ポケモンドリームprototype   作:ココリンク

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安泰の儀式からコスモッグを救ったアイとサトル。
手傷を負うも、コスモッグの力でなんとか森に逃げるが、しれんサポーターのソーマに見付かってしまう。
サトルが足止めとなり、先にアイを逃がすが、アイはカオリと出会ってしまう。
カオリは再びイライラが積りニダンギルをギルガルドに進化させ、精神攻撃でアイを追い詰めるも失敗し、サトルと共に逃げられてしまう。
そこへソーマが合流、アイ達を追い掛けようと焦るカオリを掴まえ、イライラの原因の全てを話す。


ウルトラビースト ウツロイド

「カオリ。これから大事なことを話す。

よく聞くんだぞ。

お前の中のバケモノの全てだ。」

 

「すべて……………?」

 

カオリは涙で赤くなった目を見開き、ソーマを見詰めた。

 

思いもよらない言葉に、カオリは頭の処理が追い付かず、しばらく放心状態になった。

 

カオリは無意識にルガルガンの鬣を握っていた。

 

「ああ。全てだ。

俺の知っていること全て話す。

お前がなぜ、イライラしてしまうかをな。」

 

ソーマは決意に満ちた表情で、困惑するカオリに真剣に語り掛ける。

 

言葉の意味を理解したカオリは、息が荒くなった。

 

カオリは今までソーマに、自分の、人とは違うイライラのことを何度も相談していた。

 

けれども、ソーマはどのように生活したらいいか、どのように対策したらいいかなど、対処法を教えるばかりで、なんでイライラするようになったかなどという“根本的な話”は一切していなかった。

 

「ソーマ兄ちゃん…。

今まで…なんで話してくれなかったの……?

知ってたの?ずっと昔から…?」

 

カオリは、つい最近、ソーマが原因をなんらかの方法で発見したのだと思って尋ねた。

 

否、思いたかったから尋ねたのだ。

 

カオリは訊くまでもないということを自分自身で理解していた。

 

ソーマの口振りに少し躊躇いがあったからだ。

 

それでも、尊敬しているソーマに、ずっと隠し事をされていたとは信じることができず、つい訊いていた。

 

ソーマはカオリの気持ちが分かっているのか、一瞬目を背け、唇を噛み締めてから口を開いた。

 

「すまない…。

俺はお前にずっと隠し事をしていた…。

だが、お前の症状がここまで進んだ以上、隠すことはできないと思った……。」

 

「ソーマ兄ちゃん………。」

 

カオリは心が冷たくなるのを感じた。

 

ルガルガンの鬣をさらに強く握る。

 

ルガルガンは吠えたりはせず、カオリを少しでも安心させようと体を擦り寄せた。

 

「カオリ。

もう時間がない。

これはお前のためだ。

大丈夫。俺はお前が受け止められると信じてる。」

 

ソーマはまっすぐな瞳をカオリに向けながら、カオリの両肩に手を置いた。

 

カオリは困惑した。

 

それと同時に恐怖もあった。

 

ソーマの素振りから、都合のいい話が聞けるとは到底思えない。

 

忘れてしまう程の嫌な過去を思い出して、また自分が嫌いになってしまうかもしれない。

 

それでも、尊敬する先輩が、“大丈夫”だと“信じてる”と言ってくれている。

 

カオリはその言葉を信じて、抵抗はせず、ソーマの話を聞くことにした。

 

ソーマはカオリの恐れがありながら決意のある表情を見て頷き、口を開いた。

 

「手短に言うぞ。

15年前。お前が2才くらいのときだ。

お前は覚えてないだろうが、この島で、あるイキモノに遭遇したんだ。

そのイキモノの名は“ウツロイド”。

またの名は“UB:01 PARASITE”。

そう、“ウルトラビースト”だ。」

 

カオリは目を見開き、困惑した。

 

そして、自分がどうなったかを直感したが、それを口に出すことはなかった。

 

今はまだ話の途中。

 

最後まで聞けば杞憂ということで済むかもしれないと信じたかったからだ。

 

「お前も知ってると思うがウツロイドはニンゲンやポケモンに触手を刺し、神経毒でそのニンゲンやポケモンを欲望のままに暴れさせる“きせいポケモン”だ。

俺はそのウツロイドが現れたと聞いて、駆除に向かったが……遅かった。

カオリ……お前は少し。ほんの一瞬だけ、ウツロイドに寄生されたんだ。」

 

カオリはなにか重い物で殴られたような衝撃を受けたような感覚になった。

 

カオリの頭に激痛が走り、呼吸が荒くなった。

 

それでも、痛みを精一杯耐え、呼吸も正常に戻そうと努力し、ソーマに心配かけないように平然を装って話を聞き続けた。

 

「すぐに引き離したが、お前は神経毒の影響で、3日間くらい眠り続けた。

お前は目覚めると急に癇癪を起こし始めた。

すぐに収まったが、俺は島クイーンと、お前を調べると神経毒の影響だとわかった。

だが、ウツロイドの毒はニンゲンやポケモンの感情--喜怒哀楽すべてを高めて永久に狂わせる。

それなのに、以降お前の高まった感情は怒りのみ。

それに、永久に怒り続けるわけじゃなくて、安定した感情のときもある。いや、寧ろ安定しているときの方が多い。

これは、寄生が不十分だったか、あのウツロイドが特異だったか考えたが、おそらく後者だ。

最近、ウルトラビーストの活動が活発になっている。

恐らくアイツらはこの世界を乗っ取るつもりだ。

その前に、普通の神経毒とは違う特殊ウツロイドをこの世界に送って、準備をしていたんだと思う。

不十分なモノに見せ掛けた寄生をし、ある日を境に寄生された人、即ち“宿主”から世界の情勢を聞き出し、侵略を確かなものとするために。

カオリ。“お前もその内の1人だ”。」

 

「…………!!」

 

“その内の1人”。

 

カオリはその言葉を聞いた途端、ソーマの手を払いのけ、後ろを向いて走り出そうとした。

 

「カオリ…!」

 

だが、ソーマはすぐに腕を掴んで、それを阻止した。

 

ここでソーマは、カオリの身体が小刻みに震えていることや、これ以上ないくらい汗で身体が濡れていることに気付いた。

 

明らかに様子がおかしいのに、話すことに夢中で気付けてあげられなかった。

 

ソーマは超えてはいけないラインを超えてしまったのかと自分を責めた。

 

それでも、解決への道筋のためには仕方ないことだと言い聞かせ、平然を保つと、カオリの頭を撫で、優しく告げた。

 

「安心しろ。お前は助かる。

今、お前の中の神経毒に対する解毒剤を調合している。

もう完成間近まで迫ってるんだ。

だからカオリ。お前はそれまで………………」

 

「勝手なことしないでよ……。」

 

「…………カオリ…?」

 

ソーマの言葉を聞く度にカオリは心が冷たく固くなっていった。

 

受け止めきれない現実が一気に襲い掛かり、カオリは何が何だかわからなくなった。

 

自分がナニモノで、何が住み着いているのか。

 

今までの人生がすべて虚構なものだったと否定されたような気分がした。

 

そしてその悲しみや虚無感は、どこに対して向けたらいいか分からない怒りとなって現れた。

 

「勝手なことしないでよ!!

私が15年……ううん、私はこれを生まれ付きだと思ってた…!!だから17年!!

私がどんな気持ちで生きてきたか分からないくせに!!」

 

「……カオリ………?

だから、もうすぐ解毒剤ができるんだ…!

お前は助かる。だから安心して……………」

 

「そういう問題じゃない…!!

私は悩んでたんだよ…!苦しんでたんだよ…!

でもソーマ兄ちゃんはずっと……ずっとずっとずーーーーっと私を騙してたの…!?

知ってるのに、知らないふりして……………

私がどれだけ…………辛いのか…………分かったふりだけしてたってこと…………………?

ソーマ兄ちゃんなんて………ソーマ兄ちゃんなんて…………大ッ嫌いッ…!!」

 

「っ………!?」

 

カオリの涙の訴えに、ソーマは思わず腕から手を離してしまった。

 

それを合図に、カオリは顔を伏せ、途中で躓きそうになりながら、海岸の方向へがらルガルガンと走っていった。

 

「カオリ……。」

 

ソーマはカオリの後ろ姿をただ見送ることしかできなかった。

 

追い掛けようとしたが、悲痛な泣き顔を見た後では、追い付こうともどんな言葉をかけたらいいのか分からなくなっていた。

 

ソーマはしばらくその場で立ち尽くすしかなかった。

 

 

 

「う……ううん………。」

 

「アイ……!大丈夫か……!?」

 

数時間後、ニポ島の海岸にある小さな小屋で、アイが目を覚ました。

 

あの後、アイはサトルに抱えられたまま急に意識を失ってしまっていた。

 

サトルは必死に呼び続けたが、返事はなく、そのまま小屋まで到達し、そこにあった埃にまみれた薄い布を叩いて、それに寝かせていた。

 

サトルは、アイが目を覚ますまで気が気でなく、アイが体を起こすと同時に駆け寄っていた。

 

少々寝ぼけているが、表情や顔色も問題なかった。

 

「アイ……よかった…。

もう起きないかと思った…。」

 

サトルは安堵に微笑み、いつになく感情的な声を漏らす。

 

アイはそれを不思議そうな表情で見詰めると、純粋な目を向けながら、サトルに聞いた。

 

「サトル…?

なんでここにいるの?ラウラウ島に行ったんじゃなかったっけ?」

 

「えっ……?」

 

思いもよらないアイの言葉に、サトルは一瞬固まってしまう。

 

そんなサトルをよそに、アイは子供が親に疑問を述べるように、純粋な口調で聞き続けた。

 

「ここ……どこ?

ねえ、サトル。私たち、なんで一緒にいるんだっけ?

それにサトル、怪我してるよ。汗もすごいし…。

何かあったの?」

 

「これは………いったい………?」

 

サトルはアイの疑問に衝撃を受けた。

 

まるで、さっきまでのコスモッグを護るための一部始終、それらすべてが“なかったかのような”口ぶりだった。

 

サトルは思わず、アイの両肩を掴んで問いただした。

 

「落ち着け……アイ!

ほんとうに分からないのか……?

どうして俺といるのか……………今までどうしてきたのか……?」

 

「え、ええと………………うーーん………。

ごめん。わからない。」

 

「……………………そうか……。」

 

アイの無邪気な返答に、サトルはショックで肩を落とした。

 

しかし、森で逃げた方向がバレている今、いつ追手が現れるか分からないため、落ち込んだままではいられない。

 

サトルは手を握り締めると、顔を上げ、立ち上がった。

 

「分かった。事情は後で伝える。

アイはまた寝てたらいいんじゃないか?

そうしたら思い出すかもな。」

 

「えー。もうそんなに眠くないよ。

しかも下固くて寝にくいし……。」

 

「いいから、アイは疲れてるんだ。

トレーナーなら、いつでも万全な状態じゃなくちゃいけない。」

 

「じゃあ、サトルもじゃん。

ホントに大丈夫なの?

顔色悪いし、汗もびっしょりだよ?」

 

「………俺は大丈夫だ。

とにかく、アイは寝ていろ。」

 

なかなか引いてくれないアイに、サトルは苛立ちを覚えてしまった。

 

あまりにも信じ難いことが今、目の前で起こっている。

 

サトルはその現実を受け止め、整理し、その後どうするかを考える時間が欲しかったのだ。

 

そんなサトルをよそに、アイは現在位置を確認しようと図鑑を開こうとするが、画面が点かない。

 

「あれ?電源切っちゃったかな?」

 

アイは自分でも気付かないうちにシャットダウンしてしまったと思い、電源をつけようとした。

 

「ちょっ……!アイ…!待て!」

 

それに気付いたサトルは強引に図鑑を取り上げ、画面を見た。

 

まだ電源はついておらず、サトルはほっとした。

 

もし、電源がついたら、GPSで居場所がわかってしまうからだ。

 

実際に、森では図鑑を開いたせいで見付かってしまっていた。

 

「サトル!!何するの!?」

 

「何するじゃないだろ……!俺たちはいま………!!」

 

サトルはアイに状況を説明しようとしたが、抜け殻になったかのようなアイの姿を思い出し、やめた。

 

「とにかく、ダメだ。」

 

「えー……。

もうなんなの……。

いきなり変なとこにいると思ったら、サトルもいるし、まーたこうやって隠し事してさ!」

 

サトルの説明なき抑制に、アイは布の敷布団へサトルに背中を向ける形で横たわり、ふてくされるように言った。

 

「私ははやくサイダンタウンに行って、島巡りの続きをしたいだけなのに………なんでなの?」

 

「………アイ。」

 

アイの弱弱しい声に、サトルは心が痛んだ。

 

そして、ミヤビシティで電話越しに聞いた泣きながら語られたアイの話を思い出していた。

 

(やはり、なにも覚えてないのか……。

なにかの本で見た気がする。大きなストレスやトラウマがあると、脳がそれらの記憶をなかったことにしてしまうことがあると。

アイは記憶力がいいし、感受性が強い。

だから、ショックも人一倍受けやすい。

それに弱音を吐く十分な時間も取ってやれなかった。

大峡谷かそこら辺からか……。

フライゴンのときくらいから、ずっと無理し続けたんだろうな………。

ごめんな。アイ。護ってやれなくて……。)

 

(サトルが意味もないことするわけない。

なにか言えない理由があるのかな?

それに私はなんでここにいるんだろ?

たしかサイダンタウンに行くため、大峡谷を越えようとしたら、プテラとメガプテラが来て…………デンヂムシがクワガノンに進化して…………えっと……それから…………………

……………だめ。思い出せない……。)

 

アイはここまでの経緯を思い出そうとしたが、フィルムが途切れたように、クワガノンが進化した直後くらいからまったく思い出せなかった。

 

これは記憶力が優れているアイにとってはかなりの不安だった。

 

 

 

 

「はぁ…………はぁ………………。」

 

「ルガウ……。」

 

カオリはサトルが走っていった方向へ、えっちらおっちらと足をひきづりながら歩いている。

 

たまにルガルガンに支えられながら、一歩一歩重たい足を進める。

 

いつ気を失ってもおかしくないくらいに、意識が朦朧とし、全身は震え、汗も真夏の炎天下で長距離走ったかと思う程に身体を濡らしている。

 

「いかなきゃ……………わたしは…………………わたしなんだ……………」

 

「ルガウ…。」

 

目も当てられないトレーナーの姿に、ルガルガンは何度も止めようと思ったが、サトルとアイを追うことで精神を保っている今、それを邪魔したらどんなことになるのかわからないと本能で感じ、やめていた。

 

だからルガルガンは、ただ痛々しい姿を見守ることしかできなかった。

 

そのとき、カオリはピタリと足を止めた。

 

「うみ……………だ…………。」

 

カオリのびしょ濡れの身体に潮風が当たったのだ。

 

それと同時に、カオリは少し気を抜いてしまい、倒れ込みそうになった。

 

「ルガウ……!」

 

ルガルガンは慌てて自身の体で支えた。

 

意識はないが、まだ呼吸はしている。

 

ルガルガンはすぐ近くの木陰まで運び、そこに眠らせ、安心させようと鬣を寄せながら、隣に座った。

 

 

 

「198………199……200………」

 

サイダンタウンのニポしれんサポーター本部。

 

その中庭で、重さ260㎏はするとされるギガイアスを乗せてタギリが腕立て伏せをしていた。

 

太陽の湖でのアイ達の逃走後、あの場にいたしれんサポーターはヒトシを除いて全員本部へ戻っていた。

 

マナミはシエルの介抱をしており、タギリは溜まった鬱憤を晴らそうと、戻った直後に筋トレを始めた。

 

「201………202………203………」

 

「いいか……?………隣。」

 

「204……ん?」

 

横から声が聞こえ、タギリはその方向を見上げた。

 

見ると、深刻そうな顔をしたソーマが立っていた。

 

「おう。好きにしろ。」

 

タギリは表情の事には触れず、無愛想に返した。

 

ソーマはうっすらと微笑すると、ボールからニューラを出し、タギリと同じように背中に乗せて腕立て伏せを始めた。

 

 

「490…………491…………492……………

久しぶりだな。こうしてお前と筋トレするのは。」

 

数分後、ずっと暗い顔しているソーマにタギリが話しかけた。

 

「ああ、そうだな。」

 

「493…………

ウルトラビーストがこのニポに現れるようになってから………494……お前忙しくなったからな。

495………確かカオリちゃんがここに入るちょっと前だっけか?」

 

「ああ。」

 

ソーマはタギリの言葉が耳に入っているのかさえ分からない上の空だ。

 

ついにタギリは腕を止め、痺れを切らし捲し立てる。

 

「ソーマ!おめぇ何かあったのか!?

悩み事があるんならとっとと言っちまえ!!

ったく、Zワザでカッコつけたと思ったら辛気臭せぇ顔して戻って来てよぉ!!

おめぇのそんな顔は見たくねえんだよ!!」

 

ソーマは突然のお怒りにバランスを崩し、そのまま地面にうっぷした。

 

数秒時が流れ、徐ろに立ち上がると、唇を噛み締め、これまでの経緯を全て話した。

 

 

「そうか…。

つい言っちまったかあ……!」

 

タギリはソーマの突拍子もない行動に頭を抱えた。

 

「おめぇ、あそこまで言う事はないだろ。

それに、侵略計画もおめぇの考察に過ぎねぇんだろ…?」

 

「だが、もう信憑性は十分にある!

今じゃなくても、いつか伝えとかないといけなかったんだ…!!」

 

「分かってる。

だけど、俺はやだな。

おめぇの言ってることって用は“おめぇはビーストのスパイだ”って言っているようなもんじゃねぇか。

しかも、おめぇも島クイーンもビーストを恨んでる。

考えてみろ。好きな人が心から憎んでいる存在に自分が関わっているんだぜ。

俺でも怖いし嫌だぜ。」

 

「……………。」

 

タギリの言葉にソーマは何も言えなくなっていた。

 

焦るばかりで冷静さが足りなかった。

 

もっとカオリの事を考えるべきだったのかと、自分を恨んだ。

 

「ソーマさん。帰ってたんだ…。」

 

中庭に接する廊下から声が聞こえた。

 

振り向くと、そこには不安そうな顔をしたマナミが立っていた。

 

「カオリちゃんは?一緒じゃないの?」

 

マナミが尋ねるが、ソーマは目を伏してしまう。

 

「俺が話す。おめぇは自室に戻って頭冷やしてろ。」

 

タギリがソーマの肩を叩き、マナミにカオリの事を話し始めた。

 

ソーマはニューラをボールに戻しトボトボと、力なく自分の部屋へ戻って行った。

 

 

 

 

サトルは自分の鞄の中のきのみケースを見て、ギョッとした。

 

モモンのみや、ラムのみなどのどくを治すきのみが入っていなかったのだ。

 

サトルは海中で巨大なドククラゲに刺されたときから、どくを負っていた。

 

火事場の馬鹿力でここまで体調の悪化を感じずにこれたが、今になってしんどさが増してきた。

 

この小屋まで逃げたら毒消しのきのみを食べて回復しようとしていたが、アイの様子がおかしくなりそれどころではなかったため、アイに指摘されるまで自分の状態のことを忘れていたのだ。

 

サトルはアイを横目で見た。

 

アイは横たわってはいるが、寝てはいないと感じ取った。

 

サトルは申し訳なさそうにアイに言う。

 

「アイ……モモンのみ………持ってないか?」

 

「モモン?あるよ……ちょっと待ってて。」

 

アイはすぐに立ち上がり、リュックからきのみケースを取り出して、モモンのみを投げ渡した。

 

「ありがとう。」

 

「うん!でも珍しいね。サトルがストック切れなんて。」

 

「まあな。」

 

サトルはここにこなかったら、ミヤビシティのショップで買うつもりだったが、それを言えば追求されて記憶が戻ってしまうのではないかと思い、はぐらかした。

 

「それで、モモンのみ何に使うの?

サトル甘いの苦手だよね?」

 

「………ちょっと…試してみるだけだ。

いつまでも好き嫌いしてられないからな…。」

 

サトルはそういうと、勢いよくモモンのみをかじった。

 

「ふーん。

はあ……私も何か食べたいな………。」

 

アイは物欲しそうな目でサトルを見詰めたが、中が空洞で食べられる面積が少ないモモンのみはすっかりサトルのお腹の中に入っていた。

 

「ん……悪い。アイ。

えっと………これしかないが食うか?」

 

サトルは最後の一口を食べたあとに、アイの視線に気付き、バッグを漁って、ニガサダを差し出した。

 

アイは少しムッとした表情で言った。

 

「いいよ。私苦いの嫌いだし。」

 

「………だよな。」

 

サトルは予想通りの反応に、苦笑いしながらニガサダをバッグに戻した。

 

 

 

 

サイダンタウン、ニポしれんサポーター本部。

 

「クソ……!あとちょっとなのに………!

どうしてできないんだ……!?」

 

自室に戻った筈のソーマは、地下の研究室へ吸い寄せられるように移動し、ウツロイドの神経毒に対する解毒剤を調合していた。

 

惜しいところまで来ているのだが、よい成果が出ず、悔しさと苛立ち、そして不甲斐なさで壁を叩いていた。

 

ソーマはそのままの勢いで机の上の試験管などをなぎ倒そうとしたが、心のストッパーがそれを止めた。

 

そして、持ってきた飲み物がもう空だと気付き、一旦落ち着くためにも、外にでることにした。

 

「ソーマさん……やっぱりここにいた。」

 

「……マナミ…。」

 

鍵を開け、ドアを開けると心配そうな顔でマナミが立っていた。

 

右手には、可愛らしいハート柄に剣のシールが貼った日記帳らしきものを持っている。

 

「放っておいてくれ。タギリから聞いたはずだ。

俺はカオリに贖いをしなくちゃいけない。」

 

ソーマは横目でマナミを見ながら、階段まで歩き出した。

 

「待って。これ、カオリちゃんの日記。」

 

マナミの言葉にソーマは歩みを止めた。

 

「カオリちゃんから絶対にソーマ兄ちゃんには秘密だって言われてるけど、今のソーマさんに一番必要な物だと思う。

カオリちゃんが、しれんサポーターの研修生になったときから書かれている。

カオリちゃんのイライラの周期は知ってるよね。そこだけでもいいから読んでおいて。」

 

マナミはそう言うと、ソーマに無理矢理日記を押し付け、足早に地上への階段の方に戻って行った。

 

ソーマは日記の表紙を見詰めると、階段の方へ歩き出した。

 

 

 

 

『ほう、小娘め。生きていやがったか、クソが。隠れたつもりだろうがこの私から逃れることなど不可能。』

 

静かな海原の上に、一匹のポケモンが砂浜にポツンと佇む小屋を見下ろして呟いていた。

 

『ビーストめ…。貴様の墓場はここだ!

いや、墓なんて立派なもんは勿体ねえ!!

ビーストの粒子一つ残らず破壊してやる!!』

 

そのポケモンは空を滑るように飛び、腕に炎のエネルギーを溜めると、小屋の入り口を殴り飛ばした。

 

「………なっ…!」 「えっ……!?」

 

アイとサトルは突然吹っ飛んだ扉に目を見張った。

 

そして、それをやったと思わしきものに視線を移した。

 

「あれは……!?」

 

「……フライゴン…!?なんでこんなところに…!!ここって砂漠……!?」

 

サトルは一瞬焦ったが、アイの様子を見て少し安心した。

 

『ほう、仲間がいたか。』

 

フライゴンは蔑んだ瞳でサトルを見下ろし呟く。

 

サトルはそれに驚いていた。

 

(ポケモンが喋った……!

なんだアイツ…………確かアイはフライゴンがビーストキラーだとか何とか名乗っていたと言っていた…………それと何か関係があるのか……!?)

 

サトルは複数の疑問が頭の中に込み上がって来たが、考えている暇はなかった。

 

『そのズタ袋からビースト反応がプンプンしやがる!!

そんなことで、私の目を誤魔化せると思っていたのかマヌケがあッ!!!』

 

フライゴンは激しく捲し立てると、口から龍の形をしたエネルギーを、乱雑に置かれるズタ袋の中の、一つだけ大きめなボールが入ったように膨らんだものへ放射した。

 

「ちっ……!もうバレたか………!!

だが、タイミングはばっちりだ。

リザードン、まもる!!」

 

サトルは急いで小屋に設置されていたついさっき回復が完了した回復マシンから、リザードンのモンスターボールを外し、投げた。

 

「ウェウ!!」

 

回復し、元気になったリザードンはすぐに謎のバリアを展開。

 

りゅうのはどうからズタ袋を守った。

 

『ちっ…!やはり貴様らから始末する!!

それが手っ取り早い!!』

 

フライゴンはそういうと、機動力を活かすために小屋から離れた。

 

もっとも、出てこないのであれば、そのまま小屋を破壊して瓦礫の下敷きにすることさえも厭わない。

 

「何かよく分からないけど、私も!!」

 

アイも加勢しようとして、回復装置に手をかけた。

 

「…………あれ?コスモッグは……コスモッグのボールがない!!」

 

回復装置に乗っているボールの数は5つだった。

 

何も覚えていないアイは、装置の下やその付近を見回して探したが、それらしきものはなかった。

 

「アイ!後で見付けよう!!

先にあのフライゴンをなんとかするんだ!!」

 

「う………うん。」

 

アイはコスモッグの捜索を一旦諦めて、ボールを一つ手に取り、残りの4つのボールを腰に付けると、サトルと外に出てフライゴンとの戦闘に入った。

 

「行くよ!ケオケオちゃん!!」

 

「コン!!」

 

「ケオケオちゃん!オーロラビーム!!」

 

「コォン!!」

 

アローラロコンは口から七色の光線を発射する。

 

『ん?なんだ、その攻撃?

そよ風でも起こしてんのかよ!!』

 

フライゴンは羽を一振りし、光線を掻き消してしまう。

 

フライゴンの罵声にアローラロコンは萎縮してしまう。

 

「大丈夫だよ!ケオケオちゃん!!

自身を持って!」

 

「………コォン!」

 

それを見て、アイはアローラロコンに声をかけ、アローラロコンも勇ましい顔に戻った。

 

「アイ。」

 

そこへサトルがアイに小声で話しかけた。

 

「なに?」

 

「あのフライゴンはロコンの事を甘く見ているが、苦手とするこおりタイプだ。

注意はアイの方に向いている。

事実、俺のリザードンは今、りゅうのまいで能力値を高めているが、気づいていないか、まるっきり放置している。

もうすぐ、リザードンのこうげきとすばやさ能力値が最大まで上がる。

それまでひきつけておくことはできるか?」

 

「分かった。やってみる。」

 

「よし。」

 

二人はそういうと真剣な表情で、フライゴンを見詰めた。

 

『何話してんだ?貴様ら餓鬼がない知恵絞っても、この私に勝利するなどできない!!』

 

フライゴンは空をグライダーのようにして急降下し、アローラロコンの眼前まで迫ると、口にエネルギーを溜め始めた。

 

「コン…!」

 

アローラロコンはあまりの恐怖になにもできない。

 

「クワガノン!まもる!!」

 

アイは咄嗟にボールを投げ、指示する。

 

クワガノンはアローラロコンを守るようにフライゴンの間に出現した。

 

「フラア!!」 「ガノン!!」

 

りゅうのはどうの発射と同時に、クワガノンはバリアを展開。

 

しかし、ゼロ距離の放射には耐えきれず、バリアは砕け散り、クワガノンとアローラロコンはふき飛んでしまう。

 

「大丈夫!ケオケオちゃん!!クワガノン!!」

 

「コン…!」

 

「ガ……ガノン…!!」

 

アローラロコンはそれ程の傷を負わなかったが、クワガノンは満身創痍だ。

 

「ありがとう。クワガノン休んでて。」

 

アイはクワガノンを戻し、サトルの方を見た。

 

「もう少しだ。頼む。」

 

アイは頷き、アローラロコンを見詰める。

 

「行くよ!ケオケオちゃん!!

あられ!!」

 

「コン!コォォォン!!」

 

アローラロコンは空高く叫び、天気をあられ状態にした。

 

『あられか。ふん!今更天候変えたところで、この私の勝利には変わらない!!

私に怖気づいたまま、ボールの中で眠るといい!!』

 

フライゴンはどこか狂ったような表情しながらそういうと、腕に炎を纏わせ、殴りかかろうとする。

 

「コン…!!」

 

アローラロコンはフライゴンの表情に恐怖で足が竦んでしまう。

 

「ケオケオちゃん!オーロラベール!!」

 

「コン………!コォン!!」

 

アローラロコンは勇気を振り絞り、オーロラのバリアを自分とリザードンに張り巡らした。

 

それと同時に、ほのおのパンチがアローラロコンに突きささる。

 

オーロラベールの効果で吹き飛ぶことはなかったが、ダメージは相当のもので、アローラロコンは崩れ落ちた。

 

「ありがとう。ケオケオちゃん。」

 

アイは急いでアローラロコンをモンスターボールに戻し、労いの言葉をかけた。

 

『雑魚が。』

 

フライゴンは蔑んだ瞳でアイを見下ろした。

 

しかし、次の瞬間、背後から並々ならぬ殺気を感じ、戦慄を覚えた。

 

「ありがとう。アイ。それにクワガノン、ロコン。

おかげで準備ができた。

脅威に立ち向かう準備が。」

 

『なんだ…貴様は…!?』

 

フライゴンはすぐさま後ろの殺気にりゅうのはどうを発射するが、“それ”は素早く、避けられてしまった。

 

『(……!青い炎……!?)

そうだ……私としたことが忘れていた…!!

確か餓鬼の方もポケモンを出していた…!!

私としたことが…!!!』

 

フライゴンは悔しがり、“それ”を睨み付けた。

 

「リザードン!ドラゴンクロー!!」

 

「ヴァウウ!!」

 

体は黒く、炎は青色に変化したリザードン---メガリザードンXは、りゅうのまいで最高までに上げたすばやさで、フライゴンに接近し、最高まで上げたこうげきでフライゴンを切り付けた。

 

フライゴンは吹き飛び、メガリザードンは瞬間移動のように吹っ飛んだ先へ移動し、ドラゴンクローを切り付ける。

 

抵抗しようとドラゴンクローが当たる前にほのおのパンチを当てても、オーロラベールの効果で殆ど無意味に終わってしまう。

 

『なんだ……!?このスピード!パワー!

この私が…!?この私がぁッ…!!』

 

フライゴンは地面に叩き付けられた。

 

戦闘不能にはなっていないが、満身創痍であり、立ち上がることもできない。

 

様子を確認したサトルは小屋の中から鞄と、アイのリュック、そしてフライゴンが狙ったズタ袋を持って来た。

 

「アイ!今の内だ!!ここから海に出て逃げるぞ!!」

 

「え、でも!コスモッグがまだ!」

 

「…………忘れたか…!コスモッグは今、ネルカ博士の研究で一旦渡してるんたぞ!!」

 

サトルは逃げるために、つい嘘をついてしまった。

 

「そうだっけ……。ゴメン。分かった。

(でもさっき、探そうっていってたような………)」

 

アイは記憶の欠如をぼんやりと理解しており、自信がないため、申し訳なさそうに謝った。

 

サトルはそれを見て、また心が痛んだ。

 

バトルが終わり、メガシンカが解けたリザードンがサトル前に降りる。

 

「ドデカバシ!」

 

アイもドデカバシを出す。

 

二人はそれぞれ、背中に乗り、リザードンとドデカバシは同時に飛び始めた。

 

『…………………逃がすかよ。』

 

フライゴンの翅がピクリと動いた。

 

『この私が、あんな小娘に二度もしくじるなんてことはありえん!!』

 

拳を地面に叩き付け、反動をつける。

 

『正義は勝つのだ!悪は滅びるしかない!!』

 

その反動を利用し、体を持ち上げると、まだどこかに残っていた力を使い、翅を広げ、アイ達に接近する。

 

「うそ…!?」 「もう、起き上がってきたのか…!?」

 

二人は動揺し、判断が少し遅れた。

 

『正義は私だッ!!

貴様らは悪!!ここで死ぬがいいッ!!』

 

フライゴンは炎を吹き出し、アイ達の周りを囲み、炎のドームで包んでしまった。

 

「熱ッ………何これ………!?」

 

「ほのおのうずか……。まさかこんな使い方をするとは。

俺たちを火炙りにするつもりか……。」

 

「火炙り…!?なんでそこまで…!!」

 

「……………分からない。だがヤツは本気だ…!

すぐにでも脱出するぞ!」

 

さっきから状況が掴めず狼狽えるアイに、サトルは勇ましい表情で声をかけ、ボールを手に取る。

 

「うん!」

 

アイは、サトルの声に勇気付けられ、元気よく返事をすると、同じくボールを手に取った。

 

「エンペルト!アクアジェット!!」

「いくよ!サニーゴ!」

 

サトルのボールから出てきたエンペルトはアクアジェットを使用しながら、空中でホバリングする。

 

アイのボールから出たサニーゴは体の大きなリザードンの背中に乗り、アイの目線の方向に狙いを定めた。

 

アイとサトルは互いに見詰め合うと、同時に頷く。

 

「エンペルト……」 「サニーゴ!」

「ハイドロポンプ!」「ねっとう!!」

 

サニーゴは口から高熱の水を噴き出し、エンペルトはアクアジェットで纏っていた水をそのまま勢いよく発射した。

 

二つの水は交わり、共に炎のドームの一点に直撃する。

 

その瞬間、大きな爆発と共に激しい水蒸気が発生し、すぐに炎のドーム中に広がってしまった。

 

「何!?」

 

「うそ…!?」

 

水蒸気はアイ達の視界を奪ってしまう。

 

「戻れ!エンペルト!」

 

サトルはエンペルトに指示し、それを聞いたエンペルトは自主的にボールに戻っていった。

 

確認したサトルはぼやける視界の中の、水蒸気の発生源を見詰めた。

 

(くっ………。逆効果だったか。

ヤツの力を甘く見ていた…。)

 

サトルは水技で炎のドームを貫き、そこにできる僅かな隙間から脱出しようと画策していた。

 

しかし、炎の温度が強すぎて、水が蒸発させられてしまったのだ。

 

サトルは次の一手を考えるが、そんな時間はもう残っていなかつた。

 

後方から激しい羽音が聞こえ、突風が吹いた。

 

フライゴンが、アイ達の後方からドームに入って来たのだ。

 

そのことを二人が気づく前に、フライゴンはサトルが担ぐズタ袋を掠め取ってしまった。

 

「しまった……!」

 

フライゴンの動きは一切の無駄はなく、サトルが抵抗する余裕さえ与えてくれなかった。

 

『雑魚がよッ!!一度私を地に降ろしたからといって調子に乗ってんじゃねえぞッ!!』

 

フライゴンは罵倒をすると、拳に炎を纏わせ、勢いをつけるとアイとサトルを殴り付けた。

 

「いやああッ!!」

 

「ゔっ………!!」

 

二人はそれぞれ乗っていたポケモンから投げ出され、吹き飛ばされてしまう。

 

しかも、その先は岩礁であり、激突しようというものなら、間違いなく命はない。

 

「ウェウ!!」「カバ!」

「サッゴ!」

 

リザードンとドデカバシは助けようと降下しようとする。

 

『貴様らもああなるんだよ!!』

 

「カバッ…!」 「ウェウゥ……!」

 

しかし、フライゴンの攻撃の手は緩まず、ドデカバシとリザードンをもほのおのパンチでそれぞれ別の方向へ吹き飛ばしてしまった。

 

サニーゴも、墜落するリザードンのスピードに耐えきれず、投げ出されてしまう。

 

「くっ……!エンペルト!カリキリ!エレザード!シロデスナ!

まもる!!」

 

岩礁へと墜落する直前、サトルが大きく叫ぶと、呼ばれたポケモン達は岩礁へと出現し、それぞれバリアを張った。

 

「うっ…!」 「ぐっ……!」

 

咄嗟の判断は功を奏し、バリアは二人の衝撃を和らげ、なんとか軽い衝撃で済んだ。

 

「…………!アイ!借りるぞ!!」

 

サトルは目の前で、海面へと叩き付けられそうになるポケモン達を見て、すぐに立ち上がり、アイの腰からサニーゴとドデカバシのボールを取った。

 

そして、リザードンのボールと三つ同時にビームを発射させ、墜落の前になんとかボールに戻すことを成功させた。

 

「大丈夫か!?アイ!!」

 

サトルは安心したのも束の間、アイが蹲って動けないことに気付いた。

 

「う……うん。大丈夫。…………いてっ!」

 

アイは口では大丈夫というが、体を抑え、立ち上がれそうにない。

 

(まさか。あのときの傷が………。)

 

サトルははかいこうせんのときに受けた傷口が開いたのかと思い、狼狽えた。

 

もう奇襲は通用しないだろうし、飛べるポケモンが負傷し、素早いフライゴンから逃げることも不可能。

 

サトルは頭をフル回転させ考えたが、打開策は見つからなかった。

 

 

『随分と手間かけさせやがってよお!!』

 

上空ではフライゴンがズタ袋を顔の前に掲げ、いきり立っていた。

 

非常にか弱そうな見た目をする者に対し、かなりの労力を使ってしまったことに自分のプライドが許せないのだろう。

 

フライゴンは激しい剣幕のままズタ袋を上に投げると、拳に炎を纏わせ、勢いをつけた。

 

『勧善懲悪でクライマックスを飾る!!

私の正義に揺ぎはないのだあッ!!』

 

ズタ袋の袋が解かれ、中からコスモッグが現れる。

 

「コスモッグ………!?」

 

蹲りながらもアイはコスモッグの姿を確認し、愕然とした。

 

「うっ……!(なにこれ……?)」

 

それと同時に、頭の中に大峡谷の中にいるフライゴンのイメージが蘇ってきた。

 

フライゴンはニヤリと笑い、そのまま拳を撃ちつけようとした。

 

その時。

 

フライゴンの行動を止めるように、急に空に亀裂が入り、それが一瞬で広がった。

 

『くっ…!!まだ抵抗するか!!』

 

フライパンは一旦距離を取り、怒り狂った表情で、空の穴に言い放った。

 

「あれは!?」 「まさか!!」

 

アイとサトルはこの穴に見覚えがあり、体が勝手に震え、そして身構えた。

 

今までに何度も目の前に現れ、底知れぬ恐怖を与えた存在。

 

それがいつも、この穴---“ウルトラホール”から出てくる。

 

 

 

 

『縺倥∞繧九k縺」縺キ窶ヲ窶ヲ縲?縺ケ縺ョ繧√?繧凪?ヲ窶ヲ』

 

「うう………。」

 

「……!ルガウ!!」

 

木陰で眠っていたカオリが目を覚ました。

 

ルガルガンは嬉しそうに顔を舐めたが、カオリはぼーっとしたまま表情は一切変えず、何かに取り憑かれたかのように、フラフラと海岸まで歩き出した。

 

「呼んでる……。私………を………………。」

 

 

 

 

「タギリ…!エアームドを貸してくれ…!!」

 

「なんだ…?いきなり?」

 

自室に戻ってプロテインを飲んでいたタギリの部屋に、ソーマが血相変えて駆け込んで来た。

 

「今、新たなウルトラホールが観測された…。

それが海岸にだ…!!

カオリが向かっていったのは海岸だ…!!

今アイツがウルトラビーストに出会ったら………」

 

「おい、落ち着け!!

ほらよ、エアームドのボールだ。

俺のポケモンだからな。無理させんなよ。」

 

「ありがとう……!!」

 

ソーマはタギリの礼を言うと、中庭に飛び込んでいった。

 

そして、ボールからエアームドを出す。

 

「エアームド頼む!海岸まで行ってくれ!!」

 

「エアー!!」

 

ソーマはよくエアームドを借りているため、エアームドもボールから出したトレーナーがタギリではないことに疑問は抱かなかった。

 

エアームドは一旦空を旋回し、地上へと降下する。

 

ソーマはタイミングを合わせ、エアームドの足を持ち、ビーストが現れた海岸へと向かう。

 

(まさかこのタイミングで………あの場所で…………!

それにこの反応……間違いない……………

このウルトラビーストは……………!!)

 

 

 

 

海上の穴から何者かがゆっくりと現れる。

 

(アイツは……!)

 

サトルはその姿に見覚えがあり、その恐怖も知っている。

 

サトルは自分でも知らないうちに身震いをしていた。

 

ガラスのように硬く、それでいて軟体動物のようにしなやかな体。

 

クラゲのようにも帽子をかぶった少女のようにも見える奇怪な容姿。

 

『出やがったな……UB:01 PARASITE!!』

 

「ウツロイド……。」

 

そのウルトラビースト、“ウツロイド”が姿を表した。

 

「エンペ…!」

 

皆が奇怪な存在に注目する中、エンペルトはアクアジェットを用いて、海面へと落下するコスモッグを連れ戻した。

 

『貴様………ビーストの種に呼び寄せられたか…?

だが、この私の前に立ったが運の尽き!!

貴様を潰して、あの雑魚共ともに黄泉送りにしてやるわ!!』

 

フライゴンは突然の乱入者に苛立ちながら、アイ達が佇む岩礁に向かい、再び炎のドームを張った。

 

アイ達をいつでも始末できると考え出すのだろう。

 

『死にやがれ!!』

 

フライゴンは炎の拳を振りかざし、物凄い剣幕でウツロイドに向かっていく。

 

しかし、ウツロイドはのらりくらりと躱し、海岸のとある方向へと向かっていった。

 

 

 

 

「ありがとう。エンペルト。」

 

「エンペ。」

 

体を起こして座れるくらいには回復したアイはエンペルトからコスモッグを受け取った。

 

アイはコスモッグを優しく撫でると、視線をサトルに向けた。

 

「サトル。なんで?

なんで嘘ついたの?」

 

アイの声には怒りはなく、悲しみに満ちていた。

 

サトルは目を伏したまま、立ち尽くしていた。

 

「サトル。

もういいよ…。正直に言って。」

 

アイはいつもより体温が低くなっているコスモッグを優しくさすりながら、サトルに訴えた。

 

コスモッグの様子からなにか壮大なことが起こったのは想像に難くなかった。

 

アイは事実を受け止める覚悟をし、サトルを見詰めた。

 

これ以上、苦しそうにするサトルの姿を見たくなかったから。

 

サトルはもう二度とアイが抜け殻になった姿を見たくなかった。

 

真実を話せば、アイが覚悟しているその何倍もの衝撃が降り注がれることになる。

 

サトルはアイの力強い視線に気付いていたが、口を開くことはなかった。

 

 

「きゃあああ!!」

 

炎のドームの外から悲鳴が聞こえた。

 

アイとサトルは思わずその方向を見た。

 

アイはその声を聞いたことあるような気がしたが、誰の声なのか思い出せなかった。

 

「シロデスナ!ストーンエッジ!!

カリキリ!リーフブレード!!」

 

「スナ!」

 

「キリ!」

 

サトルは外の様子を確認するため、ストーンエッジで地面を隆起させ、そこにリーフブレードを当てて、覗けるかどうか怪しいくらいの小さな穴を二つ開けた。

 

しかし渦巻く炎は極小の穴さえも許さず一瞬にして塞いでしまった。

 

「くっ………!だめか…!!

お前ら!一旦戻れ!!」

 

サトルはとりあえず、ポケモン達を戻し、次の一手を考える。

 

例え脱出はできなくても、外には2つの脅威が存在している。

 

それらの関係や、現時点での強さをこの目で確かめたかった。

 

そして、巻き込まれてしまった何者かを助けたかったからだ。

 

「私も……。」

 

アイも何か向こう側を見る手はないか考えるが、何も浮かばない。

 

けれども、ダメ元でもと思い、チャージビームで攻撃しようとコリンクのモンスターボールを取った。

 

その時だ。

 

「ガエエエッ!!!」

 

サトルのボールからガオガエンが現れ、悲鳴が聞こえた方へ走り出した。

 

「なっ!ガオガエン!!何を!?」

 

サトルは急に現れたガオガエンに声をかけたが、腕を伸ばすだけで止めようとはしなかった。

 

「ガエエ!!」

 

ガオガエンはサトルの声に一切反応を示さず、荒々しい形相で、フレアドライブの炎エネルギーを両手に集中させると、炎の壁をガッシリと掴んだ。

 

「ガオガエン…。」

 

「何するつもりだろう?」

 

アイは唖然としながらガオガエンに注目した。

 

(ガオガエン。まさか、落とし前をつけに行く気か……!)

 

ガオガエンは進化前のニャビーのときに、ウツロイドに寄生されたことがある。

 

その恨みが、ガオガエンを急き立てているのだとサトルは思った。

 

「ガエエエエッ!!!」

 

ガオガエンは両手で炎を掴んだまま、けたたましく叫ぶと、一切の躊躇もなく炎の壁に喰らいついた。

 

「えっ……」

 

「なっ……!よせ!ガオガエン!!」

 

ガオガエンはサトルの忠告を無視し、炎をどんどんと飲み込み続け、ついには炎の壁をまるごと完食してしまった。

 

「ガエエエエエ!!!

……………ガッ……!」

 

ガオガエンは勝利の雄叫びのように吠えたが、次の瞬間、黒煙を吐き出し、膝を着いてしまった。

 

 

ガオガエンの荒業により、視界が開けた。

 

アイはその光景を見て、なにか重く硬いものに衝撃を受けた感覚がした。

 

ウツロイドがフライゴン、そしてたそがれのすがたのルガルガンと戦っていた。

 

そして、たまにルガルガンが目配せする先には恐怖に怯えた2,3歳くらい年上の若い女性の姿があった。

 

アイは女性の姿を見た瞬間に、衝撃が更に大きくなった。

 

自分でも知らない。

 

だけど、どこか鮮明な映像がアイの頭の中を流れてきた。

 

アイの頭に激痛が走り、頭を抱えて蹲ってしまう。

 

「はぁ………………はぁ…………………これって………………なに……………?」

 

「……………!

アイ……!どうした…!?アイ!!」

 

サトルは急に容態が変わったアイに呼びかけ続けた。

 

(まさか………あのどこかにトリガーが…!?

今はまずいぞ……。なんとかしなければ。)

 

サトルはアイが再び抜け殻にならないよう、必死に呼びかけ続けたり、背中をさすったりして安心させようとした。

 

「リン!!リン!!」

 

アイのモンスターボールからコリンクが出てきて、アイの足元に寄り添い、サトルと一緒に呼び続ける。

 

しかし、アイは頭を抱え苦痛に悶えるばかりで、反応は示さなかった。

 

 

 

「ルガウ……!」

 

ウツロイドの実力は高く、二匹を相手にしてもまったく隙を見せない。

 

ついにルガルガンは触手の一撃に吹き飛ばされ、戦闘不能になってしまった。

 

「ロイイ………」

 

ウツロイドはガードマンがいなくなったカオリに向かい、接近していく。

 

カオリは恐怖で足が竦み逃げることもできなさった。

 

「ロイイ!」

 

ウツロイドはカオリに寄生しようと触手を伸ばす。

 

『無視してんじゃねえ!!』

 

そこを間一髪、フライゴンがほのおのパンチで防いだ。

 

当のフライゴンは助けたというよりも、他者に構うほどの取るに足らない存在だと思われたくない故の行動だった。

 

フライゴンは拳に炎を宿したままウツロイドを睨みつける。

 

しかし、ここでフライゴンはある違和感に気付いた。

 

『ん?アイツら………脱出しやがったか?』

 

オンショアの温度が著しく下がっていたのだ。

 

フライゴンはもしやと思い、岩礁を見た。

 

『チッ………!』

 

そこには予想通り、炎の壁が破壊されていた。

 

それでもまだ捕えた者たちは岩礁にいたので、ウツロイドを後にし、岩礁へと向かった。

 

『どいつもこいつもコケにしやがって!!

いいだろう、私を見くびった貴様らはここで始末してやる!!』

 

フライゴンは岩礁の上空へと佇むと、口にエネルギーを溜め始めた。

 

 

 

邪魔する者がいなくなったウツロイドは、嬉々として寄生しようとカオリに再び接近する。

 

「ギル!」「アマ!」「ガッサァ!」

 

怯えるカオリを護ろうと腰のボールからギルガルド、アーマーガア、キノガッサが現れ、ウツロイドの前に立ち塞がる。

 

「ロイ……ドッ!!」

 

しかし、ウツロイドはあまりにも強かった。

 

三匹が反応する前に触手を薙ぎ払うと、物凄いスピードで吹き飛ばし、全員を一撃で戦闘不能にさせてしまった。

 

「みんな…………!」

 

ついにカオリの真上にウツロイドが来てしまう。

 

「え………なに…………これは………!

いやっ……!!」

 

ウツロイドは触手を伸ばし、カオリの体に巻き付ける。

 

「たすけて…………。」

 

カオリの出した掠れた小さな叫び声は誰にも届かず、帽子が被さるようにウツロイドに乗られてしまった。

 

寄生が開始されてしまった。

 

 

 

アイの耳にサトルの声が届いた。

 

「サトル…………?」

 

「アイ…………大丈夫………なのか?」

 

アイはうんともいいえとも答えられなかった。

 

心にぽっかりと穴が空き、一切の感覚や感情がなくなっていた。

 

「アイ?大丈夫か?」

 

サトルは心配し、アイの肩に手を置いた。

 

「……………!」

 

その瞬間、なくなっていた筈の感覚や感情が一気に現れ、気付けばアイは目に涙を溜めていた。

 

「アイ……?」

 

サトルは少し狼狽えたが、アイの目から絶対に視線を外さなかった。

 

「サトル……………私………………思い出した。

全部……全部…………思い出した。

ゴメンね。サトル。こんなことあったのに、サトル一人に辛い思いさせちゃって。」

 

「アイ……。いいんだよ。そんなこと。」

 

サトルは内心驚いていた。

 

アイにも忘れてしまうくらいの辛いことが連続して起こっているのに、第一に言ったことがそれを隠し続けた自分のことについての謝罪だった。

 

それと同時に、サトルはまたアイが無理をしようとしていることに気付いた。

 

「アイ。俺のことはいい。

アイのことを話せ。アイはどうだった?

ツラい、苦しい、嫌だ。楽しい、嬉しい、好き。なんでもいい。

話してみろ。」

 

アイは堪えていた涙を開放し、泣きながら、感情的に切々と心の内を訴えた。

 

「うん……。

私…………私………………ずっとツラかった……!!怖かった………逃げたかった……………苦しかった…………

でも、コスモッグを護らなくちゃいけないから、ワガママ言えないってずっと我慢してた……………

だけど…………………だけど……私はずっとワガママだった……!

サトルにも…!コリンク達にも…!みんなに迷惑かけて、私は……疫病神なんだって……………私はいらない存在……………………」

 

そういうと、アイは急に息を荒くしてなにも言葉を発せなくなってしまった。

 

「アイ…………。」

 

サトルはそれを見て、森の中で発していたうわ言を思い出した。

 

そして、何が原因で抜け殻になったのかが分かった。

 

「アイ。」

 

サトルは優しく微笑み、声をかけると、アイに抱きついた。

 

「アイ。

俺はアイに沢山救って貰った。

オウシンで俺が道を外したとき、アイはずっと俺を追い掛け、正しい道まで引き戻してくれた。

トンカーでも巨大な組織と戦いで何度も挫けそうになったが、アイの諦めない姿勢と笑顔に救われ、勝つことができたし、アルセウスにもニンゲンの可能性を分かってもらえた。

それに、アイのポケモン達も、アイをいらないなんて思ってない。

思っていたなら、飯食ったり、バトルしたりしてるときに、あんな笑顔みせないさ。

俺はアイが好きだ。

アイ。約束絶対叶えような。」

 

「……………サトル…………。」

 

アイは呟くと、サトルの背中をギュッと握った。

 

「サトルーー………!!

ゴメン……!私…………バカだった……!!

みんな真剣に協力してくれたのに、迷惑なんていっちゃって……!!

みんなの大好きをないようなこといっちゃて……!!」

 

「いいさ。アイ。」

 

サトルは泣き続けるアイの背中を擦り続けた。

 

「リン。」

 

コリンクはもう大丈夫だろうと、安心して笑った。

 

 

 

ガオガエンが立ち上がった。

 

少しだけ炎を吐き出し、大きくジャンプすると腰の炎のベルトに力を込めた。

 

「ガエエエ!!」

 

そして、勢いよくかえんほうしゃを海面へと当てると、海は灼熱の炎で蒸発し、砂浜までの道を作った。

 

ガオガエンは怒りの瞳をウツロイドに向けたままその道を走り出した。

 

 

「…………!!サトル!あのウルトラビースト……!何やってんの!?」

 

泣き終え、サトルの顔を見ようと目を開けたアイの目に寄生中のウツロイドが目に入った。

 

「ん?………なっ…………!?

ウツロイドが……」

 

サトルはアイに言われるままに後ろを向き、ウツロイドの寄生を目の当たりにした。

 

最初にニポ島に来たとき、ニャビーについての話しから寄生のことは聞いていた。

 

だが、こうして目の前で見ると、寄生されている者の苦悶の表情やその異質さから、底知れぬ恐怖が湧いてきた。

 

それと同時になにか違和感を覚えたような気がした。

 

「コリンク!」

 

「リン!!」

 

アイとコリンクは互いに目を合わせた。

 

理由はただ一つ。

 

しれんサポーターのお姉さんを助けたいという気持ちを、重ねるためだ。

 

「いくよ!

でんこうせっか!!」 「リン!」

 

コリンクはアイの指示とほぼ同じタイミングで飛び出した。

 

「アイ…。

………俺も。」

 

サトルはその様子を見て、少し呆れたながらもモンスターボールを手に取り、投げようとした。

 

その瞬間。

 

『茶番は終わったか?餓鬼共!!』

 

空から恐怖を誘う声が聞こえた。

 

「うそっ!!」

 

「そうか、お前か!!」

 

サトルの違和感の正体はフライゴンだった。

 

ウツロイドの登場から色々あり過ぎて、忘れていた。

 

『貴様らのくだらないお喋りのおかげでとてもよいものを作れた。

逃げることはできない!!』

 

そういうとフライゴンは自信満々に更に上空を指さした。

 

「あれって……!!」

 

「隕石……!」

 

アイとサトルはそれを見て言葉を失う。

 

りゅうせいぐんの初動の玉が大きく膨れあがり、破裂することなくまるで隕石のようにアイ達がいる岩礁へと向かっていた。

 

「サトル……。」

 

アイは恐怖し、思わずサトルに身を寄せる。

 

「くっ……!」

 

サトルはエンペルトで対抗しようとしたが、玉の大きさは直径50mを遥かに超えており、破壊できたとしても、その破片を他のポケモンのまもるで対処できるのかは怪しい。

 

「……………アイ。

安心しろ…!なんとかする…!!」

 

それでも、怖がるアイを目の前に不安の様子を見せるわけにはいかなかった。

 

アイを安心させるために声をかけ、キッと玉を睨むとボールを投げた。

 

「エンペルト!」

 

「エン…………ペェッ…!!」

 

しかし、それを予測していたのかエンペルトが登場したと同時にりゅうのはどうがエンペルトに襲い掛かり、海に突き落とされてしまった。

 

「なっ……エンペルト……!」

 

サトルは浮かんできたエンペルトをすぐにボールに戻す。

 

サトルの表情が絶望に染まった。

 

(やばいぞ…………もう飛べるポケモンは残ってねえ。

もう………だめなのか………。)

 

その時、サトルの両肩に重みを感じた。

 

サトルは驚き、後ろを見た。

 

「なっ……………アイ……!」

 

アイがサトルの肩を使い、なんとか立ち上がろうとしているのだ。

 

サトルは止めさせることはせず、立ち上がれるようサポートした。

 

アイは足を震えさせながらも、サトルのサポートもあり、サトルの肩に手を置きながらだがなんとか立ち上がることができた。

 

「サトル…………私は……諦めないよ。

約束叶えるんでしょ。こんなとこで死ねないよ。」

 

アイは一生懸命の笑顔でサトルにそう言った。

 

「ああ。」

 

サトルはその笑顔を見て、元の勇ましい表情に戻った。

 

『クセェ芝居しやがって。』

 

その様子を見て、フライゴンはアイ達を蔑むと、巻き込まれないように場を離れようとした。

 

その瞬間、何か白いモノが隣りを通り過ぎていくのを感じた。

 

『なんだ……?』

 

フライゴンは目で追い掛けた。

 

通り過ぎたのはどうやら一匹のポケモンらしかった。

 

しかし、どうも様子がおかしい。

 

フライゴンは目を凝らし、その姿に驚いた。

 

そのポケモンの足に人が捕まっているのだ。

 

ポケモンは巨大な玉の落下地点のほぼ中心部の上空に止まった。

 

「エアームド………!?」

 

「なっ……あの人は……!?」

 

アイはポケモンに、サトルはぶら下がる男に驚いた。

 

(トドメを刺しにきたのか………)

 

サトルはその男---ソーマを睨んだ。

 

しかし、ソーマはサトルが思っていたのと別の行動を取った。

 

「出て来い!ギルガルド!!」

 

「ギル!!」

 

「せいなるつるぎ!!!」

 

「ギルゥッ!!!」

 

ソーマは巨大な玉に向かい、ボールを投げると中からギルガルドが出てきた。

 

そして、何の迷いもなくギルガルドに指示を出し、ギルガルドもブレードフォルムにフォルムチェンジして剣の体に力を込め、巨大な玉へと立ち向かう。

 

体を捻り、一閃。

 

巨大な玉は爆発し、大量の隕石群が降り注がれる。

 

「サトル!!」

 

アイはサトルの肩をギュッと掴んだ。

 

サトルにパワーを送り、二人分のZパワーを持つZワザで防ごうとしているのだ。

 

「ああ!」

 

サトルも同じ作戦だったのか、アイに頷き、残った三匹を出そうとした。

 

「エアー!」

 

「なっ!」

 

しかし、急にエアームドが立ち塞がり、驚いて動きが止まってしまった。

 

「キングシールド!!」

 

「ギル!!」

 

その間に、ソーマは再びギルガルドに指示を出す。

 

ギルガルドはエアームドの前へと庇うように立ち塞がり、シールドフォルムへフォルムチェンジすると、巨大なバリアを展開し、岩礁ごと覆った。

 

そのバリアは隕石群に当っても、ヒビが入ることもなく、揺れることもない。

 

「ソーマさん………。あなたは…………?」

 

サトルは危害を加えに来たと思った人物に助けられ、頭が混乱した。

 

ソーマはサトル達に振り向き、笑顔を見せようとした。

 

その時、ソーマの目に最悪の光景が飛び込んで来た。

 

「エアームド!あっちだ!!」

 

来た時は大丈夫だと思っていた。

 

しかし、りゅうせいぐんの方ばかり集中していたのと、海岸は森で死角になってしまい、気付かなかったのだ。

 

ソーマは血相を変え、その方向へ飛ぶようエアームドに指示した。

 

しかし、まだ隕石の雨が降り注いでいる最中。

 

このままバリアの外を飛び出すのは危ないと判断したのか、エアームドは首を振った。

 

「だったら、俺が!!」

 

ソーマは足から手を離し、助けようと駆け出そうとした。

 

「待ってろ!!カオリ!!」

 

その瞬間。

 

「ガエエ!!」 「リン!!」

 

海岸へ到着したガオガエンとコリンクは、フレアドライブとアイアンテールで、寄生してドス黒くなっていたウツロイドに攻撃した。

 

「ロォ……イ………!!」

 

ウツロイドは突然の攻撃に狼狽え、目の前の空中にウルトラホールを開け、そこへ逃げ込んで行った。

 

カオリはワザの勢いで倒れてしまい、うっ伏したままピクリとも動かなくなった。

 

「ガ…………ガエ………。」

 

同時に、ガオガエンの目から怒りの感情が消えると、体から煙を上げ、倒れ込んでしまった。

 

 

「カオリ…………カオリ………………カオリ!!!」

 

ソーマは目を見開き、ゆっくりと歩き出すと、急に大きく名前を叫び、駆け出した。

 

「待ってください!外は危険です!!」

 

「えっと、あの………助けて下さりありがとうございます。

えっとちょと………一回落ち着きましょう!!」

 

サトルはソーマを止めようとしがみついた。

 

アイもちょっと離れたところで礼をいいつつ、なだめる。

 

「くっ………!!」

 

ソーマは足を止め、その場に崩れ落ちた。

 

それとほぼ同時に隕石群が止み、バリアが解かれた。

 

ギルガルドとエアームドが心配し、ソーマに近寄った。

 

ソーマは再び走り出すことはなく、拳に力を込め怒りと憎しみに満ちた目でフライゴンを睨み付けた。

 

同時にフライゴンも同じような目でソーマを睨んでいた。

 

『貴様………!!!何をしている………!!!?

貴様のようなサポーター風情がッ!!!

この私、“ビーストキラー”の邪魔をするとはッ!!!』

 

「何をしていると問いたいのは俺の方だ…!!!

お前は“ビーストキラー”の筈……!!!

なのにお前は………!!!すぐ近くでカオリがウルトラビーストに襲われているのにお前は!!

ニンゲンの少年少女を殺そうとしていた………!!!

お前にビーストキラーに名乗る資格など

 

「黙れッ!!!貴様…口の利き方を覚えろ……!!!

私は守り神……カプ・レヒレに認められた存在だぞッ!!

そのことはつまり、私は守り神と同じ身分であり、尊きポケモン!!!

貴様のような爪弾きにあったニンゲンが……私に意見など…………天地がひっくり返ろうとも絶対に有り得んことだッ!!!」

 

ソーマの表情が更に憎しみに染まる。

 

無礼なのは分かっているが、謝罪の一つもなしに権力を振りかざして咎められることを嫌う態度が許せなかった。

 

相手が地上にいれば、今すぐにでも飛びかかって握りしめた拳で躊躇なく殴りそうな雰囲気だ。

 

「今話しているのはそういうことではない…!!

お前に心というものはないのか……!?

お前はビーストに襲われているカオリを見捨てて、この子達に危害を加えようとした!!!

ビーストキラーなら、ビーストの発する粒子を感知できるはずだし、気付かなかったなんてことはない…!!!

なのにお前は………………

 

『黙れ!!

私は小娘らを始末しようとしたのではない!

そこのビーストの種を摘もうとしただけだ!!

それに襲われたあの娘、貴様と同じ服を着ている!!!

即ち、貴様と同じしれんサポーターだ!!

だから私は、あの雑魚ビーストを任せただけ!!

寄生されたのは女が弱かったからだ!!

根性なしの腰抜けだからああなったんだ!!!

使えねえ雑魚だからなあ!!』

 

ソーマは更に怒った。

 

自分を貶されるのは構わない。

 

だが、カオリの事情を何も知らないで、寄生されてしまったことを力不足の一言で片付けようとするのが許せなかった。

 

ソーマはフライゴンにバトルを挑もうと、ギルガルドに指示を出そうとした。

 

しかし、その瞬間。

 

再び海岸で倒れるカオリが見えた。

 

ソーマはその姿を見て、今はバトルや口論をしている場合ではないと感じた。

 

ソーマは腕を高く上げ、いつのまにかスピードをつけていたエアームドの足を掴んだ。

 

そして、海岸へと着地すると、悔しさと憎しみの籠もった表情を浮かべる。

 

『なにも言えなくなったか……?

これで分かったかッ!!貴様と私の格の差を!!

それに、心がないといったな…!!?

私には芯から熱く燃える正義の心がある!!

それを侮辱するのか貴様は!!

さあ、私に謝れ!!

度重なる罵詈雑言を取り消しますと!!あの使えねえ雑魚の女のように、頭を垂れて!私に土下座しろぉぉッ!!!」

 

閉口したソーマに勝ち誇ったかのようにフライゴンは捲し立てる。

 

ソーマは後ろから聞こえる減らず口に更に苛ついたが、目の前の惨状を見ると、罪悪感で誰かを責める気が滅入ってしまった。

 

そして、頭を優しくなでると決意の籠もった表情をし、フライゴンへと振り向いた。

 

「俺はこれから守り神に会いに行く。」

 

『………?貴様如き、カプ・レヒレが取り合うわけねぇだろ!バカがッ!!』

 

フライゴンはソーマの言葉に、また罵声を吐く。

 

しかし、ソーマは真に受けることなく、カオリに微笑むと、フライゴンへまるで殺し屋のような目で睨み付け、乾いた声で言った。

 

「失せろ。二度と俺やその子、そして……カオリの前に姿見せるな……!」

 

『………ッ!?』

 

フライゴンはその目と声に一瞬ビビってしまった。

 

気付けば体が震え、戦慄している。

 

遥か格下に脅されている。

 

それはフライゴンのプライドが許さなかった。

 

しかし、何か力を見せつけようともバトルでひるみ状態になったかのように身動きが取れなかった。

 

『フ……ハハ……………フハハハ!!!

この私に楯突くとはなッ!!

これは造反として捉えていいな?』

 

フライゴンは高笑いをすると、ソーマに指差し、脅した。

 

しかし、ソーマにそんな脅しなど全くもって無意味だった。

 

ソーマはカオリのボールを取って、一事的でも護ってくれたポケモン達をボールに戻していった。

 

『フ………!

このことは島クイーンに報告してやる……!!

貴様はもう、この島にいられなくしてやる!!』

 

フライゴンは小さく笑みを浮かべると、捨て台詞を吐いて、サイダンタウンがある方へ飛んでいった。

 

「はぁ………。」

 

ソーマは見るも憐れな後ろ姿を見て溜息をつくと、カオリの顔を横に向け、砂を取った。

 

「カオリ。すまない。俺がもっと、お前に寄り添っていれば…………。」

 

ソーマは悔しさに肩を震わせる。

 

「………リン。」

 

コリンクは心配して、声をかけた。

 

「君は……………アイちゃんのポケモンか……。

カオリを助けてくれてありがとう。」

 

ソーマは優しく揉むようにコリンクの耳を撫でてやった。

 

「リ〜ン」

 

コリンクはとても気持ち良さそうだ。

 

「エルレイド、テレキネシス。」

 

ソーマはコリンクに優しく微笑むと腰のボールに入るエルレイドに指示をした。

 

「エルレイ!」

 

ボールからエルレイドが自ら飛び出し、海から顔を出す岩礁のアイとサトル、そしてコスモッグを念力で持ち上げた。

 

「うわああ……!」

 

「…………。アイ。どうする?」

 

「…………あの人は私達を助けてくれた…………それに……………コリンクの撫で方、優しかったし、ポケモンが大好きって感じがたくさんした………………だから、信じてみよ!」

 

「……そうだな。」

 

エルレイドはまず二人を海岸に降ろすと、コスモッグをアイの胸に抱かせる形で念力を解いた。

 

「いやしのはどう。」

 

ソーマは二人の顔を見て、警戒心がないことを確認すると、エルレイドに指示した。

 

「エレイ。」

 

そして、怪我をしている二人に回復効果のある波動を浴びせた。

 

「どうだ?立てるか?」

 

ソーマはアイに向かって聞いた。

 

アイはまず指を動かし痛みがないことを確認すると、元気よく跳ね上がるように立ち上がった。

 

「すごーーい!!全然痛くない!!」

 

「アイ。あまり調子に乗るなよ。」

 

「はーい。

あ、そうだありがとうございます。え………えっと…………。」

 

「ソーマだ。」

 

「ソーマさん……それにエルレイドも、ありがとうございます!!」

 

無邪気に礼を言うアイに、ソーマは優しく微笑むと、カオリをおぶり、海岸の岩礁がある方向へと数歩あるいた。

 

「君達に話したいことがある。一緒に来て欲しい。」

 

「来て欲しいとこ?」

 

アイとサトルは顔を見合わせ、共に頷き、着いていくことにした。

 

 

 

 

続く……………

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