ポケモンドリームprototype   作:ココリンク

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メガプテラとの戦闘中、フライゴンの襲撃に合ったアイ。
コスモッグの力でなんとか逃げ切るも、重症を負い、コスモッグはハープという老婆に囚われてしまう。
アイはバトルして取り返すため、痛みを感じなくなるという薬を飲み、クワガノンでハープのゴローニャと戦うが、突然体に激痛が走り出す……


裏切り者 対立する二つの意志

(時間切れ……時間切れってなんなの………?)

 

突然襲いかかる激痛に蹲りながら、アイはハープの言葉を思い返す。

 

(それじゃまるで、薬が切れる時間が分かっててたみたいなものじゃん…!!)

 

そのとき、アイの脳裏に今までのハープの不可解な行動が甦った。

 

(そうだ、あのとき。

家の前のバトルフィールドを使わなかったのも、ここまでの道のりが同じところを何周していたのも、ゴローニャの耐久力を高めたり、私に考えさせるバトルをさせたのも………

全部、このときのためだったんだ…!)

 

アイはなんとか顔を上げ、ハープを睨む。

 

必死に見上げたその顔は、何事もなかったかのような真顔だった。

 

目の前の光景が当たり前に起こっているかのように。

 

「やれ、ストーンエッジじゃ。」

 

「ゴニャ!!」

 

冷酷なハープの口から出る指示に従い、ゴローニャは意気揚々と手から巨石を作り出し、クワガノンへと非情なる一撃を与えようとする。

 

(逃げて…!クワガノン……!!)

 

アイはクワガノンに指示を出そうとするが、痛みで声が出ない。

 

視界もハープの顔の位置までが精一杯で、それより上を飛んでいるクワガノンの姿は見えない。

 

「ガノッ…!」

 

クワガノンはなんとか躱すが、進化したてでまだ飛行能力は未熟。

 

それをアイとの連携でカバーしていたが、封じられたため、上手く避けきれずにバランスを崩してしまう。

 

「もう一度じゃ。」

 

ハープはその隙を見逃す、杖を地面で回しながら指示する。

 

「ゴニャ!」

 

ゴローニャは頷くと今度は自分の周りに小さく鋭利な岩を纏わせ、それを一気にクワガノンへと発射する。

 

「ガノッ!!」

 

(このストーンエッジは…!?)

 

クワガノンは自身の感覚だけを頼りに躱そうとするが、高速かつ広範囲なストーンエッジに成すすべなくやられ、地面に墜落する。

 

(ク……クワガノン………。

あのストーンエッジは、一つ一つの威力が強いっていうわけではないけど、連続で当たると巨石のとき以上のダメージになる………。

今のはほうでんでガードできたのに………。

声が出せていれば…………)

 

ようやく見えた相棒の姿は、頼れる者をなくし力なく倒れる悲惨なものだった。

 

打開策を考えようとも、蝕む痛みがそれを邪魔する。

 

特殊能力を使えば、少しはマシになるだろうが、その際痛みさえも一体化してしまうため、クワガノンへのリスクが大きい。

 

なにもできない。

 

アイは自分の無力を感じた。

 

「ストーンエッジじゃ。」

 

「ゴニャ。」

 

ゴローニャはクワガノンに近づき、背中へと手を当てると、ストーンエッジのパワーを溜める。

 

戦闘不能同然のクワガノンが、零距離からのストーンエッジを食らえばひとたまりもない。

 

指示を出そうとしても痛みで声が出ず、動作で伝えることもできない。

 

勝負はやる前から決まっていた。

 

「ゴニャァァァッ!!!」

 

「ガノォォォ……………!!」

 

激しい爆発と共にクワガノンは吹き飛ばされる。

 

「終わりじゃな。」

 

ハープの一言はアイの全てを削いだ。

 

また心臓に痛みを感じる。

 

目の前がぼやけ始め、黒い物体が落ちてくるのが見えた。

 

「クワガノン……コスモッグ………。」

 

アイは小さく呟き地面に倒れると、そのまま意識を失ってしまった。

 

 

 

 

 

負けたの……私

護れなかった…………

約束したのに……

絶対………護るって

……………いかなきゃ

助けに………いかなきゃ

ここは……どこだろう

なにもみえない…

なにも感じない…

助けにいかなくちゃなのに……

出れない…

動けない…

ここは………どこ…………

私は………いったい…………

………

うそ……私…………もしかして…………………

 

「アイちゃん、大丈夫!!しっかり!!

アイちゃん!!!」

 

「うっ………うぅぅん………。」

 

「……!よかった、目を覚ました!!」

 

必死に呼びかける知らない女の人の声で、アイは目を覚ました。

 

手を動かすと、ほんのり痛みを感じた。

 

それでも、痛みの程度はどこかにぶつけたくらいで、行動に支障はきたさないくらいには回復していた。

 

ベッドの近くの棚には中身が散らばった救急箱と自分の図鑑が置いてあり、小さなテーブルの上にはモンスターボールが5個、回復装置に乗り、自分の服が綺麗に畳まれていた。

 

上では4匹のキュワワーがせわしなく動き回り、癒しの効果がある香りをばら撒いている。

 

アイよりちょっと年上な女の人は椅子に座り、汗を拭い、背筋を伸ばして自己紹介を始めた。

 

「私はカオリ。

ニポ島のしれんサポーター……っといっても、まだ新人だけどね。

いやー危なかったよ。

島クイーンが報告してなければ、アイちゃんは今頃お星様になってたよ。」

 

アイはカオリの言葉にぼんやりと反応すると、体を少し起こし、寝ぼけ眼でまだボヤケている視界であたりを確認する。

 

散乱した救急箱の中身などで自分の状況をなんとなく理解できた。

 

倒れたあと放置されていたところを、しれんサポーターに助けられ、今は小さな小屋で治療を受けている。

 

外は既に夜になっていた。

 

寝起きや疲れでまだ眠く、アイの表情は目に見えてぼんやりとしている。

 

カオリはアイの頭を優しく撫で、優しく静かに声をかける。

 

「眠いなら寝ていいよ。

寝るのが一番の回復だから。」

 

アイはカオリの言葉に頷き、目を瞑って頭を枕につけた。

 

と同時にあることを思い出し、素早く上半身を起こし叫んだ。

 

「コスモッグ!!」

 

突然の行動にカオリは一瞬固まるが、ベッドから起き上がろうとするアイを見て制止にかかる。

 

「いきなりどうしたの!?

安静にしてなきゃ…!!」

 

「行かなくちゃいけないんです!

早くしないと、死んじゃう……!」

 

布団を跳ね除けベッドから降りようとするアイを止めようと、カオリは肩に手を当て説得する。

 

「行くってどこに!?

近くにいたクワガノンは保護したし、他のポケモン達も私達が島クイーンから受け取ってる!」

 

「他のポケモン達………

コスモッグも……コスモッグもいますか!!?」

 

「コスモッグ?

いいえ、私達が今保護しているのはクワガノンにドテカバシ、コリンク、サニーゴ、ロコンの5匹だけ。」

 

「えっ………!?」

 

アイは目の前が真っ暗になりかけた。

 

それでも、残る希望を捨てきれず、直感的に思い出す。

 

(そうだ……図鑑!)

 

アイはカオリの手を強引に除けて、棚の上のポケモン図鑑を取る。

 

突然のことにカオリは戸惑いを隠せず、アイの行動を見るだけだった。

 

アイは図鑑を起動させ、震えながらも素早く、てもちの画面を開いた。

 

(え…………うそ………。)

 

しかし、画面の中の慣れ親しんだ相棒の中に、そのポケモンの姿はない。

 

図鑑の不具合だと思い、なんども画面を開いたり閉じたりするが、その画面にコスモッグが映ることはなかった。

 

(なんで…?

だって………だって、コスモッグは私のポケモンだよ!

なのになんで……!?)

 

激しいストレスがアイを襲う。

 

息が荒くなり、顔色も悪くなる。

 

最悪な状況が脳裏に浮かび、それを払拭しようとすればするほど、アイの思考を蝕んでいった。

 

「アイちゃん…!

どうしたの…!?ねぇ、アイちゃん!」

 

カオリは無意識の内に、明らかに豹変したアイの容態を確認する。

 

そして、アイの横にまわり、片手で背中をさすりながら、もう片方の手でアイの手を優しく掴んで呼びかける。

 

それでもアイの震えは止まらず、呼吸も荒いまま。

 

「落ち着いて、大丈夫!

ね!大丈夫だから!!」

 

カオリは、アイをなんとか楽にさせようと温かい手で触れ、笑顔でなんども励ましの言葉をかけた。

 

その気持ちが伝わったのか、荒れた呼吸はなんとか整い、震えは止まり、顔色も正常に戻った。

 

アイは涙目になりながら、カオリに顔を向ける。

 

カオリは安堵し微笑み、笑顔のまま優しく話しかけた。

 

「なにかあった?

いや、年頃の女の子が上半身包帯でグルグル巻きのまま倒れてるなんて、なにかあるに決まってる。

そのえっと、コスモッグ……だっけ?

何かあるなら聞かせて。

お願い。」

 

アイは久しぶりに感じた優しさに涙を溢しながら、震える口を開いた。

 

「コスモッグは……私のポケモンです。

優しくて…フワフワしてて……可愛くて。

不思議なことがいっぱいだけど……とてもおりこうさんなポケモンです。

それなのに……………」

 

アイの言葉が詰まる。

 

理不尽に対する怒り、それを対処できなかった悔しさと悲しさ。

 

次に出そうとする言葉の感情が一気に押し寄せ、詰まってしまった。

 

カオリはそのことを察しているのか、決してアイを急かそうともせず、静かに見守っていた。

 

アイは胸に手を当て一息つくと、目を瞑り、涙を溢らせ、感情的に語りだした。

 

「それなのに…!みんな酷いことを言うんです!

コスモッグはウルトラビーストの仲間だとか!

危険な存在だから、処分したいだとか!

コスモッグは……コスモッグは!

絶対に危険じゃないです!!

一緒に旅をして、一緒にご飯食べて、一緒に笑って、一緒に……ずっと一緒にいたけど、コスモッグは絶対に危険なんかじゃない!!

コスモッグは本当に優しくて!本当におりこうさんで!本当に可愛くて!本当におもしろくて!本当に本当に本当ぉぉに!みんなのことが……大好きなんです!!!

でも…!

で…………も……………。」

 

またアイの表情が曇りだした。

 

それでも、涙を拭い唇を噛み締め、話を続ける。

 

「コスモッグが……捕まってしまったんです。

よくわかんないんですが、コスモッグを狙うフライゴンが現れて、なんとか逃げられんですが、逃げる途中でりゅうせいぐんに当たってしまい、意識を失ってしまったんです……。

そして、サイダンタウンのおばあさんに助けて貰ったのはいいですが、そのおばあさんも、コスモッグのことをよく思ってないみたいで……コスモッグを捕まえ、処刑するって言ってました……。

私はそれを止めようとしましたが、バトルに負け…………コスモッグは……いま………………………。」

 

「………そう…なんだ…。」

 

話を聞いたカオリの表情は少し曇っていた。

 

それでも、笑顔は崩さずアイの正面に座り、真剣な表情をしてからアイの頭を撫でる。

 

「大丈夫。私達しれんサポーターと島クイーンがついてる!

みんなアイちゃんの味方だから!

他人のポケモンを奪ってなんかする不届き者は、私達が懲らしめるから!」

 

「でも……コスモッグは…?

図鑑にも表示されてませんし、もしかして…」

 

「大丈夫!

もしかしたら、なんかの衝撃でモンスターボールが壊れただけかもしれない。

他のサポーターもサイダンタウンにいるから、連絡してみるよ!」

 

カオリも最悪の事態を察しているが、それを確かなものとすれば、アイは絶望の淵に沈んでしまうだろうと思うと、希望を捨てきれずにいた。

 

「(確信するのはまだ早い!

モンスターボールが壊れるなんて滅多にないけど、もう一つの可能性はまだ事実じゃない!

希望はまだある!!)

もしもし!ソーマ先輩!

あの、ポケモンの捜索を手伝ってほしいんですが……………」

 

カオリは一旦外に出て、早速他のしれんサポーター達に連絡を取り、コスモッグの捜索を頼み込む。

 

だが、まだ新人であり、見つかる確率が低いためか相手にされない。

 

さらには、サイダンタウンの一大イベントの警備があるために、ただでさえ少ないニポ島のサポーターの人員は割けれなかった。 

 

(この馬鹿上司たち!!)

 

カオリは無下にされた怒りで、連絡機を投げつけるようとしたが、やったとこで何か変わるわけではないので気持ちを落ち着かせ、小屋に戻る。

 

「アイちゃん!

捕まってるのってコスモッグだよね?

私、今から探してくる!!

いい、絶対にこの小屋から出ちゃだめだよ!!」

 

「え……あ………ちょ……!」

 

「いくよ!

キュキュ!キュワ!」

 

「「キュワー!」」

 

カオリはキュワワー2匹を連れ、アイが反応する前に行ってしまった。

 

取り残されたアイは、無意識に図鑑を操作し、それを耳元へと当てた。

 

 

 

コスモッグの捜索に出たカオリは、真っ暗な森林を灯りをつけずに駆け抜ける。

 

時間がないため、走りながらデバイスを取り出し、姿分からぬコスモッグの情報を調べようとした。

 

(アイちゃんのIDは…01193………あった!これだ!!

コスモッグの対戦動画も……あった!

え……待って、コスモッグって……あの)

 

カオリの足が止まる。

 

画面を凝視し、以前見た似たような姿の絵と記憶の中で照らし合わせた。

 

(間違いない。

ポケモン名はコスモッグっていうんだ…。

ごめん、アイちゃん……。

私…味方なんて………できない…………。

この子はUB︰NEBULA……………

明日の日の出と共に、私達しれんサポーター厳重警戒の下、“安泰の儀式”で島クイーンが処刑する………超危険なウルトラビーストだから……。)

 

 

 

「もしもし……サトル…。」

 

『どうした、アイ。

なにかあったか。』

 

「うん…。ちょっとね……。」

 

アイは無意識の内にサトルに電話をかけていた。

 

真夜中の電話にも関わらず、いつものように3コール以内にとったサトルは、優しく応えてくれた。

 

それだけで、アイの気持ちは少しだけ落ち着いた。

 

『話してみろ。』

 

「うん…。」

 

アイは頷き、目線を簡易的的な回復装置に乗る5つのモンスターボールに向ける。

 

そして、2,3秒間を空け、フライゴンの登場から、今の状態にまだ至る経緯を事細かにサトルに伝えた。

 

サトルはその間、相槌をうち、感情的になり泣きそうになったときは共感の言葉をかけてあげた。

 

とても話しやすく、言いたいことが全部言えた。

 

話し終えたアイは、グッと気持ちが楽になっていた。

 

けれども、これで事が済んだわけではない。

 

『わかった、ニポ島のサイダンタウンだな。』

 

「うん……。

って、えっ!?今から来るの!?」

 

『当たり前だ。

アイは一人だと無理するからな。』

 

通話の向こう側ではせわしない音が聞こえる。

 

「いいよ!私がなんとかする!!

だってコスモッグは!私のポケモンだから!

護ってあげる義務と責任があるの!!

だから、私一人でなんとかする!!」

 

鍵を手に持つ音。

 

「………サトル、聞こえてる?」

 

扉を開け、部屋を出て鍵をかける音。

 

「ねえ!サトル!!」

 

静かな廊下を早足でかける音。

 

「サトル!!!」

 

『聞こえてる。安心しろ。

一人でやるなら、どうして俺に電話なんかかけた?』

 

「え…………えっと……それは…………。」

 

『………悪い、もうすぐエントランスにつく。

アイはこれでも聞いて少し休め。

日の出が勝負だからな。』

 

「えっ…ちょっと待ってサトル…!

ねぇ…!!」

 

誰かと話すサトルの声がどんどん遠くなっていった。

 

それと同時に、綺麗なオルゴールの音色が図鑑から流れる。

 

アイが小さい頃、眠れない夜によく聞いていた曲だ。

 

「サトル…………。」

 

アイはすぐにうつらうつらして来て、図鑑を持つ手も力をなくし布団の上へと落ちる。

 

残りの2匹のキュワワーにも音色が聞こえたのか、手に持つ機材を落とし、ヒラヒラと地面に落ちていく。

 

「……………ありがとう。」

 

アイは小さく呟くと、ベッドに横たわり深い眠りへと入っていった。

 

 

 

サイダンタウン。

 

この小さな町には二つの大きな湖がある。

 

どちらとも太古に存在した祭壇の跡地だ。

 

一つは、壊れかけた大きな柱に、獅子のような生き物とソルロックが描かれた太陽の湖。

 

もう一つは、今なお原型を留めている大きな柱に、蝙蝠のような生き物とルナトーンが描かれた月の湖。

 

それぞれ町の両端で向かい合うように存在している。

 

なぜこんな高所に大きな湖が存在しているかは今なお謎のままだ。

 

「なに…!?反逆者だと…!!」

 

「はい。森の小屋で介抱している女の子のチー厶の一人が、ここに向かってるみたいです。

また機械がバグったのか、途中で音声は止まってますけど、間違いないです。」

 

太陽の湖では、ニポ島のしれんサポーターが集まり、日の出と共に世界の異物を除去し永遠の平和を願う儀式---“安泰の儀式”の準備をしている。

 

そこに合流したカオリは、残したキュワワーに持たせていた録音機から送信されたサトルとの通話の音声を聞き、それを先輩サポーターの一人、ソーマへと伝えていた。

 

「そうか……だが、彼女のチームは全員子供だろ?

一人で俺らの警備をくぐり抜けるなんて無理だろ。」

 

「ですが、ここに来る途中調べましたが、ここに向かってるトレーナー……

あのサトルさんですよ。」

 

「なに、サトル君が…!?」

 

ソーマは、サトルという名を聞いただけでひどく動揺した。

 

それもそのはず、サトルは以前ニポ島を訪れ、ウルトラビーストが変装した姿と冤罪をかけられたニャビーを安泰の儀式の前に一人で救い出したからだ。

 

このことがあったから、今回はしれんサポーターの警備がついている。

 

他にも、海岸に住み着く海賊達を成敗したり、特大サイズのメガハガネールをリザードンだけで倒したりと、その強さとカリスマ性はニポ島だけでなく、全ての島のしれんサポーターに一目置かれているほど。

 

「ソーマ先輩……どうしましょう…?」

 

「どうするって、カオリ!お前、あの子の担当だろ…!!

あの子をなんとか説得して、サトル君を追い返させろ!!」

 

「そ………そんなこと…私には……。」

 

カオリには罪悪感があった。

 

UB︰NEBULAことコスモッグは危険な存在と教えられたが、アイの話しや真剣な眼差しを見ると、今やろうとしている儀式は間違えているのではないかと思えたからだ。

 

しかし、長年憧れていたしれんサポーターを裏切る勇気は、カオリにはなかった。

 

「はやく!取り返しがつかない内に!!」

 

「その必要はない。」

 

立ちすくむカオリを急かすソーマを、一人の老婆が止めた。

 

「島クイーン。」

 

その老婆はソーマの言葉の通り、島クイーン。

 

麻の衣服を身に纏い、両手には手袋、その片方の手で杖をつき、頭には充分過ぎる程大きなくたびれた麦わら帽子を被っている。

 

後ろにはゴーレムのような大きなポケモン“ゴルーグ”が立つ。

 

「そのくらいの手は打っておる。

あの娘から、あの小僧と同じような何かを感じたからの。」

 

「ですが、島クイーン。

あなたもサトル君の力は御存知の筈。

やれることからやっておいた方が………」

 

老婆は杖をソーマに向け、話を止めた。

 

そして、ゆっくり近付き、しゃがむように手で指示をする。

 

ソーマは指示通り従いその場でしゃがむ。

 

老婆はカオリに聞こえないよう、ソーマへ耳打ちする。

 

「必要ない。

妾はここで、ビーストに加担する者も処刑するつもりじゃ。」

 

「………!

島クイーン、そこまでやることは……」

 

ソーマは驚愕を隠せず、小声で意見を伝えようとしたが、老婆はカオリの方を向き聞く態度はとらなかった。

 

「カオリ。お主は小屋に戻りここに娘を連れてくるのじゃ、いいな。」

 

「え……。」

 

カオリは昔からここに住んでいて、島クイーンのことは尊敬し、お言葉にはいつも素直に従ってきた。

 

だが、今回は違った。

 

アイを連れてくると、彼女になにか良からぬことがおこるのではないかと感じたからだ。

 

この一線をこえると、何か大切なものを失くしてしまうのではないかと思った。

 

だが、カオリは抗うことができなかった。

 

勇気が足りなかった。

 

カオリは助けを求めソーマに視線を送るも、ソーマはなにも言わず、なにもやらなかった。

 

(島クイーンのことだ……全部丸く収まるようななにかいい案はある。

絶対……ある……………筈……。

だって、島クイーンのいうことは…いっつも正しいんだから。)

 

自分で自分を誤魔化し、言いたくなかった言葉をカオリは言ってしまった。

 

「“わかりました”。

アイちゃんを連れてくればいいんですね。

ハープ婆ちゃん。」

 

 

 

「戻れ、リザードン。

出てこい、エンペルト。」

 

「エンペ!」

 

ミヤビシティからリザードンに乗り、南西の海岸へとやってきたサトル。

 

サイダンタウンで何が起きるか分からないので、最強の相棒であるリザードンは温存させ、エンペルトに乗り、海から向かうつもりだ。

 

エンペルトもサトルの主旨を理解していたようで、すぐに海へ潜りサトルを乗せる体勢を取る。

 

「行くぞ、なるべく早急にな。」

 

「ペル。」

 

サトルはすぐにエンペルトに乗り、それと同時にエンペルトはすぐ空を滑空するように泳ぎ始める。

 

「俺の心配はいらない。

最高速で頼む。」

 

「ペル。」

 

エンペルトはサトルを落とさないようにスピードを緩めていた。

 

だが、サトルの言葉を受け、本来の“ジェットスキーに負けないくらいのスピード”で泳ぎ出す。

 

サトルは片手でエンペルトの背中の出っ張りを掴みながら、現地の状況を知るために片手で図鑑を操作する。

 

(頼むぞ。エンペルト。)

 

 

 

「アイちゃーん……起きてる?」

 

ハープの言葉を受けたカオリは、重い足を動かし小屋へと戻った。

 

(寝てる……か。)

 

カオリは図鑑を開いたままベッドで寝るアイを確認したあと、寝ている2匹のキュワワーをモンスターボールに戻し、壊れた小さな録音機を拾い上げた。

 

(ワザによる外傷はない。気付かれた訳じゃないか。)

 

カオリは録音機を机の上に置き、少しの間その場でじっと立ち止まり、溜息をつくとアイの方を見詰めた。

 

拳を握り、アイを起こすためゆっくりと近づく。

 

(あれ?なんか聞こえる…?)

 

とても小さいが、アイの近くから何かの音が聞こえた。

 

よく見ると図鑑の画面がスリープにならず、ずっとつけっぱなしだ。

 

不思議に思ったカオリは忍び足で近づき、耳を近づけて音をひろう。

 

(なにこれ?波?海かな?

でもなんで?)

 

カオリが答えを出すのは遅くはなかった。

 

サトルとの通話がまだ終わっていないということだ。

 

しかし、その先どうしたらいいか分からなかった。

 

(今ここでコスモッグを保護したって嘘付けば、アイちゃんもサトルさんも同時に止められるかも………。

でも……そんなこと…………私には…!)

 

なにかを進めるためには、なにかを裏切らなければならなかった。

 

カオリは裏切る勇気が持てない。

 

どうにもならないジレンマに、カオリはしばらくなにもできなかった。

 

 

 

(物音が止まった……

最初の声や言葉からコスモッグを探しにいったサポーターか?

だがなぜ何も言わない?

そのまま出ていったわけでもないだろうし。)

 

ラーロアの海を行くサトルは、無線イヤホンでアイの様子を聞きながらニポ島に向かっていた。

 

電話の向こうから聞こえる不審な行動に気を遣いながらも、周囲を警戒する。

 

エンペルトも度々海に顔をつけ、縄張りを侵されたと思ったポケモンが襲ってこないか確認する。

 

海は静かで、エンペルトが起こす波の音以外は聞こえない。

 

物陰もなく、極めて好調ななみのりだ。

 

サトルは警戒をエンペルトに任せ、図鑑を開き、アイの対戦動画を再生する。

 

「(さっきみたが、アイのてもちからコスモッグが消えていた………

そして無効になったこのバトルとサイダンタウン……………予想はしていたが、コスモッグの救出は厳しくなるだろうな…………。)

エンペルト、日の出まで…………いや、その一時間前には着きたい。

頼むぞ。」

 

「ペル。」

 

エンペルトは頷き、体力が消耗しない程度にスピードを上げる。

 

サトルは、バトルの結果やアイとハープそれぞれの様子を目に焼き付け、タウンマップの画面を開き、ニポ島との距離を確認する。

 

(これで三分の一程度………エンペルトの疲労を考えても日の出の一時間半前にはつけるな。)

 

「ペル!!」

 

突然エンペルトが声を上げた。

 

それを聞きサトルは周囲を見渡し、前方に何かを見つけた。

 

(ヒト……なぜこんな所に…?)

 

男だ。

 

海にポツンと浮かぶ、人一人乗れるかどうかな大きさの岩に、男が立っているのだ。

 

逆光でよく見えないが、頭部覆うマスクを被り、分厚いフード付のコートに分厚いズボンを着ており、南国のラーロアにはかなり異質な格好だ。

 

赤いランプのようなものを持ち、付けたり消したり、明るくしたり暗くしたりしている。

 

「ペル?」

 

「問題ない。突き進め。」

 

エンペルトは進行方向を変えるかどうかを問うが、もとよりスピードは落とさず、進む気満々だ。

 

サトルも怪しみながらも、直進を試みる。

 

(なにをやってんだ……。

リーグ本部からだいぶ離れているし、調査員ではなさそうだ。

しかしあの灯りのサイクル…なにか見たことある……。

そうだ、あれは…!!)

 

サトルが灯りの正体が気付いたのは、男の横を通る瞬間だった。

 

「PARASITE……よく似た姿だ。」

 

「………ッ!!」

 

男の声が聞こえ、後ろを振り向くと岩は波に飲み込まれ、ランプの激しい赤色の点滅を残し、男の姿は消えていた。

 

ランプは波にさらわれ、海底へと沈んでいった。

 

それを、見たサトルは一瞬で気持ちを切り替え、前を向く。

 

「エンペルト。来るぞ。」

 

「ペル。」

 

エンペルトの周りが、ランプと同じ赤色の光で染まる。

 

徐々に範囲が広くなり、同時に光量も増していく。

 

光が水上へと漏れ出しそうになるとき、波の動きが変わった。

 

「右。」

 

「ペル。」

 

急にエンペルトに向かい水柱があがり、エンペルトはサトルの指示のもと避ける。

 

「左、右、そのまま、右、減速、加速。」

 

「ペルゥゥ!」

 

水柱は止まることを知らず、エンペルトに襲いかかる。

 

エンペルトはサトルの指示で難なく避けるが、これでは埒があかない。

 

(このままだと到着が遅くなる。

それにエンペルトの体力も心配だ。

…………やむを得ん。)

 

サトルは図鑑をポケットにしまい、モンスターボールを手に取り、大きくその場でジャンプする。

 

「エンペルト!うずしお!!」

 

「ペルゥッ!!」

 

エンペルトはその場で高速回転をし渦を起こす。

 

サトルがエンペルトに着地したときには、エンペルトを中心とした大きな渦が出来上がっていた。

 

そして、その渦に巻き込まれた赤い光源をもったポケモンが打ち上げられ、姿を現す。

 

(怒っているな、よく似てたから仕方ないか。)

 

そのポケモンは、くらげポケモン“ドククラゲ”。

 

見渡すと10匹以上はいる。

 

頭の赤い玉で仲間と交信しているが、激しい点滅は警戒の合図。

 

ランプの点滅を見たドククラゲは、サトル達を敵とみなし、ハイドロポンプで攻撃しに来たのだ。

 

「悪いがお前らの相手をしている暇はない。

少し休んでてもらおうか。」

 

サトルは静かにそういうと、モンスターボールを空高く投げた。

 

「ドクッ!!」

 

ドククラゲ達はそれを気にせず、一斉にハイドロポンプを発射した。

 

「エンペルト、まもる。

エレザード、エレキネット!」

 

「ペル!」

 

まずはエンペルトがサトルまで覆う謎のドーム状のバリアを展開し、ハイドロポンプを無効化する。

 

「レザー!

レザァァァァッ!!」

 

そして、ボールから出てきたエレザードが、宙から電気で作った網をばら撒き、ドククラゲ達を捕らえる。

 

「ドクゥ…!」

 

効果は抜群のワザを受けたドククラゲ達は動きが止まった。

 

それでも、それはほんの一瞬であり、ドククラゲ達は電気の網を触手で破ると、攻撃の体勢に入った。

 

「戻れエレザード。

エンペルト、しろいきり。」

 

「ペン。」

 

サトルはエレザードを戻し、再びジャンプしエンペルトを動きやすくする。

 

エンペルトも軽く跳ね、腕を交差し、辺りに白く濃い霧を発生させた。

 

「ドクッ…!?

ドクゥ!!」

 

ドククラゲ達は見えなくなった敵に一瞬戸惑うも、ハイドロポンプを一斉発射し霧を払う。

 

「ドクゥ………。」

 

散った霧の中心からはエンペルトとサトルの姿は消えていた。

 

ドククラゲ達は波の動きから敵がどちらへ向かったかを予測しようとした。

 

しかし、海面はいたって静かで、怪しい波の動きは一切なかった。

 

(あんだけいるのに同じとこだけ見るなよ。

それでも、見つけたとこで……だがな。)

 

サトルは、海面ばかりを探し右往左往するドククラゲ達を見下ろす。

 

アクアジェットを使い空を飛ぶエンペルトにまたぎながら。

 

「飛ばすぞ。エンペルト。」

 

「ペル。」

 

身を纏う水は表面張力で引き寄せ合い、海へと垂れることはない。

 

エンペルトはスピードを上げ、夜空を翔けていく。

 

 

 

(音が止まった……。

……………危なかった。)

 

カオリはドククラゲとの騒ぎが起きてる中で通話をスピーカーに変え、ベッド横にある椅子から様子を聞いていた。

 

感の鋭いサトルが聞いている中では、下手な行動は取りづらい。

 

カオリは騒ぎの最中でアイを起こし、太陽の湖へと連れて行こうとしたが、水の音しか聞こえなくなり、即座に行動を止め、静かに椅子へと座った。

 

(このまま何もなかったら、サトルさんとアイちゃんが合流して作戦を練る時間ができちゃう……。

そんなことしたら、NEBULAが解放されてこの世界が破滅に…………

でも……アイちゃんはNEBULAのこと危険じゃないっていうし…………知らないだけかもだけど、あの目を見ると…簡単に手放すとは思えない……。

たとえ、正体を知っても……………

あーーーもう!どうすれば!!)

 

カオリは葛藤し、ストレスで心臓が潰れそうなほどだった。

 

(この!!もう一度調べるか!!)

 

それを紛らわすため、カオリはデバイスを取り出し、コスモッグやウルトラビーストのことを調べ始める。

 

(あーーもう!!クソ野郎!!

なんで薄っぺらいもんしかでねぇんだよ!!)

 

それでも結局なにもかも分からずじまいで、イライラは次第に増していき貧乏ゆすりをする。

 

それでも、音を出してサトルに通話を聞いていることをバレてはいけないので、癇癪を起こすことわけにはいかない。

 

カオリは胸をさすり気持ちを落ち着かせようとする。

 

だが、そのときだ。

 

カオリの手元から大音量の激しいロックが流れ始めた。

 

デバイスに着信があり、部屋中に着信音が鳴り響いてしまったのだ。

 

(…………ッ!!

馬鹿上司……!!なんで今…!!?)

 

『…!!』

 

「うわぁ!!」

 

眠りが浅かったのか、アイは音楽がなった瞬間に飛び上がって目を覚ました。

 

そして、驚いた顔で音の方を向き、カオリと顔を合わせる。

 

「お姉さん…!」

 

「ご……ごめんね…!!起こしちゃったね…!」

 

カオリはデバイスのスピーカー部分を指で覆い、音を小さくしながら、後退りをして小屋から出て行く。

 

「………なんだったんだろう?」

 

『アイ、大丈夫か?』

 

カオリが外へ出て数秒後、サトルが電話越しに話し掛けた。

 

「うん、平気だよ。」

 

アイは通話状態がスピーカーに変わっているのに気付かず、図鑑を耳元に当てて返事をした。

 

「サトル、今どこら辺?

日の出まで間に合いそう?」

 

『平気だ。さっき陸の光が見えた。

恐らくレメレメ島だ。

あと1時間強で着ける。』

 

「そっか、じゃあ私はもう少し……」

 

『待て、あの女性が戻って来るまでは寝るな。

しれんサポーターだろ?あそこのはウルトラビーストが絡むとなにをしてくるかわからないからな。』

 

サトルはニポ島での嫌な思い出が蘇り、寝ようとしたアイに警告する。

 

普段は温厚な態度を示すが、ウルトラビーストのことになると豹変する島クイーン。

 

島クイーンの命令の下、一斉に牙を剥いてくるしれんサポーター達。

 

一度経験しているサトルには、嫌なほどその脅威が脳に染み付いていた。

 

「でも、お姉さんいい人だったし……コスモッグを探しに行ってくれてたよ。

島クイーンも、しれんサポーターもみんな味方だって。」

 

『そうか。

アイ、よく聞け。

コスモッグを処刑しようとしているゴローニャのトレーナーと島クイーン。

二人は同一人物だ。』

 

「え……!?」

 

ニポ島の闇についてなにも知らないアイは驚愕した。

 

扉の窓から見える、電話に応えるカオリの影を見ながら事実を確認する。

 

「そんな……え……だって…!

島クイーンだよ…!

島クイーンが……コスモッグを………。」

 

『ああ。

“あそこの島クイーンだからだ”。そんなことするのはな。』

 

サトルの口調が非常に静かで荘厳に満ちたものに変わる。

 

いつも闇雲に無茶をするアイに、進むべき方向を示すときの口調だ。

 

『いいか、アイ。

あの人たちはウルトラビーストが絡むときは信頼するな。

コスモッグがウルトラビーストじゃないとしても、あの人たちはそうだと信じてる。

今、優先すべきことは誤解を解くことじゃない。コスモッグを助けることだ。

そのためにも、お前がいなくてはならない。

コスモッグが心を許し、コスモッグを心から愛するお前がな。』

 

「………うん。わかってる。

でもさ。みんながみんな敵だって思わないんだ。

少しだけ……信じてもいいよね。」

 

『…………。

危なくなったら、取り返しがつかなくなる内に逃げるんだぞ。』

 

サトルは、どこまでも真っ直ぐで、どこまでも甘いアイの言葉に少し黙るが、アイを信じ、忠告だけで終わらせた。

 

「ありがとう。」

 

そういうアイの口調と表情は、どこか覚悟を決めたようなものだった。

 

 

 

「サトルさんは安泰の儀式のこと、とっくに気付いてます。

もしかしたら、アイちゃんにも警戒心をもたれたかもしれません。」

 

『そうなんないためにお前を戻したんだろ!

さっきの時間いったいなにをやってたんだ!!』

 

ソーマからの電話に出たカオリは、小屋の扉のすぐ前で話していた。

 

アイとサトルの通話はスピーカーのままなので、所々サトルの声が聞こえ、その度に現状を伝えていた。

 

「オンバーンばりに怒鳴らないでください。

聞こえたらどうするのです……!」

 

『あ、ああ。すまない。』

 

カオリは板挟みな状態にあるストレスと、最悪なタイミングでかかってきた電話によるイライラで、普段より声のトーンが低く、つっけんどんな態度を取っている。

 

そんなカオリに、ソーマは思わず謝っていた。

 

『てか、何か機嫌悪くないか?

その態度、昔のお前そっくりだな。』

 

「何馬鹿なこと言ってるんです?

殴りますよ、電話越しで。」

 

『おお、恐っ…!』

 

カオリはソーマと軽く話す間に窓の近くへと周り、そっと家の中を覗いた。

 

そして、アイの動きを小声で事細かに説明しだした。

 

「先輩、アイちゃんが図鑑を耳元から離しましました。

通話を終えたんだと思います。

だからサトルさんの声が聞こえなくなったのか。」

 

『それで、アイちゃんはどうしてる?』

 

「バッグを漁っています。

何か底の方を探して…………

出しました。

あれは………………っ!

イヤホンです、無線イヤホンです。」

 

『何!?これじゃあ、次電話がかかってきてもサトル君の動向がわからないじゃないか!』

 

「わかってます。少し黙っていられませんか、じごくづきしますよ。

アイちゃんはイヤホンを耳にはめて………寝た?

いや、横たわっただけか。

口は動いていません。やはり通話は終わったようです。」

 

『じゃあ、イヤホンは?なんのために?』

 

「私が入っているときも通話が続いていました。

アイちゃんはすでに寝ているのに。

そのことから考えるとお互いの状況把握をしておきたい。または一瞬一秒でも早く連絡を取り合いたいのかと。

サトルさんのことです。私達のことは誰よりも警戒している筈ですから。」

 

『そうか………。

この際仕方ないな。カオリ、お前たしかキノガッサ持ってたよな?』

 

ソーマの口調が明らかに変わった。

 

後ろめたさがある、諦めのような冷たい口調に。

 

「ええ、そうですが………………

先輩、まさか……!」

 

『ああ。

これは島クイーンの命令も含まれている。

カオリ。お前もしれんサポーターなら腹をくくれ。

これも仕事だ。綺麗事じゃ済まないこともある。』

 

「ソーマ先輩………………。

わかりました…。」

 

カオリは数秒悩んだが、やはり断ることはできなかった。

 

『…………………ああ。頼んだぞ。』

 

カオリの返事を聞いたソーマの声は、どこか寂しげだった。

 

 

 

 

「右の方だ。確かあそこには窓があった。

今お前のことを見てるだろうが、何の反応も起こすな。

あと絶対に喋るなよ。危機が迫ったら別だが。」

 

ラーロアの海を行くサトルは、電話越しでアイに指示を出していた。

 

ちなみに、エンペルトは体力温存のため、アクアジェットをやめて普通に海を泳いでいる。

 

アイにイヤホンを付けさせ、寝たフリをさせたのもサトルの指示。

 

図鑑の画面も音楽再生の画面になっており、音量は小さいが音楽も流れている。

 

サトルは寝ていることで、相手が重要な情報を洩らすことを狙っているのだ。

 

可能性はかなり低いが、やるだけ損はない。

 

「(もうすぐで6割は超える。確かここら辺には建設中のメガフロートがあった筈だ。

足場はあるだろう。そこでちょっとだけ休憩とらせるか………。)

エンペルト、もう少ししたらメガフロートがある。

そこで5分、休憩取るぞ。」

 

「エンペ。」

 

サトルの言葉にエンペルトは頷き、少しだけスピードを上げた。

 

ドククラゲとの戦いである程度体力は消耗しているが、まだまだ元気だ。

 

(ドククラゲが邪魔してこなければ、ノンストップで行けただろうがな。

エンペルトも余裕を見せてるが、やはりスピードが落ちている。

今のスピードでは、少し休憩して体力を回復させた方ほうが速い。

だが、アイツはいったいなんだったんだ…。

なぜあそこにいた?PARASITE、それにドククラゲに似ている……。そいつはあの…ウルトラビーストのことなのか……?)

 

サトルは先程の謎の男の事が気になっていたが、すぐに思考は聞き馴染みの小声に遮られた。

 

『サトル……どうしよう………』

 

「どうした…!?アイ…!」

 

『……………おしっこ……いきたい……。』

 

サトルはアイにピンチが迫っていたかと思い、必死の形相で聞いていたが、意外な一言で気落ちし、呆れるが少しホッとしていた。

 

「お前、危機が迫ったとき以外喋るなっていったろ。

ガマンできないのか?」

 

『これも危機だよ……。おねしょなんてやだ…。

ガマンもさっきからずっとしてる……。でもこの小屋トイレないし、外にはお姉さんいるし……。』

 

「そうか。そのお姉さん、まだ通話中か?」

 

『うん。ちょっと声聞こえる。』

 

(ということはその女性一人だけか……。)

 

サトルは小屋の中やその周辺を思い出し、アイから聞いた今の状態を元に策を伝える。

 

「それならアイ。トイレは小屋を出て裏側にある。だが、裏に周るにはしれんサポーターのいる方を通らなければならない。

だから、行くときはちゃんとポケモン持ってけよ。

それに、今聞いてる曲から明るい曲に変え、いつも聞いてるくらいの音量にしろ。

いいか、寝ているときは睡眠用の曲として、そして外にでるときは、夜中で怖いから気を紛らわせるための曲として聞いてるってことにしろ。

わかったな?」

 

『うん…。もう行っていい……?』

 

「ああ。気を付けるんだぞ。」

 

『うん。』

 

ひとまず会話を終えたが、サトルの気は休まらない。

 

再び、野生のポケモンが襲ってこないか常に警戒しなければならないため、気を抜いている暇などない。

 

「見えた、あれだ。」

 

水平線の向こうに、ドーム状の建物が見えた。

 

休憩場のメガフロートだ。

 

灯りは点いておらず、工事している様子も見受けられない。

 

エンペルトは目標地点を確認すると、周囲を警戒しながら真っ直ぐと泳いでいく。

 

しかし、サトル達はまだ気付いていなかった。

 

海底から、彼等に接近していく大きく赤い光に。

 

 

 

(よし、OK…。みんなのモンスターボールも持ったし…………ああ、緊張するぅぅ…。)

 

サトルから用を済ます許可を得たアイは、サトルの指示通りに普段よく聞く曲をかける。

 

小さなテーブルの上にある所々縫われた自分の服を包帯の上から着て、モンスターボールを5つ腰につけた。

 

(お姉さんを騙すのは気が引けるけど、もっちゃうのも恥ずかしいからなー…。

………はやくいこ。)

 

アイは靴を履き、意を決して外へ飛び出したが、小屋の角で止まった。

 

角を曲がった先でお姉さんの声が聞こえたからだ。

 

まだ通話中のようだが、小声なため内容はまではわからない。

 

(そういえば、なんでお姉さんは窓まで行って通話してんだろ。

いや、今はいいや。とりあえず、トイレが先だ!)

 

アイはお姉さんの行動を不審に思いながら、襲いかかる尿意にガマンできず、小屋の角を駆け足で曲がった。

 

「うわっ!」

 

「おわっ!

って………アイちゃん……!!」

 

その先では、カオリが小屋の角に向かい走って来て、危うく激突しそうになった。

 

反射的に小屋側に跳び退いたカオリが立ち止まり、驚いた顔でアイを凝視する。

 

そのとき、なぜか反射的に右手を背中の後ろに隠した。

 

アイも逆方向へと跳び退いたが、まだ怪我が治りきってないので少し痛みを感じた。

 

それでも怪我の程度は良くなっているので、行動には問題ない。

 

それでも咄嗟の事態で頭が混乱し、何か言わなければ怪しまれると思い、言葉を探した。

 

「えっと……お手洗いって、この先でいいんですよね?」

 

「えっ…!あ、うん!そうだよ…!

あそこにある小さい小屋の中。」

 

カオリはポカンとした表情をしてから、すぐ近くにある小屋の裏の小さなトイレ小屋を指差し伝える。

 

(なんだ……逃げたんじゃないのか……。)

 

カオリは、アイが小屋の中で色々と準備をしてから外へ出たのを見て、自分達の目的に気付かれたのかと思い、急いで追いかけようとした。

 

しかし、純粋に思い違いのようだったので、ひとまず安心して一息ついた。

 

「ああ、あれか!

ありがとうございます!」

 

「ちゃんと戻ってきてよー!コスモッグのことは任せといてねー!!」

 

「はーい!」

 

カオリはアイが逃げないよう釘を刺す。

 

けれども、真っ直ぐな返事をしながらトイレ小屋へと入るアイを見ると、あまり良い気分にはなれなかった。

 

カオリはモヤモヤした気持ちのまま、追いかける際に切った電話を再び繋げた。

 

「ソーマ先輩。大丈夫です。

アイちゃんはただ、トイレに行っただけでした。」

 

『そうか。

……………あそこのトイレは、周りは木に囲まれていてその先は崖になってる。

だから…………』

 

「わかってます。

眠らせて連れてくればいいんですね。」

 

『ああ。

…………………できるのか?』

 

「ナメないでください。

そんなこと、私のキノガッサなら朝飯前です。」

 

『…………………わかった。

これは重要な任務だ。頼んだぞ。

……………………カオリ。………いや、なんでもない。

……島クイーンから集合がかかった。一回切るぞ。

……ツラいなら無理するなよ。』

 

「えっ………あ、はい。」

 

通話が切れてからカオリは、しばらくその場から動かず、トイレ小屋を見詰めていた。

 

背中に隠したヒールボールを腰に付け、もう一つ腰についたボール---ラブラブボールを手に取り、ソーマの言葉を思い返す。

 

(しれんサポーターは、私の憧れなんだ。

ツラいなんて言っていられないし、無理なんて承知の上…!

先輩だって、腹くくれっていってたじゃんか………!!)

 

カオリは、胸が締め付けられるような気持ちを振り払おうとなんとか自分に言い聞かせ、腰に付けたヒールボールを再び手に取った。

 

(やらなきゃ…………!

ごめんね……。アイちゃん………。)

 

 

 

「雲行きが怪しくなってきたな……。

なんだ、あの色は………。」

 

休憩のため、ひとまずメガフロートへ向かうサトルは、突然赤く禍々しい色の雲に覆われる空を不審に思っていた。

 

「(雨雲っていうわけでもなさそうだが、波が荒れたら危険だな。

ここは一旦飛ばして、休憩時間を長くするか………波に攫われるよりましだ……。)

エンペルト。スピードをあげろ。

波が変わる前にあそこにつくぞ。」

 

「ペル。」

 

エンペルトは、大きな波しぶきが立つくらい全速で泳ぎ出す。

 

野生の頃も海でよく修行をしていたため、エンペルト自身、悪天候の波の恐怖は身に沁みているのだ。

 

『ねぇ、サトル………。』

 

そんな中、またもやアイが小声で話しかけてきた。

 

「なんだ。ちゃんとトイレにつけたんだろ。」

 

サトルはしれんサポーターとの一部始終をよく聞いていたので、現状はよくわかっている。

 

『あのさ、一旦、通話切っていい?』

 

「……………なんでだ?」

 

『だって、えーーと、その……。

恥ずかしいんだもん。』

 

「お前………今の状況わかってんのか?

別にお前の花摘みの音なんて気にしねえよ。」

 

『私が気にするの。だって、変な音とか出ちゃうかもだから……。』

 

「別にいいだろそんなの。

兄妹なんだからそれくらい我慢しろ。」

 

『兄妹でもなの。いいじゃ…

 

突然、アイの言葉が急に途切れた。

 

それだけじゃない、換気扇や風の音すらもそこで聞こえなくなり、ノイズだけが聞こえるのだ。

 

「ん、アイ?

どうした!アイ!?

返事しろ!!」

 

サトルはアイが何者かに襲われ、無理矢理通話を切られたのかと思ったが、それは違った。

 

(なんだ………これは…………?)

 

問題はこちら側にあった。

 

図鑑の画面がスノーノイズになっており、どの画面やボタンを触っても反応しない。

 

(なぜだ?急になぜ?

建設中だが、メガフロートが近くにあるんだ………電波がないはずがない……。

なにかがいるのか………電波を阻害する……なにかが…!)

 

サトルは電波障害の原因を、ここらに棲むポケモン---もしくはそれ以上の脅威だと判断し、探ることにした。

 

なににしろ、未知なモノこそが一番危険なのだ。

 

サトルはモンスターボールを手に取り、黙って上に投げる。

 

ボールから出たリザードンは海面スレスレを滑空し、サトルはそれに飛び乗る。

 

そして、リザードンを指差してから前の方を指し、エンペルトを指差してから海を指す。

 

ハンドサインを見たリザードンとエンペルトは頷き、リザードンは少し上昇し、同時にエンペルトは海中へと潜っていく。

 

サトルは二匹の様子を見て頷き、リザードンの後方に体を向けた。

 

それぞれがそれぞれの範囲を、全神経を使い警戒する。

 

今の彼らは、たとえポケモンで一番小さなバチュル一匹でさえ逃しはしないだろう。

 

(ウェウ…!)

 

前方を警戒するリザードンが何かに気付いた。

 

上空、今にも落ちてきそうな赤い雲の下に、透明なガラスが張られているような不自然な光の反射が見えたのだ。

 

リザードンは口に炎を溜め、かえんほうしゃの準備にかかる。

 

(前か…!だが敵は一人とは限らない……!)

 

相棒の動作の変化に気付いたサトルは横目で空の異変を確認し、相棒に軽く手を触れ合図を出す。

 

そして、モンスターボールを手に取り、異変に背を向けたそのままの視線で叫ぶ。

 

「そこのお前!姿を隠しているお前だ!!

ニンゲンだろうが、ポケモンだろうが構わない!すぐに姿を現せ!!現さないのなら有無を言わさず攻撃する!!

ニンゲンなら俺の言葉がわかるはずだ!

ポケモンなら本能で俺の殺気がわかるだろ!

今から俺は、俺のタイミングで3つ数える!

それがお前の……運命の時間だ!!」

 

サトルの忠告は海原に広がり、なにも変化がなく静かなままだ。

 

「1つ!」

 

変化なし。

 

リザードンも、かえんほうしゃを準備したまま変わらない。

 

「2つ!!」

 

海原は静か、空も不自然な反射と赤い雲以外おかしなこともない。

 

サトルはリザードンに触れて指示を出す。

 

「(後に敵はいない……エンペルトからの合図もない……敵は一人と見た!!)

3つ!!!」

 

サトルは、最後のカウントと同時に手を使って身体の向きを反転させ、屈曲をしっかり目で捉える。

 

「リザードン!

かえんほうしゃ!!」 「ウェウ!!」

 

リザードンはサトルの指示とほぼ同じタイミングで、かえんほうしゃを繰り出す。

 

牽制のため、威力はないがそのぶんスピードは段違いだ。

 

かえんほうしゃは不自然な反射がするところへと着弾し、その空間にヒビが入っていった。

 

ヒビは次第に大きくなり、そして割れ、その向こうに隠れていた姿が現れた。

 

「ジババ……!?」

 

その姿は、アダムスキー型UFOに良く似た、じしゃくポケモンのジバコイルだ。

 

ジバコイルはU字型磁石に似た三つのユニットから強い磁力を発し、機械を壊してしまうことがある。

 

だが、そんなことで壊れてしまうほど図鑑はやわではない。

 

(ジバコイルか………そして…………アイツは…!)

 

そして、他にジバコイルの上に見覚えのあるシルエットが浮かんでいた。

 

マスクやコート、南国とはかけ離れた姿は一度みたら忘れられない。

 

赤いランプを持っていた男が、怪し気な棒状の機械を持ちながらジバコイルの上に直立不動で立っていた。

 

サトルはその姿を見るや否や、叫び出す。

 

「お前!目的はなんだ!

PARASITEのことが知りたいのなら俺の持っている知識の全てを教えてやる!だが、それは今ではない!

明後日に嫌というほど聞かせてやるから、今は邪魔をしないでくれ!」

 

男はサトルの叫びに何の反応も示さず、ただ下を見据えて立っているだけだ。

 

(無反応か……。)

 

サトルは反応次第で攻撃をしようとしたが、無反応なために対応に困った。

 

(あの男、あの機械のせいだ。

それでアイとの通信が取れない………。

アイは今、狭い場所にいる……外も行き止まり。

情報が一番欲しい状況にいる。

……早急に倒すのが最適だろうが……なんだ、この不思議な感覚は……!?)

 

サトルは、通信が取れないこの状況を打破しなくてはならないことを分かっているが、指示を出さないでいた。

 

否、出せないのだ。

 

額から汗が流れ、体全体が身震いする。

 

この男を刺激してはならない。

 

サトルは本能でそう感じていた。

 

そのときだ。

 

「ウェウ…!?」

 

「なに…!!」

 

海中から巨大な一本の触手が出現し、リザードンの右翼を殴り付けた。

 

リザードンはバランスを崩し、サトルは海へと飛び込む。

 

触手はリザードンを巻き付け、海中へと引き摺り込んでいく。

 

「なっ……!!

戻れ、リザードン!!」

 

サトルはモンスターボールからビームを発射するが、海面で屈曲し、リザードンに届かなかった。

 

「くっ……!

お前の差金か!!」

 

サトルは感情的になり男へと怒号を飛ばす。

 

しかし、男はやはり無反応でそれを見てサトルも一旦冷静になる。

 

(アイによく言ってんだ…。

こんなときこそ冷静にと……。)

 

サトルは、リュックの外ポケットから口に付ける小型の酸素吸入器を取り出し咥え、海へと潜った。

 

(なんだ……。コイツは………。)

 

サトルが海中で見たのは、赤い光、水色の頭に黒い顔、そして何本もある巨大な触手。

 

(ドククラゲ…こんなサイズ………始めてだ。)

 

突然現れた触手の正体、それは巨大なドククラゲだった。

 

仲間のドククラゲがやられたのを仕返しに来たのだろう。

 

触手にはリザードンとエンペルトが絡まれ、捕まっていた。

 

それとは別に、サトルは目を疑った。

 

明らかに大きいのだ。

 

ドククラゲは平均1.6mなのだが、このドククラゲは何倍、何十倍もデカく、豪華客船とも競える程。

 

威圧感も凄まじく、絶対に対峙してはいけない相手だと嫌な程感じる。

 

それでも、リザードンとエンペルトを見捨てる訳にはいかない。

 

(待ってろ、すぐ行くからな。)

 

サトルは心の中でそう呼び掛け、モンスターボールを両手に握り、巨大なドククラゲに向かい泳いでいった。

 

 

 

「サトル?おーーい。もしもーし?」

 

アイは突然聞こえなくなったサトルの声を不思議に思い、トイレの中でずっと声を掛けていた。

 

(やっぱり繋がらないな………。通話は切れてないし、なんか変なザーーって音しか聞こえないし……。

仕方ない、出るか……。)

 

いくら待ってもサトルの声が聞こえず、狭いトイレの中にはあまり長居はしたくないので、トイレを流し、手を洗ってハンカチで拭いてから扉を開けた。

 

前には誰もいない。

 

アイは一応警戒をしながら、外にでようと地面に足をつけた。

 

「カバッ!!」

 

その瞬間、アイのモンスターボールの中からドデカバシが現れ、ドリルくちばしで屋根の上---

 

「ノガッ……!?」

 

そこに潜んでいたキノガッサに攻撃をした。

 

「キノガッサ……!いつの間に……!?」

 

「カバシ……!!」

 

ドデカバシは、扉の上に乗りキノガッサを威嚇する。

 

「ノガッ!!」

 

キノガッサも前傾姿勢を取り、尻尾を立て威嚇する。

 

どちらも動かず、互いに様子を伺っている。

 

アイもその様子を見続けていたが、小屋の方から足音が聞こえ、そちらを振り向く。

 

「ガサッ!!」

 

「カバシッ!」

 

それと同時に、キノガッサはマッハパンチを繰り出し、ドデカバシを攻撃---と見せかけ、そのままスルーし、足音の主の前に立った。

 

その瞬間、アイは叫ぶ。

 

「お姉さん………危ないッ!!」

 

足音の主はカオリだった。

 

アイは、カオリがキノガッサに襲われるのかと思い、ドデカバシに指示を出そうとした。

 

しかし、それにはある違和感があった。

 

キノガッサはカオリに目を向け、コクリと頷いたのだ。

 

そこにはカオリへの敵意はなく、信頼関係すら感じる程だ。

 

ドデカバシが勝手に攻撃するのは、自分やトレーナーのアイやそのポケモン達への敵意を感じたときだけ。

 

そしてその敵意の正体が、自分が信頼を寄せるヒトの前に立ち、指示を待っている。

 

涙を流し、理不尽を訴え、不信感に襲われていた自分を助けてくれたヒト。

 

そのヒトが安心とは真逆の様子で、自分の前に現れた。

 

「お姉さん……………なんで………?」

 

信じていたのに。

 

信じたくない次の言葉が、頭によぎり何も考えられなくなった。

 

“裏切られた”。

 

アイは目を見開き、涙を溜め、全身を震わせ立ち尽くしていた。

 

そんなアイを護るように、ドデカバシはアイの前に立ち威嚇する。

 

それを見てカオリは口を開き、静かで暗いトーンで話す。

 

「ごめんね……。アイちゃん……。

私はしれんサポーターなの……。

だから、島巡りを円滑にするために、異物は除去しなきゃいけない……。

だから………だからね……………。」

 

唇を噛み締め、拳を握る。

 

アイの顔を見て、すぐに顔を逸し、話を続ける。

 

「ちょっと眠っててほしいんだ……。

大丈夫……。すぐに終わる……。

終わったら……いつも通り……なにも……かも………平和で………………………変わらない………………

だから、その………。」

 

更に拳を強く握り、目をギュッと閉じて、勢いよく開き、アイの顔を見ながら叫んだ。

 

「アイちゃん!私はあなたを……………

始末する……!!」

 

 

 

続く………

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