ドボドボと虎杖の胸から紅い液体が止めどなく溢れ続け、私の全身を赤く染めていく。その様子を私は何処か他人事のように見続けていた。
虎杖が自分を庇って殺されたということはブリキのように鈍い動きをする脳でもハッキリと理解し、罪悪感と無力感、そして自分への怒りが湧いてくる
「ねぇ、起きなさいよ」
ゆさゆさと自分の手が虎杖の血で染まっていくことも気にせず、私は虎杖の体を起こそうと揺らす。その内、はい、オッパーピーなんて巫山戯た様子で目を開けたりしないかなんて叶いもしない希望を抱いて。けど心臓を貫かれた虎杖は虚ろな目で虚空を眺め続けている。それが先程まで笑っていた虎杖とは遠く掛け離れたものでは私は体をワナワナと震わせた。
虎杖悠仁は死んだ。これは誰がどう見てもそう判断が出来る。例え、人並外れた身体能力を持とうがそれでも彼は人間であり、心臓を貫かれれば簡単に死ぬ。もし、これが
「ねぇ....また、置いていくつもり?」
私は今でも鮮明に覚えている。虎杖が死んだと報告された時の目の前が見えなくなる程の絶望感と自分があまりにも弱いという掌から血が滲み出る程の無力感を、私は永遠に忘れることはない。
だから、虎杖が生き返ったことを知って口には出さないかとても嬉しかったし、
「オォヴォォォア!!」
敵は悠長に仲間の死を悲しむ時間を待つ訳もなく、むしろ虎杖が死んだことによりやりやすくなったと言わんばかりに呪力を滾らせ、雄叫びを上げる。私は自らの唇を血が出ることは構わず噛み締めた。今、私はどんな表情をしているだろうか?悲しさに目を赤くしている?それとも自分の無力さに悔しさのあまりに顔を顰めている?それとも怒りで顔を赤くしている?
そんなことはどうでも良い。今はコイツに報いを与えなければならない。そう、虎杖という善人を殺した報いを
「待ってなさい、一瞬で終わらせてやるから」
私はスルりと虎杖の頬を優しく撫で、呪霊へと対峙する
呪霊はニタニタと醜悪な笑みを浮かべ、私を侮っていることなど誰から見ても明らかだった。何時もなら文句の一つや二つ言っているところだが、今はそんなくだらないことをする余裕なんてない今の私にはない。
スっと自分が今出来る限りのパフォーマンス発揮をする為に戦いやすい体勢を取り、呪力を滾らせる。
ガタン!と家の残骸の一部が崩落し、呪霊の意識が一瞬だけ其方へ向いた瞬間に私は攻撃を放つ
「ッラァ!」
カキン!と鋭い金属音と共に呪霊へと無数の呪力を纏った釘が放たれる。フュォン!という弾丸を思わせる空気を切り裂き、呪霊へと殺到する。それを呪霊は斬撃の壁で対抗する。キンという双方の攻撃がぶつかり合い、拮抗するが、あくまでそれは一瞬だけで釘崎よりも圧倒的に多い呪力量の呪霊の攻撃が釘を切り刻み、斬撃の壁が私へと迫り来る。
チッと私は、舌打ちをしながらも横へと大きく飛躍し、それを回避する。斬撃が横へと通り過ぎ、背後にあった家の残骸をミリ単位で切り刻んだ。
「ッ!」
(クソ!どんだけ呪力持ってんだよ!これじゃあ、真っ向勝負じゃ話にならない。あぁ、本当に厄介!)
かと言って、私に相手の目を掻い潜って隙を突く程の機動力はない。圧倒的に不利、それが私に突き付けられた現状だった。けれど
「それが諦める理由にはなる訳がないでしょ!!」
キン!と釘崎が再度、釘を撃ち放つ。先程よりも洗練された呪力に包まれた釘が呪霊を穿たんと先程よりも早く呪霊へと殺到する。それを呪霊は先程と同じように斬撃の壁が放ち、釘と斬撃がぶつかり合った。
だが、先程よりも呪力が洗練され、釘の先端へと呪力を集中させたおかげか釘と斬撃の壁は拮抗し、釘崎のことをまるで避けるように斬撃の壁が割れた。ギギギという不快な音と立て、尚ぶつかり合っているが徐々に釘が押し負けていく。このまま釘崎が回避をしなければ釘崎が肉塊になることは火を見るより明らかだった。
そこで釘崎はある行動に出る。それは―――
「足りないなら、足すまでよ!!」
それはゴリ押し。勢いが足りないなら数を増やして勢いを足せば良いという複雑なことなんて何一つない単純な考え。釘崎は釘と連結するような形で釘を何個か撃ち放つ。カキン!カキン!という鋭い金属音が鳴り、釘の勢いが加速していく。
ズン!ズン!ズン!と釘が斬撃の壁を打ち破っていき、呪霊の眼前まで迫ったことで初めて呪霊は追加の斬撃を放とうとするが既にそれは手遅れだった
釘が呪霊の肉体を貫き、ブシュウ!とその体から血を激しく噴き出した。
「イァァアイィィ!?」
「ァアアォァ!?」
「ガリャゴォガァ!!」
バタバタ呪霊から生えている無数の人が痛みでドスドスと長い腕を地面と叩き付け、口からは痛みから来る苦しみの声が吐き出される。
その声量の大きさに顔を顰めながらこのチャンスを逃さずに次々と釘を放つ。呪霊は痛みで自らに近付く釘崎に気付かずに追撃を許してしまう。
次々へと刺さっていく釘に苦しみの声を漏らし、その原因である釘崎の存在へと強い怒りを抱く。呪霊は反撃とばかりに斬撃を放つが痛みで呪力操作はブレブレで、斬撃には穴が空いていたりなど釘崎にとって驚異にはなりえなかった。
「オラァッ!!」
釘崎の釘が更なる追撃で釘を放ち、尽くそれは呪霊へと命中。呪霊は反撃しようとするがそれすら容易く破られ、また攻撃を受ける。それの繰り返し。
それを何回か繰り返すとバサリとズダズタになった腕が釘崎の直ぐ側に勢いよく落ちてくる。それを見て釘崎はラッキーと呟いた
「共、鳴り!」
ガキン!という金槌と釘のぶつかり合う音が鳴った同時に黒い棘が呪霊の体を内側から食い破った。
「ア゙ア゙ァ゙ァァァァガァァ゙ア゙!?!!」
呪霊の苦痛に満ちた声が響いたと同時に釘崎へと斬撃が
飛ばされる。釘崎は突然飛んできた斬撃に驚きつつも右へ飛躍することでそれを難なく回避する
ザシュ
「は」
釘崎の左腕に紅い線が走った。その瞬間、左腕から大量の血が噴き出し、黒茶色の地面を赤く、紅く染めていく
「ッ〜!?」
(なんで..どうして、斬られ)
そんな思考を遮るようにまた斬撃が放たれる。釘崎はそれを血が流れ続ける左腕を抑えながら大きく右へとサイドステップをし、今度こそ完璧に躱そうとするが左足の脹脛に大きな紅い線が走った。
ガクンと足が傷付いたことによってバランスが崩れ、倒れそうになるがここで倒れては死ぬことなど火を見るより明らかで釘崎は痛む体を無理矢理動かし、開けた場所では不味いと感じ、家の裏を主体に攻撃が目視出来やすい場所へと走っていく。
けれどそれを嘲笑うかのように斬撃は尽く釘崎を先回るように放たれ、釘崎は次々と傷を増やしていく
「ハァ、ハァ、」
釘崎は形を唯一保っている家へと気配を殺しながら侵入し、体勢を整えるべく息を整える。
「ッ」
(いきなり、攻撃の速度も精度も、何もかもが上がった。一体、何が起きたの...手加減なんてしてるようには見えなかった。異常、こんなことを普通は有り得ない)
釘崎は思考しながら、自らのポジェットを探り、釘の残りの数を確認する。するとその数は残り十五本。今までの事を考えるとこれであの呪霊を倒すのはほぼ不可能
「十五本、慎重に使い所を選ばなくちゃいけないわ」
釘崎はフゥと息を再度整えるとあることに気が付く
(斬撃いつの間にか止んでる...?)
ゾクリと悪寒が走ると同時に、地面から集中しないと気が付かない程の微弱な呪力を感知した
「まずッ!?」
釘崎が避難しようと動き出すより相手の攻撃の方が紙一重釘崎に届く方が早かった。ドゴン!という音と共に地面から呪霊の腕が現れ、釘崎の無防備な腹へと一撃を入れた。
釘崎の耳に腸がグチャりと嫌な音を鳴らす音が響き、ゴポリと口から血を吐いた
「ナメ、んなぁ!」
だが、釘崎もタダで一撃を受けるなんてことはせず、トンカチを反転させて尖っている方を呪霊の腕へと突き立てる。呪霊の腕から血が流れ、釘崎の体を更に紅くする
「オォッ!?」
驚いた呪霊は釘崎を思わず離してしまい、釘崎は高さ5メートル程から受け身も出来ずにドサリと落下した。
「がッ!」
ミシリと肋骨が嫌な音を立て、釘崎は痛みに目を見開き、脳が段々と真っ白に染まっていくのを感じた。
ドスン、ドスンと呪霊が此方に迫って来る音が聞こえ、釘崎は何とか立ち上がろうとするが足の骨は完全に折れている為、上手く力が入らずにズルリと転倒する
(動け、動け、動け私の足!)
どれだけ念じても釘崎の足が動くことは無かった。
(私は生き残らなきゃいけないのよ、だから動け、動けよ私の足!このままじゃ、虎杖の死が意味のないものに成り下がる!!)
グググと骨が軋む音も、血が噴き出すことも気にも掛けず、釘崎は根性で立ち上がった。だが、釘崎にもう戦う力は残されていなかった。
呪霊から斬撃が放たれる
それに対して釘崎は拳を握り締めた
「死んでたまるかァァァア!!」
釘崎の拳から黒い光が迸った
黒閃
斬撃と拳がぶつかり合い、その衝撃で辺りに激しい風が吹く
「ハァアアア!」
釘崎の拳がズタズタになりながらも斬撃を押し返していく
(もっと、もっと!!)
「アアア゙ア゙!!」
釘崎の拳の勢いが更に増し、呪霊へと段々と近づいていく。その様子に呪霊は大きく表情を変化させた
(いける!!)
「オオオォアァァ!!」
遂に斬撃を打ち消し、呪霊の顔面へと拳が吸い込まれる。
その瞬間、釘崎は目を見開いた
(なんで、嗤って――――)
「え?」
肉を突き破る鈍い音共に、釘崎は腹部から焼かれるような激しい痛みを感じる。釘崎は自らの腹部へと視線を向ける
そこには自らの腹を突き破る黒い手があった
「ひっかかったぁ」
(ク、ソが)
釘崎の視界が暗転した
「俺がお前達を終わらせる」
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BADENDルートは
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あり
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なし