ポケモンドリームprototype   作:ココリンク

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遂に太陽の湖で始まった安泰の儀式。
島クイーン達のポケモンの一斉攻撃からコスモッグを救ったアイとサトルのメガリザードンYは逃走を開始。
しかし、どこからともなくあくタイプのZワザ、“ブラックホールイクリプス”が飛んできてアイはメガリザードンから投げ出されてしまう。
さらにはゴルーグのはかいこうせんを浴び、力なく地面へ落ちていくアイ。
そこへサトルがエンペルトに乗りなんとか合流。
アイを空中で受け止め、太陽の湖からの逃走に臨む。


逃走の中で… 目覚める猛獣

サトルはアイを抱えながら、辺りを見渡し逃走経路を考える。

 

今、自分たちは森から数十メートル離れたところにいる。

 

そこから少し離れた所に3人のしれんサポーターとそのポケモン達。

 

更にその奥には島クイーンと1人のしれんサポーターがいる。

 

逃げるルートは森に入るのが一番だが、サトルは来る途中にしれんサポーターが一人見え、ブラックホールイクリプスも森から飛んできた。

 

サトルは森に入る前に一度、そのしれんサポーターとバトルが起こると予想する。

 

そのとき、挟み撃ちになって不利にならないよう、3人のしれんサポーターを足止めすることにした。

 

 

「出てこい、ガオガエン!!」

 

「ガァァァエンッ!!」

 

サトルはアイをお姫様だっこしたまま、親指と人差し指の間に挟んでいたモンスターボールを弾く。

 

ボールから出てきたガオガエンはけたたましい咆哮を上げ、マッスルポーズを決めると戦いの相手を求め周囲を見渡した。

 

そこに見えるは見覚えのある地だった。

 

そして、その地に立つは敵意を向ける複数のポケモンと見覚えのあるトレーナー達。

 

「ガエエエエエエッ!!!」

 

それらを見たガオガエンは炎のベルトを燃え上がらせ、湖畔中に響き渡る咆哮を発した。

 

(ガオガエン……。)

 

サトルはガオガエンの様子を見守る。

 

ガオガエンは進化前のニャビーの時、ウルトラビーストと間違われ、ここ太陽の湖でハープに処刑されそうになった。

 

その時の記憶が蘇り、怒りで敵味方の分別もつかずに暴れ回ってしまう可能性がある。

 

それで、アイやコスモッグを傷付けたら元も子もない。

 

しかし、ガッツでタフで一度暴れると手が付けられないガオガエンは足止めに適任。

 

共に成長し精神的にも強くなったガオガエンを信じ、サトルは待った。

 

しばらくし、ガオガエンは咆哮を止めると

 

「ガエッ!!」

 

顔をニヤリと笑わせた。

 

「(いけるな……。)

頼むぞ、ガオガエン!クロスチョップ!!」

 

サトルは頬を緩ませ、ガオガエンのモンスターボールのボタンから指を外す。

 

そして、しれんサポーターのポケモン達を睨みながらワザの指示を出すと、ガオガエンに場を託して振り返り森の方へ走り出した。

 

「ガエ!!」

 

ガオガエンは腕をクロスさせると、足を思い切り踏み切り、一瞬でボスゴドラの前へと躍り出た。

 

「ボド…!?」

 

「速い…!」

 

急な出来事に状況が把握し切れないマナミはガオガエンの対処ができなかった。

 

「ガエッ!!」

 

「ボドォ…!」

 

ボスゴドラは自身の判断で咄嗟に構えるが、ワザの威力は壮大かつ、はがね・いわタイプのボスゴドラにかくとうタイプのクロスチョップは効果はバツグン。

 

受けるダメージは相当であり、ボスゴドラは膝をついた。

 

「ボスゴドラ!!」 「「「レツ!」」」

 

マナミとタイレーツはボスゴドラを心配し声をかける。

 

「ボド…。」

 

ボスゴドラは頷くが、肩で息をしておりかなりの手傷を負っている。

 

諸に喰らっていたら、一撃で戦闘不能になっていただろう。

 

「ちっ!

わけがわかんねえが、シザリガー!クラブハンマー!!」

 

タギリも突然現れた島の英雄に状況をうまく掴めていないものの、仲間のポケモンが傷付けられたため、反撃に出ることにした。

 

「シザー!」

 

シザリガーは螯に水のエネルギーを纏わせ、ガオガエンに襲いかかる。

 

「ガエ!」

 

ガオガエンは後ろにジャンプしてクラブハンマーを避け、かえんほうしゃを浴びせる。

 

「シザ…!?」

 

シザリガーもバトルに身が入っておらず、かえんほうしゃを諸に受けてしまう。

 

「シザリガー!」

 

「シ……シザァ!!」

 

シザリガーは煤を振り払い体勢を立て直すが、少し足が震えている。

 

効果は今ひとつながらも、しっかりとダメージを与えている。

 

それでも螯を振り上げ威嚇するが、チラチラとタギリに目配せし、どこか今の状態に不信感を抱いているようだった。

 

「……………皆さん……。」

 

戸惑いを隠しきれない先輩サポーターに、シエルはただバトルの動向を見ているしかなかった。

 

「ガエガァエ!!」

 

そんなしれんサポーター達とは対照に、バトルしたくて堪らないガオガエンは、手招きをして挑発する。

 

(どうしてサトル君が登場するんだ…?

島クイーン……ちゃんと説明してくれ……。)

 

いつもなら売られた喧嘩は買うのが礼儀とするタギリも、今回ばかりはシザリガーに指示を出せないでいた。

 

 

(なんだ……あのサポーター達……。

動きがぎこちない。戸惑ってるのか?)

 

指示をする声が聞こえないことに疑問に思ったサトルは、後ろを振り向いて様子を伺っていた。

 

あまりバトルに身が入っていないしれんサポーター達に不審感を抱く。

 

(これも作戦?いや、作戦にしてはまるで統率が取れていない。

何が狙いなんだ………)

 

サトルがサポーター達の狙いを考えていると、急にアイがモゾモゾと動きだした。

 

「おい、アイ!何を……………」

 

「ケオケオちゃん!オーロラビーム!!」

 

サトルが注意する前にアイは腰から取ったモンスターボールを投げ、即座に指示を出す。

 

「コン!!」

 

「キザ…!?」

 

ボールから出てきたアローラロコン(ケオケオちゃん)は虹色のビームを発射し、よそ見したサトルを攻撃をしようとしたキリキザンに直撃した。

 

キリキザンは一歩引いて様子を伺い、アローラロコンはサトル達を庇うように威嚇する。

 

新たな敵の登場に、サトルは足を止め、キリキザンを睨む。

 

「(やはり来たか………!

まさか…これが狙いか………!!)

出てこいエレザード!」

 

サトルは、攻撃方向から森のしれんサポーターのポケモンだと、直感的に理解した。

 

両手が塞がりボールを取り出せなかったので、ボールの中に直接声で指示した。

 

「レザァ!!」

 

それが聞こえたのか、エレザードは自らボールから飛び出し、襟巻きを広げてキリキザンを威嚇する。

 

「きあいだま!」

 

「レザア!!」

 

エレザードは両手にエネルギーを収束させ、球状にすると勢いよく発射する。

 

「キザ!」

 

対しキリキザンは刃の腕を振り、空気の刃をきあいだまに当てて破裂させた。

 

「(エアスラッシュか……。)

けたぐり!!」

 

「レザッ!!」

 

遠距離が通じないとならば、接近戦へ持ち込む。

 

エレザードは素早い動きでキリキザンに近づき、足に力を込めけたぐりを決めようとした。

 

「キザァ!!」

 

キリキザンは距離を詰められても動じることなく、同じように足に力を込め、けたぐりを放つ。

 

「レザ………!」 「キザ………!」

 

互いに競り合い、結果は互角だった。

 

両者は一旦距離を取り、互いに相手の出方を伺う。

 

(くっ……………手強いな……!)

 

サトルはキリキザンの戦闘スキルの高さに顔をしかめた。

 

「サトル。降ろして。

私も戦う。」

 

そこへアイは真剣な表情で、サトルに自分を降ろすように促した。

 

「なに言ってる…!アイ、自分の体の状態を分かってて言ってるのか…!!

………不意打ちは注意不足だったがもう平気だ…!

この場は俺がなんとか…………」

 

「いや。私もやる。

さっきサトル言ったよね。何したいか考えてろって。

私はバトルがしたい。サトルと一緒に…バトルがしたい。」

 

「………アイ。」

 

サトルはアイの真剣な眼差しと、覚悟の籠もった言葉を受け、自分が如何に焦っていたのか痛感した。

 

そして、決意が籠もった表情に負け、心配しながらもアイを腕から降ろした。

 

アイは一人で立とうとしたが負傷で足が覚束ない。

 

サトルは何も言わずに肩を差し出した。

 

「ありがと。」

 

アイはサトルの肩に手を掛け、なんとか安定して立てるようになった。

 

そのとき、サトルは自分の後ろの方で、ワザの指示を出す女性の声が聞こえた。

 

「(ここまで試練サポーターの作戦通りなら挟み撃ちの一斉攻撃を仕掛けるはずだ……。

だとすると相手が多いガオガエンの独断じゃ限界がある…………仕方ない。)

アイ。キリキザンの方頼んだぞ。」

 

「分かった。」

 

「……無理すんなよ。」

 

「サトルも。

……疲れてるでしょ?」

 

「……………俺は平気だ。」

 

サトルはそう言うと、再びしれんサポーター達の方へ視線を移した。

 

「「「レ〜〜ツ……」」」

 

「ガエエエ!!!」

 

視線の先では独断で戦っていたガオガエンがタイレーツに圧勝していた。

 

「タイレーツ……戻って…!」

 

マナミはタイレーツをボールに戻すと、もどかしい気持ちのまま立ち尽くした。

 

(膠着状態はまだ続いてるのか………。

一体なぜ……こっちの状態に気付いてないのか…?)

 

ピンチにはなっていないと一安心すると同時に再び疑問を抱いたサトルはしれんサポーターのその奥にいるハープを見詰めた。

 

ゴルーグ、ゴローニャ、グライオンを引き連れ、余裕そうに杖を突き、こちらによって来ている。

 

(こっちに構ってる暇はない。すぐに蹴りをつけなきゃな……。)

 

サトルの視線に気付いたガオガエンは、横目でサトルを見詰め、アイコンタクトを取った。

 

「ガオガエン!フレアドライブ!!」

 

「ガエ!ガアアアエエエエッ!!!」

 

ガオガエンは体に灼熱の炎を纏わせると、ヘソに力を入れ、力み始めた。

 

そして、胸を張り、溜めた力を一気に開放すると、炎はドーム状に広がり、シザリガーとボスゴドラを包み込む。

 

「ガエ!!」

 

ガオガエンはドームの中心で咆哮し、炎のエネルギーを解放させる。

 

刹那、ドームは凄まじい光と熱を出し、爆破した。

 

「シザァ…!!」 「ボドォ…!!」

 

「くっ………容赦ねえなぁ……!おい…!」

 

凄まじい爆風が起こり、シザリガーとボスゴドラは後方へ吹き飛ばされ、タギリとマユミとシエルは吹き飛ばされように踏ん張る。

 

「ガハーハ!!」

 

爆風が収まるとガオガエンは腕を組み、自らの力を誇るように高笑いを上げていた。

 

反動ダメージのあるフレアドライブを、通常の使い方よりも体力を使う形で放ったのに、まるでビクともしていない。

 

「シザリガー!」 「ボスゴドラ!」

 

タギリとマユミは後ろを振り返り自分のポケモンの状態を確認する。

 

戦闘不能にはなっていないが、体力は殆どゼロに等しい。

 

「くそっ!すまねえ、シザリガー…!!」

 

「ごめんね。みんな。」

 

二人は無理をさせまいと、二匹をボールに戻した。

 

その様子を見て、シエルも戦うことを決心した。

 

「ルカリオ。僕も…………」

 

しかし、どこを見てもルカリオの姿はなかった。

 

「(もういいだろ)

ガオガエン。こっちの加勢を頼む。」

 

サトルはサポーター達の様子を見て足止めする程でもないと思い、ガオガエンに声を掛けた。

 

「ガエ!」

 

ガオガエンは次の相手を求め、移動しようとしたその時。

 

「ファルロ!!」

 

突然地面の中からルカリオが出現し、ガオガエンの顎に強烈なキックをお見舞いさせた。

 

「………ガッ…!?」

 

不意をつかれたガオガエンは後ろに蹌踉めくが、すぐに体勢を立て直し、唾を地面に吐き捨ててルカリオを睨む。

 

「ルカリオ!」

 

シエルは、ピンチを救ったルカリオに目を輝かせている。

 

「何…!?」

 

サトルは予想だにしない攻撃に動揺した。

 

「サトル、大丈夫?」

 

いつも冷静なサトルの珍しい動きに思わずアイが尋ねる。

 

サトルはルカリオから視線を外さずに答える。

 

「ああ、平気だ。アイは。」

 

「ちょいキツい。

……ケオケオちゃん!オーロラビーム!!」

 

「そうか、もう少し待ってろ。

すぐに片付ける。」

 

サトルはルカリオを観察する。

 

今はじっとしているが、ガオガエンの行動を待っているのだろう。

 

ルカリオは波動を使って、相手の考えていることが分かる。

 

そのため、下手に攻撃できないので、こちらも同じく様子を伺いたいが、血気盛んなガオガエンに待つという言葉はない。

 

「ガエ……………ガエエ!!」

 

奇襲のお返しだと言わんばかりに、クロスチョップをお見舞いしようと、地面を蹴りルカリオの前に一瞬で躍り出る。

 

そして、両手でチョップ攻撃しようとしたが、腕を振り下ろす前にルカリオは片手でクロスしている部分を押さえつけてしまった。

 

「ガエ…!?」

 

「あんなことが……!」

 

力比べなら誰にも負けないガオガエンが、一回り小さなポケモンに力負けしている。

 

その事実に、再びサトルの動揺を誘った。

 

「ファル……」

 

ルカリオはもう片方の手に力を込め、振りかぶるとガオガエンの顔面に強烈なパンチをお見舞いした。

 

きあいパンチだ。

 

「ガエ………!」

 

「ガオガエン!!」

 

ガオガエンは仰け反り、勢いよく地面に倒れた。

 

「すごい……流石ヒトシさんのルカリオだ。」

 

シエルはルカリオの実力にさらに見惚れている。

 

「今はお前のだろ。」

 

「まあまあ。」

 

タギリはシエルの言葉につっこむが、それをマナミがなだめた。

 

(くっ……あのルカリオ………強い。)

 

サトルはガオガエンの様子を見ながら、ルカリオへの認識を改める。

 

ガオガエンは倒れてはいるが、炎のベルトの勢いは弱まっていない。

 

ガオガエンが立ち上がった時、すぐに反撃に出られるように、サトルは作戦を考えた。

 

 

「ケオケオちゃん……!」

 

「コォォン……。」

 

こおりタイプではあく・はがねタイプのキリキザンには相性が悪く、バトルが苦手なアローラロコンが戦闘不能になってしまった。

 

「戻って。よく頑張った。」

 

アイはアローラロコンをモンスターボールに戻し、労いの言葉をかける。

 

そして、別のボールを取り出し、それを投げた。

 

「いくよ、サニーゴ!!」

 

「サッゴ!!」

 

モンスターボールからはサニーゴが現れる。

 

「サニーゴ!ねっとう!!」

 

「サッゴォ!!」

 

サニーゴはねっとうを繰り出すが、キリキザンにではなく、エレザードに当てた。

 

「レザッ!レザーァ!!」

 

「キザ……。」

 

すると、たちまちエレザードは元気になり、きあいだまやけたぐりでキリキザンを圧倒していく。

 

エレザードの特性はかんそうはだ。

 

みずタイプのワザを受けると、ダメージを回復させることができるのだ。

 

このキリキザンは動きが素早く動きが遅いサニーゴは動きについていく事ができない。

 

だから俊敏に動けるエレザードが戦いやすいようサポートに回っているのだ。

 

「いいよ!サニーゴ!!エレザード!!」

 

「サッゴ!!」

 

「レザァ!!」

 

アイとサニーゴ、エレザードは士気を高め合いキリキザンとの戦いを続けた。

 

 

ガオガエンの指がピクリと動いた。

 

そして、ギュッと拳を握ると素早く立ち上がった。

 

拳を合わせたり肩を鳴らせたりすると、ニヤリと笑ってルカリオを挑発する。

 

「ファロ。」

 

ルカリオはわかりやすい挑発に乗ることなく、頭の房を逆立てガオガエンの心を読もうとする。

 

(とりあえず、怒り狂うことはないな。

顔に一発やられたときはヤバいと思ったが………逆に闘争心に火が点いたか。)

 

サトルはガオガエンの様子を見て、指示を聞ける状態であることを確認した。

 

そして、ガオガエンと顔を見合わせ心を重ねる。

 

「いくぞ。ガオガエン。」

 

「ガエ!」

 

「かえんほうしゃ!」

 

「ガアアアーー!!」

 

ガオガエンは炎のベルトから激しい炎を噴射させる。

 

「ファル…。」

 

しかし、このワザが来ることが分かっていたのか、ルカリオは攻撃にすぐに反応し、構える。

 

かえんほうしゃがルカリオに当たったと思ったら一瞬にして姿を消し、ガオガエンの前に躍り出た。

 

そして再びガオガエンにパンチを浴びせようと手に力を込める。

 

「(しんそくを使ったのか………)

DDラリアット!」

 

「ガエッ!!」

 

ガオガエンは姿勢を低くしてルカリオのパンチを躱し、右手でラリアットを決め、ルカリオを浮かす。

 

「ファロ…!?」

 

「ガアアアエエエッ!!」

 

そして、空中で見動きのとれないルカリオにラリアットしたときに生じた遠心力を利用し、左手で裏拳を決め、ルカリオを吹き飛ばした。

 

「かえんほうしゃ!」

 

「ガエエ!!」

 

更にそこへかえんほうしゃで追い打ちを掛ける。 

 

「ファロ……!」

 

ルカリオが地面に着地する前にかえんほうしゃは襲い掛かり、かなりのダメージを負わせた。

 

「ルカリオ!」

 

シエルはルカリオを心配して声をかける。

 

ルカリオは倒れたまま動かない。

 

タギリは次のポケモンのボールを持とうとしたが、迷いを振り切れず、そうすることができなかった。

 

「ガエガーエ!」

 

ガオガエンは自分の顔面を殴った相手が一方的にやられたのが気に食わないのか、首を傾げる。

 

そして、手招きをして起き上がってこいと挑発する。

 

(倒したのか…。

いや、ガオガエンは戦闘不能になった奴には煽ったりしない。

気が引けるが、仕方ない。)

 

サトルはガオガエンの様子からルカリオを倒しきれていないと感じた。

 

そして、その実力からこのまま放置するのは危ないと思ったサトルは戦闘不能にさせることを決意する。

 

「ガオガエン!」

 

サトルがワザの指示をしようとしたそのとき。

 

「レザァッ……!!」 「キザッ………!」

 

「サッゴ……!」

 

「うう……!」

 

後ろの方から激しい爆発が起こり、爆風が吹き荒んだ。

 

何事かと思い、サトルとガオガエンはその方向を見る。

 

そこではエレザードとキリキザンが共に吹き飛び合い、戦闘不能になっていた。

 

大技をぶつけ合い、力尽きたのだろう。

 

「はぁはぁ………やったよ!サトル!」

 

アイは息を切らしながら、やりきった顔をしてサトルに言う。

 

サニーゴもかなり息が荒く、ワザを使うことも困難だろう。

 

「ああ、よくやった。偉いぞ。

(キリキザンを倒したか………なら、今が好機かもな。)」

 

サトルはキリキザンを倒し、逃げ道が出来た今がチャンスと捉え、作戦を変えて、すぐに逃げることにした。

 

「おっと………お疲れ、ドデカバシ。」

 

アイの元にドデカバシがモンスターボールの状態で戻って来た。

 

アイは労いの言葉を掛け、ボールを腰につける。

 

「よくやった。

アイ、逃げるぞ。」

 

サトルはエレザードをボールに戻し、労いの言葉を掛けると、アイに言った。

 

「わかった。」

 

サトルは逃げるために、アイをまた抱き抱えようとした。

 

そのとき。

 

「グライ……!!」

 

アイ達の上空から声が聞こえたと思ったら、突然耳を塞ぎたくなるようなやかましく不快な音が降り注いできた。

 

「いやああああ!!」 「サッゴオオ!!」

 

鳴り止まないその音にアイとサニーゴは悲鳴を上げる。

 

(くっ………なんだ……………!!)

 

サトルは思わず自分の耳を塞ぐが、まるで効果のないように音は大きく、アイの悲鳴にも気付いていない。

 

「モグゥゥ………!!」

 

コスモッグも不愉快な音にうずくまる。

 

「なっ、コスモッグ…!

っと……わあ!」

 

それに気付いたアイはコスモッグに聞こえる音を小さくしようと両手で抱き締めようとしたが、サトルの肩から手を離した瞬間にバランスを崩してしまう。

 

「大丈夫か!?アイ!!」

 

サトルはアイに言葉を掛けるが、その声もアイに届いていない。

 

(聞こえてないのか……!!

このデカい音はいったい……!)

 

サトルは音の正体を見るため、上を見上げようとしたその時だ。

 

「ゴニャア!!」

 

「ぐっ……!!」

 

突然、目に砂が入り、視界さえも奪われてしまう。

 

(くっ……こんな時に……!砂が…………

いや、違う!)

 

サトルは運悪く砂嵐が吹いたのだと思ったが、目だけにピンポイントで砂が当たったことに気付いた。

 

「(まさか……!)

アイ、上を見るな!!」

 

そして、サトルはアイに忠告しようとしたが、その声も音で掻き消されてしまった。

 

「なんなの…この音……!?」

 

サトルの忠告も虚しく、アイも正体を掴むために上を見上げてしまった。

 

「ゴニャア!!」

 

「うわっ!!」

 

そしてその瞬間に、アイの目にも砂を入れられてしまった。

 

目を開けようとするが、痛みで開けられない。

 

アイの視界も暫く奪われてしまった。

 

 

「ガエー!!」

 

異変に気付いたガオガエンはサトル達を助けるために走り出す。

 

だが、その瞬間。

 

「……………ガッ…!!」

 

ガオガエンの背中に非常に重い衝撃が響いた。

 

ガオガエンは痛みに耐えきれず、前に倒れる。

 

そしてその後ろには、鋭い目付きでガオガエンを見下ろすルカリオがいた。

 

「これは、きしかいせい…。やっぱり凄い……!!」

 

その光景を見たシエルが呟く。

 

きしかいせいはHPが少ない程威力が上がるワザだ。

 

ルカリオは倒れたフリをして、このワザを当てる機会を伺っていたのだろう。

 

「よい出来じゃの。」

 

シエルが感心している横で、ハープが呟いた。

 

ハープはグライオンのいやなおととゴローニャのすなかけに苦しむアイとサトルの姿を見ると、ゴルーグに手で指示をした。

 

「ルーグ。」

 

ゴルーグの黄色い模様が光り、手にエネルギーが集まり始めた。

 

(島クイーン……アンタ、まさか!)

 

タギリは今から起こそうとしていることを予想し、信じられないような目でハープを見詰めた。

 

 

(ちっ……!

どうする……考えろ………!!)

 

サトルは打開策を考えようとするが、視覚と聴覚を奪われた今、歩くことも難しいアイを連れて行く逃げることは何よりも困難であり、良い案が浮かばない。

 

「サッゴ!!サッゴ!!」

 

様子がおかしくなったアイを心配してサニーゴが声をかける。

 

だが、音が邪魔してアイの耳には届かない。

 

「なにこれ……目が……。」

 

アイは涙を流し、必死に目を擦って目を開けようとするが、痛みがそれを邪魔する。

 

「サッゴ……。」

 

無反応なアイにサニーゴは悲しげな表情を浮かべた。

 

その時。

 

「サゴ!」

 

サニーゴの目にサポーター達がいた方から禍々しいエネルギーを放つ光線が見えた。

 

サニーゴは咄嗟にアイを庇うように光線に向かい、直撃した。

 

「サゴオォ……!!」

 

サニーゴは光線に暫く耐えたが、キリキザン戦のダメージが残っており、長くは保たなかった。

 

光線はサニーゴを貫通し、無防備なアイとサトルに襲い掛かった。

 

「ゔわあああああああ!!!」

 

「ぐあああああ!!!」

 

予期せぬ攻撃に反応できず、アイとサトルは光線の衝撃で吹き倒された。

 

「……………ア………………アイ…………。」

 

サトルは薄っすらと目を開けて、アイを守ろうと手を伸ばす。

 

だが、体が思うように動かず手を伸ばしただけで他は何もできなかった。

 

(アイ……。すまない………。)

 

(うっ………………なに………なにが……………おきたの?)

 

アイは薄っすらと残る意識の中、何が起きたか考えた。

 

サニーゴの介入で光線の軌道がズレ、なんとかこの程度で済んだが、直撃すれば即死だっただろう。

 

しかしその事は視覚と聴覚を奪われたアイには分からなかった。

 

アイは無意識に胸に抱くコスモッグを気にしていた。

 

ほんのり温かく、小刻みにブルブル震えている。

 

まだ無事のようだ。

 

アイはコスモッグを安心させようと優しく撫でた。

 

コスモッグの体から青白い光が流れた。

 

 

「やり切れておらんな。

ゴローニャ。グライオン。」

 

「ゴニャ。」

 

「グライ。」

 

ハープは二人の様子を見て微かな体の動きを確認した。

 

そして、確実に始末するためにもう一度喰らわそうと、一仕事熟したゴローニャとグライオンを呼び寄せた。

 

そして、口にエネルギーを集め、再びはかいこうせんの準備をする。

 

その様子を見て、タギリは唖然とする。

 

マナミはシエルの目を手で覆った。

 

奥にいるヒトシも、森の中のサポーターも惨状を見たくないと、目を逸らす。

 

「やれ!」

 

「ゴニャ!!」 「グライ!!」

 

二匹から禍々しいエネルギーを放つ光線が発射され、それぞれアイとサトルの方向へ伸びていく。

 

誰にも邪魔されずに勢いを増して進んでいく。

 

最悪の侵略者の種とそれに加担する者共への制裁が下される。

 

正義の光線が二人を貫こうとした。

 

その瞬間。

 

「モグウウウウウウウ!!!!」

 

コスモッグの体から溢れる、青白い光が強くなり、アイとサトルを守るようにドーム状に広がった。

 

光線はドームに遮られ、消滅する。

 

「何……!?」

 

「グライ…!」 「ゴニャ…!」

 

ハープは目の前の予期せぬ出来事に動揺した。

 

その隙を狙ってか、光はアイとサトルを包みこみ、小さな光球となる。

 

光球は予想困難な程、不規則に動き回り、倒れるサニーゴとガオガエンを吸収した。

 

そして、急上昇したと思えば、森の奥の方へと飛んでいく。

 

「逃しはせぬ……!!

ゴルーグ、いくのじゃ!」

 

「ルーグ!!」

 

ハープは物凄い剣幕で光球を睨みながらゴルーグに指示する。

 

ゴルーグはすぐさまはかいこうせんを発射。

 

今までにない速さで飛んでいき、光球の端を掠めた。

 

光球は力なく森の方へと落ちていく。

 

森のサポーターが見失うまいとその方向へと走って行った。

 

「なにをやっておるのじゃ!!

お主らも行け!!」

 

ハープはいつにない凄まじい剣幕で、茫然と立ち尽くすサポーターに言う。

 

シエルとマナミは萎縮し、互いに顔を見合わせた。

 

そこへタギリがハープの前に出る。

 

「島クイーン。

あなたが命令したのは太陽の湖の警備及び、UB:NEBULAの処刑です。

それくらいなら、俺もコイツらも、速やかに行動ができ、今回の安泰の儀式は成功に終わったでしょう。」

 

「なにが言いたい。」

 

「しらばっくれないでくださいよ…。島クイーン……。

肝心なことが聴かされてねえんだよ!俺らは、“人殺ししろ”なんてこれっぽっちも聞いちゃいねえ!!

彼らはまだ子供だろ!!

一人は我々がよく知るサトル君だった!

てことはあの女の子も島巡り参加者だったんじゃねえか!?

島クイーンが島巡り参加者を……あんな子供を……殺すなんて話、聞いたこともねえよ!!」

 

タギリはこの一連の流れの中で抱えたモヤモヤをすべての吐き尽くした。

 

これ以上不信感を溜めるのは彼の正義感が許さなかったのだろう。

 

「言っちゃった……。」

 

マナミはタギリの命知らずな態度に頭を抱えた。

 

ハープは元の表情に戻り、杖を何度も地面に鳴らす。

 

「言い訳は結構。

早く向かわぬか。」

 

「なっ……!?」

 

タギリはハープの言葉に気抜けした。

 

彼はどんなに重い処置を取られようが、クビになろうが、こっちから願い下げだという意気込みであった。

 

だが、彼の心から言葉はハープの心をなに一つ動かすことはなかった。

 

「シエル君…!シエル君!!」

 

マナミの声が湖畔に響いた。

 

「どうした…!」

 

鬼気迫る声に、タギリは思わずマナミの方へ向かっていた。

 

そこでは、シエルが小刻みに震えて蹲っていた。

 

青ざめており顔色が凄く悪い。

 

「急にこうなってしまって…。気持ち悪いって。

シエル君………こういうの初めてだからかも。」

 

「ああ。」

 

タギリはハープを睨んだ。

 

ハープは視線に気付いているのか否か、森の奥を冷酷な瞳で見詰めていた。

 

 

 

「よし、ゆっくりだぞ。目を開けてみろ。」

 

「うん。」

 

森の奥。

 

サトルは少しだけ開いたアイの目に目薬を指した。

 

アイは暫く目を閉じた後、ゆっくり目を開き、辺りの様子を確認する。

 

「ここは?」

 

「森だ。

おそらくまだニポ島だろう。

一応助かった………と言っていいのだろう。

コスモッグのおかげでな。」

 

「はっ…!

コスモッ…………いった………。」

 

アイはコスモッグを探し、力無く倒れるその姿を見つけると急いで近寄ろうとした。

 

だが、二度に渡るはかいこうせんの傷が痛み、動くことができなかった。

 

「(アイはまだダメか……。)

安心しろ。生きてる。

サニーゴもボールに戻しておいた。」

 

「そう…。

ありがとう。

コスモッグも……ありがとう。」

 

アイは力のない声で言うと、落ち葉の絨毯に倒れた。

 

サトルは、疲れが溜まっているのだと思い、そのままにした。

 

(だが、本当にコスモッグがいなけりゃ危なかった。)

 

サトルはここまでへの経緯を思い返す。

 

目覚めると朦朧とする意識の中で、土と葉っぱの感触を覚えた。

 

サトルは自分がどこにいるかを確認したかったが、砂で目が開けない。

 

そこで、目に力を入れて無理矢理涙を流して砂を流し目を開け、体を起き上がらせる。

 

ここで、自分の体が自由に動くことに気付いた。

 

光球の中で、コスモッグにパワーを分け与えられたのだろうと思った。

 

サトルは倒れるガオガエンをボールに戻し、アイの呼吸を確認してから、腰についてるサニーゴのモンスターボールを取り、サニーゴを戻した。

 

そして、コスモッグのもとへ行き、体に触れる。

 

コスモッグはまだほんのり温かい。

 

サトルが一安心しているとこで、アイが目を覚まし、そこから先程のやり取りが行われ今に至る。

 

 

サトルはポケットから図鑑を取り出した。

 

「壊れてはないか。」

 

電源を点け、地図を表示させる。

 

森の奥には海岸があった。

 

ここに来るときに上陸した場所だ。

 

サトルはここから別の島へ逃げるためのプランを考えた。

 

(海岸に出ても、今、飛べるポケモンはアイのクワガノンくらいだ……。

あそこは人が入った形跡がなかったし、船もボートもなかった…。

……………だが、小屋があったはずだ。

ここに居続けても見付かるのは時間の問題か………。

よし。)

 

プランが纏まった。

 

サトルは立ち上がり、アイに言う。

 

「アイ、移動するぞ。」

 

「………どこに?」

 

アイは地面に寝そべったまま尋ねる。

 

「ここから東の方、ずっと進むと海岸がある。

そこに、小さな小屋があったはずだ。

そこで、休憩を取り、翌朝くらいにこの島を出る。」

 

「わかった。」

 

サトルはコスモッグを抱え、アイの体を起こすとコスモッグを渡した。

 

そして、アイをお姫様抱っこして海岸まで向かおうとした。

 

そのとき。

 

「サイコカッター!」

 

「ルレイ!!」

 

遠くの方から声がしたと思えば、念波で作られた刃がサトル達の足元へ着弾した。

 

「うわぁ…!」

 

「くっ……。(もう見つかったか。)」

 

サトルは刃が飛んできた方を見る。

 

そこにはエルレイドとそのトレーナーであるしれんサポーターのソーマがいた。

 

「サトル君、それに……確かアイちゃんと言ったな。

君達をこのままにしてはいられない。

こっちに来るんだ。」

 

「ソーマさん………あなたに恩はありますが今はその願い、聞けませんよ。」

 

サトルはそう言いながら、アイを地面に下ろし、モンスターボールを手に取った。

 

そして、小声でアイに告げる。

 

「アイ、まだクワガノンは戦闘不能にはなってないよな。

ここは俺がなんとかするから、お前は先に海岸に行け。

絶対に追い付く。」

 

「……………うん。

絶対だよ。」

 

アイは一瞬心配そうな顔をしたが、ここで否定しても今の自分では足手まといになるだけだと思い、素直に従うことにした。

 

「なにをしている!?

……エルレイド!」

 

「エレイ!」

 

ソーマは不審な動きをする二人に対し、エルレイドに両手にエネルギーを収束させる。

 

「このまま動かない方が君達の為だ。

さっきは足止めの為にわざと外したが、これは必ず当たるはどうだん。

そのモンスターボールを戻して、俺の方に来なさい。」

 

「アイ。」

 

「うん。」

 

ソーマの忠告に対し、アイとサトルは互いに顔を合わせ頷く。

 

「シロデスナ!」 「いくよ。クワガノン!」

 

そして、同時にボールを投げポケモンを出した。

 

「仕方ない。やれ!エルレイド!!」

 

「エレイ!!」

 

エルレイドはエネルギーを球にして発射する。

 

「まもる!」

 

「デス!!」

 

シロデスナは謎のバリアを展開し、はどうだんからアイとクワガノンを守る。

 

その間に、クワガノンはアイを抱えて飛び去っていく。

 

「はどうだん!」

 

「エレイ!」

 

ソーマはアイを逃がしまいとエルレイドに指示を出す。

 

「シャドーボール!!」

 

「デスナ!!」

 

そこへ、すでにワザの準備を終えていたシロデスナがシャドーボールを発射。

 

エルレイドの動きを止め、はどうだんによる足止めを阻止した。

 

「ソーマさん。今度の相手は俺ですよ。」

 

「シロデスナを戻してくれないか。

さもなければ、君達を倒さないといけなくなる。」

 

暫く二人は決意の表情を浮かばせながら、互いの様子を伺った。

 

 

クワガノンに抱えられアイは森を進む。

 

胸にはコスモッグを抱き、ほんのり温かくふわふわした雲のような体をずっと撫でている。

 

「コスモッグ。大丈夫だよ。

私達が絶対に守るからね。」

 

アイはそう言うが、コスモッグはあれからピクリとも動いていない。

 

死んではいないと直感的に感じ取れるのだが、何かポジティブな事を言っておかないと不安でたまらないのだ。

 

「ガノ……。」

 

クワガノンもアイの気持ちが伝わっているのか、時折アイに目線を移している。

 

 

「ガノ…!」

 

サトルから離れて数分後、落ち葉を踏む音が近くから聞こえた。

 

音はどんどんこちらに近付いて来ている。

 

クワガノンは何者かを確かめるために、その場に留まる。

 

アイもその音に気付いており、コスモッグをギュッと抱いて守ろうとする。

 

音の正体が現れるまで、時間はかからなかった。

 

「あ…。」

 

「えっ……」

 

木々の合間から現れたのは、しれんサポーターのカオリだった。

 

横にはパートナーのルガルガン(たそがれのすがた)もいる。

 

アイとカオリはそれぞれ顔を見合わせながら立ち尽くした。

 

お互い、今一番会いたくなかった人物だった。

 

カオリは無意識にルガルガンの鬣を握った。

 

「ガノン……。」

 

クワガノンはカオリとルガルガンを観察する。

 

そして、どちらも敵意を向けていないと判断し、そのまま素通りしようと移動を始めた。

 

「あ……。」

 

カオリはアイがどこかに行く前に声を掛けようとしたが、言葉が詰まってしまった。

 

しれんサポーターであるにも関わらず、島巡り参加者を傷付けてしまった罪悪感。

 

初の大仕事を任されたのに発作を起こして敗走し、憧れの先輩に醜態を晒した悔しさ。

 

決心が付かずに自分のポケモンを傷付けた自己嫌悪。

 

目の前にいる傷だらけの少女を助けたい慈善。

 

任務の対象が再び現れ、遂行せねばという使命感。

 

それぞれがカオリに一緒くたに襲い掛かり、カオリを悩ませ、どんな風にどんな立場で接していいのか分からなかった。

 

カオリのイライラが一気に溜まり、胸が苦しくなる。

 

「う……うわああああああ!!!!」

 

刹那、カオリの頭に耐え難い激痛が走った。

 

カオリは蹲り、悲鳴を上げる。

 

「ルガァ!」

 

ルガルガンは心配して、カオリに寄り添う。

 

いつもなら、鬣にしがみつくのにカオリは反応を示さない。

 

ルガルガンは必死になって鬣を擦り付けた。

 

「あ………。」

 

アイは蹲るカオリを横目に何もできずにいた。

 

見捨てたくないが、小屋の前での出来事による不信感からクワガノンに止まってということができなかった。

 

クワガノンもアイの気持ちがひしひしと伝わって来ているが、アイの体の事も考え、心を鬼にしてカオリを素通りしていく。

 

「う…………ううう………私は……どうしたら…………!!」

 

カオリは痛みを必死で堪えて目を開いた。

 

クワガノンに抱えられたアイが自分の目の前を通っていく。

 

カオリは放心状態で、アイを目で追っていた。

 

(………!)

 

アイが横切ったとき、カオリの目に、アイの腕で隠れていた紫色の物体が飛び込んで来た。

 

「う……ゔああああああああッ!!!!!」

 

その瞬間、更に激しい頭痛がカオリを襲った。

 

それと同時にアイと対峙した深夜からの出来事が走馬灯のように蘇り、カオリの頭に無機質な声が響いた。

 

『縺倥∞繧九k縺」縺キ窶ヲ窶ヲ縲?縺ケ縺ョ繧√?繧凪?ヲ窶ヲ』

 

まるで聞き覚えのない声。

 

聞こえる言葉も言語化できない程異質で、奇怪なものだった。

 

しかしそれは、様々な感情が打ち消し合い空っぽになったカオリの頭にリフレーンし、支配する。

 

『豸亥、ア諱舌l遘∝ォ梧が荳崎ヲ∬劒蛛ス辟。遏・闍ヲ霎帛ュ、迢ャ菴ソ蜻ス雋ャ莉サ螟ア謨礼スェ謔ェ遘∝ォ後>繧ュ繝ゥ繧、雖後>繧ュ繝ゥ繧、繧ュ繝ゥ繧、遘∝ォ後>雖後>繧ュ繝ゥ繧、窶ヲ窶ヲ窶ヲ窶ヲ窶ヲ繧ュ繧ィ繝ュ』

 

「イヤだ…!消えたくない……!

私は…………私は……………………………………」

 

カオリは脳が侵食されるような感覚に陥り、抵抗しようと震える声で小さく叫んだ。

 

『私は…………“繝ッ繧ソ繧キ”…………ワタシだ…………………

消えない………“繧ュ繧ィ繝ォ”……………“繧ア繧ケ”…………。」

 

しかし、その声も次第に消えていき、表情がなくなり目も虚ろになる。

 

「ガウ……。」

 

ルガルガンは突然の、脈絡もない言葉と急に変わった様子に動揺した。

 

長いこと一緒にいるが、ここまで酷くなるのは初めてだった。

 

«縺薙l繧医j隧ヲ鬨薙r髢句ァ九☆繧»

 

カオリは無言で、動揺するルガルガンをボールに戻した。

 

そして、殺意さえも感じる目付きで少女の背中を睨み付けると、腰につけたラブラブボールを手に取り、それを投げた。

 

「「ギヨ〜!!」」

 

出てきたのはそうけんポケモンのニダンギル。

 

剣のような姿をした2つで1体のポケモンだ。

 

頭部からは布が生えており、それで鞘を持っている。

 

「ガノ……!」

 

クワガノンは突然背中に寒気を感じ、カオリの方向へと旋回し、向かい合う。

 

「……………。お姉………さん?」

 

さっき見た時とはだいぶ様子の違うカオリに、思わずアイが呟いた。

 

カオリはポーチから黒い何かが入ったカプセルを取り出し、俯いたまま口を開く。

 

『アイちゃん。

あの時はゴメンね。私がシッカリしてればこうはならなかったのに。』

 

カプセルをラブラブボールの下に差し込み、回して装着させる。

 

「私はしれんサポーター。

シマメグりをエンカツにオコナうために邪魔者は早急に駆除しなきゃイケナイ。

だから、私は。』

 

腕をニダンギルに真っ直ぐ伸ばし、ボールを握ると真ん中のボタンから黒い光線が飛んでいく。

 

光線はニダンギルに照射され、ニダンギルは青い光に包まれる。

 

ボールからカプセルが外され、中に入っていた“やみのいし”がカオリの足元で粒子と化して空中に散った。

 

ニダンギルは姿を変え、二つの体が一つに布で持っていた鞘が盾に変わる。

 

ニダンギルはギルガルドへと進化した。

 

カオリは腕を垂らして、俯いたまま虚無の瞳でアイを睨むと、まるで感情のない乾いた声で言う。

 

「アイちゃん。

あなたを“殺す”。」

 

「え………。」

 

急に襲い掛かってきた一言にアイは頭が真っ白になった。

 

「ギルガルド。」

 

「ギル…。」

 

その間に、ギルガルドは体に装着していた盾を外して布の手に持ち、その鋭利な剣で切り裂きにいく。

 

「ガノ…!」

 

クワガノンは顎に電気を収束し、ギルガルドを向かい打つ。

 

「ギル!」 「ガノ!」

 

ギルガルドが剣の体を振り下ろしたと同時にクワガノンは溜める時間が不十分ながらもでんじほうを発射した。

 

パワーは互角。

 

互いに競り合うが、ワザを使用しているクワガノンの方が先に消耗してしまう。

 

「リーン!!」

 

その時、アイのモンスターボールからコリンクが飛び出し、アイアンテールで援護に入った。

 

「ギル!」

 

しかし、ギルガルドは攻撃の体勢を崩すことなく、左手に持った盾でコリンクのアイアンテールを防いでしまった。

 

「リン…!!」

 

コリンクは動揺し、悔しがるが、それだけでは終わらない。

 

「リーン……………リン!!」

 

鋼の尻尾を盾に当てたまま、体に力を込めて電気を生み出し、自身を中心とした球状に放出する。

 

ほうでんだ。

 

「ギル…!!」

 

ギルガルドは咄嗟に重心を右に傾けてバランスを崩し、でんじほうとの競り合いをやめると、上空に逃げてほうでんを回避した。

 

「リン!!」

 

コリンクは着地し、後ろを向いてアイに叫ぶ。

 

「リン!!」

 

「……………コリンク………。」

 

「リン!」

 

アイとコリンクは見詰め合った。

 

そこには神聖でそれでいて温かい空間が流れていた。

 

その時間はたったの数秒間だったが、非常に密なやり取りが行われていたのだろう。

 

アイは涙を堪え、真剣な表情をすると、コリンクに頷く。

 

コリンクも頷くと、前を向き、ギルガルドに対して臨戦態勢を取った。

 

「まずはコイツを始末かな。

ギルガルド、シャドークロー。」

 

「ギル!」

 

ギルガルドは剣の体を影のオーラに纏い、コリンクに斬り掛かる。

 

「コリンク!スパーク!!」

 

アイはいつもの声量で、いつものように勇ましくコリンクに指示を出す。

 

「リン!!」

 

コリンクはアイの指示を受け、体に電気を纏ってギルガルドに突進する。

 

「リン!!」 「ギル!!」

 

互いのワザは衝突し、衝撃波を起こす。

 

「リ…………リン…!!」

 

だが、パワーはギルガルドの方が上だった。

 

二つのワザは競り合うことはなく、直ぐにコリンクはギルガルドに押し負けてしまった。

 

コリンクは空中で体勢を整え、着地する。

 

「でんこうせっか!」

 

「リン!」

 

そして、すぐさまでんこうせっかでギルガルドの前に躍り出る。

 

「ギル…!?」

 

はがね・ゴーストタイプのギルガルドにノーマルタイプのでんこうせっかは効果はないのだが、突然敵が目の前に現れたため、ギルガルドは一瞬動きが止まってしまう。

 

「アイアンテール!!」

 

「リーン!!」

 

コリンクは尻尾に鋼のエネルギーを纏わせ、でんこうせっかによって生み出した勢いのままギルガルドに叩き付けようとする。

 

「盾。」

 

「ギル…!」

 

ギルガルドはカオリの声を聞き、盾ですかさずガードした。

 

「なっ……!」 「リン……!」

 

ワザを防がれたことにアイとコリンクは一瞬困惑した。

 

アイの判断やコリンクの行動、それらに遅れやミスはなかった。

 

それなのに、進化したての、まだ慣れきっていない姿で、いとも簡単にいなされてしまった。

 

アイはカオリの対応力の高さを認識し、身構えた。

 

「ほうでん!!」

 

「リン!」

 

コリンクは先程のように、鋼の尻尾を盾に当てながら、体に電気を溜めてほうでんの準備にかかる。

 

「ムダだよ。

盾を投げて。」

 

「ギル!」

 

ギルガルドは盾をコリンクごと、地面へと投げつける。

 

「リン…!」

 

コリンクは思わぬ出来事にほうでんの発動ができず、そのままギルガルドの盾の下敷きになるような形で地面に落ちてしまう。

 

「コリンク!」

 

アイはコリンクを心配し、声をかける。

 

コリンクの顔と尻尾は出ているが、体は盾に抑えられてしまい、身動きが取れずにいる。

 

「シャドーボール。」

 

そこへギルガルドは黒いエネルギーの弾を数発コリンクに発射。

 

「……………コリンク!

地面に向かってアイアンテール!!」

 

「リン…!!」

 

アイは何とか躱す手段を考え、コリンクに指示する。

 

コリンクは再び尻尾に鋼のエネルギーを纏わせ、地面に叩き付けようとにした。

 

「逃さないよ。」

 

「ギル!!」

 

ギルガルドは自身が発射したシャドーボールよりも速くコリンクの元へ移動し、剣の体を盾越しにコリンクへと押し付けた。

 

「リ…!」 「なっ…!」

 

思いもよらぬ行動にアイとコリンクは一瞬思考が停止してしまう。

 

その隙に、シャドーボールの雨が容赦なくコリンクへと降り注がれた。

 

「コリンク!!」

 

無残な光景にアイは思わず叫ぶ。

 

「ガ……………ガノン!!」

 

クワガノンは逃走のために体力を温存していたが、そんな場合じゃないと、でんじほうをギルガルドに発射した。

 

「シャドーボール。」

 

「ギル!」

 

ギルガルドは布の右手から無数にシャドーボールを発射。

 

電気の極太ビームを消滅させてしまった。

 

「ガノ……。」

 

でんじほうはかなり体力を使うワザ。

 

連発はできないため、クワガノンは悔しがりギルガルドを睨むしかなかった。

 

「残念だったね。アイちゃん。」

 

「………!お姉さん……。」

 

「アイアンテールの衝撃で体を浮かして盾を退かそうとしたんでしょ。

甘いよ。甘ったるい。」

 

「……………。」

 

アイはカオリの言葉に再び俯いてしまう。

 

「そんなあまちゃんが、護れるなんて本気で思ってたの?

馬鹿らしい。

さっさと諦めて素直に森の小屋で寝ていればこんなことにはならなかったのに。」

 

「………………お……ねえ…………さん……………」

 

カオリからの思いもよらない言葉に、アイは目に涙を浮かべ、口を細かく震わせる。

 

「リーン!!」 「ガノ!!」

 

コリンクとクワガノンはアイに聞く耳を持たないよう訴える。

 

「コリンク………クワガノン………。」

 

仲間の声を聞き、アイはなんとか正気を取り戻し、頬を叩き、必死に涙を堪え、くしゃくしゃになった顔でバトルフィールドを見詰める。

 

「ギル……。」

 

ギルガルドはコリンクを抑えたままカオリの方を向く。

 

カオリは俯きっぱなしだった顔を上げ、穢れたものを見るような表情でアイを見詰めた。

 

その氷のような冷たい眼差しに、アイは涙を堪えることができなくなった。

 

カオリはアイの様子を見てから、表情一つ変えずに、ゆっくり口を開いた。

 

「ホントに馬鹿だね。

せっかくツレが注意しろって言ってくれたのに信じたいとかほざいて、幸せ者だ。

どう?私のこと、今でも信じたいって言える?

…………言えないか。

まっ、言ったらどんだけイカれてるんだって話だけどね。

アイちゃんがやってるのはただの盲信。

信じる信じるって馬鹿の一つ覚えに繰り返して結局裏切られる。

憐れだね。寂しいね。惨めだね。」

 

「……………………!」

 

カオリの容赦のない鋭利な言葉が、アイの脆くなった心を徐々に砕けさせる。

 

アイはもう、呼び続ける仲間の声が聴こえなくなっていた。

 

徐々に弱っていくアイを畳み掛けようと、カオリが再び口を開いた。

 

「それと、分かってる?

ツレに迷惑かけていること。

アイちゃんが我儘したから、ツレもポケモンもみんなアイちゃんっていう疫病神に振り回されちゃって、可哀想に。」

 

アイは自分でも知らないうちに、コリンクの姿を見ていた。

 

そして、胸に抱くコスモッグ。

 

ボールの中にいるポケモン達。

 

駆け付けてくれたサトルとそのポケモン達が脳裏に浮かんだ。

 

みんなボロボロだった。

 

コスモッグを護りたいという自分一人の我儘で、多くの人やポケモンを傷付けてしまった。

 

アイはそんな自分が嫌になった。

 

「全部、アイちゃんが悪いんだよ。」

 

カオリの言葉がアイの崩壊寸前の胸を穿いた。

 

「ガノ…!!ガノ!!」

 

クワガノンは、急に操り人形のように力が抜けたアイを心配し、揺らしたり声をかけたりするが、反応がなかった。

 

「リン!!」

 

そんなアイの様子に、コリンクは火事場の馬鹿力でほうでんを繰り出した。

 

「ギル…!」

 

ギルガルドはしばらくカオリを見ていたために、急な攻撃に対処できず、ほうでんを諸にくらってしまう。

 

「リン!!」

 

そして、アイアンテールの衝撃で盾を退かし、アイの元へと走る。

 

「あの小さいのを近付けさせるな!」

 

その様子を見て、カオリは血相を変え、物凄い剣幕でギルガルドに指示を出した。

 

「……ギ………ギル!!」

 

ギルガルドは少々焦った素振りを見せながらも、盾を拾い上げる。

 

そして、自分の影を素早く伸ばし、コリンクを翳すとその影から闇のオーラを隆起させ浴びせた。

 

かげうちだ。

 

「リン……!!」

 

突然の攻撃にコリンクは対応できず、直撃し倒れてしまう。

 

「手を緩めるな!」

 

「ギル…!!」

 

「リィィィン……!」

 

ギルガルドは起き上がる前に瞬時にコリンクの近くへと移動し、シャドークローをコリンクにくらわせた。

 

「リン…………。」

 

コリンクは吹き飛び、アイの足元へ力無く墜落し、戦闘不能になった。

 

「ギル…!!」

 

そして、ギルガルドは間髪入れずに剣の体に影のオーラを纏わせ、クワガノンへと向かう。

 

「………ガノン…!!」

 

クワガノンはアイの心配で、相手方への注意を怠っていた。

 

クワガノンが気付いたときにはギルガルドの体は自分の眼前へと迫っている。

 

「ガノン……!!」

 

クワガノンは10まんボルトで迎撃しようとしたが、発射の段階でアイに感電してしまうリスクが生じるために躊躇ってしまった。

 

「ギル…!!」

 

「ガノ……!!」

 

そして次のワザを繰り出す猶予もなく、クワガノンはギルガルドのシャドークローを諸に受けてしまった。

 

その衝撃で、アイを手から離してしまう。

 

「ガノッ…!!」

 

クワガノンはアイの姿を見て、言葉を失った。

 

足をペタンとついて蹲り、目には光がない。

 

それでもちゃんとコスモッグを抱きしめている。

 

クワガノンはアイを心配し、近寄ろうとしたした。

 

「やれ。」

 

「ギル…!!」

 

しかし、思いも虚しくギルガルドは戦意を失ったクワガノンにシャドークローの連続攻撃を仕掛けた。

 

「ガノ……!!」

 

クワガノンはその場で倒れ込み、戦闘不能になった。

 

もうこれで、この場に力無き少女を護るものは何一つなくなった。

 

ギルガルドは上空へと浮かび上がる。

 

カオリは静かに頷くと、蔑むような表情でアイを見下ろした。

 

「やっぱり弱い。

私、あれからアイちゃんのバトル見直したんだ。

それで気付いたの。

アイちゃんの戦闘力はアイちゃんの精神状態に左右されるって。

その通りだね。あっさりだ。」

 

カオリは光を失ったアイに、勝ち誇るように言った。

 

「ギルガルド。」

 

そして、アイに指をさし、ギルガルドへ斬り刻むように指示をする。

 

しかし、ギルガルドは一歩たりとも動かなかった。

 

「なにやってる。

やれ。」

 

カオリは少し苛立った表情で、ギルガルドに指示した。

 

それでもギルガルドは何もせず、カオリの方をじっと見詰めていた。

 

「なにやってんだ!

やれと言ったらやるんだ!!

私の命令が聞けないの!?」

 

カオリはもうすぐ目標が達成するというのに、まったく行動しようとしないギルガルドに腹を立てた。

 

「………ギル…。」

 

ギルガルドは小さく溜息のようなものをつくと、盾を軽くなげ、自分の体を差し込んで納刀してしまった。

 

「………なっ…………!!

じゃあいいよ。腰抜け。」

 

カオリはそう吐き捨てると、近くの木の細い枝を1本折った。

 

そして、枝の折れた尖った部分をアイに向けて言い放つ。

 

「アンタがやらないなら。

私がやる。」

 

カオリは何かに憑かれたようにアイの元へ一歩一歩歩みを進める。

 

アイの目の前までくると、枝を振りかざした。

 

そして、目を伏せながら、勢いよく枝を振り下ろそうとしたそのとき。

 

突然、カオリの目が怪しく光ったと思うと、体が石化したように硬直したのだった。

 

枝がスルリと手から抜け、カオリの足元に落ちる。

 

「なんでだよ………?」

 

カオリにはこの現象には覚えがあった。

 

そして、それを引き起こしたと思われるモノへと視線を動かす。

 

「ギルガルド。」

 

「ギル……。」

 

ギルガルドも同じように目を怪しく光らせ、霊力でカオリの動きを止めていた。

 

進化したてで、ソーマのギルガルドのように操ることはまだできないが、動きを制限するくらいなら容易かった。

 

「離せ!ギルガルド!!

アイちゃんを殺せば………私は楽になれるんだ!!

みんな認めてくれる!!恩返しもできる!!

アイちゃんさえ……アイちゃんさえ殺せば!!」

 

カオリは目に涙を浮かべて、自分に見えた一筋の希望をつかもうと必死に切願した。

 

「ギル。」

 

それでも、ギルガルドは霊力を解除しなかった。

 

ギルガルドのその瞳はどこか哀しんでいるように見えた。

 

そのとき

 

「アイーーーッ!!!」

 

カオリの後方から声がした。

 

「くっ………!あと少しなのに……!」 「………!」

 

その声にカオリは焦燥感を覚えた。

 

その声はアイに光を戻した。

 

「ギルガルド!!

早く私を解放しろ!!

もう苦しみたくないんだ!!

これで終わるんだ!!」

 

カオリは声の主が来る前に蹴りを付けようと、これ以上ないくらい必死にギルガルドに切願した。

 

「早く!!私を自由にさせろぉッ!!!」

 

「ルガウ!!」

 

カオリが叫んだと同時に、モンスターボールから目を赤くしたルガルガンが飛び出し、カオリの脇腹に体当たりをした。

 

「…………がはっ!」

 

カオリは突然のパートナーからの攻撃に理解できないまま、その場に倒れた。

 

「ギル…!」

 

予想だにしなかったことに、ギルガルドは驚き、霊力を解いてしまう。

 

「…………ルガルガン……。」

 

カオリは目に涙を浮かべながら、困惑した表情で、ルガルガンを見上げた。

 

「ルガウ!」

 

ルガルガンはカオリに吠え、威嚇する。

 

「ルガルガン……。」

 

今まで見たことのないような恐怖の顔に見据えられ、カオリは何もできなかった。

 

「アイーーッ!!

っな!アイ!!」

 

そのとき、サトルがカオリの後方の木々の間から姿を見せた。

 

「ちっ……!ここにも追っ手が……!」

 

サトルは蹲るアイと横たわるアイのポケモン、そして、サポーターの制服を着た1人の女性とそれを囲むポケモンの姿を見て、腰のボールを手にし、臨戦態勢を取った。

 

しかし、目の前にいる2匹のポケモンはサトルの予想と違う行動を取った。

 

「ギル。」 「ルガウ。」

 

ルガルガンとギルガルドはアイとカオリの間に立ち、アイへの道を開けた。

 

(なんだ……?

このポケモン達。トレーナーは………まさか。)

 

サトルは目の前の行動に疑問を抱き、一時は罠かと思ったが、ポケモン達の顔に敵意がないことが分かると、アイの元へ駆け寄った。

 

「アイ。アイ。分かるか?

俺だ。サトルだ。」

 

サトルは、蹲りずっと小刻みに震えるアイの肩を掴んで、呼び掛けた。

 

「チガウ。ワタシハ。ワタシハ。」

 

アイはサトルの呼び掛けに応えず、うわ言を言い続けている。

 

「アイ!………アイ!!」

 

「メイワク。チガウ。チガウ。」

 

サトルはアイの名を呼ぶが反応がない。

 

(ちっ…!どうしちまったんだ……。

応えてくれ…!)

 

「イラナイ。ワタシハ。イラナイ。」

 

何度も何度も呼び掛けたがやっぱり反応がなかった。

 

「アイ!!

(このままじゃ埒が明かねえ。

あのしれんサポーターも、いつ復活するか分からねぇ。

それに、もう少しで追いつかれちまう。

仕方ねえ!!)」

 

サトルはこの場に留まり続けることは危険と判断し、アイの腰からモンスターボールを取り、コリンクとクワガノンを戻すと、アイを抱え上げた。

 

「アイ!!アイ!!」

 

そして、アイの名前を際限なく呼び続けながら海岸に向け、一直線に走り出した。

 

ルガルガンとギルガルドはサトルの動向を目で送ると、カオリの方へ顔を向けた。

 

カオリはボーッとしていたが、しばらくするとルガルガンに向けて手を伸ばした。

 

「ルガウ。」

 

ルガルガンは目を元の緑色に戻し、自分の体をカオリに寄せる。

 

カオリは自分でも気付かないうちにルガルガンの鬣に触ろうとした。

 

そのとき。

 

「カオリ…?

おい、カオリ!!おまえ、何してんだ…!!」

 

森の奥からソーマが叫んだ。

 

カオリは驚いた顔でソーマを見上げ、ルガルガンに触ろうとした手をゆっくりと下げた。

 

「おまえ。本部で休んでろと………。

ギルガルド………進化させたのか。」

 

ソーマは注意を無視して勝手に拠点を抜け出したカオリに小言を言おうとしたが、ギルガルドの姿を見て、思わず訊いていた。

 

カオリは寝そべったまま、後ろめたそうにゆっくりと頷いた。

 

カオリの応えにソーマはしばらく閉口した。

 

カオリは申し訳なさそうに目線をそらし、ギルガルドをラブラブボールに戻した。

 

そして、落ち着かせるようとルガルガンの鬣に触ろうとした。

 

「そうか………。

じゃあ……会ったんだな。

サトルくんかアイちゃんに。」

 

「………!」

 

カオリは聞きたくない名前を耳にし、フリーズしてしまった。

 

ルガルガンが自分から鬣をカオリの手に当てるが、カオリは指一つ動かない。

 

「図星か…。

カオリ。今……もしくは今さっきでもいい。

イライラはでなかったか?」

 

「イライラ……?」

 

カオリの頭にさっきまでの出来事がフラッシュバックされた。

 

「……ぐっ……!」

 

その瞬間、カオリの頭に激痛が走った。

 

「些細なことでもいい。

何かなかったか?」

 

(やめて。)

 

カオリは心の中で呟く。

 

何かが頭に取り憑き、自分が自分じゃなくなる。

 

そんな自分を思い出すのが怖かった。

 

「俺はお前を護りたい。

カオリ、さっき誰と出会い、どうしてた?」

 

(やめて!!)

 

カオリは心の中で叫んだ。

 

再びイライラが溜まってくる。

 

自分じゃない自分がまた人を傷付ける。

 

自分の中に巣食う小さな悪魔が、封印を解き巨大な猛獣となって暴れ回る。

 

そんな自分が怖くなった。

 

「カオリ。

さっきまで何があった?」

 

「やめて!!」

 

カオリは無意識に、自らに指し伸べる手を払い、叫んでいた。

 

「痛っ……!

………カオリ……?」

 

突然の行動にソーマは目を見張り困惑した。

 

それと同時に、手に痛みを感じ、その場所を見て、咄嗟に逆の手で隠した。

 

カオリは憧れの人の手を叩いた自分の手を震える瞳で見た。

 

「…………!!」

 

そして、息を漏らしながらルガルガンの力を借りて立ち上がると、ソーマに背を向けて力無く歩き始めた。

 

「カオリ…!どこ行くんだ…!?」

 

「ごめん。ソーマ兄ちゃん…。

私、だめだめだよね。」

 

カオリは足を止め、振り向かずにそのまま静かに言った。

 

「カオリ……?何を言ってるんだ?」

 

「せっかく、みんなの助けを借りて、しれんサポーターになれたのに、恩返しの一つもできないなんて。」

 

「カオリ……。

大丈夫だ…!今回は失敗しちゃったかもしれないが、次にまたチャンスがある…!

これからも俺たちと頑張っていこう!な!」

 

「次…………。私には次はない……。

私の中のバケモノが……私を乗っ取ろうとしている……。

私はもう、私でいられない!!」

 

カオリは叫ぶと、サトルが走って行った方向へ走り始めた。

 

「カオリ!」

 

ソーマはカオリを追い掛け、すぐに手を掴んで捕まえた。

 

「離して!私は、私でいたい!!

私であるときに、恩返ししたい!!」

 

カオリはソーマを振り払おうとするが、ガッシリと掴んだ大きな手はそれを許さない。

 

「落ち着け!カオリ!!

お前は助かる!」

 

「嘘だ!またこうやって気休めで誤魔化して!!」

 

「嘘じゃない!!」

 

ソーマの今までの気休めのときとは違う本気の声に、カオリは動きを止め、涙に腫れた目でソーマの顔を見た。

 

ソーマもカオリの顔を見て、一呼吸置くと、口を開く。

 

「カオリ。これから大事なことを話す。

よく聞くんだぞ。

お前の中のバケモノの全てだ。」

 

「すべて……………?」

 

続く…………

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