思ってるんだけど、ユリウスも良かったら一緒にどう?」
「街か……まあ、俺もちょうど暇だったし、付き合わせてもらうよ」
と、ユリウスがそう返事をして席を立ち上がると同時、今度はアルミンのものではない元気のいい少女の声が耳に届いた。
「ユリウス!」
「ん? クリスタ?」
駆け寄ってきたのはクリスタだった。いつもの兵団服ではない白を基調とした私服を着た彼女は、食堂に残っていた他の男子の目をまざまざと引いていた。女子兵舎からわざわざ走ってきたのか、クリスタはユリウスの前に立ち止まるとハァハァと荒い呼吸を繰り返した。
「大丈夫か?」
「う、うん……」
胸に手を置いてゆっくりと深呼吸して息を整える。そして呼吸が落ち着くと、いつもの天使のような満面の笑みをユリウスに向け、
「ユリウス、もし大丈夫なら一緒に街に行こう?」
と、言った。
「うえ? あー、えーっと……」
アルミン達と街に行くと約束してしまった矢先になんてタイミングが悪い。ユリウスがどう答えるか悩んで言い淀んでいると、段々とクリスタの笑みが小さくなっていく。
「もしかして、都合が悪かった……?」
「うっ…」
そんな顔で、しかも上目遣いまで加わると尚更「都合が悪い」とは言いにくい。とてつもない罪悪感がユリウスの心にズブリと突き刺さる。ついでに「クリスタを困らせているな……?」という他の男子達の非難の視線も。すると、そんなユリウスの心情を察したのか、アルミンが口を開いた。
「ああ、そっか。クリスタもユリウスを誘うつもりだったんだ。なら、僕らのことは気にしないで二人で街に出掛けてきなよ」
「え……いいのかアルミン?」
「うん。別に大した用事があるわけじゃなくて、街で適当にブラブラするだけのつもりだったから。それよりも、クリスタにはユリウスが必要なんでしょ?」
「う、うん。というより、ユリウスじゃないとダメっていうか……」
最後の方は何やら声が小さくてよく聞こえなかったが、アルミンは全て理解できたようで、「そっか」と柔らかい笑みを浮かべていた。
「なら、ユリウスはクリスタに譲るよ。楽しんで来てね」
そう行って、アルミンは片手を軽く上げるとそのまま食堂を出ていってしまった。残された二人の間に、わずかに沈黙が流れる。
「あー、っと………とりあえず、暇になった。だから──」
街に行くか。と、少々恥ずかしげにユリウスが言えば、クリスタは顔を上げ、
「──うん!!」
やはり天使のような、見惚れるほどに美しい笑みを向けるのだった。
◇
きっかけは昨日の夕食後、同期生のミーナに「よかったらクリスタもどう?」と誘われたお茶会に出ていた時の事だった。お茶会といっても貴族などがやるような優雅なものではなく、宿舎のベッドの上で集まって紅茶を飲みながら話をする程度のもの。クリスタの他には、ミカサとハンナも誘われていた。
始めてからしばらくの間はあの時の訓練は辛かったとか、今日の立体機動は上手くできたとか、訓練兵ならではの話題が主だった。しかし、兵士を目指す者といえど彼女達は年頃の女子。話題は徐々に女子会ならではの──恋愛関係の話に変わっていくのだった。
「そういえばクリスタ、最近どうなの?」
「え──」
ミーナから投げかけられたその質問に、クリスタは紅茶を口に運ぼうとしていた手を止めた。カチャリとソーサーの上にカップを置いてミーナを見れば、彼女は目を輝かせてクリスタの答えを待っていた。
「ええっと……どうって?」
「そりゃあもちろん、ユリウスとの仲に決まってるじゃない! 何か進展はあったの?」
「え……ええーっ!?」
途端にクリスタは顔を赤く染めた。わたわたと慌て出した彼女を見て可愛いなぁと思いながら、しかしミーナは話題を変えない。それどころか、
「はっきり言って、ユリウスのこと好きなんでしょ、クリスタ?」
その言葉で、クリスタの顔はもうトマトのように真っ赤になった。なんなら『ボンッ!』という音が聞こえるほどに。「うぅ……」とクリスタは赤い顔のまま俯いて、やがてこくんと、小さく小さく恥ずかしそうに頷いた。
「やっぱり! まあ、見てれば分かるけどね〜。ね、ミカサ」
「うん。多分、もう皆知ってると思う」
分かってないのはエレンだけ、とミカサはそう付け加えて、クリスタはまた赤い顔で俯いた。既に頭からは湯気が上がり始めている。
「ユリウスはカッコいいもんねぇ。でも私はやっぱりフランツが一番かな〜。だってこの前──」
惚気に入ったハンナは無視する。
「ユリウスは他の男子と違って大人っぽいからね~。事実、彼、結構他の女子にも人気あるのよ」
「え……?」
「やっぱり知らなかったか。一見クールに見えて実は優しくて世話焼きなところがいいみたい。私もこの前ユリウスに立体機動についていろいろアドバイスをもらった時、丁寧に教えてくれて少しドキッと来ちゃったなぁ」
そういってミーナはわずかに頬を染めた。確かに彼女の言う通り、ユリウスは優しい。だからこそクリスタは惹かれたのかもしれないが、しかし他の女子もユリウスに気が合ったというのは初耳だ。
「(あ、でもそういえば──)」
そう言われてみれば、心当たりはあるかもしれないとクリスタは考える。ミカサは同郷だし、サシャもよくユリウスと楽しげに話しているのを見かける。アニも何やかんやで仲がいいようだし、ユミルは──しょっちゅう喧嘩しているが、『喧嘩するほど仲がいい』とも言うし、そう考えると、もしかしたらと思う人物は意外と多い。
そしてクリスタは──何故かそれが気に食わないと思った。
「あっ、クリスタ、もしかしなくとも気に食わないって思ってるでしょ?」
「え──」
ミーナの言葉に、クリスタはどうしてと驚愕した。ミーナはやっぱりと笑って、
「顔に出てるわよ、ユリウスが他の女の子と仲がいいのが嫌だって。相当ユリウスのことが好きなのね~」
クリスタは何も言い返さなかった。いや、言い返せなかった。彼女の言う通り、やっぱりクリスタはユリウスのことが自分が思っている以上に好きなのだから。その事実は否定したくはなかった。
「そういえば、明日は休日だったわね。ちょうどいいわ。ユリウスを街に誘ってみたら?」
「え!? ま、街に!?」
「そ、別によく行ってるんだし、今さら恥ずかしくはないでしょ?」
「そ、それはそうだけど……」
しかし、その時とは状況がまるで違うわけだし、何より出かける時はいつもユミルも一緒にいた。二人だけでというのは実は初めてだったりする。
ちょうどその時、消灯を告げる鐘が打ち鳴らされた。
「あ、もうこんな時間かぁ。とにかく、明日クリスタは絶対にユリウスを誘うこと。いいわね?」
「う、うん……分かったわ」
「大丈夫クリスタ。ユリウスなら絶対に断らないから」
別にそこは心配していないのだが。どこか論点がずれているミカサにクリスタとミーナは苦笑い。その後も一言二言会話をし、クリスタはミカサ達の宿舎を出た。
外に出ると、涼しげな夜風がクリスタの頬を撫でた。だが、その風を受けてなお彼女の体は熱いままで、心臓がトクトクと早鐘を打つ音が耳に届くのだった。