インフィニット・ライダー(お試し版) 作:ナナシ
此処は東京の某所にある巨大な建物——その建物は他よりも大きく、目立つ場所にある。それができたのは三年前であり、白を特徴としている。否、城とも言える。
そんな場所には今跳ねている時間帯なのか人は居ない。居たとしても、警備員くらいだろう。そんな中、そんな場所の入り口には突然ファスナーが開き、そこから一人の青年が出てくると、ファスナーは消えた。そして、青年とは一春だった。
一夏とは別の意味で別れ、一人で帰還している。しかし、彼の表情は呆れ、憤りが入り交じったかのようにも思える。理由は、彼自身の言葉から良く分る。
「あ——あ——っ! バイクがあれば一発で帰還出来るのに十六以上じゃなきゃ免許も取れないし、最悪だ——っ!」
一春はそう言う理由で怒っていた。そう、彼はバイクで帰りたかったのである。バイクがあれば直にであるが、年齢の関係上、法律関係でもバイクに乗れるのは後一年待たなければならない。
組織には錠前型の即席バイクがあるが支給されていない。彼等の年齢の関係で与えていない。与えたら、無免許どころか補導されるからだ。一春はそこを理解していても納得いかないのだ。
「止めなよ一春、近所迷惑だよ?」
「しかたないよ黒鷲の兄貴、バイクに乗りたがる一春の事だから、気持ちは理解出来るぜ?」
一春に対し、気遣いと揶揄いの声がした。一春が声をした方を見ると、二人の、彼等とは同世代の青年達がいた。
どちらも瓜二つの、彼等と同じように全く同じ顔をしている。しっとりとしたロングカットの黒髪に琥珀色の瞳。童顔とも思える中、
服は片方は黒を基調としたシャツにズボン。片方は焦茶色のシャツにズボンと言った、彼等が好きであろう色を使ったとも思える服をしている。
彼等を見た一春は呆れる。
「何だ、お前等も任務を終えたのか、黒鮫に黒鷲」
一春の言葉に黒鮫と黒鷲の二人は頷く。
「おうよ一春、こっちのインベス退治は軽く終えたぜ? 俺様がいればちょちょいのちょ」
「とか言ってるけど、黒鮫の奴、道端に落ちていたエロ本を拾おうとしたのに止めたんだよ?」
黒鮫の言葉に、黒鷲は少し呆れる。
「んだよ黒鷲の兄貴! そんくらいいだろう!?」
「ダメな物はダメだよ。いくら読みたいからって、拾おうとするのは」
「エロ本なんて落ちているのが奇跡なんだぜ!? これは拾いたくなるのが男だろ!?」
「それは理由にはならないよ——第一、拾おうとしたのに、何故止めたの?」
黒鷲の言葉に黒鷲は疑問を抱く。その言葉に一春も「えっ?」と疑問を抱く。そうなのだ、黒鮫は拾いたいと思っても躊躇したのが変だからだ。黒鷲の言葉に黒鮫はキョトンとした顔で、答えた。その言葉に彼等は戦慄する。
「小学生か中学生くらいの女の子が写っている奴だったから」
「「エロ本ってレベルじゃない! 完全に犯罪レベルだ!」」
彼の言葉に二人は声を揃える。それは完全に犯罪ものであり、色んな意味でヤバい。黒鮫はそれを平然と言えたのは凄かった。が、彼は話題を変えようとした。
「まっ、関西の方は黒虎の兄貴、戒斗さん、凰蓮さんが何とかしてくれているし、関東は俺達が何とかしなきゃな?」
「話題を変えないでよ!?」
黒鷲の言葉に黒鷲は少し困惑する。しかし、黒鮫は辺りを見渡すと、ある事を指摘。
「一春、一夏はどうしたんだ?」
「えっ?」
「えっ? ……あっ、そういえばそうだね? 一夏は」
「一兄? ああ、可愛い女の子を家まで送っているぜ?」
「えっ!? 可愛い女の子!? どんくらい可愛かったんだ!?」
一春の言葉に黒鮫は食い掛かる。黒鷲は慌てながら止めるも、一春は肩をすくめる。
「可愛い子でも一兄はいやらしい考えはしないぜ? まあ、女の子を介抱するくらいだからな?」
「そうか? もしも襲ったら」
「そんなことはないね? 俺達は思春期を迎えているけど、欲望を吐き出す程の考えなんてない——コンビニにあるエロ本やレンタルビデオのピンクの暖簾をチラチラ見る事もしない一兄の事だからな? まあ、前者は法律で禁止されたからないけど」
「ハハハ……」
一春の例えに黒鷲は苦笑いする。思春期としては珍しくはない上、そう言った事を考えたい年頃でもある。自分は当てはまらないなんて甘い考えはない——彼の言い分は正論か詭弁かまでは判断出来ない中、一春の様子には憤り、焦り、哀しみ、楽しみがない。
あるのは何処か微笑んでいるのだ。何を考えているのかは分からない中、黒鮫は両手を頭の後ろに当てながら呆れている。
「一夏の事を信頼しているんだ? 何でそうまで言い切れるんだ?」
「ちょっ、黒鮫」
黒鮫の言葉に黒鷲は慌てる。疑問に思うのも無理は無い——一夏が手を出さないとは限らない。最悪、犯罪を起こす可能性もあり、何が遭ったからでは遅いのだ。
危惧している訳ではないが、仲間としても心配している、一春の悪友だからでもあり、思春期を迎えた者同士でもあり、ライバルだからでもあるのだ。
黒鮫の言葉に一春はキョトンとする中、軽く吹き出す。
「何が可笑しいんだ?」
黒鮫は首を傾げると、一春は軽く笑いを終えると、言った。
「俺は戦極一夏の弟——それ以外に理由はないから」
「……ハッ?」
「えっ?」
彼の言葉に三枝兄弟は目を丸くする。しかし、一春はニカッと笑っていた。その笑顔には曇りはない。信頼しているからこそ、背中を預けられる存在だからこそ、だろう。
彼なら大丈夫、奴らの存在がない限り、彼は安心なのだ。一春はニカッと笑っている中、三枝兄弟に対し、あることを言う。
「それにお前等だって、黒虎を入れて三枝の三つ子兄弟だろ?」
「「……えっ?」」
「知ってるんだぜ? お前等の不屈の精神や絆は組織内では有名だからな? 海の黒鮫、陸の黒虎、空の黒鷲——三位一体の攻撃に死角は無し、ってな?」
一春は二人にしたいし、褒めるかのような言葉を述べる。そうなのだ、彼等を含め、関西にいる黒虎の三枝兄弟はとてつもなく強い、黒鮫は鉄壁の守りを得意とするグリトンと言うライダーに、黒虎は攻撃を得意とするナックルに、黒鷲は最速の動きをする黒影にだ。
何れも戦極兄弟とも対等に渡り合える存在。戦力としては申し分無いが性格は違う。黒虎は次男であり猪突猛進でありながら知識は良く、三人の中では一番上。黒鮫は三男で馬鹿であるが悪を許さない熱血漢。黒鷲は長男で常識人であり、仲裁役かつ穏やかな性格をしている。
何れも性格は違うが、一春は黒鮫とは悪友で、黒鷲は一夏とは長男同士なのかウマが合う。
「まっ、話は良いとして、あそこへ行こうぜ? 凌馬義兄さんや高虎主任の所に」
一春は身を翻すと、エレベーターの方へと向かう。一春の言葉に三枝の兄弟は彼の行動に驚くも、追いかけるのだった。
因に関係ないが、黒鮫が拾うとした奴の関連した物は組織が調べて、組織が潰したのは言うまでもない。