ポケモンドリームprototype   作:ココリンク

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太陽の湖で、この世界の害とされるウルトラビーストを処刑する儀式---安泰の儀式の準備が始まった。
処刑の対象はアイのコスモッグ。
アイとサトルは儀式を阻止するため、電話越しで作戦を組む。
だが、アイはしれんサポーターのカオリに、サトルは巨大なドククラゲに行く手を阻まれる。
果たして二人はコスモッグを助けることができるのか!?


コスモッグを救え 太陽の湖、始まる儀式

「ごめんね…………アイちゃん…………………

タネマシンガン………!!」

 

カオリは顔を俯かせ横目でアイを見ながら謝る。

 

そして、真っ直ぐバトルフィールドに顔を向けると力み声でキノガッサに指示をした。

 

「ノガッサ!!」

 

キノガッサは頷き、ドデカバシへ口から無数の種を発射。

 

「カバッ!」

 

ドデカバシはアイの躱す指示を待ったが、アイは俯き動かない。

 

仕方がないため、自己判断で飛んで躱し上空でキノガッサの隙を伺う。

 

「マッハパンチ………!!」

 

「ノガッ!」

 

キノガッサは踏込み、大きくジャンプして一瞬でドデカバシの前に躍り出ると拳を突きつけた。

 

「カバシ!!」

 

それをドデカバシは紙一重で躱し、足に力を入れて蹴り、キノガッサを地面に叩き付けた。

 

ドデカバシのワザ、いわくだきだ。

 

「くっ………!

(なんなんだ………あのドデカバシ…………

アイちゃんの指示がないのに、強い………!)」

 

カオリは先輩サポーターのポケモン自身も考えるバトルをよく見ていたので、このバトルも油断はしていないつもりだった。

 

しかし、完全にトレーナーが機能停止しているのに、ここまでペースに乗せられてしまうとは思っていなかった。

 

カオリは焦燥感を覚え、苛立ちが増していった。

 

「カバシ!」

 

「ガッサァ…!」

 

そんなことをカオリが思っている間に、キノガッサにドリルくちばしが直撃する。

 

「なっ……!!

しまった…………!」

 

目の前で倒れるキノガッサを見て更にイライラと焦りが積もる。

 

(なにやってんだ私…!

覚悟決めたんだ…!腹括ったんだ…!

しっかりしろ…!私……!)

 

カオリは胸を軽く叩いて自分に言い聞かせる。

 

「ノガ……!」

 

そうしている間にキノガッサが立ち上がり、心配そうにカオリの方を向いて来た。

 

「マッハパンチ……!」

 

カオリはキノガッサに頷き、指示を出す。

 

「ノガ!!」

 

キノガッサは威勢よく返事をすると、また大きくジャンプし、上空のドデカバシの前に躍り出た。

 

「ノガ!」

 

「カバ!!」

 

またドデカバシは素早いパンチを紙一重で躱し、足に力を込め再びいわくだきの準備にかかる。

 

「タネマシンガン……!!」

 

「ノガッサァ!!」

 

「カバッ…!?」

 

キノガッサはドデカバシの足蹴を食らう前にタネマシンガンを発射。

 

ドデカバシの攻撃を中断させ、なおかつ地面へと叩き付けることに成功した。

 

「きあいパンチ……!!」

 

「ノガァァァァサッ!!!」

 

「カバ…!」

 

ドデカバシは突然の攻撃に上手く着地が取れず、体制を整えるのに時間が掛かっていた。

 

対し、キノガッサは隙を逃さず、上空からエネルギーで大きくした拳を叩き付け追い打ちを加える。

 

重力を味方につけた攻撃の威力は凄まじく大きな衝撃波が発生した。

 

「カバッ………シィィ…!!」

 

ドデカバシは大きく吹き飛ばされるが、なんとか着地し、体制を立て直し翼を広げて威嚇する。

 

「(上手くいった………このままいけば…………………

いけば……………アイ……ちゃん………は…………。

いや、考えるな…!考えるな…!)

キノガッサ…!“このまま”勝つよ……!」

 

「ノガッサ!」

 

カオリはキノガッサに呼び掛け、気持ちを奮い立たせる。

 

カオリのイライラはまた増してく。

 

 

 

〜ニポ島へ向かうサトルはラーロアの海原で、謎の男と遭遇。

 

男は赤いランプで周囲のドククラゲを興奮させたり、図鑑の電波を妨害したりと何故かサトルを邪魔していた。

 

サトルは男と対峙するがその最中、巨大なドククラゲが現れ、エンペルトとリザードンが連れ去られてしまった。〜

 

 

サトルは男の事は後回しにして、自分のポケモンの救出を最優先で海へと潜る。

 

ボールの射程距離が届くとこまで巨大なドククラゲに近づこうとしてるのだ。

 

エンペルトはハイドロポンプ、リザードンはドラゴンクローで巨大なドククラゲの気を引いているため、サトルの接近には気付かれていない。

 

しかし、リザードンはほのおタイプ故、海中での活動には無理があり、徐々に攻撃のペースが落ちてきている。

 

ついには巨大なドククラゲはリザードンへの警戒を解いてしまった。

 

「ドクッ…!!」

 

(なっ……!?)

 

それと同時に巨大なドククラゲは己の方へと接近するサトルを見つけ、睨みを効かせる。

 

(くっ…!

戻れ!リザードン!!)

 

サトルはギリギリ、ボールの射程距離のとこでボールからリザードンに向かいレーザーを発射する。

 

「ドク!!」

 

だが、あと少しのところで触手にガードされてしまい、リザードンをボールに戻すのに失敗してしまった。

 

(くっ…!

………ならば…!)

 

サトルは、エンペルトとアイコンタクトを取り、もう一つモンスターボールを手に取り、海上へと泳ぐ。

 

「ドク!!」

 

巨大なドククラゲは逃しはしないと、サトルに向かい、無数に触手を伸ばした。

 

「エンペェェェ!!!」

 

エンペルトは縛られていながらも、気力を振り絞り、触手をねっとうで攻撃しサトルを援護する。

 

(よくやったぞ………エンペルト。)

 

エンペルトの援護も助かり、サトルは触手が届く前に海面まで辿り着けた。

 

そして、海上へとさっき取り出したモンスターボールを投げ、少し遅れてリザードンのボールも投げた。

 

「エレザード!!

ドラゴンテールッ!!」 「レザァ!!」

 

ボールから出てきたエレザードは、サトルの趣旨を既に理解していたのか、ドラゴンテールの準備をすでにすませていた。

 

そして、リザードンのボールを海中のリザードンの方向へと、ドラゴンテールで叩き付けた。

 

ドラゴンテールはポケモンバトルの際は、相手を強制交代させる程、“ふきとばし”に特化したワザ。

 

それを受けたボールは、物凄いスピードでリザードンの方へと正確に飛んで行く。

 

「ドクッ…!?」

 

さすがの巨大なドククラゲも、そのスピードには反応できず、ボールはリザードンのすぐ近くへと飛んできた。

 

(ウェウ!)

 

それに気付いたリザードンは、自らボールに戻り、そのままサトルの元へと物凄いスピードで戻って行く。

 

(よし、成功だ。)

 

サトルは戻ってきたリザードンのボールをキャッチし、エレザードもボールに戻し、腰に着けた。

 

そして、ドククラゲを睨み警戒する。

 

「エンペッ!!」

 

その瞬間、エンペルトが鋭い声で叫んだ。

 

サトルはエンペルトの声を受け、周囲を警戒したが遅かった。

 

(………ッ!?

後か…!!)

 

巨大なドククラゲの触手の1本がすでにサトルの真後ろまで迫っており、サトルも反応できなかった。

 

「ぐはッ…!!」

 

サトルの無抵抗な背中にどくづきを受け、一瞬動きが止まる。

 

「ドク!!」

 

そして透かさず、巨大なドククラゲはサトルの胴体に触手を巻き、自らの体の近くへと引っ張った。

 

「エンペ…!!エンペ…!!」

 

普段は冷静なエンペルトも、サトルを心配し取り乱したかのように声を掛け続ける。

 

「くっ……」

 

サトルはエンペルトの声を受けて目を開け、エンペルトを見て頷いた。

 

(少ししくじったが、これでいい。

この距離、この掴まれ方、予想通り…!)

 

サトルは左腕が上に来るように胸の前で腕をクロスさせた。

 

「エンペ!!」

 

エンペルトも趣旨が理解できたか、普段の冷静差を取り戻し、サトルと心を合わせる。

 

その瞬間、サトルの左腕につけたZリングにはめられたハガネZから銀色の光が溢れ出した。

 

「ドク!」

 

巨大なドククラゲは急な発光に一瞬怯んだが、次の行動を起こさせまいと、サトルとエンペルトを更に強く縛る。

 

(ぐっ……!

このくらい………!!)

 

サトルは強力なバインド攻撃に屈することなく、拳を2度合わせ、それを勢いよく前に突き出し、ハガネZのゼンリョクポーズを成功させた。

 

そして、サトルの体からオーラが発生し、それを全てエンペルトに移した。

 

「エンペェ!!」

 

光り輝くオーラはエンペルトを取り巻くバリアとなり、エンペルトは巨大なドククラゲからの束縛から解かれた。

 

「ドクゥ…!?」

 

巨大なドククラゲは驚愕し、怯んでしまう。

 

だが、Zリングの本当の力はここからだ。

 

オーラはエンペルトの体へと収縮され、目は鋭く眼光を光らせる。

 

(アイが待ってんだ…!てめえ如きに立ち止まってる暇はねえんだよ!!

超絶螺旋連撃!!)

 

「エンペェェ!!!!」

 

エンペルトはドリルのように高速回転し、まず巨大なドククラゲの顔へと攻撃する。

 

「ドクゥ……!!?」

 

みず・どくタイプのドククラゲにはがねタイプは効果は今ひとつだが、反応が遅れ、隙だらけなため、かなり大きなダメージを与えられた。

 

(いいぞ、エンペルト。)

 

今のダメージで巨大なドククラゲの力が緩み、サトルも束縛から解かれた。

 

エンペルトは、サトルの周りの触手を攻撃しつつサトルを迎えに行く。

 

触手を跳ね除け終えるとエンペルトは高速回転をやめ、エンペルトはサトルに背中を向け、サトルは背中の突起を掴む。

 

「エペェ!!」

 

そして、巨大なドククラゲの次の攻撃が来ないうちに、アクアジェットを繰り出し、海上へと向かった。

 

 

海上へ出ると、空では未だに男がジバコイルの上に立っていた。

 

男は図鑑の電波を阻害するを機械持っている。

 

図鑑には通話機能があるため、アイの近況を知るためには、この男の機械を破壊するしかない。

 

しかし、サトル自身どこか男を刺激してはならないと本能で感じてはいるが、時間がないためそれに抗うしかなかった。

 

サトルは海水に濡れたモンスターボールを、一つ手に取り、男と同じ高さになった瞬間に投げる。

 

「(下手に刺激はしたくねえが、アイが心配だ……やむを得ん!!)

リザードン!!かえんほうしゃ!!!」

 

「ウェウゥゥ…………ウェウ!!!」

 

ボールから出たリザードンは、すぐさまかえんほうしゃを発射。

 

巨大なドククラゲに襲われたせいで、威力やスピードは落ちていたが、それでも奇襲には使えた。

 

「……!!」

 

男が反応する前に機械の破壊に成功。

 

男は一瞬動揺するような素振りを見せたが、すぐに何事もなかったかのように正気を取り戻した。

 

「……………。」

 

男は暫く無言でサトルを見詰めると、軽く足踏みしてジバコイルに合図する。

 

「ジバ!!」

 

その瞬間、ジバコイルと男の姿は一瞬にして消え去ってしまった。

 

「テレポートか………なんだったんだアイツは……。」

 

サトルは不可解な面持ちで、男がいた所を見詰めた。

 

なぜ自分達を邪魔してきたのか。

 

なぜウルトラビーストであるウツロイドのコードネームを知っているのか。

 

なぜ常夏のこの地方で、雪国のような格好をしているのか。

 

それらが不思議でしょうがなかったが、考えている時間はなかった。

 

思わぬ足止めにより時間を浪費してしまったため、早急にニポ島への移動を再開しなければならない。

 

「戻れ、リザードン。」

 

サトルは現地での戦いに備え、リザードンを温存させようとボールを手に取り、リザードンを戻そうとした。

 

そのとき。

 

「ドクゥッ!!!」

 

さっきの巨大なドククラゲが海面まで上がって来たのだ。

 

頭の赤い玉を激しく点滅させ、巨大なドククラゲの周囲の波は超音波で激しく波打っている。

 

眼光も鋭く、苛立っているようだ。

 

「懲りねえやつだな……!」

 

その様子を見て、サトルとそのポケモン達は警戒する。

 

怒りに身を任せた者は何をしでかすかわからない。

 

まともにバトルすれば、思わぬ負傷を負うかもしれない。

 

それに、アイと連絡を取りながら片手間で倒せるような相手ではない。

 

サトルはリザードンとアイコンタクトを取り、モンスターボールを一つ手に取る。

 

そして、ボールからリザードンの背中にカリキリを出した。

 

「すまない、リザードン…!カリキリ…!

俺らがメガフロートにつくまで、ドククラゲを足止めしといてくれ!!」

 

「ウェウ!!」

 

「キリ!!」

 

サトルの言葉にリザードンとカリキリは勇ましく答える。

 

それに頷いたサトルは、リザードンにリザードンとカリキリのボールを投げ渡した。

 

「メガフロートについたらガオガエンの炎で合図する!

リザードン、カリキリ。無理するなよ…!」

 

サトルはそういうと片手に図鑑を持ち、もう片方の手でエンペルトに合図する。

 

「エンペ!」

 

海面でZワザの疲れを取っていたエンペルトは再びアクアジェットを繰り出し、サトルを乗せ、メガフロートへと向かった。

 

「ウェウ!!」 「キリィ!!」

 

サトルを見送った二匹はかえんほうしゃとこのはを巨大なドククラゲに発射した。

 

メガフロートに向かうサトルは図鑑を再起動させ、動くことが確認できたら、アイに電話を掛けた。

 

「頼む……アイ………出てくれ……!!」

 

 

 

アイの図鑑がポケットの中でバイブレーションで揺れ、着信音が鳴り響いた。

 

(……………これは………………………サトル……?

サトルの音……!)

 

一番聴きたかった音が聞こえたアイは、すぐにポケットから図鑑を取り出し、ボタンを押して耳に当てた。

 

「ノガッサ!」

 

「カバァ…………!」

 

キノガッサのマッハパンチのアッパーがドデカバシに直撃し、ドデカバシは宙を舞う。

 

「よし………いいよ………!

キノガッサ………!!」

 

「ノガッサ!!」

 

バトルに夢中でサトルからの着信音はまだカオリには気付かれていない。

 

「サトル……。

遅いよ………!なんで切っちゃったの………!」

 

アイは涙声でサトルに訴えた。

 

『悪い。少し問題があってな…………

大丈夫か?アイ。』

 

サトルは自分の状況を説明しようとしたが、アイが涙声であることやバトルの音に気付いた。

 

アイは、一瞬涙に濡れた眼で向かいのトレーナーを見ると口を開けた。

 

「サトル………私、もう何を信じていいのかわからないよ………。

信じたいなんて、馬鹿だったのかな…!」

 

アイは涙を流し、自嘲するように感情的に言った。

 

「カバシ……!」

 

アイの目の前にボロボロになったドデカバシが落ちて来た。

 

息は荒く、もう戦闘不能寸前だ。

 

あれからペースは完全にカオリの方に傾いていた。

 

「やれる………今なら…………

(って、ん?アイ……ちゃん………?)」

 

カオリがドデカバシの様子を確認しようとしたとき、通話中のアイが視界に入った。

 

(不味い……!もしかしたら、サトルさんに連絡取られてる……!!)

 

カオリは部屋での電話の内容からアイが、サトルに対して大きな信頼感があることが分かっている。

 

もしかしたら、サトルの言葉でアイが立ち直ってしまうかもしれない。

 

そうなるとアイを儀式に連れて行くのが難しくなってしまう。

 

「キノガッサ…!きあいパンチ……!!

もう方をつけるよ……!!」

 

その前に勝負を決めようと、カオリは大技であるきあいパンチの指示を出す。

 

「ノガッサ!!」

 

キノガッサは手にオーラを纏わせ、ワザの準備に取り掛かった。

 

『アイ。

そんなこというな。アイはいつでも自分に正直だっただろ。

それにアイの近くにはいつも誰がいた?』

 

「近く……に……。」

 

アイは腰に着けたボール達に触れ、バトルフィールドを見る。

 

『まずはそいつらを信じてやれ。』

 

アイは拳をギュッと握り、袖で涙を拭った。

 

「いけ……!キノガッサ………!!」

 

「ノガァッ!!」

 

パワーを溜め終えたキノガッサは、渾身の力を込め、ドデカバシに向かって行く。

 

「カバッ……………シィィッ………。」

 

ドデカバシはなんとか立ち上がるが、体力は残っていないのか立っているのが精一杯。

 

(これで終わり……………っ!

アイちゃん………ごめんね……。)

 

「ノガッ!!」

 

ある程度ドデカバシに近付いたキノガッサは腕を引き、最後の一撃の最終準備に掛かる。

 

「カバ……。」

 

ドデカバシはなんとか躱そうと羽を広げた。

 

そのとき。

 

「ドデカバシ、いわくだき。

地面に向けて、思いっ切り。」

 

後ろから声が聞こえた。

 

その声は小さく弱々しいだけど確固たる自信に満ちた声だった。

 

「カバシ……。」

 

ドデカバシは小さく頷き、翼をグッと握り、地面へと力強いパンチをお見舞いした。

 

すると、地面に小さな亀裂が入り、地表の破片が衝撃で浮かび上がった。

 

「ノガッ!!」

 

キノガッサは気にすることなく、ドデカバシ向かってに突っ込み強烈なパンチを与えようとした。

 

「タネマシンガン…!」

 

「カバシ!!」

 

ドデカバシはタネマシンガンを破片に当て、勢いよく破片を前に飛ばす。

 

「ノガッ…!?」

 

破片はキノガッサのパンチをしようとした腕に当たり、キノガッサを一瞬だけ怯ませた。

 

「ドリルくちばし…!」

 

「カバシ!!」

 

その隙を逃さず、ドデカバシは高速回転しキノガッサの腹に強烈な一撃を与えた。

 

「ノガッ………!?」

 

予想だにしない攻撃にキノガッサは大きく吹き飛ばされる。

 

「なに…………!?」

 

カオリは驚きに満ちた表情で、目の前に落ちて来たキノガッサを見ると、アイの方へ目を移した。

 

(まさか……………!!)

 

カオリは自ら思う最悪の状況になったと察した。

 

またイライラが増していく。

 

アイは通話中のまま図鑑をポケットの中に仕舞い、暫くドデカバシと見詰め合うと小さく声を掛けた。

 

「いくよ、ドデカバシ。」

 

「カバシ。」

 

ドデカバシは頷き、羽を広げる。

 

アイも小さく頷くと、いつもの声量で指示を出す。

 

「ドデカバシ!ドリルくちばし!!」

 

「カバァッ!!」

 

ドデカバシは再び体を高速回転させ、キノガッサに向かう。

 

さっきまでの体力の消耗が嘘だったかのように、物凄いスピードだ。

 

「…………マッハパンチ……………!」

 

「ノガッ…!!」

 

キノガッサはマッハパンチで応戦するが、ワザのスピードが乗る前に競り合いが発生してしまい、呆気なく押し負けてしまう。

 

「キノガッサァッ…………!!!」

 

バトルウォールに押し付けられ、ゆっくりと倒れるキノガッサの姿を見て、カオリは思わず叫んでいた。

 

(くっ…………!!

悩むな私…………!!勝つしかないんだ…………!!

それが仕事なんだ……………!!)

 

そして、再び劣勢を覆そうと拳を強く握り、歯を食いしばり、自分自身に言い聞かせる。

 

カオリのイライラは殆ど限界を迎えていた。

 

「キノガッサ……………!!

マッハパンチ…………………!!!」

 

カオリは震えた虚勢を張ったような声でキノガッサに指示を出した。

 

「ノガッ…!!」

 

キノガッサは横目でカオリ見てから、自慢の脚力で大きくジャンプし、一瞬でドデカバシの前に躍り出る。

 

「ついばむ!!」

 

「カバッ!」

 

ドデカバシはキノガッサの素早いパンチを見切り、大きな嘴で咥えて勢いを殺した。

 

「ノガッ……!?」

 

「えっ…………!?」

 

想定外の事態にカオリもキノガッサも困惑で何もできなかった。

 

「ドリルくちばし!!」

 

「カバッ!!」

 

ドデカバシはキノガッサを咥えたまま、その場で高速回転し、ジャイアントスイングのようにぶん回すと、嘴を離し勢いよく投げる。

 

キノガッサは地面スレスレを低空飛行するように飛んでいき、バトルウォールに激突。

 

その勢いは強く、激しい砂煙が舞った。

 

「はあ…………はあ………………いけた…?」

 

「カバシィ……。」

 

咄嗟の判断だったのか、アイは息を漏らしながら砂煙を凝視し晴れるのを待った。

 

ドデカバシもふらつきながらも、警戒は解かない。

 

(くっ……………何やってんだ、私………!!

こうなったら、もうやるしかない…………!!!

手段なんか選んでなんて……………!!!!)

 

カオリは麻のユニフォームの裾を強く握り、決意する。

 

砂煙が少しずつ晴れ、キノガッサの姿が段々見えてきた。

 

「キノガッサ……………!キノコの…………」

 

カオリはキノガッサに技の指示をしようとしたときだった。

 

「ほ……う…………。」

 

キノガッサの全容が見えた。

 

「し…………………………」

 

傷付き、ボロボロになっているのに必死に立ち上がろうとしていた。

 

微かに聞こえたワザを繰り出そうと、頭にエネルギーを集めようとしたが、突然足が震え、力なく倒れてしまう。

 

戦闘不能になってもおかしくないのに、根性で耐えている。

 

痛々しい姿に、アイとドデカバシはトドメを刺せないでいた。

 

「キノガッサ………。」

 

倒れるキノガッサを見て、カオリは力なく膝を付く。

 

(私……………一体何を………。

なんで私………ここにいるんだ………

なんで私………戦ってるんだ………

なんで私………キノガッサを………キノガッサを……………!!)

 

今のカオリは、初めての任務の成功だとか失敗だとかはどうでもよかった。

 

迷いの中で気付かないうちにアイを気遣い、行動を渋った結果、自分のポケモンを必要以上に傷付かせてしまったことがなによりも辛かった。

 

最初から白黒付けていればとカオリは自分を呪った。

 

カオリの苛立ちは限界を超えた。

 

(私は…………………どうすれば…………………うッ!!」

 

その瞬間、カオリの頭に激痛が走った。

 

「うわあああああああ!!!!!」

 

頭を抑え、悲鳴を上げる。

 

「ノガッ!!」

 

その声を聞いたキノガッサは、フラフラになりながらも立ち上がり、心配そうにカオリの足元へと歩み寄る。

 

「カバ…?」

 

「お姉…………さん………?」

 

突然の事態にアイとドデカバシはただ立ち竦むばかりだった。

 

「ノガッサ!!ノガッサァ!!!」

 

キノガッサは今にも泣き出しそうな声でカオリに呼び掛けた。

 

「うがあああ…………は……はあぁ……!!!」

 

キノガッサの声に気付いたカオリは頭を抑えながらゆっくりと立ち上がり、なんとか開いた眼でアイを見る。

 

「ご…………めんね……………。」

 

カオリは唇を震わせながらそう言い残すと、俯きながら、森の奥深くへと走り去ってしまった。

 

「ノガッ!!」

 

キノガッサもふらつきながら、カオリを慌てて追い掛け森の奥深くに消えていった。

 

「お姉さん………。」

 

アイはどうしようもない感情の中、呟いた。

 

裏切られたことへの悲しみ、まだ信じていたい本心、突然の事態への驚きや心配。

 

ひとまず危機は脱したが、アイの頭の中はグチャグチャだった。

 

「カバシ………。」

 

ドデカバシはただ茫然と立ち尽くすアイに、そっと寄り掛かった。

 

「ドデカバシ……。」

 

メンタルが弱いアイは小さいときよく泣いていた。

 

その度に、まだツツケラだったドデカバシが寄り添い、一緒に居てくれた。

 

アイはそれを思い出し、地べたに腰をおろすとドデカバシをギュッと抱き締めた。

 

「うわああああああん!!!」

 

アイは泣いた。

 

真夜中の森の中、大きな声で、ひたすら泣きじゃくった。

 

「リン。」

 

「ガノ。」

 

「サッゴ。」

 

「コン。」

 

ボールの中のコリンク達も出できて、みんなアイに寄り添う。

 

みんなの肌触りや体温は違うけど、みんな暖かかった。

 

アイはこの場所でしばらく泣いていた。

 

 

(今はそっとしといてやるか。)

 

サトルはメガフロートに向かいながら、一部始終を聴いていた。

 

何か慰めの言葉をかけてあげようと思ったのだが、アイの近くには頼れる仲間がいたため、やめた。

 

視界のメガフロートがかなり大きくなってきた。

 

「(そろそろか。)

いけるか、エンペルト。」

 

サトルはエンペルトに尋ねるが、エンペルトは何も答えず真っ直ぐ前だけ見て、アクアジェットで飛んでいる。

 

Zワザでかなりの体力を使ったため、ワザを持続させることにのみ集中し、他のことには手を回せないのである。

 

サトルもそれは分かっていたが、あわよくばと聴いたのだ。

 

(キツそうか……。

これは長時間の休憩が必要だな………10分………いや30分………それ以上か……………。

アイには1時間で着けるといったが、無理そうだな……。)

 

サトルは図鑑の時計を見ながら、頭の中で狂った計画を立て直す。

 

巨大なドククラゲによる被害は思っていたよりも大きかった。

 

海を渡れるリザードンとエンペルトの体力が消耗しために、到着時間が大幅に遅れてしまう。

 

日の出と共に始まる安泰の儀式。

 

それより前に現地で作戦会議をしたかったが、難しくなってしまった。

 

更には、エンペルトの体力的にエンペルトに乗って日の出の前にニポ島に着くのはほぼ不可能となっている。

 

(リザードン……。)

 

サトルは残る僅かな希望に掛けた。

 

「エンペ…。」

 

そんな中、エンペルトが声を掛けてきた。

 

メガフロートに着いたのだ。

 

エンペルトは足場に着地すると、立ち上がることなく、そのまま荒い呼吸を漏らした。

 

「ひとまず休め。」

 

サトルはエンペルトから降りるとボールに戻す。

 

「ありがとう。よくやった。」

 

サトルは労いの言葉を掛けると、灯りの付いていない街灯によっかかり、違うボールを手に取り投げる。

 

「ガエェ!!!」

 

ボールから出てきたガオガエンは、バトルもしくは特訓だと思い、猛々しい咆哮を放つ。

 

そして、マッスルポーズを決め、対戦相手を探すがその姿はどこにもなく、不思議そうにサトルを見詰めた。

 

「すまない、ガオガエン。

後でたっぷり戦わせてやるから、俺の我儘に付き合ってほしい。」

 

サトルはガオガエンに歩み寄りながら、真剣な表情で伝えた。

 

それでもガオガエンは不満そうな表情で腕を組み、遠くを見上げる。

 

「頼む。」

 

サトルはガオガエンの肩に手を当てた。

 

「ガエ…!」

 

ガオガエンは汗に濡れた手の感覚を覚えると、サトルの様子をじっとみて、暫くすると頷いた。

 

「ありがとう。」

 

サトルは礼を言うとまた、街灯に寄りかかる。

 

「ガオガエン。上に向かって

かえんほうしゃ…!!」

 

「ガエッ!!」

 

ガオガエンは腰の炎のベルトからかえんほうしゃを空高く発射する。

 

力強い炎は雲を貫き、柱のようにそびえ立つ。

 

「リザードン。カリキリ。

気付いてくれよ。」

 

 

「ウェウ!!」

 

「キリィ!」

 

「ドクッ!!」

 

巨大なドククラゲの触手の包囲網にリザードンとカリキリは苦戦していた。

 

カリキリがこのはで防御しつつ、リザードンのかえんほうしゃで、1本1本対抗する。

 

水を失った触手は縮んでいくが、それでも80本もある触手の攻撃を防ぐには限界があった。

 

「ドクッ!!」

 

「キリィィ……!」

 

カリキリがこのはを出そうと、リザードンから体を乗り出した所に死角から触手を伸ばし、どくづきを食らわせた。

 

「ウェウ…!!」

 

リザードンはカリキリを空中でキャッチてきたが、奇襲の一撃のダメージは大きく、戦闘不能寸前まで追い込まれていた。

 

「ウェウ!!」

 

リザードンはカリキリの分まで、かえんほうしゃで触手に攻撃するが、撃ちっぱなしで体力の消耗が激しい。

 

「ドク!!」

 

巨大なドククラゲは一気にかたをつけようと、80本の触手全てを動かし、全包囲からリザードンに攻撃しようとした。

 

「キ……リ………。」

 

そのとき、カリキリが遠くの何かに気付き、リザードンに声を掛け、手の鎌でその方向を示した。

 

「ウェウ…?

ウェッ!!」

 

リザードンは言われるままにその方向を見ると、遠くの方で炎の柱が立っていたのだ。

 

「ウェウ。」

 

「キリ。」

 

リザードンとカリキリは互いに頷くと、同時にボールの中に入る。

 

「ドクッ…!?」

 

巨大なドククラゲは突然消えた対象に戸惑い、攻撃の手をやめた。

 

その間にリザードンとカリキリのボールはひとりでにサトルのもとへと向かって行った。

 

 

 

「はあ…………はあ…………。」

 

森の奥へと走るカオリは、寄っかかれそうな大きな岩を見つけ、付近に座り込んだ。

 

「ル………ルガルガン……。」

 

そして、モンスターボールからたそがれのすがたのルガルガンを出すと、そのライオンのような立派な鬣にしがみつき顔の上半分をうずめる。

 

「ガル………ガルゥ。」

 

ルガルガンはいきなりしがみつかれたことに同様せず、カオリの濡れた頬を優しくなめた。

 

「ノガッサ……。」

 

追い付いたキノガッサはなにもせず、ただ茫然として心配そうに見詰めていた。

 

そのとき、こちらに近付いてくるような足音が聞こえた。

 

「ノガッ…!!」

 

キノガッサは臨戦態勢を取り、ルガルガンはキッと音の方を睨むが、姿が見えるとすぐにやめた。

 

「大丈夫か……?カオリ。」

 

足音の正体はカオリが最も信頼する先輩のソーマだった。

 

「先輩……!

なんで……ここにいるの………。」

 

ソーマの声を聞いたカオリは上気した顔を上げ、目を赤くしてソーマを見上げて聞いた。

 

ソーマは少し驚いたような表情を見せたが、すぐに冷静になった。

 

「俺ができる準備が終わったからな。

お前が戻らないから来てみれば。」

 

ソーマはそう言っている間にカオリとキノガッサの状態をよく見て、なにがあったかを予想する。

 

それを擦り合わせる前にカオリの今の状態を確認することにした。

 

「いつものか?」

 

「はい。

…………でも、ちょっと違かった感じがしたような気も………」

 

「違う…?

確かに、昨日……いやもう日が変わったから一昨日か。そのときになったもんな。」

 

「いえ、条件的な違うというより………なんか……こう……根本的ななにかが……………」

 

カオリはキノガッサをボールに戻し、どう違ったのか思い出そうとした。

 

ソーマは腕時計を確認しつつ、何も言わずにカオリの次の言葉を待った。

 

「なんかこう………違ったんです…………

いつもはもっとイライラして……ルガルガンにふさふさしないとオコリザルみたいに暴れまわっちゃう感じなんですけど、今はなんかこう………外に出る筈のエネルギーが詰まってるというか……頭痛がして………よく分からないんですよ。」

 

「そうか。

………………ビースト反応か…。」

 

カオリの言葉を受け、ソーマは小さく呟いた。

 

「え?」

 

「なんでもない。

俺も検討がつかない。

今は大丈夫か?」

 

カオリが聞き返したがソーマは知らぬ顔ではぐらかした。

 

「えーー………まだここらへんがモヤモヤしてるというか、溜まったものがやっぱりこう…詰まっているというか……………」

 

カオリは少し考えると、胸のあたりをさして言った。

 

「でも、いつもより凄く治るのは早かった。

ふさふさしたらすぐにスーって感じで。」

 

それを聞いたソーマは少し厳しい口調で言った。

 

「わかった。お前はもう本部で寝てろ。

昨日の深夜から仕事で疲れてるんじゃないか。

それなのに、俺も急かせてすまなかった。」

 

ソーマの言葉にカオリは俯いた。

 

心のモヤモヤが取りきれず、スッキリしない。

 

ここで引いたら、一生モヤモヤが取れないのではないかとカオリは思った。

 

カオリは勇気を振り絞り、口を開いた。

 

「嫌………。

私まだやれる……!やらしてよ…!!

だって、このニポに戻ってきて、最初の大きな仕事なんだよ!!

最後までやらせて!!」

 

「だめだ。」

 

「嫌だ!!」

 

「だめだ。

ソーマにいちゃんの言う事が聞けないのか。」

 

「やだ!!」

 

「…………仕方ないな。」

 

言う事を聞かないカオリにソーマは辟易とし、ボールを一つ手に取った。

 

真ん中のボタンを押すと、中からギルガルドが出てくる。

 

カオリはギルガルドを見ると、青ざめ、幼い子供が親にお願いするようにソーマに告げた。

 

「まってよ!ソーマにぃちゃん!!

わたし、へいきだよ!!

イライラしてないよ!!

だから、その………………」

 

「……ギルガルド。」

 

ソーマはカオリから顔をそらし、ギルガルドの名を呼ぶ。

 

「ギル。」

 

ギルガルドは頷き、目を怪しく光らせる。

 

その瞬間、ギルガルドの目を見たカオリの目も一瞬だけ同じように怪しく光り、カオリは気を失いルガルガンにもたれるように倒れた。

 

「ルガルガン。ギルガルド。

………頼んだぞ。」

 

「ギル。」

 

「……ガル。」

 

ギルガルドは霊力でカオリを操り、本部があるサイダンシティの方へ歩かせた。

 

ルガルガンは少し躊躇するような様子を見せたが、黙ってカオリの後ろをついて歩いた。

 

見届けたソーマは腕時計を確認し、太陽の湖に通じる近道を走った。

 

(カオリ……。

15年かかったがもうすぐ完成するんだ。

それまでに、危険な目に合わせるわけにはいかない。

お前は俺が守る!)

 

 

 

「うん。スッキリした。」

 

『本当か。無理はしてないな。』

 

泣き終えたアイは、ポケモン達に囲まれたまま、サトルと通話する。

 

気持ちの整理ができた訳ではないが、それをする余裕さえもないのはアイ自身分かっていた。

 

だからこそとりあえず、一時的にでも理性的に動けるよう心のケアをしておいた。

 

「平気だって。

サトル、今どこ?もうすぐ来れるよね?」

 

『……………それがだな……。

……すまない…。』

 

電話越しに聴こえるサトルの声が急に、深刻なものへと変わった。

 

それと同時にアイの笑顔も消えた。

 

サトルは一呼吸おき、口を開ける。

 

『………予期せぬトラブルだった…。

リザードンとエンペルトが負傷した。

結構な痛手でな、あと30分くらい休まねえと俺を乗せて海を渡ることは不可能だ。』

 

「………………そう……。」

 

『……………すまない…………

約束の時間は疎か、日の出にも間に合うかどうか危うい。

……アイ。

………………アイ一人で…………』

 

「やるよ。

だって私、コスモッグのトレーナーだもん。」

 

サトルの言葉に上乗せするように、アイは3つ目のモンスターボールがある筈の場所を触りながら、決然と言う。

 

電話の向こうから、なにか大きなものが羽ばたく音が聞こえた。

 

『…アイ。

すまない。俺もエンペルトが回復したらすぐに向かう。』

 

サトルの声がいつもの自信に満ちた、安心する声に戻った。

 

『………………じゃあ、これから作戦を伝えるぞ。

周りに人は?』

 

アイは周囲をグルッと見渡し、人影がないことを確認した。

 

「………いないよ。」

 

『よし。』

 

サトルは返事をすると、一呼吸置いて口を開く。

 

『………目的は“コスモッグの救出”。

島クイーン率いるニポ島の試練サポーターは、今日の日の出と共に、コスモッグを抹殺しようとする。

それを阻止するんだ。』

 

「うん。」

 

『場所は町の二つの湖のどちらかだ。

俺がニャビーを救出したときは太陽の湖だった。

あくまで噂だが、サイダンタウンの住民から月の湖でもやっていたと聞いた。

アイ。場所に関して何か聞こえてこなかったか?』

 

「ううん…。何も……。」

 

『………そうか。

アイ。ドデカバシは翔べそうか?』

 

「難しいかも……。結構やられちゃったから……。

あ!でも、クワガノンなら!」

 

『クワガノンか。

よし、じゃあクワガノンを湖が見えるくらいまで飛ばしてくれ。まだ儀式の準備をしているかもしれない。どちらかに灯りがついている筈だ。

アイの位置なら……………左が太陽の湖。右が月の湖だ。』

 

「分かった。

クワガノン、聞こえた?」

 

「ガノ。」

 

クワガノンは翅を広げ、木々の合間を縫い、ゆっくりと上空へと翔ぶ。

 

「ガノン。」

 

木の葉を抜けると、一際目立つ大きな灯りが左の方に見えた。

 

クワガノンは方向を覚え、ゆっくりと降下していく。

 

木の葉から現れたクワガノンを見るや否や、アイは聞く。

 

「クワガノン。どうだった?」

 

「ガノ。」

 

クワガノンは小さな足で灯りが見えた方向を指さした。

 

「ありがとう。左だね。」

 

「ガノ。」

 

『左………太陽か。

オーケイ。太陽だな。』

 

「うん!」

 

『(場所は分かった後は………)

アイ。よく聴けよ。これが一番大切だ。』

 

「うん。」

 

『救出方法は唯一。

俺の頃と形式が変わっていなければだが、コスモッグには逃げられないよう、半径1mくらいの球体の“バリア”が張られている。

このバリアはダイウォールと同じようなエネルギーで作られていて、どんなワザでも破壊は不可能だ。』

 

「じゃあ、どうやって助ければいいの?」

 

『Zワザならバリアを破壊できるかもしれない。

だが、それだとコスモッグにも危険が及ぶかもしれないし、救出後の逃走のための体力を消耗するわけにはいかない。

残る方法はあと一つ。

奴らは、コスモッグに一斉にワザを打つが、それらがバリアに当たる寸前に、何らかの方法でバリアが消滅する。

そのとき、一瞬だけコスモッグとワザに隙間ができ、コスモッグを助ける猶予が生まれる。

チャンスはそれだけだ。』

 

「一瞬………。」

 

アイは唾を飲み込む。

 

『できるか。』

 

「うん…!

絶対にできる…!!」

 

『そういいながら、アイ、今なんのプランもないだろ。』

 

「え、いや、そうだけど…。

なんとかなるよ!」

 

『アイらしいな。

上見てみろ。』

 

「………?

上…?」

 

アイは言われるままに上を向く。

 

すると、大きな羽音と明るい灯火と共にリザードンが降り立って来た。

 

「サトルどういうこと…!?

さっき怪我したから、日の出までには来れないって……!」

 

『それは、俺を乗せては来れないということだ。

……たいした怪我ではない…。

コイツも安泰の儀式を経験積みだ。俺の代わりだと思って存分に扱ってくれ。』

 

「ウェウ。」

 

リザードンは頷き、メラメラ燃える炎の尻尾を振るった。

 

「リザードン………。

………ありがとうサトル!絶対に来てね!!」

 

『ああ。

アイ。無茶するんじゃないぞ。』

 

「わかってる!」

 

アイはサトルに返事をすると、ポケモン達の方を向き、決然と言った。

 

「みんな!コスモッグを助けるよ!!」

 

「リーン!!」「カバシ。」「ガノ!!」「サッゴ!!」「コン!」

 

「ウェウ。」

 

 

 

-太陽の湖-

 

「オーライ!オーライ!

ストップ!!そこ置いて!」

 

女性しれんサポーターのマナミの先導の元、ボスゴドラとコジョンドにより大きな機械が湖の前に運び込まれた。

 

大きな土台の上に、大きな球が台座のように一つの柱で支えられている。

 

球をよく見ると一直線に溝があり、開閉式のようだ。

 

「ありがとね、コジョンド。ボスゴドラ。」

 

「コジョ。」 「ボドラ!」

 

役目を終えたコジョンドとボスゴドラはそれぞれのボールへ戻っていった。

 

「島クイーン、機械の設置完了しました。」

 

「うむ。

妾はビーストの準備に取り掛かる。

日の出まで1時間切ったかのう。お主は皆を集めてくれ。」

 

「わかりました。」

 

マナミはフレンドボールを取り出し投げる。

 

「チョー!!」

 

「「「「「レツ!」」」」」

 

中から出てきたのはじんけいポケモンのタイレーツ。

 

リーダーであるヘイチョーと5匹のヘイの6匹からなるポケモンだ。

 

「タイレーツ。皆を呼んで来てほしいの。

ヘイチとヘイロクはヒトシさん。

ヘイニはソーマさんと……多分一緒にいるからカオリちゃんもお願いね。

ヘイサンはタギリさんで、

ヘイヨはシエルくん。

ヘイゴはホロウさん………はいいかな……。ヘイニと一緒にカオリちゃん探して来て。

お願いね!」

 

「チョー!タイタイ!!」

 

「「「「「レーーツ!!」」」」」

 

ヘイ達はヘイチョーであるヘイチの号令の元一斉にマナミの言われた通りのしれんサポーターを探しに行った。

 

マナミもデバイスから皆にメッセージを送り、集合を知らせる。

 

タイレーツを送らせたのは、作業に夢中になってメッセージに気付かない人もいるからだ。

 

数十分後、ヘイチとヘイロク、ヘイサン、ヘイヨがそれぞれ任せられたしれんサポーターを連れて戻って来た。

 

「ありがと!

ヘイチ、ヘイロク、ヘイサン、ヘイヨ!」

 

「チョー!」 「「「レツ!!」」」

 

「あとはソーマさんとカオリ、ホロウさんですね。」

 

「ホロウはいいだろ…。最近、朝礼にすら顔見せてねえんだからよお…!!」

 

シエルの言葉に、タギリがしかめっ面で返した。

 

それに苦笑いしたマナミが訝しげな顔をする。

 

「でも、カオリちゃんとソーマさんがまだ来ないのは珍しいよね。

いつもなら二人共メッセージにはすぐに反応するのに。」

 

「カオリくんなら、森の方に行くのを見たよ。

昨日見付けた少女の介抱にでも行ったんじゃないかな。」

 

「ですが、その後にソーマも森に入っていくの見ましたよ。

皆、作業は終わってますし警備だけの手持ち無沙汰。あいつら、どさくさに紛れて二人っきりで何かしてるんじゃないッスか…?」

 

ベテランサポーターのヒトシにまたタギリが噛み付いた。

 

タギリは腕組みをし、右足を小さく踏み鳴らして少々苛立っているようだった。

 

「お主等集まったか。」

 

そこに島クイーンのハープが杖をついて、直径30cmくらいのカプセルを持つゴルーグと共に戻って来た。

 

サポーターの数を目で数え、顔を顰める。

 

サポーター達は互いに目をかわし、代表してヒトシがハープに説明する。

 

「島クイーン。

申し訳ありませんが、まだカオリくんとソーマくん、ホロウくんが来ておりません。

捜索中ですが、連絡もつかないようで。」

 

「そうか。

カオリとホロウはどうでもいいが、ソーマも来とらんのか。

………まあ良い。

お主等、怪しい人影は見なかったかの?」

 

『はい。』

 

ハープの溜息混じりの言葉に、サポーター達は頷いた。

 

ハープは反応を見ると、湖の前の機械のボタンを押し、土台の上の球体を開いた。

 

球体の中に何かが入っているというわけではなく、盃のように横に広がるだけだった。

 

「ゴルーグ。」

 

「ルーグ。」

 

ハープはゴルーグに指示し、カプセルを開けた球体の上に置かせた。

 

その瞬間、カプセルと機械が同時に光りだしたと思うと、カプセルは木っ端微塵に砕け散り、その破片が薄いバリアとしてドーム状に広がった。

 

そして、カプセルの中に入っていたであろうものがバリアの中に姿を現した。

 

「こやつが、日の出と共に我らが処刑するビーストの種、UB:NEBULA。

またの名、“コスモッグ”じゃ。」

 

「コスモッグ…。」

 

「やっぱり、危険な感じがしません。」

 

マナミは初めて聞いたウルトラビーストのポケモンネームを反芻し、シエルは実物の可愛らしさや幼さに素直な感想を述べていた。

 

バリアの中のコスモッグは、両手を顔の前で蹲り震えている。

 

タギリはそのいたいけな姿に、一瞬だけ処刑することへ引け目を感じてしまった。

 

「お主ら、騙されるでないぞ。

こやつは近い未来に災いを呼び起こす厄災じゃ。

いやしい姿は庇護欲をそそり自らを守るためのまやかしじゃ。」

 

ハープは、コスモッグの姿を見て困惑の表情を浮かべるサポーター達に忠告する。

 

そして、懐中時計で時間を確認し、モンスターボールを2つ取り出し、中のポケモンを出した。

 

「ゴニャ!!」 「グライ!」

 

中からはゴローニャとグライオンが現れ、2匹とも直ぐにストレッチを始めた。

 

「もうすぐ日の出じゃ。

お主ら、一人一匹ずつポケモンを出し、妾の合図の元はかいこうせんを指示するのじゃ。

準備は出来ているな。」

 

『はい!』

 

サポーター達はそれぞれボールを一個持ち、投げる。

 

「ボドラ!」「ボーマ!!」「シザース!」「ファルロ!」

 

マナミはボスゴドラ。

 

ヒトシはボーマンダ。

 

タギリはシザリガー。

 

シエルはルカリオだ。

 

ハープはポケモン達を見渡し、口を開く。

 

「ヒトシ。」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「数が足らぬ。

もう2体じゃ。」

 

「はい。」

 

ヒトシは言われた通り、2つのハイパーボールを取り出し投げた。

 

「バウウ!!」 「メッゴ!!」

 

出てきたのはカイリューとヌメルゴン。

 

共に戦闘力の高いドラゴンポケモンだ。

 

「この2匹でよろしいでしょうか?」

 

「うむ。」

 

ハープは頷くと、東の空を見上げた。

 

「……………雲が出できたのお。」

 

薄い雲が二つ、空にかかっていた。

 

ただ、そこまで広くかかっている訳ではないため、日の出は見れそうだ。

 

ほんのり空が明るくなった。

 

ラーロアで1番高いと言われるこの町から、東の島々のシルエットが確認できる。

 

ハープは大きな手袋をした右手の上に、左手をのせ、決意の表情を浮かべた。

 

「もうすぐ日が昇る……!」

 

シエルは徐々に明るくなる空を見て、目を輝かせた。

 

「ああ、だが感動している暇はねえぞ、シエル。

気ぃ抜くな、世界がかかってんだからな…!」

 

タギリは震えた声で注意する。

 

ニポ島のサポーター達は大きな過失や、能力の低さなどから左遷された者が多く、いわば吹き溜まり。

 

そんな自分たちが、世界の運命を左右する現場に立ち会っている。

 

そう思うと、武者震いが止まらないのだ。

 

「は、はい!」

 

“世界がかかってる”

 

タギリのその言葉で、場の緊張感が一気に高まった。

 

シエルは深呼吸をし、コスモッグを見詰めて、神経をめぐらして合図を待つ。

 

ルカリオの頭の房が逆立つ。

 

ハープは左手で、右手の大きな手袋をギュッと握った。

 

(キリュー、我が息子。

敵を取るでな。見ていてくれ。)

 

水平線の向こうから、一際明るく温かな光が顔を出した。

 

ハープは右手の手袋を外し空にかざす。

 

それを合図にしれんサポーター、そのポケモン達は一斉に構える。

 

日の出だ。

 

「いけ!」

 

ハープが珍しい大声で合図を出した。

 

「やれ!」 「シザリガー!」 「みな!」 「ボスゴドラ!」 「お願いします!」

 

「「「「「はかいこうせん(です)!!」」」」」

 

「ゴッニャア!!」 「グライ!!」

「ファロ!!」「ヴァウ!!」「ボーマ!!」「メゴォ!!」

「シザー!!」 「ボードラー!!」

 

8匹のはかいこうせんは互いに混ざり合い、5mを優に超える極太ビームとなり、コスモッグに襲い掛かる。

 

「モグ…!」

 

コスモッグは急いで力を発揮しようとしたが、バリアに力を吸われ、何もできなかった。

 

コスモッグとの距離1m。

 

ハープはゴルーグからボタンを受け取り、それを押す。

 

するとバリアは消滅し、コスモッグに攻撃が当たるようになった。

 

コスモッグは力を吸われ、何もできずこれから来るであろう痛みに耐えるために目を瞑った。

 

そのとき。

 

「でんこうせっか!!」

 

湖の向こう側の茂みの方から女の子の声が聞こえたと思ったら、オレンジ色の影がマッハを超える速度で飛んで来た。

 

「コスモッグーーーー!!!」

 

「………モグッ…!」

 

はかいこうせんが着弾し、大きな爆発が起きた。

 

「ゴルーグ。」

 

「ルーグ。」

 

激しい爆風が木々を揺らし、水面を波打たせる。

 

ハープ達はゴルーグのまもるで、被害を受けずに済んだ。

 

「や……やったか………!」

 

タギリが思わず口を開いた。

 

皆一様に爆煙が晴れるのを待った。

 

「………!ファロ!!」

 

そのとき、ルカリオが空を見上げ、身構えた。

 

「……ん?どうした。ルカリオ。」

 

ヒトシがルカリオに聞くと同時に、シエルもルカリオと同じ方向を見上げた。

 

「……っ!皆さん!!アレ!!」

 

その姿を見たとき、シエルは血相を変え、大声で知らせて指さした。

 

 

コスモッグの恐怖に歪んだ表情が大好きな一人の少々の声で笑顔になった。

 

コスモッグ自身がそれに気付いたのは、優しくて温かくそれでいて力強い腕の中だった。

 

「おかえり!ゴメンね…怖かったでしょ……!!」

 

アイは泣きながら優しい声をかけ、コスモッグをギュッと抱き締めた。

 

アイの声を聞き、リザードンは更にスピードを上げた。

 

 

「リザードン…!

しかも普通のじゃねえ!!ありゃメガシンカ……!!

メガリザードンYだ!!」

 

タギリが上空を飛ぶポケモンの姿を見て絶句した。

 

この辺りにリザードンの棲息は確認されておらず、更には野生のメガシンカポケモンなど聞いたことがなかった。

 

「まさか……!

…………クロバット!!あのリザードンを追い掛けて…!!」

 

同時にシエルも最悪の事態が頭に浮かび、モンスターボールからクロバットを出した。

 

「バットォ!!」

 

クロバットは4枚の羽をフルに動かし、リザードンを追いかける。

 

「カイリュー!」

 

「ヴァウ!!」

 

はかいこうせんの硬直から解除されたカイリューも飛び出し、クロバットを直ぐに追い抜いてリザードンの真後ろへと迫る。

 

「ドラゴンクロー!!」

 

「ヴァウ!」

 

 

「なっ……!カイリュー…!!?」

 

「ウェウ…!?」

 

メガリザードンYのスピードはジェット機を凌ぐ程。

 

これなら見付かっても追い付かれることはないと思っていたアイ達は完全に油断していた。

 

カイリューはドラゴンクローの準備をすませ、リザードンに対し爪を突き立てようとした。

 

「カバシ!!」

 

その瞬間、アイのモンスターボールからドデカバシが現れ、はがねのつばさで防いだ。

 

「ヴァウ…!?」

 

カイリューはトレーナーの意思に関係なく突然現れたポケモンに困惑しつつ、状況整理のため距離を取る。

 

「ドデカバシ…!!

……………お願い!!」

 

アイはドデカバシにモンスターボールを投げる。

 

ドデカバシは小さく頷き、足でボールをキャッチし、カイリューと睨み合った。

 

 

「あれはドデカバシ…!」

 

「じゃあやっぱりトレーナーが…!」

 

「くそ…!!エアームド!!」

 

「もうよい、今は無駄な労力を使うでない。」

 

タギリがボールを手に持とうとした瞬間ハープが制した。

 

「島クイーン!逃していいんですか!!

見てください!あの残骸!!」

 

タギリはすっかり煙が晴れた湖の方に指を指した。

 

「ぶっ壊れた機械しかねえ…!

やつの亡骸がねえんだよ!!

あのリザードン使いに邪魔されたんじゃ…!

今すぐ止めねえと…!!」

 

「案ずるな。言葉を慎め。」

 

ハープは苛つくタギリを諌める。

 

ハープの右手は小刻みに震えていた。

 

 

「もうこないかな………。

コスモッグ……一旦このボールに入ってて。」

 

アイは後ろの様子を確認しながらも、空のモンスターボールを取り出した。

 

図鑑のてもちポケモンの欄にコスモッグが消えていたので、しれんサポーターが権限で逃したのではないかと踏んだのだ。

 

しかし、モンスターボールを当ててもコスモッグに反応はない。

 

ということは、コスモッグはまだ野生のポケモンではなかったということだ。

 

「(くっ……!だめか。

………仕方ない、サトルと合流したら一緒に考えよう……。)

リザードン!もうすぐ森に入るから、それまで頑張って!!」

 

「………ウェウ…!」

 

太陽の湖の広場からもうすぐ抜けられる。

 

そこから森に入り、どこか身を隠すところがあれば、そこである程度休んで海から逃げることができる。

 

(できた……!一人で……!!

後はサトルと合流して………ふふッ!)

 

アイはリザードンの協力があったものの、不可能だと思っていた1人でのコスモッグの救出を成し遂げようとしたのを誇りに思っていた。

 

それを報告したあと、サトルがどういう反応するかを想像し思わず笑みを浮かべる。

 

だが、その笑みは一瞬の内に崩れ去った。

 

森の方から、禍々しい暗黒の球が空を漂うと思うと、リザードンの上空へと留まる。

 

「うそ……これって……!

リザードン…!スピードアップ…!!」

 

「ウェウ……!!」

 

オーラは拡散し広がると、ブラックホールのようにリザードンを吸い寄せようとするのだった。

 

リザードンは吸い込まれないように羽ばたくが、ドククラゲとの戦いや、ニポ島に来るまでの疲労、更に自分のトレーナー以外でのメガシンカにより体力の消耗が激しく、徐々に吸い寄せられてしまう。

 

 

「あれは…!」

 

「ブラックホールイクリプス……!

あいつ……いいとこもっていきやがって…!」

 

不意に飛んで来たあくタイプのZワザにサポーター達は歓喜に湧いた。

 

「あいつにだけいいカッコはさせらんねえ!!」

 

タギリはボールを手に取り、リザードンの方へ走って行く。

 

「ぼくも………ルカリオ!行きますよ!」

 

「ファロ!」

 

「いくよ!ボスゴドラ!!タイレーツ!!」

 

「ボド!」 「チョー!」

 

「「「レツ!」」」

 

タギリの後に続き、シエルとマナミも走り出した。

 

 

「頑張って…!リザードン……!!」

 

「ウェウ…!!」

 

リザードンはでんこうせっかを使用し、突破しようとしたが、疲労困憊の状態でワザを使える筈がなく、不発に終わってしまう。

 

それどころか、リザードンから光が漏れ出し、メガシンカが解かれてしまった。

 

「ウェウ……!?」

 

「うそ……!?」

 

リザードンとアイの表情が絶望に染まった。

 

その瞬間、リザードンの体制が崩れ、アイはリザードンから投げ出され、リザードンはなすすべなくブラックホールに吸い寄せられてしまう。

 

「うわああああああ!!」

 

アイは落下しながらも、大峡谷でやったときのように着地の衝撃を弱めようとロコンのボールを取り出そうとした。

 

そのとき。

 

正面から、はかいこうせんがアイに向かって飛んで来たのだ。

 

「え…………」

 

アイが気付いた時には、はかいこうせんとの距離は1mもなかった。

 

アイはなすすべなく、はかいこうせんをモロにくらってしまった。

 

 

「ッ…なっ……!

おい…!今のって…!」

 

「女の子……だよね…!?」

 

タギリ達は、リザードンから投げ出されトレーナーの姿を見て絶句し、はかいこうせんに直撃したのを見て言葉を失った。

 

振り向くとゴルーグの腕から煙が立ち上っていた。

 

「島クイーン………あんた……………!」

 

「どうした……!はやく始末せい!!

その忌まわしきビーストと小娘を!!」

 

言葉を失うタギリ達に、ハープは厳しく命令する。

 

「始末って………」

 

「あの高さから落ちたら……………」

 

「始末の何もねえだろ………」

 

 

アイは気を失い、力なく落ちていく。

 

リザードンは見つからないように高度40mくらいを飛んでいた。

 

その高さから頭から落ちていっている。

 

このまま地面に激突するものなら、間違いなく命はないだろう。

 

「カバシ…!!」

 

ドデカバシは助けに向かおうとしたが、その隙をついたカイリューのドラゴンクローで地面に落とされてしまい、更には羽に負傷を追ってしまった。

 

もう誰も、無謀な少女をどうにかすることをできなかった。

 

ブラックホールに吸われたリザードンが吐き出され、地面に激しく落下する。

 

リザードンは起き上がろうとするが、体が動かず、力なく倒れ込んだ。

 

地面との高さはもう15mを切ろうとしている。

 

マナミはまだ18歳のシエルの目を手で覆った。

 

 

そのときだ。

 

森の奥から、激しい水流の音が聞こえてきた。

 

入り組んだ木々の合間を器用に縫い、急激に近付いている。

 

「なんだ……!

おい!心臓弱えなら近付くんじゃねえぞ…!!」

 

タギリは水流の主に向かい忠告した。

 

が、聞こえていたか否か分からないが、音はどんどん大きくなっている。

 

そして、水流の主の正体が姿を現したと思うと、その上に乗るトレーナーがアイをお姫様抱っこの形でキャッチした。

 

「大丈夫か……!アイ……!!」

 

「………………うぅん…………サ……トル……?」

 

「すまない。遅くなった……。」

 

水流の主はアクアジェットを使ったエンペルトだった。

 

その上にはトレーナーであるサトルが乗っている。

 

エンペルトはサトルがアイを助けたのを確認するとアクアジェットを解除して力なく急降下する。

 

そして、2mくらいのところでサトルは飛び降り、リザードンとエンペルトを急いでボールに戻した。

 

「コスモッグは。」

 

「ちゃんといるよ…………ほら…………。」

 

アイは腕を開き、胸の中で蹲るコスモッグを見せた。

 

アイの体で護られていたのかコスモッグには傷一つついていない。

 

「そうか。ちゃんと護れたんだな。

偉いぞ。」

 

「うん……。わたし……がんばった…………。」

 

「ああ。」

 

サトルは優しく頷くと、キッとした表情で辺りを見渡した。

 

唖然とするタギリ、シエル、マナミ。

 

様子を伺うヒトシに、こちらに近付くハープ。

 

そして、道中見えた森にいる顔見知りのサポーター。

 

リザードンとエンペルトの体力が尽きた今、逃走は難しくなっている。

 

サトルは作戦を練りつつ、笑顔で優しくアイに言葉をかける。

 

「後は任せろ。アイ。

今日はたくさん甘えていいぞ。

だから何したいか考えてくれ。

その間、この場は……………

俺がなんとかしてやるよ!」

 

 

続く………

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