えー、皆さん。お久しぶりです。約1年ぶりでございます。今まで投稿できなくて大変申し訳ありませんでした。
諸々の事情があり、このサイトを開いたのも1年ぶりでした。
これからは今までの遅れを少しでも取り戻すためにどんどん投稿します!……と言いたいところですが、以前よりも自由にはいかなくなってしまい、更新は不定期となってしまいます。この作品を楽しみにしてくださっている読者の皆さんには大変申し訳なく思いますが、これからも執筆は続けていくつもりですので、応援を宜しくお願いします。
解散式から一夜明け。
ウォール・ローゼ、トロスト区。
翌日に各兵団の勧誘式を控えた訓練兵たちは、とうとう本物の兵士になれると胸を高鳴らせながら、しかし訓練兵としての義務として、幾つもの班に分かれて割り当てられた仕事に従事していた。
仕事内容は壁上に設置されている固定砲の整備だったり、立体機動に欠かせないガスの点検だったり、馬舎の清掃だったりと様々である。
ユリウスは、その中の馬舎清掃班として、班員たちとトロスト区に設置されている馬舎の清掃を行っていた。
「……えっ、お前も調査兵団に入るのか?」
クリスタら女子陣に馬を別の馬舎に移してもらい、空になった元の馬舎で排泄物や喰い散らかされた餌の処理を行っていた男子陣の中で、一人の同期の話を聞いたユリウスが声を上げた。
「へへ、まあな」
名をデンゼル・ライジンガーという彼は、ユリウスの問い返しにニカっと爽やかな笑みを向けた。一年ほど前からユリウスと親しくなった彼は、ユリウスにとってはエレンやアルミンと同じくらい気心が知れた同性の友人であり、こうして同じ班で行動する事も多い。また、訓練兵としての成績も、上位10名には及ばなかったものの優秀な成績を残しており、教官たちから将来を期待されている人物でもあった。
「だがデンゼル。お前、志望は駐屯兵団のはずだろう? なのにどうして……」
「いや〜、まあ……そりゃ最初はオレも駐屯兵団に行くつもりだったんだが、昨日のエレンの言葉を聞いて、な」
「エレン?……ああ、なるほど」
いきなり出てきたエレンの名に一瞬疑問符を浮かべたユリウスだったが、すぐに昨夜の出来事を思い出して納得した。
それは、解散式の打ち上げが始まって間もない時の事だった。
上位10位以内に入っていながら調査兵団になると一貫した態度を取るエレンを思い直させようと仲間たちが断言した『巨人に勝つことは不可能』という言葉に、彼は異議を唱えたのだ。
『何十万という命を犠牲にして手に入れた戦術の発達を放棄して、大人しく巨人の餌になるのは御免だ』
その演説から一夜経ち、エレンのこの言葉は思っていた以上に多くの同期たちの心に残っていたようだ。
「言っておくが、デンゼルだけじゃねえぞ」
と、話し込む二人の間を割って、もう一人の男子が近寄ってきた。
「俺も調査兵団に入るぜ」
レイヴェン・クリストフ。彼もまたユリウスの友人であり、ライナーと同じくらいの図体を持つ頼れる男だ。
「おお、レイヴェンもか! ふーむ……そうなると、今期はかなりの人数が調査兵団希望ってことになるなぁ」
「そうなのか?」
ユリウスが問い返すと、デンゼルは「ああ」と頷いた。彼の話によると、昨夜のエレンの演説に心を打たれたのはこの二人だけでなく、かなり多くの人数がいるらしい。ジャンと同じく憲兵団に行くとあれだけ公言していたコニーでさえ、調査兵団に希望を変えたそうだ。
「なるほど……やっぱりエレンは凄いな」
ユリウスは小さく頰を緩ませた。エレンは別段、突出した才能や身体能力があるわけではないが、誰よりも強い意志と執念を持っている。上位10番内に入れたのも、彼のそうした感情から供給される無尽蔵の爆発力と、血の滲む努力の賜物と言えるだろう。そうしたエレンの執念と努力を知っているからこそ皆は彼の言葉に耳を貸し、感化されるのである。
リーダーの資質とは少し違うけれど、人を惹きつける“カリスマ”のようなものが彼にはあるに違いない。
「あ、そういやあユリウス。クリスタはどうすんだ?」
と、デンゼルは話を切り替えてユリウスに訊ねた。すると、その言葉を聞いたユリウスは少し不満そうな顔になって、
「クリスタは……調査兵団に入るそうだ」
「やっぱりそうだろうな〜……ってあれ? でも、その割にはあまり嬉しそうじゃないな?」
「当たり前だろ。調査兵団は常に死と隣り合わせの危険な部隊だ。そんな所にクリスタを行かせたくない」
これは、ユミルも交えて三人で話し合った問題だった。ユリウスとユミルで説得を続けたがクリスタは頑として聞き入れず、希望を変えようとしなかった。
「っかあ〜! 分かってないな〜、ユリウスは」
ユリウスの愚痴を聞いて溜息をついたデンゼルが「な?」と隣のレイヴェンを見た。レイヴェンもデンゼルの言わんとすることの意味が理解できたのか、うんうんと頷いた。
「はあ? どういう事だよ、デンゼル?」
「お前、クリスタの恋人なんだろ? なら、あいつの気持ちをもっと察してやれよ」
「それは分かっているさ。だからこそ、危険な調査兵団には……」
「だからだよ」
「え?」と訊き返したユリウスに、デンゼルはニカっと爽やかな笑顔を見せた。
「危険な調査兵団にお前が行くからこそ、クリスタはお前について行くんだよ」
「あ……」
その言葉を聞いて、ユリウスはようやくクリスタの真意に気付くことができた。
調査兵団は常に死と隣り合わせ。いつ自分が死んでもおかしくはない兵団である。ユリウスは死ぬつもりなど更々ないが、必ず生き残れるという保証もない。父・ヴィクトールのように、何の前触れもなく巨人に喰われてしまうかもしれないのだ。
だからこそ、クリスタは望んだ。
ユリウスの側にいることを。
「それに、危険だって思うならお前が彼女を守ってやりゃー良いじゃねえか? な、レイヴェン?」
「ああ。それが恋人として当然の責務だろうな」
「お前ら……他人事だと思って簡単に言いやがって」
壁外でそうするのがどれだけ難しいかなど、この二人も知っているはずだ。しかし、二人の言葉が的を射ているのもまた事実だった。
危険だと思ったら、自分が彼女を守ってやれば良い。それが恋人である自分がすべき当前の責任。それに気付かせてくれた二人に内心で感謝を送りつつ、ユリウスは遠くから聞こえてきた自分の名を呼ぶ声に耳を傾けた。
「お、噂をすればお姫様が来たぜ、王子様。満面の笑みで手を振ってらあ。お熱いねぇ、コノコノ!」
「……黙れデンゼル」
ニヤけ顔をして肘で脇腹を突いてからかってくるデンゼルを押し返して、ユリウスも彼女に応えるべく手を挙げた。
──まさにその時だった。
ズドンッ!!!
トロスト区に、雷が落ちたような耳を劈く轟音が轟いた。
「うおおお!? な、なんだあ!?」
「地震だ!」
直後に大きく揺れる大地。デンゼルやレイヴェンがその音と揺れに身構え、クリスタは倒れそうになったところをユミルに支えられて事なきを得た。
誰しもが突然の出来事に戸惑う中で、ユリウスだけは身動き一つせず、ある一点を──高く聳える壁の上を見つめていた。
「……ユリウス? お、おい、どうした?」
デンゼルが壁を見つめたまま動かないユリウスの肩に手を置くが、彼からの反応は無かった。驚愕と絶望が混じったような表情で、ギリギリと拳を固く握り締める彼の尋常ならざる雰囲気につられて、デンゼルも壁上を見上げた。
「………ぁ………」
そして、彼らは目撃した。高さ50メートルを誇るウォール・ローゼの壁をゆうに越し、人類を見下ろす一体の巨人の姿を。
5年前、突如現れてトロスト区の壁を破壊し、ユリウスから母を奪った元凶。
人類最大の敵──『超大型巨人』が、人類を滅ぼさんと再び現れた。
◇
『超大型巨人』の出現と同時、トロスト区と壁外を隔てる開閉扉が蹴破られた。
「──ッ!? 避けろッ!!」
衝撃と共に、開閉扉の瓦礫が巨大な砲弾となってユリウスたちの元に飛来する。ユリウスは隣に立っているデンゼルを引っ張って大きく馬舎側に回避した。すると、そのすぐ後にユリウスが立っていたちょうどその場所に瓦礫が着弾した。
「お、おい! 大丈夫か!?」
「あ、ああ。オレらは何とか………お、おい、ユリウス! クリスタは?」
「──ッ、クリスタ!!」
間一髪瓦礫の下敷きにならずに済んで安堵したユリウスだったが、デンゼルの言葉を聞いて一気に血相を変えた。瓦礫が飛んで来る前、クリスタとユミルはユリウスの数メートル先にいた。
まさか、この瓦礫の下敷きに──そんなことを考えて、ユリウスの表情から一気に血の気が失われていった。
「ユリウス!」
しかし、そんなユリウスの耳にクリスタの声が届く。声のした方を見れば、瓦礫の向こう側から回り込んで、クリスタとユミルが駆け寄ってきた。
「クリスタ! 無事だったか!」
クリスタの無事を確認して今度こそ安堵したユリウスは、胸に飛び込んできたクリスタを抱き止めて強く抱き締める。見たところ着弾の衝撃による砂塵と石飛礫による細かい傷があったが、大きな外傷は無いようだった。
「瓦礫が飛んで来た時、ユミルが咄嗟に引っ張ってくれて。おかげで巻き込まれずに済んだの」
「そうか……ありがとう、ユミル。お前も無事で何よりだ」
「フン……当たり前だろ」
ユリウスがユミルに顔を向ければ、ユミルは小さく鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「おいユリウス! 悪いがお互いの無事を喜び合うのは後にしてくれ! 今はそれどころじゃねえんだからよ!」
と、釘を刺すデンゼルの言葉にユリウスは我に帰り、クリスタを放してから再び壁上を見上げた。そこには50メートルをゆうに越す『超大型巨人』の巨大な頭部が、相も変わらずユリウスたち──否、人類を見下ろしていた。
そしてその足元──ついさっきまでトロスト区の開閉扉があった場所には、『超大型巨人』によって蹴破られた大きな穴が空いている。
「おい、まずいぞ……」
デンゼルが、生唾を飲み込みながら呟いた。彼の言葉の意味を、全員が理解していた。
まったく同じだった。
5年前のあの日と、まったく同じ。
「………………っ」
ユリウスの脳裏に再び悪夢が蘇る。
目の前で母を喰われた、あの光景が。
それは、まさに──
「──巨人が入って来る!!」
絶望の再来だった。