だが、突然プテラに襲われてしまう。
紆余曲折を経て追い払うも、メガプテラが襲来。
戦えるポケモンが全滅するもデンヂムシがクワガノンへ進化する。
そして、メガプテラとの空中戦へ繰り広げるのだった。
「ブウゥラァァッ!!!」
そうこうしている間に、メガプテラは戦意を取り戻し、怒り狂ったような眼差しをクワガノンに向けながら、ドラゴンクローの体勢を取りつつ下降して来た。
「まもるスタンバイ!!
3…2…1……ゴー!!」
「ガノン!!」
クワガノンは合図とともに、謎のバリアを展開。
攻撃を食らう寸前でまもるを繰り出すことで、ワザを出した隙を減らすテクニック“ジャストシールド”を成功させた。
「アクロバット!!」
「ガノッ!!」
クワガノンはすぐさま青い光を身に纏い、メガプテラに突進する。
「ブラァッ…!!?」
メガプテラは直撃を諸に食らい、上空へと吹き飛ぶ。
ひこうタイプのアクロバットは、いわ・ひこうタイプのメガプテラに対して、効果はいまひとつ。
しかし、ドラゴンクローの後隙で、十分な防御体勢を取る猶予を与えなかったために、かなりのダメージを与えられたのだ。
「コスモッグ、危ないから一旦戻っててね。」
「モグ!」
アイは今の立ち位置では、メガプテラの行動を把握し辛いと感じ、モンスターボールにコスモッグを戻し、柵まで走った。
そしてその柵から身を乗り出し、新たに覚えたワザを指示する。
「行くよ!むしのさざめき!!」
「クワァァァァァァッ!!」
クワガノンは翅を高速で振動させ、激しい衝撃波を繰り出す。
初めて繰り出すワザだということを、感じさせないくらい、申し分のない威力だ。
「ブラァ!!」
体勢を立て直したメガプテラはすぐさま、ねっぷうで反撃する。
二つのワザは互いにぶつかり、競り合い、爆発し、凄まじい爆音と爆煙を起こした。
「ブラァァ!!」
メガプテラは奇襲を仕掛けるチャンスと思ったのか、ドラゴンクローの体勢を取りつつ、自ら爆煙へと突っ込む。
「クワガノン!でんじ………」
「ブラァァァ!!」
メガプテラはアイの指示を遮るように、高速でクワガノンに近づき、ドラゴンクローをお見舞いする。
「ガノ…!?」
「なっ…!クワガノン…!!」
クワガノンは凄まじい勢いで、近くの壁へ叩き付けられてしまった。
「ブラァイ!ブラァァイ!!」
メガプテラは勝利を確信してるのか、弱ったクワガノンを甲高い声を上げながら見下している。
(流石メガシンカポケモン…。
油断しちゃ駄目か…。
油断は禁物。
サトルよく言ってたな…。
『調子に乗りやすいからチャンスの時こそ真剣にな』っぽいこと…。)
アイは両頬を叩き、両手でガッツポーズを作り気合いを入れると、クワガノン……そして自分自身に叫んだ。
「よし!
本気で行くよ!!クワガノン!」
「ガノッ!!」
クワガノンはアイの言葉を受け取ると同時に、元気を取り戻し、再び翅を動かし、飛び始めた。
アイの気持ちの変化を感じ取ったのか、さっきよりも表情がキリリとしている。
「ブライ!!」
そんな様子を見るや否や、メガプテラは上昇し、青白い光を自身に集中させる。
その動きを見るなり、アイは呟く。
「ゴッドバードか…。」
わからない筈がない。
彼女を限界ギリギリまで追い込んだワザは、予備動作から何まで、すでに脳裏に焼き付いていた。
アイはあの時の恐怖を思い出し、身震を覚えた。
だが、次の瞬間、アイはクワガノンにこう伝えたのだ。
“満面の笑み”で。
「クワガノン!今から、スッゴいの来るよ!
だからさ………楽しも!本気で!!」
「ガノン!!」
クワガノンは何の戸惑いも見せず、アイの言葉に素直に頷いた。
「ブラァァァァァ!!」
メガプテラは青白い光を解き放ち、眩い金色のオーラを身に纏ったと思えば、翼を折り畳み、すぐさまクワガノンに向かい降下する。
激しい風圧と共にクワガノンに襲い掛かるその姿はまるで、隕石が落下しているかのよう。
「はーぁ………ふーぅ…。」
アイは深呼吸して、意識を集中させる。
メガプテラの位置を正確に判断し、的確なタイミングで指示を出せるように。
「今だ!メガプテラに突っ込んで!」
「ガノン!」
クワガノンは指示通り、メガプテラに向かい全速力で突進する。
ワザも使わず無防備な状態。
このままでは、直撃を食らい、今度こそ倒されてしまう。
「ラァァァァァァッ!!」
そんな真正面から突っ込んで来るクワガノンに、対抗意識を燃やしたのか、メガプテラは更にスピードを上げる。
一気に両者の距離が縮まる。
緊張の一瞬。
それなのに、アイは笑っている。
(やっぱり、好きだ。この感じ。
クワガノンと一緒に強くなってるのが分かる。
だから、私は……私達は…………絶対に勝つ!)
ギリギリな状態だからこそ、心と心が繋がる。
真剣だけど、やっぱり楽しい。
だから自然と、笑みが溢れるのだ。
「今だっ!風に乗ってッ!!」
「ガノッ!!」
クワガノンは指示と同時に、キリモミ回転をしながら全身の力を抜く。
刹那、ゴッドバードの風圧に押され、クワガノンはメガプテラの真横に避けることに成功した。
「ブラァァァ…!!?」
メガプテラは、突然の事態に困惑を隠せない。
今までこのワザを躱されたことがなかったのか、リカバリーがうまくいっていない。
アイはその隙を見逃さない。
「アクロバットッ!!」
「ガノンッ!!」
クワガノンは青い光を纏いながら、メガプテラの背中に激しい一撃をお見舞いした。
そして、いつ反撃されるかわからないため、上昇して距離をとる。
「ブ……ラァァァァァ……!!!」
メガプテラは体勢を立て直したと思えば、奇声をあげ、青白い光を身に纏う。
(またか……でも、今なら行ける!)
それを見て、アイは握り拳を作り、ニッと笑う。
「ブルゥラァァァァァァァッッ……!!」
メガプテラは、怒気を込めた激しい咆哮をしたと思えば、金色のオーラを纏ってゴッドバードを繰り出す。
「クワガノン!飛び回って撹乱だぁ!」
「ガノッ!!」
クワガノンは、上下左右、空間をフルに使いメガプテラの前をアクロバティックに飛び回る。
スピードは然程に速くはないが、機動力に長けるその動きを読むのは、不可能に近い。
「ブラァァァァァァッ!!」
メガプテラは、最初は目でクワガノンの動きを捉えようとしていたのだが、無理だと判断したのか、力任せに突進する。
「(掛かった!)クワガノン!避けてさっきのワザ行こう!!」
「ガノッ!!」
「ブラッ…!?」
無鉄砲な攻撃の回避など、クワガノンにとっては容易。
確実且つ迷いのない動きで、メガプテラの攻撃の軌道から逸れると、顎の間に電気エネルギーを収束させる。
「ガァァァァ………ノンッ!!」
そして、集めた電気を太いビーム状にして発射。
これこそ、先程巨大なストーンエッジを一撃で粉砕した、でんきタイプ特殊最強ワザ“でんじほう”である。
「ブラアァァァァァァァァァッ…!!?」
でんじほうは、激しい電撃を纏いながら金色のオーラを意図も容易く打ち破り、メガプテラの横っ腹に凄まじい一撃を与えた。
効果はバツグンなワザを食らったメガプテラは、なんとか耐えてはいるが、動きもぎこちなく、戦闘不能寸前だ。
「よし!いいよ!クワガノン!!」
「ガノン!!」
アイとクワガノンは、その威力にとても良い手応えを感じる。
それに、アイは自身の作戦の成功に密かに喜んでいた。
(作戦通り!やっぱりあのメガプテラのゴッドバードは、横に弱いんだ!)
最初に勘付いたのは、クワガノンが進化した直後。
風圧やオーラから想像できる“正面からの威力”に反し、“横側に掛かるエネルギー”はアクロバットで簡単に掻き消すことができた。
それは、1でも大きなダメージを与えるために、“1番威力の出る場所”に、“他の場所のエネルギー”を集中させるから。
このメガプテラのように、パワー重視なバトルスタイルをとるポケモンがよく行うこと。
サトルがよく、これを利用して反撃を食らわせていたので、アイも見ている内に自然と会得していたのだ。
「ブッ…………ブラァァァァ…!」
でんじほうの追加効果で“まひ状態”となっているメガプテラ。
弱みを見せないよう、大きく咆哮して威嚇するが声に覇気がない。
「ブラァ…!」
それでも、諦めることは知らず、ドラゴンクローを繰り出す。
「えっ……まだ攻撃してくるの!?」
流石のアイも、この執念には圧倒される。
それでも、負ける訳にはいかない。
メガシンカポケモンに勝利し、更なる高みへ進むためにも。
「これで決めるよ!でんじほう!!」
「ガノッ!!」
クワガノンは気合いを込め、顎の間に電気を収束させる。
「ブ……ブラァ………!」
ここで、メガプテラに電撃が走る。
状態異常のまひで、体が痺れて動けなくなったのだ。
「今だ!行けぇ!!」
「ガノッ!!」
アイはこの、またとないチャンスを逃さない。
即座にクワガノンに指示をし、クワガノンも直ぐに収束させた電気を発射させる。
電気を帯びた極太ビームは、メガプテラに向かい突き進む。
狙いも正確、威力も十分。
アイ達の勝利は目前………
かと思ったその時。
「フラァァァァァァァイ!!!」
天空より、籠りの無い鋭く激しい咆哮が聞こえたと思えば、その声の主と思われる一匹のポケモンが、メガプテラを庇う形で、でんじほうの前に躍り出た。
そのポケモンは、一切手を加えずにでんじほうを無効化した。
行きどころがなくなったでんじほうは、暴発し、激しい爆煙を起こし、そのポケモンを飲み込む。
「なっ…!?」
「ガノ…!?」
「ブラァ!」
この突然の事態に、その場に居合わせたもの全員が驚愕する。
敵か味方か、それとも第三の勢力なのか。
全てが謎の乱入者。
その者が、正体を明かすのに時間はかからなかった。
「フラァァァァ!!」
鋭い咆哮と共に、爆煙を払い姿を現したのは、せいれいポケモンの“フライゴン”
「フラッ……!」
「ブ………ブラァ…。」
フライゴンは、メガプテラに睨みを利かす。
すると、さっきの威勢はどこえやら、メガプテラは尻込みをして、崖の下へと逃げていった。
「クワガノン、気を付けて…。」
「ガノ…。」
アイとクワガノンは臨戦態勢をとる。
あのフライゴンからは、悍ましい雰囲気を感じさせる。
少しでも弱気を見せれば、すぐに襲われるのではないかと思わせるくらい。
フライゴンは、メガプテラの動向を目で追うと静かに口を開いた。
『阿呆な輩だ。
ビースト反応のみで無闇に襲い掛かるとは。』
「えっ…?」
それを聞いたアイは、ふと違和感を覚えた。
しかし、その違和感の正体を考える暇などなかった。
フライゴンは、赤いカバーに覆われた眼を鋭くさせ、アイを睨み付けると、目の前に急接近してきた。
そして、アイの目と鼻の先で急停止した。
「…っ!」
間近で鋭い瞳に見据えられたアイは、恐怖で体が動かなくなっていた。
言葉を発しようとしても声がでない。
アイはただ、微かに体を震わせながら潤んだ瞳で、フライゴンを見返すことしかできなかった。
クワガノンも、溢れ出る威圧感のせいで、何もできないでいた。
この場は主導権は完全にフライゴンが握ってしまった。
そして、更に威圧をかけるようにアイをこれ以上ないほど凝視すると、開口一番にこう言った。
『娘。単刀直入に告げる。
お前が従えるビーストを、私は駆除しに来た。』
「(ビースト?
ビーストって“ウルトラビースト”のこと?
でも、私、ウルトラビーストなんて持ってない。)
……なんの………ことですか……?」
アイは掠れて細く小さな声で聞き返す。
確かにウルトラビーストとは対峙したことはあるが、捕獲した覚えはない。
それに対し、フライゴンは呆れたように溜息をつき、いかにも面倒くさそうに説明する。
『UB:NEBULA
またの名は、ほしぐも。
それだけ言えばわかるだろ。』
(ほしぐも…。
………っ!もしかして……!)
フライゴンが求める者を導き出すのに、時間はかからなかった。
星のようにキラキラし、雲みたいにフワフワした身体。
信じたくはないが、他のウルトラビースト同様、謎に包まれ、空から降ってきたという共通点を持つあのポケモン。
「(コスモッグ…!!
違う………コスモッグは、ウルトラビーストなんかじゃ……!)
だめっ!!」
瞬間、アイは自分でも驚く程の大声で叫んでいた。
そして思わず、腰を捻り手で覆い、コスモッグのモンスターボールを隠していた。
『なるほど。それか。』
しかし、その行為はまるで逆効果。
私はビーストを所持していて、そのビーストはこのモンスターボールに入っていますよ
なんて教えているようなものだ。
そしてそれは、一瞬でフライゴンに伝わってしまった。
『娘。お前はソイツを庇いたいようだが、ソイツは世界を破滅に導くウルトラビースト。
早急の駆除が、望ましい!』
フライゴンは口にエネルギーを溜め、それを龍のような形にし、勢いよく発射する。
“りゅうのはどう”だ。
「うわぁぁぁぁ!!」
りゅうのはどうは、アイの足元に着弾し、その勢いでアイは吹き飛ばされてしまう。
「ガノッ…!!」
トレーナーの危機を感じたクワガノンは、アクロバットでフライゴンに攻撃を仕掛ける。
『……愚か者め。』
フライゴンは、尻尾を鱗のようなエネルギーを纏わせて、クワガノンを叩き付ける。
「ガッ…!」
クワガノンは、吹き飛ぶことなく、何故かモンスターボールの中に戻ってしまった。
「クワガノン……!?」
アイは、一瞬なにが起こったのかが分からなかったが、すぐにワザの正体に気付いた。
「“ドラゴンテール”か……。
ん?それじゃあ、まさか!!」
ドラゴンテールは、相手を“強制交代”させるワザ。
「だめ!!」
アイの手を抜けるように、青い光がモンスターボールから飛び出す。
アイの殆どのポケモンが戦闘不能の状態に陥っており、唯一、元気に青い光を振り払い登場するポケモンは………
「モグ!!」
コスモッグだけだった。
『その容姿。たしかに小娘ならば護りたくなる存在だな。
だが、私は油断せぬ!
この星の未来のため、消えてもらう!』
フライゴンは、コスモッグの姿を確認するなり、りゅうのはどうを発射した。
先程のものとは違い、かなり巨大で恐ろしさも感じさせる。
「コスモッグ…!はねる…!!」
アイは咄嗟の判断で、指示を出した。
コスモッグのワザが少ない故、行動パターンが決まっているからこそ考える前に判断を下せたのだろう。
「モグ!」
コスモッグははねるを使い、軽々とりゅうのはどうを躱した。
日頃のバトルで培った、躱す技術は並のものではない。
りゅうのはどうは、そのままの勢いで岩壁に着弾し大きな揺れと爆発を起こした。
生じたクレーターは、2メートルを優に超すほどであり、フライゴンの本気が伺える。
フライゴンはしばらくの間、コスモッグを眺めた後、アイを軽蔑の目で睨んだ。
『邪魔をするか……小娘。
ソイツの“愛敬”という名の策に嵌ったか…。
今、目を覚ましてやろう。』
フライゴンは息を吸い、再び口にエネルギーを収束させる。
自らの、信じて疑わない一つの“正義”を基に、目の前のビーストを倒すため。
「フラァァァイ!!!」
フライゴンは、けたたましい咆哮と共に、エネルギーの弾を空高く打ち上げた。
「あれは…!!」
アイは、そのワザに見覚えがあった。
数々のドラゴンポケモンが駆使し、その度にアイを苦戦させたドラゴンタイプ最強クラスのワザ。
『栄光ある我等の未来へ。
食らうがいい!“りゅうせいぐん”!!』
弾は空中で破裂し、そこから生み出された複数の隕石がアイとコスモッグに襲い掛かる。
「コスモッグ…!来るよ…!!」
「モグ!!」
アイはりゅうせいぐんの弾道をよく観察して、コスモッグが最低限の動きで避けられるよう指示を出す。
コスモッグはその指示をよく聞き、はねるとテレポートをうまく使って、りゅうせいぐんを全て躱した。
標的を捉えることに失敗した隕石たちは、無作為に岩壁へと着弾し、大量の土煙を上げる。
その土煙は崖全体に広がり、その場にいるものの視界を完全に遮断させてしまった。
この状態では、避ける合図がうまく出せない。
「けほっ………。
コスモッグ…!一旦戻っておいで…!!」
「モグゥ!」
コスモッグはテレポートを使い、アイの胸元にワープした。
そしてアイは、いつフライゴンの攻撃が来てもいいよう、コスモッグをギュッと抱き締める。
このとき、コスモッグから青白い光が、うっすらと流れ始めた。
『ほぅ……。
あの小娘。あそこまでビーストと同調するとは…。』
フライゴンはアイの対応力に素直に感心した。
しかし、ビーストへの憎悪の念は収まることを知らない。
(ニンゲンであろうと、ウルトラビーストに加担するものは、世界の仇…!
私の手で制裁を下してやる!!)
静かに上昇したと思うと、空を滑るように真っ直ぐとアイに向かい突進する。
フライゴンは元々、砂漠に棲むポケモン。
土煙の中でもなに不自由なく、対象の位置を捉えられる。
フライゴンはそのままの勢いで、右手に炎を纏わせ、攻撃の体勢に入る。
“ほのおのパンチ”だ。
「えっ…。」
煙の中から、眼前へと不意に現れたフライゴンに、アイは反応できなかった。
恐怖がアイを射竦める。
どうしようもない絶望が襲い掛かった。
それでもアイは、反射的にコスモッグを護るようにフライゴンに背を向け、これ以上ないくらい、ギュッと抱きしめた。
「モグッ…!」
アイの気持ちを感じ取り、コスモッグは更に輝く。
そして、うっすら涙をみせながら両目を瞑るアイを見て、今までまるで出さなかった真剣な表情をした。
『娘!お前の決断が誤りであったと、身をもって知れ!!』
フライゴンはアイを鋭く睨み付け、炎の拳を大きく振りかぶる。
『地獄で踠き苦しむがいい!!!』
そして、アイの背中に風穴を開けようとばかりに、拳を突き付けた。
その瞬間だ。
「モグゥゥゥーーーッ!!!」
コスモッグは叫び声と同時に、中心からドーム状に、眩い青白い光を放ち始めた。
『なにッ…!?』
フライゴンは突然の発光に目が眩み、スピードを落としてしまう。
だが、“フライゴンの正義”は簡単には砕けない。
『くッ…!!ざけんな!!!』
邪魔をされて、怒りが最高潮に達したのか、理性を感じられない程の表情で、光のドームに対して、力任せにほのおのパンチを突き付けた。
その威力は凄まじく、激しい衝撃波を生み出し、崖の一部が崩れかけ土煙をあげる。
谷の下側から大きな上昇気流が流れ、煙を払う。
そして、そこに残ったのは“炎の拳をつき立てるフライゴンとそれを受け止める光のドームの姿”だった。
『くっ……流石ウルトラビースト…!!
私の拳を受け止めるとはなぁッ!!』
フライゴンは更に力を込め、光のドームの破壊を図る。
しかし、外見は薄くすぐに破れそうなのにも関わらず、鉄壁を相手にしているかのようにびくともしない。
『ざけんな………!!
“ビーストキラー”をナメんなよッ…!!!』
フライゴンは怒りと焦りを込めた叫びと共に、突いた拳をそのままに、りゅうのはどうを発射する。
その瞬間だ。
光のドームの中心から大爆発ように、大きな衝撃波が放出された。
『何ィッ…!!?』
衝撃波は、りゅうのはどうを掻き消し、一瞬で周りの地形をフライゴンごと抉り取るように吹き飛ばした。
崖は大きく崩れ、岩が雪崩のようにフライゴンに降り掛かる。
『グワッァ…!!』
不意な衝撃を受けたフライゴンは、対処に遅れ巻き込まれてしまい、岩石の山に埋もれてしまった。
力を使い切った光のドームは、アイとコスモッグをのみこみ、とても小さな光の玉に収束される。
そして、光の粒子をもらしながらしばらく辺りを漂うかと思うと、大空へと飛び上がった。
だが、これで事が終わった訳ではなかった。
『……………テメェ……』
岩石の山から、うっすらと声が聞こえる。
憎悪と執念に満ちた、静かでいて激しい声が。
そして、岩石の山から激しい光が放出されると思うと、
『逃がすかよッ!!』
フライゴンが大きな翅で岩石を吹き飛ばし、すでに発射準備が出来ていたりゅうせいぐんを、空高く撃ち上げた。
りゅうせいぐんは物凄いスピードで光の玉より先に上空へと辿り着くと、大きく割れて四方八方あたり構わず降り注がれた。
光の玉は当たらないように逃げ回る。
しかし、無数に襲いかかるりゅうせいぐんにはどうすることもできず、ついには被弾し、光の粒子を撒き散らしながら、谷の外側へと墜落していった。
『どうだ!思い知ったか!!ザコがッ!!』
フライゴンは、力なく墜落していく光の玉を見届け声を荒げて、敵を罵倒し自分を誇る。
そして、すぐさま追いかけようとしたが、岩石を吹き飛ばしたときに痛めたのか、翅が上手く動かせず飛べなかった。
『クッ………だがもういい!
きっと今頃あのガキは全身傷だらけとなり身動きできずにいるだろう!!
そして、そのままポケモンの餌となっているはずだ!!
そうなれば、依りどころを喪ったビーストは何をすることもできない!!
我々の勝ちだ…!!
フハハ……私も気を荒げ過ぎた…!
ここで瞑想でもし、気を休めるとしよう…!
フ………ハハハ……フハハハハハハハハ!!!』
ーーーーーあれ…わたしどうしたんだろ
プテラ達と戦ってたら…フライゴンが襲ってきて……………
そのフライゴンがコスモッグを……
はっ……コスモッグ
コスモッグ
ねえ、どこ
どこにいるの
あ、そんなところに
よかった
ほら、おいで
ほら
…………
コスモッグ
なんで
えっ……ちょっとコスモッグ
どこ行くの
危ないから
なんで…
いっちゃだめ
戻ってきてよ
なんで…いっちゃうの…
約束したのに…
あなたを護るって…約束したのに…
なんで…
ねえ…
「コスモッグ…!!!」
悲痛な叫び声と共に、アイは目を覚ました。
全身が汗でびっしょり濡れており、呼吸も荒々しい。
目の前には古い木の屋根の天井が広がり、体にはサラサラする、薄くしたモンメンの綿の繊維を感じる。
さっきみていた夢のことは覚えておらず、自分がなぜ寝ていたのか、本当に寝ていたのかさえも分からなかった。
アイはしばらくの間、荒い呼吸のまま仰向けを保ちつつ何も考えず、ただ真っ直ぐと視線の先をぼんやり見つめていた。
「起きたか。娘。」
反射的に声をする方を横目で見ると、気難しそうな一人の老婆が、切株で作った椅子に腰掛け、何かを繕っていた。
視界がぼやけていていて、何を繕っているかはわからない。
ただ、見覚えのあるもののように感じた。
「え……あ、はい。」
今置かれている状況が呑み込めていないアイはただ、から返事するしかなかった。
それを察したか、老婆は気怠そうな表情をしてから、裁縫の手からは目を離さず淡々と話した。
「ここはサイダンタウン。
大昔に異世界の獣との交流を図った場所じゃ。」
「異世界の獣と……。」
異世界の獣。
気になるその言葉を、アイはつい復唱した。
「はっ……!!」
そして、瞬時にそれをウルトラビーストに変換し、コスモッグのことを思い出した。
「そうだ!コスモッ……………っ!」
そして考えるより先に行動しようと、起き上がって薄い布団を撥ね除けようとしたが、体が思うように動かなかった。
突然、心臓に風穴が空いたかのような痛みが走ったと思えば、全身がズキズキと痛み始めた。
寝ていたときにはまるで気づかなかったが、体の数カ所に切り傷や何かで打ったような痛みを感じる。
アイはベッドの上で、布団を掴んで蹲り、涙ぐみ、痛みに耐えるしかなかった。
「無理をするでない。
お主は峡谷の近くで傷付き、倒れておったのじゃ。」
老婆は心配する素振りも見せず、繕いの手を止めずに言う。
アイは必死に痛みを堪えて目を開き、涙でぼやける老婆を見ながら、震える口で尋ねた。
「おばあ………さん……。
コスモッグっていう………ポケモン…………みませんでした……?
私の……大切な……仲間なんです………。」
老婆はピタリと手を止め、アイの方を睨むように見詰めた。
アイはその気迫に圧倒されそうになるが、痛みで痙攣する瞼を開け、必死に視線を合わせる。
しばらく経つと、老婆はアイから視線を外し、また淡々と話し始めた。
「娘。
お主は、コスモッグをどれくらい知っておる。
あの忌まわしき、ビーストの種を。」
「……!!
コスモッグは………ウルトラビースト……なんかじゃ…………」
「黙れ、娘。」
アイは、大切な仲間を酷い言い様にされたのが許せなく、痛みでうまく喋れないが、感情的に反論する。
しかし、老婆はそれを気にも止めず一蹴し、続ける。
「お主の事情など聞いておらぬ。
そうやすやすとビーストの種の居場所を教える訳にはいかない。
お主のような、何も知り得ぬ“未熟なニンゲン”を巻き込むようなことをしては秩序が乱れるもんでな。
身体が癒えたら、すぐさまこの地から立ち去るがよい。」
老婆の話を聞いている内に、アイは自身の体が震えていくのが感じた。
それは怪我の痛みによるものではない。
「それで………」
抽象的なことしか教えられてないのに、仲間を悪く言われ、引き離そうとする理不尽に対する怒りによるものだった。
「それで……納得なんてできません……!!
コスモッグは………とても優しくて………偉いんです………!!
何も知らないのは…………あなた達の方です…………!
私は………コスモッグの…………トレーナーです………!
コスモッグを護る……………義務と…………責任が……………あります…………!
コスモッグの…………………居場所を……………教えて…………くだ……さい………。」
言い終えたアイは、ベッドから身を乗り出した状態で力なく倒れ込む。
息切れが激しく、自分の意識があるのかさえわからなかった。
その様子を見た老婆は、鍵が掛かったタンスの引き出しを開け、中から薄紅色の液体が入った小さな瓶を取り出した。
「娘。
そこまで頑固を貫き通すなら、その責任と義務とやらを妾に見せてみよ。
妾と一対一のポケモン勝負でな。」
老婆はそういうと、瓶の蓋を開けてアイの目の前に差し出す。
アイは力を振り絞り、重たい瞼を開けて、瓶とその中身を見る。
「これはしろいハーブとメンタルハーブを煎じた薬じゃ。
飲めば痛みは感じなくなる。
だが、効果が切れた後に感じなかった分の痛みが一斉に返ってくる。
最近調合されたばかりのものでな、前例はない。
効果はいつ切れるのかは不明じゃ。
妾たちも、早急にビーストの種を駆除したくての。
お主の自然治癒など、待ってはおれぬ。
どうじゃ、これを飲んで勝負するか、大人しくビーストの種を諦めるか………判断はお主に任せる。
飲むなら首を縦に、飲まぬなら横に振れ。
その位なら出来るじゃろ。」
アイに迷いはなかった。
仲間のためなら、後先考えず突っ走り自己犠牲さえも厭わない。
それが、アイのいいところでもありわるいところでもある。
アイはゆっくりと首を縦に振った。
仲間を護るためなら、どんなものでも怖くなかった。
薬が切れた後、痛みがどのくらい及ぶのか。
中毒にならないのか。
痛みが強すぎてショック死しないだろうか。
アイはそんなことは考えなかった。
コスモッグを護る。
そのことだけにしか、頭が回らなかった。
「うむ。
その責任と義務というのは、本当らしいな。
いいか、後悔しても知らぬぞ。」
老婆はそういって、アイの顎を持ち上げると、口に薬品を注いでいった。
「けほっ…!がほっ……!!」
意識が朦朧としている中なので、途中で数回むせてしまったが、瓶の中の液体を全部飲みきった。
するとどうだろうか、一瞬のうちに全身を包んでいた痛みがきれいサッパリなくなり、手足が自由に動かせるようになっていた。
アイはさっきやろうとしたみたいに、布団を撥ね退け、立ち上がった。
当然痛みはなく、体も自由に動いた。
よく見ると、上半身に服がなく、包帯が巻かれているだけになっているが、動く分にも支障がなく、形も綺麗なので取れることもないだろう。
「お主の上着は妾が預かっておる。
所々破れておったからな。」
「は…はぁ。ありがとうございます。」
アイは、老婆に言われるまで自分の容姿に気付かなかったため、マジマジと包帯に巻かれた体をみながらから返事をした。
「妾の名はハープ。
お主はアイと言ったか。」
「は、はい。
どうして、私の名前を?」
「では、こっちじゃ。
着いてくるがいい。」
老婆は一通り自己紹介を終えると、アイの質問に答えもせず、杖を持ち出しゆっくり靴に履き替えると、玄関の扉を開け家を出た。
「えっ…あっ、はい…!」
アイは返事をしてから深呼吸をし、真剣な表情でハープを追いかける。
玄関に置いてあった自分の靴を履き、家を出ると、大きなバトルフィールドが広がっていた。
「うわあ。」
「どうしたのじゃ、こっちじゃぞ。」
「えっ?」
アイが感心しながらバトルフィールドを見ていると、ハープは家の裏にある森の方へと誘導した。
「ここじゃないんですか?」
「うむ。」
アイの率直な質問に、ハープは理由もいわずただ返事をするだけだった。
アイは首を傾げ、疑問を抱きながら素直にハープに付いていった。
杖を突き、ゆっくり歩くハープに連れられ、同じような景色が続く森の中を歩くこと数分。
不自然に、広く切り開かれたスペースに辿り着いた。
それを見た途端、アイは気が引き締まる。
トレーナーの性か、このスペースを一瞬でバトルフィールドとしての認識ができた。
自然に囲まれたこの場所は、先程のフィールドより静かでどこか神聖な感じがした。
「ここじゃ。
………ほれ、位置につけ。」
「はい……!」
アイは言われる通り、ハープと向かい合う形で、バトルフィールドの逆側に立った。
ハープはそれを確認すると、杖を地面へと押し込んだ。
すると、先端についていたスイッチが作動したのか、ホッピングのように小さく上へ跳ね、持ち手のところからモンスターボールが出てきた。
「形式は、先に話した通り一対一じゃ。
妾が勝てばビーストの種は駆除。
お主が勝てば、解放。
それでいいな。」
「はい!
よろしくお願いします!」
「うむ。
では参るぞ、ゴローニャ。」
「ゴォォニャァ!!」
ハープのモンスターボールから出てきたのはメガトンポケモンのゴローニャだ。
岩石に覆われた丸々としたボディ。
とても厳つく、パワフルな見た目だ。
(ゴローニャか……。
ここはサニーゴで行きたいけど、どのくらい時間が経ってるか分からない…。
連戦になっちゃうけど、ここはこの子に任せるしかない…!!)
アイは、覚悟を決めモンスターボールを一つ手に取った。
「いけ!クワガノン!!」
「ガノンッ!!」
アイが出したのは、てもちの中でまだ戦闘不能になっていなかったクワガノン。
メガプテラやフライゴンとの戦いで体力は消耗しているはずだが、アイの覚悟を受け取ったクワガノンは、そんなことを感じさせないくらい力強く吠えた。
今回は野良試合と同じルール。
先にポケモンを出した方が先手となる。
ハープはクワガノンをじっくり観察し、作戦を練る。
アイも深呼吸をして、精神を集中させた。
二人の間に谷からの風が吹く。
その風に煽られた一枚の葉っぱが、木からヒラヒラとゆっくりと地面へと落ちた。
そして、偶然か否か、葉っぱが落ちたと同時にハープは杖を強く握り、ゴローニャに指示をだす。
クワガノンvsゴローニャ
「ゴローニャ、すなあらしじゃ。」
「ゴニャ!ゴニャァァ!!!」
ゴローニャは手から砂のエネルギーを出し、辺りに振り撒く。
エネルギーは、上空で破裂しバトルフィールドの天気をすなあらしに変えた。
そして、その砂の一部はゴローニャの体へ、鎧のように纏わり付く。
「すなあらしか……。
(厄介だけど、気にしている余裕はない…。
薬が切れる前に、一気に攻めなきゃ…!)
クワガノン!むしのさざめき!!」
「ガノン!!」
クワガノンは高速で翅を擦り合わせ、音による衝撃波を出す。
むしタイプのとくしゅワザ最強いりょくは伊達じゃない。
衝撃波はすなあらしを物ともせず、まっすぐゴローニャへと進んでいく。
「ゴニャ。」
しかし、ゴローニャは避ける素振りを見せない。
棒立ち同然の姿勢で衝撃波をモロにくらった。
「ニャァ…!」
だが、ゴローニャは仰け反りもしなければ、痛がる素振りもみせない。
それどころか、余裕を見せつけるかのようにニヤリと笑ってみせた。
「効いてない…!?」
「ガノッ……!?」
アイとクワガノンは、驚愕を隠せない。
威力やタイプ相性、互いのポケモンの基礎能力。
その全てを考慮し、一番相手にダメージを与えられるであろうワザを指示したのにも関わらず、ゴローニャはまったくの無傷。
その事実に、薬が切れる前に勝負を付けたいアイは激しい焦燥感にかられるのだった。
(あのゴローニャ、かなり鍛えられている…!
確かに、すなあらしでいわタイプのとくぼうは1.5倍になるけども、むしのさざめきが全然効かないなんて……!!)
アイは焦りを積もらせながらもフィールドを見渡し、次の一手を考える。
対するハープとゴローニャは、直立不動のまま動かない。
まるで、アイとクワガノンの次の動きを待っているかのように。
「(だったら、効果はバツグンのワザで…)
行け!あなをほる!!」
「ガノッ!!」
クワガノンは、キリモミ回転をしながらドリルのように地面を掘り進む。
進化して体型が変わっても、今まで使ってきたワザの感覚は忘れない。
今までと同じ、否、それ以上のパワーでゴローニャに向かい地中を進む。
「ゴローニャ、てっぺきじゃ。」
「ゴニャ!」
ゴローニャは力を込めると、体を一瞬だけ鉄のようなエネルギーを纏わせて、ぼうぎょをぐーんと上げる。
「ガノンッ!!」
その直後に、クワガノンは地上に出るパワーを使ってゴローニャに攻撃。
ワザを使った着後で、構えの姿勢を取らせる前に攻撃を当てることができた。
「ゴニャァァァァッ!!」
流石にこの攻撃には耐え切れなかったか、ゴローニャは後ろに仰け反り、仰向けになる。
「むしのさざめき!!」
「ノォォォン!!」
その隙を見逃さず、上空に退避したクワガノンは翅を高速で振動させ、音波をゴローニャに浴びせた。
だが先程同様、ゴローニャの仕草からはダメージが入ったのが確認できない。
それどころか、手足にグッと力を入れ、“あなをほるを当てる前よりも元気になっているようにも見える”。
「ストーンエッジじゃ。」
「ゴニャ……!」
ゴローニャは起き上がり、両手から自身と同じくらい大きくて鋭利な巨石を作りだす。
「ゴォォォニャァァ!!!」
そして、叫び声と共に巨石をクワガノンに投げ飛ばす。
「アクロバットで躱して!!」
アイは、クワガノンがワザの使用着後の硬直で、普通に避けるのでは直撃を間逃れないと思い、機動力を高めるアクロバットを使わせる指示をした。
「ガノン!!」
クワガノンは青白い光を出して、一瞬のうちに方向転換し、ストーンエッジを避けることができた。
(あのゴローニャは多分、ぼうぎょを削ってとくぼうを高めてる…!
だったら、これでも行けるはず…!!)
アイは、むしのさざめきとあなをほるのダメージ量から、ゴローニャの能力値を予想した。
ぼうぎょを犠牲にし、とくぼうを限界まで高める育て方をしてる。
そう判断したのだ。
「クワガノン!そのまま行け!!」
アイは、回避で使ったアクロバットをそのまま攻撃に移すことにした。
効果は今ひとつでも、あなをほるより連続でワザが出せ、体力の消耗も少ない分、合計ダメージが期待できるからだ。
「ガノン!!」
クワガノンは光を纏ったまま、ゴローニャに突進する。
「てっぺき。」
「ゴニャ!」
ハープは、アイとクワガノンが何をしようとしているかが、一瞬でわかった。
再びゴローニャにてっぺきを指示し、ぼうぎょをぐーんと上げる。
これから起こりうる猛攻を耐え忍ぶために。
「ガノッ!ガノッ!!ガノン!!!」
「ゴニャ…!ゴ……!ゴニャァ……!」
クワガノンは、アクロバットで目にも止まらぬ連続攻撃を仕掛ける。
一発一発、確実に丁寧に。
ワザが当たる度に、ゴローニャは蹌踉めき、必死に攻撃を耐える。
むしのさざめきのときの余裕など微塵も感じさせないその姿に、アイは笑みを浮かべた。
(行ける…!これなら……倒せる…!!
最初はすっごい焦ったけど、ただの引っ掛け問題だったとはね…!!
これで、コスモッグも救えるんだ!!)
アイは焦りも緊張感も消え、思わず安堵感からホッと一息ついた。
その瞬間だ。
「……っ!」
「……ッ!」
ハープは、カッと目を見開く。
それと同時にゴローニャも同じように目を見開き、ワザを受けてもノーリアクションで、片手で強引にクワガノンを掴んだ。
「ガノッ!?」
「えっ!?」
思いもよらない事態に、アイとクワガノンは驚きで一瞬思考が停止してしまう。
その一瞬が、バトルに及ぼす影響は図りしれないものなのだ。
「ストーンエッジ…!」
ハープは一瞬を見逃さず指示を出す。
「ゴニャアアアアァッッ!!」
ゴローニャは先程の動作と違い、クワガノンを空に向かい掲げると、思いっ切り地面に向かって叩き付ける。
刹那、地面からさっきと同じような鋭利な巨石が飛び出し、クワガノンを突き刺す。
「ガノォォッ……!!」
背中に大きな一撃を浴びたクワガノンは、地面に倒れ込んだ。
「クワガノン…!!?
(なんで……ぼうぎょが脆いんじゃなかったの…!?)」
アイは、いま起こった状況が理解できないでいた。
確かに絶対的有利だったはずなのに、一瞬の気の緩みで状況が覆されてしまったのだ。
アイは“薬が切れる前にバトルに勝ち、コスモッグを助けなくてはいけない”という強い焦りから心の余裕を奪われ、“決着が付くまで緊張感を保つ”というバトルの基本を忘れていたのだ。
「大丈夫…クワガノン…!?」
「ガッ…………ノォォ…ン…!」
クワガノンはアイを心配させまいと、なんとか立ち上がり、飛ぶ。
だが、少しふらついたりして安定感がない。
それに追い打ちをかけるように、すなあらしがクワガノンに襲いかかる。
アイは、クワガノンの状態を確認すると、ゴローニャに目を移した。
構えの姿勢を取り、傷付いた様子など何一つ見えない。
まるで、今までのダメージがなかったかのように。
(おかしい……。あんだけワザを当てて、怯ませて、ふらつかせたのに、あんなにピンピンしてるなんて……。
いや、そんなことない…!強がっているだけだ…!
勝利への糸口は掴んだんだ…!
もう一度決める…!!)
アイは、強く手を握り締め自分へ自信をつける。
そして、クワガノンと互いに頷き合うと、突進と同時に指示を出す。
「あなをほる!そのまま行けぇ!!」
「ガノン!!」
クワガノンはキリモミ回転をして、ゴローニャに向かい突撃する。
本来の使用用途とは異なるが、効果はバツグンであるため、ダメージは期待できる。
この一撃で、一気に畳み掛けるつもりだ。
「ガノッ!!」
「ゴニャァ…!」
勢いそのままに、クワガノンはゴローニャの懐へと突っ込む。
ゴローニャの体が押されることはないが、歯を食いしばり必死にダメージに耐えている。
その瞬間
(……あれ、なにか………なんか変…?)
アイはふとその光景に違和感を覚えたが、その正体を考える暇はなかった。
「掴むのじゃ。」
「ゴニャ!!」
ゴローニャは急に両手でクワガノンを抑えると、回転を静止させ、上翅をガッシリと掴んだ。
このままだと、またストーンエッジの餌食になってしまうだろう。
そうなると、今のクワガノンでは耐えることはできない。
「クワガノン!
………ほうでん!!」
アイは一瞬で思考を凝らし、いわ・じめんタイプには効果なしのでんきタイプのほうでんを指示した。
「ガノン!!」
クワガノンは躊躇することなく、体からドーム状に電撃を放つ。
「ゴニャァ!」
流石にこれは判断ミスだと思ったのか、ゴローニャはニヤリと笑い、ストーンエッジを繰り出そうと重心を安定させる。
だが次の瞬間。
ゴローニャから本人からは意図しない謎のバリアが展開され、その衝撃でクワガノンを離してしまった。
「ゴニャ…!?」
ゴローニャは何が起きたかわからなかったが、ハープは違った。
(なるほどの。効果なしのワザを使えば自動的にバリアが展開される。
それを使ったというわけか。)
ハープは自身で状況を整理し、杖をカンと鳴らして取り乱したゴローニャを落ち着かせた。
(助かった……。
でも、なんとか決めないと。)
アイは、真剣な表情になりクワガノンを見詰める。
それに気付いたクワガノンはアイの方を向きアイコンタクトを取ると、頷き合い気持ちを揃えた。
「これで決める!アクロバット!!」
「ガノン!!」
クワガノンは青白い光を纒い、ゴローニャに突進する。
「てっぺきじゃ。」
「ゴニャァ!!」
ゴローニャは、自身に鋼鉄のエネルギーを纏わせぼうぎょをぐーんとあげる。
これでゴローニャのぼうぎょの能力変化は最高の6段上昇となった。
「行けぇっ!」
「ガノッ!!」
クワガノンは、今更能力変化を気にすることなく、連続でアクロバットを当てていく。
「ゴニャ……!」
やはり、ゴローニャの素のぼうぎょ力が低いのか、最初の連続攻撃のときのように、一発あたる度に大きく蹌踉めき、鳴き声を上げる。
再び有利な状態だが、アイは慢心することなく、その様子をじっと観察する。
そして再び、ある違和感を覚えた。
(やっぱりおかしい…!!
ゴローニャのあの動き、最初と全く同じだ…!
最初にアクロバットをやったとき、ゴローニャはまだ二段階しかぼうぎょがあがってなかった……
いまの状態と2倍も差があるのに…!!
まさか、今までのは全部…!!)
刹那、アイは雷に打たれたかのような衝撃を感じた。
思考回路に、とんでもない仮説が思い浮かんだのだ。
(これしかない…!
時間がどれくらい残ってるか分からない…
チャンスは一度切り…!
危ないけど、賭けるしかない…!!)
アイは真剣な表情なまま深呼吸をしてから、クワガノンに視線を送り、思いを託す。
クワガノンは静かに頷くと、アクロバットを当てる準備に掛かる。
「ガノン!!」
そして、力強い叫び声とともにゴローニャへと突進する。
ゴローニャは避ける素振りも見せない。
てっぺきで上がったぼうぎょ力で、そのまま耐え抜くつもりだ。
ここまで、今までの連続攻撃と同じ流れだ。
アイとクワガノンが、一つのアクションを起こすまでは。
「クワガノン!急停止!!」
アイは、クワガノンの攻撃がゴローニャに当たる直前に指示を出した。
「ガノン!!」
クワガノンはアイの意図が分かっていたのか、すぐに止まり、ゴローニャの目の前でワザを解除する。
「ゴニャァ……!ゴニャ…!!?」
その瞬間、ゴローニャは“まるでワザが当たったかのように”、蹌踉めき鳴き声をあげたのだった。
それは、決して反射的なものではない。
痛がる素振り、蹌踉めく足の動き、その他どれをとっても、“ワザが当たったときと全く同じ”なのだ。
ゴローニャは一瞬困惑するも、すぐに体勢を立て直し、次のアクロバットに備える。
だが、いつまで経っても突進をしてくるクワガノンの姿が見えなかった。
「………上じゃ。」
「ゴニャ…!!」
ハープはクワガノンの位置を常に目視していたため、居場所が分かっていた。
杖を使い、ゴローニャに上を見るよう促すと、すなあらしが吹き荒れる空に、ゴローニャをジッと射竦めるクワガノンがいた。
「(これで最後だ……ゴローニャの謎、解き明かす!)行け!むしのさざめき!!」
「ガノン!!」
クワガノンは翅を高速で振動させ、激しい音波をゴローニャに浴びせた。
「………ニャァ…!!」
ゴローニャは構えの姿勢を取り、また余裕綽々とニヤリと笑う。
「まだまだ!行けぇ!!!」
「ガノン!!」
それでも、クワガノンは音波を浴びせ続ける。
体力の消耗は激しいが、威力を落とすことなく、アイを信じて翅を振動し続ける。
「無駄じゃ、娘。
そんな技など効かぬ。」
見兼ねたハープはアイに忠告する。
静かで落ち着いた、それでいて威厳のある声で。
並のトレーナーなら、その迫力に圧倒され気負けをしてしまうであろう。
だか、このときのアイは違う。
ハープの静かなる威圧には呑み込まれず、クワガノンに思いを託し、結果を待っていた。
作戦が必ず成功すると信じて。
その瞬間、事が動いた。
「ゴ…………ゴニャアァァ……!!」
さっきまで余裕を見せていたゴローニャが、急に顔を歪ませ、後ろに仰け反り、激しい音と共に背中から倒れた。
その倒れ方は、最初にあなをほるのときよりも派手で、自然で、一切の違和感のないものだった。
「アクロバット!!」
アイはすかさず、倒れた隙をつきアクロバットを指示する。
「ガノン!」
クワガノンはすぐにむしのさざめきをやめ、青白い光を纒い、アクロバットに移行する。
「ストーンエッジじゃ。」
ハープはストーンエッジで対処しようとするが、体力が必要なこのワザでは、厳しいダメージを受けた今のゴローニャでは防御に間に合わない。
「ガノッ!!」
そして、ゴローニャが巨石を生成する前にアクロバットがヒットする。
しかし、無防備の状態で攻撃が当たったにも関わらずゴローニャは痛がりもしなければ、攻撃が当たったことにさえ気が付いてないようだった。
まるで、“今までアクロバットを受け続けていたときの反応が嘘だったかのように”。
「ゴニャッ…!!」
ゴローニャは、クワガノンに向かって巨石を投げ付けるが、仰向けの状態では狙いが定めにくく、クワガノンの真横を通り抜けていった。
それを見てアイは小さく微笑むと、自信満々な表情で口を開く。
「やはりそうでしたか…。
今までワザを受けていた時の反応は全部………“演技”だったんですね!!」
そんなアイと裏腹に、ハープは無表情のままなにも言わない。
言い返せない訳ではない。
むしろ、アイが気付くのをもとから分かっていたかのようだった。
それに気付いてか否か、アイは続ける。
「おかしいと思いました。
アクロバットやあなをほるのような ぶつりワザと、むしのさざめきの とくしゅワザの反応が違い過ぎます。
それに、てっぺきでぼうぎょが上がっているのにゴローニャのやられ方が全く同じだった。
ハープさん。貴女はゴローニャに演技をさせることで、私にゴローニャが得意なぶつりワザを攻撃させるように誘導した違いますか…!
一回目のときのように、ストーンエッジを確実に当てるために!!」
その自信ありげな言葉をハープは終始無表情で聞き続け、終わった直後に小さく溜息をつくとこう言った。
「これで満足したか?娘。」
「えっ…?」
その全てを見通したかのような一言に、アイは呆気に取られた。
フィールドを見ると、ゴローニャは体で息をし、かなり体力を消耗している。
クワガノンは、ストーンエッジの一撃を受けているも、まだ戦える体力は残っている。
どちらが優勢かは火を見るより明らかだ。
それなのに、ハープは余裕を崩さず無表情のまま立っていた。
「(なんであんなに冷静なんだ…。
強がり?いや、そんな事考えてる暇はない…!
ここで一気に決める!!)
行くよ!クワガノン!!」
「ガノン!!」
アイはハープの態度に疑問を残しながらも、勝負を付けるため、クワガノンと心を合わせる。
「行け!むしの……………
「残念じゃの。娘。」
アイが攻撃を指示しようとした瞬間にハープはボソッと呟く。
さざめっ…………
………っ!!?」
ワザの名前を最後まで、言い終えようとした瞬間。
突然、アイの心臓に風穴が空いたかのような、痛烈な痛みが発生した。
「がはぁっ…!!」
アイはその痛みに耐えきれず、膝から崩れ落ちる。
痛みは全身に広がり、立つことばかりか体のどの部位を動かすこともできない。
「ぐわああああああっっ!!!」
迸る激痛に思わず悲鳴を上げる。
「ガノ…!ガノ…!!」
(痛い…!苦しい…!死にそう…!
なにこれ…!まさか、これって……そんな…!嘘でしょ………
…………コスモッ………グ…………………)
目の前が急にボヤけ初め、アイを心配するクワガノンの声の隙間から微かに聞こえるハープの一言が、真っ白になった頭の中をグルグルと回るのだった。
「時間切れじゃ。」
続く……