Re:SAO ~return recollection~ 作:寄す処の空
第一話 七十五層の悲劇
時は2024年11月7日、第七十五層迷宮区ボスフロア。
フロアボス《ザ・スカル・リーパー》を討伐した直後である。
多くの犠牲を払いながら辛くも勝利を収め互いに背を合わせ休む中、《黒の剣士》ことキリトは一人殺気を放っていた。
その矛先は血盟騎士団団長ヒースクリフ、後の茅場昌彦だ。
キリトの放ったソードスキルはヒースクリフの盾を避け彼の体へとヒットする。
だがそこにはシステム外不死という、本来プレイヤーにあってはならないものがあった。
正体を暴かれたヒースクリフは自身がこのゲームを作った茅場昌彦であることを明かし、キリト以外の全員を麻痺状態にし条件付きで彼にデュエルを申し込む。
それを承諾したキリトは愛刀二本を構えデュエルを受けるも創造主である茅場昌彦に敗北。
スキル後硬直の体にとどめの一撃が振り下ろされるが、麻痺効果を抜け出したアスナがそれを受け止め身代わりとなり消滅した。
アスナの婚約者であったキリトは放心状態となり残された彼女の武器を握るが、その後の攻撃は子供のそれと大差なかった。
そんな彼を憐れむように茅場の剣が彼の体を貫く。
その攻撃に抵抗することなくキリトはただ訪れる死を受け入れていた。
それを良しとしない者がいることを忘れて。
「……諦めんじゃねえよ、キリト」
その声は茅場昌彦でもキリトでもない、新しいものだった。
「お前……」
「これ飲んでろ」
手に持つポーションをキリトの口へと放り込み、剣を抜くように彼の体を蹴飛ばす。
瞬間彼の頭の上のアイコンが変色するが、そんなことは気にする様子もなく剣先を目の前の赤と白の悪魔へと向けていた。
キリトのHPは後少しというところで止まり、回復を始めている。
その姿を茅場は不思議そうに、場には不釣り合いなほどのにやけ顔で見ていた。
ふしぎ発見をした科学者そのものだ。
「ほう、君もまた麻痺から回復したのか。どうやってやったのか、教えてもらえないかな?」
「あんたに教えるものなんかねえよ、犯罪者」
そう告げる彼の右手には太刀が握られていた。
その切っ先をヒースクリフへと向ける。
瞬間彼の周囲宙全体に、武器がふわふわと浮き始めた。
「まさか君のその攻撃のターゲットになるとは思いもしなかったよ、シオン君」
「俺もまさか攻略組の人間に向けることになるとは思わなかったよ。それも、あんたみたいな人にな……!」
表情には出さないがその声色からは目の前の男への殺気がしっかりと感じてとれた。
それを見た茅場昌彦は小さく乾いた声でははっと笑っている。
彼の名前はシオン。
ユニークスキルを二つ持っている、唯一の男だ。
《完全武器支配者》別名ウェポンスペシャリスト。
各武器の熟練度を極限まで上げ、全スキル熟練度を一定以上にしたものに与えられるスキルである。
武器を自由自在に操作し、操る事が出来るというものだ。
もうひとつは抜刀術。
これは抜刀時に様々な属性、能力を付与できることに加え刀スキルとは違った、新たなスキルを発動する事が出来るというもの。
彼はキリトやヒースクリフほどは目立たない人物であったが、ある時を境に攻略組に参加する事となった。
ギルドには未所属で現在攻略組にいる者の中ではかなり遅れて入ったある種新参者であるが、今ではこのアインクラッド攻略に於いて欠かせない重要人物の一人である。
「せっかく解けたんだ、俺ともデュエルしてくれよ。あんたはこういうの好きなんだろ?じゃあいいじゃないか」
「こちらの質問には答えず、か。嫌いではないがね」
「生憎人の話が聞けないタイプなんでね!」
腰につけてあるピックを瞬時に取り出し、ヒースクリフに向けて投げる。
耳をつんざくような音を鳴らし飛んでいくが、ヒースクリフの盾に重なると砕け、消えていった。
「不意打ちは感心しないな」
「命かけてんだ、そんなこと気にしてられるか」
残ったピックが新たにシオンの周りをくるくると回り出す。
やがて空へと散っていくと、既に宙を舞う武器に溶け込み姿を隠した。
くるくると周囲を浮く武器が彼の足元を暗く漆黒に染めていく。
そのなかで狂気染みた、清々しい笑みを浮かべていた。
「俺はあんたを殺すよ。……みんなの分も、全部」
瞬間走馬灯のようにこのアインクラッドで起きたことがフラッシュバックする。
フレンド欄にあった名前が無くなっている、『助けて』『ごめん』というメッセージと共に失われるプレイヤー。
仲間を失い一人取り残された者の顔。
復讐を願う歪み切ってしまった者達と自決寸前の者の表情が。
目の前で人が死んでいくあの感覚が、その辛さがこの男には理解できないのだ。
蘇る記憶に一瞬手が震えるが意識を集中し平静を保つ。
このスキルの使用中は心身を乱すわけにはいかない。
意識を集中するとふっと揺れた武器が元の軌道へと戻り宙を旋回していた。
一瞬地に伏せているキリトと目が合う。
やっと正気に戻ったのか、困ったような驚いたような分かりにくい表情でこちらを見ていた。
それがどんな意味を込めているのかは、なんとなく分かっていた。
もちろん、アスナだってその中の一人である。
「リアルだったらどうしてただろうな。あんたがどんな人間でどんな経歴の持ち主なのか知っていても実際のあんたに会ったことは一度もない。あんたが今どこにいるのかも俺は知らない。だがもし一足先に向こうに帰れるのだとしたらすぐにでもあんたのとこに行って頭に機械がついてようが体に色んなもんがついてようがボコボコにぶん殴ってぶち抜いてやるよ。例え免職になろうがあんただけは絶対に許さない」
表情を無にし驚くほど感情の起伏を失ったその口からつらつらと言葉を発していく。
その正面に立つ創造主は何を考えているのか今まで一切崩すことのなかった表情を一瞬崩したように感じた。
だがそんなことに気づくこともなくシオンは矛先を集中する。
宙に浮いた武器全ての矛先がヒースクリフへと向く。
その真下で血走るような目を向ける青年の顔を見て、茅場昌彦は声にならない笑みを浮かべていた。